土木学会論文集F6(安全問題)
Online ISSN : 2185-6621
ISSN-L : 2185-6621
74 巻, 2 号
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特集号(和文論文)
  • 岩原 廣彦, 白木 渡, 石井 美咲
    2018 年 74 巻 2 号 p. I_1-I_10
    発行日: 2018年
    公開日: 2019/02/19
    ジャーナル フリー
     南海トラフ地震の発生確率が,今後30年間で70~80%といわれるなかで,甚大な被害が想定される四国地方においては,外国人旅行者(インバウンド)へ地域特性に応じた的確な防災情報の提供が必要となっている.特に,「瀬戸内国際芸術祭」や「うどん食文化」などを目的に香川県を訪れるインバウンドは,2016年度に全国1位の増加率(前年度比)となっている.しかし,ハザードマップなどの防災情報の提供は,観光業界からすれば,マイナスのイメージ情報であり積極的ではない.また,観光地においてインバウンドが,観光情報以外の防災情報を別途入手することは通常は考えられない.防災情報の提供にあたっては観光地でインバウンドが,情報入手ツールとして何を活用しているかについて把握する必要がある.
     そこで,観光情報と防災情報とを併せた効果的な提供のあり方について,観光地でインバウンドへの調査と,香川県の観光業界への調査を実施し,インバウンドに分かりやすく利用してもらい,観光業界からも理解が得られる防災情報を提供するツールについて検討を行った.
  • 橋本 操, 小池 則満, 石塚 えり奈
    2018 年 74 巻 2 号 p. I_11-I_18
    発行日: 2018年
    公開日: 2019/02/19
    ジャーナル フリー
     本研究は,海岸観光地における市街地形成過程と津波災害への脆弱性との関連について明らかにした.本研究では,明治時代から海水浴場として栄えた愛知県南知多町内海地区を対象地域とする.まず,明治期から平成26年現在までの地形図から土地利用のGISデータを作成し,前後の土地利用変化から市街地形成過程を整理した.さらに,これらの土地利用データと津波浸水想定区域や都市計画図とのクロス集計を行い,市街地形成過程と津波災害への脆弱性について分析した.内海地域は,南知多町でも少ない平坦地を有していることから農業地域として成立してきた.その平坦地が海水浴場としての観光地化と合わせて,農地から住宅地へと変容した.そのため,津波浸水想定地域に住居地域が多く含まれ,高層の建物がなく,区画や道路が狭いといった水平避難や垂直避難が困難な地域が成立した.今後は,浸水被害に対応できるようなまちづくりが求められる.
  • 窪田 諭, 松村 一保, 北川 育夫, 一氏 昭吉
    2018 年 74 巻 2 号 p. I_19-I_29
    発行日: 2018年
    公開日: 2019/02/19
    ジャーナル フリー
     地域防災の最小単位である地域町会・自治会が各地区の災害予測に沿った防災マップを作成しているが,人員と予算の確保が困難である.また,実施主体を都道府県から市町村,地元町会・自治会と小中学校へと展開することが求められる.
     本研究では,地域自治会や校区の防災情報を地域住民が共有するために,オープンソースの地理情報システムを用いた地域防災マップ作成支援システムを開発した.システムを小学校3校で実践し,情報収集や操作性,有用性,魅力性の評価実験を行った.その結果,操作性には課題があるものの,児童の危機意識を高める有用性と,児童が協力しながら作業する魅力性が示唆された.
  • 竹之内 健介, 加納 靖之, 矢守 克也
    2018 年 74 巻 2 号 p. I_31-I_39
    発行日: 2018年
    公開日: 2019/02/19
    ジャーナル フリー
     平成29年九州北部豪雨では,中山間地を含む多数の集落で甚大な被害が生じた一方,5 年前の災害経験などを踏まえ,住民が無事避難した事例も確認されている.本研究では,そのような避難に成功した地区などを対象に住民への聞き取り調査を行い,詳細な対応行動や避難につながった背景の分析を行った.調査の結果,地域独自の判断基準の存在が災害対応に効果的に機能していた事例が確認されるとともに,そのような判断基準が地域で継続して定着するような社会環境が存在していた.また当時の住民の対応行動の時系列分析を行い,各種災害情報との対応関係から,実際にその判断基準が災害時に有効に機能していたことを確認した.これらの結果を踏まえ,地域独自の判断基準(防災スイッチ)を災害時に有効に機能させる地域防災の検討と推進を提案する.
