土木学会論文集F6(安全問題)
Online ISSN : 2185-6621
ISSN-L : 2185-6621
76 巻, 2 号
選択された号の論文の24件中1~24を表示しています
特集号(和文論文)
  • 山城 新吾, 中野 晋, 金井 純子, 長谷川 真之
    2020 年 76 巻 2 号 p. I_1-I_8
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/02/05
    ジャーナル フリー

     令和元年東日本台風では長野県内においても各地で浸水被害が発生し,長野市と千曲市では4保育園が0.6~2.9mの床上浸水被害を受け,長期にわたって別施設での保育継続を余儀なくされた.長野市及び千曲市の保育担当職員と保育園職員を対象に被災状況や保育継続の方法などについて聞き取り調査を行った.さらに,被災した保育所とその周辺での浸水痕跡調査と千曲川流域を対象とした河川氾濫計算も実施し,各保育所の被害発生状況について分析した.事前休園の判断基準の必要性と,保育再開に必要となる6種の資源のうち,今回の4園では「施設・設備」と「協力者・関係業者」が重要であった事を明らかにした.

  • 坂本 淳
    2020 年 76 巻 2 号 p. I_9-I_17
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/02/05
    ジャーナル フリー

     本研究は,大規模災害の発生により寸断された道路の段階的な復旧計画を提案するものである.計画は2段階とし,まず重要度が高いあるいは早期の復旧が可能な区域に関する施設間のアクセシビリティの改善に資する道路を,次に復旧に時間を要する区域を含めた道路のうち,優先的に復旧すべきものを選定する.ケーススタディ地域とする高知県宿毛市では,近年発生確率が高まっている南海トラフ地震による大規模な道路寸断の他,市内中心部の長期的浸水が懸念されている.この区域を「復旧に時間を要する区域」として提案計画を適用した結果,全ての道路を復旧しなくとも第1段階の目標を達成し,第2段階に遷移できることが確認できた.さらに,段階的な復旧を考慮しない計画と比較して,早期に重要度が高い施設間のアクセス性を高めることが可能なことが示された.

  • 保田 敬一, 白木 渡, 井面 仁志
    2020 年 76 巻 2 号 p. I_19-I_33
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/02/05
    ジャーナル フリー

     近年の自然災害の増加や災害の大規模化に伴い,住民等への説明の必要性から橋梁長寿命化修繕計画における自然災害発生の影響を把握しようとする動きがある.自然災害による外力は設計時点では考慮されてはいるものの,維持管理期間中に外力や橋をとりまく環境条件等が変動する可能性がある.また,該当する橋が自然災害に対してどの程度の耐力・余裕をもっているのかは明確に説明できる状態にはない.本研究では,橋梁長寿命化修繕計画において考慮されるべき自然災害影響要因を考察する.そして,自然災害に対する耐力を表現する指標としてRFND(Rating Factor with Natural Disasters)を定義し,主な自然災害に対する耐力を判定できる指標として活用し既存橋梁を区分する.橋ごとにRFNDを試算し,特徴を把握するとともに,グループ化することで既存橋梁の現状分析を行う.最後に,RFNDの利用方法と長寿命化修繕計画との関係について考察する.

  • 宇野 宏司, 松本 成人
    2020 年 76 巻 2 号 p. I_35-I_41
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/02/05
    ジャーナル フリー

     近年,100年に一度や200年に一度といわれる豪雨災害の発生率が上がっている.このような低頻度大規模災害については,ハード対策だけでは十分カバーできず,避難時の情報伝達などのソフト対策がますます重要とされる社会の到来が予想される.現在の主な避難情報伝達手段において,防災行政無線は特定の地域住民全員に情報を伝達できる,有用な情報伝達手段としての普及が期待される.しかしながら,近年の豪雨災害の被災者からは,その能力が充分に発揮されていないとの指摘がある.高齢者の多い地域などでは防災行政無線からの避難情報はきわめて重要で,こうした点は早急に解決しなければならない課題である.そこで,本研究では降雨の程度による防災行政無線の聞こえ方の変化を調べるために,雨音が放送の聞こえ方に及ぼす影響を簡易な模擬実験によって明らかにした.

