日本毒性学会学術年会
第43回日本毒性学会学術年会
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シンポジウム18 日本中毒学会合同シンポジウム:一酸化炭素中毒の最前線:シグナル伝達物質としてのCOと中毒・後遺症の再考察
  • 吉田 武美
    セッションID: S18-1
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/08/08
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    ヘムオキシゲナーゼ(HO)は、ヘムをビリベルジン(還元されてビリルビンに)、一酸化炭素、Fe2+に酸化的に分解する酵素である。1968年Tenhunenらにより本酵素が小胞体に存在し、しかもNADPHと分子状酸素が必要であることから、当初シトクロムP450との区別が問題となった。その後東北大グループにより本酵素はヘムとの親和性が極めて高く、ヘムを結合し、自己触媒的に酸化的分解をすることが証明された。HOはその発見初期にはヘムにより誘導され、フィードバック調節が存在し、その後コバルトなど金属による誘導が明らかにされ、かつHOの誘導とP450量の減少の逆相関が認められ、その面からの研究が進められた。その後熱ショックタンパ質HSP32がHOであること、さらにストレス応答はじめ様々な条件で誘導され、誘導機構がNrf2-Keap1の支配下にあることが明確にされ、急激な勢いでHO-1誘導とその調節があらゆる臓器で研究されてきている。毒性学的には、化学物質の侵襲に対して、HO-1誘導を通して、細胞を防御すると考えられる。ビリルビンは抗酸化物質として、一酸化炭素もまた防御物資として微小環境の調節に寄与する。さらに、Nrf2の制御化にあることから、HO-1誘導と同時に、GSH合成系、抱合系酵素など数多くの防御応答を伴っていることになる。現在生体で産生される一酸化炭素、一酸化窒素、さらに硫化水素までが、生体機能の調節因子として重要な意義を有していることが明白になっている。その先端にあったのがHO-1によるヘムの分解産物としての一酸化炭素である。この関連を毒性学的な面から話題提供したい。
  • 伊関 憲
    セッションID: S18-2
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/08/08
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    一酸化炭素(CO)は有機物の不完全燃焼で発生する有毒ガスである。
    急性CO中毒は最も死亡数の多い中毒であり、日本では約5000名が死亡していると推定されている。その原因として火災や労働災害などの不慮の事故と自殺の大きく2つに分かれている。また米国では災害による停電で、発電機や炭を用いることにより、disaster-related CO poisoningが発生することが知られている。日本でも同様の機序で東日本大震災でCO中毒が被災地で多発した。
    CO中毒の主な病態は組織の低酸素である。COはHbに対して酸素の250倍も高い親和性があり、結合してCarboxyhemoglobin(COHb)を生成する。急性期には血中COHb濃度により種々の症状を呈する。血中COHb濃度が10%程度では頭痛をおこし、50%以上では意識障害を起こし死亡する。また、急性期症状が改善した後に、数週間経ってから精神神経症状を来すことがあり、遅発性脳症(delayed neuropsychiatric sequelae; DNS)とよばれる。成人では見当識障害、歩行障害、集中力低下、自発性低下、記銘力障害、失行、失認やパーキンソン様症状などが多い。DNSは脳の深部白質の脱髄が原因と考えられている。COにより多核白血球が活性化され、脂質の過酸化物がミエリン塩基性タンパクを化学的に変化させ、自己免疫反応によりミエリン鞘が壊死することが原因とも言われている。このため細胞壊死に10~14日経過して、DNSが遅れて出現すると考えられている。臨床においては急性期症状だけではなく、このDNSについても診断しなければならない。このDNSの診断には画像診断、特にMRIが有用である。中毒を発症して4,5日以降にMRIにて淡蒼球および白質病変を伴う症例は、DNSを来す可能性が高い。淡蒼球の変化は一過性意識障害の原因として、白質の変化がDNSを表しているものと考えられている。
    CO中毒、特にDNSの発症機序は未だ不明な点が多く、これらの解明がCO中毒の治療の質の向上につながる。
  • 吉田 謙一
    セッションID: S18-3
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/08/08
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     法医学実務上、CO中毒は、火災、ガス器具、下水道工事等の事故、車内練炭燃焼による自殺等に多い。その毒性は、酸素O2を凌駕するHemoglobin親和性と組織O2解離抑制による組織低酸素、mitochondria呼吸鎖酵素阻害によるATP産生抑制、中枢活性酸素増生等によると考えられている。火災被害者の血中CO濃度が低い場合、CO中毒、高齢・心疾患の寄与度が火元の責任、保険の支払等に影響を与える。また、既往症のある人が死亡した時、CO発生状況や偽装に気づかないと、事故や殺人を見逃す。
    COは、大気汚染や喫煙が、心血管系リスクを増す要因の一つと考えられている。また、COは、ヘム蛋白をHemeoxygenase (HO)が代謝する過程で産生され、抗酸化作用、抗炎症作用、細胞死抑制作用を発揮する。恒常発現型のHO-2由来のCOが血管を拡張させるのに対して、誘導型HO-1由来のCOは、脳神経・心筋細胞等が、虚血、酸化ストレス等によって細胞死や機能低下に陥るのを抑える。
    私は、CO中毒による脳基底核病変が活性酸素増生による細胞死(apoptosis, necrosisの混合)であることを見出した。また、虚血が心筋細胞のCa2+取込み増加よりnecrosisを促すが、これをCO曝露が抑制することを見出した。いっぽう、CO曝露によるAkt活性化が、心筋細胞apoptosisを抑制することを見出した。さらに、冠動脈結紮による虚血再灌流ラットの心筋梗塞は、CO吸入によるAkt. p38MAP kinase活性化により抑制された。ところが、高脂血症ラットを、睡眠時無呼吸発作を再現する間歇低酸素に暴露した時、肝臓Kuppfer細胞に増えるHO-1由来の遊離鉄は、Fenton反応により脂質過酸化を促し、肝障害に寄与することを見出した。
    このように、COは、細胞、刺激、濃度、時間等、多様な要因において、善悪両方の作用に寄与する。
  • 末松 誠, 加部 泰明
    セッションID: S18-4
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/08/08
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      極小分子であるガス分子は金属中心を有する補欠分子を持つタンパク質に結合し構造を変えることによって細胞や個体の機能を制御することができる。機能未知のガス分子受容体の探索は困難であったが、ガス分子が金属中心に配位結合する性質を利用し、金属含有補欠分子を有するタンパク質は「酵素」であるものが多い事に着目すると、「ガス分子の添加(または生成抑制)」を摂動として代謝物のフットプリントを検出し、標的分子となる酵素の絞り込みをすることができる。この方法によって我々はストレス誘導性のガス分子であるCOの受容体として、cystathionine β-synthase(CBS)を同定した1,2。一方我々は金属含有補欠分子を抱合したアフィニティナノビーズを用意し、先に釣れてくるタンパク質を絞り込んで、そのリストの中からガス受容体を探索する方法によって、COの新規受容体としてPGRMC1/Sigma-2 receptorを見出した3。PGRMC1はヘム結合タンパク質としてヘム依存性に2量体を形成することによりEGFRに結合し、がん細胞の増殖シグナルを増強するが、COが作用すると単量体となり増殖シグナルは抑制される。PGRMC1の2量体はcytochromes P450とも相互作用し、P450によって不活性化される抗がん剤の分解を活性化することによって化学療法抵抗性を惹起する。NOGマウスにヒト由来大腸がん細胞株を移植した肝転移モデルにおける解析では、PGRMC1のノックダウンにより転移が抑制され、外因性のPGRMC1発現により転移が促進される。講演ではがん細胞の代謝システムにおけるあざとい生存戦略機構とCOの役割について最新の知見を報告する。
    (関連文献)
