小児耳鼻咽喉科
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44 巻, 1 号
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第17 回日本小児耳鼻咽喉科学会総会・学術講演会
ダイバーシティー推進シンポジウム―多職種の相互理解と意識改革
  • 川島 佳代子
    2023 年 44 巻 1 号 p. 1-5
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/10/03
    ジャーナル フリー

    アレルギー疾患は増加傾向にあり若年者の推計患者数が多いとされ,小児にとっても重要な疾患である。

    ガイドラインの普及により,アレルギー疾患は従来の入院での加療から,外来で管理できる疾患となった。長期的に良好な管理を行うには,患者が積極的に治療に関わることができることが求められ,そのための患者教育が重要である。小児アレルギー疾患の患者教育には専門的知識をもったPAE(小児アレルギーエデュケーター)が積極的に携わっている。アレルギー性鼻炎に対する舌下免疫療法は,長期間の継続的な治療が必要であり,患者は治療への理解とアドヒアランスの向上が求められる。PAEは今までアレルギー性鼻炎に対して関わる機会が少なかったが,舌下免疫療法を施行している小児にPAEが積極的に関わることができれば,効率的な患者指導が可能となり,より治療効果を高めることができると考えた。

  • 盛光 涼子
    2023 年 44 巻 1 号 p. 6-10
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/10/03
    ジャーナル フリー

    小児アレルギーエデュケーター(Pediatric Allergy Educator, PAE)は,日本小児臨床アレルギー学会が認定し,看護師・薬剤師・管理栄養士を対象としたアレルギー専門のメディカルスタッフの資格である。高度なアレルギーの知識と指導技術を用いて,患者のアドヒアランス向上のために日々実践をおこなっている。その活動は臨床だけに留まらず,保育所や学校などの教育機関,保健所や市役所などの行政機関,各地でのイベントなど多岐にわたり,患者教育や人材教育,アレルギーの啓発活動をおこなっている。

    今回,当センターのPAEの取り組みの具体例をいくつか紹介する。これらの取り組みをPAEは精力的に活動をおこなっているが,現在のところ,個人の努力や頑張りに委ねられているところが大きい。今後は,活動の見える化をはかり,組織や管理者の理解や協力を得て,PAEは患者のアドヒアランス向上のために活動していきたい。

  • 任 智美, 矢崎 牧, 奥中 美恵子, 巽 恵美子, 都築 建三
    2023 年 44 巻 1 号 p. 11-16
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/10/03
    ジャーナル フリー

    Hugh Barrは,①他の専⾨職と区別できる専⾨職能⼒,②全ての専⾨職が必要とする共通能⼒,③他の専⾨職種と協働するために必要な協働的能⼒,の3つの能⼒が備わることで,専⾨職間の連携協働が円滑に機能すると述べている。協働的能力の中心になるのは常に難聴児やその家族であり,家族が大切にする価値観や目標を共有することが重要である。当科で未就学児を主な対象として行っているAuditory Verbal Therapy(AVT)は聴覚を最大限に活用する言語療法で,親を子どもの最強の「療育者」としてコーチングし,家族の価値観や関心事を尊重して目標を設定するまさに「患者・家族を中心とした」方法である。AVTを通して「聴こえない子供たちが聴こえる世界に十分に参加し,自分たちの可能性を最大限に広げられること」を目標に多職種連携を円滑に行いたい。

  • 矢崎 牧, 任 智美, 奥中 美恵子, 都築 建三
    2023 年 44 巻 1 号 p. 17-22
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/10/03
    ジャーナル フリー

    2014年に小児人工内耳適応基準が改定されてから,人工内耳(以下,CIと略)手術の低年齢化が進み,1歳代前半で両側同時にCI手術する難聴児が少しずつ増えている。当科でも同じ傾向が認められる。CI手術に至るまでには,耳鼻咽喉科医を始めとして多職種が連携を取りながら診断された難聴児の家族と関わるが,難聴児家族と時間的に最も長く関わりうる職種が言語聴覚士(以下,STと略)である。難聴児家族が置かれている状況は異なり,ニーズも異なる。それらを敏感に感じ取りながら,家族にとって最善な策とは何かを一緒に探るようにしている。前言語期から言語習得に向けて具体的な目標を共有しあいながら家族との連携をとった療育法を紹介したい。

