日本毒性学会学術年会
第43回日本毒性学会学術年会
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ワークショップ6 経済産業省プロジェクト 新規反復投与毒性試験代替法の開発:ARCH-Tox
  • 小林 久美子, 鈴木 紀之, 斎藤 幸一
    セッションID: W6-6
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/08/08
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    神経毒性は、化学物質の胎児期や幼若期曝露により引き起こされる発達神経毒性と、大人への曝露によって引き起こされる神経毒性が知られている。特に子供の脳への影響は、大人になってからも持続することから、その安全性評価に関して社会的関心は高い。現在、これら神経毒性の評価手法として、動物を用いたガイドライン試験が存在しているが、動物愛護、コスト、時間の観点から、多くの既存化学物質に対して動物試験を実施することは不可能である。そのため、経済産業省プロジェクトの一環で、神経毒性物質を精度高く、効率よくスクリーニングするためのin vitro神経毒性試験法を開発してきた。
    神経系は、発達の過程において、分化、増殖、細胞移動、神経突起伸展等、さまざまなイベントを経由して、最終的に正しく機能する脳を形成する。化学物質は個々のイベントに作用し、いろんな発現機序で神経毒性を生じさせる。我々は幅広く神経毒性を捉えるために、マウスES細胞を利用し、神経細胞への分化成熟度の異なる発達ステージで化学物質を曝露させることで、複数の毒性機序に対応した試験方法を考案した。
    発達初期では、神経分化マーカー遺伝子を利用した神経分化アッセイを、発達後期ではハイコンテントイメージングを使って神経突起の長さ等を自動的に定量化する神経突起伸展アッセイを、成熟期では神経細胞とグリア細胞の共培養において、それぞれの細胞への影響を簡便なルシフェラーゼアッセイで評価する神経毒性アッセイを構築した。本シンポジウムでは、3つの試験についてそれぞれ約20化合物のデータを評価した結果について報告する。
    なお、本研究は経済産業省(METI)の支援を得て行った。
就職活動支援プログラム 安全性研究者の活躍の場の広がり
  • 小山 直己
    セッションID: JH-1
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/08/08
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     医薬品開発における非臨床安全性研究の使命は,新規医薬品候補化合物が持つ毒性のヒトへのリスクを実験動物や細胞を用いた安全性試験により明らかにすることで,創薬の一翼を担うことである。安全性研究は,化合物の探索から申請まで,医薬品開発の全ステージに関わる研究分野であり,得られたデータはヒトへのリスクを明らかにする上で,重要な判断材料の一つとなる。
     探索研究においては,候補化合物の選択及びその最適化のために,膨大な数の化合物をスクリーニングする必要がある。その手法として,in vitroハイスループットスクリーニングが発展し,更に近年では,コンピューター上で構造活性相関(SAR;structure activity relationship)を仮想的に構築して評価するin silico解析が,特に遺伝毒性の分野で利用されている。このin silico解析は薬物動態や他の毒性の分野にも広く応用され,その重要性は急速に増大している。探索研究の段階から候補化合物の毒性発現の可能性をin silico解析を活用して早期かつ高精度に予測することで,研究開発中断リスクの低減や創薬研究全般にかかる時間や費用,人的資源の効率化が図れるだけでなく,患者様に1日でも早く安全な医薬品を届けるという究極の目標を実現できると期待される。
     現在,私はin silico毒性予測システムを活用した「毒性を回避するドラッグデザイン」を目指して,遺伝毒性業務を中心に研究に取り組んでいる。本講演では,遺伝子突然変異,染色体異常などの遺伝子傷害を引き起こす医薬品候補化合物を検出するための遺伝毒性試験の概要,さらには遺伝毒性分野におけるin silico評価系について述べるとともに,探索研究における毒性研究者の役割の一端を紹介したい。
  • 土居 正文
    セッションID: JH-2
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/08/08
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    2016年1月、フランスにおける治験(第Ⅰ相試験)で死亡事故が起こった。また、過去には薬害と呼ばれる、医薬品の副作用が原因となる医療事故も起こっている。ヒトにおける安全性の担保、すなわちヒトで医薬品による事故を起こさないことは、医薬品開発における毒性研究の最も重要な目的であり、毒性研究者の重要な役割のひとつでもある。非臨床安全性試験の結果は、ヒトにおけるリスクアセスメントおよびリスクマネージメントを実施するための大変重要なデータとなる。そのために、細胞や各種動物を用いた非臨床毒性試験のデータを臨床試験の実施計画や市販後の適正使用に反映させる必要がある。治験に協力頂けるボランティアの方々や患者さんの安全性を最大限考慮した臨床デザインを考えることが必要であり、非臨床の毒性研究者も臨床試験に興味を持ち、より安全な医薬品を開発するために努力しなければならない。
    安全性試験には、一般毒性(いわゆる単回投与・反復投与毒性)、遺伝毒性、安全性薬理、生殖発生毒性、がん原性などがあり、また検査・評価項目として、例えば一般毒性では、臨床検査、病理、トキシコキネティクスなどがある。このように毒性研究は、多岐にわたる専門性が必要な分野であり、幅広い知識と技術を駆使することで、候補化合物を安全な医薬品として育てていく分野である。本講演では、一般的な医薬品開発の流れと各ステージにおける毒性研究、安全性試験の関わり方の概略を説明する。また、過去の薬害等を通じて毒性研究者が果たして来た役割を解説する。
  • 寺田 雪子
    セッションID: JH-3
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/08/08
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    弊社の事業活動の原点は、消費者・顧客の立場にたった“よきモノづくり”である。様々な生活用品を提供することによって、世界の人々の豊かな生活文化の実現に貢献することを目指している。弊社は、化粧品やヘアケア製品、衣料用洗剤、住居用洗剤、健康機能飲料、サニタリー製品、工業用化学品と幅広く事業を展開おり、安全性科学研究所は、信頼と安心を支える技術で事業に貢献するために、日々研究に取り組んでいる。
     化粧品は、新製品発売や改良が高い頻度で行われるが、そこには新しい原料や処方技術、使用方法や容器などが提案される。また、高齢者や乳幼児といった多様な対象者に向けた商品提案もある。安全性評価の際には、それらを正しく理解することで安全性上の課題を抽出し、適切な評価を行うことが重要だと考える。原料の安全性項目としては、皮膚刺激性や皮膚感作性、眼刺激性、変異原性、全身毒性といったヒト健康に関するものや生分解性や水生生物毒性といった環境に関するものが挙げられる。我々は、化粧品の安全性評価のために動物を用いた試験は行わず、既存の安全性情報と動物実験代替技術(in vitroin silico)を組み合わせて用いている。さらに、安全性評価の精度向上のために、皮膚感作性や眼刺激性や反復投与毒性の代替技術の開発も注力テーマとして取り組んでいる。
    製品の安全性の確保には、商品開発の全てのステージでの確認が必要である。内容物に対する科学的な安全性リスク評価や実使用時の確認および法規的な確認に加えて、お客さま一人一人に安全に安心して使用していただけるように、使用方法や容器、使用上の注意の記述内容などにも安全性の視点を入れている。近年は特に、グローバルな研究活動に対応してグローバルに安全性研究を推進することも求められている。
    本発表では、化粧品開発における安全性評価研究の取り組みとともに、多岐にわたる安全性研究者の役割について紹介したい。
  • 宅見 あすか
    セッションID: JH-4
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/08/08
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    当社は21世紀の人類社会の課題である「健康な生活」、「食資源」、「地球持続性」の課題解決に向けて、事業を通じて明日のよりよい生活に貢献することを行動規範とし、食品事業においては、おいしく食べることで健康な社会を作る、限りある資源を代替する、独自性の高い高付加価値素材の開発を推進している。代表的な製品形態として、機能性食品、甘味料、風味調味料等が挙げられるが、これらの開発において最も優先されることは安全性の確認であり、自社に探索/開発安全性の機能を有して必要な安全性試験を実施し、チーム一丸となって製品を上市に導く点は他の業界と共通である。安全性研究グループは毒性研究者の第一の活躍の場として、グループ員がそれぞれの専門性を発揮しながら、素材探索、コンセプト確認、開発戦略策定、上市に係る資料整備まで、段階に応じた安全性上の課題の抽出及び評価を担う、食品開発企業においても必要不可欠な存在となっている。
    食品の開発/製造/販売の場面では、安全性評価の専門家以外の関係者に対して、実験データに基づく「安全」を、「安心」に展開することの重要性が増している。科学的なデータに基づく安全性の証明に加え、データの信頼性確保、全世界を対象としたリスク情報の入手及び意思決定スキームの理解、また、受け手側の立場に応じた対話の機会を持つこと(リスクコミュニケーション)を実践し、最終的に製品を使用いただく生活者の皆様に「安心」を届ける取り組みが求められる。これらの要所において、毒性研究者は科学的かつ実践的な判断力を備えた人材として研究所外にも活躍の場を拡げ、世界中の様々な領域にて業務に当たっている。
    本発表では、いくつかの事例を交えながら、食品開発企業にて期待される毒性研究者の役割と、その拡がりをご紹介したい。
  • 翁川 謙一
    セッションID: JH-5
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/08/08
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    医薬品は期待する薬効だけでなく、適切に使用しても避けられない副作用がある。そのため製薬企業は非臨床、臨床、市販後のいずれにおいても適切な安全性評価に基づくベネフィット/リスクのバランスを管理する必要がある。安全性評価を担当する部署は、非臨床の安全性部門と臨床から市販後を担当するファーマコヴィジランス(Pharmacovigilance、以下PV)部門がある。非臨床においては、毒性実験等を中心とした化合物の安全性評価を行い、人への臨床試験が開始されるとPV部門による安全性評価が行われる。PVは直訳すると薬剤監視と特有の表現であるが、欧米企業では一般的であり、近年グローバル化の影響から国内においても採用している企業が増えている。PV活動の目的は、ベネフィット/リスクのバランスを管理する中で、許容できないリスクから患者さんを未然に守ることである。PV担当者は、臨床から市販後において、投与された患者さん個別の症例における副作用情報や、関連する研究論文等の安全性情報を国内外から収集、評価し、規制当局へ報告する一連のPV活動を行い、必要な場合には措置を講ずる。開発時は、「医薬品の臨床試験の実施の基準に関する省令(GCP)」規制下、治験に参加されている被験者の安全性を中心とした評価を行う。市販後には、使用実態下における臨床現場からの安全性情報として、MR(医薬情報担当者)等を介して情報を収集する。市販後の安全管理体制は「医薬品、医薬部外品、化粧品、医療機器及び再生医療等製品の製造販売後安全管理の基準に関する省令(GVP)」で規制されている。市販後の場合、合併症等の様々なリスクを有する患者さんに処方され、処方された患者さんをすべて把握することが困難となるため「医薬品の製造販売後の調査及び試験の実施の基準に関する省令(GPSP)」に基づく製造販売後調査というPV活動も実施される。
    本演題では、開発時と市販後におけるPV担当者の業務とその具体例を紹介したい。
特別賞
  • 山本 雅之
    セッションID: SP
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/08/08
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     近年の科学技術の発展は、私たちの生活を豊かなものにした一方で、多くの化学物質を産出し、それらの生体に対する有害作用が時として社会問題をひき起こしていることも否めない。高齢化社会の進展に伴い、生活習慣病の罹患者数が急増しているが、加齢に伴う生体防御の衰えがこうした病態の基盤をなしていることも理解され始めている。すなわち、環境中の毒性化学物質や私たちの体に内在するストレスの処理能力の維持が、私たちの生存と健康保持に極めて重要である。これらのストレスへの応答のためにも、生体防御機能の深い理解が必須である。
     赤血球分化や機能発現制御過程の解明に取り組む過程で、転写因子NF-E2の分子実態がp45と小Maf(sMaf)因子の形成する2量体であることに気がついた。この発見は、CNC因子群とsMaf因子群の2量体からなる転写因子群が存在することを明らかにしたパラダイムシフトであった。ところで、毒性学の分野において、以前から化学物質(特に、親電子性毒物)による発がんが抗酸化剤の前投与により抑制できること(化学発がん予防)、また、本事象は第2相解毒酵素群の誘導発現を基盤としていることが知られていた。第2相解毒酵素の遺伝子群には、共通して抗酸化剤応答配列(ARE)と呼ばれる制御配列が存在していることから、AREにある種の転写因子が結合して遺伝子発現が誘導され、化学発がん予防が惹起されるものと予想されたが、実際にはその実態解明はたいへん難航した。
     私たちは、ARE結合転写因子は赤血球系NF-E2と同様のメカニズムを採用している可能性に気がつき、この仮説を検証した。この過程で、CNC群因子Nrf2を同定し、また、Nrf2遺伝子欠失マウスを作成・解析して、Nrf2とsMafの2量体が実際にAREに結合して第2相酵素群遺伝子を活性化する転写因子の本体であることを突き止めた。さらに、長い間謎であった親電子性毒物と酸化ストレスのセンサーであるKeap1を発見し、Keap1-Nrf2制御系が生体防御において中心的な役割を果たしていることを明らかにした。また、Keap1-Nrf2制御系の解析を進め、本系の機能障害がさまざまな疾患の分子基盤を形成していることを見出した。さらに、Nrf2活性制御が疾患の予防と治療に有効であることを実証した。この成果をうけて、現在、Nrf2活性化剤が多発性硬化症の治療薬として承認されており、糖尿病性腎症の治療薬も実用化にも近づきつつある。
     Keap1-Nrf2制御系の分子メカニズム解明は、基礎生命科学において極めて重要な概念の確立をもたらした。平常時には、Nrf2はKeap1により迅速に分解されているが、細胞が酸化ストレスや親電子性毒物に曝露されると、Keap1が失活してNrf2分解が停止する。その結果、Nrf2は細胞内に蓄積し、様々な生体防御遺伝子群の発現を活性化する。これにより細胞はストレスに対する抵抗力を増大させる。すなわち、環境ストレス応答の実態はKeap1によるNrf2の恒常的分解による抑制からの「脱抑制」である。そして、Keap1の反応性システイン残基がこれらの環境ストレスを鋭敏に感知する。ストレスセンサーの分子基盤は「システインコード」(システイン残基修飾による遺伝子発現制御)である。