    1. Morikawa T, et al. PNAS 2012, 109(4), 1293-1298
    2. Yamamoto T, et al, Nat Commun 2014, 5, 3480. doi:10.1038/ncomms4480.
    3. Kabe Y, et al. Nat Commun 2016, accepted for publication
  • 山本 五十年, 中丸 真志, 斉藤 剛, 辻 友篤, 青木 弘道, 山際 武志, 中川 儀英, 猪口 貞樹
    セッションID: S18-5
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/08/08
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     一酸化炭素中毒(CO中毒と略)は、我が国における中毒死の死因第1位を占めており、救急医療の重要な疾患の一つである。COは、ヘム蛋白との親和性が酸素より高く、容易に結合する。COがヘモグロビンと結合し酸化ヘモグロビンが低下すると、酸素供給量が低下し、組織低酸素症が結果する。また、COがミオグロビンと結合すると、心筋・骨格筋の低酸素症を起こす。更に、チトクローム系酵素と結合すると、酸素の利用障害を起こす。CO中毒の急性期の症状は、組織低酸素症および酸素利用障害の結果であり、中枢神経障害、心筋障害、肝・腎機能障害、横紋筋融解等を呈する。
     CO中毒の最大の問題点は、遅発性のCO中毒(DNS; delayed neuropsychiatric sequelae、delayed encephalopathy)である。これは、急性症状の回復後2日~4週間を経て、高次機能・認知機能の障害を主とする神経精神症状を起こすことである。その病態は、COの細胞毒性により遅発性に進行する脱髄性の白質病変の可能性が高く、免疫機序の関与が報告されている。
     CO中毒に対する治療として、COの速やかな洗い出しと組織の酸素化(酸素代謝の正常化)を目的として、高気圧酸素治療(HBO:hyperbaric oxygen therapy)が行われている。しかしながら、急性CO中毒に対するHBOの有効性に関する国際的な論争は決着しておらず、Cochrane Reviewにおいて、CO中毒治療におけるHBOの役割を明確にするために、更なる多施設研究が求められている。
     当シンポジウムでは、遅発性のCO中毒に示される病態を整理するとともに、HBOの有効性に関する研究の現段階、およびCO中毒に対するHBOの適応と治療効果の評価について述べる。
シンポジウム19 カドミウム研究の新たな展開 -疫学から分子機構まで-
  • 青島 恵子
    セッションID: S19-1
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/08/08
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    富山県神通川流域カドミウム(Cd)汚染地域の女性住民17名(82~92歳、平均85.5歳)を対象に、腎機能(近位尿細管機能、腎排泄能)、ヘモグロビン濃度、尿Cd濃度、血清カルシウム・無機リン濃度、血清総アルカリホスファターゼ(ALP)活性の27年間の経過を、近位尿細管機能障害の程度によって群分けして観察した。1)尿β2-ミクログロブリン(β2-MG)値あるいはβ2-MG排泄率は、近位尿細管機能障害(renal tubular dysfunction、RTD)の重症度を示す良い指標である。2)尿β2-MG値あるいはβ2-MG排泄率によるRTD重症度別検討の結果、RTDの程度に関わらずRTDは継続かつ進行した。とくに、尿β2-MGが5mg/gCr未満の軽度群においても、RTDは継続かつ進行した。3)尿細管リン再吸収能を示す指標のうち尿細管リン再吸収率(%TRP)は、RTDの程度が重度(尿β2-MG値70~100 mg/gCr)となるまで低下せず、RTDの指標としては感度が低かった。一方、尿細管リン最大再吸収値(TmP/GFR)は早期より低値を示し、尿細管リン再吸収能を示すより適切な指標と考えられ、TmP/GFRをスクリーニングならびに経過観察の指標として活用すべきである。4)血清β2-MGあるいはシスタチンC濃度による腎排泄能(glomerular filtration rate、GFR)の評価では、RTDの程度に関わらずGFRの低下がみられた。しかし、その低下の程度はRTD重症度と関連し、RTDが重度となるほどGFRの低下が顕著であり、慢性腎不全へと進展する例も認められた。5)血清β2-MGあるいはシスタチンC濃度の異常高値例に明らかな貧血を認めた。貧血を呈した例はいずれもGFR30mL/分未満の慢性腎不全を呈しており、腎性貧血と診断した。6)環境省ならびに富山県が実施する「神通川流域住民健康調査」におけるスクリーニング基準値尿β2-MG 5mg/Cr未満の群では、経年的なβ2-MG再吸収率の低下、GFRの低下がみられたが、尿細管リン再吸収能、血清Ca、無機リン濃度、血清ALP活性は長期にわたり変化はみられず、骨代謝異常をきたす病態への進展はないと考えられた。
  • 堀口 兵剛
    セッションID: S19-2
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/08/08
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     20世紀後半の我が国には鉱山や製錬所に由来するカドミウム(Cd)汚染地域が各地に存在し、地元産米摂取などによりCd経口曝露を受けて腎尿細管機能障害(カドミウム腎症)を発症した人が住民健康調査などによって多数見つかった。最も高度のCd汚染地域はカドミウム腎症のみならずイタイイタイ病も多発した富山県神通川流域であったが、石川県梯川流域や長崎県対馬などのCd汚染地域においても住民健康調査などによって多数のカドミウム腎症患者の存在が明らかにされてきた。
     ところで、環境省の農用地土壌汚染防止法の施行状況によれば、秋田県には基準値を越えるCd濃度の米が生産された農用地土壌汚染対策地域が全県にわたって散在しており、その指定面積と件数はともに全国第一位である。それは、かつて県内に125カ所も存在した非鉄金属鉱山に由来すると考えられる。しかし、1960年代に県北地域の一部で実施された疫学研究以外には住民健康調査の報告は20世紀中にはほとんどなく、住民におけるCdの健康影響の実態は長らく不明であった。すなわち、秋田県は「忘れられたカドミウム汚染地」であったと言える。
     21世紀に入ってようやく県北のCd汚染地域において広範囲に住民健康調査が実施されたところ、自家産米を摂取してきた農家は県内対照地域と比較して年齢依存性の高度の血中・尿中Cdレベルを示し、特に70歳以上の女性では腎尿細管機能への影響が現れており、カドミウム腎症と考えられる人も見つかってきた。従って、県中・県南の未調査のCd汚染地域においても同様の状態であることが推測される。
     これらの結果は、Cdの非常に長い生物学的半減期と国民の長寿化のために、富山県や秋田県などのCd汚染地域では高齢者の中から将来にわたってカドミウム腎症やイタイイタイ病が発生する危険性があること、そして今後も継続的な住民健康調査と保健対策が必要であることを示している。
  • 石川 覚
    セッションID: S19-3
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/08/08
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    現在、日本で実施されているコメのカドミウム吸収抑制対策として、1)水田土壌の入れ替えによる客土、2)水稲の穂が出る前後数週間を灌漑水で満たす湛水管理、がある。前者は莫大な費用と時間がかかる技術であり、後者は現在日本全国で4万haの水田で実施されているが、効果の安定性が十分ではない。それゆえ、営農サイドからはカドミウムを吸収しない水稲品種の開発が長年求められてきた。当研究所は「突然変異育種法」を用い、カドミウム吸収に関わる遺伝子に変異を与え、コメにカドミウムがほとんど蓄積しない品種「コシヒカリ環1号」を開発した。本シンポジウムでは、その開発過程や品種の特徴、現在の活用場面および今後の展望についてお話したい。
     「コシヒカリ環1号」はコシヒカリの種子にイオンビームを照射し、約3,000個体の中から見つけた突然変異体である。玄米カドミウム濃度は、通常のコシヒカリでは基準値を超える水田であってもほぼ検出限界以下になる。「コシヒカリ環1号」は、重金属輸送に関わる遺伝子であるOsNramp5に1塩基の欠損を持ち、機能不全型になるため、根のカドミウム吸収が著しく抑制される。「コシヒカリ環1号」の生育、収量、食味、病害耐性など農業上重要な形質はコシヒカリとほぼ同等であるため、従来のコシヒカリに替えて栽培できる。カドミウムを吸収しない遺伝子を簡易に判別できるDNAマーカーを使うことで、他の水稲品種も効率良く低カドミウムのイネに変えることができる。現在まで100以上の品種や将来有望な系統にこの遺伝子を導入しており、新たな低カドミウム品種の育成に国や県の研究機関が取り組んでいる。低カドミウム品種の開発・普及によって、日本人が食品から摂取するカドミウム量を大幅に減らすことが期待できる。
  • 姫野 誠一郎, 濱尾 聡子, 山本 葉月, 藤代 瞳
    セッションID: S19-4
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/08/08
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    カドミウム(Cd)の標的である腎臓近位尿細管は、糸球体近傍のS1領域から、S2、S3領域を経てヘンレループに至るが、それらの部位特異的なCd輸送・毒性発現の機構はほとんどわかっていない。そこで、腎臓の近位尿細管S1、S2、S3のそれぞれの領域に由来するマウス不死化細胞を活用し、Cdの輸送と毒性に関する新たなアプローチを試みた。
    S1~S3細胞をカップ培養し、apical側、basal側のそれぞれにおけるCd輸送を調べた。その結果、Cd2+はS3領域のapical側から最も効率よく取り込まれた。一方、Cdの排出効率はどの細胞でもbasal側よりapical側で高かった。組織レベルで検討すると、S3領域においてCd2+輸送に関わるZIP8の発現が高かった。以上の結果から、近位尿細管に取り込まれたCdの一部は原尿側に排出され、S3領域において再度吸収されるという動的なCd輸送機構の存在が示唆された。
    Cdの細胞毒性をKim-1、clusterin、L-FABPの遺伝子発現を指標として比較検討したところ、Cd添加によってKim-1の発現が最も鋭敏に上昇することがわかった。しかし、S1~S3の間で顕著な差はなかった。また、FITC-albuminの取り込みを指標として、megalin依存的なタンパク質のendocytosisをS1、S2細胞で調べた。S1、S2細胞をCdに曝露すると、megalinの発現が低下し、FITC-albuminの取り込みも低下した。したがって、Cdは近位尿細管細胞の再吸収能力そのものを抑制している可能性が示唆された。S1~S3細胞を活用することで、近位尿細管の部位特異的な機能に対するCdの影響をin vitroで検出できることが明らかになった。
  • 李 辰竜, 徳本 真紀, 佐藤 雅彦
    セッションID: S19-5
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/08/08