  • 長尾 みづほ
    2023 年 44 巻 1 号 p. 23-27
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/10/03
    ジャーナル フリー

    当院の小児慢性疾患病棟ではアレルギー疾患,心身症,肥満症など様々な慢性疾患児が入院治療を受けている。これらの患児に対してテーラーメイド的治療管理が求められるが,そのために幅広い専門性はいわば必須であり,病院として,医師,看護師だけでなく,保育士,児童指導員,臨床心理士,ケースワーカーを配置,さらに特別支援学校の教師とも連携して,子ども達を支える体制を構築している。

    臨床研究部は医師以外に事務職,検査技師,薬剤師などの職種で構成される。非常勤職員が多いが,それぞれの得意とする分野で働きやすい環境作りを目指している。また,研究に関わる医師も,大学院生だけでなく,研究が好きであったり,子育てしながらも専門性を高めたいと願っていたり,リサーチにそれぞれモチベーションをもっている。管理者に求められるのは労働環境や個人の価値観に配慮しながら,いかに「居心地良く」モチベーションを保つかであろう。

シンポジウム1―小児のめまいについて
  • 五島 史行
    2023 年 44 巻 1 号 p. 28-31
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/10/03
    ジャーナル フリー

    小児では,成人に比較してめまいの頻度はおよそ100分の一程度と報告されている。小児良性発作性めまい症,小児前庭性片頭痛,心因性めまいの頻度が高い。小児良性発作性めまい症は小児の反復性めまいであるが,診断名称の変更により,現在は小児反復性めまい症(RVC)と言われている。本疾患は片頭痛との関係が深いことが知られている。良性の疾患であり一般には予後良好であるが一部の症例では小児前庭性片頭痛に移行することが知られている。治療は一般には経過観察が行われるが発作が頻発し,発作に対する予期不安が強くなると不登校の原因となることがある。そのような場合には投薬,リハビリテーションなどを行う必要がある。

  • 堀井 新
    2023 年 44 巻 1 号 p. 32-37
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/10/03
    ジャーナル フリー

    PPPDは,3か月以上続く浮動感,不安定さ,非回転性めまいを主訴とする疾患で,症状は立位姿勢・歩行,能動的・受動的な体動,動くものや複雑な視覚パターンを見た時に増悪する。前庭疾患を中心とする何らかの平衡障害に続発する。先行する平衡障害が治癒した後も,平衡維持が視覚・体性感覚シフトのまま持続しているために視覚刺激や体動による体性感覚刺激で増悪する。自験例187名の平均年齢は50.6歳で,小児例は5名であった。成人例と比べ薬物治療(SSRI/SNRI)が行いにくいことから,難治性の印象が強かった。米国の小児PPPD53例の報告では,診断後1年半経過しても20%で有症状であり,治療後も通学できていない患者が15%存在した。急性めまい後PPPDを発症する危険症例を洗い出すこと,PPPD化を防止する方策を見出すこと,PPPDに対する新規治療を開発すること,が成人のみならず小児においても求められる。

  • 青木 光広, 奥田 弘
    2023 年 44 巻 1 号 p. 38-43
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/10/03
    ジャーナル フリー

    メニエール病の平均発症年齢は44歳であり,小児発症は極めて少ない。過去の報告では小児めまい例全体の3%がメニエール病と診断されている。小児にメニエール病が発症するにはメニエール病の病態である内リンパ水腫が早期に形成される必要がある。その成因として,遺伝性,自己炎症性,外傷性,中耳炎,内耳奇形などが考えられるが原因不明である。常染色体優先遺伝形式を示す家族性メニエール病は一家族のみの報告であり,複数家族からの報告はない。GJB2,SLC26A4,USH1Gなどのミスセンス変異が報告されているがいまだ確定されたものはない。前庭水管拡大症,外リンパ瘻,前庭片頭痛などは鑑別すべき疾患である。本報告では中耳炎手術後に発症したメニエール病例を報告する。脱水回避,食生活,睡眠環境の改善に加えて,浸透圧利尿剤(イソソルビド:2 mL/体重kg)により,めまいは制御されたが聴力は徐々に悪化している。