  • 小池 則満, 橋本 操, 服部 亜由未, 森田 匡俊
    2020 年 76 巻 2 号 p. I_43-I_50
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/02/05
    ジャーナル フリー

     共同漁業権は,漁村集落のコミュニティが自らの地先海面を共同で利用するという伝統的な漁業の区域を引き継いだものである.一方で,津波警報発表時において,共同漁業権が設定されている海域から地先の漁村集落にある漁港・港湾施設へ戻り高台へ避難することが,最も迅速であるとは限らない.そこで,リアス式海岸の内湾における共同漁業権の設定状況とボロノイ図から得られる空間的な最適解との比較検討をして海域を分類する方法を提案した.三重県南伊勢町五ヶ所湾に適用した結果,概ね共同漁業権の海域とボロノイ海域は一致しているが,一部に新たな上陸地点を考えなければならないこと,湾全体での避難計画を考えることの重要性を指摘した.

  • 加藤 研二
    2020 年 76 巻 2 号 p. I_51-I_61
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/02/05
    ジャーナル フリー

     2020年に感染が拡大しはじめた新型コロナウイルス感染症へ対応するために改正された非常事態宣言が出されたが,災害がよく起こる日本においては,非常事態宣言時においても,災害が発生することも考えられ,感染症対策等を考慮した災害対策を考える必要がある.特に,分散避難の検討ならびに避難所の運営等あらたな仕組みづくりを考える必要がある.

     そこで,非常事態宣言時における分散避難などの意識および避難所の仕組みづくりなどについて分析をした結果,災害に対する意識ならびに避難所での生活に対する意識には「正常性バイアス」などの各バイアスが影響していることが確認できた.また,災害・避難所についての意識が高い個人ほど避難所ではトイレの確保が必要と考える傾向があった.しかしながら,車中あるいはホテルなどへの分散避難をしてもよいと考える割合は,現在のところそれほど多くないことも分かった.

  • 竹之内 健介, 細野 将輝
    2020 年 76 巻 2 号 p. I_63-I_74
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/02/05
    ジャーナル フリー

     近年,水害教育の重要性が高まっているが,教育内容の議論が盛んに行われる一方で,学校現場の教員からは,授業内容や制度上の点から,その実施の難しさも指摘される.このような状況を踏まえ,本研究では,授業内容だけでなく,授業の実施方法の視点から,どのような改善が可能であるか,水害教育の教材開発とモデル校における実践を通じて検討を行った.事前評価から,水害教育を実施する上で改善が必要と考えられる8項目が確認され,それらを考慮した教材開発を行った.授業を実施した教員からは,特に学習指導・発問計画や補助教材に対して,授業の円滑な実施や児童の関心を高める上で効果的であった点が指摘され,教員の授業実施や児童の理解を支援する教材や手法の開発の重要性が確認された.

  • 平山 奈央子, 瀧 健太郎
    2020 年 76 巻 2 号 p. I_75-I_80
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/02/05
    ジャーナル フリー

     滋賀県近江八幡市立馬淵小学校では,河川の環境と防災を融合した体験型学習プログラムが4年生を対象に2009年度より実施されている.同学習効果を検証するため,著者らは学習前後の児童と児童の進学先中学校の生徒に対してアンケート調査を実施した.分析の結果,短期的な学習効果として,避難経路と地域の危険箇所,避難のタイミング,避難方法,地域の河川の特徴や河川改修の歴史について学習効果が見られた.さらに,長期的な学習効果として,ハザードマップの閲覧や河川水位情報の確認など水害リスクの認知,避難情報の発令認識,実際の避難行動について馬淵小学校出身の生徒は他校出身の生徒よりも防災意識が高かった.川での体験や主体的に考えるプロセスが地域の防災活動,近年の水害状況の影響も受け,学習効果を持続させていることが示唆される.

