SCM人材の育成で必要となるトレードオフ問題の理解には経験学習を要するが,その機会の確保は難しい.本研究はコンピュータシミュレーションゲームによる仮想体験でトレードオフ問題の学習機会を提供するSCM教材の開発とその有効性の検証を目的とする.SCM教材は,ウェブプログラムで作成されたサプライチェーン仮想環境を生成するシミュレータと,意思決定を規定するルールから構成される.学習者は営業,物流,製造,購買の四つの部門を分担して,サプライチェーンの協調的意思決定をしていくことの仮想経験を行う.学習者には部門間の利害対立に基づくトレードオフを協調学習によって克服することが求められるが,そのような経験に基づく学習がSCM知識の基礎となる.大学生に対する利用実験から学習効果の存在を検証し,その有用性を確認する.
生産環境・状況が不確実・流動的である中での生産計画立案業務の効率化は難しい.本論文は,自動車部品メーカーの生産計画立案業務の分析から,①未確定の日々内示で月次の日々計画が立てられている,②本来マネジメントの意思決定である在庫運用を計画担当者が決めている,③注文変動の分析に情報が生かされていないという三つの問題を抽出した.これらの問題を改善問題的に解決するという視点から考察し,Lead Time短縮,受注分析,内示フローと確定フロー,負荷計画,差立計画,役割分担という面から,経営や情報を絡めた六つの方策を例示的に提案した.それら方策を対象企業の状況に当てはめ,オーダーなどの受注情報を活用した三つの計画立案業務改善案を提案・検証した.実データによる概数的な評価の結果,現状の部品・製品在庫日数の14%程度での運用が可能になったことから,オーダー情報などを活用した新たな生産計画立案業務の一例としての有用性が確認された.
現実の意思決定において人々がヒューリスティックスに従うことで,誤った結果が導かれることは珍しくない.しばしば生じる意思決定の誤りであるバイアスを排除・軽減すること,すなわち「脱バイアス(debiasing)」を目的として,近年ではさまざまな手法が提案され,効果の検証が進められている.本研究は,(1)脱バイアス研究の現状を把握し,(2)いまだ検証が不十分な脱バイアス手法の効果の実証分析を行うことを目的とする.脱バイアスの現状把握を通じて,バイアス軽減の効果が認められない手法,ならびに効果の有無が一貫しない手法を整理することができた.また,実証分析の結果,バイアス軽減が困難なヒューリスティック,および他の手法よりも効果的な脱バイアス手法を特定できた.本研究の知見は,脱バイアス手法の活用を含めた意思決定支援の状況適合的議論,ならびに,さまざまな意思決定に対する教育,研修制度に関する議論への適応可能性があると考える.
本研究では,比較的小規模な資金を元に運用を行う個人投資家を対象とするポートフォリオ最適化問題について論じる.このような個人投資家にとって,問題を複雑にする固有の要因として株式の最小取引単位が挙げられる.そこで,最小取引単位を反映した資産運用モデルを定式化するために,確率ネットワークと整数計画法を用いたモデルを説明する.その際,リスク尺度として分散・C-VaRを用いた二つのモデルを紹介し,これらのモデルが最適化パッケージを用いることで,現実的な時間で求解できることを示す.また現実の株価データに基づくシミュレーションによってモデルのパフォーマンスに関する検証を行い,市場の下降局面においてはリスク尺度として分散を用いたモデルが優位であり,上昇局面では,C-VaRを用いたモデルのほうが優位であることを示す.