鋼橋の施工および維持管理業務において, 非破壊検査によって添接部の高力ボルトの軸力を測定できる方法が必要となっている.従来は, 熟練者の勘によってボルトの緩みを点検していたが, 的確な点検作業を行うためには, ボルト軸力を定量的に評価する必要がある.著者らは, 高力ボルト自動緩み検知器によって採取される波形データをもとに, ニューラルネットワークのパターン認識機能を利用して, 中小橋梁に添接された高力ボルトの軸力の大きさを推定するシステムを構築した.ただし, このシステムは, 長大橋梁に添接されている長い高力ボルトには適用できなかった.そこで, 本研究では, 中小橋梁に限らず長大橋に添接された高力ボルトや鋼橋の二次部材に添接された高力ボルトの軸力を現場で簡単かつ正確に推定できるシステムを構築した.そこでは, 第一に, 何時でも何処でも誰でもが高力ボルト自動緩み検知機の自動ハンマを簡単に調整できる方法を新規に提案し, その有効性を検証した.第二に, 橋梁規模と密接な関係がある高力ボルトの締め付け長さと軸力推定との関係を新たに詳細分析した結果を受けて, 締め付け長さの影響を考慮した実用システムを構築した.システムの実用性を検証するために, 実橋のI桁添接部を想定した実験模型を用いて様々な部位に締め付けられた高力ボルトの軸力を推定した.また, 対傾構を想定した実験模型を用いて高力ボルトの軸力を推定し, 実橋の二次部材に締め付けられた高力ボルトにも適用できる有用性を実証した.本システムは, 鋼橋の架設時における高力ボルト導入軸力のチェックや供用中の高力ボルト残存軸力の測定が可能である.本システムによって, ボルトの抜き取り作業を省いて簡単に高力ボルトの軸力を測定できるため, 鋼橋の施工および維持管理業務における生産性の向上に期待できる.
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