遺伝的アルゴリズム(Genetic Algorithm:GA)を用いたロボット等の行動ルールの自動獲得問題においては, ミシガン・アプローチとピッツバーグ・アプローチがその代表的な手法として用いられている.これら2つの手法のうち, ミシガン・アプローチでは, 1つのルールを1つの染色体としてGAを用いている.その結果, GAの進化により意味のある有効なルールを獲得することができるものの, ロボットの行動等に対する評価を細かく設定しなければならないことや, 各染色体を評価することが困難であるといった欠点がある.一方, ピッツバーグ・アプローチでは, ルールを群全体を1つの染色体としてGAを用いるため, 染色体の進化の方向は, 問題の目的と一致し, 評価関数が設計し易いという利点がある.しかし, ピッツバーグ・アプローチは, ルール群全体として評価がなされるため, それらルール群を用いることでロボット等が目的の行動をとることができているものの, その各々のルールは人間にとって分かりにくく, 矛盾したルールや, 意味のないルールが含まれることが多い.一方, 近年の生物学上の研究では, ヒトを含む様々な動物の発生過程において, ホメオボックス遺伝子(Homeobox Gene)と呼ばれる管理的な遺伝子の存在が注目を集めている.このホメオボックス遺伝子は, 個々の遺伝子の活性・不活性を制御することで, 間接的な個体構造の設計を実現している.そこで本論文では, 筆者らの提案してきたDNAコーディング法を用いて, 生物におけるホメオボックス遺伝子の働きの一部を模倣し, 環境に応じて用いるルールの使用を制御するルールの不活性化手法を提案する.本手法により, 環境に応じて用いられるルールの役割分担を行うとともに, 人間にとって分かり易い, 汎化性の高いルール群の構築を目指す.本論文では, GAを用いたルール獲得問題の例として, ロボットの障害物回避問題に本手法を適用する.ロボットはセンサ情報を用いて, 決められた時間内に, 所定のスタート地点から障害物を回避しながらゴールを目指して移動する.シミュレーション実験を行い, 本手法により獲得されたルール群を示す.ルールの不活性化により, ルールの役割分担が行われ, 状況に応じて異なるルール群が発火し, 少なくかつ明確なルールのみを用いることで, 有効に障害物の回避等を行えることを示す.また, ルールベースのシステム構築を目的としたGAにおいて, ルール数を少なくするための工夫を行った手法との比較を行い, 本手法の有効性を示す.
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