関東甲信越ブロック理学療法士学会
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第38回関東甲信越ブロック理学療法士学会
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フレッシュマン
  • 下川 翔平, 木村 遊, 安田 透, 豊田 裕司, 髙須 孝広
    セッションID: F-022
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/01/01
    会議録・要旨集 フリー

    【はじめに】大腿近位切断者に対側人工股関節全置換術(以下、THA)を施行した症例は渉猟する限り少なく、特に術後早期の経過を報告したものはみられない。また、唯一の支持脚にTHAを施行し、移動動作を再獲得する事の困難さは想像に難くない。そこで、左大腿近位切断者に右THAを施行した症例の術後経過を報告する。

    【症例】70代女性、術前ADLは車いす移動。階段昇降時のみ義足使用するが介助要する。2019年X月Y日に右THA施行。術翌日から全荷重可。既往歴は2004年胸部下行大動脈に解離性動脈瘤が生じ、左下肢虚血にて左大腿近位切断。同年に股義足作成、股継手は遊動式で伸展補助、固定膝継手の機能を持つ。現在、胸部下行大動脈瘤、腹部大動脈瘤、左総腸骨動脈瘤、高血圧症を有する。 術前日本整形外科学会股関節機能判定基準(以下、JOA score)は28点。日本整形外科学会股関節疾患評価質問表(以下、JHEQ)は3点。ヘルシンキ宣言に基づき、症例に目的及び方法を説明し同意を得た。

    【経過】Y+1日、離床。起居自立。移乗見守り。Y+3日、義足装着下で平行棒内歩行開始。Y+12日に見守りとなる。歩容は義足側の分回し歩行を呈す。Y+16日、心因性ストレスにより不穏が出現。Y+19日、自宅環境に合わせ4点杖と手すりにて階段昇降開始。Y+33日、自宅退院。退院時JOA score 69点。義足装着自立、階段昇降見守り。JHEQ59点。

    【考察】本症例の術前ADLは車椅子中心の生活を送っていたため、早期から義足装着することで2足での荷重感覚入力や荷重負荷軽減を図った。結果として、退院時のQOLは高値の改善を示し、ADLの向上も認めた。しかし、心血管系や過剰な負荷に伴う人工関節のルーズニング、周囲骨折などのリスクを考慮した結果、平行棒内での自立歩行獲得に期間を要した。先行研究では非切断者と比較し、長期的にみて満足な結果となったことが報告されており、移動動作獲得はリスク管理をしつつ長期的にみる必要があると考えられる。

  • 梅田 夏穂, 前田 昭彦, 須山 陽介
    セッションID: F-023
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/01/01
    会議録・要旨集 フリー

    【はじめに】筋非切離小侵襲人工股関節置換術(以下、MIS-THA)により術後早期離床が可能であり、股関節可動域の改善が多く報告されている。そして当院では術後翌日の離床を実施している。今回、両側形成不全性股関節症に対して両側THAを施行した1症例で、活動量の増加に伴い立ち上がり動作時の疼痛が増悪、ADL動作に影響を及ぼした症例を経験し、経過を追う機会を得たのでここに報告する。

    【方法】評価期間は術前、術後1週、術後3週(退院時)とした。評価項目は血液データ(WBC/μl、CRPmg/dl)疼痛(VAS右cm/左cm)、ROM(右°/左°)、MMT (右/左)とした。

    【症例】60代女性。手術では中小殿筋、小外旋筋群温存、前方関節包縫合し脱臼がないことを確認した。

    【倫理的配慮】個人情報を考慮し、計測したデータや画像を使用する同意を書面で得た。

    【結果】評価項目(術前、術後1週、3週)WBC(4720、3970、4010)CRP(-、11.57、0.79) VAS安静時(0/0、0.4/0.4、0.2/0.2)運動時(5.0/5.0、4.7/2.7、1.2/1.2)立ち上がり(0/0、6.0/6.0、0.6/0.6)ROM股関節屈曲(50/60、90/90、100/95)伸展(-10/-10、-、0/0)MMT股関節屈曲(4/4、3/3、5/4)伸展(4/4、-、4/4)。術後1週で歩行器歩行自立、退院時にはフリーハンド歩行自立となった。炎症値の改善に伴い股関節屈曲可動域は増加したが、立ち上がり動作時の疼痛が増悪した。重心移動や体幹・骨盤の協調運動に対し介入し、離臀に伴う前方重心移動量の増加、協調的な伸展相の獲得によって疼痛なく立ち上がり動作が可能となり、術後3週で自宅退院となった。

    【考察】THA術後症例に対し、早期から股関節可動域だけでなく体幹や骨盤の協調性に対して介入していくことで安定したADL動作を獲得し、歩行能力の向上に繋げていくことが必要だと考える。

  • 氷鉋 優輝, 入倉 伸太郎, 木島 隆
    セッションID: F-024
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/01/01
    会議録・要旨集 フリー

    【はじめに】右大腿骨転子部骨折を受傷し,内反転位の固定術施行後,疼痛,右股関節内転-内旋位が著明に見られた症例に介入し,杖歩行自立まで至るが,歩き始めの右大腿内側~膝後面に疼痛が出現した症例を経験したため報告する.

    【症例紹介】80代女性.H30.11.8に自宅で転倒し,受傷. H30.11.12手術(γネイル)施行.H30.12.18当院転院.入院翌日の評価は,ROM(右/左)外転5/15,外旋0/40,内旋5/30で,疼痛による制限を認めた.疼痛は,安静時に受傷部にNRS1,荷重時に右股関節内側~前面にNRS3であった.FIM66点であった.

    【治療方針】右股関節外転-外旋運動時に疼痛を認め,疼痛を回避するため,右股関節内転-内旋位をとっていた .加えて,安静-運動時痛により,大-中-小殿筋出力低下を招き,股関節伸展不全が生じていた.結果,大-長内転筋による右股関節伸展の代償が生じ疼痛が増強したと考えた.そのため,徒手的に大-長内転筋の代償を抑え,大-中小殿筋活動発揮を促すことで動作パターンを修正し,疼痛緩和が図れないかと考えた.治療は,大-長内転筋緊張の調節や,難易度を考慮し,代償が出現しにくい動作練習から行った.尚,治療方針は患者及び家族に書面にて説明し,同意を得た.

    【治療方法-結果】大-長内転筋緊張の調節や,循環改善を目的に背臥位で,相反性抑制を用いた右股関節外転運動や自動介助運動を行った.動作練習は,右股関節外転-外旋位を徒手にて保持し,高座位からの起立や,立位での重心移動,ステップ練習の順に課題を行った.結果,ROMは股関節外転20/30,外旋15/40,内旋40/30,安静時,荷重時の疼痛は消失し,FIM106点,杖歩行自立となった.しかし,新たに右IC~LR時に大腿内側~膝後面にNRS2の疼痛が出現した.

    【考察】症例は,歩き始めに,右膝や足尖部が,内側に向いていないか確認するため,視線を下方に落とし,右股-膝関節は屈曲位となっていた.その状態で歩き出すため,大-長内転筋の過剰な右股関節伸展作用が働くことで,過剰収縮による筋スパズムを招き,右IC~LR時に疼痛が出現したと考える.

  • 斎藤 広志, 小尾 尚貴, 山田 祐子, 竹内 大樹, 兼岩 淳平, 多田 智顕
    セッションID: F-025
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/01/01
    会議録・要旨集 フリー

    【はじめに】超音波検査は体表から触知できない深層を可視化でき、患者へ与える負担が少ない検査法である。 今回肩挙上時に疼痛を訴える肩関節周囲炎患者に対して、理学療法評価に超音波診断装置を用いて機能評価、治療介入を行った症例を経験したので報告する。

    【症例】40代女性。2018年12月更衣動作で受傷し、右肩関節周囲炎と診断。

    【倫理的配慮】ヘルシンキ宣言に沿い発表目的を説明し同意を得た。

    【初期評価】右肩ROM自動屈曲100°他動屈曲160°外転90°であった。整形外科的テストはNeer Test陽性。上腕骨頭の超音波動態評価で、肩関節外転時に肩峰と大結節の衝突を認めた。結帯肢位内旋動作の上腕骨頭前方移動量は左右差を認めなかった。Horizontal Flexion Test 陰性であった。肩甲胸郭機能はElbow Push Test陽性。 MMTは肩甲骨外転・上方回旋3肩甲骨下制・内転3であった。JOAスコア67点であった。

    【理学療法経過】超音波動態評価で肩関節外転時に肩峰と大結節の衝突を認めた。また、結帯肢位内旋動作の上腕骨頭前方移動量は左右差を認めなかった。評価上から肩甲胸郭関節機能障害を認めた。以上評価結果から肩甲胸郭関節機能障害から肩峰下インピンジメントが生じていると判断して、肩甲胸郭関節機能に対し理学療法を実施した。理学療法プログラムは前鋸筋トレーニング、小胸筋ストレッチ、側臥位で肩関節外転運動を実施した。 4週間理学療法を実施し、右肩ROM自動屈曲175°外転170°に改善した。Neer Test陰性、超音波動態評価の肩関節外転時の肩峰と大結節の衝突も消失した。MMTは全項目で改善を認めた。肩挙上時痛消失し、JOAスコア97点と改善した。

    【考察】超音波動態評価から上腕骨頭の動態を可視化することで、肩甲胸郭機能に対しての治療を立案でき、疼痛と可動域が改善したと考える。

  • 御供 茜里, 中川 和昌, 高橋 裕子
    セッションID: F-026
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/01/01
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    【目的】高校陸上選手を対象に足部内側縦アーチの補強として,足部内在筋である母趾外転筋を選択的に鍛えるとされるShort foot exercise(以下,SFE)の効果を検証することを目的とした。

    【方法】A高校陸上部に所属する健常高校生を対象として,介入群20名,コントロール群22名にランダムで割り当てた。両群ともに足部外在筋トレーニングであるバランスディスクを使用した足関節安定化トレーニングを実施し,加えて介入群は足部内在筋トレーニングであるSFEを実施した。SFEは「母指球を踵に近づけるように」と指示を出し5秒間の収縮と3秒間の弛緩を両側5分ずつ繰り返す運動を検者監視下で実施した。介入は週3回,4 週間実施し,介入前後に非荷重位及び荷重位アーチ高率,Navicular Drop(以下,ND),modified Star Excursion Balance Test(以下,mSEBT)を測定した。介入前後における各測定結果を群間及び群内で比較・検討し,アーチ高率とmSEBTの結果の相関関係を検証した。

    【倫理的配慮】全被検者及び関係者に研究の趣旨と内容を説明し書面にて同意を得た(高崎健康福祉大学倫理審査委員会第2966号)。

    【結果】介入後,両群とも荷重位・非荷重位での左側アーチ高率は低値を示した。介入後の結果で,介入群の方が荷重位での右側アーチ高率において高値を示し(介入群13.4±2.6%,コントロール群11.8±2.4%),右側NDにおいて低値を示した(介入群4.8±4.5㎜,コントロール群9.0±3.7㎜)。mSEBTの結果は介入前後でほぼ全方向で有意な改善を認めたが,アーチ高率とは相関関係を認めなかった。

    【考察】SFEは陸上競技選手におけるアーチの補強トレーニングに有用である可能性が示唆された。今後はトレーニング強度の調整,障害予防への影響を検証する必要がある。

  • 奥山 直己, 伊東 優多, 井上 彰
    セッションID: F-027
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/01/01
    会議録・要旨集 フリー

    【目的】オーバーヘッドアスリートにおけるTOSは稀な病態ではないが、多彩な症状を呈するため診断が困難である。TOSはリハビリテーションなどの保存療法が第一選択であるが、罹病期間が長ければ長いほど手術成績は劣ることが報告されているため、早期発見・治療が望ましい。一般的にTOSの診断に徒手検査が行われるが、偽陽性率が高いことが報告されている。高校野球選手におけるTOS検診の報告は散見されるが、問診や徒手検査のみの評価である。我々は野球選手に対するメディカルチェック(MC)を超音波検査機器を用いて斜角筋三角底辺間距離、腋窩動脈血流速度を評価している。今回、MCの調査結果を報告する。

    【方法】対象は中学野球選手111名とした。理学所見はRoos、Wright、Morleyの各誘発テスト、問診は肘肩痛の有無、エコー評価は腋窩動脈1st partの血流速度(上肢下垂位、ABER位、挙上位)、斜角筋三角底辺間距離とした。現在肘肩痛を有し、Roos testが60秒以上継続不可、wright testが陽性、腋窩動脈血流速度がABER・挙上位いずれかで途絶、斜角筋三角底辺間距離8mm以下の5つの項目全て当てはまる者をTOS疑いとして受診を促した。