シンポジウム2―小児の嗅覚 成長・発達への影響
  • 森 恵莉
    2023 年 44 巻 1 号 p. 44-48
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/10/03
    ジャーナル フリー

    嗅覚は飲食を楽しんだり,危険なにおいを嗅ぎ分けたりするのに必要で,小児にとってその機会が失われることは,健康状態や人生を左右しうる。しかしながら,現状,嗅覚の存在がどの程度小児の健康や成長に影響しているのかは,まだ不明なことが多い。嗅覚障害患児は少なからず存在しているはずであるが,成人と比較すると報告も,臨床上目にする機会も圧倒的に少ない。小児聴覚分野と比較すると,小児嗅覚分野の注目度はまだまだ低く,年齢に応じた対応やその結果の是非を議論するまでにも至っていないことが一つの背景として挙げられる。しかしながら,新型コロナウイルス感染症の拡大により,嗅覚障害が広く認知され,状況は一変している。小児の嗅覚障害患者も露呈し,小児嗅覚障害の陰に潜む問題点や,臨床上解決すべき点が少しずつ浮き彫りにされてきている現状がある。本稿では小児嗅覚診療における現状と課題を記載する。

  • 熊﨑 博一
    2023 年 44 巻 1 号 p. 49-53
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/10/03
    ジャーナル フリー

    精神神経疾患において嗅覚特性に注目が集まっている。発達障害においても例外ではない。自閉スペクトラム症では,DSM-5において嗅覚を含めた感覚特異性は診断基準となっている。筆者は,児童思春期を中心に診療従事している精神科医師である。筆者が従事している児童精神科外来では全例に嗅覚特性について聴取しているが,ASD児が食事のにおいや体臭のにおいに慣れることができず不適応となる例を相当症例経験してきた。中には家族が早い段階で嗅覚特性について認識していたケースもあるが,周りから理解してもらえないケースも多かった。ASD児の嗅覚特異性は社会不適応につながっている可能性があり,バイオマーカーとしても注目されている。一方でASDの嗅覚特性は閾値上にも特徴があるが閾値下により強い特徴を認める可能性がある。今後本分野の理解が進み,解明が進むことがASDの支援に重要であり,本分野のさらなる発展を期待する。

  • 稲田 祐奈
    2023 年 44 巻 1 号 p. 54-59
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/10/03
    ジャーナル フリー

    幼児期や小児期など発達の早い段階でコミュニケーションや行動面で困難が見られる自閉スペクトラム症(以下,ASD)では,感覚の敏感さや鈍感さが見られる。嗅覚も例外ではなく,ASD児では健常児に比べて嗅覚力に関して健常児との差異が生じることが示されている。しかし,現状,日本には幼児に対して実施できる標準化された嗅覚検査はなく,幼児の嗅覚力を客観的に測定することは困難である。そこで,日本人成人用の嗅覚検査を改変して幼児に適用できないかと考えた。この方法が,臨床現場での実用化を目標とする際に最速かつ最良の方法と考え,現在,既存の成人用嗅覚検査を用いて,通常は必要のない手続きを加えることで,健常児及びASD児のデータ取得を進めている。どのような方法で実施が可能となり,未だどのような点が問題となっているのか,研究を通して明らかになってきたことを紹介する。

シンポジウム3―日本小児呼吸器学会との合同シンポジウム:小児OSA 診療の現状と課題
  • 加藤 久美
    2023 年 44 巻 1 号 p. 60-63
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/10/03
    ジャーナル フリー

    小児の閉塞性睡眠時無呼吸(OSA)は学業不振や日中の認知・行動の問題など発達面に影響を及ぼすことが知られ,睡眠障害国際分類第3版の診断基準に「眠気,多動性,行動上の問題または学習上の問題」が含まれている。認知・行動の問題はOSAの重症度とは相関せず,いびきのみであっても影響すると考えられている。OSAのモデル動物実験において,海馬や前頭葉の構造的,神経化学的な変化を引き起こすとの報告や,OSA児の磁気共鳴スペクトロスコピーにて海馬・前頭葉の傷害を認めたとの報告があり,脳機能への影響が示唆される。大規模前向き研究においてアデノイド・口蓋扁桃摘出術後に経過観察群に比べ有意に行動面の問題が改善したとの結果より,治療介入が重要であると考えられる。一方,神経発達症児にいびきやOSAが一般よりも多いとの研究報告がなされており,小児OSAの診療では発達面の問題に着目する必要がある。

