小児耳鼻咽喉科
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44 巻, 3 号
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巻頭言
第18回日本小児耳鼻咽喉科学会総会・学術講演会
シンポジウム3―OME2023-Exploring the latest insights and innovation
Lecture 2
  • 馬場 信太郎
    2024 年 44 巻 3 号 p. 344-347
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/06/28
    ジャーナル フリー

    小児の顔面神経麻痺は予後良好とする報告が多いが,予後不良症例も少なからず経験する。早期の重症度判定が重要であり,激しく泣かせた時に眼裂が閉じず涙液分泌がなく,鼻唇溝が消失していれば完全麻痺とみてよい。予後判定には小児症例でもelectroneurography(ENoG)が有用であり,同程度のENoG値の小児と成人を比較しても小児の方が早期に治癒に至る傾向にあった。重症例にはプレドニゾロン3–4 mg/kgの高用量ステロイド投与が推奨される。重症例においてはプレドニゾロン1 mg/kg程度の通常用量ステロイド投与症例と比較し,高用量投与症例では顔面運動,後遺症とも有意に改善が見込める。

総説
  • 坂井田 麻祐子
    2024 年 44 巻 3 号 p. 348-354
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/06/28
    ジャーナル フリー

    小児の気道異物事故は毎年発生しており,死亡例の報告もある。気道異物は迅速な対応を要するとともに予防可能な疾患であり,本疾患のメカニズムや事故の危険性,症状や初期対応,予防の重要性について,保護者や保育者など小児に関わる大人へ啓発することが肝要である。啓発活動における耳鼻咽喉科医の役割は講演やリーフレット配布などによる情報提供に留まらない。乳幼児の発達・食事・行動特性などの問題にまで踏み込んだ啓発のためには,看護師・保育士・栄養士等の多職種連携によるチームでの活動とわかりやすい啓発ツールの活用が効果的である。少人数の保護者を対象として直接対話をすることで,参加者が確実に啓発内容を理解できると考えられ,このような活動が全国的に普及することを期待する。

原著
  • 小野 智愛, 阪本 浩一, 馬場 遥香, 松永 達雄
    2024 年 44 巻 3 号 p. 355-360
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/06/28
    ジャーナル フリー

    遺伝性難聴の遺伝子変異の多くは1~数塩基の欠失や挿入,一塩基多型だが,近年はコピー数変化(CNV: Copy number variation)も確認されている。今回,我々はCNVによる感音難聴を3症例経験した。症例1は8歳女児。当院初診時に標準純音聴力検査(PTA)右37.5 dB,左41.3 dBの感音難聴を認め,遺伝学的検査でSTRC遺伝子を含む領域にホモ接合性欠失を認めた。症例2は11歳女児。就学前健診で難聴を指摘され,当院初診時のPTA右61.3 dB,左60.0 dBで中等度感音難聴を認めた。遺伝学的検査でOTOA遺伝子を含む領域にホモ接合性欠失を認めた。症例3は,症例2の妹10歳。当院初診時(6歳)のPTAで右60.0 dB,左65.0 dBの感音難聴を認め,姉と同じバリアントが検出された。STRC遺伝子とOTOA遺伝子はCNVによる難聴が多く占める。CNVの欠失範囲によっては,隣接する遺伝子への影響もあり得るため,隣接遺伝子による臨床的影響も考慮した結果の解釈や開示が必要である。

  • 北野 雅子, 臼井 智子, 大原 奈里, 竹内 万彦
    2024 年 44 巻 3 号 p. 361-366
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/06/28
    ジャーナル フリー

    ダウン症候群(以下,ダウン症)には,他の様々な合併症とともに難聴の合併も多い。ダウン症難聴児27例43耳中,感音・混合性難聴であった11例14耳について,感音障害(感音性難聴,混合性難聴)の割合,重症度,原因について検討した。また補聴器装用例と蝸牛奇形例の経過について述べる。