    【結果】肩肘痛を有していた者は4名(3.6%)、Roos test 陽性者は21名(18.9%)、Wright test陽性者は16名(14.4%)であった。腋窩動脈血流速度が0cm/secとなった選手はABER位で4名(3.6%)、挙上位で11名(9.9%)であった。 斜角筋三角底辺間距離8mm以下は48名(43.3%)であった。5つの項目に当てはまる者は111名中2名(1.8%)でありTOSが疑われ受診を促した。1名は保存加療にて競技復帰し1名は手術を要した。

    【結論】中学生野球選手のTOS有症率は1.8%であり、エコー評価が有用であった。今後はTOS検診においてTOS発症を予測できるか前向きに調査を行う必要がある。

  • 猪熊 風斗, 浅川 大地, 茂木 成介, 入内島 崇紀
    セッションID: F-029
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/01/01
    会議録・要旨集 フリー

    【目的】人工膝関節全置換術(以下、TKA)は、変形性膝関節症における歩行時痛の緩和に有効とされている。 TKA施行により、疼痛の軽減が報告されている一方で歩行時痛が慢性化することも報告されている。本研究の目的は、TKA施行後の歩行時痛に関連する身体機能の要因を探ることである。

    【方法】対象は当院にて片側TKAを施行した31例(男性6名、女性25名、年齢74.6±8.7歳)とした。また、術前から歩行時痛を伴わなかった者は除外した。検討項目は、歩行時痛、膝関節伸展・屈曲可動域、膝関節伸展・屈曲筋力とし、測定時期は術前と術後3 ヶ月とした。歩行時痛はVisual Analogue Scaleにて評価を行った。膝関節筋力はHand Held Dynamometer(ANIMA社 μ-TasF1)を用いて端坐位膝関節90°屈曲位での最大等尺性筋力を測定し、体重比(kgf/kg)を算出した。統計学的解析はPearsonの相関係数を用い、各項目の相関関係を検討した。有意水準は5%とした。

    【倫理的配慮】対象者全員に対して,測定前に対象者の有する権利,データの取り扱いについて口頭にて十分な説明を行い,同意を得た。

    【結果】歩行時痛は術前3.77±2.36、術後0.91±2.03であった。膝関節可動域は屈曲で術前127.14±11.41、術後127.29±6.58、伸展で術前-8.21±7.22、術後で-1.5±1.5であった。膝関節筋力は屈曲で術前0.17±0.04、術後0.29 ±0.07、伸展で術前0.35±0.12、術後0.28±0.07であった。 術後3 ヶ月の歩行時痛と膝関節伸展可動域に相関関係を認めた(r=-0.51、p<0.01)。

    【考察】TKA後における膝関節伸展可動域の経過が歩行時痛の経過に影響している事が考えられる。膝関節伸展制限により伸展モーメントが低下し、膝関節伸展筋への負荷が増強されるためと考える。今後、疼痛発生部位の聴取より詳細な検討が必要と考える。

    【まとめ】TKA後3 ヶ月の歩行時痛は膝伸展可動域との関係性が認められ、関節可動域の改善が歩行時痛の軽減に寄与する可能性が示唆された。

  • 綿貫 大佑
    セッションID: F-030
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/01/01
    会議録・要旨集 フリー

    【目的】TKA後患者の理学療法介入において,術前から退院時の予測を行うことは入院中の介入の一助になると考える.本研究の目的は退院時の歩行能力に影響する術前因子を検討することとした.

    【方法】当院で膝OAに対し,TKAを施行した132名(男性:35名,女性:97名,平均年齢:72.5±6.9歳)を対象とした.OA以外の疾患や再置換例は除外した.理学所見は術前と退院時に歩行能力として歩行速度(m/sec)を測定し,その他に膝関節屈曲・伸展可動域,膝関節屈曲・伸展筋力,歩行時痛(NRS),5回立ち座りテスト (FTSS),タンデム立位時間(秒)を測定した.統計解析は,退院時の歩行速度と術前の理学所見との関係性をスピアマンの順位相関係数を用いて分析した.また,退院時の歩行速度を従属変数とし,相関関係のあった術前の項目を独立変数として重回帰分析を行った.統計処理はR2.8.1を使用し,有意水準は5%とした.

    【倫理的配慮】対象者には研究内容を書面と口頭で十分に説明し,同意を得た.

    【結果】退院時の歩行速度と術前の膝伸展可動域,膝屈曲・伸展筋力,歩行速度,タンデム立位時間に正の相関がみられ,FTSSと歩行時痛には負の相関がみられた.重回帰分析の結果,タンデム立位時間(p<0.01,R=0.27,R2=0.14),膝伸展可動域(p<0.01,R=0.25,R2=0.14)が抽出された.

    【考察】歩行速度はバランス機能に影響されるため,本研究においても術前のバランス能力の低下が術後の歩行速度に影響したと考える.また,膝屈曲拘縮は膝伸展筋の筋出力が低下することから,伸展制限により歩行時の筋出力に影響し,歩行速度が低下したと考える.

    【まとめ】術前の伸展可動域の低下とバランス能力が低下している者は,退院時の歩行速度が遅いことが示唆された.

  • 赤城 仁奈, 平野 正仁, 前島 寛和, 廣澤 全紀, 辰巳 祐理, 永井 碧, 高城 翔太, 金川 直樹, 田上 慶, 四宮 美穂
    セッションID: F-031
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/01/01
    会議録・要旨集 フリー

    【はじめに】今回左片麻痺を呈し,歩行効率の改善を目的にGait Solution(以下GS)を使用した症例を経験した.GSを選定し退院までのロッカーファンクションに着目した治療介入について報告する.発表に際し,症例にはヘルシンキ宣言に基づき同意を得た.

    【症例紹介】60代男性.病前ADL自立.診断名:右内包後脚脳梗塞.経過:発症から25病日後に当院に入院.80病日後にGSを処方.

    【理学療法評価】初期(80病日)BRS:Ⅲ-Ⅲ-Ⅳ.関節可動域:左足関節背屈5°両股関節伸展10°.MAS:左下腿三頭筋1.MMT:左股関節伸展・足底屈3,その他左下肢粗大筋4,右下肢粗大筋5,体幹3.BBS:49/56.歩行は屋内自立レベル,屋外見守りレベル.最終(130病日)BRS:Ⅳ-Ⅲ -Ⅳ〜Ⅴ.関節可動域:左足関節背屈5°両股関節伸展10°.MAS:左下腿三頭筋1.MMT:左股関節伸展・足底屈4,その他左下肢粗大筋4+,右下肢粗大筋5,体幹4. BBS:53/56.歩行は屋外自立レベル.

    【経過・介入】本症例はGSを使用することによって円滑なロッカーファンクションが可能になると考えた.しかし,歩行観察では麻痺側IC 〜LRにかけて体幹伸展,膝屈曲位が認められ,後方重心によりヒールロッカーを引き出すことが困難であった.その原因として麻痺側肩甲帯〜腹筋群の低緊張および腰背部の過緊張,麻痺側殿筋群の筋出力の低下による重心位置の下降や,非麻痺側Tstにおける前足部への荷重の移行の低下を挙げ,改善を目的に介入を行った.

    【考察】麻痺側肩甲帯〜腹筋群の筋出力の向上,腰背部の過緊張が軽減したことにより,体幹伸展が改善し麻痺側ICに踵への荷重が促された.一方で,非麻痺側Tstにおける前足部への荷重により前方への重心移動が容易となった.麻痺側LRにかけては,殿筋群の筋出力向上により重心位置を高く保つことが可能となった.結果,ヒールロッカーが促され,その後のロッカーファンクションに連動,フォアフットロッカーによる推進力向上に繋がったと考える.本症例は効率的な歩行の獲得により屋外長距離歩行自立レベルに至った.

  • 小野 佑介
    セッションID: F-032
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/01/01
    会議録・要旨集 フリー

    【はじめに】右頭頂後頭葉出血を発症し左半側空間無視・歩行不安定性を呈した症例を担当した.頭頂葉の問題による姿勢定位障害を呈した例には残存している機能を生かすことが重要であるとの報告から,障害されていない体性感覚を用いた理学療法プログラムを立案し介入させて頂いたため報告する.

    【症例紹介】80歳代男性.右利き.病前ADL自立.自宅で倒れているところを発見され,救急搬送.右頭頂後頭葉出血の診断となり,開頭血腫除去術施行.第24病日に当院へ転院.頭部CT画像では上縦束Ⅱ、島皮質,下頭頂小葉,視覚野の障害が予想された.

    【説明と同意】対象症例とそのご家族に趣旨を説明し同意を得た.

    【評価】第24病日時点10m歩行試験(独歩)15.36sec,Timed up &amp; Go test(以下:TUG)左回り方向転換困難,Functional balance scale(以下:FBS)36/56. 歩行での左ICはつま先接地.左立脚期短縮.左へ方向転換ができず身体を回す介助が必要.線分抹消試験9/36,線分二等分試験1/9,模写試験0/2,描画試験0/1.

    【治療アプローチ】左踵接地の促し,左下肢へのタッピング,重錘負荷,Honda歩行アシストを用いた感覚入力をしながらの歩行訓練,左への方向転換訓練を実施した.

    【結果】第88病日時点10歩行試験(独歩)8.65sec,TUG 左回り16.1sec(声かけ),FBS50/56.左ICつま先接地と立脚期短縮は改善.左への方向転換は声かけにより可能.線分抹消試験16/36,線分二等分試験1/9,模写試験0/2,描画試験0/1.

    【考察】歩行での左つま先接地,左立脚期短縮,不安定性の改善がみられた.本症例のように視覚・前庭感覚の障害により歩行不安定性を呈した場合,体性感覚情報を用いた訓練が有効である可能性がある.また半側空間無視の机上検査の改善は乏しいが,左への方向転換の改善を認めた.半側空間無視に対する無意識的な働きかけである体性感覚入力により,屋内での応用的な歩行の獲得が期待できる.

  • 山本 真生, 飯田 健治
    セッションID: F-033
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/01/01
    会議録・要旨集 フリー

    【はじめに】脳卒中後の歩行再建に際し,下肢装具の使用が推奨される.この下肢装具による高頻度な歩行訓練の実現には,対象者の体格に適した装具が望ましいとも言われる.今回重度片麻痺患者に対し,本人用の長下肢装具を使用した積極的な歩行訓練を実施し,歩行での在宅復帰に至ったため報告する.

    【倫理的配慮】ヘルシンキ宣言に基づき発表に際して十分な説明を行い,書面にて同意を得た.

    【症例紹介】左内包後脚に脳出血を発症した60歳代女性.自転車走行中に発症し急性期病院に入院,第18病日に当院回復期病棟へ転院.病前ADLは屋内外自立,賃貸アパート1階に夫・息子と在住.本人より歩行での在宅復帰の希望があった.

    【経過】初期評価では右のBrunnstrom recovery stage (BRS)はⅠ-Ⅰ-Ⅱ,SIAS運動項目(SIAS-m)にて0-0,0-0-0,表在・深部覚ともに軽度鈍麻であった.筋緊張は脊柱起立筋・左下腿三頭筋で高緊張,腹直筋・腹斜筋・前脛骨筋で低緊張を認めた.FIMは74点であった.歩行は金属支柱付短下肢装具(AFO)と二―ブレースを使用し後方中介助で行っていたが,本人用の長下肢装具(KAFO)を作製方向となった.抗重力位での活動向上を目的に立位訓練およびステップ訓練,KAFOを使用した2動作前型での積極的な歩行訓練を主に実施した.経過を見てAFOへのカットダウンも行い,股関節伸展筋の賦活,側方への重心移動に対して介入した.最終評価は右下腿三頭筋が亢進するも,BRSはⅢ-Ⅱ-Ⅲ,SIAS-m は2-1A,1-2-1となった.FIMは111点となった.歩行は反張膝が残存するもT字杖とAFOを使用し自力で歩行可能なレベルとなり,第138病日に独歩にて在宅退院に至った.

    【考察】本症例はKAFOを使用して高頻度な2動作前型での歩行訓練や,荷重下での機能訓練を重点的に行ったことでカットダウンに至った.AFO使用下では股関節伸展筋の賦活,円滑な重心移動の促通を重点的に行った.これにより,本症例は独歩にて在宅復帰に至ったと考える.

