本論文では, マルチ集合とファジィマルチ集合に特有の像を考察し, 応用に言及する.たとえば, 普遍集合をX={a, b, c, d}とし, A={a, b, c}, B={a, a, b, b, c}, C={(a, 0.1), (a, 0.2), (b, 1), (c, 0.5)}とすれば, Aは普通の集合, Bはマルチ集合, Cはファジィマルチ集合である.Y={v, w}とし, f:X→Yをf(a)=f(b)=v, f(c)=wで定義する.このとき, 通常の像の定義をそのままマルチ集合やファジィマルチ集合に拡張しても, f(A)=f(B)=Y, f(C)={(v, 1), (w, 0.5)}のようにマルチ集合としての性質は現れない.そこで, 本論文では, "入力であるマルチ集合の要素を逐次とり, 要素が重複していてもそのまま出力する"という意味の像を考え, f[A], f[B]のように表す.この定義によれば, f[A]={f(a), f(b), f(c)}={v, v, w}のように通常の集合からもマルチ集合が生じる.また, ファジィマルチ集合については, f[C]={(v, 0.1), (v, 0.2), (v, 1), (w, 0.5)}となる.ここでは, f[A]に関するα-カットや和演算との交換可能性などの理論的性質を導く.さらに, ラフ近似への応用とファジィデータベースへの問い合わせ言語への応用に言及する.ここで提案する像は, 情報処理における単純な逐次的処理に基礎をおくものであるため, 応用範囲は広いと思われる.
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