六甲鶴甲断層運動観測室(以下,「六甲鶴甲」と略す)において実施されてきた地殼変動の連続観測結果を用いて,大月断層の破砕帯付近の岩盤の力学的特性が調べられた.1977~1984年の観測から求められた永年変化の平均ひずみ速度は,10
-6~10
-5/年のオーダーであった.このような大きなひずみ速度は,弾性ひずみではなく,粘性流動あるいは塑性流動によるものと考えられる.また,1984年5月30日に山崎断層で発生したM5.6の地震(Δ≒60km)に伴って観測された余効変動は,震源の変位が弾性的に伝播してきたものと考えるには大きすぎ,地震発生に関連して生じた地殼応力の再配分による観測点付近の粘弾性変形であると考えられる.これらの観測結果を説明するための破砕帯付近の岩盤の力学モデルとしては,Maxwell要素とKelvin-Voigt要素の直列結合であるBurgersモデルが適当である. 六甲鶴甲での永年変化の最大せん断ひずみ速度の観測値と六甲諏訪山観測点で測定された水平最大せん断応力の値とを用いて,Maxwell要素の粘性係数の値を推定すると,破砕帯の外部では7×10
18Pa・s,内部では1×10
18Pa・sが得られた.また,地震の余効変動の時定数と六甲鶴甲の岩盤の弾性定数とを用いて,Kelvi-Voigt要素の粘性係数の値を推定すると,破砕帯の外部では7×10
14Pa・s,破砕帯内部の最も強く破砕された場所では2×10
14Pa・s,その他の破砕帯内部では4×10
14Pa・sが得られた. これらの粘性係数の値をもつBurgersモデルの力学的特性によって,気圧変化に起因する地殼ひずみ変化の観測結果をある程度説明できることが確かめられた.また.今回求められたMaxwell要素の粘性係数の値は,西南日本の第四紀地殻変動から推定されている地殼の平均的な粘性係数の値1.5×10
21Pa・sと比べて,約2~3桁も小さい.さらに,その値は,根室半島沖の地震発生サイクルとそれに関連する地殻の上下変動から推定されているプレート境界の粘性係数の値10
18Pa・sとオーダーで一致する.これらのことから,求められた粘性係数の値は,活断層付近の地殼の粘性係数としてほぼ妥当なものであると考えられる.
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