  • 武藤 真優子, 林 弘康, 青木 賢宏, 岩田 千惠子, 西谷 拓也, 千田 彩奈
    セッションID: F-034
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/01/01
    会議録・要旨集 フリー

    【はじめに】脳梗塞再発により両片麻痺を呈し,糖尿病性神経障害や廃用による筋力低下などを有した症例に対し,装具療法を行い歩行能力の向上を認めた症例を経験したので報告する.

    【倫理的配慮】今回の報告に際し対象者へ説明し同意を 得た.

    【症例紹介】60歳代後半の肥満体型男性.2018年3月に右視床出血性梗塞と診断され発症から21日目に当院に入院した.既往に陳旧性脳出血(左橋部と左中心前回の下肢領域)及び糖尿病があり病前は屋内伝い歩き,屋外シルバーカー歩行だった.BRSは右Ⅴ-Ⅴ-Ⅳ左Ⅴ-Ⅴ-Ⅴ,感覚は表在深部共に鈍麻で四肢末端及び下肢に強く左右対称,協調性は両上下肢に測定-変換運動(特に左上下肢)と体幹に共同収縮障害,筋力は両下肢・体幹は重度低下,歩行は両側に膝折れがみられ全介助レベルだった.

    【経過】介入当初は右下肢に長下肢装具(以下KAFO),左下肢に短下肢装具(以下AFO)と大腿部に弾性包帯を使用して片脚立位や横歩き練習,平行棒内歩行練習を行った.2 ヶ月目に弾性包帯は使用せず歩行器に変更した.3 ヶ月目に右下肢のKAFOをAFOに変更,4 ヶ月目に右AFOのみで歩行器歩行が可能になった.

    【結果】練習を開始して2 ヶ月目に左下肢の筋力及び運動失調の改善がみられ始め,加えて3 ヶ月目に両股関節周囲筋・体幹の筋力及び体幹の共同収縮障害の改善が徐々に認められるようになった.その後,5 ヶ月目に歩行は右AFOと歩行器で屋内移動が自立した.

    【考察】開始時は立位において両股関節周囲筋・体幹筋の筋収縮が弱く,膝折れがみられていた.阿部らは重度片麻痺例の場合,等尺性及び等運動性筋力トレーニングのみでは動作レベルの改善に繋がりにくく,歩行時の下肢筋活動の方が最大随意筋活動より高かったと報告している.本症例は両片麻痺で障害像が複雑なため,荷重位で適切な筋収縮を得るために装具の使用を選択した.歩行が自立したことから,問題点に適した装具を使用した練習が股関節周囲や体幹の機能向上に有効なことが分かった.

  • 千田 彩奈, 林 弘康, 青木 賢宏, 岩田 千恵子, 西谷 拓也, 武藤 真優子
    セッションID: F-035
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/01/01
    会議録・要旨集 フリー

    【はじめに】重度片麻痺でPusher症候群と遷延性意識障害を呈する患者に長下肢装具(以下KAFO)を装着した立位・歩行練習を継続したことで,基本動作・移乗動作機能の向上を認めた.

    【倫理的配慮】今回の報告に際し対象者へ説明し同意を 得た.

    【症例紹介】60歳代前半,肥満体型の女性.今回,右MCA領域の広範な脳梗塞と脳ヘルニアを発症し,術後2 ヶ月で当院に入院した.JCS10,Brs.は左下肢Ⅰ,筋緊張は弛緩,ROMは左上下肢に軽度制限あり.Pusher症候群と左半側空間無視があり,座位は保持不可,移乗動作は2人介助であった.

    【経過】両下肢にKAFOを装着した立位練習から開始した.1 ヶ月目にJCS1となりKAFOは左のみ装着し,平行棒内前腕支持・全介助レベルで歩行練習を開始すると左下肢屈曲パターンが出現した.2 ヶ月目で遷延性意識障害が改善し意識清明となったことでPusher症候群が初期と比べて著明に出現したため,壁へ右体側を寄り掛からせた立ち上がり・立位練習を追加した.その後,Pusher症候群の改善に伴い支持物をサイドケインへ変更した.3 ヶ月目に右下肢への荷重が増え,骨盤挙上による左下肢振り出しが中等度介助レベルで可能となった.5 ヶ月目に中等度介助で30mの歩行が可能となった.退院までの期間,左にKAFOを装着し歩行練習を続けた.

    【結果】Brs.は左下肢Ⅲ,筋緊張は左上下肢に痙性はあるが屈曲パターンは軽減し,MMTが体幹・右上下肢3レベルとなった.基本動作・移乗動作は手すりを使用し左短下肢装具装着で見守りレベル,普通型車椅子一部介助レベルで退院し,在宅リハで歩行練習を継続している.

    【考察】遷延性意識障害のある重度片麻痺患者に介入初期からKAFOを装着し入院期間中に立位・歩行練習を続けたことで,意識障害・Pusher症候群の改善へ繋がったと考える.

    【まとめ】予後予測で歩行困難とされた重度片麻痺患者であっても,適切な装具を選択し練習することで,Pusher症候群・意識障害・異常筋緊張にアプローチでき,心身機能が改善する経験をした.

  • 大金 亜佑美, 来住野 健二, 中山 恭秀
    セッションID: F-036
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/01/01
    会議録・要旨集 フリー

    【はじめに】神経サルコイドーシスは対処療法により症状が緩和し,発症前ADLに回復する例が多いが,本症例は回復に難渋した.症状の一つであった倒立振り子モデル(以下IP)から逸脱した歩容に対しバランス練習を行い改善した為,ここに報告する.

    【症例】40代女性,職業は美容系.X日に右上肢の痺れより発症した.筋力低下が続発し,共に全身に拡大しX +60日に体動困難となり,精査・治療目的に当院に入院した.MRIではC2−C7レベルに高信号域が点在していた.X+68日のPT開始時は両上肢・足趾の痺れ,C4以下の触覚鈍麻,四肢の深部感覚鈍麻・筋力低下がみられ,ADLは全介助レベルであった.

    【経過】X+65日より治療を行い,約2週間後にはキャスター付き歩行器歩行が可能になった.症状は徐々に改善し,院内ADLが自立した為試験外泊を行うも家事動作が困難であったことを契機に鬱症状を呈した.その後鬱症状は改善したが,上肢の痺れが再燃し疼痛へ変化した.歩行は床面では問題なく可能であるように観察できたが,トレッドミル上では,正常歩行に反しステッピング反応様であり,IPから逸脱した歩容であった.改善する為には,支持基底面(以下BOS)に対する足圧中心(以下COP)の運動操作能力を向上させる必要があると考えた.バランス練習を中心に介入を継続した結果,X+97日時点では片脚立位保持中のCOP移動距離の矩形面積が左右平均297.2mm2,歩行時の各立脚期でのCOP移動距離の標準偏差(以下SD)が左右平均27.0mmであったが,X+133日では片脚立位保持中のCOP移動矩形面積が左右平均192.0mm2,歩行時の各立脚期でのCOP移動距離のSDは左右平均18.0mmとなった.

    【考察】トレッドミル歩行の特性として、後方へ移動していくBOSに対して,COPを相対的に前方へ移動させる必要があることが挙げられる.本症例は深部感覚鈍麻がみられていたが,バランス練習を行うことで,この特性に転移できるCOP操作能力を学習できたといえる.

  • 尾添 幸平
    セッションID: F-037
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/01/01
    会議録・要旨集 フリー

    【はじめに】今回、聴神経鞘腫開頭摘出術を施行し、既往歴に水頭症がある症例に対し、歩行時のふらつき・すり足の改善を目的とした理学療法介入を経験し、歩行機能改善を認めたため以下に報告する。

    【方法】対象は、聴神経鞘腫開頭摘出術を施行した60歳代女性である。HOPEは自宅退院し、家事をできるようにであった。感覚障害は陰性。失調症状陰性。両側の大殿筋・中殿筋・腸腰筋・腹筋群のMMTは3。FBSは41点、10m歩行テストは12秒、TUGは24秒であった。座位・立位では骨盤前傾位であり、腰椎前彎が増大されていた。 介入初日の歩容は、右側遊脚期のクリアランスが低下しており、右側MSwからTSwの際に骨盤後傾・腰椎前彎の増強による代償運動により下肢を振り出していた。また、左ICからMstの間でふらつきが生じていた。さらに両側立脚期全体で骨盤の前傾が著明であり、MStからTStにかけて十分な股関節伸展が得られず立脚時間が短縮していた。理学療法では骨盤安定性に着目した筋力増強訓練を実施した。本報告はヘルシンキ宣言に基づき、対象者に口頭にて十分に説明し同意を得た。

    【結果】両側の大殿筋・中殿筋・腸腰筋・腹筋群のMMTは4、FBSは53点、10m歩行テストは8秒、TUGは11秒と機能向上を認めた。また、歩容においても代償運動、右側遊脚期のクリアランス改善、ステップ長の拡大、ふらつきの消失を認めた。

    【考察】殿筋群、腹筋群の筋力改善に伴い、右側のMSw からTSwの代償は消失し、座位・立位姿勢にてみられる腰椎前彎が軽減したと考える。また、Kapandjiらは、立脚初期に主に大殿筋上部繊維が骨盤の安定性に寄与する。立脚中期に股関節が0°付近まで伸展すると中殿筋が主動作筋として作用すると述べており、本症例も殿筋群の筋力改善が見られたことで、骨盤の不安定が改善し、左ICからMstの間でふらつきが消失したと考える。また大殿筋筋力改善により立脚時の骨盤前傾が改善し、ステップ長が改善したと考える。

  • 横山 恵太, 石田 茂靖, 坂井 亮太, 佐藤 祐
    セッションID: F-038
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/01/01
    会議録・要旨集 フリー

    【はじめに】先行研究において、Pushingに対し、視覚フィードバックを利用した介入が推奨されている。しかし、臨床では半側空間無視を併発し、非麻痺側に注意が向くことで身体図式や姿勢制御が阻害されるケースもある。今回、長下肢装具を使用し適切な体性感覚情報入力と視覚情報を制限した中で介入したことでPushingが軽減した症例を経験したので報告する。

    【症例】右被殻出血による左片麻痺を呈した60歳代男性。 発症より18病日経過。Brunnstrom Recovery Stage(以下BRS)Ⅳ−Ⅳ−Ⅴ.表在・深部感覚軽度鈍麻。Scale for Contraversive Pushing(以下SCP):3/6点。Catherine Bergego Scale(以下CBS):27/30点。立位軽介助、歩行は麻痺側へ傾斜し中等度介助。

    【倫理的配慮】ヘルシンキ宣言に基づき対象者の保護には十分に留意し、説明と同意を得た。

    【方法・介入】Pushingの改善に向け、視覚フィードバックを利用した介入を行ったが、半側空間無視の影響もあり、非麻痺側への注意が過剰となり改善は得られなかった。そのため、ついたてを置き視覚情報を制限し長下肢装具を利用した対称的な姿勢の中で練習課題を行った。

    【結果】BRS:Ⅳ−Ⅳ−Ⅵ、感覚障害は左右差なし。 SCP:0/6点、CBS:7/30点。10m歩行テスト8秒/18歩。 対称的な姿勢の獲得により、歩行はフリーハンドにて自立となった。

    【考察】本症例は、Pushingと半側空間無視を併発しており、視覚フィードバックに頼ると非麻痺側からの視覚情報に対し、左半球からの半球間抑制による非麻痺側への注意が助長されてしまうと考えられた。これに対し、長下肢装具を利用し適切な感覚情報を基にした姿勢制御・対称姿勢の実現と視覚情報の制限をすることで非麻痺側への過剰な注意を是正できたと考える。その結果、Pushingは軽減し、歩行自立となった。Pushingの改善に対して、症例によっては視覚フィードバックだけでなく、体性感覚情報にも目を向ける必要性があることが示唆された。

  • 山田 啓介
    セッションID: F-039
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/01/01
    会議録・要旨集 フリー

    【はじめに】今回、左右大脳半球損傷により重度の左半側空間無視(USN)を呈し、評価・治療に難渋した症例を経験した。無視空間へ自ら探索し、条件を段階的に負荷させる課題を実施した経過を報告する。

    【症例】70代女性。左右前頭葉、右後頭葉・側頭葉に脳梗塞発症。第56病日に当院転院。BRSはⅥ-Ⅵ-Ⅵ。行動性無視検査日本版(BIT)では、通常検査22/146、行動検査が3/81点であり、重度USNを認めた。その他の高次脳機能障害として、注意障害、保続、記憶障害などを認めた。また、歩行では左側障害物への接触を認め、介助を要した。Timed up & go Test(TUG)は着座すべき椅子を見つけられず、測定困難だった。FIMは53点。尚、対象者に本報告の主旨について説明し同意を得た。

    【経過】本症例は左空間の情報に対して注意を方向付けることが困難となり、その結果認識可能な右空間にて行為が成立していると推察した。さらに、左同名半盲や注意障害、保続といった症状も左USNを強める要因となっていると考えた。これらに対する治療プログラムとして、輪入れを使用した左方向への探索課題を中心に実施した。輪を入れる対象物を左右前後に設置し順番に入れることで、注意障害や保続の改善も図った。左後方の対象物の数・角度を増やすことで、難易度の調節を行った。

    【結果】4週間の介入後、BITは通常検査38/146、行動検査11/81点となった。TUGは1週後に28.0秒、4週後には12.6秒と改善を認めた。歩行では障害物への接触の頻度が減ったが、未だ接触する場面も見られた。FIMは72点と向上した。

    【考察】重度のUSNを呈した症例に対し左右の空間へ探索課題を実施し、ある程度の改善を認めた。無視空間の対象物を探索することで、視覚情報や触覚といった体性感覚が情報として収集され、空間構造の再学習化がなされたと考える。一方で、注意障害や保続などの影響も大きく、ADL要介助の一要因となっており、多角的なアプローチの必要性を感じた。

  • 横田 大輔
    セッションID: F-040
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/01/01
    会議録・要旨集 フリー

    【はじめに】今回,Contraversive Pushing(Pushing)を呈した右視床出血の患者に対し,前頭連合野へのネットワークを考慮した介入により Pushing が改善し,介助量軽減が図れたため以下に報告する.尚,本報告は本人の同意を得ている.

