本論文は,ビジネスプロセスのデータフローダイアグラム(DFD)モデルとペトリネット・モデルを比較し総合する枠組みを示す.ビジネスプロセスは離散事象システムであり,多くの情報システム方法論ではDFDで表現される。離散事象システムの異なるモデル形式であるペトリネットと,DFDで表されたビジネスプロセスの動的性質の関係を明らかにするために,本論文では業務取引ペトリネットという特別な時間ペトリネットを定める.これは業務取引システムによって動的ふるまいが規定される時間ペトリネットである.
本論文の結果は基礎的なものである.この枠組みを利用することによって,ペトリネットによるビジネスプロセスのモデル化を行う場合に,情報システム分析の道具であるDFDについての経験を生かしたり,逆に,ペトリネットの時間特性計算法などの研究成果をDFDでモデル化されたビジネスプロセスに新たに適用するための基礎とすることができる.
現実の展開に比較して,ビジネスプロセス自体についての工学的理解はあまり進んでいない.本論文では,ビジネスプロセスの制御原理として情報システムによるフィードバックをとらえ,情報フィードバックによって閉じた構造を持つ業務取引ペトリネット(佐藤,1999)によってビジネスプロセスの時間特性を評価する方法を提唱する.プロセスの周期的挙動が,業務活動の分業のありかたと処理スピードに依存して発生することが明らかになる.さらに,ビジネスプロセスの周期が,対応する業務取引ペトリネットの最大サイクル平均値と一致する条件を導く.
本論文で示す原理を使って,情報システム分析の一般的道具であるデータフローダイアグラムから業務取引ペトリネットを導き,その状態遷移行列の固有値計算によって,周期を得る方法が示される.
EDIによる企業間のデータ交換についてはプロトコル標準化の提案など進展の要素も見られるが、導入コスト、企業内部の情報とのリンク、決済システムとの連動などが解決されるべき課題となっている。本論文では、今回実施した国内企業へのEDIに関するアンケートを基本に、主として企業内部におけるEDIデータの2次利用や受発注・決済など企業間連係の形成と標準化の観点からEDI導入の現状と今後の方向について検討している。その結果、コストなど費用面の問題もあるが、EDIデータの2次データとしての活用が評価されていること、EDIプロトコルの標準化に対し強い要望があるが現状では業界や企業の独自プロトコルにとどまり、ケースごとの対応が行われていることが分析できる。また、今後の金融分野での規制緩和によるEDI処理の進展(例えば相殺処理)は期待されているが、金融機関を介した処理による安定性を求めていることがうかがえる。
本研究では、日本の企業でよく行われる対面型意思決定会議開催前や間での非同期電子コミュニケーションを利用した打ち合わせ作業に注目する。このような作業を実験的に行って特徴を分析し、得られた結果に基づいた支援ツール「ARRANGER」を提案した。本ツールでは議論の進み方を構造化したモデルを提案し、さまざまな形式で議論を整理して参加者に提示することで、その時々の議論の状況を分かりやすくして議論の偏りを防止する。また、打ち合わせ作業における対応漏れを防止するために、対応が必要な発言や未対応の発言を整理して参加者に対応を求める。さらに打ち合わせ作業で得られた収束事項をさまざまな場面で利用するためのリストを作成する。通常の電子メールを用いた打ち合わせと、本ツールを用いた打ち合わせの比較実験の結果、本研究の有効性が確認された。
本研究では、最近の情報技術の発展によって出現した新たな社会である仮想的な情報空間社会における社会的ジレンマ問題に取り組む。情報空間社会を構築する場合、システム設計の段階から社会的ジレンマを解消するメカニズムを取り込む必要がある。そこで、社会的ジレンマの解決を検討するため、情報空間社会のモデル化を行う。このモデルによリジレンマ問題を操作的に扱うことが可能となる。シミュレーションをおこなった結果、社会の規模と複雑性の要因によって、社会的ジレンマが解消される可能性を示すことができた。また、情報空間は、環境操作が可能であるという特徴があげられるので、個人の意思決定基準を追求するよりも容易に、環境操作により、社会的ジレンマを解消できる可能性があることを示した。さらに、エージェントの性質の差による社会の振る舞いの違いに関する考察も行う。また、ある環境下においては、エージェントが非常に特異な振る舞いをとることがわかった。本研究では、エージェントの局所的なルールによって全体の振る舞いをボトムアップで記述するモデルの構築に成功し、情報空間における社会的ジレンマ解消の可能性を示した。