昆蟲.ニューシリーズ
Online ISSN : 2432-0269
Print ISSN : 1343-8794
14 巻, 3 号
選択された号の論文の27件中1~27を表示しています
〈原著論文〉
  • 加藤 賢太, 渡辺 守
    原稿種別: 本文
    2011 年14 巻3 号 p. 177-186
    発行日: 2011/07/05
    公開日: 2018/09/21
    ジャーナル フリー
    冷温帯の里山に生息するノシメトンボSympetrum infuscatum(Selys)は,水田で羽化した後,周囲のスギ林のギャップへ移動し,生涯を過ごしている.水田へは,産卵のために短時間飛来するに過ぎない.ギャップでは,繁殖行動を示さず,休息と採餌行動を行なっている.採餌は待ち伏せ型で,ハエやハチなどの小昆虫を餌としている.繁殖期に入ったノシメトンボの採餌行動を,8月下旬から9月初めにかけて観察した.ノシメトンボは,地上から約2mの高さで静止し,正午にピークをもつ一山型の採餌行動を示した.ピーク時の採餌飛翔は,雌で約36回/時間,雄は約24回/時間であった.採餌飛翔の成功率は雌で34%,雄で33%と,雌雄で有意な差はなかった.その結果,1日当たりの採餌成功回数は,雌で102回,雄で64回となった.林内ギャップにおける餌となる小昆虫の平均乾燥重量は0.17mg/個体であったので,ノシメトンボの1日当たりの摂食量は雌で17mg,雄で10mgとなり,これらの値は室内実験の結果と一致した.
  • 大野 豪, 丸山 宗利, 上里 卓己, 宇久田 理恵, 貴島 圭介, 喜久村 智子, 佐渡山 安常
    原稿種別: 本文
    2011 年14 巻3 号 p. 187-192
    発行日: 2011/07/05
    公開日: 2018/09/21
    ジャーナル フリー
    沖縄本島北部のカンキツ園において,最近の侵入種と考えられるカタボシテントウと,在来種とみなされているダンダラテントウの成虫個体数の季節的変動を調べた.これら2種はともにアブラムシ食であり,かつ体サイズも類似しているため,類似した生態的地位を占めていると想定される.2種の相対出現頻度は圃場によって異なったものの,調査圃場全体では,個体数やその季節変動パターンの種間差は検出されなかった.本研究の結果はこれら2種の長期的な個体数変動を調べる上での基礎的な参照データとなる.さらに我々は,カタボシテントウの斑紋2型(六紋型と亀甲型)の相対頻度が季節や年によって変動することを明らかにした.この結果は,本種における斑紋変異の維持機構を考える上で興味深い.
〈新記録ノート〉
〈特集〉形態測定学で何ができるのか?:昆虫学における事例
  • 立田 晴記, 坂巻 祥孝
    原稿種別: 本文
    2011 年14 巻3 号 p. 194-205
    発行日: 2011/07/05
    公開日: 2018/09/21
    ジャーナル フリー
    近年の幾何学的形態測定学の発達によって,生物の形態的特徴を「シェイプ」と「サイズ」に明確に区分して解析できるようになり,多数の標識点間の相対的な位置関係の変異(歪み)も評価できるようになった.そのため,従来検出が難しかった微妙な形態の違いや部分的な形態の歪みなどを量的に検出する精度が飛躍的に向上した.ここでは利用頻度が高い 1)多変量形態測定学,2)標識点の配置に基づく形態測定学,3)輪郭記述法の特徴を大まかに解説し,特に利用価値が高いと考えられる昆虫およびクモ・ダニ類を材料とした近年の幾何学的な標識点測定法と輪郭記述法の研究例を総説した.