    【症例紹介】87 歳女性.脳室穿破を伴う右視床出血を発症した.既往歴に右小脳出血があり,要支援 2 の状態であった.

    【初期評価:1 〜6 病日】意識:清明.Stroke Impairment Assessment Set(SIAS):37点(感覚項目 1 点).Brunnstrom recovery stage(BRS):全てⅡ.基本動作:重度介助.Functional Independence Measure(FIM):44 点.Scale for Contraversive Pushing(SCP):6 点.

    【経過】4 病日,歩行に対し恐怖心の訴えがあった.そこで,まずは起立練習や長下肢装具を使用して直立位を促した.立位時は視覚と前庭系を利用し,対称的な姿勢を意識する練習を実施した.一時的に Pushing の改善があり,歩行に対する恐怖心も軽減されたため,長下肢装具を使用した歩行練習へ移行した.その日以降,姿勢改善を図ってから歩行練習を行うようにした.

    【最終評価:35 病日】SIAS:49 点(感覚項目 2 点).BRS:上肢Ⅱ,手指Ⅳ,下肢Ⅳ.基本動作:歩行以外は支持物使用して見守り.FIM:84 点.SCP:0 点.

    【考察】本症例の Pushing が生じた要因として,体性感覚と前庭迷路系,大脳小脳運動回路,皮質橋網様体路の損傷が考えられた.また,歩行に対する恐怖心は,非対称的な姿勢から得られた感覚情報が前頭連合野の機能を混乱させたことにより生じたと考えた.そこで,上記経路の賦活を図るため,長下肢装具を使用して対称的な姿勢を促し,頭頂連合野から前頭連合野へ送られる感覚情報を整理させることを中心に行った.その結果,歩行練習などの動的な課題に対しても恐怖心が軽減し,Pushing 改善や介助量軽減に繋がったと考える.

  • 山口 剛司, 河原 佳希, 遠藤 誠, 小串 健志, 三和 真人
    セッションID: F-041
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/01/01
    会議録・要旨集 フリー

    【目的】脊髄小脳変性症(以下,SCD)患者に対するHybrid Assistive Limb(以下,HAL)の治療効果として歩行機能の改善を示した報告は多い.今回,SCDを既往に有し,大腿骨転子部骨折を呈した症例にHALを使用することで病前より歩行機能の向上が得られたので報告する.

    【症例紹介】60歳代男性.7年前にSCDの診断を受けていた.左大腿骨転子部骨折を受傷後,γnailによる骨接合術施行した.病前歩行はつたい歩き,入院時は歩行器歩行レベル.SARA11点.両側膝蓋腱反射中等度亢進,動作時左鼠径部痛あり.

    【方法】通常のPT訓練に加えてHAL自立支援用両脚タイプを使用し,歩行訓練を実施した.介入は40分/日,2 回/週,8週実施し,期間の前後でSARA,徒手筋力,10m歩行,2分間歩行を測定した.歩容は屈筋優位の振り出しやback kneeを認めていたため,左股関節感度A5,伸展優位,膝関節の最終伸展を-5度に設定した.

    【説明と同意】対象者にはヘルシンキ宣言に基づき,書面にて同意を得て行った.

    【経過】開始1週後から左鼠径部痛の増悪と大腿筋膜張筋部に疼痛がみられ,歩行訓練が困難となったため,股関節アシストを屈曲位に再設定した.結果,鼠径部痛消失と大腿筋膜張筋部疼痛の軽減により,歩行訓練が可能となった.最終評価は初期時と比較して両側膝蓋腱反射は軽度亢進.徒手筋力は右股関節屈曲11.5→17.2kg,右膝関節伸展11→18.2kg,左股関節屈曲5.4→14.1kg,左膝関節伸展7.2→15.4kgと増加した.10m快適歩行は35→32歩,40→19秒.2分間歩行は29.4→56.1mと大幅に改善を示した.しかし,SARAは11→11点と変化はなかったが,歩行はT字杖歩行レベルとなった.

    【考察】HALの介入初期では股関節伸展位のアシストで骨盤前傾を誘導したことで,腸腰筋への侵害刺激が増加して疼痛の増悪を誘発したと考える.アシストを屈曲位に変更し,腸腰筋への侵害刺激が軽減して疼痛軽減に繋がったと考える.HALによって,立脚期から遊脚期への切り替えを繰り返し学習できたことが歩行機能の向上に繋がったものと考える.

  • 望月 佑弥, 小林 宏彰
    セッションID: F-042
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/01/01
    会議録・要旨集 フリー

    【はじめに】大腿骨頸部骨折を呈したパーキンソン病患者に対する理学療法について検討したため報告する。尚、発表に際し本人と家族に口頭と書面にて同意を得た。

    【症例紹介】80歳代女性。2018年11月29日に転倒受傷し、左大腿骨頸部骨折の診断。翌日に人工骨頭置換術施行。 2019年1月7日に当院転院。受傷前より日常生活において、夫の介助有り。既往に糖尿病。

    【初期評価】炎症所見:術創部+。関節可動域(右/左):股屈曲90°/75°、股外転20°/5°、膝伸展−10°/0°、足背屈0°/5°。Manual muscle test(MMT):左股外転2。 Unified Parkinson’s disease rating scale(UPDRS):57 点。立位アライメント:頭部伸展、頸部屈曲、胸椎後弯増強、体幹右側屈、骨盤右回旋・左挙上、右股屈曲・外転・膝屈曲、左股屈曲・内転。Functional assessment for control of trunk(FACT):11点。Functional balance scale(FBS):18点。

    【経過】介入前期は、疾患特有の固縮や、術後軟部組織の柔軟性低下による関節可動域制限に対する理学療法を中心に実施した。しかし、立位アライメント不良が残存し、再評価より体幹機能向上が乏しかった。よって介入後期では、体幹機能に着目した理学療法を中心に実施した。

    【最終評価】炎症所見:術創部−。関節可動域(右/左):股屈曲105°/95°、股外転30°/10°、膝伸展−5°/0°、足背屈5°/10°。MMT:左股外転3。UPDRS:45点。立位アライメント:初期評価と比較して改善。FACT:14点。 FBS:35点。

    【考察】本症例は、双方の疾患の特徴的な姿勢戦略や動作パターンの併発により、体幹機能向上に難渋したが、理学療法の再考により機能改善を果たすことができたと考えた。疾患特有の症状だけに着目せず、評価から適切な問題点の抽出、アプローチが重要であると再認識した。

  • 佐々木 彩乃, 黒澤 美奈子, 堀口 彩, 塚越 正章
    セッションID: F-043
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/01/01
    会議録・要旨集 フリー

    【はじめに】頻回に肺炎を繰り返す脳幹出血後の症例に対し、排痰補助装置を導入し、多職種連携にて気道浄化および離床やポジショニングを行った。その後肺炎なく経過した症例を経験したので報告する。

    【症例】50歳代男性、x年12月右橋出血にて重度四肢麻痺、嚥下障害を認め気管切開術施行、胃瘻造設。リハビリ目的で転院するもその後肺炎を繰り返し病院を転々とする。x+4年3月当院併設のサービス付き高齢者住宅へ入居、酸素投与のみであったが自発呼吸が安定せず換気不全が懸念された為、夜間のみ人工呼吸器導入となる。また気道分泌物、流涎著明で頻回な吸引が必要な状態で本人の拒否が強くみられていた。起居動作は全介助、体幹の支持性および座位の耐久性は著しく低下していた。胸部CT所見では、両下葉背側にて気管支壁の肥厚、右S6 区域に結節陰影を認め、下側肺の肺炎を繰り返していたことが疑われた。尚、ヘルシンキ宣言に基づき、本症例に対し説明を行い同意を得た。

    【介入経過】気道浄化のため排痰補助装置を導入し、週2 回の訪問リハビリに加え、訪問看護にて日常的に排痰を行った。導入1 ヶ月で吸引回数は減少し、その後は医師の指示のもと排痰状況に応じて適宜設定変更を行った。 気道分泌物の減少によりスピーチカニューレにて発語練習が可能となった。多職種が介すカンファレンスでは、離床の重要性を共有したうえで起居および移乗動作の介助方法やポジショニングを指導し臥床時間の短縮を図った。介入から約1年が経過する現在も肺炎なく過ごせている。

    【考察・まとめ】脳血管障害における長期臥床は呼吸器合併症を来たすリスクを高め、さらに嚥下障害を伴う場合は唾液による誤嚥性肺炎を引き起こしADL低下の要因となる。これらの認識を多職種間で共有し、排痰補助装置による気道浄化、離床やポジショニングを行ったことで、肺炎を繰り返す脳幹出血後の症例に対する呼吸器合併症の予防が可能であった。

  • 谷 友太, 平澤 直己, 五十嵐 達也, 宮田 一弘
    セッションID: F-044
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/01/01
    会議録・要旨集 フリー

    【はじめに】近年,転倒と転倒恐怖感との関連が注目されているが,その評価指標は臨床において頻用されていない.転倒恐怖感を持つ超高齢患者に対し動作練習を中心に介入したところ,Modified Falls Efficacy Scale (MFES)の特定の項目が改善したため報告する.

    【説明と同意】本発表はヘルシンキ宣言に基づき,本症例に説明し同意を得た.

    【症例情報】症例は急性心筋梗塞にて入院となり,保存療法を施行した90代男性である.以前はシルバーカー歩行にて買い物をしていたが,約1年前の転倒より活動範囲が敷地内に狭小していた.11病日に昇圧薬が終了し,積極的離床を開始した.24病日時点で膝伸展筋力は9.2/14.7kgf(Rt/Lt),Berg Balance Scale(BBS)は38/56点,Maximum walking speed(MWS)は0.56m/s,Functional Independence Measure(FIM)は88/126点(ポータブルトイレ見守り),MFESは72/140点,改訂長谷川式簡易知能評価スケールは23/30点であった.

    【経過】本症例は超高齢であり,急性心筋梗塞による心機能の低下を考慮し,大きな身体機能の改善は見込めないと予想した.また,MFESの結果を考慮し,病前の日常生活動作(ADL)に合わせた屋内歩行やトイレ動作練習を中心に介入した.32病日に病棟トイレ使用・自室内移動が自立し,ADL自立度が改善した.33病日時点では,膝伸展筋力は12.2/18.8kgf(Rt/Lt),BBSは46点,MWSは0.86m/s,FIMは105点,MFESは65点となった.MFESでは自宅退院後に自立して行う「衣服の着脱を行う」,「椅子に掛ける・椅子から立ち上がる」,「家の中の廊下や畳の上を歩き回る」,「戸棚やタンス・物置のところまで行く」の4項目が大きく改善した.