     このように、本研究は環境ストレスに対する生体応答メカニズム研究領域におけるフロンティアを開拓しており、その成果は毒性学の発展に大きく貢献するものと確信している。
学会賞
  • 鍜冶 利幸
    セッションID: GA
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/08/08
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     重金属の毒性学は,イタイイタイ病や水俣病などの公害を契機として本格的に展開された伝統ある研究領域である。研究対象となったカドミウムおよびメチル水銀の毒性研究は,毒性の表現形であるイタイイタイ病および水俣病の病理を解明する研究から低濃度長期曝露を念頭においた基礎研究に移行しつつある。そのような背景のもと,私は重金属の血管毒性—特に血管内皮細胞毒性—に着目した。すなわち,重金属は血管内皮細胞を経ることなく器官実質細胞に到達することはできず,したがって重金属の器官毒性の理解にはその重金属が引き起こす内皮細胞の機能障害を考えなければならないと考えたからである。
     内皮細胞は血管内腔を一層に被い,血液と器官実質細胞を隔てる障壁として存在している。内皮細胞は多様な機能を有するが,血液凝固・線溶系の調節は特に重要である。その調節に対する重金属の毒性発現を検討し,カドミウム,鉛,メチル水銀がそれぞれ異なる作用様式で血液凝固・線溶系の調節に異常をもたらすこと,およびその一部にPTP1Bの阻害に基づくMAPK系の活性化やKeap1/Nrf2系の活性化が関与することを明らかにした。また,カドミウムの細胞毒性については,メタロチオネインだけでなく金属輸送体ZIP8(SLC39A8)の発現レベルが重要であることが分かった。
     化合物には有機化合物と無機化合物が存在するが,その両方の特性を有する有機金属化合物および錯体分子を有機–無機ハイブリッド分子(ハイブリッド分子)と呼ぶ。ハイブリッド分子はGrignardやWittigらの先駆的科学者によって分子変換反応に活用され,爾来,有機元素化学は飛躍的な発展を遂げている。一方,ハイブリッド分子の生命科学研究への貢献は,それに比べると皆無に等しい。研究の過程で,メチル水銀がハイブリッド分子であることに気づいた。その特徴は,ハイブリッド分子の生物活性がその構成要素の活性とまったく異なることである。この法則が他のハイブリッド分子でも同様ではないかと考え,バイオ元素戦略(バイオオルガノメタリクス)を提唱した。これは「ハイブリッド分子の生物活性に寄与する特定元素の役割を理解し,それを生命科学研究に活用する」研究戦略である。
     この研究を推進するために,2012年に東京理科大学総合研究院にバイオオルガノメタリクス研究部門が設置された。物理系および化学系研究者との共同によって,ハイブリッド分子の細胞毒性が同一の分子構造でも導入金属の種類によって全く異なることを明らかにした。そして,そのメカニズムにハイブリッド分子内の電子状態が関与する可能性を見出した。内皮細胞のメタロチオネインは無機亜鉛では誘導されないというきわめて特異な特性を示す。亜鉛錯体ライブラリーを活用してこれを解析し,転写因子MTF-1の活性化だけでは内皮細胞メタロチオネインの誘導は起こらないことを突き止めた。さらに内皮細胞においてメタロチオネインを誘導する銅錯体を見出し,これを活用して内皮細胞メタロチオネインの誘導シグナルを検討した。その結果, MTF-1–MRE経路はMT-1およびMT-2の誘導に関与するが,MT-1の誘導にはNrf2–ARE経路の活性化も必要であることが分かった。
     以上をもとに,伝統的な金属毒性学から発展したバイオ元素戦略(バイオオルガノメタリクス)が毒性学の新しい発展につながる可能性について述べたい。本研究を共に遂行した多くの共同研究者と院生・学生諸君に心より謝意を表する。
奨励賞
  • 佐能 正剛
    セッションID: SY1
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/08/08
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     チトクロームP450(CYP)は、化学物質や医薬品の化学構造に対して、水酸化反応や脱アルキル化反応などの酸化代謝をつかさどり、極性の高い代謝物を生成させ体外に排泄を促す解毒機構を有する。しかし、代謝物が毒性発現の原因となることもある。
     化学物質の部分構造にある芳香環はCYPによって酸化されフェノール性水酸基を導入した代謝物を生成するケースは多い。実際、工業原料スチルベンや防カビ剤ジフェニールは、肝ミクロソーム画分で反応させると芳香環のパラ位水酸化代謝物が生成した。内分泌ホルモンのエストロゲン系を撹乱させる化学物質の探索の中で、未変化体はエストロゲン受容体に対して活性をもたないものの、その代謝物はエストロゲン作用を示すことが分かった。これは代謝物の化学構造が、エストラジオールの部分構造と類似していることに基づくものと示唆された。
     このように代謝を考慮した評価を行わなければ、代謝物のみに毒性を有する化合物の毒性を見逃す可能性がある。また、生体における代謝的活性化による毒性は、さまざまな薬物代謝酵素の寄与の中で評価する必要もある。生体を反映した毒性発現を簡便に評価するためには、種々の薬物代謝酵素活性を維持したin vitro評価系が必要となる。その中で、細胞塊(スフェロイド)を形成させることで、生体の細胞内環境を模倣していると期待される3次元培養系に着目しながら、肝細胞in vitro評価系を構築してきた。スフェロイドが形成するまでは、薬物代謝酵素の発現量が低下するものも見られたが、スフェロイドが形成されるとその発現量は概ね一定に維持することが分かった。評価系の構築の中で、CYPによる反応性代謝物生成により肝毒性を惹起することが知られる解熱鎮痛剤アセトアミノフェンをスフェロイドに曝露したところ、還元型グルタチオン減少に基づく、細胞生存率低下が観察され、生体で見られる代謝的活性化による肝毒性を3次元培養系において再現することができた。
     さらにリン脂質の指標となる蛍光プローブを用いて、薬剤誘発性リン脂質症の代謝的活性化の可能性について追究した。薬剤誘発性リン脂質症評価は化合物の物性パラメータを用いたin silico評価が有用であり、一般にclogPやpKaが高い化合物がリン脂質症を引き起こす可能性があるといわれる。抗ヒスタミン薬ロラタジンは、in silico評価では陰性であったが、in vivo評価では陽性となる医薬品であった。ロラタジンを3次元培養系に曝露し、共焦点レーザー顕微鏡を用いて観察したところ、in vivoでみられるロラタジン誘発性リン脂質症を再現できた。またCYP阻害剤を添加することにより代謝物の寄与が明らかとなり、それはN-脱アルキル化された代謝物デスロラタジンであると示唆された。デスロラタジンは、ロラタジンに比べclogPが減少するものの、pKaは増加する化合物である。一般にN-脱アルキル化代謝物は未変化体に比べ、pKaが高くなることから、これは薬剤誘発性リン脂質症の代謝的活性化の鍵となる代謝反応であることを実証できた。
     また、酸化反応ではCYP以外の薬物代謝酵素(Non-CYP)としてアルデヒドオキシダーゼ(AO)による代謝反応も注目されている。代謝物による毒性発現に関する報告は少ないが、生成される代謝物の物性は、未変化体よりclogDが上がるケースもあること、また、代謝反応には過酸化水素も産生されることから、AO代謝による毒性発現の可能性を提起している。今後non-CYP酵素についても化学構造と代謝的活性化に関する研究が重要となる。
奨励賞
  • 竹田 修三
    セッションID: SY2
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/08/08
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     演者は、化学物質 “ケミカル” をツールとして「健康体を障害(がん化)する要因について、その分子機構を解明し、がん化要因の消去法の考案・構築を行う」というビジョンで研究を展開してきた。代表的ながん抑制遺伝子であるp53は、抗がん剤に対する治療感受性に関与することが知られており、p53が「異常」であれば抗がん剤が奏功し難くなる。実際、p53の変異はヒトがん患者の中で最も高頻度に見出される。そこで我々は、p53に依存しない “ケミカル” に注目し、p53のstatusが異なる3種類のがん細胞株(MCF-7細胞: 野生型p53、MDA-MB-231細胞: 変異型p53、およびHL-60細胞: p53の発現を欠損)を用いて、これら3種類の細胞に死滅作用を示す天然物由来成分のスクリーニングを行った。その結果、セスキテルペンラクトンの1つである(–)-xanthatin (オナモミの果実の成分) が見出された。しかし、オナモミ中に含まれる(–)-xanthatin含量は極めて少なく、市販品も存在しないことから、(–)-xanthatinの化学合成系を確立した (Tetrahedron, 66: 8407, 2010)。
     本研究では、独自に合成した(–)-xanthatinによるp53非依存的ながん細胞死の誘発機構の解明を目指した。DNAマイクロアレイ解析および種々の生化学的解析により、(–)-xanthatinがGADD45γを選択的に発現誘導することが明らかとなった (Chem. Res. Toxicol., 24: 855, 2011; J. Toxicol. Sci., 38: 547, 2013)。これまでにGADD45γの選択的誘導剤は知られていなかったが、GADD45γは、がん抑制遺伝子(遺伝子変異はまれ)として機能し、制がんの分子標的として注目されている。次に、(–)-xanthatinによるGADD45γの発現誘導機序の解明に着手した。(–)-XanthatinがDNA断片化を伴わない細胞死を誘導すること、さらにはCdc2-cyclin B1の発現低下を来したことから (Chem. Res. Toxicol., 24: 855, 2011)、この細胞死の誘因としてDNAトポイソメラーゼ IIα (Topo IIα)の関与が示唆された。(–)-XanthatinはTopo IIα活性に対し、抗がん剤であるetoposideと同様に強力な阻害作用を示した (Toxicology, 305: 1, 2013; Bio. Pham. Bull., 37: 331, 2014)。Topo IIα阻害はDNAダメージに繋がり、GADD45γはDNA damage-inducible geneでもあることから、本遺伝子が(–)-xanthatinにより誘導されたことは合理的である (Toxicology, 305: 1, 2013; Fundam. Toxicol. Sci., 2: 233, 2015)。しかし、「Topo IIαの阻害活性を有するものであれば、何でもGADD45γ誘導を来すのでは」という疑問が生じる。(–)-Xanthatinは分子中に親電子部位を有し、細胞内レドックスバランスの破綻を来たすことが予想され、持続したROS産生が確認された。さらに、ラジカル捕捉剤により、(–)-xanthatinによるROS生成およびGADD45γの発現が抑制されたことから、GADD45γの誘導におけるROSの関与が示唆された。GADD45γ mRNAの半減期はコントロール群と比較して、(–)-xanthatinにより8倍以上延長した。この安定化は、Topo IIα阻害を示すが、ROS産生能を持たない(–)-xanthatinアナログでは確認されず、また、ROS誘導剤だけではGADD45γの発現を来すには不十分であった。従って、(–)-xanthatin によるGADD45γの発現誘導は、Topo IIα阻害により誘導されたGADD45γが恒常的に産生されるROSにより安定化されることで生起すると推察された。発がん機序に関係する膨大な数の遺伝子や因子が存在するが、制がん戦略の標的としてのがん抑制遺伝子GADD45γの確立を目指して今後さらなる研究を進めていきたい。
一般演題 口演
  • Eti Nurwening SHOLIKHAH, Mahardika Agus WIJAYANTI, Mustofa MUSTOFA
    セッションID: O-1
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/08/08
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    Antangin Fit is Indonesian herbal medicine syrup which containing: Zingiber officinale, Phyllanthus niruri, Curcuma domestica, Blumea balsamifera, honey, and Menthae piperitae oil. This study was conducted to evaluate the acute and sub chronic oral toxicity of Antangin Fit in rats and the immunostimulatory activity in mice. The acute toxicity study was conducted on 50 Wistar rats, divided into 4 treatment groups and 1 control. The Antangin Fit syrup with dose of 4.7, 7.52, 12.03, and 19.25 mL kg-1 was administered as a single dose orally. Each animal was observed for the first 24 h and continued for 14 days. There were no significant toxic effects and no death observed until the end of the study, showed that the lethal dose 50% (LD50) of Antangin Fit was > 19.25 mL kg-1. The subchronic toxicity study was conducted on 80 Wistar rats. The Antangin Fit syrup with doses of 4.7, 9.5, and 19.25 mL kg-1 day-1 for each treatment group were administered for 90 days orally. There were no significant toxic effects observed at all dose. The immunostimulatory activity was observed on the ability of macrophage to stimulate phagocytic activity and secretion of Reactive Oxygen Intermediates (ROI), and lymphocyte proliferation on 80 male Swiss mice. The Antangin Fit syrup at dose of 18.36 kg-1 day-1 stimulate nonspecific phagocytic activity of normal mouse peritoneal macrophages. Phagocytic and production of ROI by peritoneal macrophages and lymphoproliferative response also increase during Listeria monocytogenes infection. These findings indicated the immunostimulatory activity of Antangin Fit.
