本論文では、複数の作業主体間で情報をやりとりしながら行われる間接事務作業を対象に取り上げ、改善の着想を導くために役立つ分析および改善のフレームワークを提示する。一般に、人手により行なわれている間接事務作業をそのまま情報システムに置き換えると、現状作業の問題点がそのままシステム化され、データベースが複雑になったりシステムが大規模・複雑化して、更新やメンテナンスに多大な工数とコストを要する。本論文では、対象とする間接事務作業を、各主体が行なう「作業ステップ」と、それらのステップで生み出された情報項目が主体間でやりとりされる「情報フロー」とで構成されるプロセスとして把握する。そして、対象とする間接事務作業の始めと終わりの時点に着目し、2つの時点の間をつなぐ変化のステップを、終わりの状態で必要な情報項目を始めの状態から生み出すために「必要不可欠な変化」、必要不可欠な変化のステップで用いられる情報項目を生み出す「補助的に必要な変化」、それ以外の「ムダな変化」、という3つに分けて捉えるフレームワークを提案する。それに基づいて、「フロー図」と名づけた図上に記述された主体間での情報のやりとりと各主体での作業を3つのレベルに分けて捉え、レベル間の対比から問題点と改善の着想を導く方法を提示する。このフレームワークは、ムダな変化に相当するステップを排除してシステム化の対象となる作業を改善したり、現状で用いられている情報項目をその重要度に応じて分類したり、必要不可欠な情報フロー・情報項目だけで構成される作業を設計する際に、ガイドラインとして役立つものである。
Theodore Levittは、企業の衰退理由として「誤った事業定義方法」をあげている。また、事業定義は製品ではなく、「顧客価値」(機能)によるべきであるとしている。機能により適切に自社事業を定義する企業は、存続し成長を持続することが可能だというのである。筆者等の先行研究では、日本の電機業界について、Levittの事業定義と持続的企業成長に関する仮説の検証を試み、それを支持する結果を得た。本稿では、分析対象を化学業界に拡大し、さらに仮説を発展させ、両業界における分析結果を比較する。企業ごとに有価証券報告書やアニュアルレポート等の公開資料から抽出した過去の事業定義を、評価パネルを用いて「機能性」(機能を含む度合い)の側面から評価し、評価結果と経営成果の関係を統計的に分析する。それらの結果として、両業界に共通して、事業定義の機能性と成長性(連結売上伸び率)の間に、正の相関性が再確認された。
本稿は、「仕組の過剰自己強化」による「成功が失敗に転じる」メカニズムについて論じる。仕組の自己強化とは、「ある経営資源」+「ある自社活動」と定義される「仕組」が事業活動の中で循環的に強化されることをいう。
本稿の成果は、二つある。一つ目は、この仕組の自己強化がライバルに有利な状況特性を結果として整備してしまい、その結果、それまで順調に成長してきた企業(成功企業)がライバルにそのシェアを奪われていく場合のメカニズムを、事例分析を通じてモデル化したことである。この現象は、自己の強みとなっている仕組の強化がライバルに有利な条件(状況特性)を生みそうになっても、自社の仕組の強化ループをすぐには止めることができないことから起きてしまうものであり、「過剰」な自己強化の結果だといえる。
第二の成果は、「一太郎に対するWordのシェア逆転のメカニズム」についての、新しい解釈の提示である。本稿は事例分析の対象として、日本語ワープロソフト市場における「一太郎とWordの攻防の歴史」をとりあげ、この2社間における攻防の相互関係(シェア逆転のメカニズム)を分析する。この分析を通じて、「シェアの逆転はマイクロソフト社のOSの独占力による」と広く信じられている事例が「MSの製品力とマーケティング力」によって説明できることを示した。
人材育成において観察学習は重要な役割を占めてきた。人はモデル(手本)となる対応行動を見て、様々なことを学習するとされてきた。これは、モデルが行う様々な対応を情報として理解し、学習し、そして場合によってはバージョンアップして自分の今後の行動の規則として頭中に保持するからである。しかしながら、昨今の企業環境の変化のもとでは、モデルそのものが育成できず従来型の観察学習が難しい状態にある。本研究ではネットワーク理論の知見から、組織の中にできるハブに着目した。従来の観察学習で強調されていたモデルをそのまま観察するという直接的な学びではなく、ハブとなる人間を通じて様々な状況とそれに対する対応行動を言語情報で獲得し、それを頭中で可視化し再現し、それをリソースとして自らの行動の規則を創製するという新しい学びである。この手法をもとに人材育成のための効果的観察学習の枠組みを提示した。