山階鳥類研究所研究報告
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26 巻, 2 号
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  • 小笠原 〓, 泉 祐一, 藤井 忠志
    1994 年 26 巻 2 号 p. 87-98
    発行日: 1994/10/30
    公開日: 2008/11/10
    ジャーナル フリー
    クマゲラ(Dryocopus martius)は現在日本では北海道及び東北地方北部にのみ分布し,その一部で繁殖し,わずかながら子孫を残し続けている。
    クマゲラの営巣木,ねぐら木及び採餌木などの調査が,主に1989年,1990年に,東北地方北部(白神山地,十和田•八甲田地域,八幡平,真昼岳,毒ケ森,栗駒山等)でクマゲラの生活情報のあった地域の成熟したブナ林で,それぞれ数人の調査員により行なわれた。
    クマゲラの行動圏(HRS)を明かにするため,1978~1980年に森吉山ブナ天然林で繁殖したクマゲラの営巣木,ねぐら木及び採餌跡を調査し,また1990~1992年に白神山地の尾太岳付近のクマゲラの繁殖行動を日本自然保護協会の協力で行い,その結果クマゲラの行動圏は両地とも約1,000haと推定された。
    東北地方北部の調査地の面積を地図上で計測した結果,天然ブナ林の総面積は約370,600haであった。そのうち,クマゲラの生息分布域(DR)は約64,000haであった。また,ブナ天然林は現在も伐採されつつあるが,クマゲラの生息可能面積(AR)は23,000haであり,HRSとDR及びARからクマゲラの生息個体数を推定すると,約174羽であった。
  • 岡 奈理子
    1994 年 26 巻 2 号 p. 99-108_1
    発行日: 1994/10/30
    公開日: 2008/11/10
    ジャーナル フリー
    明治初期から昭和中期にかけて,日本の幾つかの海鳥繁殖地で,無秩序な採集圧が海鳥個体群を絶滅,あるいは減少させたことが知られているが,オオミズナギドリめ最大の繁殖地の一つ,伊豆七島の御蔵島では,長期にわたる島民の採集圧で個体群規模が縮少した傾向はみられない。島民がオオミズナギドリ採集を始めた時期と,個体群規模を減らさないで採集した方法とその利用法,および天然資源の持続的利用哲学を生み出した島の社会的背景を,聞き取りと文献調査で明らかにした。
    オオミズナギドリの御蔵島での採集利用は,文献の残る1700年代前半以降,捕獲の大幅規制が開始された1978年までの少なくとも250年間の長きにわたり,数万羽規模で毎年行われてきた。江戸時代は,島の男性が,その後は病人,幼児を除く島民全員が島の共同作業の一つとして参加した。島民はオオミズナギドリを採集するにあたり,次の主な狩猟規則を島社会の不文律として設けていた。1)雛のみ採集する。2)採集日を巣立ち期前の11月初頭の,毎年2日間(1960年以前は3日間)に限定する。3)採集日以外に巣穴に干渉して,繁殖妨害をしない。この規則に違反すると,採集した鳥は没収され,その家族と共に,以後3年間,採集を禁止された。こうした不文律の採集規則が乱獲や密猟の発生防止に大きく寄写し,数百年にわたる採集圧にも関わらず,日本でも有数の繁殖個体群規模が御蔵島に維持されたと考えられた。
    オオミズナギドリの秩序ある採集の背景には,生活物質の公平な配給を受ける見返りに,島のあらゆる作業を共同で行う普持米制度の伝統がある。また,独自の家株制度の施行で人口が明治初期まで比較的低く抑えられたことも,資源の食いつぶしの回避をはかる資源管理型御蔵島社会の一つの事例としてあげられる。
    採集された雛は,各家庭で精肉され,肉,皮,内臓,骨に至るまでのほとんどの体部が伝統的保存法で数カ月間保存され,自家消費された。一部の塩蔵肉や塩辛は隣島の三宅島島民との食料,物資の交換に使われた。
    島の生計は世代を継いだ全島民による営林事業が主体であったが,今世紀前半からの柘植(つげ)材の用材価値の低下につぎ,1978年からのオオミズナギドリの伝統的採集の外圧的廃止は,森林生態系の永続的利用を実践し,共生してきた村人に,伝統的な生活習慣を断っことを強い,最近にみる急傾斜地への大型道路敷設事業導入による森林破壊と,オオミズナギドリの生息地の破壊を引き起こす背景になっていることを指摘した。生態的知識に基づく自然物の秩序ある採集は,自然との共存文化として温存すべき理由を,鳥島や北海道の渡島大島などにみる出稼ぎ的採集で海鳥の繁殖個体群を衰亡させた略奪的自然利用に対峙して見いだせる。