  • Dwi Aris Agung NUGRAHANINGSIH, Eko PURNOMO
    セッションID: O-2
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/08/08
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    Background: Non-steroid anti-inflammatory drug (NSAID) is one of the most common medicines given before, during and after operation, including colon anastomosis operation. Some research shows that NSAID can delay wound healing process. However, research about NSAIDs contribution in the colon anastomosis wound healing is not known yet. Objective: We aim to investigate the effect of various NSAID on anastomosis wound healing process in rats. Methods: Study was conducted on rat model of colon anastomosis. The rats were divided into 4 different groups. The groups treated either with diclofenac, metamizole, paracetamol or placebo. Three days after colonic anastomosis procedures, rats were sacrificed. Histologic study was done on hematoxylin eosin stained specimen. Result: Diclofenac and metamizole groups showed less sign of anastomosis wound healing signs compare with those on placebo and paracetamol groups. Discussion: NSAIDs administration halted inflammation whereas it is needed in wound healing process. Inflammation contributes to the production of cytokines and growth factors needed for anastomosis wound healing. Therefore, NSAIDs with strong anti-inflammatory effect such as diclofenac and metamizole, show less colon anastomosis wound healing due to strong inflammation suppression. Conclusion: NSAIDs administration after colonic anastomosis affects anastomosis wound healing. Therefore choosing NSAIDs with sufficient analgesic effect but less anti-inflammatory are suggested.

    Keywords: NSAIDs, wound healing, inflammation, colon anastomosis
  • 関本 征史, 田野辺 潤, 成瀬 理紗, 山下 夏樹, 遠藤 治, 出川 雅邦
    セッションID: O-3
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/08/08
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    【目的】我々はこれまでに高血圧治療薬であるNicardipine(NIC)と芳香族炭化水素受容体(AhR)リガンドである3-methylcholanthrene(MC)をヒト肝がん細胞株HepG2に複合曝露することで、AhR活性化やCYP1酵素の相乗的な誘導が起こり、MC-DNA付加体形成が増強されることを報告している(Cancer Sci. 101, 652, 2010)。この相乗的誘導にはNICによるMCの細胞内取り込みの増強や排出抑制などが関与しているものと推察されているが、その機構は明らかではない。本研究では、MCの細胞内動態が異なる可能性のある種々細胞株を用いて、NIC単独またはMCとの複合曝露によるCYP1酵素遺伝子の発現を比較検討した。
    【方法】ヒト由来細胞株として、HepG2、A549、Caco-2、MCF-7、Hela、IshikawaおよびLNCaP細胞を使用した。48時間前培養したこれらの細胞株に、低濃度MC(0.1 µM)の存在下または非存在下、Nic(10 µM)を処理した。24時間処理後、Total RNA を抽出し、定量的RT-PCR法によってAhR標的遺伝子(CYP1A1またはCYP1B1)のmRNA量を測定した。さらに、HepG2およびA549細胞由来のAhRレポーター細胞を作成し、AhR活性化に及ぼす複合影響を評価した。
    【結果および考察】今回用いた細胞のうち、CYP1A1の誘導はMCF-7で最も高く、対照群に比べてMC単独で11.8倍、NIC単独で9.5倍、複合処理群では75.1倍となった。また、A549およびHela細胞を除く他の細胞においても、NICはMCによるAhR標的遺伝子の発現を増強した。そこで、AhR標的遺伝子発現誘導が異なるHepG2とA549細胞から樹立された各AhRレポーター細胞株を用いてAhR活性化を解析したところ、HepG2由来細胞ではNICによる相乗的複合効果が見られ、A549由来細胞ではそのような効果が見られなかった。本研究により、NICとMCの複合処理に対するAhR活性化応答性が異なる細胞株が見出された。現在、これら細胞株を用いて、NICとMCによる相乗的AhR活性化関わる細胞内因子の解明を進めている。
  • 西川 真衣, 八木 聡美, 大原 直樹, 立松 憲次郎, 内藤 由紀子, 奥山 治美
    セッションID: O-4
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/08/08
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    【背景と目的】雄性脳卒中易発症高血圧自然発症ラット(SHRSP)に食餌中脂肪源としてカノーラ油を与えると短命になる(対照は大豆油摂取群)。このとき、血漿中テストステロン濃度は低下し、アルドステロン濃度は上昇する。本研究では、これらのホルモンの生成に関わる酵素にカノーラ油摂取が及ぼす影響を調べた。
    【方法】脂肪を含まないAIN-93 組成の飼料に10w/w% 大豆油(対照群)または 10w/w% カノーラ油を加えた飼料を、雄性SHRSP(Izm/ SLC、5週齢)に8週間与え、精巣および副腎組織のステロイド産生急性調節タンパク質(StAR)、コレステロール側鎖切断酵素(CYP11a)、17αヒドロキシラーゼ、17,20リアーゼ(CYP17)および3βヒドロキシステロイドデヒドロゲナーゼ、副腎のCYP11b2のmRNAおよびタンパク質発現を比較した。
    【結果】カノーラ油は精巣のStAR、CYP11a、CYP17および3βHSDのmRNA発現を抑制し、副腎のCYP11b2のmRNA発現を促進した。タンパク質の生成はCYP11aに於いて著しく抑制されたが、StARおよびCYP17では影響が認められなかった。
    【考察】LC/MS/MSによるステロイドホルモンの測定結果とあわせると、カノーラ油摂取の影響は精巣と副腎で異なる。精巣がカノーラ油の毒作用の標的と考えられる。副腎でのCYP11b2のmRNA発現促進と血漿中アルドステロン濃度の上昇から、カノーラ油がCYP11b2を直接抑制する可能性もあるが、テストステロンがアルドステロン産生を生理学的に制御している場合、その抑制が阻害された可能性もある。

    利益相反はなし。文科省科研費26350133
  • 遠山 千春
    セッションID: O-5
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/08/08
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     食品や環境中の化学物質の毒性から生態系を保全し、人の健康を保護するために、国内外で法律が整備され、毒性試験ガイドラインが定められている。日本では、化審法、農薬取締法がこれに当たる。法律の主旨に則れば、感受性が高い胎児・新生児、鋭敏に反応する体質、ならびに抵抗力が低い高齢者や病人を念頭において、化学物質の安全性評価を行うことが求められる。悪影響を未然に防ぐには、見過ごさず、見逃がさないスクリーニングの視点が不可欠である。しかし毒性試験ガイドラインには、毒性学の原理・原則に照らすと、様々な問題がある。
     第一は、毒性ガイドラインが最低限の毒性試験の基準を決めていることに起因する問題である。ガイドラインは、どの毒性試験受託研究施設においても実行可能な、高用量投与条件で観察されるエンドポイントが主体となっている。化学物質の構造や既報により仮説に依拠したものではなく、あらかじめ決められた項目がエンドポイントとして採用されている。発達神経毒性のエンドポイントの記載もあるが、時間・費用の点で現実的に実効性があるものとはなっていない。方法も陳腐化している。
     第二は、毒性試験では複数の動物種用いることとされている。しかし、毒性に対する感受性は、毒性の種類ごとに動物種・系統により異なるのが普通であるため、どの動物種や系統を用いるかによって、NOAELやLOAEL値が大きく異なる可能性がある。
     第三に、毒性データの多くが非公開となっているため、第三者が確認・追試ができない点である。
     化学物質のこれからの安全性審査では、毒性試験ガイドラインに記載の毒性試験に基づく試験結果を用いるだけではなく、通常GLP非該当の毒性試験として学術レベルで行われる最新情報を積極的に収集し、安全性評価に反映することが、化学物質の毒性から健康を未然に守るためには極めて重要である。
  • 池田 孝則, 松本 康浩, 脇坂 武利, 三浦 慎一, 森山 賢二, 西村 千尋, 杉元 陽子, 韓 大健, 細谷 純子, 田口 和彦, 王 ...
    セッションID: O-6
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/08/08
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    医薬品の開発において、動物実験は避けられない。特に医薬品の毒性試験においては、法律、通知やガイドライン等で臨床試験あるいは承認申請に必要とされる試験が詳細に規定されている。近年の医薬品開発では、企業経済的なリソースの削減と動物福祉に対する十分な配慮が求められている。これらの視点は、新しく改訂・作成されるガイドラインにも取り入れられ、可能であれば各種の毒性エンドポイントを「まとめて」取得するような試験計画を許容あるいは推奨するものとなりつつある。製薬協、基礎研究部会KT1チームでは、複数の毒性エンドポイントを評価する「複合型毒性試験」について、公表資料(申請概要)を基にした過去の実施状況調査、及び製薬協加盟会社を対象に現状での各社の取り組み方に関するアンケート調査をおこなった。これらの調査では、単回投与/安全性薬理/遺伝毒性エンドポイントの反復投与試験への組み込み、安全性薬理コアバッテリーエンドポイント評価の組み合わせについて取りまとめた。2012~2014年に日本で承認された医薬品の公表資料の調査からは、「複合型毒性試験」が数多く実施されていたわけではなく、もし「複合型」として実施されていれば、使用動物数は削減できていた可能性が示唆された。一方、2015年末に実施したアンケート調査からは、多くの企業がこれらの「複合型毒性試験」を標準的な試験方法として取り入れつつあることが示された。ただし、「試験の評価」の適切性又は「試験の複雑化」の懸念や、「委託試験として実施する」ことの難しさ等から、未だに各エンドポイントを独立した試験として行うことを標準としている企業が多いことも示された。本調査結果から、現状での「複合型毒性試験」のトレンドが類推可能と考えられた。非臨床評価に必要なリソースの削減と、動物福祉の向上を重視し、今後の「複合型毒性試験」をさらに進めていく上では、組み込み方法の調査・研究や標準化等が必要になるものと考えられた。
  • 中西 貴士, 荒尾 拓斗, 山口 修平, 加藤 泰彦, 渡邉 肇
    セッションID: O-7
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/08/08
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    生態毒性試験において用いられる環境指標生物の中でもオオミジンコは魚類や藻類とならんで比較的汎用されている生物種であるが、従来の主たるエンドポイントは生死や産仔数であり、生物影響があった場合にもどのような影響があったのかを簡便に検出する手法がなかった。環境水の変化に応答する遺伝子の制御領域と緑色蛍光タンパク質遺伝子を融合させ、オオミジンコに導入できれば、環境水の変化を蛍光タンパク質の発現で検出が可能になる。このためには遺伝子操作技術を効率的に発展させ、高い自由度で遺伝子操作可能な技術の開発が必要である。我々はすでにオオミジンコに遺伝子を導入する技術を世界に先駆けて開発していたがこの技術をもとにさらにTALENやCRISPER/Cas9を用いて遺伝子破壊法だけでなく、レポーター遺伝子をふくめて新規な遺伝子の導入法の開発をすすめてきた。これら一連の遺伝子編集技術とレポーター遺伝子を用いた環境水のモニタリングについて報告する。
  • 梅屋 直久, 吉沢 佑基, 福田 幸祐, 池田 圭吾, 鎌田 真実, 宮脇 出
    セッションID: O-8
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/08/08
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】医薬品の開発において眼毒性を評価する方法としては、眼科学的検査、病理学的検査、ERG(網膜電図測定)などがあるが、この中でERGは器質的変化を伴わない網膜機能の異常も検知することができ、薬物誘発性の眼毒性をより早期に発見できる可能性がある。ヒトにおける眼科関連有害事象のうち、眼内閃光、光視症あるいは霧視などは、網膜の器質的変化を伴わない視覚機能異常であり、これまでは患者の自覚症状を手掛かりにし、有効な診断・診察方法は知られていない。また、このような毒性について動物を用いた非臨床の段階でその有無を検知することも困難とされている。そこで今回、我々はヒトでの眼内閃光等の有害事象が知られている医薬品(ザテブラジン等、抗不整脈薬)をラットに投与し、様々な刺激条件下でのERG波形を解析することで上記視覚機能異常に関連する変化の検出を試みた。
    【方法】LE系雌ラットに各薬剤をそれぞれ4、12、40 mg/kgで単回皮下投与し、投与後1.5 hにおいて暗順応下でフラッシュ光刺激を各強度(-4.5, -3.0, -1.0 log cd/m2・s)で照射しERG測定を行った。また、同時に血漿中濃度、網膜内濃度測定を行い、ERG波形の変化と血中・組織内濃度の相関を調べた。
    【結果】各薬剤とも用量依存的に血中および網膜内濃度は増加していた。また各薬剤とも12 mg/kg以上の用量の全刺激強度において用量相関的にERG波形のb波の潜時が延長した。
    【考察】各化合物について特徴的なERG波形の変化が検知され、それらは化合物の曝露状況、特に網膜内濃度に依存することが示唆された。本発表はこれまで非臨床で捉えられなかった薬剤性の視覚機能異常を、ラットを用いて評価できる可能性を示唆した初めての報告である。
  • 一ツ町 裕子, 岡 宏昭, 別枝 和彦, 森田 文雄, 箱井 加津男
    セッションID: O-9
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/08/08
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】肝臓の3次元培養法は,肝細胞の長期培養やより生体に近い機能維持が可能であることから,in vitroの肝毒性評価系として有用である.すなわち,化合物曝露後の細胞内の反応性をこの技術で評価することにより,ヒトでの肝毒性予測に活用できると考えられている.本研究では,HepG2細胞及びヒト肝細胞を用いたスフェロイド培養法を用いて,化合物曝露による肝毒性を形態学的評価を含めて包括的に評価し,その有用性について検討した.【方法】HepG2細胞及びヒト肝細胞を用いてスフェロイドを作製し,媒体,acetaminophen(APAP)及びtetrachloromethane(CCl4)を曝露した.経日的に細胞膜透過性,ミトコンドリア膜電位,Lipid droplet,ROS産生について各種蛍光プローブを用いて測定した.また,同時にスフェロイドの形態学的評価(直径,体積,真球率)を行い,パラフィンブロックを作製し,HE染色及び免疫染色を行い評価した.また,培養上清中のmiR-122を測定した.【結果及び考察】APAP及びCCl4を曝露したHepG2細胞及びヒト肝細胞から作製したスフェロイドは各化合物の曝露量に依存的してその形態に異常が認められた.特に,真球率は顕著な変化を示した.HE染色標本では,APAPでは細胞変性及び壊死像,CCl4ではそれに加えて空胞化の増加を認めた.各種蛍光プローブの測定では,それぞれ用量依存的に特徴的な変化が認められた.また,培養上清中のmiR-122は,化合物曝露後経日的にその値は上昇したが,HepG2よりもヒト肝細胞のほうが変化率は大きかった.以上のことから,HepG2細胞及びヒト肝細胞スフェロイドの形態学的評価,細胞内の反応性の評価及びmiR-122のモニタリングを合わせた包括的な評価系は肝毒性検出に有用であることが示唆された.
