実験社会心理学研究
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47 巻, 1 号
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原著論文
  • 森尾 博昭
    2007 年 47 巻 1 号 p. 1-12
    発行日: 2007年
    公開日: 2008/01/10
    ジャーナル フリー
    ダイナミック社会的インパクト理論(DSIT)は個人の間の社会的影響過程の結果,集団レベルでの自己組織化現象として,ばらつきの減少である合併と空間的な収束であるクラスタリングが生じると予測する。本研究では,この予測の実証の試みとして,Latané & L’Herrou(1996)の用いたコンピュータを通じたコミュニケーション(CMC)のパラダイムを拡張し,他者からの影響を促進するような教示を行わない,より一般的な社会的影響過程のもとでもDSITの予測が成り立つかどうか検証した。実験は5週間の間行われ,参加者は週に1回,他の参加者と意見の交換を行った。個人レベルの分析では,2つの話題のうち,一つの話題で他者からの影響力が有意であった。集団レベルでは,合併は観察されなかったが有意なクラスタリングが観察された。本研究は,先行研究における制限を取り除いた上でも,CMCによる実験において,個人間の社会的影響過程が観察されること,またその結果としてクラスタリングが生じることを実証した。また電子掲示板などで見られる弱い社会的影響過程の結果,合併を伴わずにクラスタリングが生じる可能性も示唆された。
  • 矢守 克也, 高 玉潔
    2007 年 47 巻 1 号 p. 13-25
    発行日: 2007年
    公開日: 2008/01/10
    ジャーナル フリー
    本研究は,高等学校と地域社会において,ゲーミング手法を活用して実施した防災学習実践(アクション・リサーチ)について報告したものである。まず第1に,学習という営為について,Lave & Wenger(1991)らが提唱した学習論(実践共同体学習論)に依拠して整理した。第2に,今日の防災学習をとりまく課題を指摘し,Laveらの学習論はそれらの課題にとり組むとき,有力な指針を与えることを指摘した。第3に,以上を踏まえて,防災学習にゲーミングの手法が有効だと考えうる根拠を,Duke(1974)のゲーミング論をもとにして明らかにした。次に,以上の議論にもとづいて,1年あまりにわたって実施した防災学習のアクション・リサーチについて,その内容と経過を報告した。具体的には,高校生と関係者の協働によって,非常持ち出し品をテーマとした防災ゲームが成果物として完成し,その後,それが地域社会における防災教育のためのツールとして活用されている実態について述べた。最後に,以上の成果を総括し,当初受動的な学習者でしかなかった高校生が,本プロジェクトによって防災に関する実践共同体の有力メンバーとして参加するなど,実践共同体の構造に大きな変化が生じたこと,さらに,こうした共同体の柔軟な構造変容を伴った学習こそが,海溝型地震など周期の長い自然災害を対象とした防災実践には要請されていることを指摘した。
  • 尾関 美喜, 吉田 俊和
    2007 年 47 巻 1 号 p. 26-38
    発行日: 2007年
    公開日: 2008/01/10
    ジャーナル フリー
    本研究では大学生の部活動・サークル集団における迷惑行為の生起及び認知に組織風土と集団アイデンティティが及ぼす影響を検討した。組織風土を集団が管理されている程度である管理性と,集団内で自由に意見や態度を表明しやすい程度である開放性の2側面で構成した。組織風土と迷惑行為の生起頻度との関連を検討したところ,管理性が集団活動に影響を及ぼす迷惑行為の生起を,開放性が集団内の人間関係に影響を及ぼす迷惑行為の生起を抑制することが示された。また,組織風土と集団アイデンティティが迷惑の認知に及ぼす影響を検討した。この結果,集団活動に影響を及ぼす迷惑行為については,管理性と開放性の両方が高い集団(HH型)の成員は管理性が高く開放性が低い集団(HL型)・管理性が低く開放性が高い集団(LH型)の成員よりも迷惑度を高く認知した。さらに集団アイデンティティの強い成員は集団アイデンティティの弱い成員よりも迷惑度を高く認知した。集団内の人間関係に影響を及ぼす迷惑行為については,組織風土,集団アイデンティティともに迷惑度認知に影響を及ぼさなかった。
  • 安達 智子
    2007 年 47 巻 1 号 p. 39-50
    発行日: 2007年
    公開日: 2008/01/10
    ジャーナル フリー