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    カドミウム(Cd)は、腎近位尿細管障害を主症状とする腎毒性を引き起こす。Cdによる腎近位尿細管障害には様々な遺伝子の発現破綻が関与しているが、Cdの標的転写因子はほとんど明らかにされていない。我々は、ラットおよびヒト由来の腎近位尿細管上皮細胞を用いて、Cd毒性発現に関与する新たな転写因子を網羅的スクリーニング法(Protein-DNAアレイ)で検討した。その結果、Cdによって転写活性が低下する因子のうち、YY1、FOXF1およびARNTが含まれ、それらの下流経路とCd毒性との関係を調べた。これまでに、Cdによるユビキチンプロテアソームシステム関連因子、UBE2D2UBE2D4遺伝子の発現抑制がアポトーシスに起因していることを明らかにしてきたが、CdによるUBE2D2の発現抑制にはYY1転写因子が、UBE2D4の発現抑制にはFOXF1が深く関与していることが見いだされた。また、ARNT転写因子の下流因子のうち、 BIRC3遺伝子がCdによって発現抑制され、ARNTを介していることが明らかとなった。BIRC3はIAP(inhibitor of apoptosis protein)ファミリーに属するタンパク質であり、アポトーシス抑制作用を有することが知られている。しかも、BIRC3のノックダウンによって細胞生存率の低下と、アポトーシスの誘導が示されるとともに、BIRC3のノックダウンによってCd毒性も増強された。以上の結果より、YY1、FOXF1およびARNT転写因子がCd標的転写因子として新たに同定され、それらの下流因子であるUBE2D2UBE2D4およびBIRC3遺伝子発現抑制が細胞毒性を引き起こすことが明らかとなった。
シンポジウム20 遺伝毒性の逆襲:遺伝毒性試験から発がん性と発がんリスクを予測する
  • 鰐渕 英機, 藤岡 正喜, 魏 民
    セッションID: S20-1
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/08/08
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     化学物質の発がん性・遺伝毒性の評価はリスク評価において必要不可欠である。しかし、発がん性試験では期間・費用等の面から評価できる物質の数に限りがある。一方、in vitro遺伝毒性試験では疑陽性のものも従来法では存在し、臓器特異性の判定が難しい。そこで、我々は in vivo変異原性を検索できる gpt deltaラットを用いたラット中期多臓器発がん性試験を実施し、遺伝毒性と発がん性の包括的な評価モデルの開発を行った。試験デザインは、発がん性評価系は実験開始から4週間にわたってイニシエーション処置として多臓器に標的性を持つ5種類の発がん物質を投与し、一方、in vivo変異原性評価系は同期間中無処置で飼育する。両評価系とも、その1週間後より、各群に被験物質を13週間投与する。検索項目は、発がん性評価系では前がん病変および増殖性病変を指標とした病理組織学的解析を行い、in vivo変異原性評価系では、点突然変異を検出するgpt assay、欠失変異を検出するSpi- assayにより変異原性評価を行う。今回、評価した被験物質は、肝発がん物質であるダンマル樹脂、IQ及びコウジ酸で、発がん性評価系では、いずれも肝発がん促進作用が認められたが、in vivo変異原性評価系で、肝臓におけるin vivo変異原性が、それぞれ陰性、陽性、陰性となり、in vitro変異原性陽性であるコウジ酸が in vivoでは陰性であることが判明した。因みにダンマル樹脂は in vitro変異原性陰性、IQは in vitro変異原性陽性であり、in vitroin vivo変異原性は共に一致した。さらに、本モデルに改良DNA抽出法を導入することによって、これまで解析困難であった膀胱粘膜および甲状腺のような微小組織における様々な膀胱発がん物質及び甲状腺発がん物質の変異原性の評価に成功し、本モデルの汎用性をさらに高めることができた。以上より、本試験法は、遺伝毒性・発がん性の in vivoスクリーニング検索法として、さらにより短期間で発がん性を予測するモデルとして有用であることが考えられた。
  • 梅村 隆志
    セッションID: S20-2
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/08/08
    会議録・要旨集 フリー
     近年、レポーター遺伝子を導入したマウスやラットが開発され、in vivo変異原性試験の新たなツールとして注目されている。このレポーター遺伝子突然変異試験では、げっ歯類を用いた発がん性試験と同一の種、系統、投与経路、投与量を選択でき、発がん標的臓器での変異原性を検索できることから、遺伝毒性と発がん性との関連性を考える上で貴重なデータが得られるものと期待されている。そのような背景から本シンポジウムでは、レポーター遺伝子導入動物を用いた発がん性予測の可能性並びに問題点について考察する。化学物質の発がん性は通常、雌雄のマウスあるいはラットに複数の用量を長期間反復投与し、全身臓器を病理組織学的に検索して腫瘍性病変の発生頻度を基に判断される。そのため、発がん性の有無のみならず標的臓器や発がん用量に種差や雌雄差がしばしば生じる。元来、げっ歯類を用いた発がん性試験結果は化学物質のヒトにおける発がん性を予測しているに過ぎないことから、そこで生じた様々な差異自体の意義については議論のあるところではある。しかしここでは、これまで報告されているげっ歯類を用いた発がん性試験結果と当研究室で実施してきた gpt deltaマウスあるいはラットのデータとの一致性に焦点を当てて、レポーター遺伝子動物による発がん性予測の可能性を探る。また、ヒトへの外挿性を考察するための発がん機序解明を目的に、DNA修飾、アポトーシスあるいは細胞周期関連遺伝子のシグナル伝達経路の活性化等、発がんに関与する様々な因子をレポーター遺伝子突然変異と共に検索する試みを紹介する。
  • 濱田 修一
    セッションID: S20-3
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/08/08
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     肝臓小核試験は低用量反復投与でも高感度に遺伝毒性物質を検出できる優れた試験系であり,ホルマリン固定臓器からも評価可能という特徴を持つ.これは組込み試験として毒性試験操作に影響を及ぼさないだけでなく,過去に完了した一般毒性試験の肝臓を用いて,レトロスペクティブに肝小核誘発性を評価できることを意味しており,病理検査等の結果を遺伝毒性の側面から捕捉できる優れた試験法である.ICHのS1ガイドライン改定案では2年間ラットがん原誌性試験の実施意義について評価する際,注目すべき病理組織学的所見として,6か月の慢性毒性試験における細胞肥大,びまん性/限局性の細胞過形成,持続性組織損傷/慢性炎症,前がん病変,及び腫瘍をあげている.我々は3Rの観点から,さらに短期の2~4週間の毒性試験結果を用いて,肝発がん性を予測するため,ガイドライン改定案に示された病理所見の中から,発がん過程における初期の事象(所見)として組織損傷,再生性変化・細胞過形成に着目した.そしてこれらの病理所見に肝臓小核試験結果を加えて,肝発がん物質14化合物,発がん物質ではあるが肝臓をターゲットとしない6化合物の評価を行った.肝臓小核試験陽性に加えて組織損傷,再生性変化・細胞過形成を示す化合物は全て肝臓でがんをつくる肝発がん物質であり,肝小核試験陰性に加えて組織損傷,再生性変化・細胞過形成のいずれの所見も認められない化合物は全て肝臓を発がんターゲットとしない化合物であった.我々は以前,肝臓小核試験が単独でも肝発がん物質の高い検出力をもつことを報告した(Mutation Research 780-781 (2015) special issue).今回,肝臓小核試験に上記の病理所見を合わせて総合的に評価することで,予測精度はさらに高まり,2週間もしくは4週間の短期毒性試験結果からも肝発がん性が高い精度で予測できる可能性を示した.
  • 佐々木 澄志
    セッションID: S20-4
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/08/08
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     化学物質による発がんは、遺伝毒性物質だけでなく非遺伝毒性物質も関わっていることが知られている。これらの物質の短期検索法として、遺伝毒性物質では遺伝情報を変化させることが分かっているため、Ames試験など多くの方法が使用されている。一方、非遺伝毒性物質ではその発がん機構が多様であるため、決定的となる方法はまだ見当たらない。Balb/c 3T3細胞(マウス全胎児)はin vitroで二段階発がんを再現できる。つまり細胞を、イニシエーター(多くが遺伝毒性物質)で短期間処理後、プロモーター(多くが非遺伝毒性物質)で長期間処理すると、接触阻止を示す単層状の細胞の中に多層に重なりあった形質転換巣が誘発される。この実験から、v-Ha-ras がん遺伝子が導入されているにもかかわらず、接触阻止を示すが代表的なプロモーターであるTPA処理により形質転換するクローンが得られればinitiated cellのモデルになると考え、スクリーニングした結果Bhas 42細胞を樹立した。
     Bhas 42細胞をFISH解析したところ、v-Ha-ras は100%の割合で安定に組み込まれており、コピー数は平均2.4個であった。また、形質転換細胞はヌードマウスで造腫瘍性を示すが、正常細胞は造腫瘍性を示さなかった。さらに、プロモーターだけでなくイニシエーター処理によっても形質転換巣が誘発された。これら一連のBhas 42細胞の性状から、Bhas 42細胞形質転換試験は、遺伝毒性物質だけでなく非遺伝毒性物質も検出可能な発がん試験の代替法になることが示唆された。そこで我々は、98物質を用いて発がん性を予測するとともに、国内及び国際バリデーションを実施し、有用性を評価した。その結果、Bhas 42細胞形質転換試験は、発がん性を予測する試験としてOECDガイダンスに採択された。本講演では、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の支援により得られたOECDガイダンス化までの成果を中心に、Bhas 42細胞形質転換試験を紹介することで、非遺伝毒性発がん物質の評価方法について議論したい。
  • 青木 康展
    セッションID: S20-5
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/08/08
    会議録・要旨集 フリー
     大気中の化学物質は、小児から高齢者まで人々が遍く曝露される可能性があり、その管理は環境保健上の重要な課題である。大気中の有害作用をもつ化学物質(有害大気汚染物質)については、1997年からベンゼンなど5物質に環境基準が、さらに「有害大気汚染物質による健康リスクの低減を図るための指針となる数値」としての指針値がアクリロニトリルなど9物質に設定されている。
     指針値は「大気からの長期的曝露による健康影響を未然に防止する」ためのものであり、その観点から、指針値設定において発がんリスクの評価は重要である。実際、環境基準や指針値が設定されている14物質の内、7物質の設定根拠のエンドポイントが発がん性である。
     いうまでもなく、発がん性の用量作用関係に閾値「あり」もしくは「なし」のいずれと判断するかにより、発がんリスク評価のあり方は大きく異なる。現在の指針値設定等のためのガイドラインである「今後の有害大気汚染物質の健康リスク評価のあり方について(2014)」では、遺伝毒性(ガイドラインでは‘遺伝子障害’とする)の発がん性への関与の程度が、閾値の有無を判断する重要な基準としている。
     その概略は、1)化学物質の発がん性に遺伝子障害が関与すると考えられる場合は、「閾値のない発がん物質であると判断し、ユニットリスクから評価値を算出」、2)化学物質の発がん性への遺伝子障害の関与が不確実な場合は、「ユニットリスクによる評価値の算出と NOAEL 等からの算出の両方を実施し、低い方の値を採用」、3)発がん性を有する化学物質が遺伝子障害性を持たないと推定される場合は、「閾値のある発がん物質であると判断し、NOAEL 等を求めて評価値を算出」としている。この‘遺伝子障害’の発がん性への関与の有無の判断は、in vitroあるいはin vivoの遺伝毒性試験の知見が基準となっているが、今後はin vivo試験の知見がより重要になると思われる。具体例を上げつつ、その課題を議論したい。
  • 本間 正充, 増村 健一, 森田 健
    セッションID: S20-6