  • 佐々木 永太, 水上 拓郎, 百瀬 暖佳, 古畑 啓子, 高井 麻海子, 蒲池 一成, 山田 弘, 石井 健, 濱口 功
    セッションID: O-10
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/08/08
    会議録・要旨集 フリー
     ワクチンの安全性評価は、非臨床試験、臨床試験に加えて、ロットリリース試験として異常毒性否定試験およびマウス白血球数減少試験等が生物学的製剤基準として設定されている。我々はこれまでに網羅的遺伝子発現解析を活用した新規安全性評価法の構築を試みてきた。その結果、現在、製造されている季節性インフルエンザHAワクチンよりも副反応報告が多かった全粒子インフルエンザワクチン (WPV) 接種後のラット肺において、特異な発現上昇を示す20個のバイオマーカー遺伝子を同定することに成功した。今回、我々はワクチンの品質・安全性評価をよりヒトに近い実験条件下で実施するため、末梢血ヒト化マウス (Hu-PBL) を用いたワクチン・アジュバントの安全性試験法開発を試みた。
     超免疫不全マウスであるNOGマウス (NOD/Shi-scid-IL2Rγnull) に、ヒト末梢血単核球 (PBMC) を2 x 106-1 x 107 cells/mouseで移植したところ、移植約2週目の抹消血よりhCD45陽性細胞が検出され始め、3週目ではおおむね50%以上の細胞がhCD45陽性細胞であることが示された。hCD45陽性細胞中にはCD4陽性T細胞、CD8陽性T細胞、CD19陽性B細胞や樹状細胞などが存在していることが明らかとなった。またPBMC移植3週後の肺および脾臓においてヒトの主要リンパ球の定着が認められた。上記の条件検討によって確立されたHu-PBLにWPVを接種した結果、肺において6つのヒトのマーカー遺伝子の発現上昇が認められ、我々が同定したマーカー遺伝子の一部が、ヒトに外挿可能であることが示された。また、in vitroのPBMC培養系においても、WPV処置により一部のマーカー遺伝子発現上昇が認められ、in vitro試験系の構築やマーカー遺伝子発現メカニズム解明にむけて前進する結果が得られた。
  • 水上 拓郎, 佐々木 永太, 百瀬 暖佳, 倉光 球, 高井 麻海子, 古畑 啓子, 蒲地 一成, 山田 弘, 石井 健, 浜口 功
    セッションID: O-11
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/08/08
    会議録・要旨集 フリー
     ワクチンは感染症に対する最も有効な予防手段の一つで、高い安全性と有効性が求められる。インフルエンザウイルス感染症に関しては、全粒子ワクチン(WIV)に続いて、より安全な不活化サブユニットワクチン(HAV)が開発されたが、HAVの皮下注射では血中IgG抗体のみが誘導され、IgA抗体は誘導されない。よって感染部位の気道粘膜上において中和能力の高い分泌型IgA抗体を誘導する経鼻粘膜投与型インフルエンザワクチン(IN-HAV)の開発が注目されている。
     海外では既に経鼻粘膜投与生インフルエンザワクチンが承認されているが、HAVを用いる場合はアジュバントの添加が必要となる。しかし、以前の治験で大腸菌易熱性毒素をアジュバントとして用いた場合、顔面神経麻痺の発生が認められたことから、経鼻粘膜投与法に加えてアジュバントのより詳細な安全性評価が望まれていた。
     我々は既にWIVおよびHAVの安全性を評価することのできる20個のバイオマーカー(BMs)をトキシコゲノミクスの手法にて同定することに成功している(Mizukami et al., 2009, 2014)。そこでこれらのBMsでIN-HAVおよび新規アジュバント(CpG-K3)の安全性を評価できるか検討した。
     その結果、WIVの経鼻投与によって非常に高く誘導されるBMsがHAVではほとんど誘導されないにも関わらず、CpG-K3を添加すると容量依存的にBMsが発現上昇し、さらにBMsの発現上昇と鼻腔粘膜上皮および鼻咽頭関連リンパ細網組織変化が一致していることを明らかにした。いずれの至適CpG-K3濃度においても、WIVのBMs発現上昇率を超えないことから、本試験法においてはCpG-K3-HAVはWIVより毒性が低い製剤であることが示唆された。
     本試験法によってアジュバントおよび投与ルートの安全性を評価することが可能であることが示唆された。
  • 久保 千代美, 関口 修央, 伊藤 俊輔, 生野 達也, 矢野 まり子, 三島 雅之, 井上 智彰, 田保 允康, 千葉 修一
    セッションID: O-12
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/08/08
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】抗体医薬品は,生体に免疫応答を引き起こす活性(免疫原性)によって,患者に薬理効果の減弱,悪心,嘔気,アナフィラキシーなどの有害事象を導く場合がある。このような免疫原性を非臨床研究段階で予測することは医薬品を投与された患者の安全確保の面で重要である。抗体医薬品の免疫原性の原因となりうるT-細胞エピトープを同定する方法として,in silico予測法,HLA-binding assay法並びに液体クロマトグラフィー質量分析法(LC/MS)がある。MAPPs(MHC-Associated Peptide Proteomics)は,樹状細胞内での抗原プロセシングを経てHLA-DR分子に結合した抗原由来のペプチド断片について,ペプチドの配列をLC/MSを用いて同定する技術であり,実際の抗原提示機構に近い状態でペプチド断片を検出できる点で他の方法より優れていると考えられている。今回,我々は,MAPPsを用いて,高い免疫原性をもつ抗体医薬品と報告されているInfliximabから潜在性T-細胞エピトープの検出を試みた。
    【方法】Infliximabを添加した4名の単球由来の成熟樹状細胞からHLA-DR分子及びHLA-DR結合性ペプチドの複合体を抗HLA-DR抗体を用いた免疫沈降法により精製した。HLA-DR-ペプチド複合体から酸でペプチドを溶出し,LC/MSを用いてペプチドの配列を分析した。
    【結果及び考察】MAPPsによってInfliximabのvariable region及びconstant regionのどちらからも数種類のペプチドが同定された。同定されたペプチドはIEDBデーターベース検索からHLA-DR分子への結合性が高いことが示されたため,T-細胞エピトープになりうると考えられた。MAPPsは抗体医薬品から抗原プロセシングを受けた天然の潜在性T細胞エピトープを見つける最適な方法の一つと考えられる。
  • 佐々木 優, 吉田 映子, 藤江 智也, 藤原 泰之, 山本 千夏, 鍜冶 利幸
    セッションID: O-13
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/08/08
    会議録・要旨集 フリー
    【背景・目的】水俣病患者における病理学的所見として,小脳顆粒細胞層への選択的な傷害が認められる。当研究室はメチル水銀中毒症状を示すラットの病理組織学的観察から,小脳顆粒細胞層のアポトーシスがマクロファージなどの炎症性細胞の浸潤とともに発生することを見出した。これは顆粒細胞層の傷害に炎症性細胞が関与することを示唆している。本研究の目的は,炎症性サイトカインTNF-αに対する顆粒細胞の感受性と,メチル水銀によるマクロファージからのTNF-α分泌,とそれに関わる分子機構を解明することである。【方法】細胞傷害性は,形態学的観察および乳酸脱水素酵素の逸脱により評価した。TNF-αの発現はELISA法および定量的RT-PCR法にて検討した。MAPKsの活性化はWestern Blot法を用いた。NF-κB siRNAはリポフェクション法により導入した。【結果・考察】TNF-αを処理すると,小脳顆粒細胞およびTNF-αに高感受性である内皮細胞は顕著に傷害された。一方,TNF-αに低感受性である血管平滑筋細胞ではそのような傷害は認められなかった。RAW264.7細胞において,メチル水銀はTNF-αタンパク質及びmRNAの発現を有意に上昇させた。このとき,メチル水銀はERK,p38 MAPKおよびJNKの全てのMAPKを活性化した。JNK阻害剤(SP600125)は,メチル水銀によるTNF-α誘導に影響を与えなかったが,ERK(PD98059)及びp38 MAPK(SB203580)阻害剤により,メチル水銀によるTNF-αの分泌が一部抑制され,特にp38 MAPK阻害剤はTNF-α mRNAの誘導も一部抑制した。さらにTNF-αの誘導に関わる転写因子NF-κBの阻害剤およびsiRNAにより,メチル水銀によるTNF-αの分泌及びmRNAの誘導が消失した。以上より,小脳顆粒細胞がTNF-αに対して高い感受性を示すこと,メチル水銀によるTNF-αの発現誘導にERK,p38 MAPKの活性化および転写因子NF-κBが部分的に関与することが示唆された。
  • 石原 康宏, 竹本 拓矢, 山﨑 岳
    セッションID: O-14
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/08/08
    会議録・要旨集 フリー
     環境化学物質であるメチル水銀は、知覚障害や運動失調、視野狭窄、聴力障害など、様々な神経系障害を引き起こす神経毒である。メチル水銀の主な標的はニューロンであるが、メチル水銀はアストロサイトに優先的に蓄積することや、水俣病患者の脳で活性化アストロサイトの集団であるグリオーシスが認められることが報告されており、メチル水銀とアストロサイトとの関連性が示唆されている。そこで、本研究では、メチル水銀によるアストロサイトへの作用について遺伝子発現変化に焦点をあてて解析し、さらに、メチル水銀により生じるアストロサイト機能変化の意義について検討した。ラット初代アストロサイトをメチル水銀で処置し、液性因子の遺伝子発現を解析したところ、ニューロトロフィンファミリーである神経成長因子(NGF)と脳由来神経栄養因子(BDNF)の発現が上昇することが明らかとなった。さらに、アストロサイトは、NGF、BDNFの二量体を細胞外に放出した。メチル水銀に暴露したアストロサイトの培養液(conditioned medium: CM)は、メチル水銀刺激からニューロンを保護したが、NGF、BDNFの中和抗体やNGF、BDNFの受容体アンタゴニストにより保護効果は消失した。従って、アストロサイトはメチル水銀に応答してNGFとBDNFを合成・分泌し、メチル水銀毒性からニューロンを保護していると考えられる。アストロサイトをメチル水銀で処置すると転写因子Nrf-2の活性が上昇した。さらに、抗酸化薬の前処置により、NGFとBDNFの発現は抑制された。メチル水銀処置によりヘムオキシゲナーゼ-1(HO-1)の発現が上昇しており、HO-1の阻害薬ZnPPの前処置により、NGFとBDNFの発現が減弱した。従って、アストロサイトのニューロトロフィン発現上昇を介した神経保護作用にはNrf-2-HO-1経路が関与していると考えられる。
  • 川﨑 直人, 緒方 文彦
    セッションID: O-15
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/08/08
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】毛髪の構成成分の大部分は,酵素などにより分解されにくく,システイン含量が高いタンパク質であるケラチンである。一方,ミネラルは骨組織や電解質や酵素の成分として重要であり,体内に取り込まれた後,毛髪へも排泄される。したがって,毛髪中のミネラルを定期的に測定することにより,疾病に罹患する前に細胞レベルでの変動をみる検査に適用できる可能性がある。本研究では,毛髪中のミネラル濃度から疾病予防に関する有益な知見を得るため,疾病や生活習慣などに関するアンケート調査を行い,それらの結果と毛髪中の有害ミネラルおよび必須ミネラル濃度との関連性について検討した。
    【方法】本研究は近畿大学薬学部倫理委員会の承認に基づき,同意が得られた20~50歳代の女性605名から後頭部より毛髪を採取した。また,特定健康診査に準拠した項目について,アンケートを行った。毛髪中のミネラル濃度は ICP-MSを用いて定量し,その結果とアンケートとの関連性はロジスティック回帰分析により,また,加齢とアンケートとの関連性はχ2検定により行い,有意水準は p<0.05とした。なお,統計解析にはJMP ver.12(SAS Institute)を用いた。
    【結果・考察】アンケート結果より,加齢に伴い有意に増大した項目としては,血圧,コレステロール,骨密度に関するものがあった。また,加齢に伴い体重の増加が認められたが,食習慣が悪い女性や一年以内に体重増減のあった女性は有意に減少した。この結果から,食習慣や運動習慣は,年代が低いほど悪いことがわかった。毛髪中のミネラル濃度とアンケートとの関連性において,特に,20代では習慣的な喫煙により,鉄以外の必須ミネラル濃度は増大し,有害ミネラル濃度は増減が認められた。また,40や50代では,体格や運動習慣,食習慣などの多くの項目と毛髪中のミネラル濃度との関連性が認められた。さらに,各年代において,疾病と毛髪中のミネラル濃度との間に特徴的な関連性を認めた。
  • 岩渕 勝己, 千﨑 則正, 津田 修治, 高信 ひとみ, 渡部 春奈, 鑪迫 典久
    セッションID: O-16
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/08/08
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    【目的】残留性有機汚染物質(POPs)である有機フッ素化合物(PFC)は、広く環境中から検出され、野生動物等に蓄積して人や動物への毒性が危惧されている。本研究では、PFCsの汚染実態を把握するため、わが国の魚類、環境水、底質中のPFCs分析を行い、環境中における濃度と魚類への蓄積状況について検討した。
    【方法】サンプルは、2013~2014年にかけて岩手、茨城、新潟、石川、静岡、兵庫、山口、愛媛、福岡、長崎から採取した。魚類としてはメダカを選定し、福岡ではカダヤシも併せて採取した。環境水及び底質は各地点1サンプル、メダカは各地点20~40匹、カダヤシは12匹採取した。分析対象PFCsは、Perfluorosulfonates(CXS)のC4S、C6S、C7S、C8S、C10S、Perfluorocarboxylates(CXA)のC5A~C14Aとした。
    【結果と考察】環境水や底質からはPFOA(C8A)~C12Aが、メダカ・カダヤシからはC9A~C13A、PFOS(C8S)が高率に検出された。C8SとC9Aでは、環境水と底質の濃度間で相関が認められた。メダカとカダヤシでは、濃縮係数に差はあるものの蓄積傾向は同様であった。CXAの魚体への蓄積は炭素数に応じて増加し、C8Sの蓄積量はそれより大きかったが、オクタノール/水分配係数を考慮すると、同一の傾向が認められた。C8Sはストックホルム条約等により2009年から使用等が規制され、C8AはUSEPA主導の業界自主規制により2010年までに環境への排出量が95%削減されているにもかかわらず、未だにC8S、C8Aが環境中に残留しており、それ以外のPFCsも検出される実態が明らかとなった。このことから、今後もこの研究を継続していくことが重要であると思われた。