    近年,わが国における若者の間には,フリーターとしての生き方や働き方を肯定的に受けとめる傾向がみられるようになった。本研究は,こうしたフリーターに対する肯定的態度を測定し,その下位構造について明らかにすること,ならびに,結果期待(フリーターのメリット,デメリット)からフリーターに対する肯定的態度への規定力について検討することを目的とした。調査対象は,関東圏の大学,短期大学,専門学校へ通う学生とし,588名より得られた有効回答を分析したところ,以下の結果が得られた。はじめに,フリーターに対する肯定的態度の構造について検討するために探索的因子分析を行ったところ,「貢献承認」,「プロセスとしての受容」,「積極的受容」の3因子が抽出された。つづいて,結果期待からフリーターに対する肯定的態度への規定力を検討するために構造方程式モデリングによる因果分析を行ったところ,フリーターは社会経験になるというメリットの予測が,3つのフリーターに対する肯定的態度へ正の影響を及ぼしていた。一方,フリーターの経歴が将来のキャリア形成にとって支障になるであろうというデメリットの予測は,プロセスとしての受容にのみ負の影響を及ぼしていた。すなわち,若者のフリーターに対する態度を規定する要因として,結果期待による影響力が確認出来た。これらの結果から,フリーターという進路に付随するメリットやデメリットを正確なかたちで予測させるような働き掛けにより,若者層のフリーターに対する考え方が変容し得ることが示唆された。
  • 藤本 学, 大坊 郁夫
    2007 年 47 巻 1 号 p. 51-60
    発行日: 2007年
    公開日: 2008/01/10
    ジャーナル フリー
    本研究の目的は,会話展開への影響という側面から,会話者の発話行動傾向の独自性を明らかにすることである。そこで,議題について共通見解を出すために討論を行う討論条件と,お互いを知るために雑談を行う親密条件を設定した小集団会話実験を実施した。実験では48名(男性18名,女性30名)の大学生が,討論条件または親密条件にランダムに配置され,初対面の同性3人による18分間の会話を行った。分析では,まず,主成分分析を利用したパターン解析の手続きにより,会話展開行動のパターンを抽出した。その結果,条件別にそれぞれ5種類の会話展開パターンが抽出された。つぎに会話者の個人特性が発話行動に及ぼす影響について検討するために,重回帰分析を行った。その結果,討論条件では外向性や表出性が積極的な会話展開パターンと関連を示した。一方,親密条件では個人特性と会話展開パターンの関連性は希薄であることが明らかとなった。各条件で抽出された会話展開パターン,及び会話者個人の性質の影響について議論された。
資料論文
  • 中山 由紀子, 松本 芳之
    2007 年 47 巻 1 号 p. 61-68
    発行日: 2007年
    公開日: 2008/01/10
    ジャーナル フリー
    本研究は,コンピュータの音声ガイドが使用者に及ぼす影響を検証したものである。音声ガイドのあるコンピュータは自律的に作動し,使用者の課題に対する統制感を低下させるため,リアクタンスを経験する。そこで,使用者は統制感を維持するために,コンピュータの評価を低め,課題の失敗を外的要因,特にコンピュータに帰属するであろう。この考え方が実験で検証された。66名の男女大学生からなる被験者は,質問形式の問題を提示され,回答とは無関係に成功,失敗のフィードバックを受けた。文字呈示条件では,テキストは画面上に表示された。音声ガイド条件では,画面表示に加え,テキストは合成音声で読み上げられた。仮説通り,音声ガイド条件の被験者は,コンピュータに対する評価を低下させた。しかしながら,被験者が失敗すると,文字呈示条件では次回は成功すると予測したのに対し,音声ガイド条件では成功を予測しなかった。この結果は,統制感の低下を反映したものであると解釈された。
  • 原島 雅之, 小口 孝司
    2007 年 47 巻 1 号 p. 69-77
    発行日: 2007年
    公開日: 2008/01/10
    ジャーナル フリー
    従来,自尊心が高いことは望ましいこととされてきた。しかし自尊心が高いと,課題に失敗したときなどの自我脅威状況において,他者に攻撃的にふるまいやすいことが示されている(Baumeister, Smart, & Boden, 1996)。そこでJordan, Spencer, Zanna, Hoshino-Browne, & Correll(2003)は顕在的自尊心と共に,潜在的自尊心も合わせて考慮することによって,内集団ひいきなどのようなさまざまな防衛的な行動が明らかになると仮定した。結果,顕在的自尊心が高くかつ潜在的自尊心が低い人が,最も防衛的であることが示された。しかしながらそうした知見は,最小条件集団パラダイムによって実験的に作られた集団場面でのみ検討されたものである。そこで私たちの研究では,顕在的自尊心および潜在的自尊心が,現実に存在する集団に対しての内集団ひいきに及ぼす効果の検討を行なった。結果はJordan et al.(2003)と一致したものであった。しかしその効果は,場面によって異なることも示唆された。
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