先天性真珠腫の占拠部位から Stage 分類が試みられている。しかし,この分類は欧米で多いとされている前上象限(ASQ)から発生した病変が,後方に向かって進展する病態を反映した分類になっている。本総説では,アジアと欧米で先天性真珠腫の占拠部位に関する差があるかを検討するため,最近10年間に当科で手術を行った先天性真珠腫31例について Potsic による Stage 分類を適用してその臨床像を検討した。次に病変の局在に関するシステマティックレビュー/メタ分析を行った。
当科の症例を検討すると,真珠腫の局在に関しては,Stage I,IIの86%(6/7)が鼓室前方に位置する病変であった。これに対し,Stage III,IVにおいて鼓室前方に位置する症例は 2 例のみで,50% (12/24)が鼓室後方の病変であった。末武らが報告した当科の1990年前後の40例と比較検討すると,Stage IIIが依然として60%以上で最多を占めた。PSQ に発生して Stage IIIに分類される例が多く,欧米の ASQ 型で Stage Iに分類されるケースが過半を占める状況とは異なることは,先天性真珠腫の発生母地の多様性を支持すると考えられた。
先天性真珠腫の局在に関するシステマティックレビュー/メタ分析では,アジアからの報告例のメタ分析での ASQ,PSQ に病変のある率は各々,0.54と0.69であった。従ってアジアでは ASQ よりも PSQ に病変がある例が多い傾向であった。一方,欧米の報告例の分析から得られた発生率は,ASQ が0.76と高値であるに対し,PSQ は0.59であった。従って,病変の存在部位は ASQ の方が PSQ より多いという,アジアと逆の傾向を認めた。これは ASQ に発生した病変が後方の PSQ に進展する例が多いという Potsic らの進展経路を反映した結果と考えられた。Attic,及び mastoid の存在部位に関しては,アジアと欧米で明らかな違いは見られなかった。
先天性真珠腫の病態には諸説あり,未解決な点も多いが,病変の発生母地にアジアと欧米で,何らかの相違がある可能性が示唆された。Potsic ら
1)の進展度分類方法は国内外から予後と相関することが報告されており,これに ASQ に病変を有するか否かを追記することで,よりグローバルに適応できると考えられた。
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