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/08/08
    会議録・要旨集 フリー
     発がん性物質に遺伝毒性(変異原性)があるか否かは、リスク評価の方向性の大きな分岐点となる。すなわち、遺伝毒性には一般に閾値がないとされているため、摂取量をゼロにしない限り、健康リスクもゼロにならないとの論理からADIを設定することができない。従って、遺伝毒性発がん物質には適切なリスク評価と管理が求められる。遺伝毒性の有無は既存の変異原性試験や、他の遺伝毒性試験による総合的な評価結果によってなされることが多いが、最近のICHや、食品安全委員会での考え方を見ると、 in vitroではエームス試験、in vivoではトランスジェニック動物突然変異試験(TG試験)の結果を重要視している。特にTG試験は発がん標的臓器での遺伝毒性を評価できるため、その陽性結果は遺伝毒性発がん性の重要なエビデンスとなる。発がん物質がエームス試験陽性を示し、発がん標的臓器でのTG試験陽性が確認されれば、通常閾値の設定できない遺伝毒性発がん性物質と断定される。しかしながら、この評価の際に発がん性と、遺伝毒性の量的関連性についてはほとんど考慮されていない。近年、発がん性の定量的評価にベンチマークドーズ(BMD)等を導入し、曝露量との関係からリスク管理をする手法が開発されている。我々はこの方法を、TG試験にも応用し、発がんBMDと比較し、量的相関性から遺伝毒性発がん物質の定義の明確化を行うことを試みた。すなわち、遺伝毒性が発がんの原因であるならば、遺伝毒性BMDは、発がん性BMDより低くなければならない。この際、発がん性試験と、TG試験は投与期間が大きく異なるため、積算曝露量を考慮した適切な補正が必要である。更に、遺伝毒性BMDと、発がん性BMDの相関性から、仮に発がん試験データが無くとも、TG試験データから発がんリスクを評価する手法の開発を試みた。
シンポジウム21 心循環器毒性-非臨床から臨床へ、臨床からのフィードバック
  • 葛西 智恵子
    セッションID: S21-1
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/08/08
    会議録・要旨集 フリー
    1980年代後半から90年代前半に,欧米では抗アレルギー薬のterfenadine等による致死性不整脈であるtorsade de pointes (TdP)誘発による死亡が報告された。これを発端に,2000年代前半にかけてQT延長およびTdPに基づいた医薬品の市場撤退が相次ぎ,催不整脈リスク評価は、薬剤の開発段階における重要な課題と認識されている。TdPの発生とQT間隔延長は高い相関性があることがわかり,サロゲートマーカーであるQT延長リスクを評価するため,非臨床ではS7Bガイドラインが,臨床ではE14ガイドラインが2005年にICHにおいて合意され,各国で施行された。両ガイドライン施行後にQT延長リスクが原因で市場から撤退した薬剤はなく,大きな成果を上げたと言えよう。
    よりリスクの少ない化合物を開発するため,例えば,心電図QT間隔延長に関わりの深いhERGチャネルの阻害作用については,創薬の早い段階から検討されるようになった。hERG阻害作用のある化合物は十分に作用を検討される前に開発候補から除外されるため,現在の医薬品でhERG阻害作用を有する薬剤は少ない。催不整脈リスク評価においてQT延長作用やhERG阻害作用の検討は重要であるが,そこに注視するあまり,有用な薬剤を見落としている可能性も指摘されている。また,QT延長作用ではなく,催不整脈作用そのものを効率的に評価することの重要性についても議論され,新たな評価方法について研究がおこなわれてきた。In vitro試験を中心とした非臨床試験を利用した,催不整脈リスク評価に関するComprehensive in Vitro Proarrhythmia Assay (CiPA) Initiativeの活動は,「E14廃止,S7B改訂」を謳い注目を集めている。
    本講演では,QT延長リスク評価から催不整脈評価へ,CiPAなど非臨床の取り組みを中心に紹介する。
  • 黒川 洵子, 芦原 貴司, 諫田 泰成, 永森 收志, 古谷 和春
    セッションID: S21-2
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/08/08
    会議録・要旨集 フリー
    心循環器領域では、早くからシミュレーションの有用性が認識されてきた。1960年代にはNobleによって心筋細胞の活動電位モデルが開発され、1970年代には循環系モデルも報告されている。その後、定量的な実験データの蓄積およびモデル開発の進歩に伴い、より複雑で精緻な生理現象を記述することが可能となり、医療応用への期待が高まっている。本シンポジウムでは、心循環器毒性における応用について概説する。
    QT延長型不整脈が原因で市場撤退あるいは開発中止となった薬剤があることから、hERG阻害作用やQT延長作用の解析は心循環器毒性評価の重要な項目である。しかし、コスト面や偽陽性・偽陰性の課題を残しており、評価のエンドポイントをQT延長から催不整脈性に変更しようとCiPAが立ち上がった。CiPAは日本のJiCSA等の協力を得て、新規評価法を導入する際に科学的根拠となる実験データを収集しているところである。新規法としては、ヒトiPS細胞由来心筋細胞の利用あるいはコンピュータシミュレーション、すなわちin silicoを利用した方法が提案されている。後者では、複数のヒトイオンチャネルへの薬剤反応性から不整脈リスクを予測することが想定されている。一方、我々はヒトiPS細胞株の違いによって、分化心筋細胞の電気的特性や薬剤反応性が異なるかどうかをin silicoを利用して理解しようとしている。今回は、我々の最新の結果を紹介しつつ、全体の流れとの関係性について議論したい。なお、本研究の一部は国立研究開発法人日本 医療研究開発機構(AMED)の医薬品等規制調和・評価研究事業委託研究のご支援により行われた(16mk0104007h0003)。
  • 品川 香
    セッションID: S21-3
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/08/08
    会議録・要旨集 フリー
    催不整脈リスクの検出は、新薬の開発段階における重要な課題であるため、臨床及び非臨床試験における潜在的な催不整脈リスク評価に関するE14及びS7Bガイドライン(GL)が、2005年にICHで合意され、日本でも2009年に発出され2010年11月より施行されている。E14 GL施行後にQT延長リスクが原因で市場から撤退した薬剤はなく、GLは一定の成果を上げたと言えるが、サロゲートマーカーとしてのQT延長の特異性に基づく限界やQT/QTc評価試験(TQT)に伴う種々の負担から、より効率的でより特異的な評価法が研究されてきた。臨床試験については、TQTの代わりとして、早期臨床試験における薬物濃度-反応モデル (Concentration- Response modeling: CR モデリング)に基づく評価法を利用することについての、E14 GLのQ&A改訂版が、2015年12月にICHで合意された。現在、国内でも本評価法を受け入れるための体制の準備段階である。第I相試験では高用量の曝露下での情報が得られるため、全用量における全てのデータを用いる、CRモデリングに基づく評価法には利点がある。しかしながら、本評価法は必ずしも全ての薬剤に適切とは限らず、活性代謝物や蓄積性のある薬剤、心拍数への影響がみられる薬剤等のように、本評価法が適さない場合がある。又、臨床用量の相当倍までの曝露下での評価であることが特に重要である。さらに、心電図の計測、解析方法も含めて、TQTと同程度の臨床試験の質が担保される必要がある。陽性対照は必須とはされないが、陽性対照を用いない場合には、試験の質が担保されていることを示す他の方策を講じる必要がある。本講演では、CRモデリングによるQT延長リスク評価を実施する際の留意点に関する考察も含めて、催不整脈リスク評価の将来展望について、臨床試験における心電図評価を中心に議論したい。
  • 中岡 一郎
    セッションID: S21-4
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/08/08
    会議録・要旨集 フリー
    過去の新薬審査事例をみると、毒性試験で問題となった所見について、臨床試験で注意深く観察しデータ集積することや、添付文書上への注意喚起で、医薬品承認への道筋が開けた例が数多くみられる。また、当初毒性試験で懸念された所見がヒトでは発現しない、また、毒性試験で見られなかった所見がヒトで新たに発現することもある。新薬開発の過程では、日々刻々と新たな安全性データが得られるが、一面的な解釈ではなく、候補化合物の開発ステージに関わらず、非臨床/臨床の両担当者が十分議論した上での解釈に基づき対策を講じることが効果的ではないかと考える。
    また、臨床試験は、非臨床試験データを踏まえ設定した仮説(対象疾患に有効である。毒性リスクが低い)をヒトで検証し、候補化合物が医薬品に足りうるかどうかの見極めを行う手段と考えられる。そのため、仮説の構築サイド(非臨床)と検証サイド(臨床)は同じ土俵(情報・価値観・方針などの共有)に立ち、連携しつつシームレスな創薬を進めることが重要と考える。
    以上の視点に立ち、公開されている新薬の審査報告書の分析結果や、臨床開発の立場から、主に心循環器副作用の焦点をあてつつ、非臨床へのフィードバックを行いたい。
  • 土居 正文, 宅見 あすか, 宮田 英典, 宮内 慎, 南谷 賢一郎
    セッションID: S21-5
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/08/08
    会議録・要旨集 フリー
    ILSI環境保健科学研究所(Health and Environmental Sciences Institute;HESI)は、2009年からFDAに提出されたQT/QTc評価試験(Thorough QT/QTc study)を実施している約150の薬物について非臨床試験(hERG試験and/or APD試験並びにイヌ又は霊長類の心電図評価)との相関を調査した。その結果、in vitro試験として実施されるhERG試験とAPD試験の感度(陽性と判断できる比率)は低く、一方、イヌ又は霊長類のECG試験の感受性はin vitro試験系と比較して高かった。さらに、hERG阻害活性陽性の化合物のおよそ70%はhERGチャネルのトラフィッキング阻害作用も有することが分かった。これらの結果を受けて、FDAからは2012年2月にトラフィッキング阻害作用、NaチャネルやCaチャネルに対する作用を確認する必要性、in silicoの利用の可能性、さらに2013年2月にはcardiac ion channels(Na、Ca、K)screeningの実施、iPS細胞など幹細胞由来心筋細胞の利用、in silico modelingの利用について提案された。このような背景から、2013年7月には、ICH E14を2015年7月までに、ICH S7Bを2016年7月までに改訂(統廃合なども含む)を行なうことが発表されるに至った。非臨床安全性では、CiPA(nonclinical proarrhythmia assessments(the Comprehensive In vitro Proarrhythmia Assay)において、マルチチャネルアッセイ、in silico、iPS細胞等を用いたMyocyte Based Approachの結果を統合し、催不整脈リスクをスコア化することが提唱されている。また、本邦でのヒトiPS分化細胞を用いた医薬品の催不整脈予測試験の開発は、2013年以降、産官学によるコンソーシアムであるJiCSA(Japan iPS Cardiac Safety Assessment)やCSAHi(Consortium for Safety Assessment using Human iPS Cells: HEART team)を中心に研究が推進されてきた。
    本セッションでは、新しいパラダイムに即したスクリーニング戦略にどのように対応すれば良いのか、今後の非臨床における心毒性評価を実施するための一助となるよう議論を深めて行きたい。