    【考察】本報告は超高齢患者に対し,動作練習中心に介入することによりMFESの特定の項目やADLが改善した.高齢者における転倒恐怖感の存在は身体活動量が低下するとされており,転倒恐怖感の改善は活動量拡大に影響し,心疾患の再発や筋力低下の予防に繋がると考えられる.

  • 高野 国大, 國谷 伸一, 福田 友, 高木 透, 渡邊 昌宏
    セッションID: F-045
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/01/01
    会議録・要旨集 フリー

    【はじめに】近年,心不全とフレイルは互いに悪影響を及ぼし合うと言われており,心不全患者には早期の適切な介入が重要である.今回,肺炎及び慢性心不全を合併した症例に関し一つの知見を得たので報告する.

    【症例】90歳代男性.診断名:肺炎,慢性心不全.現病歴:発熱,肺炎症状出現し入院.肺炎は軽快したが,フレイル進行及び心機能低下により歩行困難となる.入院15日目よりPT開始となる.心機能:EF25%.NYHA分類Ⅲ度.

    【倫理的配慮】本症例及び家族には発表の趣旨を説明し同意を得た.

    【経過】初期評価:BBS25/56点,FIM61/126点.歩行器歩行軽介助,10m程で呼吸性代償出現,心拍数62回→78 回/分,呼吸数13回→23回/分,Borgスケール13と全身持久性低下を認めた.β遮断薬の内服がなかったため,運動強度はKarvonen法で目標心拍数78回/分(K=0.2)に設定,Borgスケール11から開始した.歩行速度・距離,歩行補助具にて負荷量を調整し目標心拍数97回/分(K=0.5)へと運動負荷を漸増,歩行距離40mを超えた時点で病棟内移動時のADLを変更し活動量を確保,44日目に施設退院となる.退院時BBS39/56点,FIM80/126点.歩行T-cane100m見守り,歩行後心拍数82回/分,呼吸数19回/分,Borgスケール13と全身持久性改善を認めた.

    【考察】心不全患者のフレイル進行はADL低下と短期間での再入院率増加につながると報告されている.本症例も心不全増悪因子を精査した結果,EF低下・肺炎発症によりフレイルが進行し全身持久性が低下したと考えられた.そこで適切な運動負荷を設定し介入したことで全身持久性・ADL改善に繋がったと推察された.今後,高齢人口の増大に伴い心不全患者のフレイル合併症例増加が予測されている.心不全増悪因子の評価感度を高め,最善の負荷量設定と介入が最重要であると示唆された.

  • 石橋 香里, 桂田 功一, 佐々木 健人, 翠川 夕紀, 川嶋 実里, 平野 健大, 鈴木 壽彦, 山田 健治, 木下 一雄, 樋口 謙次
    セッションID: F-046
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/01/01
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    【はじめに】腎臓癌を原発巣とした転移性脊椎腫瘍により対麻痺を呈した症例を経験した。転移性脊椎腫瘍に対する椎体摘出術、二期的固定術および腎臓全摘出術の周術期におけるリスク管理の視点から理学療法を実施した症例について報告する。

    【症例紹介】症例は腎臓癌を原発巣とした転移性脊椎腫瘍により、第7胸椎の病的骨折および胸髄損傷を認め、対麻痺を呈した40歳代男性である。X-10日に下肢の脱力と感覚障害などの神経症状が出現したため、X日に緊急で除圧後方固定術を施行された。X+3日より理学療法が開始され、X+15日に化学療法が開始された。X+44日に胸椎前方固定術を行われ、X+76日に腎臓摘出術を施行され、X+86日にリハビリテーション病院へ転院となった。なお、症例には本発表の意義と目的を口頭にて説明し同意を得た。

    【理学療法経過】転移性脊椎腫瘍により第8胸髄以下の完全対麻痺を認めた。その他の脊椎と臓器への転移を認めず、化学療法開始後も明らかな副作用は認めなかった。 腎臓全摘出前のeGFRは92.9ml/分/1.73m2であり、摘出後には73.5 ml/分/1.73m2となった。残存筋の筋力強化はBorg scale13-15の運動強度で行った。前方固定術前は脊椎の長座位での屈曲方向への負荷を考慮し、長座位での過度な屈曲に配慮しつつ座位バランス練習を重点的に実施した。二期的固定術後にSLRの拡大を図った結果、FIMは73点から89点、SCIMは43点から60点となった。

    【考察】腎摘出術周術期にeGFRが顕著な低下を認めず経過したことから、腎機能への負荷を考慮し設定した運動強度は適切であったと考える。また、二期的固定術を行った骨への負荷を考慮して運動負荷を段階的に変更したことにより、転移性脊椎腫瘍から対麻痺を呈した症例であっても原疾患の管理や脊椎損傷に配慮した動作練習を行うことで、外傷性脊髄損傷と同様にADL能力の向上が期待できると考える。

  • 石井 頌平, 片倉 哲也, 菅原 康介
    セッションID: F-047
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/01/01
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    【はじめに】体重免荷式(Body Weight Support:以下BWS)歩行装置を用いた歩行練習は筋活動の分析など基礎的知見が展開され,脳卒中や脊髄損傷患者など様々な疾患への有効性が示されている.しかし,血管障害に対するBWS歩行練習の効果に関する報告は少ない.今回,術中下肢急性動脈閉塞症(以下AAO)を合併し,術後単麻痺を呈した患者に対してBWS機能付き歩行器使用にて歩行能力改善を認めたため報告する.

    【症例】70代男性.感染性腹部大動脈瘤に対し,stentgraft内挿術施行.入院中に感染瘤伸展による腰椎椎間板炎,圧迫骨折,腸腰筋膿瘍の診断.術翌日より理学療法開始となり,術後10日にて基本動作自立,杖歩行監視となった.しかし,術後21日に感染瘤拡大を認め,Y-graft再置換術施行.術中,左総腸骨動脈にAAOを合併.術後初期評価は左下肢筋力低下(MMT左下肢全般2)を認め,基本動作は中等度介助,歩行困難であった.なお,本発表に際してはヘルシンキ宣言に則り対象者に趣旨等を説明し,紙面にて同意を得た.

    【PT内容および経過】Y-graft再置換術後左下肢筋力低下に加え,腰椎椎間板炎,圧迫骨折による腰痛増悪も認めた.そのため,コルセット着用下での通常リハプログラムに加え,介助歩行実施が困難であったため,BWS 機能付き歩行器使用下での立位,歩行練習を実施した.徐々に免荷量を漸減し,歩行介助量軽減を目指したところ,術後20日目に免荷不要,歩行器歩行実施が可能となった.術後30日の最終評価はMMT左股関節周囲筋3,その他左下肢4.基本動作は軽介助,歩行は歩行器使用し監視で連続50m可能となった.

    【まとめ】BWS歩行装置活用における歩行能力の改善は、脳卒中や脊髄損傷患者の報告が主だが,本症例のようなAAO患者へも有用な可能性がある.通常の筋力強化練習に対して,負荷量,アライメントの設定が細かく行える点,反復した同一刺激を動作練習を通して実施できる点などが他疾患での報告同様,歩行能力の改善へ繋がったと考える.

  • 中村 誠寿, 丸毛 達也
    セッションID: F-048
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/01/01
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    【目的】血液透析(以下:HD)患者は活動量低下に伴い骨格筋量が減少すると報告されている。筋骨格量減少を予防する方法の中に分岐酸アミノ酸(以下:BCAA)製剤があり,これは腎臓に最小限の負荷で筋骨格量の促進を促し,蛋白異化を抑制するものとして注目されている.今回,40年間HDを継続している方の大腿骨頸部骨折術後の患者を担当する機会を得た.術後炎症とHDによる慢性炎症にて身体機能低下が懸念される中,術翌日からリハビリ介入し,良好な成績を得たためここに報告する。

    【方法】対象者は60歳代女性.左大腿骨頸部骨折の診断にて当院で人工骨頭置換術(以下:BHP)を施行した方.既往には慢性腎臓病,HD(40年間)がある。 術後の評価項目は,患部NRS,Hand Held Dinamomator(以下:HHD)を使用しての膝伸展筋力・股関節外転筋力の測定,TUG,体重とした.評価期間は,術前(2019/2/18),術後1週目(2/26) 2週目,退院時(3/7)とした。 対象者にはCKCエクササイズを中心に,歩行練習等も実施した。個別リハビリ終了後に1日1パックのBCAA含有ゼリーを摂取した.

    【倫理的配慮】対象者に書面・口頭にて説明・同意を得た。

    【結果】NRSは術後1週間に0に減少.股関節外転筋力は術後1週目で患側で0.9kgf,4週目の退院時に3.5kgfまで上昇,膝伸展筋力は術後1週目で6.4kgf退院時は9.1kgfと上昇した.TUGは24.37秒から 23.86秒と改善.体重は入院時,40.5kgで退院時も変化はみられなかった.

    【考察】リハビリ直後から筋破壊や蛋白異化は始まるが,運動直後〜運動後の2時間は蛋白質の経口摂取により筋蛋白合成が促進されている状態である.中でもBCAAは腸管での吸収が蛋白質と比較し早く,30分程度にて血中の濃度がピークに達すると言われている.そのためリハビリ直後の摂取により蛋白異化が最小限に抑制できたと考える.

    【まとめ】今回の結果から,BCAA含有ゼリーのリハビリ後の摂取が筋骨格量の維持の一助になったと考える.

  • 川浪 紗矢香
    セッションID: F-049
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/01/01
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    【はじめに】今回症例に対し、運動耐容能に着目した理学療法介入を施行した。買い物のための歩行自立獲得に成功した症例を経験したため、その介入方法と効果を報告する。

    【対象】80歳代女性。肺炎、慢性心不全急性増悪にてA 病院へ入院し、リハビリテーション目的で当院へ転院。 既往歴に心房細動、高血圧症、肺炎、甲状腺機能低下症等がある。買い物は自宅から100m離れたコンビニを利用予定で、途中40m程緩やかな坂道がある。病前は日中室内生活が中心。

    【方法】トークテストにて有酸素運動の可否を判断し身体活動能力質問表にて最小運動量を把握後、4点杖歩行での有酸素運動を週7回、低強度レジスタンス運動を週3 回行った。運動強度はBorgスケール11 〜13、目標心拍数は約130拍/分とした。有酸素運動と低強度レジスタンス運動の時間は合計1日30分×3回とし、2か月半実施。

    【倫理的配慮】症例報告に際し、ヘルシンキ宣言に則り、御本人・御家族に説明し同意を得ている。

    【結果】6分間歩行テストは4点杖歩行にて20m軽介助中断から連続260mへ、脈拍の安定化やリカバリータイムの短縮を認めた。体組成計にて骨格筋・平滑筋・体水分を含む筋量は32.8kgから35.85kgへ、筋力は股関節内転筋群を除きMMT4レベル以上となった。シルバーカー歩行は平地連続360m自立、緩やかな坂道歩行自立に至った。

    【考察】運動療法による末梢効果にて酸素供給能が改善、心血管系の負荷が低下したことで全身の疲労感軽減に繋がり、大筋群を中心とした骨格筋量、筋力、筋持久力の向上が運動耐容能改善に関与したと考える。

    【おわりに】買い物手段獲得の他、御本人・御家族間で交換ノートを作成し、食品の塩分量や血圧、体重を御本人が、水分摂取量や服薬状況を御家族が記載しお互いに確認して頂くこととした。食事と運動療法に加え家族を含めた教育指導を行い、心不全を悪化させない生活習慣を身に着けて頂くことが本人のQOLを守る上で重要だと感じた。

  • 坂本 湧希, 奥山 和紀, 星野 翔子
    セッションID: F-050
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/01/01
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    【はじめに】一般に重症患者の早期離床は身体機能や基本動作の改善に有効とされているが,全身管理が優先される場合には早期離床や運動療法は禁忌とされる.今回,穿孔性腹膜炎を契機に敗血症性ショックに至った症例に対して,生理学的根拠および先行研究を基に理学療法を行った結果,有害事象なく自宅退院へ至ったため報告する.

    【症例紹介】80歳代女性.診断名は下行結腸穿孔,合併症は穿孔性腹膜炎に伴う敗血症性ショック,既往歴はリウマチ性関節炎であった.病前ADLは娘との二人と暮らしで自立していた.尚,発表に際し本人,家族に同意を得た.