  • 平子 紘平, 森崎 裕磨, 藤生 慎, 高山 純一, 柳原 清子, 西野 辰哉, 寒河江 雅彦
    2018 年 74 巻 2 号 p. I_41-I_51
    発行日: 2018年
    公開日: 2019/02/19
    ジャーナル フリー
     東北地方太平洋沖地震において,高齢者や障がい者の被害も甚大であったことから,避難行動要支援者の名簿作成が各自治体に義務付けられた.一方,熊本地震において,庁舎の被災等により,名簿が活用できない事例が発生し,平時より避難行動要支援者の精緻な支援計画策定が重要視されている.本研究ではArc GISのNetwork Analystツールの到達圏解析を用い,道路ネットワークを考慮し,避難行動要支援者の避難施設へ到達可能性の検証を行った.本研究では,我が国における超高齢化に伴い,人数が莫大に増加している後期高齢者に着目し,中でも特に避難にケアを必要とする自宅に居住する要介護認定者を分析対象者とした.到達圏解析の結果,要介護認定者の避難時の実態と何人の要支援者が避難所まで到達できない可能性を持つのか,詳細な把握を行うことが可能となった.
  • 松本 美紀, 佐々木 徳朗, Dicky MUSLIM
    2018 年 74 巻 2 号 p. I_53-I_62
    発行日: 2018年
    公開日: 2019/02/19
    ジャーナル フリー
     本研究では,インドネシアと日本の内陸地域に居住する大学生を対象とし,防災意識と防災活動の実態を把握すると共に,若年層の災害対策に関する課題を,国別で検討した.その結果,日本の学生は災害が起きるかもしれないという予期不安が高い割には,防災活動を行っていないという実態が確認できた.彼らは,防災教育を幼少期から受講していることから,知識は充分と考えられるが,災害発生時を想定した救助活動などの具体的な行動力に欠けていることがわかった.一方で,インドネシアの学生は,災害が起こるかもしれないという予期不安はほとんどなく,楽観的な傾向がみられた.その要因として,避難行動計画や避難持ち出し品の準備などはほとんどの人が行なっていたため,準備をしたことで安心感のほうが不安感より勝っていることが考えられる.そのため,インドネシアでは,準備段階の次のステップとして,避難シミュレーションなどの訓練の実施が重要課題といえる.
  • 保田 敬一, 白木 渡
    2018 年 74 巻 2 号 p. I_63-I_76
    発行日: 2018年
    公開日: 2019/02/19
    ジャーナル フリー
     インフラ長寿命化修繕計画を運用する際,異常事象が発生しても被害を最小限にし,かつ速やかに平常時レベルまで回復する対応策を検討しておくことが望ましい.しかし,策定されている修繕計画にレジリエンスの観点はほとんど盛り込まれていないのが現状である.本研究では災害レジリエンス(縮災)の考え方に基づいて,被害(D)を少なくできる対策および回復時間(T)を短くできる対策を検討する.本研究では,まず,4つのレジリエンス特性(頑健性,冗長性,資源,即応性)をもとに,事前対応,発災直後,発災以降での留意点を説明する.そして,レジリエンス能力を向上させるための具体策をレジリエンス特性ごとに提案する.レジリエンス対策により平常時に比べてどの程度ダメージを抑制できるか,および回復時間の短縮の程度を評価し,特定の地方自治体を対象にレジリエンス能力の改善効果を評価する.
  • 中野 晋, 金井 純子, 高橋 真理, 藤澤 一仁, 山城 新吾
    2018 年 74 巻 2 号 p. I_77-I_84
    発行日: 2018年
    公開日: 2019/02/19
    ジャーナル フリー
     前線性集中豪雨ではしばしば線状降水帯が形成され,短時間に洪水氾濫が発生するケースがある.2017年九州北部豪雨では豪雨発生時と下校時間が重なり,複数の学校で下校時の安全確保が問題となった.近年,想定を超える異常降水による被害が頻発しており,水害時の安全確保対策は教育機関でも重要な課題である.本研究では 2017年九州北部豪雨で被害を受けた福岡県朝倉市と大分県日田市の小中学校を対象にして,浸水被害発生時の緊急対応についてヒアリング調査を実施し,児童・生徒に対する安全管理についての課題抽出を行った.さらに,学校周辺での洪水氾濫解析結果と照合することで,安全管理上の問題はなかったのかについて詳しく検討した.学校での安全管理は下校させることが前提となっているために,下校路の安全確認が不十分となり,生徒や保護者が危険にさらされるケースが発生していた.これを改善するためには下校を前提とした安全管理方法を改める必要がある.
  • 高橋 真里, 中野 晋, 金井 純子, 山城 慎吾, 藤澤 一仁
    2018 年 74 巻 2 号 p. I_85-I_92
    発行日: 2018年
    公開日: 2019/02/19
    ジャーナル フリー
     2017年九州北部豪雨では梅雨前線に伴う大雨で福岡県朝倉市を中心に各所で洪水被害が発生した.朝倉市内には公立・私立合わせて16の保育所と1認定こども園があり,その内4保育所と1こども園で被害があった.平日午後からの急な豪雨で,被災地の保育所では保護者への引き渡しなどの緊急対応,被災後の応急保育対応が行われた.
