‘メロン中間母本農5 号’は,固定品種‘アールスフェボリット春系3 号’(‘春系3 号’)にメロン退緑黄化病抵抗性を有する系統I-10 を交雑し,抵抗性検定による選抜と自殖を繰りかえすことにより,メロン退緑黄化病抵抗性を固定し,雌花着生性等の主要形質を向上させた中間母本である.本品種はメロン退緑黄化病に抵抗性を有する.高温等の条件で発病する場合があるが,発病した場合でも罹病性品種に比べて発病程度はきわめて軽く,ウリ類退緑黄化ウイルスの感染が本品種の果実品質に与える影響はほとんど認められない.メロン退緑黄化病抵抗性は劣性に遺伝し,1 つの主要な遺伝子が関与すると推察され,SSR マーカーECM230 は,メロン退緑黄化病抵抗性育種における選抜マーカーとして利用できる.本品種の節間および葉柄は長く,雌花着生率は素材であるI-10 に比べ高い.成熟日数は45 日程度で‘,春系3 号’に比べ10 日ほど早く,離層が形成されるためへた離れしやすい.果実は偏平で,‘春系3 号’に比べ小さく,溝があり,花痕部は大きい.糖度はI-10 に比べ高く,11° Brix 程度である.
カキノヘタムシガの防除適期に散布するジアミド剤のフタモンマダラメイガに対する同時防除効果を調査した.カキノヘタムシガ第1,2 世代幼虫の防除適期におけるジアミド剤の散布は,本害虫による果実被害を対照のフェニトロチオン水和剤と同等に抑えることができた.カキノヘタムシガ第1 世代幼虫の防除適期に散布したフルベンジアミド水和剤のフタモンマダラメイガに対する同時防除効果は,無防除区においてもフタモンマダラメイガ第2 世代幼虫の密度が低く推移することからその有効性を評価できなかった.その一方で,カキノヘタムシガ第2 世代幼虫に対する2 種ジアミド剤の散布は,フタモンマダラメイガ越冬世代(第3 世代)幼虫の密度抑制に有効であった.フタモンマダラメイガの越冬世代幼虫は密度が高いために防除の必要性が高いが,第1,2 世代幼虫は密度が低いことから防除の必要はないと考えられた.以上から,フタモンマダラメイガの被害抑制は,カキノヘタムシガ第2 世代幼虫防除時期のジアミド剤散布で可能と考えられた.
「はるのおうぎ」は,農研機構九州沖縄農業研究センターおよび国際農林水産業研究センターが共同育成した,萌芽性に優れる株出し多収のサトウキビ品種である.鹿児島県熊毛地域を普及見込み地域として2019 年3 月に品種登録出願した.本品種は,サトウキビ製糖用品種と野生種との種間雑種で株出し多収性を特徴とする飼料用サトウキビ品種「KRFo93-1」を種子親,早期高糖性を特徴とする製糖用品種「NiN24」を花粉親とする交配に由来し,株出し多収性と高糖性を重視した選抜を経て育成された.萌芽性は“極高”であり,萌芽率は熊毛地域の主要品種「NiF8」を常に上回る.分げつ性は“強”であり,熊毛地域では原料茎数が「NiF8」の1.4 倍から2.0 倍に達する.一茎重は「NiF8」より軽いが,茎数が多いため,原料茎重は春植え,株出しともに「NiF8」に比べて多い.甘蔗糖度は「NiF8」と同程度である.原料茎重と甘蔗糖度の結果から,可製糖量は春植え,株出しともに「NiF8」を大きく上回る.また,耐倒伏性に優れるため機械収穫しやすく,機械収穫後の萌芽も良好である.株出し単収が減少傾向にある熊毛地域において,単収の回復に寄与することが期待される.
セイヨウカボチャ(Cucurbita maxima)においては,冬から春までの端境期に出荷できる高貯蔵性品種の育成が求められている.本研究はカボチャ果実の糖代謝の特徴から貯蔵性選抜指標を見出すことを目的に,貯蔵性の異なる品種を 3 年間供試し,10 ℃貯蔵中の果実の乾物率,デンプンおよび可溶性糖含量を分析した.試験年を通して,長期貯蔵用品 種の‘白爵’と‘おいとけ栗たん’は,貯蔵中のデンプン含量が高かった.乾物率は収穫年の貯蔵中のデンプン含量の順に値が高かった.生食用の‘コリンキー’を除いた品種は貯蔵中にデンプン含量が急速に減少し,可溶性糖含量が急増したが,乾物率の変化はそれに比較して少なかった.‘白爵’と‘おいとけ栗たん’は貯蔵初期にスクロース含量が急増し,標準品種の‘えびす’に比較して貯蔵中のスクロース含量は高く推移したが,グルコース含量は低いレベルで増加した.同様の結果は,2018 年にデンプン含量の高かった‘雪化粧’にも見られた.‘白爵’,‘おいとけ栗たん’,‘雪化粧’の貯蔵前のグルコースと総可溶性糖含量は低い値を示し,この傾向は高貯蔵性品種の選抜指標として利用可能であることが示された.
センチュウ抵抗性ダイズ品種「スズマルR」と反復親の「スズマル」の遺伝的背景の同質性確認のため,全ゲノムリシーケンスを行い,塩基配列を比較した.その結果,「スズマルR」に残存する「スズマル」以外のゲノム断片は,シストセンチュウ抵抗性遺伝子を含む3 箇所と,第5 染色体末端の3.6 Mb の小さな断片のみであることがわかった.第5 染色体の断片は,当初導入が試みられていたダイズわい化病抵抗性遺伝子(Rsdv1)領域に近接していた.この断片は,選抜の最終段階で不良形質発現のためRsdv1 を「スズマル」型に戻した際に近隣領域に残った導入断片であると考えら れた.本研究により,全ゲノムシーケンスによる配列比較により「スズマル」と「スズマルR」の遺伝的背景の高い同質性を明らかにした.全ゲノムリシーケンス解析は,遺伝的背景を詳細に比較可能にする強力なツールであり,DNA マーカーでは検出が困難な小さな導入断片まで特定することで,より精密なピンポイント育種に貢献できると考えられる.
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