ワークショップ1 認定トキシコロジスト制度 -これまで、現在、これからー
  • 津田 修治
    セッションID: W1-1
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/08/08
    会議録・要旨集 フリー
    米国で1980年にABTによる認定制度が発足してから13年後の1993年夏の第4回日本毒科学会基礎教育講習会の懇親会の席上で日本での認定トキシコロジスト制度の必要性が取り上げられた。内容は“医薬品などの申請者と評価者が同じ科学的立場で議論するためには認定制度が必要だが, 試験を受ける側にメリットが無くてはならない"などであった。これらの意見を受けて1995年の教育委員会で井村先生から榎本先生と共に認定制度について検討するよう命じられた。96年に認定トキシコロジストの役割, 性格付け, 認定の仕方及びメリット等を学会全体として決定・認識するために教育講習と認定制度のあり方をまず総務委員会で検討することとした。広く各界より人選を行い, 認定制度のワーキンググループを発足させ, 認定試験の実施のためにGF制度を導入した。96年9月に総務委員会ワーキンググループにおいて,トキシコロジストのモチベイションを高め, 試験責任者等の質の向上を図り, 毒性学を発展させるためには, ABTと同等の範囲・レベル・基準を満たすことが必要であることが確認された。参考図書はCasarett & Doull's Toxicologyとした。98年7月に第1回講習会が行われた後に最初の認定試験が行われた。2002年に第1回の資格更新手続きが開始された。社会的認知が必要とのことから積極的な働きかけが図られ, 2002年3月に厚生労働省の鶴田大臣官房審議官の「申請時に添付する履歴には認定トキシコロジストであることを明記してほしい。可能ならば安全性評価の責任者は有資格者であることが望ましい」との発言を得た。2003年に日本トキシコロジー学会教育委員会編「トキシコロジー」を参考図書とした。今後も門戸を広くし, レベルを高く維持して学習意欲を高め, 毒性学会会員を結び付ける絆としての役割を果たすことが期待される。
  • 務台 衛
    セッションID: W1-2
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/08/08
    会議録・要旨集 フリー
    日本毒性学会の下で発足した認定トキシコロジスト制度は,2018年に満20年を迎える.認定トキシコロジストの数は順調に増加して来ており,安全性評価を行う専門家の社会ニーズも増してきている.一方で,制度発足の母体となったグランドファーザー世代が一線から退く年代に達しており,これからは世代交代をしながらの制度の維持発展を図る必要がある.
    口演では,制度の運営状況について紹介し,海外制度との相互認証等のグローバル化を意識した取組み,毒性学テキスト(新版トキシコロジー)の改訂等の課題について紹介する.
    認定トキシコロジストおよび認定トキシコロジストを目指している学会員の方々の参加と積極的なご発言をお願いしたい.


  • 広瀬 明彦
    セッションID: W1-3
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/08/08
    会議録・要旨集 フリー
    日本毒性学会の認定トキシコロジスト(DJSOT)制度は、米国のABT(American Board of Toxicology)による認定トキシコロジスト(DABT:Diplomate of ABT)制度を手本として制度設計した経緯から想定されるように、両制度は言語の違いはあるもののほぼ同レベルの認定制度を運用していると考えて良い。一方、欧州のEROTOXではERT(European Register of Toxicologists)というトキシコロジスト認証制度を運用しているが、DABTやDJSOTで行っているような試験による認証ではなく、欧州各国の学会による毒性学的経験に基づいた推薦とEUROTOXによる認証過程を経ることが必要条件となっている。IUTOX加盟学会の中にはこれ以外にも英国やドイツなど様々な認定トキシコロジスト制度が運用されている。IUTOXでは、これらの世界各国で独立して運用されている認定トキシコロジストの国際的な認知度の向上をめざし、IUTOX加盟学会内で相互承認できるシステム開発を目指したトキシコロジー承認タスクフォース(TRTF)を2011年に設置した。上記のように各国で様々な要求レベルで制度が既に運用されている現状から、単純な相互認証を行うことは実質的に不可能であるが、加盟学会間での相互認識を促す目的として、各認定トキシコロジー制度における認定要件の一覧表(TRTF MATRIX)を作成し、IUTOXのホームページに公開している。現在は、各認定制度で共通となっている認定要件を抽出しつつ、各加盟学会による推薦IUTOXによる認証というERTのような認証制度の構築が提案されている。本講演では、TRTF IUTOX活動のこれまでの概況と、この3月に開催されたTRTFの会議の結果を受けた最新情報を紹介する。
  • 朝倉 省二
    セッションID: W1-4
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/08/08
    会議録・要旨集 フリー
     米国における毒性研究者の認定制度の歴史は古く,その管理団体であるAmerican Board of Toxicology(ABT)の設立は今から37年前の1979年4月まで遡る。設立場所は米国政治の中枢Wshington DCであり,米国におけるGLPの公布が同年6月であることを考えると,この認定制度は毒性研究の地位向上だけでなく,化学物質の安全性という社会的責任の重い研究領域の信頼性向上も大きな目的であったことが容易に想像される。ABTのWeb siteによると,設立趣旨として1)毒性研究の奨励,2)専門的業務の基準確立とその向上,3)その手順の整備および管理,さらに4)能力の確認および認証,の4つが挙げられており,専門性を認定された者がDABT(Diplomate of the American Board of Toxicology)と呼ばれる。
     DABTの認定試験は,書類審査により受験資格が確認された受験者に対し,年1回10月に世界4カ国,5会場(米国東海岸,西海岸,英国,インド,韓国)で同時刻に開催される。試験は3つのトピック(化合物の毒性,各臓器への影響,毒性の基本原則と応用毒性)について,1.5日かけて行われる。ここ数年の実績では毎年約100名の合格者が輩出され,現在2304名(2014年)のActive Diplomateが活躍している。米国においては毒性研究の専門資格として広く認識され,企業への採用,業務遂行,給与面等でも評価される。日本人受験者も毎年増えており,ここ数年は毎年複数名の合格者が輩出されている。現在までに約20名強の日本人DABTが登録されており,昨年はDABT日本人会も設立された。
     今回の発表では,ABTの概要を紹介するとともに,DABT受験から認定を受けるまでの道のりについて述べる。また,米国におけるDABTの役割,日本人DABTの活躍の場についても紹介したい。
ワークショップ2 ICH S1がん原性試験ガイドライン改定に係る前向き調査におけるがん原性評価文書(CAD)の中間評価と薬理作用及び標的臓器からみた発がん
  • 久田 茂
    セッションID: W2-1
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/08/08
    会議録・要旨集 フリー
    医薬品のがん原性評価では、通常、ラットを用いる2年間がん原性試験とマウスを用いた腫瘍発生を指標とする短期がん原性試験あるいは2年間投与試験の結果に基づき、ヒトでの発がんリスクを推定する。一方、既存のデータセットの解析から、「証拠の重み付け(WOE)要素」を考慮することにより十分な根拠に基づいてがん原性の有無が予測可能であれば、2年間ラット試験を省略可能とする新しいがん原性評価法が、ICH S1(がん原性試験)専門家作業部会により提案され、2013年8月に規制通知文書(Regulatory Notice Document,RND)として、ICH websiteに公開された。新しいがん原性評価法では、薬理作用に基づくがん原性の予測が最も重要な要因であり、発がんに関連するあらゆるon-target及びoff-targetの薬理作用を評価する必要がある。現在、新評価法検証のための前向き評価(Prospective Evaluation)が実施され、日米EU 3地域の製薬企業により、実施予定・進行中のラットがん原性試験の結果及びヒトでの発がんリスクを予測したがん原性試験評価文書(Carcinogenicity Assessment, CAD)が作成され、該当するがん原性試験成績の報告も求められている。
    本ワークショップでは、まず、規制当局の先生方に、ICH S1がん原性試験ガイドライン改定の経緯及びCADの評価結果についてご紹介いただく。続いて、日米製薬企業及びFDAによる既存のがん原性データセットを用いた薬理作用による発がんについての解析結果をICH S1 regulatory chairのvan der Laan先生から、さらに、日本製薬工業協会 医薬品評価委員会 基礎研究部会(JPMA)が公表資料を網羅的に調査してまとめた資料集に基づいた17の発がん標的からみた医薬品の薬理作用による発がん機序及びヒトでの発がんリスクについて報告をいただき、最後に医薬品の薬理作用からの発がん予測の可能性や課題について考察したい。
  • 野中 瑞穂
    セッションID: W2-2
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/08/08
    会議録・要旨集 フリー
    医薬品規制調査国際会議(ICH)においてS1ガイドライン(医薬品のがん原性試験に関するガイドライン)改定のために専門家作業部会(EWG)が2012年6月に設置され、特定の条件を満たす場合に限り、2年間ラットがん原性試験を実施することなく、ヒトにおける発がんリスクについて評価できるとの仮説が提案された。前向き評価により、この仮説が検証された場合には、S1ガイドライン改定が検討される予定である。したがって、EWGにて前向き評価の実施方法を規定した文書Regulatory Notice Document(RND)を作成し、2013年にICH 公式web siteに公表し、2016年1月に改定した。本邦においても「医薬品のがん原性試験に関するガイダンスの改正に係る前向き評価への参加協力依頼の改訂について(協力依頼)」(平成28年2月17日、厚生労働省医薬・生活衛生局審査管理課)に基づき、前向き評価を実施中である。RNDでは、ヒトにおける発がん性なしと予測できるカテゴリー3の検証を重視している。2013年に公表した初版のRNDと比較し、最新のRNDの変更点は以下である。1)カナダとスイスの規制当局が前向き評価に参加すること、2)がん原性評価文書(CAD)提出期間を2017年末までと想定し、前向き評価期間を2年間延長したこと、3)カテゴリー3のCADが20件以上集積されることを前向き評価の数的目標として設定したこと、4)CAD提出企業が、規制当局からの要請に応じてカテゴリー分類の判断に必要な追加情報を提出することを許容したこと、5)CAD提出時点における実施中の2年間ラットがん原性試験の最長経過期間を18ヵ月から2016年6月1日以降は14ヵ月に短縮すること、6)ラット2年間がん原性試験終了時における結果の記載内容を明確化したこと。医薬品製造販売業者の皆様には、上記のRND変更点に留意の上、前向き評価への積極的なご参加をお願いしたい。
  • 小川 久美子
    セッションID: W2-3
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/08/08
    会議録・要旨集 フリー
    ICH S1がん原性試験ガイドライン改定にむけた前向き評価の開始後27カ月を経た昨年の12月に、米国ジャクソンビルにおいて対面会合が開催された。会合では、それまでに企業から提出され、日米EUおよびヘルスカナダ(2014年7月受領分より)の各規制当局で個別に審査された後、電話会議で協議された25件のがん原性評価文書(CAD)に対する規制当局の評価について討議された。