  • 若槻 雅敏
    2023 年 44 巻 1 号 p. 64-68
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/10/03
    ジャーナル フリー

    当院では2020年7月より県内の小児歯科との医科歯科連携を開始した。主にアレルギー性鼻炎に伴う口呼吸の是正に取り組んでおり,治療介入後に約9割で口呼吸から鼻呼吸への改善を認めている。顎顔面形態の成長は6歳までに成人の60%,11–12歳までに90%が完成するといわれており,正常発育の面で小児期は非常に重要な時期である。アレルギー性鼻炎やアデノイド増殖症などによる鼻呼吸障害が続くと,慢性的な口呼吸となり,顎顔面形態の成長に悪影響を与え,将来的に閉塞性睡眠時無呼吸(OSA)の原因となる可能性が指摘されている。その解決のために口呼吸の弊害に関して共通認識を持つ小児科・耳鼻咽喉科と歯科による医科歯科連携が必須である。

原著
  • 太田 有美, 阪本 浩一, 齋藤 和也, 福井 英人, 櫟原 崇宏, 廣瀬 正幸, 愛場 庸雅, 岡崎 鈴代, 川島 貴之, 東川 雅彦, ...
    2023 年 44 巻 1 号 p. 69-77
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/10/03
    ジャーナル フリー

    大阪府ではNHS後の精査は開始当初から2段階方式で行っている。2013年1月~2017年12月までに精密聴力検査機関を受診した児でNHS実施歴がある1966人について聴力の程度及び補聴介入状況を調査し解析した。両側難聴758人,一側難聴429人,両側正常734人,不明45人であった。両側50 dB以上の難聴は352人であり出生数の0.1%であった。2段階方式の運用は少ない現状が示されたが,スクリーニング機関から直接の紹介よりABR施行病院を経ての紹介の方が精密検査で難聴ありの率が高く,2段階方式のメリットが示された。一方で両側難聴の診断にもかかわらず補聴介入されていない例も少なからず認められた。人口も医療機関も多い大阪府では2段階方式を機能させることは適切な時期に検査・介入する一助になると考えられ,そのために耳鼻咽喉科だけでなく産科,小児科,自治体とも協力関係を築いていくことが必要である。

  • 勝沼 紗矢香, 大津 雅秀
    2023 年 44 巻 1 号 p. 78-85
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/10/03
    ジャーナル フリー

    先天性片側外耳道閉鎖症例に対する臨床管理は,従来,外耳道閉鎖側(患側)と反対側の聴覚評価,言語発達の評価,また患側の外耳道真珠腫の有無に留意することが主であり,患側の難聴への介入は行われないことが多かった。しかし近年,片側外耳道閉鎖症例に対し幾つかの聴覚補償手段が登場しており,当院ではまず,手術が不要な軟骨伝導補聴器を勧めている。今回,当院を通院する先天性片側外耳道閉鎖症例51例につき,その臨床像と管理の状況を,診療録よりデータを抽出・集計した。補聴器を購入したのは11例で,10例が軟骨伝導補聴器を,1例が気導補聴器を購入していた。ほとんどの症例で,きこえの改善が得られた。このうち聴覚専門の療育に繋がっているのは4例であった。今回の結果から,まずは患児と保護者に,一側性難聴によるきこえの困難さと療育の必要性を伝えることが重要で,それにより聴覚補償手段が有効に活用できるようになると思われた。

  • 宮本 真, 齋藤 康一郎
    2023 年 44 巻 1 号 p. 86-89
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/10/03
    ジャーナル フリー

    思春期とは子供から大人への成長の移行期とされ,男女のホルモンが分泌され第二次性徴の出現や成長スパートなど身体の急激な変化が生じる。第二次性徴の一つに変声があり,声の変化から変声期が検討され男子は12歳代,女子は男子より早い時期に起こるとされる。今回われわれは変声を身体的変化,つまり子供から大人の声帯への変化と考え,それぞれの声帯長から変声開始年齢を推定した。

