本研究は,千葉県柏市の里山,大青田の森(35°54′N, 139°55′E)で,2011~2013年にピットフォールトラップと空中トラップを用いて行った.アトボシアオゴミムシChlaenius naevigerの後翅は,翅の先端部に短縮が見られた翅端短縮型と,径脈の先端部から翅端までが長い翅端正常型のものがあった.両者において,後翅長や体長,後腿節長,蔵卵数の違いを調べた.また,一年を通じて週1回行った調査から季節消長を調べ,併せて解剖によって飛翔筋の有無や繁殖様式,食性などを明らかにした.
卵巣の解剖の結果から,アトボシアオゴミムシは初夏繁殖型の種で,大卵少産型であった.食性は,消化管内容物からヨウ素反応によるデンプン粒の染色が認められなかったことから,種子は摂食しておらず,BDRを滴下したところ,青色に染まったことから,肉食の捕食者であると考えられた.また,消化管内容物から検出された定形物から,大形の餌生物の内部を摂食している可能性が高かった.
後翅は,翅端短縮型の個体が56%,正常型が44%であった.翅端短縮型と正常型について,後翅長を比較すると,短縮型が有意に短かったが,他のオサムシ科の翅二型のように両者の翅長に大きな差(非連続性)はなく,バッタの相変異に見られるような翅長の連続性が見られ,環境要因の関与が示唆された.次に,短縮型と正常型を体長と後腿節長,蔵卵数で比較した.短縮型の体長と後腿節長は,正常型に比べて,有意に大きかった.これは,径脈から先端の部分をなくし,その分を体の大きさに投資している可能性がある.蔵卵数は,短縮型と正常型で有意な差はなかった.
アトボシアオゴミムシは,里山を構成する森林や水田,畑地,草地に至る幅広い環境に出現し,里山の環境指標生物として期待されている.本種は,環境によって後翅の翅端を変化させることで,生息地の環境変化に敏感に反応している可能性がある.
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