    25件のCADの内、「ラットに発がん性があるが、ヒトに外挿できないと予測される」あるいは「ラット及びヒトに発がん性なしと予測される」として、それぞれカテゴリー3aまたは3bに分類されるCADを提出者は16件(全体の64%)としていた。全規制当局が一致してカテゴリー3としたものは6件(37.5%)で、一部の規制当局のみがカテゴリー3としたものは3件(18.8%)であり、規制当局の全体または一部がカテゴリー3としたものは9件(56.3%)あった。いずれの規制当局も同意できないとされたCADは7件であり、これらは「ヒトに対する発がん性不明と予測される」ため、がん原性試験の実施が必要であるカテゴリー2と評価された。
    提出者と規制当局間でカテゴリー3の見解が分かれた要因としては、記載情報が不十分とみなされる場合、考察に対する科学的見解に相違がある場合があげられ、ファーストインクラスの場合は文献考察を含めたより詳細な説明が必要と考えられた。
    CADの件数が到達目標に達しておらず、また、2年間がん原性試験の結果が得られていない現段階での、この証拠の重み付けによる評価の意義を解析するのは時期尚早であるが、今後、CADの記載において不十分とされた情報の再提出を企業に求めることが同意されており、カテゴリー3と同意されるCAD数の増加が期待されている。また、2年間がん原性試験結果の提出により、CADの評価との比較が開始され、改定に向けた知見が得られるものと考える。
  • Jan Willem VAN DER LAAN, Peter KASPER, Beatriz SILVA LIMA, David JONES ...
    セッションID: W2-4
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/08/08
    会議録・要旨集 フリー
    Predicting the outcome of life-time carcinogenicity studies in rats based on chronic (6-month) toxicity studies in this species is possible in some instances. This should reduce the number of such studies and hence have a significant impact on the total number of animals used in safety assessment of new medicines. From a regulatory perspective, this should be sufficient to grant a waiver for a carcinogenicity study in those cases where there is confidence in the outcome of the prediction.
    Pharmacological properties are a frequent key factor for the carcinogenic mode of action of some pharmaceuticals, but data-analysis on a large dataset has never been formally conducted. We have conducted an analysis of a dataset from based on the perspective of the pharmacology of 255 compounds from industrial and regulatory sources.
    It is proposed that a pharmacological, class-specific, model may consist of an overall causal relationship between the pharmacological class and the histopathology findings in rats after 6 months treatment, leading to carcinogenicity outcome after 2 years. Knowledge of the intended drug target and pathway pharmacology should enhance the prediction of either positive or negative outcomes of rat carcinogenicity studies.
    The goal of this analysis is to review the pharmacological properties of compounds together with the histopathology findings from the chronic toxicity study in rodents in order to introduce an integrated approach to estimate the risk of human carcinogenicity of pharmaceuticals.
  • 坪田 健次郎
    セッションID: W2-5
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/08/08
    会議録・要旨集 フリー
    遺伝毒性を示さない医薬品によるげっ歯類発がん機序とヒトでのリスク評価に関する知見を網羅的に収集したので,本発表では非ホルモン感受性臓器の腫瘍について発現機序(MOA)を交えて紹介する。
    肝細胞腫瘍:肝薬物代謝酵素誘導剤,PPARα作動薬のラット肝細胞腫瘍はMOAの動態学的または動力学的な要素を考慮するとヒトへ外挿性は乏しいと考えられる。
    膵臓腺房腫瘍:ラットの膵臓腺房腫瘍は血中CCK(主に,CCK1)レベルの増加に起因するが,CCK受容体発現と感受性に種差があることから,ヒトへの外挿性は低いと考えられる。
    腎細胞腫瘍:αグルコシダーゼ阻害薬,SGLT2阻害薬では低炭水化物状態に続く血中カルシウム不均衡,選択的エストロゲン受容体調整薬では慢性腎症と鉱質沈着が尿細管障害の原因と考えられているが,いずれもラット特有の現象と考えられている。
    血管腫瘍,脂肪肉腫,線維肉腫:PPARγ作動薬,PPARα/γ作動薬のヒトへの外挿性は不明な点も多いが,安全域,患者のリスクアンドベネフィット次第で臨床適用は可能と考えられる。
    膀胱腫瘍:PPARγ作動薬,PPARα/γ作動薬のラット膀胱腫瘍は,げっ歯類に特異的な尿中の組成の変化による細胞毒性と上皮の増殖によるもので,ヒトへの外挿性は低いと考えられる。
    胃カルチノイド腫瘍:PPI,H2ブロッカーによるラットの胃カルチノイド腫瘍発生のkey eventである持続的高ガストリン血症に対し,ヒトでは感受性が弱いことから外挿性は低いと考えられる。
    冬眠腺腫:α受容体遮断薬,JAK阻害剤,オピオイド作動薬,ニコチン投与でラットにみられる冬眠腺腫のリスクは,ヒトとラットの褐色脂肪組織が量的及び機能的に異なることから,ヒトへの外挿性は低いと考えられる。
  • 池田 孝則
    セッションID: W2-6
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/08/08
    会議録・要旨集 フリー
    本発表ではホルモン感受性臓器における腫瘍の発現機序とヒトへの外挿性について紹介する。
    膵島細胞腫瘍:セロトニン・ドーパミン拮抗薬による発がんは、その薬理作用により増加したプロラクチン(PRL)によると考えられ、疫学的調査結果からヒトへの外挿性は否定的である。
    甲状腺腫瘍(濾胞細胞):甲状腺ホルモン(T)合成阻害剤や肝酵素誘導剤による本腫瘍はTレベル減少に伴う、反応性の甲状腺刺激ホルモン増加を介して発生するが、腫瘍発生の感受性には種差が存在する。
    甲状腺C細胞腫瘍:GLP-1受容体作動薬による本腫瘍発生はC細胞上のGLP-1受容体を介するが、ヒトC細胞上にはGLP-1受容体はほとんど発現しない。
    副腎髄質褐色細胞腫:多くの本腫瘍誘発化合物が、交感神経刺激により副腎クロム親和性細胞のカテコラミン合成を誘発する経路に作用する。ヒトと異なりラットでは交感神経刺激に対してクロム親和性細胞が増殖する。
    卵巣間膜平滑筋腫:β2受容体作動薬による本腫瘍発生は平滑筋細胞への直接作用に対する適応反応と考えられるが、ヒトでは本薬に長期間曝露されないことから外挿性は低い。
    精巣間細胞腫瘍:多くの薬物が最終的に血中黄体刺激ホルモン(LH)を上昇させ、本腫瘍を誘発する。ヒトではLH受容体の発現は少なく、ヒトへの外挿性は低い。
    乳腺腫瘍:D2受容体抑制を介してPRLを増加させる薬物が本腫瘍を誘発し、疫学的調査結果等からヒトでの外挿性は否定できない。
    下垂体細胞腫瘍:LH放出ホルモン作動薬による発がん機序は不明である。D2受容体阻害薬は内因性ドーパミンによる増殖抑制を阻害することにより本腫瘍を発生させる。いずれもヒトへの外挿性が否定できない。
    子宮内膜腫瘍:ドーパミン作動薬は、PRLサージの抑制、及び加齢に伴うE:プロゲステロン比の増加により本腫瘍を誘発するが、これらの作用には種差が存在する。
  • 青木 豊彦
    セッションID: W2-7
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/08/08
    会議録・要旨集 フリー
    1992年に日本製薬工業協会 医薬品評価委員会 基礎研究部会(JPMA)が編集した内部資料集「遺伝毒性を示さない化学物質(医薬品)の発がん性評価」には,PPARα作動薬による肝腫瘍,D2阻害薬による乳腺腫瘍,酸分泌抑制薬による胃カルチノイド腫瘍などについて,がん原性試験成績や機序解明(MOA)に関する知見がまとめられている。本資料集は発行されて既に約20年余が経過し,この間,新規の薬理作用に基づく薬剤クラスの治療薬が開発されてきたことから,JPMAは発がん機序に関する文献等の新たな公開情報を網羅的に取りまとめた改定作業を2012年から着手し,2016年初めの改訂版の発行に至った。改訂版ではα-グルコシダーゼ阻害薬,SGLT2阻害薬,GLP-1作動薬,PPARγ,α/γ作動薬などの新規薬剤クラスの情報も盛り込んでいる。これらの薬剤においても薬剤クラス共通のげっ歯類特異的な腫瘍の発生が報告され,発がん性と薬理作用との密接な関係を示す科学的知見がさらに蓄積されている。現在,ICHでは,薬理作用を含む種々の証拠の重み付け(WOE)要素に基づいたがん原性予測(カテゴリー分類)を前向き調査により検証中である。その結果を受けて将来,がん原性試験評価法が改定され,ラットがん原性試験実施が免除される場合,薬理作用からの発がん予測と予測精度の向上は製薬企業や規制当局のさらなる関心事項であるだけではなく,薬剤を服用する患者にとっても極めて重要な事項である。発表では,例えば,薬効標的,発がん懸念のある組織での細胞増殖性検討といったMOAのための追加試験の有用性や,ユニークな新規メカニズムの薬剤クラス(first-in-class)でのがん原性予測はどうすればいいのか,などの課題を考えてみたい。
ワークショップ3 ネオニコチノイド研究とリスク評価の最前線 ~ミツバチからヒトの社会まで~
  • 中村 純
    セッションID: W3-1
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/08/08
    会議録・要旨集 フリー
    「ミツバチ-農薬」問題は,ミツバチ,あるいは養蜂産業の立場では,ネオニコチノイド系農薬登場以前から,1世紀以上にわたって未解決のままになっている問題でもある.本来,農作物は野生のハナバチ類に送粉を依存していたが,農地開発などによりハナバチ類が生息場所と資源を失って激減し,家畜昆虫であるミツバチが農地に導入されるようになった.結果として,送粉目的のミツバチと植物保護目的の農薬という農業生産を向上させる資材間での「接点」が発生して問題化してきた.