  • 大原 美保, 栗林 大輔, 藤兼 雅和
    2020 年 76 巻 2 号 p. I_81-I_88
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/02/05
    ジャーナル フリー

     近年の水災害においては,過去の被災自治体での教訓が生かされずに円滑な災害対応に支障が生じがちである.本研究では,過去の水害に対して自治体が刊行した災害対応検証報告書等の中から,地方自治体職員がうまく対応できずに災害対応に影響が生じた事例を「災害対応ヒヤリ・ハット事例」として収集した.この結果,過去の水害に対する災害対応検証報告書等から516例を収集し,災害対応の時系列に沿ったカテゴリーごとに整理を行い,複数の地方自治体で報告されている典型的な事例を抽出した.また,典型的な事例を引き起こした根本原因を特性要因図を用いて分析し,「人のスキル」「仕組み」「設備等」に関する教訓の把握も行った.最終的に,典型的な事例とのその根本原因、教訓をわかりやすく学ぶための「水害対応ヒヤリ・ハット事例集(地方自治体編)」を作成し,公開した.

  • 二神 透, 西 優汰, 大西 諄
    2020 年 76 巻 2 号 p. I_89-I_96
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/02/05
    ジャーナル フリー

     地震の活動期に入った現在,海溝型地震・直下型地震等による密集市街地の地震火災対策が喫緊の課題となっている.しかし,都市計画的な密集市街地の対策は遅々として進んでいない.そこで,“みどりの防火効果”によるまちづくりの推進に着目した.そのためには,都市計画的な建ぺい率の抑制や,木造建物占有率の低減化(耐火造建物の増加),みどりの整備効果を定量的に分析する必要がある.そこで,実験計画法を用いて要因分析を行った.それらの結果,既存のみどりが高い防火効果を有することを定量的に示すことができた.

     次に,みどりのまちづくりワークショップを開催し,参加者にアンケートを実施し,住民の緑化意識の変化,緑化意識の高揚の規定要因を分析することで,みどりの整備に向けた知見を整理した.

  • 岩原 廣彦, 白木 渡, 井面 仁志, 高橋 亨輔
    2020 年 76 巻 2 号 p. I_97-I_105
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/02/05
    ジャーナル フリー

     今後30年間で70~80%の発生確率といわれる南海トラフ地震において,甚大な被害が想定される四国地方では,地域特性に応じた的確な防災・減災対策が必要となっている.地域防災力向上に向けそれぞれの地域では,地区防災計画の策定が行われている.重要なことは地区防災計画を策定し,その内容について訓練や勉強会を通して,適宜改善していくプロセスが継続できる地域コミュニティであることである.

     地域コミュニティの防災ネットワークに関しては,自主防災組織,女性防火クラブ,災害ボランティア,介護事業者など様々な組織から構成されている.近年,この地域コミュニティの崩壊による地域防災力の低下が社会問題となっている.筆者らは地域コミュニティの崩壊要因として自治会加入率の低下,地域住民の高齢化等単身世帯の増加,自主防災組織と自治会の状況及び,小学校の統廃合による地域コミュニティの変容に着目し,これらが地域防災力に及ぼす影響について調査・分析を行った.本稿はその結果と地域住民同士を繋ぐネットワークの中心に,小学校を位置付けた地域コミュニティの地域防災力向上を図っている事例について述べる.

  • 櫻井 祥之, 小川 宏樹
    2020 年 76 巻 2 号 p. I_107-I_116
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/02/05
    ジャーナル フリー

     令和元年台風19号での東日本における豪雨により, 立地適正化計画において指定された居住誘導区域の浸水被害事例がみられた. 居住誘導区域指定時に, 浸水想定区域を除外するか否かは自治体の判断に委ねられ, 多くの自治体ではソフト防災対策実施を条件に除外されていない傾向にある. 本研究では, 居住誘導区域の浸水被害リスクの低減を目指し, 居住誘導区域指定における浸水想定区域の取り扱い基準を明確化することを目的に実施した. 2040年の将来人口を踏まえて, 居住誘導区域指定時の浸水想定区域の除外可否を検証した結果, 少なくとも危険性の高い浸水深2.0m以上の区域を除外することや, 除外できなかった浸水想定区域の対策を立地適正化計画へ明記することを, 国の指針として示す必要性が明らかとなった.