  • 綿貫 豊, 加藤 明子, Graham Robertson
    1994 年 26 巻 2 号 p. 109-114
    発行日: 1994/10/30
    公開日: 2008/11/10
    ジャーナル フリー
    ペンギンの餌消費は南大洋における食物連鎖の重要な部分を占める。アデリーペンギンPygoscelis adeliaeの雛の1日の餌消費量を,雛の体重を一定間隔で測定することによって推定する簡便な方法を紹介する。給餌を受けない時,雛の体重は一定速度で直線的に減少すると仮定した場合,雛の初期体重と1日の成長によって,1日の給餌量が推定できる。この方法によって,ほかの目的のたあに観察している多数の雛それぞれの餌消費量を,さらに撹乱することなく容易に推定できる。
  • Ganapathy Bhat, Biswaranjan Maiti
    1994 年 26 巻 2 号 p. 115-125
    発行日: 1994/10/30
    公開日: 2008/11/10
    ジャーナル フリー
    ミヤマホオジロの卵巣内閉鎖〓胞とその周年変化について,組織学的および組織化学的に調べた。組織学的解析により,この鳥類の閉鎖〓胞には侵入性閉鎖と破裂性閉鎖の二型が存在することがわかった。侵入性閉鎖〓胞は原始卵胞に,破裂性閉鎖卵胞は大型卵胞に,それぞれ多く見られた。スダン陽性反応は,脂肪の多い〓胞では検出されたが,襄状〓胞にはほとんど認められなかった。破裂性閉鎖〓胞中の脂肪は,初期の段階ではほとんど存在しなかったが,末期の段階で著しく増加した。3β-水酸基脱水素酵素活性は侵入性閉鎖〓胞には無く,初期の破裂性閉鎖〓胞に検出された。
    年間を通じて,侵入性閉鎖〓胞は破裂性のものに較べ高頻度に見られた。侵入性閉鎖〓胞と破裂性閉鎖〓胞の出現頻度は共に,卵巣の発達期に増加し,成熟期に最大を示した後,退化期に減少した。脂質は成熟期と退化期に最大となり,3β-水酸基脱水素酵素活性は成熟期のみ高値を示した。
  • 小城 春雄, 佐藤 文男, 三田村 あまね, 馬場 孝夫, 小山 均
    1994 年 26 巻 2 号 p. 126-131_1
    発行日: 1994/10/30
    公開日: 2008/11/10
    ジャーナル フリー
    1994年1月20-28日に実施された鳥島のアホウドリの営巣地の分散技術の開発に関する調査時に,同島で同時に繁殖しているクロアシアホウドリの繁殖状況を調査した.
    初寝崎の営巣地で親鳥により卵または雛が保護されていた巣の総数は103巣,そして燕崎の営巣地で観察された総個体数973羽より推定した巣の総数は450-500巣であった.これらから推定される鳥島の総繁殖鳥数は,内輪に見積もって1,106-1,206羽であった.
    燕崎の営巣場での巣の設置場所は,ラセイタソウやイソギクの生えている植生地,そして砂や砂利状の火山砕屑物だけからなる裸地の二つに分類できた.なお,初寝崎の営巣場所の巣は全て植生地に作られていた.
    巣上における孵化後の雛の調査時における出現率は,初寝崎(22.3%,観察巣数=103)より燕崎(52.5%,観察巣数=120)が高く,また雛の平均体重は初寝崎(317±96(SD)g,n=15)より燕崎(413±209(SD)g,n=63)が高かった.
    燕崎の営巣地を植生地と裸地とに分けて,雛の調査巣数に対する出現割合と雛の平均体重を調査してみると以下のようになった.植生地;雛の出現割合37.3%(観察巣数=59),平均体重347±144(SD)g,(n=15),裸地;雛の出現割合67.2%(観察巣数=61),平均体重439±224(SD)g,(n=38).
    鳥島のクロアシアホウドリは,雛の出現時期と体重から判断し,初寝崎よりも燕崎で早く産卵し,燕崎においては植生地よりも裸地の方が早く産卵したといえる.初寝崎のコロニーは,こちらに数巣,あちらに数巣,というように巣の分布はパッチ状であり,コロニーとはいっても未完成である.すなわち新設の営巣地であり,繁殖鳥の年齢構成は若齢鳥の多い可能性のあること等から,繁殖のタイミングが燕崎より遅かったと推察される.