  • 種村 健太郎, 古川 佑介, 北嶋 聡, 菅野 純
    セッションID: O-17
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/08/08
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     建築素材の改良、住居の気密性向上から、住宅における微量の化学物質を原因とするシックハウス症候群(SHS)が問題となっている。SHSの症状のひとつとして疑われる影響に中枢影響が挙げられるが、これまでの吸入毒性試験ではSHSの指針濃度を遙かに超える暴露濃度で行われることが多く、毒性情報のヒト中枢影響への外挿が非常に困難であった。こうした問題に対応すべく、我々はSHS指針濃度程度の経気道吸入暴露系の開発と、経気道吸入暴露後の中枢影響としての情動-認知行動解析系の構築を行っている。
     今回、我々はキシレン(0、2.0 ppm: 2.0 ppmは指針値の10倍濃度)について、22時間/日×7日間反復暴露を生後11週齢の雄マウス(成熟期)に実施し、生後12週齢時の情動認知行動について、オープンフィールド試験、明暗往来試験、条件付け学習記憶試験により解析した。その結果、暴露終了日に実施した際には、条件付け学習記憶試験による空間-連想記憶能及び音-連想記憶能の低下が認められた。一方、暴露3日後に実施した際には全ての試験に有意な変化は認められなかった。この結果から、キシレンの経気道吸入暴露により学習記憶異常が誘発されるが、それは可逆的なものであると推察された。
     加えて、生後2週齢から3週齢時の雄マウス(幼若期)にキシレン(0、2.0 ppm)を22時間/日×7日間反復暴露を実施し、成熟後12週齢時に上記の行動解析を行った。その結果、条件付け学習記憶試験による音-連想記憶能の低下が認められ、早期の経気道吸入暴露によって記憶異常の顕在化が誘発されることが明らかとなり、脳発達過程への不可逆的な有害性が示唆された。
    (本研究は厚生労働科学研究費補助金:H26-化学-一般-001によるものである。)
  • 村田 里美, 藤田 克英, 中野 武
    セッションID: O-18
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/08/08
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    【目的】PCBsの代謝産物である水酸化(OH-)PCBsは甲状腺ホルモンに構造が類似していることから、脳神経への影響が懸念されている。これまで高塩素OH-PCBsが小脳プルキンエ細胞の樹状突起伸長に影響を及ぼすことが報告(Kimura-Kurodaら、2007)されているが、低塩素OH-PCBsが神経細胞に及ぼす影響は未だ明らかにされていない。本研究は20種類の1~6塩素OH-PCBsを神経細胞分化のモデルであるラット副腎髄質由来のPC12細胞に暴露することで、神経細胞に与える影響を比較検討した。
    【実験方法】PC12をDMEM培地(10%FBSと10%HSを含む)で1日間培養し、細胞を付着させた後、NGF (50ng/L)と各OH-PCBs(10-100ppm)を含む同培地で培養した。2日間培養後、乳酸脱水素酵素活性の測定から細胞損傷を検討し、In Cell Analyzer 2000を用いて細胞形態観察を行った。
    【結果と考察】使用した20種類のOH-PCBsのうち1~3塩素のOH-PCBsは4~6塩素に比べ、PC12に対し高い細胞損傷を示した。同じ塩素数でも構造により毒性が異なり、特に1塩素OH-PCBsでは4OH-4’CBが、3塩素OH-PCBsではパラ位にClとOHが存在するOH-PCBsが100ppm暴露で60%以上の細胞損傷を示した。PC12は通常星形の細胞形態を示すが、2日間のOH-PCBs暴露により紡錘型の細胞伸長が観察された。特に1塩素(4OH-2CB, 4OH-3CB, 4OH-4’CB), 3塩素(4OH-3,2’4’CB), 6塩素(4OH-2’3,3’4’,5,5’CB)のOH-PCBsでコントロール細胞に比べて200%以上の細胞伸長が観察された。これらの結果から低塩素のOH-PCBsにおいてもPC12細胞の異常伸長が誘導されることが推察される。
  • 梅田 香苗, 古武 弥一郎, 杉山 千尋, 宮良 政嗣, 石田 慶士, 佐能 正剛, 太田 茂
    セッションID: O-19
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/08/08
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    【目的】当研究室では、AMPA受容体を構成するサブユニットのうち、Ca2+透過性を決定するGluR2が数種類の化学物質曝露により減少し、これにより神経細胞脆弱化が引き起こされることを明らかにした。さらにAlphaLISA®を応用してin vitro GluR2発現簡便評価系を構築した。本研究ではこの評価系を用いて、GluR2発現減少を惹起する環境化学物質のスクリーニングおよび見出された化学物質による神経毒性評価を行った。
    【方法】ラット大脳皮質初代培養神経細胞に評価化学物質を9日間曝露し評価した。タンパク質発現量測定はAlphaLISA®およびウェスタンブロットにより、細胞膜上のGluR2発現量は免疫染色により、細胞内Ca2+流入量はfura-2 AMの測定により、細胞生存率はトリパンブルー法により、アセチルコリンエステラーゼ(AChE)活性はエルマン法により測定した。
    【結果・考察】43種類の化学物質をスクリーニングした結果、6種類の化学物質が新規GluR2発現減少化学物質として見出された。それらのうち、カルボフランはAMPA受容体サブユニットのうちGluR2を特異的に減少させ、その作用は0.1 µMから引き起こされた。また、GluR2発現減少はAMPA受容体が機能する細胞膜においても認められた。さらに、10 µMカルボフラン曝露により、GluR2発現減少を反映して、グルタミン酸刺激によるCa2+流入量増加およびそれに伴う神経細胞死が認められた。一方、カルボフランの既知の作用であるAChE阻害作用を測定した結果、この作用はGluR2発現減少が引き起こされる濃度よりも高濃度において惹起されていた。これらのことから、スクリーニングの結果見出されたカルボフランが、GluR2発現減少を介して神経細胞脆弱化させることが明らかとなった。これにより本評価系を用いた神経毒性試験の重要性が示唆された。
  • 鈴木 美希, 芳賀 寿々佳, 中田 裕之, 玉野 春南, 武田 厚司
    セッションID: O-20
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/08/08
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    【目的】生体へのストレス負荷は記憶獲得を障害する。これは、ストレス負荷によりグルココルチコイド(GC)分泌が増加し、海馬に作用することによる。一方、亜鉛イオン(Zn2+)は、グルタミン酸作動性神経回路を構築する海馬の神経終末に存在し、神経伝達を制御するが、過剰に神経細胞内に流入すると記憶を障害することを明らかにしてきた。また、細胞外GC濃度が増加すると、細胞外Zn2+濃度が増加し、細胞外Zn2+が神経細胞内に過剰に流入し、記憶の分子基盤とされる長期増強(LTP)の誘導を抑制すること明らかにした。したがって、ストレス負荷に伴うGC分泌の増加は、細胞外Zn2+の神経細胞内への流入量を増加させ、その後の記憶獲得を障害すると考えられる。本研究では、この考えを検証した。
    【方法】麻酔下ラットにおいて、透析膜プローブ付き記録電極を用いて、20分間コルチコステロン(CC, 500 ng/ml)を灌流し(2 µl/min)、40分後に海馬CA1領域のシャーファー側枝を高頻度刺激(100 Hz、1秒、4回、130秒間隔)し、LTP(CA1 LTP)を誘導した。また、細胞外Zn2+キレーターであるCaEDTA(1 mM)をCCと同時、またはCC灌流後に30分間灌流し、LTPを誘導した。
    【結果】LTP誘導前にZnCl2(1 µM)を灌流すると、CA1 LTPは有意に減弱した。細胞外Zn2+濃度が神経興奮により定常時(約10 nM)の100倍程度に一定期間増加すると、その後のLTP誘導は減弱されることが示唆された。そこで、CCの前灌流によるCA1 LTPの減弱における細胞外Zn2+の関与を検討した。CCの前灌流によるCA1 LTPの減弱は細胞外Zn2+キレーターであるCaEDTAをCCと同時に灌流することにより回避された。また、CCの灌流後に、CaEDTAを灌流しても同様に回避された。以上より、CCは細胞外Zn2+のCA1錐体細胞への流入量を増加させ、その後のCA1 LTP誘導を減弱させることが示唆された。GC分泌の増加を介した細胞外Zn2+の作用をブロックすることにより、ストレスによる記憶障害を回避できる可能性がある。
  • 杉山 晶彦, 祖 承哲, 黒木 雅人, 平光 彩乃, 竹内 崇, 古川 賢
    セッションID: O-21
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/08/08
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    視床下部視索前野は体温調節、性行動および睡眠に関する中枢であるが、胎児の視床下部視索前野に及ぼす化学物質曝露の影響に関する報告は少なく、その詳細は未だ明らかにされていない。葉酸代謝拮抗剤Methotrexate (MTX)は葉酸代謝過程におけるジヒドロ葉酸還元酵素の作用に拮抗阻害することによりDNA合成を阻害し、細胞増殖抑制およびapoptosisを誘発する。MTXは医療において抗癌剤、免疫抑制剤および人工流産誘発剤として用いられている。本研究では胎児性メトトレキサート症候群の脳障害における病態の全貌解明を目的として、MTXのラット妊娠期曝露が胎児の視床下部視索前野の発達に及ぼす影響を病理組織学的に検討した。[方法] 妊娠13日目 (GD13)の母ラットにMTX 90mg/kgまたはSalineを腹腔内投与し、GD13.5、14、14.5および15に胎児を採材し病理組織学的解析を実施した。[結果] MTX群のGD15における胎児生存率はControl群に比較し有意に減少した。MTX群の視床下部視索前野領域では、GD13.5よりpyknosisの増加およびmitosisの減少が誘発された。また、MTX群のGD14.5における視床下部視索前野領域の構成細胞は顕著に脱落し、GD15では構成細胞の細胞密度の低下傾向が認められた。MTX群の当該領域ではGD13.5からGD14.5にかけてcleaved caspase-3陽性率の有意な増大が認められ、また、全実験期間を通じてPhospho-histone H3陽性率の有意な減少が認められた。[考察] GD13におけるMTX曝露により、胎児脳の視床下部視索前野において顕著なapoptosisおよび細胞増殖抑制が誘発され、当該発生時期における胎児脳の視床下部視索前野領域はMTXに対し高感受性を示すことが示唆された。今後、当該病理組織学的変化が生後の脳の発達および動物の行動に及ぼす影響を関し解析を実施する予定である。
  • 駒田 致和, 河内 宏太, 井藤 早紀, 原 奈央, 長尾 哲二, 池田 やよい
    セッションID: O-22
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/08/08
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    胎児期あるいは新生児期にアルコールに曝露すると、特徴的な頭部顔面の形成異常や、発達・学習障害、行動異常などを示す胎児アルコール症候群を発症することが知られている。アルコールは妊娠・授乳中にも摂取しやすく、また他の催奇形物質と異なり毒性の閾値が明確でないこと、個人差が大きいことなどから、その危険性や発症機序を明らかにすることは急務であるが、特に発達・学習障害や行動異常の原因については不明な点が多い。そこで本研究課題では、エタノール曝露モデルマウスとして、妊娠6日から18日(12:00と18:00の2回投与、投与前2時間は絶食)まで25%(w/v)のエタノール0.5、1、2 g/kg体重をICRマウスに強制経口投与し、その胎児・新生児を用いて形態学・行動学的解析を行った。胎児期においては細胞増殖に異常が見られた。これらの異常は新生児期に、神経細胞の分布や投射の異常、大脳皮質の層構造の形成異常に繋がっていることが示唆された。さらに、新生児期と成熟期の神経機能の異常を調べるために行動解析を行ったところ、新生児期(生後1日)の振戦が増加し、成熟期においても活動量の亢進が見られた。近年、胎児期のエタノール曝露は脳内に炎症を引き起こし、それが一因となりミクログリアに影響を及ぼしていることが示唆されている。本モデルマウスにおいても、胎児期、新生児期において異常な増加や活性化が見られた。また、ミクログリアの活性に関連するサイトカイン、栄養因子、細胞外シグナルにも影響が確認された。これらの異常は、大脳皮質の発生において細胞増殖に異常を誘発し、組織構築や神経投射に影響を及ぼし、さらには新生児、成熟期に活動量の亢進といった行動異常の原因となる可能性を示した。
  • 長倉 廷, 松原 孝宜, 澤田 光平
    セッションID: O-23
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/08/08
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    A large percentage of new drugs fail in clinical studies due to cardiac toxicity. Therefore development of highly predictive in vitro assays which use clinically relevant cell-based models and are suitable for high throughput screening (HTS) is extremely important for early lead optimization process. Human induced pluripotent stem cell-derived cardiomyocytes (hiPS-CM) are especially attractive because they express ion channels which are similar to those of adult hearts and demonstrate spontaneous mechanical and electrical activity. Actually, many publications showed that QTc prolonging effect in clinical correlates with prolongation of field potential duration in electrophysiological assessment with a multi-electrode array system. At the last JSOT annual meeting, we presented a method for the assessment of cardiac toxicity of anti-cancer agents by multi-spheroid imaging analysis using hiPS-CM. In the present study, we would like to introduce a new high throughput screening method to assess proarrhythmic potential of a drug candidate as application of multi-spheroid Ca-imaging analysis.

