小児耳鼻咽喉科
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43 巻, 3 号
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巻頭言
特別講演
  • 近藤 康人
    2022 年 43 巻 3 号 p. 271-275
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/03/31
    ジャーナル フリー

    特定の花粉アレルゲンに感作されると,新鮮な果物や生野菜を摂取した際にIgE抗体の交差反応によって口腔内に限局した即時型アレルギー症状を来すことがある。この病態を花粉-食物アレルギー症候群(以下PFASと略す)という。症状は通常,口腔アレルギー症候群(以下OASと略す)の臨床病型を示す。

    我が国においてもカバノキ科花粉の飛散地域においてバラ科食物のPFASがみられる。一方,ヒノキ科花粉におけるPFASの原因アレルゲンはpolygalacturonaseファミリーによる報告のみであった。しかし近年,南欧でヒノキ花粉症患者にモモやオレンジのPFASが報告され,交差抗原性の原因としてgibberellin-regulated protein(以下GRPと略す)の関与が示された。そして2020年,本邦スギ花粉においてGRPが同定され,新規アレルゲンCry j 7として登録され,注目されている。

教育セミナー
  • 竹内 万彦
    2022 年 43 巻 3 号 p. 276-280
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/03/31
    ジャーナル フリー

    線毛機能不全症候群(primary ciliary dyskinesia: PCD)は,線毛に関連する遺伝子の変化(バリアント)により生ずる遺伝性疾患である。およそ2万人に1人の罹患とされている。

    PCDの症状は年齢によって異なる。出産前ではエコーで内臓逆位が確認できる。内臓逆位のおよそ4分の1はPCDである。新生児期では正期産で出生したPCD患者の約75%は新生児呼吸窮迫を呈し,数日から数週間の酸素投与を要する。高頻度に多呼吸,咳嗽,肺炎をきたし画像で無気肺を認めNICUにて管理されることも多い。小児期では慢性湿性咳嗽が特徴である。肺炎を繰り返すことも多く,画像上無気肺を呈することもある。

    診断は①鼻腔一酸化窒素産生量の測定,②鼻粘膜を擦過し,線毛の電子顕微鏡検査,線毛の免疫蛍光顕微鏡検査,高速ビデオカメラによる線毛運動の観察,③遺伝学的検査の順に行うのがよい。

  • 種市 尋宙
    2022 年 43 巻 3 号 p. 281-285
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/03/31
    ジャーナル フリー

    新型コロナウイルス感染症(COVID-19)によりわれわれ人類の生活は一変した。わが国でもCOVID-19は猛威を振るい,第一波において当地では感染者が急増し,小学校における複数児童感染例が発生した。その対応を通す中で,教育との連携が始まった。子どもたちの日常を取り戻す,をスローガンとして,様々な学校の生活,行事の感染対策を見直し,緩和の方針で対応した。2020年秋の段階ですでにマスクを外した合唱コンクールを実施し,それらは独自に作成した指針に基づいて行われ,クラスターの発生は1件も認めなかった。このような経緯の中で医療と教育の間で強い連帯感,信頼関係が結ばれ,子どもたちの生活を守る戦いは今なお続いている。コロナとの共存において,医療と教育の連携は極めて重要であり,各地で子どもたちの生活環境が少しでも改善することを願っている。

臨床セミナー
原著
  • 藤井 宗一郎, 太田 有美, 佐藤 崇, 鎌倉 武史, 森鼻 哲生, 猪原 秀典
    2022 年 43 巻 3 号 p. 291-296
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/03/31
    ジャーナル フリー

    2012年4月~2020年12月に大阪大学医学部附属病院耳鼻咽喉科・頭頸部外科にて耳小骨奇形に対してアブミ骨手術を行った小児症例14例17耳について検討した(年齢3~13歳,男児8例10耳,女児6例7耳)。舩坂の分類ではmultifocal奇形が約半分を占めていた。使用したピストンはテフロンワイヤーピストン(TWP)8耳,テフロンピストン(TP)5耳,マレウスアタッチメントピストン(MAP)4耳であった。術後6か月の聴力は耳科学会の基準での成功率は94%と良好であったが,気骨導差10 dB以内は48%であり,当科で手術を施行した耳硬化症例と比較して成績は劣っていた。気骨導差はmonofocalよりmultifocal,TWP・TPよりMAPが有意に大きいことから,キヌタ骨の奇形,ツチ骨・キヌタ骨の固着等,他の奇形を伴う割合が高く,それに伴うMAP使用率の高さが要因と考えられた。