     本研究では朝倉市の保育担当課及び同市杷木地区4公立保育所でヒアリング調査を実施し,急な豪雨災害時の保育所での危機管理と保育継続に関する課題抽出を行った.職員の証言と保育所周辺での洪水氾濫痕跡などを照合することで,保護者への引き渡しや職員の帰宅時の安全確保についての留意点が整理された.また,被災から約1カ月(2所は半年)の合同保育を行う際の給食・給水・衛生面での留意点,平素からの連携の重要性などが明らかとなった.
  • 中村 栄治, 小池 則満
    2018 年 74 巻 2 号 p. I_93-I_100
    発行日: 2018年
    公開日: 2019/02/19
    ジャーナル フリー
     名古屋のセントラルパーク地下街は,河川の氾濫や大雨による内水氾濫で浸水する可能性が低い商業施設である.火災や地震の発生時に,避難での滞留者が発生する場所をシミュレーションで明らかにするとともに,望ましい避難誘導方法の提案を行う.多くの既存研究とは異なり,想定値ではなく,現地で調査した来街者数に基づいたシミュレーションであり,2次元平面でのシミュレーションではなく,竣工図から作成した3次元モデルに基づいた3次元空間でのシミュレーションである.このシミュレーションにより,適切な避難誘導がなければ,地上に通じる28の連絡階段の中で4つの階段において滞留が発生してしまうことが判明した.提案する避難誘導により滞留を回避でき,来街者全員が3分未満で避難できることをシミュレーションにより確認した.
  • 長曽我部 まどか, 谷本 圭志, 前田 夏輝
    2018 年 74 巻 2 号 p. I_101-I_109
    発行日: 2018年
    公開日: 2019/02/19
    ジャーナル フリー
     災害対応を行うためには,社会基盤の復旧状態を把握するのみではなく,人々の生活再建についても把握することが必要である.しかしながら,生活に伴う活動は様々でありそれらを一元的に把握することは困難である.そこで本研究では,自然災害が被災地の人々の行動に与える影響と災害後の活動の回復過程を明らかにすることを目的として,人々の移動速度に着目した分析を行った.2016年4月の熊本地震を事例として,ポイント型流動人口データを用い,地震発生前後の人々の移動速度と非移動確率をゼロ過剰モデルにより推計した.その結果,地震発生前と比較して発生後には移動速度と非移動確率が変化すること,その後の活動の回復過程は各市町村により異なることが明らかになった.
  • 山口 健太郎, 谷本 圭志, 長曽我部 まどか, 前波 晴彦
    2018 年 74 巻 2 号 p. I_111-I_121
    発行日: 2018年
    公開日: 2019/02/19
    ジャーナル フリー
     わが国における防災に関する社会的な関心は高く,またその関心に応えるための防災研究の推進が期待されている.しかし,社会的な関心/学術的な関心の状態と,それら双方の近接(もしくは乖離)の度合いを知ることは容易ではなく,このことは,社会的関心(社会ニーズ)に基づいた防災研究の戦略立案の困難さの原因となるであろう.この困難さの根本的な要因は,学術的な関心にせよ社会的な関心にせよ,それらを定量化するための手法が十分に開発されていなかった点が挙げられるが,近年ではテキスト解析手法が開発され,これらの分析が可能になってきている.加えて,分析するためのデータについても入手が容易になっている.そこで本研究では,テキスト解析を用いて,防災に関する学術的な関心と社会的な関心の近接度を実証的に分析する.
  • 磯打 千雅子, 金田 義行, 藤澤 一仁, 白木 渡, 五十嵐 孝浩, 榎本 真美
    2018 年 74 巻 2 号 p. I_123-I_130
    発行日: 2018年
    公開日: 2019/02/19
    ジャーナル フリー
     本研究は,南海トラフ地震等の大規模な災害に対して産業別の復旧・復興準備に資する各種対策の進展を目的に,誰もが容易に取得可能な公開情報であり,地方創生や地域活性化を目的とした取り組みで利用されている経済指標を用いて,基礎自治体の担当者が災害発生前に産業復興方策を検討する手法を提案する.
     手法は,経済産業省が公開する地域経済分析システム(RESAS)で提供されている自治体の経済的な自立度や産業,雇用,投資の特徴を示す各種指標値を用いて,被災形態別に質的な方針の検討を行うものである.