    方法は年齢から小児声帯長の推定式と成人の平均声帯長から計算した。

    計算式から推定した変声開始年齢は男子12.83歳,女子10.33歳であり,男子より女子の方が早い時期に起こっていた。小城成長研究データにおける男子はピーク成長率時の年齢(12.89歳),女子は思春期開始時の年齢(10.1歳)に非常に近似していた。小児と成人の声帯長から推定した変声開始年齢は,概ね現在の日本人における変声期の年齢に当てはまると思われた。

症例報告
  • 前田 優, 小森 正博, 兵頭 政光
    2023 年 44 巻 1 号 p. 90-96
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/10/03
    ジャーナル フリー

    神経鞘腫はシュワン細胞由来の良性腫瘍である。口腔に発生する神経鞘腫は稀である。今回,われわれは舌に発生した稀な神経鞘腫の1例を経験したので報告する。症例は10歳女児。2年前から右舌根部の腫瘤を自覚するも放置していたが,腫瘤の増大と痛みを自覚するようになったため受診した。右舌縁後方~舌根部に径1.9 cm大で弾性硬の腫瘤性病変を認めた。MRIで腫瘤は境界明瞭で,T1強調にて低信号,T2強調にて淡い高信号を呈し,ガドリニウムにて辺縁部が造影された。神経鞘腫や唾液腺由来の腫瘍を疑い,CO2レーザーを用いて経口的に腫瘤を摘出した。病理組織学的検査により,Antoni A型の神経鞘腫と診断された。由来神経は不明で,神経脱落症状も認められなかった。術後経過は良好で,術後1年10カ月を経過して再発を認めていない。

  • 各務 雅基, 宮腰 浩世, 及川 敬太
    2023 年 44 巻 1 号 p. 97-102
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/10/03
    ジャーナル フリー

    先天性梨状陥凹瘻は下咽頭梨状窩から甲状腺背側に向かって発生する先天性の瘻孔であり,幼少期に急性甲状腺炎や頸部感染症を契機に発見されることが多いが,新生児期では頸部腫瘤や呼吸症状を呈し発見されることがある。

    症例は日齢6の女児。出生時より左側頸部に約3 cm大の腫瘤を認めNICUより紹介。頸部超音波検査,CT検査にて左側頸部に単房性嚢胞を認めた。穿刺吸引にて黄色の内容液を吸引し腫瘤は縮小したが,哺乳開始に伴い再び増大した。喉頭内視鏡検査にて,吸引した液体と同様の液体が左梨状陥凹から排出されるのを認め先天性梨状陥凹瘻と診断した。日齢20に直達喉頭鏡下での瘻管閉鎖術を試みるも,術中に瘻孔を同定できず頸部切開排膿術のみを施行した。日齢48に瘻管閉鎖術を施行し,左梨状陥凹に瘻孔を認め10%硝酸銀にて焼灼した。術後は頸部腫瘤の増大なく経過している。

    新生児期,乳児期の瘻孔閉鎖術において,10%硝酸銀は有効な薬剤であると考えられた。

  • 五十嵐 丈之, 高橋 さとか, 甲州 亮太, 小野 綾乃, 野田 昌生, 森本 哲, 西野 宏, 新田 清一, 伊藤 真人, 金澤 丈治
    2023 年 44 巻 1 号 p. 103-110
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/10/03
    ジャーナル フリー

    ランゲルハンス細胞組織球症(Langerhans cell histiocytosis: LCH)は,抗原提示細胞の形質を示すモノクローナルなLCH細胞が浸潤する小児に好発する炎症性腫瘍疾患である。本症では治療による寛解後も長い経過中に晩期合併症や二次癌を生じて生活の質が低下することが懸念される。今回,寛解後に甲状腺乳頭癌(PTC)を生じた多発骨型LCHの1例を報告した。症例は15歳男児で,9歳時に右側頭部および左股関節にLCH病変を認め,日本ランゲルハンス細胞組織球症研究グループ(JLSG)-02プロトコールに従い化学療法で完全寛解を得た。しかし,5年後に両側リンパ節転移を伴うPTCを発症し当科に転科した。甲状腺全摘出術および両側頸部郭清術を行い,術後に放射線ヨウ素内服療法を行った。LCHおよびPTCともにBRAF V600E変異陽性であった。13年を経た現在,無病生存している。LCHは耳鼻咽喉科領域の病変で発症することが多く,PTCを続発することがあるため耳鼻咽喉科医が留意すべき疾患である。