    At first, hiPS-CM (iCell® Cardiomyocytes) was pre-cultured 7-10 days in gelatin-coated 6 well plate and then the number of 15,000 cells was seeded into 96-half well plate which has fibronectin-coated spots in each well. The spheroids formation was confirmed in a plate on all fibronectin spots after 7 days culture. Ca sensing fluorescence dye and test compounds solutions, such as E-4031, terfenadine, flecainide, chromanol293B, moxifloxacin, verapamil, cisaplide, isoproterenol, propranolol and aspirin, were added and the dynamic changes in fluorescent intensity (Ca peak) of all spheroids were measured using Cellvoyager CV7000 system. The beat rate, Ca peak duration and sign of arrhythmia were analyzed from 30 seconds captured live-image for each well at 20 minutes after compound addtiton. Detail results will be introduced in JSOT annual meeting.
  • Margaret Anne CRAIG, Victor ZAMORA, Francis BURTON, Margaret Anne CRAI ...
    セッションID: O-24
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/08/08
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    The inotropic state (IS) of the heart is a fundamental property of the cardiovascular system due to its role in determining cardiac output. Normal hearts can compensate for small decrements in IS and maintain cardiac output, but in disease states, such as heart failure or diabetic cardiomyopathy, the capacity to compensate for IS depression is limited and may adversely affect these patient groups. For this reason it is advisable to evaluate drugs in pre-clinical stages for inotropic actions. CellOPTIQ® (Clyde Biosciences Ltd), a multiparametric medium-high throughput assay platform was used in conjunction with hiPSC derived cardiomyocytes, to develop a suitable biological assay for screening inotropic actions on the heart. Both electrical activity and contractility were assessed using iCell2 hiPSC cardiomyocytes (Cellular Dynamics Inc.) using a Voltage Sensitive Dyes (VSD) and a cell motion-based contractility assay. The cells were paced at constant rate (1Hz) rate throughout. After recording the baseline activity, the cells were treated with a set of drugs with known inotropic effect. For example, the L-type calcium channel blocker Nifedipine (negative inotropic) decreased the amplitude of contraction to 51.9±5.3% of baseline at 0.1µM (n=8); this was accompanied by shortening of APD (APD90= 47.1±6.9% of baseline). Blebbistatin decreased contractility (to 59.7±6.9% of baseline) at 3µM, with minimal changes in electrical activity (APD90=86.5±2% of baseline). In conclusion, the implementation of an IS assay to the CellOPTIQ® was tested using CDI iCell2 hiPSC-CMs. The utility of this assay for cardiac safety assessment was established using several drugs with established inotropic actions.
  • 白吉 安昭, 森川 久未, 横井 文香, 山内 香織, 福村 健太, 野崎 大蔵, 末盛 博文, 久留 一郎
    セッションID: O-25
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/08/08
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     ヒト多能性幹細胞に由来する心筋細胞は、安全性薬理試験の素材として注目を集めている。実際、ICHガイドラインS7Bの見直しにおいて、ヒトiPS 細胞由来心筋の代替利用が検討されている。しかし、現時点で供用されている心筋細胞には、主に2つの問題点が指摘されている。一つは、ヒト多能性幹細胞から分誘導した心筋細胞のほとんどが幼弱な心筋であること、もう一つは、ペースメーカ細胞や刺激伝導系細胞などの特殊心筋と、心房筋や心室筋などの固有心筋とが混在し、しかも、その構成比率が、分化誘導ごとに異なっていることである。
     我々は、これらの問題に対する対応策として、心臓発生の発生生物学的マーカーや解剖学的マーカーを用いて、ヒトiPS細胞に由来する分化誘導心筋の中から特殊心筋および固有心筋を選別採取し、それぞれの心筋の特性を明らかにすることを試みている。具体的には、ペースメーカ細胞の機能および発現に関して最も良いマーカーであるHCN4イオンチャネルを特殊心筋の、そしてMLC2vミオシン軽鎖を心室筋の指標として、各種蛍光タンパク質を用いて可視化しセルソートすることによって、純化した心筋を分取することに成功した。
     現在、選別採取した心筋細胞の電気生理学的および薬理学的特性を解析中で、予備的な結果ではあるが、パッチクランプ法により、HCN4陽性細胞は、ペースメーカ細胞としての電気生理学的特性を示し、MLC2v陽性細胞が心室筋としての特性を示すことを明らかにしている。そこで、選別採取の現状と、選別採取した心筋の電気生理学的・薬理学的特性、各種薬剤応答性とその評価について報告する。
  • Xiaoyu ZHANG, Biao XI, Xiaobo WANG, Yama A ABASSI
    セッションID: O-26
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/08/08
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    The ICH S7B guidelines recommend that all new chemical entities should be subjected to hERG repolarization assay due to its association with life-threatening Torsades de Pointes (TdP) arrhythmia. However, it has become evident that not all hERG channel inhibitors result in TdP and not all compounds that induce QT prolongation and TdP necessarily inhibit hERG. In order to address the limitations of the S7B/E14 guidelines, the FDA through a public/private partnership initiated the Comprehensive in vitro Proarrhytmia assay (CiPA) initiative to examine the possible modification of the ICH E14/S7B guidelines. The three components of CiPA include voltage clamp assessment of human ion channels in addition to hERG channel, in silico modeling of electrophysiological activity and confirmation using in vitro assays on human stem cell-derived cardiomyocytes (hSC-CMs). During CiPA phase I study, 3 independent sites used iPSC-derived cardiomyocytes (iCell Cardiomyocytes) in conjunction with xCELLigence RTCA CardioECR system that allows for simultaneous measurement of cardiomyocyte field potential (FP) signal using extracellular recording (ECR) electrodes and contraction using impedance electrodes to assess the effect of 8 well-known reference compounds with different potency of proarrhythmia liability. Our data clearly shows hERG channel blockers, such as E4031 and Moxifloxacin, prolonged field potential duration (FPD) at low concentration and induced arrhythmic beating activity in both FP and impedance recordings at higher concentrations. On the contrary, Nifedipine, an inhibitor of Calcium channel, didn’t disrupt the periodicity of cell beating. However, it weakened cell contractile activity and shortened FPD. The multichannel inhibitors, such as Flecainide, Qunidine and Mexiletine, not only increased FPD, induced arrhythmia but also significantly reduced amplitude of FP spike. JNJ303, a IKs inhibitor, only affected cell electrophysiological activity through an increase in FPD. In addition, the FPD results of 8 compounds across 3 different evaluation sites appears very consistent. Taken together, this multi-parameter assay using hSC-CMs in conjunction with simultaneous measurement of ion channel activity, contractility can be a reliable tool for prediction of drug-induced proarrhythmia.
