患者の嗜好に基づく薬剤変更はその服用性を向上させ、服薬アドヒアランス向上に寄与することが期待される。本研究では、地域薬局薬剤師と診療所医師が協働しHD患者の嗜好に基づきリン吸着薬を変更し、その服用性及び服薬アドヒアランスに及ぼす影響について評価することを目的とした。
まず、リン吸着薬服用中のHD患者がそれらの服用性をvisual analogue scale(VAS)にて評価した。HD患者50名中9名(18%)が服用中のリン吸着薬を飲みにくい(VAS値40以下)と評した。また、VAS値50以下と評した患者18名中5名が薬剤変更を希望した。
次に、薬局窓口において、患者の嗜好に基づき薬剤変更が実施されたHD患者を対象に、変更前後の薬剤の服薬状況、当該薬剤に対する服薬意志及び服用性についてのnumerical rating scale(NRS)値及び血清リン濃度を調査した。なお、薬剤変更においては、業務を円滑に行うため、予め地域薬局と診療所間で締結した「リン吸着薬変更プロトコル」を適用した。対象患者7名(8事例)において、薬剤変更後、当該薬剤に対する服薬意志及び服用性のNRS値はそれぞれ5 [2–10](中央値[範囲])から7.5 [5–10](p = 0.031)及び2 [0–5]から8 [4–10](p = 0.014)へと有意に増加した。変更前に当該薬剤を処方通りに服用していなかった全2事例において服薬状況の改善を認めたが、対象患者全体において服薬状況及び血清リン濃度に有意な変化を認めなかった。
本研究より、地域薬局薬剤師が診療所医師と協働し、患者の嗜好に基づきリン吸着薬の変更を行うことにより、HD患者におけるリン吸着薬に対する服薬意思及びその服用性は向上し、変更前の服薬状況が不良な患者においては、服薬状況の改善にもつながる可能性が考えられた。
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