近年,就業者自身による自律的かつ主体的な人的資本形成の手法である「自己学習」が注目されている.本稿は,OJTやOff-JTなどの企業主導の人材教育手法と比べると,これまであまり重視されてこなかった自己学習を,「企業の人材育成策」として明確に位置づけ,効果的に活用する方策を見つけるため,正社員が行う自己学習がその社員の能力向上と結びつく可能性の高い就業者として研究開発部門に所属する社員に焦点を当て,当該社員が行っている自己学習の活動の実施方法と年収額との関係を分析した.その結果,全年齢を通して「書籍による学習」と年収額との間に相関が認められた.また,年齢別にみると,20代ではいわゆる「朝活」,50代では「講師としての活動」においても,年収額との間に相関が認められた.年収額にプラスの影響を及ぼす自己学習の方法については,年代を問わず共通しているものと,就業者の年代によって異なるものの両者が存在する可能性が示唆される.一方,年収額の高い社員が行っている自己学習と,能力発揮の満足度の高い社員が行っている自己学習とは必ずしも一致しないことが分かった.
保護すべき情報が漏えいすることは,組織にとって事業の継続を脅かす重大な問題となる.情報漏えいを抑制するためは,許可のない情報の持ち出しを禁ずるルールを定め,組織構成員に遵守させることが必要である.本研究は組織構成員にルールの遵守を促す活動に着目し,組織が講じるべき施策について知見を得ることを目的としている.目的達成のため本研究では,関連研究に基づいて仮説を設定し,仮説の検証をおこなうためのモデルを構築している.我々は,「規程類の整備」,「教育・動機付けの実施」,「自動化の整備」というルールの遵守を促すための活動に着目し,情報漏えい抑制に至るまでの構造について共分散構造分析によりモデルの検証をおこなっている.その結果,職種により講じるべき施策が異なることを確認している.これをもとに我々は,ルールの遵守を通じた情報漏えい抑制のため,組織が講じるべき施策を職種に応じて提案している.