  • 増田 佐和子, 臼井 智子
    2022 年 43 巻 3 号 p. 297-304
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/03/31
    ジャーナル フリー

    最近4年間に機能性難聴と診断された小児105例(女児70%,年齢のピーク8歳)を検討した。2020年は例年と異なり7~9月の受診が突出して多く,SARS-CoV-2パンデミックの影響と考えられた。主訴は本人または周囲の難聴の訴えが53%,健診での指摘が42%,その他5%であった。21%に何らかの心因が認められ,初診時に21%に発達上の問題や神経疾患,心身症の既往や合併があった。診断結果は両側機能性難聴70%(うち2%は感音難聴合併),片側機能性難聴30%であった。健診による受診群の方が訴えによる受診群よりも有意に低年齢であったが,心因の有無や難聴側・程度に差を認めなかった。診断後発達などの専門家の関与が必要と判断されたのは49%で,症状による受診例,重度難聴を呈する例が多かった。機能性難聴の対応には発達障害や発達遅滞,心身症などの問題を見逃さず関連する専門家と連携することが重要である。

  • 水本 結, 樫尾 明憲, 尾形 エリカ, 赤松 裕介, 小山 一, 浦中 司, 山岨 達也
    2022 年 43 巻 3 号 p. 305-312
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/03/31
    ジャーナル フリー

    小児人工内耳手術は低年齢化が進んでおり,本邦の人工内耳報告書の集計結果からも適応年齢の低下が確認できている。一方で,4歳以上で人工内耳手術が行われていた症例も一定割合存在するが,早期に手術を行わなかった経緯は定かではない。今回我々は,当院で2000年から2019年にかけて人工内耳手術を施行した4歳以上の小児例について手術に至る経緯を検討した。手術までの経緯は,「より若年で適応と考えられた症例」,「適応判断が困難であった症例」,「病因による症例」に分類でき,直近10年とそれ以前を比較しても「病因による症例」の割合はほぼ変化はなく,「適応判断が困難であった症例」の割合が減少傾向であり,「より若年で適応と考えられた症例」の割合についてはむしろ増加傾向にあることが分かった。早期人工内耳を進めるにあたり難聴診断およびその後の人工内耳適応判断に関わる啓発を今後も積極的に行う必要性があると考えられた。

  • 岡田 怜, 大竹 正悟, 笠井 正志, 直井 勇人, 橘 智靖
    2022 年 43 巻 3 号 p. 313-318
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/03/31
    ジャーナル フリー

    背景 薬剤耐性(以下,AMR)菌に対し2016年にAMR対策アクションプランにより抗菌薬削減量などの目標値が提示された。一次救急施設では小児に対して抗菌薬が多く処方される傾向があるが,これまで耳鼻咽喉科での処方動向の報告はない。

    方法 2015年から2019年までに姫路市休日・夜間急病センター耳鼻咽喉科を受診した15歳以下の患者への経口抗菌薬処方を後方視的に調査し,全抗菌薬処方率,1,000患者あたりの各抗菌薬処方件数等を算出した。

    結果 全抗菌薬処方率は60%程度を推移した。1,000患者あたりの処方件数は第3世代セファロスポリン系抗菌薬が442から218,カルバペネム系抗菌薬が59.7から4.7へ減少し,アモキシシリンが128から386へ増加した。

    結語 処方動向変化を認め,AMR対策に基づき作成されたガイドラインの効果の可能性がある。耳鼻咽喉科と小児科で連携し調査を継続する。

症例報告
  • 頌彦 由丹, 深美 悟, 中島 逸男, 栃木 康佑, 滝瀬 由吏江, 今井 貫太, 永島 裕美, 常見 泰弘, 田中 康広, 春名 眞一
    2022 年 43 巻 3 号 p. 319-324
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/03/31
    ジャーナル フリー