    ダウン症の難聴には伝音障害が多い(70%)ものの,感音障害も少なくはない(33%)。また伝音障害の30%は伝音性難聴と感音性難聴を併せ持つ混合性難聴であった。感音障害例の半数以上に内耳奇形を認め,骨導測定が不能な乳幼児や発達遅滞例では難聴の原因診断目的に,画像で内耳奇形のスクリーニングを行うことは有用である。ダウン症児の補聴器装用には困難を伴うことも多いが,保護者だけでなく,療育施設への補聴器の理解促進は重要である。

  • 杉本 寿史, 鳥谷 輝樹, 武居 渡, 永井 理紗, 村越 道生
    2024 年 44 巻 3 号 p. 367-373
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/06/28
    ジャーナル フリー

    幼児期は重要な言語獲得時期であるため,難聴が存在すると重大な言語発達遅延を生じることになる。今回我々は石川県下の幼稚園児を対象に,TITANの226 Hzティンパノメトリーおよび歪成分音響放射(DPOAE)の機能を用いたスクリーニングを実施し,幼児期における耳疾患スクリーニングとしての有効性について検証した。対象者65児のうち,REFER率は18.5%であった。精査の疾患陽性的中率は44.4%であり,厚生労働省方式のスクリーニングに比べて2倍の耳疾患を指摘可能であった。厚生労働省方式では指摘できない片側の滲出性中耳炎を検出できたことは注目に値する。本研究をさらに発展させることで,従来の厚生労働省方式のスクリーニングで見逃される耳疾患を少しでも多く発見するシステムを構築し,難聴および言語発達の治療に結び付けたいと考えている。

症例報告
  • 田中 加緒里, 浅山 理恵, 羽藤 直人
    2024 年 44 巻 3 号 p. 374-380
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/06/28
    ジャーナル フリー

    医療の進歩により我が国の未熟児救命率は高く,それに伴い乳幼児に対する気管切開症例も増加している。成人に比べて,乳幼児の気管切開は合併症リスクが高いため,本邦における乳幼児気管切開の適応体重は3000 g以上であることが推奨されている。しかし近年ではEx utero intrapartum treatment:EXIT法によるの気管切開や超低出生体重児に対する気管切開の報告も増え,3000 gまで待機できずに低体重での気管切開を余儀なくされる症例が増加しているのが現状である。今回,臨床的に気管挿管管理が継続困難であったため,体重約1100 g時に気管切開を行い,良好な経過が得られた1例を経験した。術後に,気管内視鏡検査などにて,気管切開チューブの種類や台ガーゼによるチューブ先端位置調整を行うことが,術後の重大合併症予防に有用であった。

  • 吉村 典紘, 岡﨑 鈴代, 原田 祥太郎
    2024 年 44 巻 3 号 p. 381-385
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/06/28
    ジャーナル フリー

    気管,気管支異物は耳鼻咽喉科領域の緊急疾患であるが,異物の多くは食物であり,合併症は肺炎や無気肺などが多い。今回,われわれは歯牙を誤嚥し,皮下気腫,縦隔気腫を合併した9歳男児を経験したため報告する。誤嚥エピソードがなかったことから,当初は肺炎と診断され,皮下気腫が増大したことにより気管支異物の診断に至った。歯牙の摘出は難渋したが,摘出後は皮下気腫,縦隔気腫は速やかに消退し退院が可能となった。

    気管,気管支異物は誤嚥の目撃者がいれば診断は容易であるが,いない場合は診断に難渋することがあり,異物誤嚥を疑うことが重要である。また気管支歯牙異物の摘出時に出血し,死亡した例の報告もあり注意が必要である。

  • 橋本 馨, 川野 利明, 上尾 綾子, 平野 隆, 鈴木 正志
    2024 年 44 巻 3 号 p. 386-390
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/06/28
    ジャーナル フリー