  • 金井 純子, 中野 晋
    2018 年 74 巻 2 号 p. I_131-I_136
    発行日: 2018年
    公開日: 2019/02/19
    ジャーナル フリー
     本研究は2016年熊本地震における福祉避難所の運営状況について調査し,福祉避難所の運営上の課題について分析した.福祉避難所を開設した熊本県益城町の2つの特別養護老人ホームを対象に,避難者及び避難者に対する支援者の数がどのように変化したかを聞き取りと質問票によって調査した.地震発生から1週間の間,両施設では大きな混乱が生じた.その要因は被災によって出勤できる職員が少なかったことと多くの一般避難者を受け入れたことであった.このような混乱を避けるためには,BCPの中に福祉避難所の開設手順を加えることが必要である.
  • 井上 惣介, 中野 晋, 根来 慎太郎
    2018 年 74 巻 2 号 p. I_137-I_144
    発行日: 2018年
    公開日: 2019/02/19
    ジャーナル フリー
     大規模災害時の緊急復旧工事において安全管理体制の確保は困難である.熊本県では2017年に全産業中59%にあたる13名が2016年熊本地震に関連する建設作業中に亡くなったと報告されている.本研究では,緊急復旧工事における労務災害補償に着目し,適正な労務補償制度のあり方について検討した.
     都道府県等と建設業協会の間で締結されている災害協定に記載されている労務災害補償の内容について分析した.また,熊本県建設業協会にて熊本地震の復旧工事での労務災害と補償について聞き取り調査を行った.
     ほとんどの自治体の災害協定では補償に関する記述は見られず,労務災害補償は建設企業に一任されている.一方,熊本県では建設業協会が独自の保険制度を導入しており,一定の成果を収めている.これらの結果を踏まえ,緊急出動による復旧工事に対する労働災害補償を適正化する方法について提言する.
  • 坂本 淳
    2018 年 74 巻 2 号 p. I_145-I_153
    発行日: 2018年
    公開日: 2019/02/19
    ジャーナル フリー
     道路ネットワークの整備は将来の大規模災害に備えたハード対策として重要な施策のひとつである.しかし地方部では事業の進捗状況が芳しくなく,全ての道路プロジェクトの完了までには長い年月を要する.したがって,効果的な防災対策をより早く行うためには,防災効果の高い道路プロジェクトを優先的に整備する必要がある.
     本研究は,将来的に整備が検討されている道路プロジェクトの優先順位を検討するものである.災害発生後に復旧すべき最重要拠点間のアクセシビリティが最大となる道路プロジェクトの組み合わせが優先度の高いものであると考え,これを事業進捗率毎に提示できるモデルを提案する.提案モデルを四国8の字ネットワーク計画に適用した結果,アクセシビリティを大きく改善できる連続した道路プロジェクト区間が,事業進捗率の初期段階から常に優先的に整備すべきものであることが示された.
  • 小池 則満, 鈴木 聡一, 橋本 操
    2018 年 74 巻 2 号 p. I_155-I_163
    発行日: 2018年
    公開日: 2019/02/19
    ジャーナル フリー
     ヘリコプター場外離着陸場の配置計画を考えるにあたり,ひとつの場外離着陸場が受け持つ勢力圏人口に極端な偏りが生じないように考慮する必要がある.本研究では,道路ネットワーク按分を行う際に農用地および工業専用地域といった基本的に居住人口のない地域を除外した計算を行い,その影響について検討することを目的とした.その結果,従来からのボロノイ分割に基づく勢力圏人口よりも道路ネットワーク按分によるもののほうが勢力圏人口の少ない場外離着陸場が増えるとともにばらつきが大きくなる傾向があることなどを指摘する一方で,勢力圏人口が集中する場外離着陸場はいずれの計算手法でも大きくは変わらないことを述べた.また,これらの知見は場外離着陸場のみならず広く割り当て人口を考慮すべき防災関連施設の配置計画に適用できる可能性があることを述べた.
  • 吉岡 知弘, 金子 雄一郎
    2018 年 74 巻 2 号 p. I_165-I_173
    発行日: 2018年
    公開日: 2019/02/19
    ジャーナル フリー
     大規模震災の発生時には,救助・救急,医療,物資補給等の応急対応のほか,家族・親族等の安否確認や業務の支援,ボランティア等を目的とした広域的な移動が発生するが,交通対策上重要となる流動量や移動手段などの実態は明らかになっていない.本研究では2016年4月に発生した「平成28年熊本地震」を対象に,交通ビッグデータであるモバイル空間統計を活用することで,震災発生後の地域間移動の特性を分析するとともに,高速道路や新幹線,航空等の広域交通機能の回復状況や各種機関による災害派遣等との関係を考察した.その上で被災地への訪問者を対象にWebによる回顧式調査を実施し,訪問期間や訪問目的,利用交通機関,職業等の詳細な実態を把握した.以上の結果を基に,災害時対応としての早期の幹線交通機能の回復の重要性について言及した.
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