本論文では, ソフトコンピューティングの中でも特にファジィ推論とRBFネットワークの非線形性表現能力と学習機能に着目し, 非線形システムのモデリングとフィルタリング問題に適用できる新しい技術について述べている.第2章では, 対象とする非線形システムの入出力データが十分に得られない場合のシステムモデリング問題を取り上げ, 人間の補間能力を模倣した新しいファジィ推論機構を提案した.第3章では, RBFネットワークの表現能力を利用した非線形システムのモデリング手法について述べている.第4章では, RBFネットワークの学習能力とカルマンフィルタの推定理論を融合した非線形フィルタを実用的観点から提案した.第5章では, 雑音を含む観測信号が部分的に欠損, もしくは測定器のダイナミックレンジを超えて飽和した場合にも補間しながら雑音を除去できるフィルタを提案し, そのIC化設計を行った.

本研究では, GMDH型適応学習ネットワークであるニューロファジィ(NF-)GMDHについて論述している.具体的には, 1)ネットワーク型GMDHの部分表現にRBFを用いるNF-GMDHの定式化及び学習則の導出, 2)ネットワーク型とパーセプトロン型 NF-GMDHモデルの学習の収束速度を向上させることを目的とした, 2つの高速化学習法の提案, 3)NF-GMDHの構造同定と明確化を行う手法で, 石川の忘却学習を考慮した削除的学習法であるM-アポトーシスの提案, 4)NF-GMDHの階層数決定法として, データ分割が不要でチェッキングには乱数で新たに生成したデータを用いることのできるディストータによる不偏性規範を提案, 5)NF-GMDHの実応用としての頭位の座標変換によるポインティングデバイスの開発である.そしてこれらの有効性を数値実験により検証している.

近年, 音楽へのソフトコンピューティング応用例が増えている.柔らかい処理が音楽情報処理に適していると考えられる.本稿ではマルチモーダル指揮シミュレータ試作への応用を報告する.人の指揮を認識し実時間にオーケストラのように振る舞う.指揮動作の特徴や時間構造は前後の脈絡や人により揺らぐ.それを吸収して指揮の意図を抽出する為にHMM(隠れマルコフモデル)とファジィによる柔らかい処理を導入し, 拍認識処理を人の認識に倣って構築した.右手指揮動作を加速度センサで, 視点を視線検出器で, 呼吸を呼吸センサで検出する.狭義の動作認識にHMMを適用.楽員(オーケストラ奏者)や指揮者へのインタビューで得た知見に基づき, 曲の知識や演奏情報の活用をファジィ推論で実現した.指揮法に則った普遍性ある重要な要素, 即ち, 曲の演奏開始(出, 予備動作)や停止, 目によるアインザッツ(Einsatz, 奏者へのcue=出の指示), 拍タイミング(アゴーギク=テンポ変動を含む), 何番目の拍か, フェルマータ(任意の長さに音符や休符を延ばす), デュナーミク(音の強弱), 一部のアーティキュレーション(奏法), 呼吸法を認識する.これに基づき実時間に音楽演奏を制御する.正しい呼吸法や指揮者の重要な仕事の1つであるアインザッツに対するオーケストラの反応, 発音時間遅れや自律性もシミュレートした.自律度最大では指揮入力を無視して曲のテンポデータに基づいて演奏し, 自律度最低では指揮に密着して動作停止と同時に演奏停止し, 次の動作入力まで待ち続ける.

本論文では, 混合0-1計画問題に焦点をあて, Bendersの分割法と遺伝的アルゴリズムを用いた近似解法の提案を試みる.混合0-1計画問題に対するBendersの分割法について概観した後, 分割された問題に対する遺伝的アルゴリズムの適用方法について検討する.このような検討に基づいて, 分割された問題に遺伝的アルゴリズムを適用するための適切なコード化と制約条件を満たすためのデコーディングアルゴリズムを提案する.さらに, 提案手法の実効可能性と有効性を示すため, 数値実験により, 得られた解の精度や要した計算時間について混合0-1計画問題に対する分枝限定法との比較・検討を行う.

本稿では、サンプル値ファジィシステムの安定化問題を考察する。最初に、サンプル値ファジィモデルを導入し、安定な状態フィードバックコントローラと漸近収束するオブザーバの設計を提案する。さらに、安定な状態フィードバックコントローラとオブザーバが存在すれば、それらに基づく出力フィードバックコントローラが常にサンプル値ファジィシステムを安定にすることを示す。最後に、質量-バネ系を例に取り、状態フィードバックとその安定性を保証する正定行列を、サンプル値システムに対するレギュレータ問題を解くことにより求め、設計例を紹介する。

本論文では, 一人の意思決定者が上位レベルに, また二人以上の意思決定者が下位レベルに存在し, すべての意思決定者の決定変数が0-1変数であるような2レベル計画問題を扱う.下位レベルのすべての意思決定者の間には, 互いにそれぞれの目的を考慮し調整するような協調関係が存在するものとし, 上位レベル下位レベルの間には協力関係はないものと仮定する.また, 人間の判断におけるあいまい性を考慮するために, すべての意思決定者の目的関数にファジィ目標を導入する.そのような関係を考慮すると, 上位レベルの意思決定者は自分のファジィ目標のメンバシップ関数値として表される満足度を最大化し, 下位レベルではすべての意思決定者のなかで最小となる満足度を集団として最大化するような決定を行う.上述した問題の解を得るために遺伝的アルゴリズムを用いた手法を開発し, 提案する手法の有効性と実行可能性を示すために数値実験を行う.

複数の意思決定者が資源をもち, 彼らが協力して数種類の製品を生産する線形生産計画問題は, 目的関数がそれらの製品を販売することによる収入で, その収入を資源制約のもとで最大化する問題として定式化され, 得られた共同の収入を公正に分配する問題として考察される.本論文では, 問題の定式化に携わる専門家の人間としての判断のあいまい性を考慮するために, 生産計画問題をファジィパラメータを含む問題として定式化し, その問題からファジィ協力ゲームを生成する.ファジィ協力ゲームの解として通常のゲームの解概念であるコアを拡張してα-コアを定義し, その存在を証明するとともに計算方法を示す.

本論文では, 上位レベルの意思決定者の決定変数が0-1変数で下位レベルの意思決定者の決定変数が非負の連続変数であり, それぞれの意思決定者は互いに異なる目的関数を最小化する2レベル線形計画問題を取り扱う.2レベルの問題において, 上位レベルの意思決定者が先に決定し, 下位レベルの意思決定者がそれに続いて決定する場合の非協力状況下でのStackelberg解を求めるために, 遺伝的アルゴリズムに基づいた計算方法を提案する.数値実験を行い, 提案する手法の有効性と実行可能性を示すと同時に, 従来の解法との比較を行う.