  • 坂田 朗夫, 川本 篤志, 井面 仁志, 白木 渡
    2020 年 76 巻 2 号 p. I_117-I_122
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/02/05
    ジャーナル フリー

     新型コロナウイルス感染対応の長期化が避けられない中,地震や豪雨災害が発生する「複合災害」への対応が求められている.防災に関連した58学会で作る「防災学術連携体」は,その「複合災害」対応の重要性に鑑み5月1日に緊急提言を発表している.しかし単独に災害対応だけでも十分な体制がとれない小規模な基礎自治体においては,複合災害時の対応への備えは検討されておらず,また組織としての体制構築も難しい状況にある.本研究では,基礎自治体の避難所開設や運営対応に着目して,自然災害と感染症拡大等他の緊急事態との複合災害発生時において備えるべき仕組みや対応体制並びに対応策について提案する.まず,過去の地震や豪雨災害発生時における避難所の開設・運営に関する課題と対応事例を整理する.次に,新型コロナウイルス感染対応が継続されている状況下で,地震や豪雨等が発生した場合の避難所開設・運営について,「3密」対策に着目してレジリエンエンジニアリングに基づいた対応策を提案する.

  • 長谷川 真之, 中野 晋
    2020 年 76 巻 2 号 p. I_123-I_130
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/02/05
    ジャーナル フリー

     風水害時における保育所の休所実態を把握するため,2019年12月~2020年1月にかけて24都県の人口1万人以上の673基礎自治体保育担当部署を対象に,郵送回収方式にて所掌保育所での休所実施の有無,休所規定の制定状況等についてアンケート調査を行った.対象自治体は近年,風水害被害を受けた都県を中心に抽出し,378自治体(回収率56%)から回答を得た.風水害時に保育所を休所させる規定があるのは61自治体(16%)で,この内,2018年又は2019年に被災した自治体のうち,13自治体で規定が設けられていた.しかし,現時点では風水害時の休所規定がある自治体は少数であり,災害危険性が高まった時に保育所の休所判断をできるためには,社会的合意の形成が必要である.

  • 加藤 駿平, 金井 純子, 中野 晋, 湯浅 恭史, 徳永 雅彦
    2020 年 76 巻 2 号 p. I_131-I_139
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/02/05
    ジャーナル フリー

     平成30年7月豪雨では広島県の沼田川流域で堤防からの溢水や決壊が生じ,三原市内の複数の高齢者施設で浸水被害が発生した.そこで,被災した3施設を対象に被害状況,水害発生時の避難行動,被災後の業務再開状況等について聞き取り調査を実施した.また,聞き取り調査から得られた浸水過程や避難行動を確認し,詳細分析を行うため,各施設周辺の浸水痕跡調査及び沼田川流域を対象とした河川氾濫数値解析も実施した.浸水エリア内の微高地に立地する施設では臨時の避難場所の役割を果たしたが,避難者との連携が課題となった.深刻な床上浸水被害を受けた施設では緊急時の職員参集体制,近隣の支援者の確保など,水害を想定した具体的な避難計画の作成が急務であることが明らかとなった.また,災害休業時における雇用対策も事業継続上重要な課題であることがわかった.

  • 田中 耕司, 竹之内 健介, 向井 凌平, 西澤 諒亮, 玉木 秀幸
    2020 年 76 巻 2 号 p. I_141-I_154
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/02/05
    ジャーナル フリー

     本研究は,現在設定されているタイムライン防災の課題を探るために,住民の防災意識をアンケートから評価し,住民の日頃の取り組みや災害発生過程における住民の視点の遷移をワークショップから明確にした.タイムライン防災と日常の防災の意識との差異を評価し,ソフト対策の実践を通して,有効なタイムライン防災が機能するために必要なツールを検討した.なお,そのためには住民の関心のない小規模の内水氾濫や土砂崩れなどの状況も踏まえて,数値解析等の水文・水理学的な観点からの基礎検討も実施した.本論文は,住民の活動がタイムライン防災と結びつき,そのために日頃どのようなことが必要なのかについて検討した結果を報告する.生活防災タイムラインの構築とそれを利用した散歩,料理教室のイベントを通して,タイムラインの認知や利用頻度が向上することを示した.