  • 小沼 順二
    原稿種別: 本文
    2011 年14 巻3 号 p. 206-214
    発行日: 2011/07/05
    公開日: 2018/09/21
    ジャーナル フリー
    A stout-slender dimorphism is globally observed among carabid beetles feeding on land snails. In a representative snail-feeding carabid beetle Damaster blaptoides, I examined possible factors determining subsequent evolution toward stout or slender body shapes. I collected 1705 beetle specimens from 68 sampling points in the Japanese islands and analyzed them morphologically. The first and second principal components in a principal component analysis could be interpreted as body size and stout-slender body shape axes, respectively. I also examined the mean shell size of Euhadra, a genus of land snails frequently consumed by D. blaptoides, at each beetle sampling point, and examined the relation between the beetle body shape and snail body size. Populations of more slender beetles occurred in localities harboring larger snails, whereas stouter beetles inhabited localities harboring smaller snails, implying that local adaptation in response to snail size may have led to diversification of body shape in beetles. Beetle body size was also positively correlated with annual mean temperature, implying that climate conditions influence the evolution of beetle morphology. Populations of D. blaptoides showed distinctive isolation-by-distance patterns in population genetic structure, suggesting that geographic isolation might effectively enhance the local adaptation. Thus, food resources, climate, and geographic isolation may promote adaptive divergence of external morphology in snail-feeding carabid beetles.
  • 高橋 一男
    原稿種別: 本文
    2011 年14 巻3 号 p. 215-223
    発行日: 2011/07/05
    公開日: 2018/09/21
    ジャーナル フリー
    昆虫の翅は,飛翔やコミュニケーションなどに重要な役割を果たしている事が知られている.このような翅形態の定量化は,翅形態進化の適応的意義だけでなく,その形態形成に対する,環境的,遺伝的要因の理解にも繋がる.本稿では,実用的な昆虫翅定量化法の解説を目的とし,幾何学的形態測定学的アプローチの紹介を行った.特に,初めて翅形態定量化を行う際に問題となることが多い,サンプルの準備,標識点座標取得,解析などの具体的な過程について,有用なツールの紹介も含めて,詳細に解説を行った.また,このような幾何学的形態測定学的アプローチに基づいて,運河化や,発生過程安定性といった,生物の形態進化を考える上で重要な概念を定量的に解析する研究例を示した.
  • ノヴコヴィチ ビリャナ
    原稿種別: 本文
    2011 年14 巻3 号 p. 224-231
    発行日: 2011/07/05
    公開日: 2018/09/21
    ジャーナル フリー
    標識点に基づく幾何学的形態測定学のアプローチを用い,D. bipectinata種複合体4種間,およびそのうちの2種(D, bipectinataとD. parabipectinata)の地理的個体群間における翅の「形状」の違いを調べた.解析には,ボゴール,台北,琉球列島,鹿児島から採集された731個体を用いた.ボゴールより採集された本種複合体の4種間では,翅の「かたち」には有意な差が見られ,73%の分類成功率で種が識別された.しかし,完全に識別することはできなかった.これら4種についてのマハラノビス距離に基づいた非加重結合樹は6つの核DNA領域に基づく系統樹とは一致しなかった.ボゴールと台北より採集されたD. bipectinataとD. parabipectinataについての解析では,種間の変異より,地理的変異が大きかった.また,D. bipectinataにおいては,ボゴール,台北,琉球列島-鹿児島の個体群で翅の「形状」が異なっていた.これらの結果に基づき,幾何学的形態測定学の分類学への応用,また本種複合体における翅の変異について考察した.
  • 福留 啓仁, 坂巻 祥孝
    原稿種別: 本文
    2011 年14 巻3 号 p. 232-241
    発行日: 2011/07/05
    公開日: 2018/09/21
    ジャーナル フリー
    その昆虫の識別形質として従来利用されてこなかった新しい形質を探索するために楕円フーリエ記述子を援用して,卵寄生蜂Trichogramma属4種の雌個体の形態分析を試みた.まず,一般に雄交尾器形態でしか種が同定できない卵寄生蜂Trichogramma属のT. chilonis, T. dendrolimi, T. papilionis, T. japonicumを雌成虫によって同定するために,雌成虫の交尾器の形態について検討を行った.雌交尾器の輪郭を楕円フーリエ記述子で記述し,主成分分析したところ,T. japonicumは交尾器の縦横比で他の3種と完全に識別できた.また,残りの3種のフーリエ係数については,正準判別分析を行つたところ全個体が3種に区別可能であることが分かった.このように,楕円フーリエ記述子は質的な違いが見つけられず識別困難といわれている性でも,わずかな量的な変異を記述して視覚化し,種内の変異幅と種間の重なりおよび識別形質を定量的に示すことができる大変有効なツールと考えられた.
〈連載〉
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