  • 石田 誠一, 堀内 新一郎, 金 秀良, 黒田 幸恵, 内田 翔子, 石田 里穂, 関野 祐子
    セッションID: O-27
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/08/08
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    [目的] 医薬品候補化合物の安全性評価をするにあたり、薬物代謝は重要な因子である。現在、医薬品開発の初期段階における薬物代謝試験には、主にヒト初代/凍結肝細胞が使用されている。しかし、ヒト肝細胞には、ドナー由来の差異や細胞の安定供給の問題点がある。そこで本研究では機能の改善が進むヒトiPS細胞由来肝細胞(hiPSC-hep)の薬物代謝能を評価し、薬物代謝試験への応用を検討した。また、薬物代謝試験にhiPSC-hepを利用するため必須の条件である安定な細胞の供給が可能か検討する目的で、ロット間、iPSCドナー間における薬物代謝能の差異についても評価した。
    [方法] 平成27年末時点で入手可能な市販のhiPSC-hepを3社(A、B、C)より購入し、薬物代謝能を比較した。併せて、同一iPSC由来で分化誘導ロットが異なる細胞(B、C社)と異なるドナー由来のhiPSC-hep(C社)を入手し、薬物代謝能を比較した。指標としては、シトクロームP450(CYP)の酵素活性(LC-MS/MS)と遺伝子発現および誘導能(リアルタイムPCR)を用いた。
    [結果と考察] B社とC社のhiPSC-hepではヒト肝臓と比較して十分なCYP発現が認められた。また、A社とB社の細胞では、典型的な誘導剤によるCYP1A1、CYP1A2とCYP3A4の誘導も観察された。B社のロットが異なる細胞では、CYP発現の基底状態における差が少なく、誘導剤によるCYP誘導も同程度に観察された。C社の異なるドナー由来のhiPSC-hepでは、一部のCYPで発現に差が認められた。今回の検討より、hiPSC-hepは、ロットやドナーの異なる細胞でも安定した結果を示しており、薬物代謝試験におけるヒト肝細胞の代替細胞となりうる可能性が示唆された。
  • 松本 晴年, 深町 勝巳, 二口 充, 酒々井 眞澄
    セッションID: O-28
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/08/08
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     これまでに我々はin vitroおよびin vivoにて沖縄県産植物のがん細胞へのcytotoxicityを明らかにした(Asian Pac J Cancer Prev 6: 353-358、 2005、 Eur J Cancer Prev 14: 101-105、 2005、 Cancer Lett 205: 133-141、 2004)。天然物質を利用することで正常細胞への低毒性を期待し沖縄県産植物芭蕉(Musa basjoo)の葉の2種類の抽出物(アセトンおよびメタノール抽出)を用いてヒト大腸がん細胞株に対するcytotoxicityとその機序を調べた。それぞれの抽出物をヒト大腸がん細胞株HT29およびHCT116にばく露し、コロニーアッセイ、MTTアッセイにてcytotoxicityを検討した。Cytotoxicityの程度はIC50値(50%増殖抑制率)にて判定した。アポトーシス(subG1 population)および細胞周期G1 arrest誘導能をフローサイトメトリー、またタンパク発現レベルへの影響をウェスタンブロット法にて検討した。HT29およびHCT116でのIC50はそれぞれ140 µg/mL(アセトン抽出物)、190 µg/mL(メタノール抽出物)および80 µg/mL(アセトン抽出物)、140 µg/mL(メタノール抽出物)であった。HT29では、アセトン抽出物(100 µg/mL)のばく露によりcontrol(DMSO処理)と比較してG1期が5.3%有意に上昇し、これに伴ってG2/M期が減少した。subG1 populationは見られなかった。HT29およびHCT116では、アセトン抽出物のばく露によりcyclin D1タンパク発現の濃度依存性の減少が見られた。これらの結果より、芭蕉抽出物にはcytotoxicityを発揮する物質が含まれることが分かった。個体レベルでの効果は不明であるため、化学発がん剤azoxymethane(AOM)を投与してラット大腸粘膜に誘発される前がん病変(aberrant crypt foci、異常陰窩巣)の発生抑制効果,およびHT29細胞を移植して増殖したヌードマウスの腫瘍縮小効果を検証する。さらに、主な臓器への毒性を検討する。
  • 岡山 祐弥, 杉山 光, 大門 孝行, 本橋 昌也, 武藤 朋子, 福島 昭治, 和久井 信
    セッションID: O-29
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/08/08
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    The modifying potential of di(n-butyl)phthalate (DBP) on the second stage, N-butyl-N-(4-hydroxybutyl) nitrosamine (BBN)-initiated urinary bladder carcinogenesis were investigated in male Sprague-Dawley rats. Six-week-old rats received 0.05 % BBN in their drinking water for 4 weeks and then DBP (0.00001, 0.0001 and 0.001% DBP group) or vehicle (tap water: Vehicle group) were given during experimental weeks 10-26. All rats were killed at the end of weeks 26 of the experiment, after then the densities of putative preneoplastic, papillary or nodular (PN) hyperplasia were revealed in the vehicle control group. The incidences of PN hyperplasia / 10 cm (basement membrane) of the low DBP dose group were similar to those of the Vehicle group, but those of the high DBP dose group was significantly lower compared to those of the Vehicle group. The present study indicated that 0.001% DBP group inhibiting effects on BBN-initiated urinary bladder carcinogenesis, and these events showed dose relationship.
  • 石井 雄二, 高須 伸二, 土屋 卓磨, 木島 綾希, 小川 久美子, 梅村 隆志
    セッションID: O-30
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/08/08
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    [背景・目的] 硫酸転移酵素の一つSULT1Aはその基質特異性と肝臓における発現量が齧歯類とヒトで異なることから、本酵素によって代謝活性化される化学物質の肝発がん性のヒトへの外挿には種差を考慮する必要がある。一方、これらの物質の中には肝臓だけでなく腎臓に発がん性を示す物質も存在する。本研究では、SULT1Aで代謝活性化される肝及び腎発がん物質のルシジン配糖体(LuP)が引き起こすDNA損傷並びに遺伝毒性への肝SULT阻害剤の影響を検索した。[方法] 10週齢の雄性B6C3F1 gpt deltaマウスにLuP及び肝SULT阻害剤のペンタクロロフェノール(PCP)を0.3及び0.02%の濃度で単独又は併用で混餌投与し、対照群には基礎飼料を与えた。PCPはLuPの投与1週間前から投与し、LuPの投与開始後4及び13週の肝臓と腎臓を採取した。4週ではSULT1Aの遺伝子発現レベル及び酵素活性レベルの検索、特異的DNA付加体測定及びDNA損傷応答因子の解析、13週では病理組織学的検索及びレポーター遺伝子突然変異原性の検索を行った。[結果] PCPの投与により肝臓のSULT1Aの遺伝子発現レベル及び酵素活性が有意に低下したが、腎臓でこれらの変化は認められなかった。LuP投与群ではLuc-N6-dA付加体の形成及びA:T-T:A transversionを特徴としたgpt変異体頻度の上昇が認められ、いずれも肝臓よりも腎臓で高値を示した。また、肝臓については今後、検索予定であるが、腎臓ではp53タンパクのリン酸化及びp21の遺伝子発現の増加と腎髄質外帯の近位尿細管で核の大小不同が高頻度に認められた。一方、PCP投与により、これらの変化は何れも抑制された。[考察] 腎臓には肝臓と同様にSULT1A遺伝子発現があるが、ヒト、齧歯類ともにその発現量は肝臓に比して著しく低いことが知られている。今回の結果からLuPの腎発がん性には肝臓のSULT1Aによる代謝活性化が寄与していることが示唆され、その腎発がん性をヒトへ外挿するには種差を考慮する必要あると考えられた。
  • 武藤 朋子, 本橋 昌也, 鷹橋 浩幸, 池上 雅博, 金井 好克, 遠藤 仁, 和久井 信
    セッションID: O-31
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/08/08
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    System L is a major nutrient transport system responsible for the Na+ -independent transport of large neutral amino acid including several essential amino acids, consisted of the L-type amino acid transporter1 (LAT1) and the heavy chain of 4F2 cell surface antigen (4F2hc), and up-regulate to support several malignant tumor cell growth in vitro. As tumor angiogenesis is critical for tumor cell growth in vivo, the present study employed an ultrastructural immunohistochemicaly analysis for clarify the LAT1/4F2hc expression at microvessels in N-butyl-N-(4-hydroxybutyl) nitrosamine (BBN) induced rat bladder carcinomas composed of many LAT1/F2hc expressed tumor cells. Normal, hyperplastic, and papilloma microvessels composed non-fenestrated typed endothelial cell, while bladder carcinoma microvessels composed fenestrated or non-fenestrated typed endothelial cells. LAT1/4F2hc exclusively distributed the luminal and abluminal cell membranes including some membranous vesicles and some lysosomes of the fenestrated typed endothelial cells, but the non-fenestrated typed endothelial cells and pericytes did not. LAT1/4F2hc expression at tumor angiogenic microvessels seemed to be responsible to supply nutrition to BBN bladder carcinoma.
  • 大西 誠, 笠井 辰也, 山本 正弘, 鈴木 正明, 平井 繁行, 福島 昭治
    セッションID: O-32
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/08/08
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    【諸言】微粉末は、気中に浮遊する性質をもつ事から、人が吸い込んだ時の呼吸器系を中心とした影響が懸念される。粉体の場合には有機化合物の蒸気圧のように、生体に侵入する影響を示す指標はない。当センターでは、新たに粉体が浮遊して呼吸器から生体内への侵入を示すリスク評価指標として浮遊係数を考案した。浮遊する極微粒子の浮遊係数の標準化を考える場合、その中の呼吸器系に到達する可能性のある極微粒子の部分だけを分粒・採取して評価する必要がある。我々は7種のナノ酸化チタンを例に、サイクロン方式による分粒方法を用いて浮遊係数を測定したので報告する。【方法】N-SHOt Cyclone(円筒形の容器のガラス容積:10L)を用いて、テフロンバインダーフィルターの重量を秤量し、サンプリングホルダーにセットする。その中にアルミ製羽根型撹拌子を入れ、1400 rpmで回転させた。その中へナノ酸化チタン0.1 gを投入し、容器上部の中心点で吸引ポンプ(2.75 L/min)により30分間捕集する。サンプリングの終了後、フィルター重量を秤量する。その秤量値から、サイクロン内中心点の濃度を算出し、対照物質(カーボンブラック)の値と比較して浮遊係数を求める。
    捕集点の濃度(mg/m3)=秤量値(mg)÷(捕集流量(L/min)×捕集時間(min)÷1000)
    浮遊係数=被験物質の濃度÷対照物質の濃度
    【結果】各ナノ酸化チタンの浮遊係数は以下の通りであった。AMT-600=0.04、MT-500B=2.01、MT-150A=2.68、MT-100SA=4.26、MT-100TV=14.08、MT-100Z=21.94、P25=61.61【まとめ】ナノ酸化チタンの浮遊係数は、P25が最も大きく、SEM観察より一次粒子間に隙間があるためであった。また、AMT-600の二次粒子は密であり、浮遊しにくい微粒子である事が明確であった。
  • 森本 泰夫, 和泉 弘人, 吉浦 由貴子, 藤嶋 けい, 大藪 貴子, 明星 敏彦, 島田 学, 久保 優, 山本 和弘, 北島 信一
    セッションID: O-33
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/08/08
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    酸化亜鉛ナノ粒子は、可視光線の透明化と紫外線の遮断能が強いことからサンスクリーン剤などの化粧品,LEDや太陽光発電パネル、UV反射用コーティング、抗菌剤、消臭剤など様々な用途における使用が期待されているが、生体影響は不明である。我々は、酸化亜鉛ナノ粒子の生体影響を検討するために、吸入暴露試験と気管内注入試験を行い、肺炎症をエンドポイントして評価を行った。吸入暴露試験に関しては、F344ラットに低濃度(2.11 mg/m3)または高濃度(10.4 mg/m3)の暴露濃度で4週間(6時間/日、5日/週)の吸入暴露を行った。1次粒子径は、35nm程度であった。曝露終了後、3日、1ヶ月後に解剖し、気管支肺胞洗浄液(BALF)の細胞解析を行った。一方、気管内注入試験に関しては、吸入暴露試験で使用した同一の酸化亜鉛懸濁液を用いてラットに0.2mg、1mg/ratの用量で気管内注入を行った。注入終了後、3日、1週間、1ヶ月、3ヶ月後に解剖し、BALFの細胞解析を行い、吸入暴露試験と同様にBALFの細胞解析を行った。
    吸入暴露試験では、酸化亜鉛は3日目の高濃度でBALFの好中球が増加したが、一過性であった。気管内注入試験では、注入1週間後までBALFの好中球数の増加を認めたが、その後陰性対照レベルまで低下した。これらの結果を、以前行った酸化ニッケルナノ粒子、二酸化チタンナノ粒子の炎症持続性を用いて比較すると、酸化亜鉛による炎症は、炎症能が低い二酸化チタンナノ粒子の概ね同じレベルであった。以上より、酸化亜鉛ナノ粒子の炎症能は、低いことが示唆された。今後は、サイトカインのデータを含め総合的に判断する。
    本研究は経済産業省からの委託研究「ナノ材料の安全・安心確保のための国際先導的安全性評価技術の開発」による。
  • 東阪 和馬, 岩原 有希, 中島 彰俊, 長野 一也, 齋藤 滋, 吉岡 靖雄, 堤 康央
    セッションID: O-34
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/08/08