  • 中野 晋, 金井 純子, 山城 新吾, 長谷川 真之
    2020 年 76 巻 2 号 p. I_155-I_164
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/02/05
    ジャーナル フリー

     平成30年7月豪雨において広島県内の保育所では複数の施設で土砂流入や浸水のため,他の施設での応急保育が行われた.この豪雨で浸水等の被害を受け,保育継続に問題が生じた広島市,安芸郡坂町,呉市,三原市の5つの保育施設と広島市役所を訪問し,豪雨災害時の安全管理や保育再開に向けた取り組みに関した聞き取り調査を行った.4保育施設では園舎再建や大規模修復が必要となり,複数の施設を利用した分散保育,他の保育所を利用した合同保育等が行われた.被災時の早期再開と継続が必要とされる保育所では被災を前提とした保育継続計画を検討しておくことの重要性について明らかにした.

  • 高田 知紀, 藪内 佳順, 佐藤 祐太
    2020 年 76 巻 2 号 p. I_165-I_174
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/02/05
    ジャーナル フリー

     本研究の目的は,神社空間を核とした防災コミュニティを形成するためのひとつの実践モデルを提示することである.そのために本研究では,和歌山市・伊達(いたて)神社において社会実験を展開した.伊達神社の位置する有功地区は,地震,津波,河川氾濫,土石流,斜面崩壊など多様な災害リスクにさらされている地域である.地域防災上の課題としては,地域住民が種々の災害リスクのポテンシャルを認識していない,地域内で実効性のある避難計画が周知されていない,古くからの集落と新興住宅街の住民が交流できていない,といった点があげられる.これらの課題を解決するために,伊達神社において,氏子やその他の地域住民と神職,絵地図アーティスト,学識経験者がワークショップとフィールドワークを繰り返し,地域内の史跡名所を巡ることでハザードエリアが把握できる「無病息災マップ」を作成するプロジェクトを展開した.

  • 中村 栄治, 小池 則満
    2020 年 76 巻 2 号 p. I_175-I_183
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/02/05
    ジャーナル フリー

     名鉄百貨店(名古屋市)が入居する名鉄ビルは,その地下1階と2階に名鉄名古屋駅を有し,地下1階で地下鉄東山線南改札およびサンロード地下街とゲートウオーク地下街,さらには近鉄名古屋駅地下改札と接続しており,名鉄ビルとこれら周辺施設間で多数の来街者が往来する人流ネットワークが形成されている.テロ予告などセキュリティ上の理由により全館一斉避難が必要になった場合を想定したシミュレーションを行った.避難者は歩道を使い近隣4か所の屋外避難先を目指して移動するが,大量の人流が避難路としての歩道を移動することにより,歩道での滞留が全館避難時間に影響を及ぼすことがわかった.歩道でのボトルネックを改善することにより,避難時間を17%ほど短縮できることをシミュレーションにより確認した.

  • 本山 紘希, 飯山 かほり, 金田 義行, 白木 渡, 藤澤 一仁, 堀 宗朗
    2020 年 76 巻 2 号 p. I_185-I_192
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/02/05
    ジャーナル フリー

     従来の地震による都市の建物の被害評価は,経験的に得られた表層地盤の地震増幅特性や建物の被害率を使用して実施される.この手法は,一定の信頼性を有するが,ばらつきの大きな現象を経験的に扱うため誤差が大きい.本研究の目標は,数値シミュレーションを用いて建物一棟ごとに表層地盤と建物の地震応答解析を行うことで,既往の手法に比べて精度の高い手法を確立することである.これを実現するため,これまで著者らはボーリングデータを用いた地点ごとの表層地盤のモデル化手法の開発などを行ってきた.本論文では,約10万棟の建物のエリアを想定し,開発した手法を用いて,数値シミュレーションによる建物の被害評価を試行する.また,得られるマップを既往の手法によるものと比較し,提案手法による防災マップ構築の可能性について基礎的な議論を行う.