    【経過および治療内容】当院入院後,下行結腸穿孔に対し同日に緊急でハルトマン術を施行し翌日(POD1)から理学療法依頼があった.術後は人工呼吸器による呼吸管理,右鼠径部からバスキュラーカテーテルを留置して持続的血液濾過透析(CHDF)を開始し,エンドトキシン吸着療法(PMX-DHP)をPOD2まで施行した.POD1 はノルアドレナリン(NAD)0.25γの投与下で,平均動脈圧(MAP)57mmHgであったため,未介入とした.POD2はNAD0.12γの投与下でMAP80mmHg台であり,体位ドレナージやギャッチアップ,ROMexを実施した.POD3に抜管,POD5にCHDFが終了し,ICU退室となった.POD5から座位訓練開始,その後から徐々に運動療法を実施した.POD20で病棟ADL自立となり,POD40 で自宅退院となった.

    【結果】理学療法介入にて有害事象なく自宅退院となり,退院時Barthel indexは90点(減点項目:排便‐10点),10m歩行は18.65sec/26steps,6分間歩行は235mであった.

    【考察】本症例は敗血症による血液分布異常性ショックと術後侵襲により循環血液量が減少し,術後数日は急性循環不全を生じており,循環血液量減少性ショックを呈していた.そのため,POD1は臓器還流量の維持が優先される必要があると考えられた.POD2に関して,MAP は増加傾向だったがNADは0.1γ以上投与されており,先行研究では座位は除外基準であり,ベッド上までの介入とする必要があったと考えた.

  • 熊本 舞
    セッションID: F-051
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/01/01
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    【はじめに】左肺炎により無気肺を呈した症例に対して呼吸リハビリを行うも、換気改善に難渋した症例を経験したため報告する。

    【症例】80代男性。近医にて肺炎と診断され抗菌剤の処方を受け帰宅した。その後も倦怠感・咳嗽・息苦しさが改善せず、当院に入院した。入院時O21ℓ/分鼻カヌラにてSpO297%であった。既往歴:肺結核・肺気腫 喫煙歴:20本×60年

    【倫理的配慮】書面と口頭にて説明し同意を得た。

    【経過と介入】左肺野は全体的に呼吸音が減弱し、下葉側面は水泡音、下葉背面に気管支呼吸音化を認めた。排痰目的にて発病4病日より呼吸リハビリの介入を開始した。CRPは15mg/dlと高値で、倦怠感が強く、食事とリハビリ時以外は臥床していた。20病日に肺結核の疑いにて隔離され、リハビリも介入中止となった。27病日に肺結核は否定され隔離解除、リハビリ再開となった。CRP は3.8mg/dlまで低下したが、左下葉の無気肺が出現した。 左下葉の気管支呼吸音化領域の拡大、動作時のSpO2低下を認め、ADLはさらに低下した。リハビリでは換気改善を目的に様々な体位での呼吸介助、胸郭のリラクゼーション、離床を図った。リハビリ介入直後においては捗々しい改善はみられなかったが、リハビリを長期に継続することにより41病日以降、日中の離床時間は拡大し、無気肺の軽減に至った。

    【考察】1週間の隔離中にリハビリ介入が行えなったことにより、元々低かった活動量がさらに低下した。肺気腫に肺炎を合併したことで気道クリアランスは著しく低下した。そのため呼吸介助や深呼吸により生じる圧力ではcritical opening pressureを作り出すことが出来ず、痰の移動が不十分となった。これらの要因により換気改善に難渋したが、栄養投与とともに長期間リハビリを行ったことにより、換気改善に至った。

  • 芳賀 直人, 大髙 愛子, 野口 真実, 岡道 綾, 中山 恭秀
    セッションID: F-052
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/01/01
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    【はじめに】脊髄損傷の呼吸理学療法では呼吸練習器具を用いた方法が推奨されているが、気管切開症例は適応が限られる。今回、気管切開後に座位での酸素化不良を呈した頸髄損傷症例に対して横隔膜機能と胸郭可動性の向上を図り離床を進める事が可能となったため報告する。

    【症例紹介】症例は70代男性で転倒によりC6椎体骨折・頚髄損傷を受傷し同日に頸椎後方除圧・固定術が施行された。術後早期に無気肺を認め、術後4日に気管切開し術後5日よりADL向上目的に理学療法を開始した。SpO2 は酸素8L投与で99%であり意思疎通はClosed Question で可能であった。改良Frankel分類はB3、ADLは全介助であった。

    【経過】無気肺は早期に改善し術後35日に酸素投与が不要となったが、座位にて呼吸数が30回/分、SpO2が88%、呼吸苦がBorg scale17となり車椅子乗車は困難であった。浅速呼吸による呼吸仕事量増加で酸素化不良が生じたと考え評価を追加した。胸郭拡張差は腋窩部で0cm、剣状突起・第10肋骨部で1cmであり腹部隆起力は10RM 1kg、横隔膜肥厚率は14%であった。以上より横隔膜機能と胸郭可動性の低下を問題と捉え胸郭モビライゼーションと肋間筋ストレッチ、腹部重錘負荷を追加した。術後55日に改良Frankel分類は右C1、左C2となり胸郭拡張差は第10肋骨部で1.7cm、腹部隆起力は10RM 1.75kg、横隔膜肥厚率は84%と向上した。座位での呼吸数は22回/分、SpO2は98%、呼吸苦はBorg scale14となり車椅子乗車が可能となった。

    【考察】本症例は呼吸機能向上を認めた。そのため、呼吸練習器具を用いない呼吸理学療法においても効果がある可能性が示唆された。横隔膜筋厚は%VCと、腹部隆起力はMIPと相関する。また、第10肋骨部の胸郭拡張差はzone of appositionや横隔膜収縮効率と関連し呼吸困難感や肺活量に関与する。本症例は横隔膜機能と胸郭可動性が向上した事により、肺活量・吸気筋力が増大し座位での酸素化不良が改善したと考える。

  • 稲田 恭平, 小沼 亮太, 倉持 貴樹, 細井 直人, 近藤 健, 近藤 由実
    セッションID: F-053
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/01/01
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    【目的】通所リハビリテーション(以下,リハ)では,平成30年度介護報酬改定にてリハマネジメント加算Ⅲ(以下,リハマネ加算Ⅲ)が新設され,医師が利用者又はその家族に,リハ計画の内容についてリハ会議等で説明し同意を得る事が要件として加えられた.当通所リハ(定員47名,リハ専門医の専任医1名)では全利用者にこの加算を算定しており,算定以前より医師のリハ会議への参加が求められている.今回は,当通所リハにおける加算算定前後のリハ会議への医師を含む構成員の参加状況を比較する事を目的とした.

    【方法】対象は平成29,30年度に実施したリハ会議1053 件とした.リハマネ加算Ⅲ算定前の平成29年度実施会議を算定前群,平成30年度実施会議を算定後群とし,群間のリハ会議の構成員数,構成員毎の参加率を比較した.解析は,Mann-WhitneyのU検定,カイ2乗検定を用い,有意水準は5%未満とした.本研究はヘルシンキ宣言に基づき,当法人理事長の許可を得て実施した.

    【結果】算定前群543件,算定後群510件であった.平均参加者数は算定前群4.55名,算定後群4.52名で有意差はなかった.構成員毎の参加率(算定前群,算定後群)は,医師(31.5%,54.5%)が算定後に有意に増加(p<0.01),ケアマネージャー(88.0%,84.9%),家族(60.6%,58.0%)の参加率は算定前後で有意差はなかった.

    【考察】リハマネ加算Ⅲ算定後のリハ会議では医師の参加率が増加していた.医師のリハ会議への参加は,リハ計画や医学的管理を利用者やその家族に説明する上でも有用であると考えるが,負担も大きい.今後もこの加算を算定するには医師の協力が必要であるため、負担を最小限に留めなければならない.そのため,個々のリハ会議を円滑に進めるために担当リハ専門職が綿密な事前準備を行う事が重要である.また,医師の参加率増加に向けたリハ会議開催の調整業務はリハ専門職の負担が大きく,より効率的な調整方法の確立が必要となる.

  • 金谷 望夢, 太田 颯, 米本 竜馬
    セッションID: F-054
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/01/01
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    【目的】本研究では呼吸条件の違いが重心動揺に与える影響について比較,検討した.臨床場面においてドローイン練習の際,腹式呼吸を用いて動作の安定性,アライメント修正などにアプローチする理学療法はよく行われている.先行研究において体幹筋と重心動揺,体幹筋と呼吸の関係性を示した報告はいくつか散見される.しかし呼吸と重心動揺についての報告を見つけることは出来なかった.そこで本研究では腹式呼吸を行うことが重心動揺にどのような影響を与えるかを明らかにすることを目的とした.

    【方法】実験参加者はヘルシンキ宣言に基づき研究の主旨を十分に説明した健常成人26名(男性13名,女性13名,21.3±3.1歳)とした.参加者はベッド上背臥位にて各呼吸条件(腹式呼吸,胸式呼吸)で5分間の呼吸を行った.呼吸の前後に重心動揺計で右片脚立位にて重心動揺(総軌跡長,単位軌跡長,外周面積,矩形面積,単位面積軌跡長,実効値面積)を測定した.参加者は呼吸練習を行い,体幹3か所(内腹斜筋,外腹斜筋,複合部)に貼られた表面筋電図にて筋活動を測定した.腹式呼吸条件は筋電図にて筋活動が認められ,積分値にて胸式呼吸条件と比較して有意に筋活動が高かったもので吸気4秒,呼気8秒で行った.胸式呼吸条件は腹式呼吸条件と比較して有意に筋活動の低かったもので吸気1秒,呼気2秒とした.参加者は両条件をランダムに1週間以上の期間を空けて実施した.統計解析は重心動揺値6項目について,測定タイミングと呼吸条件の2元配置分散分析の後,多重比較を行った.

    【結果】総軌跡長,単位軌跡長において腹式呼吸条件前と腹式呼吸条件後に有意差が認められた.その他の値に有意差は認められなかった.

    【考察】外周面積などに有意差はなかったことから,一定の面積内での姿勢制御を行ったと考えられる.一方,総軌跡長は小さくなった.このことからゆっくりとした姿勢制御をできるようになったと考える.

  • 熊谷 有紗, 茂木 那奈美, 渡邉 遥香, 多田 菊代
    セッションID: F-055
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/01/01
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    【目的】血液透析(以下HD)患者における運動療法や腎臓リハビリテーションの効果は周知のところである.他方,慢性疾患患者への,身体活動・運動行動に関連した行動変容を促す支援の方法や有効性について様々な報告がなされている.本研究の目的は,理学療法士におけるHD患者の運動に関連した行動変容を促す支援の考えや実態について,アンケート調査を行い把握することである.

    【対象および方法】群馬医療福祉大学研究倫理審査会の承認を得て実施した(承認番号:17B-14).群馬県内の透析施設でリハビリテーション科を有する医療機関26施設を対象とし,理学療法部門長に,2018年4月中旬に各施設へ無記名自記式質問紙を郵送した.質問項目は,HD患者の理学療法実施状況,運動管理に関する記録表等の紙面活用の有無,HD患者の行動変容段階別に,行動変容に向けた具体的支援に関する理学療法士の認識と実施状況の全20項目とした.

    【結果】回収率は61.0%であった.導入・維持透析の両方に対応する施設が43.8%を占めたが,HD患者への理学療法介入期間および介入頻度は施設毎でばらつきがみられた.理学療法プログラム立案時に優先的に設定する項目は「身体活動量の維持や向上」であった(43.8%).運動管理に関し記録表等の紙面活用は75.0%が行っていない現状にあった.支援の具体的項目として「患者さんご自身にリハビリテーションを客観的に評価させる」は行動変容段階が上がるにつれより重要と認識され,実践としても同様の傾向を示したが,他の支援項目よりも実践実態としては低い傾向であった.

    【考察】HD患者に対する理学療法は時間的制度的制約がある中での実施にあり,患者の抱える諸問題も多い.監視型運動療法実施以外の場面での効果的な運動管理は極めて重要な因子と言え,セルフケア行動促進に奏功する期待のできる,運動管理に向けた紙面の活用に至っていない現状が示されたことは,今後の有用な支援を検討する上で意義が高い.