    現在注目を集めているネオニコチノイド系農薬のミツバチへの影響評価は,実に多様な結果となり,主要3剤のリスク評価のために2か年間の使用規制を実施したEUでは,評価のためにあと1年間を追加することになった.殺虫剤である以上,高濃度での影響は必然だが,ネオニコチノイド系農薬の浸透移行性に基づいた,地中から花粉や花蜜に移行した成分への曝露,つまり低用量での影響については,実験室内とフィールドでの評価が矛盾することも多い.これはミツバチという生物の特性に基づく部分も大きいが,室内試験では,曝露後の影響を見ることになるのに対して,フィールド試験では暴露経路が評価全体に大きな影響を示すためでもある.
    農薬被害の軽減対策としての抜本的な解決策は,結局のところミツバチと農薬との接点の回避であり,そのためには曝露様式の解明が重要な位置づけとなる.農薬の使用方法・散布規模などは地域や農業様式によっても異なり,ミツバチがどのように農薬に曝露するかはローカルな事情に大きく依存するため,実験室での成果を外挿しにくい.
    そこで,本講では,「ミツバチ-農薬」問題をどう扱い,また解決はどのような方向性を持っているのか,これまで得られてきたさまざまな情報を概観しつつ,総合的な解説を試みたい.
  • 松田 一彦
    セッションID: W3-2
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/08/08
    会議録・要旨集 フリー
    イミダクロプリドと、それに続いて開発された類縁殺虫剤は、従来の殺虫剤に抵抗性を示す害虫に対しても優れた防除効果を発揮し、さらに植物に対する浸透移行性に優れていたことなどから、殺虫剤市場の主要な一角を占めるようになった。しかし、これらの「ネオニコチノイド」と総称される殺虫剤について、ミツバチの数の減少との関連性や神経作用性の危うさが指摘され、使用の是非が問われている。このようなネオニコチノイドの隆盛と論争を見ながら、演者は、中立の立場でネオニコチノイドとは何かということを研究してきた。
    ネオニコチノイドが標的とするニコチン性アセチルコリン受容体(nAChR)は5つのタンパク質が梅花のように集合した構造を持ち、神経伝達物質アセチルコリンを受容するとカチオンを選択的に通す自身のチャネルを開くことで、神経細胞の興奮を誘起する。天然物ニコチンがヒトのnAChRと昆虫のnAChRのどちらも活性化しイオンチャネルを開く活性(アゴニスト活性)を示すのとは対照的に、ネオニコチノイドは昆虫のnAChRを選択的に活性化する。つまりネオニコチノイドは何らかの理由で昆虫のnAChRの中のアセチルコリン結合部位に強く結合し、活性を発揮するのである。これは、昆虫のnAChRがネオニコチノイドとの相互作用に有利に作用する構造を有するためである。演者はその構造の解明に取り組んだ結果、昆虫のnAChRはネオニコチノイドに特有のマイナスの電荷を帯びた構造との相互作用に有利にはたらくプラスの電荷を帯びた構造をもち、哺乳動物のnAChRにはこうした構造がなく、むしろネオニコチノイドを遠ざけるマイナスの電荷を帯びた構造を有することを突き止めた。本講演では、このような成果のみならず、ネオニコチノイドはどれもが同じようにnAChRと相互作用しないことをも紹介する。
  • 池中 良徳, 石塚 真由美
    セッションID: W3-3
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/08/08
    会議録・要旨集 フリー
    近年、ネオニコチノイドによる暴露が原因とされる野生動物、特に鳥類への被害に関する報告が後を絶たない。更に、ネオニコチノイドは、哺乳動物に対して蓄積性はなく、毒性は無視できると言われて来たが、使用量急増による亜急性・慢性曝露の実体、又は健康影響に関する調査はまだまだ不足している。
    ここで、ヒトへの曝露実態の解明には非侵襲的に採取できるサンプルである尿がしばしば使用される。即ち、尿中に排泄されるネオニコチノイドおよびその代謝産物を測定することにより曝露量を概算することが可能となる。一方で、ネオニコチノイドは極めて代謝されやすいため、親化合物のみでなく代謝産物も対象としたスクリーニングが必要である。そこで、当該研究では、主要ネオニコチノイド7種(ジノテフラン、ニテンピラム、チアメトキサム、クロチアニジン、イミダクロプリド、アセタミプリド、チアクロプリド)に加え、その代謝産物について一斉分析法を確立し、LC-ESI/MS/MSによる分析を行った。
    群馬県の尿サンプルを85検体採取し、分析した結果、ニテンピラム(n = 4)、クロチアニジン(n = 1)、チアメトキサム(n = 7)は親化合物が尿中から検出された。一方、アセタミプリドについて、親化合物は検出されなかったのに対し、その代謝産物であるNデスメチル体が14サンプルで検出された。
    当該結果は、ヒトにおけるネオニコチノイドの曝露評価において、代謝産物を含めたスクリーニングが重要である事を示唆するものであった。
ワークショップ4 医薬品リスクのコミュニケーション
  • 花岡 龍毅, 定松 淳, 江間 有紗, 田中 丹史, 田野尻 哲郎, 廣野 喜幸
    セッションID: W4-1
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/08/08
    会議録・要旨集 フリー
    医薬品をめぐっては、解決が望まれる様々な課題が山積している。なかでも、これまでわが国で繰り返し発生してきた薬害を、今後どのように防止していくのかという喫緊の重要課題がある。
    薬害は、様々な複合的な要因によって引き起こされる災害であり、これを防止するためには、製薬企業や医師、薬剤師などの専門家が、消費者・患者である一般人と連携・協力して解決策を探っていくことが必要である。
    医薬品は、それが科学的・法的手続きに従って製造、承認、販売された場合でも、その安全性に関しては一定の不確実性を内包しているものである。「一般用医薬品」のインターネットでの販売が解禁された現在、医薬品の内包するリスクが、以前よりもいっそう不確実なものになっていく可能性も否定できないであろう。
    この不確実性に対処するためには、複数のアクターによる異なる視点の確保が欠かせない。なかでも、一般人の視点は、専門家が想定できない事態をも想定しうる可能性を持っており、重視すべきものであろう。
    こうした専門知識の異なる様々なアクターが一体となって医薬品リスクに対処していくためには、リスク・コミュニケーションが欠かせないと思われる。しかし、双方向性をもった効果的なリスク・コミュニケーションを成立させることは簡単なことではない。
    では、効果的なリスク・コミュニケーションを成立させるための条件は何か?その一つは、専門家が、一般人の「医薬品に対する知識や理解力、意思決定能力」(これらを「医薬品リスク・リテラシー」と定義しておく)を充分に把握していることであろう。
    以上の問題意識に立脚して、われわれは、一般人の医薬品リスク・リテラシーの特徴を把握するために、薬剤師および一般人に対するグループ・インタビューを行い、その結果を分析した。本講演はその報告である。
  • 廣野 喜幸, 花岡 龍毅, 定松 淳, 江間 有沙, 田中 丹史, 田野尻 哲郎, 清宮 健一
    セッションID: W4-2
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/08/08
    会議録・要旨集 フリー
    技術論の観点からすると、コンピュータ用のソフトウェアと医薬品は特異な製品である。少数とはいえある一定の割合で、バグや好ましくない副作用(薬物有害反応)といった「欠陥」を伴うことが前提となっている。リスク論の観点からすれば、医薬品においては、他種の多くの製品でなら単に「不良品」としてひとくくりにされる場合でも、想定外の厄災(=不確実性uncertainty)をもたらす真の意味での不良品と、想定内のリスクをもたらす予定された「不良品」に区分する必要性が生じる。
    想定内のリスクであったとしても、できるだけ減らすことが望ましいことは言うまでもない。だとすると、問題は、想定内の薬物有害反応が医薬品の生理作用といったハードに関する要因のみなのか、それとも病者の服薬法といったソフトの問題も一定程度以上の要因になっているのかになるだろう。もし後者が要因として無視しえないとしたら、リスク・コミュニケーションによって、情報を受ける者の医薬品リテラシーを向上させることによって、薬物有害反応による厄災を減らせる可能性がある。
    そもそも、他の科学技術リスク・コミュニケーションに比べ、医薬品リスクはコミュニケーション関係者(製薬会社・薬剤師・医師・看護婦・行政・メディア・一般市民)が多いという特徴があり、リスク情報の生成・流通・受信経路すら容易には把握できない憾みがある。そこで、本研究では、関係者の医薬品リテラシーの実態を踏まえた上で、メタ分析的調査・テキスト分析・社会調査等を適宜組み合わせ、医薬品リスク・コミュニケーションの実態調査を試み、改善点があればそれを示唆したい。
  • 桂木 聡子
    セッションID: W4-3
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/08/08
    会議録・要旨集 フリー
