本稿は「知識ネットワークとパワー・イノベーション」論の基礎として、従来のパワー概念と理論がどのような特徴と限界を持っていたかを学説史的に考察し、パワーとイノベーションの理論的に可能な新しい関係について考察することを目指す。この目的のために、最初にM・ウェーバーに由来する伝統的なパワー概念と理論の特質と問題点を明らかにする。次いで、パワーの伝統理論に対決の姿勢を鮮明にしているT・パーソンズのパワー理論とそれを革新的に展開したN・ルーマンのパワー理論の特質をを検討する。以上の考察を踏まえて、自己組織化やネットワークといった組織論の新しいパラダイムと適合的な新しいパワー概念と理論的分析枠組みの必要性を提案するとともに、本稿の課題であるイノベーションとパワーの一般的な関係について論じる。
デジタルエコノミーのパワーパラダイムは、まさにアナログ時代のそれとは根本的に異なったものになる。そこで、筆者は、デジタルエコノミーにふさわしいパワー関係をウイナーズ(winners)モデルと命名して、特に情報産業を対象としながら、そのパワーベースや企業間関係の新機軸についての提言を試みる。
すなわち、この論説は、いわばデジタルエコノミーヘ向けた競争戦略の未来モデルについての私論の提示である。具体的には、先進情報技術が現出させるパワーパラダイム革新を、第1にはデジタルエコノミーのウイナーズモデル、第2にはプロデュース企業のネットワークパワー、第3には価値創造指向のWin‐Win(ウィンーウィン)関係、 第4にはレバレッジ指向のトリガー戦略、という4つの観点に立脚した提言である。
近年、製・配・販の垂直構造のなかで、製販同盟などIT(Information Technology)上で新たな組織間関係が生じている。本稿では、EDIシステムが、情報・システムの非対称性と資源依存関係を同時にもたらすことに着目し、EDIシステムをパワー資源とみるときに、それがどのような特徴をもつのかを問題にする。アンケート調査と事例分析の結果、EDIシステムの「転移性」という特徴から「チャネル支配のパラドックス」と「囲い込みのパラドックス」が導かれる。
インターネットは、人的ネットワークや事業組織に変化を突きつけている。したがって、人的ネットワークの持つ事業創出力も変化すると考えられる。そこで本研究では、まずインターネットがない状況での人的ネットワークの事業創出力を明確にして、つぎにインターネットの影響をみていった。
六つの事例研究から、事業創出の二つの段階を分析した。
事業アイデイア形成段階では、ルースな人的ネットワークは、知識の組み合わせにおいてコーディネータを超えうる。また需要も創出できる。この力はインターネットを使うことで強まる。
実践段階では、信頼を確保しやすいコーディネータが資源調達に適している。ただし、組織編成時は、浅い信頼を蓄積したルースな人的ネットワークがそれを代替し、組織改良時は、深い信頼をもたらすタイトな人的ネットワークが代替しうる。インターネットにより、ルースな人的ネットワークは、浅い信頼をより短期間により大量に蓄積できる。
情報技術のオフィスヘの導入は、オフィスの仕事の形態を変化させ、担当者が必要とする知識やスキルを変化させる。この変化は、オフィスのパワー関係にも変革を促している。本稿では、従来、さまざまに提示されているパワー概念を確認し、情報化されたオフィスでは、伝統的な命令―服従型のパワー関係が、合意―共生型のパワー関係をも含めた多元的なパワー関係になることを論じる。
まず、オフィスのパワー関係を分析するモデルとして、Jeremy Benthamの考案したパノプティコンを取り上げ、その構造とパワーの関係を分析する。つぎに、オフィスの仕事の典型例として、ミーティングと電子コラボレーションに焦点をあて、情報技術の導入にともなって、パワー関係がどのように変化していくか、パノプティコンモデルを活用して分析する。