  • 成田 章
    1994 年 26 巻 2 号 p. 132-134
    発行日: 1994/10/30
    公開日: 2008/11/10
    ジャーナル フリー
    Super normal clutches were observed in the Black-tailed Gull Larus crassirostris at the colony on Kabu Island. I regarded clutches of 1-3 eggs as normal and those of 4 or 5 eggs as super normal. The super normal clutches were found in 31 nests (0.8% of 4, 034 nests examined): 5 in 1990, 5 in 1991, and 21 in 1992. Female-female pairings were reported for several species of genus Larus in USA as a cause of super normal clutches. Pairings of this type were not observed in Black-tailed Gulls, but instead, super normal clutches coincided with irregular sequences of egg-laying which suggested intraspecific nest parasitism.
  • 田中 裕, 清野 能稔
    1994 年 26 巻 2 号 p. 135-136
    発行日: 1994/10/30
    公開日: 2008/11/10
    ジャーナル フリー
    東京大学海洋研究所白鳳丸の西太平洋における研究航海中(1992.9.16-12.7),タスマン海でハネナガミズナギドリPterodroma macroptera gouldiが観察された。9月中の航跡上,南緯25度以北では観察されず,10月に入って南緯25度以南のタスマン海で,ほぼ連続して確認され,10月下旬オーストラリア東部の南緯26度30分付近が,最終観察となった。最多個体は繁殖地のあるニュージーランド北島沖のリトルバーリア島近海と,オーストラリア東部沖合の南緯30度付近で観察され,10月の分布域の表面水温は,14°C-24°Cの範囲にあった。又,タスマン海中部で西方に飛翔中の本種が船内に飛来し,保護され,死後,同定計測の結果,成鳥若しくは亜成鳥であることがわかった。
  • 川路 則友
    1994 年 26 巻 2 号 p. 137-139
    発行日: 1994/10/30
    公開日: 2008/11/10
    ジャーナル フリー
    キジバトは森林や農耕地に生息し,低木の茂み等に小枝を組み合わせて簡単な巣をつくる樹上営巣性鳥類である.ところが,筆者は1989年5月29日に,札幌市郊外の森林総合研究所北海道支所の実験林内にあるシラカンバ•ミズナラを主体とする山火再生天然広葉樹林において,抱卵中のキジバトの地上巣を発見した.そののち5月30日に1羽,31日にもう1羽が孵化し,6月13日と翌14日に無事2羽の雛が巣立った.地上巣付近における植生環境として,高木層にはシラカンバとシナノキ,低木層にはノリウツギがあるが,それほど多くなく,林床植生として丈の高いチシマザサが比較的密生していた.地上巣付近での植生条件は,周辺のそれと特別変わったことはなかった.
    キジバトの地上営巣については,これまでに琉球諸島の離島における集団営巣の例が知られている(黒田1972).その原因として,天敵の希薄な離島という特殊な環境条件が挙げられているが,今回のように,キジバトが北海道の内陸部でも地上営巣することは,きわめ興味深いと考えられる.また,通常育雛中に雛の排泄物が堆積するようなキジバトの巣は,おもに嗅覚に依存する捕食者を誘引する要因にもなると考えられるが,今回巣立ちに成功したことは,この巣の周辺ではこれらの捕食者相が希薄であったことを示唆するものである.
  • 小城 春雄, 芥川 浩典, 吉田 政保, 佐藤 理夫, 林 吉彦, 田中 正彦
    1994 年 26 巻 2 号 p. 140-143
    発行日: 1994/10/30
    公開日: 2008/11/10
    ジャーナル フリー
    北海道,渡島大島の北風泊で1993年5月29-30日に一羽のヤマショウビンが観察された。海岸に面した岩の上で索餌したり,崖の中途で休息したりしていた。
    もう一羽は,1994年6月25日に清部岳(標高722m)と江良岳(標高737m)の鞍部(標高約600m)で死体として発見された。死後約一ヶ月を経過していると考えられた。
    北海道におけるこれまでのヤマショウビンの発見例は12例有り,このうち6例が日本海沿岸域,1例が太平洋沿岸域,1例がオホーツク海沿岸域,そして4例が北海道の内陸部であった。特に日本海沿岸域では,渡島大島で2例,鬼鹿で1例,天売島で1例,利尻島で2例であることから,渡島大島-(奥尻島)-天売島一利尻島に至る飛び石づたいの北上渡り経路があるのではないかと考えられた。
    近年の日本での本種の観察としては,沖縄での越冬例,そして対馬や島根県での巣穴の発見と繁殖行動の観察例が知られているものの,なおわが国における本種の分布や渡りの特性を確定するには北海道も含めて情報が不足している。
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