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    近年、ナノテクノロジーの発展に伴い、少なくとも1次元の大きさが100 nm以下に制御されたナノマテリアル(NM)の開発研究が進展している。しかし、NM特有の有用機能が、二面性を呈してしまい、我々の意図しない生体影響を誘発する可能性が指摘されており、科学的根拠に基づいたNMの安全性情報を幅広く収集することが必要不可欠である。このような背景のもと、これまでに我々は、粒子径70 nmの非晶質ナノシリカ(nSP70)が、その物性によっては、胎仔発育不全をはじめとする生殖毒性を誘発する可能性を見出してきた。一方で、これら生殖毒性の発現機序については殆ど明らかとされていないのが現状である。そこで本研究では、nSP70曝露による生殖毒性の発現機序の一端を明らかとすることを目的に、生体防御機構に重要な好中球の役割との連関解析を図った。まず、妊娠マウスにおけるnSP70投与後の末梢血好中球画分の割合を解析したところ、nSP70を投与することで、末梢血中の好中球画分の割合が有意に増加することが示された。そこで、好中球の増加が、nSP70投与による妊娠障害の誘発におよぼす影響を解析する目的で、妊娠15日目の母体マウスに好中球特異的な中和抗体である抗Ly-6G抗体を前処置した後、妊娠16日目にnSP70を尾静脈より単回投与した。その結果、抗Ly-6G抗体を前処置したnSP70投与群では、nSP70単独投与群と比較し、母体体重の低下、および子宮中に含まれる胎仔数の減少が亢進することが示された。さらに、好中球が妊娠維持における胎盤機能へおよぼす影響を評価した結果、好中球をdepletionすることで、nSP70投与による胎盤傷害の亢進につながることが示唆された。以上の結果から、nSP70投与による母体への影響、特に、妊娠維持の破綻に対し、好中球が抑制的に働く可能性が示された。現在、好中球の存在下、非存在下におけるnSP70の血中、胎盤での定量的な動態情報の収集が今後の検討課題であると考え、現在進行形で解析を進めている。
  • 真木 彩花, 東阪 和馬, 青山 道彦, 西川 雄樹, 石坂 拓也, 笠原 淳平, 長野 一也, 吉岡 靖雄, 堤 康央
    セッションID: O-35
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/08/08
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    ナノマテリアル(NM)は、粒子の微小化に伴い、化学反応性や組織浸透性などが向上することから、近年多くの分野で普及し、我々の生活において身近なものとなっている。一方で、NMの有用機能が、予期せぬ生体影響をおよぼす可能性が指摘されているものの、そのハザード解析、およびハザード発現機序の解明に向けた検討は殆ど進展していない。本観点から我々は、化学物質による毒性発現において重要な役割を果たすことが示されつつあるエピジェネティック修飾に焦点を当て、NMの安全性評価を進めている。本研究では、最も身近なNMである銀ナノ粒子(nAg)曝露によるエピジェネティック変異、特にDNAメチル化への影響を解析した。まずDNA全体のメチル化率への影響について検討を行った。粒子径10 nmのnAg(nAg10)をヒト肺胞上皮腺癌細胞に添加し、24時間後ゲノムDNAを抽出しメチル化率の変化を評価した。その結果、nAg10曝露によりメチル化率が減少する傾向が認められ、nAg10がDNAメチル化に影響をおよぼす可能性が示された。そこで、代表的なDNAメチル化酵素であるDnmt1への影響について検討した。細胞から核内タンパク質とmRNAを抽出し、ウェスタンブロット法とリアルタイムPCR法によりDnmt1のタンパク質とmRNAの発現量を評価した。その結果、nAg10曝露によってタンパク質発現量が減少する一方で、mRNA発現量には対照群との有意な差は認められなかった。従って、Dnmt1の発現減少は、nAg10曝露によるDnmt1の翻訳阻害または、タンパク質の分解に起因する可能性が見出された。また、nAg10曝露によるDNAメチル化への影響には、Dnmt1発現量の減少が関与する可能性が示された。今後は、他のDNAメチル化酵素への影響などを解析し、nAg10曝露によるDNA低メチル化の誘導機序について解析を進め、NMに係るエピジェネティクス研究推進への貢献を目指す。
  • 和泉 夏実, 吉岡 靖雄, 平井 敏郎, 半田 貴之, 衛藤 舜一, 青山 道彦, 長野 一也, 東阪 和馬, 堤 康央
    セッションID: O-36
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/08/08
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    金属アレルギーは、金属から溶出したイオンが発症原因だと考えられているものの、単に実験動物にイオンを投与するのみでは病態は誘導されにくいことから、未知の発症要因の存在が議論されている。このような中、我々は、金属アレルギーの発症機序解明に向け、金属から自然生成するナノ粒子に着目し、ナノ粒子が未知の発症要因である可能性について検討を進めてきた。本検討を通じ、粒子径10 nmの銀ナノ粒子(nAg10)を、アジュバントであるLPSと共に感作投与しておくことで、効率よく銀イオンに対する免疫応答が誘導され、病態が発症することを明らかとし、新たな金属アレルギーモデルの作製に成功している。しかし、本モデルの発症機序は明らかとなっていないことから、本検討では、アジュバントとして用いたLPSの必要性と他のアジュバントを用いた際の感作性に関して評価した。まず、LPSの必要性を調べるために、nAg10のみを感作投与した際の病態の発症の有無を検討した。その結果、nAg10のみの感作投与では病態は発症せず、感作の成立にはLPSが必要であることが示唆された。次に、LPS以外のアジュバントを用いた際の感作の成立の有無について検討した。TLR9のリガンドであるCpG DNAについて、IL-6を強く誘導するKタイプとIFN-αを強く誘導するDタイプの二種類を用いて、感作投与した際の発症の有無を評価した。その結果、Kタイプを用いた場合のみ病態が発症し、感作が成立した可能性が示された。現在、感作が成立するLPSやCpG DNAのKタイプを用いた場合に誘導される分子が、例えば、本モデルの発症に重要であることを既に明らかとしているTh17細胞への分化を促すなど、発症に関与している可能性があると考えている。今後、これらを用いた際に起こる反応の共通項を探すことで、感作が成立する際に必要となる分子を探索すると共に、分子メカニズムを明らかにすることで、発症機序の解明を目指したいと考えている。
  • 清水 雄貴, 東阪 和馬, 青山 道彦, 難波 佑貴, 泉 雅大, 長野 一也, 吉岡 靖雄, 堤 康央
    セッションID: O-37
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/08/08
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    100 nm以下の素材であるナノマテリアル(NM)は、医薬品や食品、化粧品など、身の回りの多様な製品に汎用されている。そのため、老若男女を問わずNMに曝露している現状を鑑みると、様々なライフステージを加味した安全性評価が急務である。特に、胎児や乳幼児は化学物質への感受性が成人と比較して高いため、妊娠期・授乳期に着目した安全性評価は最優先課題となっている。これまでに、様々な物性のNMが、胎盤関門を突破し得ることが明らかとされているが、胎盤透過メカニズムを含む胎盤関門におけるNMの動態特性は明らかとなっておらず、その解明が期待されている。本観点から我々は、昨年の本会において、粒子径10 nmの金ナノ粒子(nAu10)の投与が、胎盤透過性の低いFITC-dextranの胎盤透過性を向上し得ることを報告した。近年、NMが細胞間隙を構成する分子に作用し、生体バリアを緩めることが明らかとされつつあることから、nAu10が胎盤関門の細胞間接着分子に作用し、nAu10自身の関門通過を容易にした可能性が考えられた。そこで本検討では、nAu10曝露による胎盤透過性の亢進について精査する目的で、妊娠15日のBALB/cマウスにPBSまたはnAu10を前投与した後に、粒子径5 nmの白金ナノ粒子(nPt5)を投与し、nPt5の胎盤透過性の変化を評価した。その結果、nAu10の前投与によらず、nPt5の胎盤通過量に変化は認められなかった。また、細胞間接着因子に対する影響を評価する目的で、胎盤関門におけるE-cadherinの発現量をWestern Blottingにより比較解析したところ、nAu10前投与の有無による発現量の変化が認められないことが示された。以上の結果から、nAu10を前投与のよっても、NMの胎盤透過性は影響を受けないこと、また、nAu10が胎盤関門のE-cadherinに作用する可能性も低いことが示された。今後は、胎盤関門の透過性に関し、他の要因が関与している可能性を想定し検討を重ねていく。
  • 高橋 祐次, 高木 篤也, 小川 幸男, 辻 昌貴, 森田 紘一, 今井田 克巳, 菅野 純
    セッションID: O-38
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/08/08
    会議録・要旨集 フリー
    MWCNTの原末は単離繊維(SF)と凝集体/凝固体(AA)の混合物である。ヒトの環境における吸入では、舞い上がったAAは速やかに沈降し、また、上気道において除去されるため、肺には高度に分散したSF、あるいはそれに近い小型のAAが到達すると想定される。一方、実験動物の吸入暴露実験ではエアロゾル濃度を一定に保つために空気を強く撹拌することから、SFがAAと混合したエアロゾルが吸引される。マウスでは、混在する比較的大型の粒子が気道の比較的近位に多く捕捉され、小型のAAが肺胞レベルまで到達し、病変がSFのみを吸入した際と比較して修飾される可能性がある。本実験では、MWCNTの原末(U-CNT)と、Taquann法(J Tox Sci. 2013)によりAAを除去し高分散状態とした検体(T-CNT)をマウスに全身暴露吸入し、肺に沈着した繊維の量と長さを比較した。Taquann直噴全身暴露吸入システムを用い、C57BL/6雄性マウスに、2時間/日、5日間連続の全身吸入暴露を行った。5回の質量濃度の平均はU-CNT;2.2mg/m3、T-CNT;2.3mg/m3であった。暴露終了直後及び7日後の肺沈着量はそれぞれU-CNT;4.3µg/動物、1.6µg/動物、T-CNT;8.2µg/動物、4.4µg/動物と、肺に到達する量がU-CNT吸入では半減していた。これに呼応し、鼻腔粘膜に実体顕微鏡で観察可能な黒色のAAの沈着がU-CNT吸入マウスに多く観察された。肺内の繊維長の平均はU-CNT、T-CNT共に約7 µm、最大約40 µmで差はなかった。しかし、微小なAAによる肺組織像の軽微な差を認めた。以上より、吸入実験において検体のAA及び分散性は肺沈着量および病変に影響を与える事が示された(厚生労働科学研究費補助金による)。
  • 吉田 成一, 嵐谷 奎一, 市瀬 孝道
    セッションID: O-39
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/08/08
    会議録・要旨集 フリー
    【背景】近年、大気中の微小粒子 (PM2.5)による呼吸器系や循環器系などへの影響が懸念されている。これまでの本研究室の研究で黄砂やナノ粒子、PM2.5などの粒子状物質がマウスの精巣組織を障害することや造精機能を低下させることなど、雄性生殖機能に悪影響を与えることを明らかにした。また、黄砂やナノ粒子を妊娠マウスに投与すると、出生した雄性マウスの生殖機能が低下することも明らかにした。しかし、PM2.5による次世代雄性生殖機能への影響は殆どわかっていない。そこで、本研究では実際の大気中から採取したPM2.5を妊娠マウスに気管内投与し、出生仔の雄性生殖機能にどのような影響が生じるのかを検討した。
    【方法】ICR系妊娠マウスをPM2.5投与群20匹と対照群20匹に分け、PM2.5投与群にPM2.5 (200µg/匹)を妊娠7日目及び14日目に気管内投与した。出生仔が12日齢の時点で産仔調整を行った。5週齢、10週齢、15週齢における出生雄性マウスの体重、精巣及び精巣上体重量、光学顕微鏡による精巣組織像、1日精子生産能 (DSP)、血清テストステロン (血清T)濃度、精巣における遺伝子発現などを指標に、胎仔期PM2.5曝露による雄性出生マウスの生殖機能に及ぼす影響を解析した。
    【結果および考察】胎仔期にPM2.5の曝露を受けた出生マウスの体重、精巣及び精巣上体重量は各週齢で有意な変動は認められなかった。胎仔期PM2.5の曝露による出生仔の雄性生殖機能への影響を解析した結果、PM2.5群で、精上皮の変性や精上皮細胞の脱落等が観察された。また、胎仔期のPM2.5曝露により、PM2.5投与群では対照群と比較してDSPが全ての週齢で有意に低下した。さらに、血清T値は5週齢のPM2.5投与群で約3倍増加した。以上より胎仔期のPM2.5曝露が出生仔の雄性生殖機能に影響を及ぼすことを明らかにした。現在、DNAマイクロアレイを用い、精巣における遺伝子発現を評価し影響発現メカニズムを解析中である。
  • Pratiti Home CHOWDHURY, Hitoshi OKANO, Akiko HONDA, Hitomi KUDOU, Gaku ...
    セッションID: O-40
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/08/08
    会議録・要旨集 フリー
    Epidemiologic studies have reported PM2.5 extracts show detrimental effects on respiratory health. The components and/or factors of PM2.5 that contribute to respiratory health have not been identified. It is necessary to determine whether different types of components of seasonally variable ambient PM2.5 extracts affect respiratory and immune system. Our study elucidates the effects of aqueous and organic extracts of PM2.5 collected from four different seasons during November 2014-December 2015 in Kawasaki and Fukuoka cities of Japan. Human airway epithelial cells, murine splenocytes and bone marrow derived cells (BMDC) were exposed to extracts of PM2.5. The cell viability and release of IL-6, IL-8 and sICAM-1 in airway epithelial cells, proliferation, TCR and CD19 expression in splenocytes and DEC205 and CD86 expression on BMDC were measured. The aqueous extracts especially of fall from Kawasaki had more cytotoxic effect than organic extracts in airway epithelial cells, however, caused almost no pro-inflammatory response. Aqueous extracts of fall, summer and spring from Fukuoka significantly increased cell proliferation of splenocytes. Organic extracts of spring and summer from Kawasaki significantly elevated TCR expression, while CD19 expression slightly decreased. Furthermore, extracts from fall, especially aqueous extracts from Fukuoka, increased expression of DEC205 and CD86. These results suggest that PM2.5 extracts can be responsible for cytotoxicity in airway epithelial cells and activation of immune cells via T-cells and BMDC. These effects can differ by components, collection areas and seasons.
    This study was performed as a part of the study project on PM2.5 by the Ministry of the Environment, Japan.
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