    PFAPA症候群とは,周期性発熱,アフタ性口内炎,咽頭炎,扁桃炎,頸部リンパ節炎を主病変とする疾患である。治療に関しては,ステロイド,シメチジンの内服といった保存的治療と,口蓋扁桃摘出術による外科的治療がある。今回,当科にて口蓋扁桃摘出術を施行した4症例に対し,臨床症状や治療経過を検討した。対象となった児は4例で男児3例,女児1例,児の平均年齢は10.1歳(5–16歳)であった。いずれの症例も治療前にステロイドの内服を行っていたが,術後は内服薬の使用なく経過し再発なく経過観察を終えている。他文献では5歳以下の症例で手術の有効性が指摘されているが,今回は5歳以上で長期に保存的治療を継続されている症例に対しても手術の有効性が示唆された。小児に対する手術のリスク,ベネフィットをよく吟味したうえで,PFAPAの治療には扁桃摘出術も選択肢になると考えられる。

  • 橘川 咲, 山﨑 一樹, 白石 健悟, 米倉 修二, 花澤 豊行
    2024 年 44 巻 3 号 p. 391-396
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/06/28
    ジャーナル フリー

    先天性舌根部嚢胞は新生児の呼吸障害の原因として見逃してはならない疾患の一つである。今回我々は,哺乳障害を契機に発見された日齢20の舌根部嚢胞患児を経験した。初診時に陥没呼吸や上気道狭窄音などの呼吸異常を認めなかったものの静脈血液ガス検査にて慢性閉塞性呼吸器疾患が疑われた。精査の結果,舌根部嚢胞の診断となり入院翌日に手術が行われた。気管挿管に難渋したが,喉頭展開の際,喉頭鏡による圧排により嚢胞が穿破されると容易に気管挿管可能であり,全身麻酔下に嚢胞開窓術が施行された。手術は喉頭鏡にて舌根を挙上させた上で喉頭ファイバースコープにて視野を確保し,経口腔的に嚢胞切除を行った。手術後は哺乳障害も改善し,体重増加も良好である。現在まで嚢胞の再燃はなく良好な経過をたどっている。

  • 白石 健悟, 外池 百合恵, 有本 友季子, 仲野 敦子, 松永 達雄
    2024 年 44 巻 3 号 p. 397-402
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/06/28
    ジャーナル フリー

    HDR症候群は副甲状腺機能低下症,感音難聴,腎形成不全を3主徴とする常染色体顕性遺伝形式の疾患であるが,必ずしも3主徴すべてを呈するわけではない。感音難聴はHDR症候群では最も頻度の高い症状と考えられており,まだその聴力経過についての報告は少ない。今回我々は幼少期に難聴を指摘されたHDR症候群家族例を経験した。同胞3例全員に副甲状腺機能低下症と感音難聴を認め,腎機能障害や腎形態異常は認めなかった。聴力経過では第2子の聴力は変わらず,第1子は2.1 dB/年,第3子は1.8 dB/年の難聴進行を認めた。長期的に経過観察することができた同胞3例におけるHDR症候群の聴力経過および症状の多様性について検討したので報告する。

  • 臼井 智子, 増田 佐和子
    2024 年 44 巻 3 号 p. 403-410
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/06/28
    ジャーナル フリー

    急性中耳炎による顔面神経麻痺は成人と比較して小児に多い。治療は保存的治療,手術治療があるが,特に小児ではエビデンスが乏しく明確な選択基準はない。今回異なる重症度の急性中耳炎に伴う顔面神経麻痺の1歳児2例を経験し,いずれも保存的治療で治癒した。症例1は1週間以上続く上気道炎後に耳漏と右顔面の麻痺が出現した。右乳様突起炎を伴う両側重症急性中耳炎と右顔面神経完全麻痺を認めたが,保存的治療で発症74日目に治癒した。症例2は発熱後左顔面神経麻痺を発症し小児科で抗ウイルス薬とステロイドの投与が開始された。翌日左中等症急性中耳炎が判明し,鼓膜切開,抗菌薬経静脈投与を追加し,発症28日目で治癒した。

    乳幼児の急性中耳炎では顔面神経麻痺の合併を認めても明らかな乳突蜂巣の破壊や膿瘍形成がなければ,まずは保存的治療を行い,改善を認めなければ外科的治療に切り替えてもよいと考える。

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