    川崎病は全身の血管炎によって発熱や発疹,粘膜炎など様々な症状を引き起こす疾患である。4歳以下の小児に発症することが多く,合併症は多岐にわたる。難聴も冠動脈瘤と並んで比較的高頻度に生じるとされ,川崎病を診療にするにあたり重要な合併症である。しかし,川崎病に併発する難聴の認知度は低く,低年齢であるが故に患児も難聴を訴えることが少ないため発見が遅くなり,十分な治療が行えない場合がある。

    今回,3歳の女児で川崎病発症後に親の声かけに反応が悪いことを契機に発見された両側難聴の症例を経験した。速やかに他覚的聴力検査を用いて難聴の診断を行い,ステロイドの全身投与により難聴の改善を認めた。

  • 宮田 卓, 有本 友季子, 仲野 敦子
    2022 年 43 巻 3 号 p. 325-329
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/03/31
    ジャーナル フリー

    喉頭軟弱症は新生児ないし幼児期の吸気性喘鳴の原因として広く知られるが,学童期~青年期での後天性喉頭軟弱症は報告が少ない。今回,われわれは学童期に発症した喉頭軟弱症に対し,外科的治療が奏功した一例を経験した。喉頭内視鏡所見では披裂部型と披裂喉頭蓋ヒダ短縮型の合併型であり,強い吸気時には披裂部余剰粘膜の内陥を認め,喉頭蓋がΩ型に変形した。後天性喉頭軟弱症に対しては保存的治療で改善をみない場合には外科的治療が第1選択である。本症例は披裂部余剰粘膜切除と披裂喉頭蓋ヒダ切離を組み合わせた声門上形成術で症状が改善した。併存症として音声チックがあり,精神科での治療介入も加えられ,術後は喉頭軟弱症の再発を認めずに経過している。学童期発症の喉頭軟弱症は本邦でも報告が非常に少なく,見過ごされている可能性があるが,耳鼻咽喉科医は喘鳴の鑑別疾患として認識し喉頭内視鏡検査で正確に診断し,適切な治療介入が求められる。

  • 飯島 宏章, 森 昌玄, 寺邑 尭信, 渡辺 稔彦, 大上 研二
    2022 年 43 巻 3 号 p. 330-335
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/03/31
    ジャーナル フリー

    食道異物に対し,咽頭喉頭手術器具で摘除した2例を経験した。症例1:ボタン電池を誤飲した11カ月男児,および症例2:既往に21トリソミー,先天性食道狭窄術後の5歳女児の食道異物(多量の毛髪)である。いずれも全身麻酔下に小児外科医により上部消化管内視鏡による摘出が施行されたが,内視鏡鉗子による把持が困難であり摘出に難渋した。このため,耳鼻咽喉科・頭頸部外科医に依頼があり,喉頭微細手術用の喉頭鏡とLaryngoforce II®把持鉗子を用いたところ,完全摘出できた。いずれの症例も頸部食道に異物は存在していた。症例1では,高電圧のリチウム電池が食道内に停留して食道壁と接触し,放電により水酸化物を産生し粘膜と癒着し,また症例2では毛髪の量が多くバルーンカテーテルや上部消化管内視鏡の鉗子での摘出は困難であったと考えられた。咽頭喉頭手術の喉頭鏡や鉗子は,小児における頸部食道異物摘出にも有用であることが示された。

  • 伊藤 華純, 高橋 優宏, 井上 真規, 小河原 昇, 村上 博昭, 榎本 友美
    2022 年 43 巻 3 号 p. 336-342
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/03/31
    ジャーナル フリー

    優性遺伝性難聴・爪ジストロフィー(Dominant deafness-onychodystrophy: DDOD)症候群は主に感音難聴と爪の変質または欠損を特徴とする常染色体顕性遺伝性疾患であり,ATP6V1B2遺伝子c.1516C>T[p.(Arg506)]変異によると報告されている。我々は遺伝子変異による先天性両側重度感音難聴に対して,両側人工内耳植込み術を施行したDDOD症候群の1例を経験した。生後3ヵ月で先天性両側重度感音難聴と診断され,遺伝学的検査によりATP6V1B2遺伝子c.1516C>T[p.(Arg506)]変異が検出された。生後5ヵ月から両側補聴器を装用するも明らかな聴性行動の変化は認めず,生後11ヵ月に両側人工内耳植込み術を施行した。人工内耳装用閾値は両側とも音入れ1ヵ月で30~40 dBと早期に安定した。聴性・発話行動評価は術前と比較して術後に改善がみられた。DDOD症候群の報告は少なく,感音難聴に対する人工内耳の有用性が明らかでないため,今後の症例蓄積が必要である。