  • 石井 唯嵩, 広兼 道幸, 倉本 和正, 西原 尚輝
    2020 年 76 巻 2 号 p. I_193-I_199
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/02/05
    ジャーナル フリー

     近年,頻発している土砂災害への対策の一つとして,国土交通省は土砂災害警戒区域等の指定を進めているが,その作業には,非常に時間や労力を要するため,継続的な実施に向けては効率化が求められる.

     そこで,深層学習を用いて地形データから土砂災害警戒区域を自動的に設定するシステムを構築したが,保全対象を含まない土砂災害警戒区域も設定するという課題が残された.本研究では,建築物を示すデータでフィルタリングを行い,保全対象を含む土砂災害警戒区域のみを再設定することの可能性について検討した.その結果,保全対象を含まない土砂災害警戒区域が消去できることを確認し,土砂災害警戒区域等を指定する作業の効率化に有用であることを示せた.

  • 中野 晋, 金井 純子, 高橋 真里, 中内 正和
    2020 年 76 巻 2 号 p. I_201-I_210
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/02/05
    ジャーナル フリー

     平成30年7月豪雨において,宇和島市内では中小河川の氾濫や土砂災害により,複数の保育園が深刻な被害を受けた.この災害では出勤途上の職員が危険にさらされた他,被災した保育園では,市役所の会議室,近隣の保育園などを利用して,必要最小限の保育環境を整備した上で,応急保育が実施された.自治体の担当課や保育園職員を対象としたインタビュー調査から,災害発生時の避難行動,被災直後からの業務継続過程で生じた課題(施設の復旧と環境整備,給食,衛生管理,応急教育方法,園児と職員を対象とした心理的ケア,行政との連携など)について整理した.さらに,河川氾濫状況について氾濫シミュレーションを実施し,職員の証言内容についても検証を行った.これらを通して,豪雨災害に対する保育所の業務継続を行う上での課題が明らかとなった.

  • 金井 純子, 中野 晋, 山城 新吾, 三上 卓
    2020 年 76 巻 2 号 p. I_211-I_218
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/02/05
    ジャーナル フリー

     令和元年東日本台風では越辺川右岸0.0k付近の堤防決壊により,近くの高齢者施設(1法人2施設)や障害者施設(1法人6施設)が甚大な被害を受けた.被災した2法人を対象に,被害状況,避難行動,避難確保計画,被災後の業務再開状況等についてインタビュー調査を行った.また,浸水痕跡調査を実施した上で,破堤に伴う川越市内の氾濫進展状況を数値シミュレーションにより再現し,証言内容の検証を行った.高齢者施設と障害者施設の利用者の身体的特性や,避難方法,避難生活などの情報を施設特性に注目して整理し,施設特性を踏まえた避難確保計画と長期避難を想定した業務継続計画を検討しておくことの重要性について明らかにした.

  • 湯浅 恭史, 石田 勇貴, 中野 晋, 蒋 景彩
    2020 年 76 巻 2 号 p. I_219-I_227
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/02/05
    ジャーナル フリー

     平成30年7月豪雨では河川氾濫などにより,水道施設に深刻な浸水被害や土砂災害が発生し,周辺地域が長期に断水するケースがあった.水道事業は被災地域の生活に必要なライフラインであることから,給水車などで応急給水を行うが,本格的な水道施設の復旧は地域の復旧に欠かせないものである.また,地域の企業や医療機関などの復旧や事業継続にも不可欠であることから,水道施設の浸水リスク等への事業継続対応は,早期の復旧・復興を考える上で大きな課題となる.

     本研究では,豪雨災害で浸水被害等のあった水道施設に対し,初動対応から復旧再開までの対応についてヒアリング調査等を実施し,水道施設の被害からの速やかな水道供給と復旧を実現する上で,事業継続の観点から必要な対応や要素について検討を行った.初動対応時から復旧再開に至るまでの目標復旧時間を明確にした上で,複数の事業継続戦略を用いた対応が必要となる.そのために取り組むべき対応や考え方について提言する.

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