  • 齊藤 夏織, 磯部 千穂, 宮川 桃香, 髙杉 希, 田所 諭
    セッションID: F-056
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/01/01
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    【目的】肥満は予防理学療法において重要な課題である。 成人肥満に移行しやすい小児肥満児の出現率は増加傾向にある。そこで、肥満予防対策を検討する問題意識から、大学生の身長、体重および肥満度(BMI)と食事環境、運動環境、本人および両親の体格との関連性を調べることで、身長と体重およびBMIに影響を与える因子を知ることを目的に調査を行った。

    【方法】健康な大学生210名(年齢19 〜22歳)を対象とし、投函法による無記名アンケート調査を行った。

    【倫理的配慮】無記名調査用紙を封入しての投函により同意を得、個人に遡ることができないようにした。

    【結果】出生時体重は、大学生時バスケットボール経験群が他のスポーツ群より高く、小学時バレーボール経験群が他のスポーツ経験群より高かった(p<0.05)。大学生の身長と母親の身長に相関を認めた(r=0.487、p<0.05)。 食物繊維及び果物の摂取は、母親の年齢が50 歳以上群の方が49歳以下群より高かった(p<0.05)。現在の大学生のBMIと母親のBMI(r=0.45、p<0.05)、朝食での果物の摂取(r=0.37、p<0.05)との間で相関を認めた。

    【考察】大学生の身長は母親の身長が影響を与え、出生時体重が多い児は後にバスケットボール、バレーボールを行う可能性が高く、大学生の身長は遺伝に影響される部分が多いが体格がスポーツを選ぶ際に影響を与える可能性が考えられる。BMIで母親と大学生で相関が見られたのは、大学生は母親と類似の食事をしており、 母親の年齢が50歳以上になることで健康志向になり、朝食で食物繊維及び果物を多く摂取する可能性を考えた。果物の果糖は吸収が早く中性脂肪になるため果物を多く摂取するほどBMIの値が高い傾向にあると考えた。BMIは食習慣によって影響があるため肥満予防には作り手への指導も重要であると考えた。

  • 小野田 知夏, 入山 渉, 加藤 啓祐, 小林 凌
    セッションID: F-057
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/01/01
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    【目的】握力をフレイルの指標(男性26kg未満、女性18kg未満)を基準に群分けし、健常群と握力低下群で転倒の関連因子が異なるか検討すること。

    【方法】対象は当院主催の転倒予防教室に参加した地域在住高齢者387名(平均年齢75.5±7.5歳、女性312名、男性75名)とした。基本情報は年齢、性別、身長、体重、Body Mass Index、既往歴、過去1年間の転倒歴を聴取した。身体機能は握力、30seconds chair stand test、開眼片足立ち時間、Timed Up and Go test(TUG)、Functional Reach test(FR)を評価した。群分けは握力を用い、フレイルの基準(男性26kg未満、女性18kg 未満)を満たした者を健常群、満たさない者を握力低下群とした。その後転倒の有無でさらに群分けし、各群で身体機能の比較を行った。さらに過去1年間の転倒歴を従属変数、身体機能と年齢、性別を独立変数としたロジスティック回帰分析を行った。有意水準は5%とした。

    【倫理的配慮】本研究は慶友整形外科病院倫理委員会の承認を得た後に実施された。対象者には研究目的や個人情報の取り扱いなどを書面で説明し同意書への署名にて同意を得た。

    【結果】健常群284名(平均年齢73.4±6.0歳、転倒者49名、 17.2%)、握力低下群103名(平均年齢80.4±5.7歳、転倒者15名、14.5%)であった。健常群はすべての項目で有意差は認められなかった。握力低下群は群間比較でTUG(転倒群/非転倒群として13.3±5.1秒/12.2±2.2秒)とFR(24.3±5.2cm/29.3±5.7cm)に有意差を認めた。 ロジスティック回帰分析で有意だった項目はTUGであり、オッズ比は1.24(95%信頼区間:1.02 〜1.49)であった。

    【考察】本研究より健常群は身体機能に差が無いことから偶発的な転倒が多いことが示唆された。一方、握力低下群は移動能力の低下が転倒リスク因子になることが示唆された。握力は簡便で安全に行えるため簡易スクリーニングとして有用であると考えられた。

  • 川井 祐美子, 吉本 真純, 坂田 佳成, 天野 喜崇, 金子 貴俊, 宮本 梓
    セッションID: F-058
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/01/01
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    【背景】先行研究において,足関節背屈運動に伴い遠位脛腓関節(以下,DTFJ)が離開することや足関節内反捻挫による不安定性がDTFJの離開と関係すると報告されているが,足関節背屈に伴うDTFJの離開距離については明らかになっていない.本研究の目的は,足関節の前方不安定性がDTFJ離開距離に与える影響を明らかにすることである.

    【方法】対象者は大学生30名(左右合計60肢)とした.評価項目は,足関節背屈可動域,背屈0°のDTFJ離開距離,最大背屈位のDTFJ離開距離,前方引き出しテスト(以下,ADT)とした.DTFJ離開距離の測定は超音波断層撮影装置(TOSHIBA社製Nemio XG SSA-580A)を使用した.計測後,最大背屈離開距離と0°離開距離の差(以下,開大距離)を算出した.統計処理は足関節背屈0°のDTFJ離開距離および最大背屈位のDTFJ離開距離と足関節背屈可動域との関係性についてピアソンの積率相関係数を用いた.有意水準は5%未満とした.

    【倫理的配慮】所属施設の倫理委員会にて承認を得た.参加者に十分な説明を行い,書面にて同意を得た.

    【結果】ADTは陰性48脚(以下,陽性群),陽性12脚(以下,陰性群)であった.陽性群,陰性群ともに背屈0°離開距離と開大距離の間に有意な負の相関を認めた(陰性群:r=-.34.p<.05,陽性群:r=-.73,p<.05).陰性群最大背屈離開距離と開大距離の間に有意な正の相関を認めた(陰性群:r=.47,p<.05)が,陽性群最大背屈離開距離と開大距離の間に相関を認めなかった.また両群とも開大距離と背屈可動域の間に有意な相関を認めなかった.

    【考察】陰性群最大背屈離開距離と開大距離の間に有意な正の相関を認めたが陽性群最大背屈離開距離と開大距離の間に有意な相関を認めなかった.この要因として足関節前方不安定性による距腿関節のマルアライメントが背屈に伴うDTFJの開大に影響していると考えられる.よって陽性群においてDTFJ開大制限が生じていること示唆された.

  • 竹中 朝貴, 船津 矩平, 髙井 南海, 早川 里奈, 齋藤 昭彦, 跡見 友章
    セッションID: F-059
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/01/01
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    【目的】方形回内筋は遠位橈尺関節の安定に重要であるとされるが、深層に位置するため機能については不明な点が多い。そこで本研究では、方形回内筋の形態と機能に関する基礎的知見を得る目的にて、超音波画像診断装置を用いて方形回内筋の形態と身体的因子との関係について検討した。

    【方法】健常男子大学生28名(年齢20.6 ± 0.7歳)、健常女子大学生30名(年齢20.8 ± 0.8歳)を対象に、超音波画像診断装置(日立メディコ社製、HIVISION Preirus)を用いて方形回内筋の筋厚における最大膨隆部(以下最大筋厚)を測定した。また身体的因子として身長、体重、握力を計測した。解析は、最大筋厚と握力における利き手と非利き手の差異について、それぞれ対応のあるt検定を実施した。また筋厚に影響を与える身体的因子を検討する目的にて、従属変数に最大筋厚、独立変数に握力、身長、体重としてStepwise法による重回帰分析を行った。いずれも有意水準は5%未満とした。なお、統計処理にはSPSS 21.0を用いた。

    【倫理的配慮】本研究は杏林大学倫理委員会の承認後、対象者に方法等を説明し同意を得て実施した。

    【結果】最大筋厚と握力については、いずれも利き手が有意に高値を示した。重回帰分析の結果から、利き手では握力と体重が抽出され、非利き手では握力のみ抽出された。また、利き手・非利き手ともに握力が最も高いβ値を示し、いずれも筋厚と握力に正の相関関係を示した。

    【考察】本研究の結果から、方形回内筋も握力の1要因であることが示唆された。方形回内筋は遠位橈尺関節の深層における関節の動的安定性に寄与するとされている。 従って、方形回内筋の収縮により、遠位橈尺関節に支持性がもたらされ、強い前腕筋群の収縮が生み出される可能性が示唆された。一方で、本研究は静的な筋厚測定の結果のみであることから、今後はグリップ動作時などの動的な筋厚の変化についても計測を行う必要がある。

  • 小林 里羅, 中川 和昌, 高橋 裕子
    セッションID: F-060
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/01/01
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    【目的】器質的異常のない腰痛と頸部関節位置覚および頭部正中位再配置能力の関係について明らかにすることを目的とした。

    【方法】A大学に在籍する大学生39名を対象とし,日本語版 Oswestry Disability Index質問紙表(以下,日本語版ODI)を用いて1点以上の26名を腰痛群,0点の13名を対照群とした。測定課題は頸部関節可動域,腰部関節可動域,頸部関節位置覚,頭部正中位再配置能力とし,いずれも屈曲および伸展方向への運動を測定した。頸部関節位置覚および頭部正中位再配置能力は体幹が固定できる椅坐位にて閉眼状態で測定した。頸部関節位置覚は検者が指定する角度と対象者が運動した結果の角度との誤差,頭部正中位再配置能力は測定肢位で対象者の額につけたレーザーポインターにより示される点を基準点とし,対象者が頸部屈曲または伸展自動運動を行った後,自身が思う正中位へ頭部を再配置した結果の点との距離を測定した。各測定は5回ずつ行い,それぞれ平均値を代表値とし群間比較・検討した。また,日本語版ODIの点数と各測定結果の相関関係について検証した。

    【倫理的配慮】ヘルシンキ宣言に則り,全対象者に研究の趣旨と内容を説明し,書面にて同意を得た。

    【結果】頸部可動域および腰部可動域には群間に差がなかった。頸部伸展運動範囲での頸部関節位置覚は,腰痛群の方が小さな値であった(腰痛群 2.4±0.9°,対照群3.2±1.6°)が頭部正中位再配置能力は群間に差がなかった。日本語版ODIの点数は頸部伸展可動域と腰部伸展可動域でそれぞれ負の相関を示した(頸部 r=-0.33,腰部r=-0.49)。

    【考察】腰痛のある対象は日常的に頸部関節位置のずれに過敏となっており,腰痛が悪化するほど頸部関節可動域が小さくなるという可能性が考えられた。ただし,因果関係については腰痛の詳細な評価とあわせて考えていく必要がある。

  • 髙川 啓太
    セッションID: F-061
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/01/01
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    【目的】スポーツにおけるwarm-upでは、静的ストレッチング(SS)と動的ストレッチング(DS)を組み合わせて行われている。本研究は、ストレッチング方法の組み合わせ順によって、筋出力と関節可動域(ROM)に与える影響を検討することを目的とした。

    【方法】健常男子大学生10名を対象とした。Warm-upとしてトレッドミルで800mのジョギングを実施後、SSを行った後にDSを行うSS→DS条件とDSを行った後にSS を行うDS→SS条件のどちらか一方の介入をランダムに実施した。介入前後に両側股関節屈曲・伸展自動・他動ROMと股関節伸展筋出力を測定した。SS・DS共に対象筋は大殿筋、ハムストリングス、腸腰筋とし、時間は各10秒とした。DSはランジウォークを左右5歩ずつ行った。 筋出力はμ-tas F-1を使用し、腹臥位で大腿遠位部後面にセンサーパットを当て、5秒間の最大筋出力を測定し、体重で除した値(%BW)も算出した。統計学的解析には、各条件における介入前後の比較と各条件間の介入前後の変化量の比較をShapiro-Wilk検定と対応のあるT検定、Wilcoxonの符号付き順位検定を行った。有意水準は5%とした。

    【倫理的配慮】対象者全員に本研究の趣旨を説明し、書面にて同意を得た。

    【結果】介入前後の比較において、両条件とも左右股関節屈曲自動ROM・左股関節屈曲他動ROM、SS→DS条件では左右股関節伸展自動ROM・左股関節伸展他動ROM・右股伸展筋力、DS→SS条件では右股関節伸展他動ROMに有意な増加が認められた。条件間の変化量の比較ではSS→DS条件で左股関節伸展自動ROM・左股関節伸展筋力・%BWで有意差な増加がみられた。

    【考察】本研究ではSS→DS条件で筋出力が向上する傾向にあることが示された。先行研究では6秒のSSでは筋出力向上を認めており、本研究でも10秒のSSでは、神経筋系に対する鎮静作用が小さく、筋出力向上が認められたと考えられる。

    【まとめ】SS→DSの方がwarm-upとしては有効である可能性が示唆された。

  • 山本 悠太, 小川 英臣, 岡安 健, 酒井 朋子, 星野 ちさと
    セッションID: F-062
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/01/01
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    【目的】我々は下肢人工関節術後において深部静脈血栓症(以下DVT)や肺血栓塞栓症(以下PTE)の早期発見のため,経皮的動脈血酸素飽和度(以下SpO2)を術前後に測定した.うち,SpO2低下例が複数存在したため,低下例の背景や推移を調査し,若干の知見を得たので報告する.

