ITが果たす役割の認識によって,企業はITが競争優位に繋がるコア技術と考える企業とコア技術とは考えない企業に分けられる.「ITがコア技術である企業とITがコア技術ではない企業とでは,ITを活用した変革を可能にするイネーブラーは異なるのではないか」これが本研究の問題意識である.
本研究では,Petersらが提唱した成功する組織のマネジメントの7Sが変革全般のイネーブラーの統合モデルとなることを示したうえで,ISACAが2012年に公表したITマネジメントのフレームワークであるCOBIT5の事業価値を生むIT活用のイネーブラーと7Sを照合し,関連する先行研究で内容を補完して,ITを活用した変革のイネーブラーを定義した.
そして,日本企業に対する独自のアンケート調査のデータをもとに,ITがコア技術である企業とコア技術ではない企業を比較し,事業戦略を見直した場合と見直さない場合に分けて,どのイネーブラーがITを活用した変革の実行と効果創出に影響するかを確認した.
ブートレグはイノベーションを生み出す仕掛けの一つであり,企業にとって重要な経営情報を創出する.本研究は,イノベーションの芽となりうるブートレグ行為を円滑に進めるための実践の方法論について,現場に内在化した新たな調査手法である創発的ビジネスフィールドリサーチを用いて調査した事例研究である.筆頭筆者が所属企業で行っているブートレグ行為を研究対象として,ブートレグに関わる一連の行為を内部観測論的視座で記述し,実践共同体の概念,関連性理論,「語り」論を用いて分析を行った.そこでは,あるブートレグでは「失敗」とみなされる「もの」も成果であり,それを公開することで次のブートレグにつながっていることが明らかとなった.また「組織への貢献意識」を持つことによって,非公式な業務であるブートレグに対して肯定的な言動を導き出していることに成功していた.この意識を所有することが,イノベーションの芽を摘まない実践の方法論となりうることを示した.