日本腎臓病薬物療法学会誌
Online ISSN : 2189-8014
Print ISSN : 2187-0411
13 巻, 2 号
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原著
  • 鈴木 寛, 小川 裕子, 漆畑 理帆, 柏倉 康治, 影山 慎二, 山内 克哉, 内田 信也
    2024 年 13 巻 2 号 p. 185-192
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/09/03
    ジャーナル 認証あり

    患者の嗜好に基づく薬剤変更はその服用性を向上させ、服薬アドヒアランス向上に寄与することが期待される。本研究では、地域薬局薬剤師と診療所医師が協働しHD患者の嗜好に基づきリン吸着薬を変更し、その服用性及び服薬アドヒアランスに及ぼす影響について評価することを目的とした。

    まず、リン吸着薬服用中のHD患者がそれらの服用性をvisual analogue scale(VAS)にて評価した。HD患者50名中9名(18%)が服用中のリン吸着薬を飲みにくい(VAS値40以下)と評した。また、VAS値50以下と評した患者18名中5名が薬剤変更を希望した。

    次に、薬局窓口において、患者の嗜好に基づき薬剤変更が実施されたHD患者を対象に、変更前後の薬剤の服薬状況、当該薬剤に対する服薬意志及び服用性についてのnumerical rating scale(NRS)値及び血清リン濃度を調査した。なお、薬剤変更においては、業務を円滑に行うため、予め地域薬局と診療所間で締結した「リン吸着薬変更プロトコル」を適用した。対象患者7名(8事例)において、薬剤変更後、当該薬剤に対する服薬意志及び服用性のNRS値はそれぞれ5 [2–10](中央値[範囲])から7.5 [5–10](p = 0.031)及び2 [0–5]から8 [4–10](p = 0.014)へと有意に増加した。変更前に当該薬剤を処方通りに服用していなかった全2事例において服薬状況の改善を認めたが、対象患者全体において服薬状況及び血清リン濃度に有意な変化を認めなかった。

    本研究より、地域薬局薬剤師が診療所医師と協働し、患者の嗜好に基づきリン吸着薬の変更を行うことにより、HD患者におけるリン吸着薬に対する服薬意思及びその服用性は向上し、変更前の服薬状況が不良な患者においては、服薬状況の改善にもつながる可能性が考えられた。

  • 告野 葉子, 伊藤 真史, 木下 照常, 近藤 洋一, 滝本 典夫
    2024 年 13 巻 2 号 p. 193-200
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/09/03
    ジャーナル 認証あり

    2019年11月より低酸素誘導因子-プロリン水酸化酵素阻害薬(以下、HIF-PH阻害薬)が腎性貧血に対し使用可能となり、適正使用のために、日本腎臓学会より「HIF-PH阻害薬適正使用に関するrecommendation」(以下、recommendation)が発出されている。内服薬である利便性から腎臓内科以外の診療科からの処方量も増加傾向にあるが、recommendationを踏まえた事前の検査がなされていない症例が散見された。そこで、本研究では2019年11月1日から2022年10月31日の36か月間に医療法人豊田会関連病院(刈谷豊田総合病院・刈谷豊田東病院・高浜豊田病院)にてHIF-PH阻害薬が導入された患者を対象に、導入前後の各種検査実施率および導入後のフォローアップ状況を後方視的にカルテ調査し、適正使用がされているか評価した。

    その結果、HIF-PH阻害薬導入時におけるその他診療科の鉄動態測定率が60%であるのに対し、腎臓内科では85.7%と有意に高く、導入後の測定率においてもその他診療科では20%であるのに対し、腎臓内科では68.1%と有意差があった。鉄管理だけでなく、鉄剤調整においても腎臓内科の方が高確率にフォローがなされていた一方で、眼科受診率や導入後のHb測定率に関しては診療科を問わず低く、不十分であった。

    本結果をふまえ、HIF-PH阻害薬適正使用推進のために、薬剤師による支援体制を整えることが重要であると考える。

症例報告
  • 吉田 拓弥, 田中 梨惠, 古久保 拓, 和泉 智, 中 弘志, 庄司 繁市, 山川 智之
    2024 年 13 巻 2 号 p. 201-205
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/09/03
    ジャーナル 認証あり

    血液透析(HD)患者の緑内障治療において、腎排泄型薬剤アセタゾラミド(AZ)錠を一般的な治療域を超える投与量に設定し、血中濃度と副作用の観察を行った症例を経験した。

    症例は50歳代女性のHD患者。糖尿病性網膜症に続発した右閉塞隅角緑内障に対して眼科通院にて治療されていた。治療には複数の点眼薬とAZ錠を使用しており、AZ錠1回125 mg週3回内服にてAZの血中濃度は14.3 μg/mLと治療域内(治療域: 5~15 µg/mL)であった。しかしながら、眼科医より透析主治医へ眼圧上昇の指摘があり、緑内障手術が実施されるまでの期間に限りAZの増量が眼科医より提案された。透析主治医よりAZ用量設定の相談を受けた薬剤師は、増量に伴う血中AZ濃度上昇により発現する可能性のある中枢神経症状、血球減少、電解質異常などの副作用、および血中AZ濃度のモニタリングを条件に、1回125 mg週5回への増量を提案した。増量後、月1回測定された血中濃度は21.2 μg /mL、21.6 μg /mL、17.5 μg /mLと治療域を上回る濃度で推移し、眼圧上昇は抑制された。その後、緑内障手術が施行され、眼圧改善を認めたため、眼科医指示により、AZ錠は中止となった。AZ増量期間中、血球減少、電解質異常、およびけいれんや精神錯乱などの中枢神経症状は認めなかった。

    緑内障治療における高濃度AZの有効性については明確ではないものの、HD患者に対する一般的なAZの用量設定だけでなく、眼科医とも連携し、理論的な投与計画と安全性についての観察により治療が継続可能であった症例と考えられる。

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