  • 大塚 進太郎, 森本 千裕, 覚道 真理子, 西村 忠己, 山中 敏彰, 北原 糺
    2022 年 43 巻 3 号 p. 343-349
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/03/31
    ジャーナル フリー

    WFS1遺伝子変異による進行性難聴を来した小児2症例を経験したので報告する。

    【症例1】4歳1か月の女児。新生児聴覚スクリーニング(NHS)はpassであったが,1歳11か月の聴性脳幹反応検査(ABR)では両側無反応であった。2歳6か月の遺伝学的検査で,WFS1遺伝子のc.2051C>T: p.A684Vヘテロ接合型変異が検出された。3歳5か月までに両側人工内耳植込術が実施され,術後の装用閾値は良好である。

    【症例2】1歳8か月の男児。出生直後のNHSは両側referであったが,ABRの閾値は右耳40 dBnHL,左耳30 dBnHLであった。しかし生後4か月で右耳75 dBnHL,左耳70 dBnHLに上昇し,補聴器装用が開始された。1歳1か月の遺伝学的検査でWFS1遺伝子のc.2051C>T: p.A684Vヘテロ接合型変異が検出された。

    現在両症例に難聴以外の合併症は無いが,視神経萎縮など遺伝子変異に付随した症状を発症する可能性があり,耳鼻咽喉科,小児科,眼科での経過観察が必要である。

  • 河合 優一, 小谷 亮祐, 本庄 需, 山崎 一人, 鈴木 雅明
    2022 年 43 巻 3 号 p. 350-354
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/03/31
    ジャーナル フリー

    肉芽腫性口唇炎は無痛性の口唇びまん性腫脹をきたす難治性疾患である。病理組織学的には非乾酪性類上皮細胞肉芽腫を特徴とするが,発症早期では典型像を示さない場合もある。症例は13歳女児,近医歯科,小児科等で診断に難渋し,当科を受診した。口唇は下口唇を中心に口腔アレルギー症候群様の腫脹を呈していた。初診時の口唇腫脹部からの組織生検では慢性炎症が示唆され画像検査や採血検査等の臨床所見を併せて肉芽腫性口唇炎と診断した。薬物療法にて一旦は改善したが再び増大した。2×2 cm大の右頬粘膜潰瘍も生じ,頬粘膜潰瘍切除術を施行,非乾酪性類上皮細胞肉芽腫が確認された。その後も口唇の腫脹と消退を繰り返し現在まで至っている。肉芽腫性口唇炎はクローン病,メルカーソン・ローゼンタール症候群等と纏めて口腔顔面肉芽腫症として扱われ,クローン病などに発展する場合が知られている。本症例においても全身的な長期フォローが必要と考えられた。

  • 金子 真美, 杉山 庸一郎, 布施 慎也, 椋代 茂之, 平野 滋
    2022 年 43 巻 3 号 p. 355-363
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/03/31
    ジャーナル フリー

    心臓血管外科手術後に哺乳時のむせを認め,経管栄養管理となっていた小児2例に対し,頸部への干渉波電流刺激療法を導入し経口での全量摂取を確立した症例を報告する。両症例の初回嚥下造影検査では混合型誤嚥を認めた。また,呼吸と嚥下の協調性が低下していた。嚥下造影検査で干渉波電流刺激による嚥下機能改善即時効果が得られたため,直接訓練時に頸部への干渉波電流刺激装置を使用し,各症例の問題に応じて食事形態の調整や姿勢調整等の環境設定を行った。その結果,約1カ月後に経口での全量摂取が可能となり,嚥下造影検査では喉頭侵入を認めなかった。間接・直接訓練による介入が難しい小児,特に乳幼児への摂食嚥下障害に対して,干渉波電流刺激と食形態の選択,姿勢調整を組み合わせた嚥下リハビリテーション治療の可能性が示された。

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