  • 中西 わか子, 杉戸 亮介, 川脇 和世, 津田 幸子, 物部 寛子
    2023 年 44 巻 1 号 p. 111-115
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/10/03
    ジャーナル フリー

    小児のめまいの多くは良性発作性めまい,または前庭性片頭痛であることが報告されているが,少数ではあるが内リンパ水腫を疑う症例も混在している。2018年より難治性メニエール病,遅発性内リンパ水腫に対する中耳加圧治療が保険適応となりその有効性が示されているが,小児のめまいに使用した報告はない。

    今回,川崎病罹患後に低音障害型感音難聴,耳鳴,反復性めまいを呈し,保存的治療に抵抗性で,内リンパ水腫同定の検査の一つであるcVEMP tuning property testが陽性を示し,内リンパ水腫を疑う所見が得られたため,中耳加圧治療に踏み切った症例を提示する。治療導入後,めまい症状は著明に軽快し,内服薬もすべて中止することができ,登校も可能となった。内リンパ水腫の存在が疑われる難治性小児めまい例への中耳加圧治療は一助となり得ると考えられた。

  • 西口 達治, 大脇 成広, 清水 猛史
    2023 年 44 巻 1 号 p. 116-120
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/10/03
    ジャーナル フリー

    乳幼児の鼻腔・咽頭領域に発生した過誤腫を2例経験した。症例1は3歳女児。出生1ヶ月後より時々喘鳴があり,生後2ヶ月時に当院を受診した。舌根部左側に有茎性で表面平滑な腫瘤を認めた。診察時喘鳴などの症状はなく,哺乳状態も良好であったため経過観察し,3歳時に摘出術を施行した。病理組織学的に過誤腫と診断した。症例2は4歳女児。1歳頃より鼻閉,いびきがあり,感冒時に増悪したため受診した。左後鼻孔を閉塞する表面平滑な有茎性腫瘤を認めた。腫瘤の基部は鼻中隔後端にあり,内視鏡下鼻副鼻腔手術で全摘出した。病理組織学的に呼吸上皮腺腫様過誤腫(respiratory epithelial adenomatous hamartoma: REAH)と診断した。過誤腫はある組織に固有の組織成分が過剰に発育した病変で,咽頭領域での報告はまれである。REAHは鼻副鼻腔や咽頭に発生する過誤腫で中高年に偏在する傾向があり,症例2のような例は極めてまれである。悪性腫瘍と合併や再発の報告があり,手術による全摘出を要する。

  • 田端 克彦, 荒尾 正人, 川名 宏, 岡田 慶介, 味原 さや香, 武者 育麻, 古賀 健史, 板澤 寿子, 大竹 明, 秋岡 祐子
    2023 年 44 巻 1 号 p. 121-125
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/10/03
    ジャーナル フリー

    中耳炎に対するピボキシル基含有抗菌薬(PCAB)の長期投与により二次性カルニチン欠乏症に伴う低血糖性脳症を呈した1歳5か月児の症例を経験した。患児は中耳炎に対して近医耳鼻咽喉科でセフカペンピボキシルを6か月間で合計100日以上にわたり間欠的に処方されていた。摂食不良と発熱を契機に全身性けいれんと意識障害,自発呼吸停止を呈した。血糖1 mg/dLが判明し糖液投与後は自発呼吸が再開した。さらに病歴から低カルニチン血症を疑いレボカルニチンを投与し,血糖は基準値内を維持した。低血糖性脳症に対する治療後,意識状態は改善し,以後も発達遅滞なく経過している。

    PCABは短期間の投与でも二次的にカルニチン欠乏症とそれに伴う低血糖を呈し,脳症や後遺症を残す例もある。急性中耳炎の臨床診断や抗菌薬の選択,投与期間などについても啓発し,指針となる急性中耳炎診療ガイドラインの内容をより浸透させる必要がある。

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