    【対象と方法】対象は当院で人工股関節全置換術または,人工膝関節全置換術を施行した計57例(2017年6月〜12 月,男性5例,女性52例,平均年齢70.2歳(47 〜89歳),平均BMI24.43 kg/m2(16.53 〜37.64kg/m2))とした.方法は術前日および術後介入初日〜5日目の介入開始時,安静座位にてパルスオキシメーターでSpO2を記録した.その値が95%以下,かつ術前日よりも3%以上の低下を有意低下例とした.全対象で術後初回介入時,下肢静脈エコーで近位型DVTの有無を確認した.有意低下例に対し,低下の原因を後方視的に検討した.

    【倫理的配慮】当研究は院内倫理委員会に承認され,患者データの収集は,ヘルシンキ宣言に基づき行われた.

    【結果】有意低下は5例(約10%)で認め,その全例とも術後初日が最低値であり,2日目以降回復傾向を示した.有意低下例を含め当該期間内では近位型DVTは検出されなかった.有意低下1例に対し造影CTも施行されたが,PTEは認めなかった.血液検査などのカルテ情報からもSpO2低下に直接影響しうる所見は見つからなかった.

    【考察】有意低下5例に関し,今回はPTE,DVTを認めなかった.術後SpO2低下には,術侵襲での血管透過性亢進による一時的な胸水貯留,画像上検出し得ない微小肺塞栓,低換気など多因子が影響した可能性がある.しかし,致死的PTEは最も避けるべき術後合併症のため,SpO2低下時は適切なタイミングで精査の要否や負荷量等を,患者ごとに医師と連携し検討していくことが重要だと考える.

  • 國友 公太, 吉川 大志, 田口 貴之
    セッションID: F-063
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/01/01
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    【背景】足底感覚障害により歩行の回復に難渋することがある.津田らは片脚立位時間が歩行自立度に影響することを報告している.

    【目的】頚髄損傷の一症例における足底感覚の改善を目的とした介入が片脚立位時間の延長に繋がるかを検討した.

    【症例】40代男性でX日に転倒受傷.症状悪化に伴いX+73日にC4/5 5/6前方固定術を施行.復職希望もありX+95日にリハビリテーション目的にて転院となる.

    【初期評価】JOAスコアは10点,Nurick scaleは1点,患側(右下肢)表在感覚7/10.非介入期初日の平均片脚立位時間は健側(左下肢)8.62秒/患側4.37秒.10m歩行速度は7.79秒であった.

    【方法】研究デザインには第1非介入期(A1),第1介入期(B1),第2非介入期(A2),第2介入期(B2)によるABABデザインを用いた.介入期間は各3日,計12日間とした.非介入期では筋力強化訓練や歩行訓練など通常の理学療法の後,片脚立位時間を左右3回ずつ毎日測定した.介入期では100円で販売されている竹踏みにより1 分間の感覚刺激入力を行い,その後片脚立位時間を計測した.片脚立位時間の変化はグラフ化し目視法により効果を判定した.対象者にはヘルシンキ宣言に基づき被検者には説明し同意を得た.

    【結果】JOAスコアは16点,Nurick scaleは2点,表在感覚は10/10であった.介入前後の片脚立位時間(秒)の平均をA1→B1→A2→B2の順に記載する.健側は8.62→24.43→19.92→25.47,患側は4.37→8.77→11.32→ 13.76であった.10m歩行速度は7.06秒であった

    【考察】川口らは足底感覚情報が姿勢制御能力に影響を及ぼすと報告している.本症例においても足底感覚が片脚立位時間の延長と歩行に影響を及ぼす可能性が示唆された.これは竹踏みによる感覚刺激が足底の感覚受容器を賦活させ,姿勢制御へ影響を及ぼしたのではないかと考える.頚損患者に対する足部への刺激は有効な治療である可能性が示唆された.

    【結語】本症例における竹踏みを使用した感覚刺激は,片脚立位時間の延長に影響を及ぼす可能性が示唆された.

  • 関口 優希奈, 早乙女 雄紀, 大沼 亮, 松田 雅弘, ネルソン 祥子
    セッションID: F-064
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/01/01
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    【目的】サルコペニアは全身性の骨格筋量及び骨格筋力の低下の疾患とされている。近年ではサルコペニアに対するリハビリテーション栄養(以下,リハ栄養)が注目されている。リハ栄養では運動を有効にする為に、主にたんぱく質などの栄養摂取が推奨されている。特に分岐鎖アミノ酸(BCAA)は、骨格筋合成に有効であり、運動後の摂取が推奨されている。リハ栄養では様々な試みがされており、病院での報告は散見されるが高齢者の施設入所者での報告は見当たらない。そこで、本研究ではサルコペニアを有する施設入所者で分岐鎖アミノ酸の摂取を併用した運動療法が身体機能にどの様な変化があるのか検討することを目的とした。

    【方法】対象はサルコペニアを有する当施設入所者1名(女性、83歳、身長143cm、体重35㎏、右握力12.6㎏、左握力11.5㎏、右下腿周径27.5cm、左下腿周径28.2cm)週2 回20分のレジスタンス運動、有酸素運動後にリハデイズ(大塚製薬工場)を摂取。各1か月のABAB法を用いて、運動介入のみをA期、運動と栄養介入時期をB期とした。 測定は膝伸展筋力(徒手筋力計)・10m歩行テスト・体重を評価した。統計はA期の変化量とB期の変化量をウィルコクソンの符号順位検定にて検証し、有意水準を5 %とした。

    【倫理的配慮】施設長の承認の下、対象者及び家族に同意を得て実施した。

    【結果】右膝伸筋筋力にて有意な差(p=0.043)がみられた。また、体重では差はみられなかったがB2期で増加傾向がみられた。歩行では差がみられず、変化の傾向もみられなかった。

    【考察】今回本研究の症例は栄養介入にて筋力の増加が認められ、体重の増加傾向がみられたが、歩行能力の向上までは至らなかった。栄養介入にて筋量の増加により筋力、体重は改善したが、歩行は多様な要因が関係しており、その併用に加えて歩行への取り組みを含めて実施することが重要だと考えられた。

  • 菅野 友香
    セッションID: F-065
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/01/01
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    【はじめに】本症例は左大腿骨頚部骨折を呈し、人工骨頭挿入術を施行され、リハによってADL自立したが、退院後生活において活動量が低下し、運動機会がほとんどない状態であった。通所リハを開始し、社会参加につなぐことができた例について報告する。尚、本人に症例発表の目的を説明し同意を得た。

    【症例紹介】80代男性。受傷前生活は週1回買い物など外出を独歩でされていた。H30.6に食卓の椅子に座った状態で転倒し、左大腿骨頚部骨折を受傷され同日入院となる。11病日目に人工骨頭挿入術施行。68病日目にT字杖歩行自立、ADL自立にて自宅退院となる。運動・外出機会がほとんどない状態のため、118病日目に通所リハ開始となる。T字杖歩行自立、ADL自立、I ADL未実施、下肢筋力未実施、外出未実施であった。271病日目に通所リハ修了となる。

    【介入と結果】通所リハを週1回利用され、下肢筋力強化、マシントレーニング、屋外歩行練習、バランス練習、自主トレーニング伝達・確認を行った。独歩自立、ADL 自立、I ADL掃除自立、下肢筋力が63kg、外出週1回バスを使用し買い物が行えるようになった。興味関心チェックシートによる調査において、意欲の向上が見て捉えることができた。担当者間での共有のもと居宅訪問にて、自宅から自主グループ活動開催場所までの経路確認、体験見学に同行し、社会参加支援の提案を行った。結果、年6回行われる手ぬぐい体操への申し込みをされ、運動機会の確保ができたため、通所リハの利用が修了となった。

    【考察】今回、興味関心チェックシートを活用し、本人の意志をくみとり社会参加を促すことで運動機会の確保につながったと考える。また、リハマネの中でも、居宅訪問にて、経路確認・体験見学を実施することで、導入がスムーズにできたと考える。

  • 荻野 沙月, 五十嵐 達也, 田中 真稔, 宮田 一弘
    セッションID: F-066
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/01/01
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    【はじめに】大腿骨近位部骨折を呈した患者の退院先に関わる要因として,認知機能,受傷前歩行能力,退院時Functional Independence Measure(FIM),同居者の有無などが挙げられる.それらに加え,家族介護力を定量的に評価する「家族介護力スコア」の重要性も示唆されている.今回,この家族介護力スコアとActivities of Daily Living(ADL)能力から予後予測を行い家族の介護への協力により自宅復帰に至った超高齢症例について報告する.

    【説明と同意】本発表はヘルシンキ宣言に基づき,本症例に口頭で説明し書面にて同意を得た.

    【症例提示】症例は大動脈弁狭窄症の手術後に転倒し,大腿骨転子部骨折を受傷した90代女性である.X日に転倒,X+6日観血的整復固定術施行,X+18日リハビリ目的に当院転院となる.X+19日の介入開始時,創部の疼痛により体動困難,ADL全介助レベルであった.介入を続けるも身体機能,ADL能力は大きく変化せず介助量軽減には至っていない.自宅では夫,次男夫婦との4 人暮らしであり,病前は杖歩行であった.

    【経過/考察】X+50日まで介入を続けたが,動作介助量の軽減は認めたもののFIMの大幅な改善はみられなかった(38点→48点).家族介護力スコアとは70歳未満で介護に専念できる健康成人の介護力を10点と決め,減点方式で患者の生活に関わる家族全員について採点しその合計点を評価点とするものである.これは脳卒中患者の退院先判別を目的に作成されたものであり介護者の介護潜在能力を評価するものとされる.このスコアを大腿骨近位部骨折患者に用いた場合,退院時FIM合計点とスコアの総和102.5点が自宅退院判別の境界点となると報告がある.症例は54点と自宅退院の境界点を下回る結果となり自宅退院は困難と考えられたが,介護サービス調整,家族指導によって自宅退院となった.退院先判別に予後予測は重要だが自宅復帰のために家族の協力や環境調整も重要と改めて実感した.

  • 香山 雄哉, 入倉 伸太郎, 木島 隆
    セッションID: F-067
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/01/01
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    【はじめに】脳梗塞左片麻痺の既往と,左大腿骨転子部骨折の受傷で左上下肢の不使用の学習が進行した症例に対し,方向性課題を使用し介入を行った.その結果,実用的な起立・移乗動作を獲得した症例を経験したため報告する.

    【症例紹介】80代男性.2017,10に脳梗塞・左片麻痺を 発症.2018,9左大腿骨転子部骨折を受傷.保存加療にて同年10,17に当院転院.入院時,BRSは左Ⅴ−Ⅴ−Ⅳ.感覚は表在,深部共に左上下肢軽度鈍麻.座位姿勢は右後方重心,左股関節外旋位.起立は右上肢で支持物を引き込む非麻痺側過剰努力に依存し,右後方重心を認めた.症例は「左手足は信用できないから使わない」と語り,左上下肢不使用の学習を認めた.FIMは58点であった.

    【治療方針】症例の内省から,右上下肢依存の経験による左上下肢不使用の進行を考えた.不使用肢からの運動感覚情報は減少し,身体図式の変容を招き,座位から異常姿勢を呈したと考えた.よって左股関節の方向性機能の改善を図る運動課題を臥位から行い,抗重力位へと発展させ,座位姿勢の修正と基本動作への左下肢の参加を促すことで起立・移乗動作獲得に寄与すると考えた.尚,治療方針は患者及び家族に十分に説明し書面にて同意を得た.

    【治療方法・結果】運動課題は,段階的治療に基き,臥位から股関節に方向性課題を他動・自動運動で実施し,股関節正中位の認識を促す.徐々に抗重力位での運動課題に発展し,座位姿勢の修正を促す.経過の中で,「がに股では立ちにくい」との内省があり,起立動作以降で左下肢の動作参加を認めた.入院8週目で,起立・移乗動作を獲得しFIM88点となり,施設退院となる.

    【考察】本症例は方向性課題によって股関節正中位を再認識し,座位姿勢が修正されたことで,起立時の右下肢への荷重が可能となり,起立動作が安定したと考えた.そして,左下肢を参加させて起立動作を遂行できた経験により,起立動作以降での左下肢動作参加に寄与したと考えた.

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