    薬剤師が日頃扱う「くすり」は、使用方法や情報の取り扱い方などによって容易に「毒」に変わりうる。また、製造・流通は勿論、調剤・保管・管理・販売業務など日々業務の中で様々なリスク・コミュニケーションが行われているが、今回は「患者と薬剤師」の関わりにのみ注目する。「くすり」は商品であるが、そのものが持っている「情報」も含めた商品である。電化製品や色々な商品にも情報は付いているが、その内容は一般的で、マニュアルを熟読しなくても適当に使用することができる。しかし、「くすり」に関してはそれを提供する時に、その情報を的確に個人に合わせたものにしなければ「くすり」=「リスク」になってしまう。ここで重要な事は、その「くすり」に関する情報を提供する者が正しく理解していること。そして、その情報を個別最適化するために十分な情報を対象者から引き出すこと。情報提供者は必ずしも患者とは限らない。家族や介護に当たる人、医師、看護師、ヘルパーなど様々な方からの情報をフルに活用する必要がある。時には地域ネットワークの中で得られた情報を活用することもある。対象者が非専門職の場合、必要な情報を引き出すための会話は、一方的に聞きたいことを求めても語られることは少ない。また、語られることを拝聴するだけでは冗漫な会話に終始しかねない。患者は決して悪意を持って嘘をつくことはない。ただ、本当のことを言わないことはある。それぞれの患者にはそれぞれの事情があり、希望する治療もある。私たちは私たちが行いたい支援をするのではなく、患者の希望する支援をしなければならない。演者は、患者は病気を治すために病院や薬局に来るのではないと思っている。患者は自分の人生を思うさまに生きるために邪魔な病気をコントロールしたいと思う。その為に病院や薬局に来るのだから、その支援ができるようにリスク・コミュニケーションを実施し、日々の対応を行いたいと考える。
  • 田野尻 哲郎
    セッションID: W4-4
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/08/08
    会議録・要旨集 フリー
     世界リスク社会(Beck 1986)である現代世界社会における、リスク認知とリスク管理に基づくリスク・コミュニケーションは、複雑性の縮減メカニズムとしての信頼を作り出す(Luhmann 1973)社会的基盤である。しかし 2010 年代日本の医療と福祉・ケアには、リスク・コミュニケーションの不全状況がある。これは、米国におけるリスク・コミュニケーションの参照軸である「科学」と「法」(Jasanoff 1997)に加え、日本では「文化・スピリチュアリティー」が重要な参照軸となっている(Tanojiri 2015)ことが、一般に理解されていないことによる。 このことが現代日本における専門家と市民のリスク認知とそれに基づくリスク管理を混乱させ、リスク・コミュニケーションの不全を齎している。
     薬剤師は、医療と福祉・ケアに関わるリスク・コミュニケーションの成立に、医薬品・化学物質リスク管理の専門家として関与しなければならない。2010 年代日本の医療と福祉・ケアのリスク・コミュニケーション不全状況を打破して、医療と社会福祉に関わるリスク・コミュニケーションを成立させるためには、まずリスク・コミュニケーションの基礎となるリスク認知とリスク管理の現状を調査しなければならない。就中、漢方薬剤に関わるそれは、「文化・スピリチュアリティー」軸が重要な地位を占めるだけに、当該リスク・コミュニケーションの特徴をよく顕在化させる、と予想される。
     本講演の目的は、漢方のリスク認知とリスク管理を通した医療と福祉・ケアに関わるリスク・コミュニケーションへの分析によって、現代日本のそれら総体を検討することである。この目的を、薬剤師と一般市民の漢方薬剤に関するその現状に関する調査と、鍼灸師と一般市民に関する同様な調査(田野尻ら 2016 年)の結果と比較することで達成する。
  • 定松 淳
    セッションID: W4-5
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/08/08
    会議録・要旨集 フリー
    「薬品のリスク・コミュニケーション」を調査・分析してゆくに当たって、本研究グループでは、他領域でのリスク・コミュニケーションとの比較対象を行うことを計画した。特に、単なる事例の比較にとどまらず、より一般化した枠組みを構築することを企図した。そのための出発点として、欧米における「クライシス・コミュニケーション」論について若干の文献調査を行った。
    「クライシス・コミュニケーション論」は、主に経営学的な観点から、組織がいかに危機に関わるコミュニケーションを行うべきかを論じたものである。Sellnow(2015)やCoombs(2012)の議論からうかがえる「クライシス・コミュニケーション」論の基本的な枠組みは、①「危機の前の段階」、②「危機の段階」、③「危機の後の段階」の3つのフェーズを区別するというものであった。②の危機の段階においては、人命の救助などスピードが重視され、コミュニケーションも指示的なものとなる。③の「危機の後の段階」では、②の段階でのコミュニケーションが検証される。そこでは双方向的な熟議が求められる。そしてそれは、①の「危機の前の段階」でのコミュニケーションにつながっていく。
    ②の段階でのコミュニケーションを実りあるものにするためには、①の前段階でのコミュニケーションが充実している必要がある。しかし、③から①へのサイクルが回ったのち、再び②の段階に至ることがあるのは、(コミュニケーションの不全がなかったとすれば)新たな“想定外の”危機が発生するためである。つまり危機は本質的には予期しないものとして立ち現われてくる。であるとすれば、全く予期しないものでないかぎり、事前の予兆が、ルーティン業務のなかで見落とされていることになる。ルーティン業務のなかで、危機の予兆として注視するかどうか判断する必要が生じる“グレーゾーン”への対処の仕方が、緊急時のリスク・コミュニケーションの前段階において重要であると考えられる。
ワークショップ5 医薬品開発における探索安全性評価の戦略について
  • 藤本 和則, 小林 好真, 西矢 剛淑, 高砂 浄, 高崎 渉
    セッションID: W5-1
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/08/08
    会議録・要旨集 フリー
     医薬品開発において、研究開発費は上昇し続けているものの、それが成功確率の向上に寄与していないという問題が近年論じられている。特に化合物最適化段階から早期臨床試験までの間に毒性が原因で開発中止に至るケースは少なくなく、これが成功確率向上に寄与していない1つの要因になっている。このため、医薬品開発に携わる探索毒性研究者にとって「いかに毒性リスクの低い臨床候補化合物をより短期間で取得するか?」が大きな課題となっている。これを実現するためには、できるだけ早期に薬理標的固有ならびに化合物固有の毒性リスクを抽出し、その結果に基づき効率的な毒性回避戦略を立案・実践していくことが重要である。具体的には、ヒット化合物が未取得の段階では、薬効標的分子ならびにその周辺分子に関する生物学的情報を調査することで主にon-target毒性リスクを予測し、ヒット化合物が得られてきた段階では、化学構造に基づくoff-target毒性リスクを予測する(virtual毒性プロファイリング)。また、微量ながらも化合物が合成されれば、標準パッケージ試験だけではなく、virtual毒性プロファイリング情報を考慮した各プロジェクト固有の in vitro毒性評価を行なう(in vitro毒性プロファイリング)。これらvirtual/in vitro毒性プロファイリング結果を考慮し、さらにその検証試験としてin vivo毒性プロファイリング試験を立案し(動物種、投与期間、バイオマーカーを含む評価項目の検討)、実施する。こうしたvirtual/in vitro/in vivo毒性プロファイリング結果に基づき、各プロジェクトにカスタマイズされた効率的な毒性回避戦略を立案し、毒性リスクの低い臨床候補化合物選抜を目指していくことになる。本発表では、これら早期毒性プロファイリングの弊社での試みを紹介する。
  • 塩谷 元宏, 中野 今日子, 朝倉 省二, 澤田 光平, 細川 暁, 菅沼 彰純
    セッションID: W5-2
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/08/08
    会議録・要旨集 フリー
    新薬候補化合物の開発において,臨床導入に向けた安全性評価は①創薬初期スクリーニング(より良いリード化合物の選択),②候補化合物選択(1品への絞り込み),③GLP毒性試験などの各ステージにおいて実施される。①においては,in silico やin vitro の系を駆使し,開発上インパクトの大きい毒性(例:遺伝毒性,肝毒性,心電図QT間隔延長)のスクリーニングが主体となる。②では,創薬のon-target(薬効の延長上にある毒性)/off-target(薬理作用に関連しない毒性)の毒性を検出し,新薬開発における安全性面からの問題・課題点を早期に把握しておくことが重要となる。候補化合物を1品に絞り込んだ後に予想外の重篤な毒性がみられた場合は,その毒性の回避,あるいは,より安全域の広い化合物を選択するため,バックアップ化合物の探索が行われることもある。③においては,毒性プロファイルと安全域の確認,可能な範囲でのMoT(mechanism of toxicity)の考察,さらにPhase 1 で利用可能な適切な安全性バイオマーカーの提示が求められる。
    上記①~③の各ステージにおける安全性評価を改善・強化していくことは,より安全な新薬の創出に繋がるが,その評価方法・評価項目・取り組み姿勢は各社多様であり,どのようなアプローチが最も効率的かつ確実なのかは,各社悩むところであろう。欧州では複数の企業によるeTOXというプラットフォームが構築され,化学構造式からin silico毒性予測が可能になっている。日本国内においても,企業の垣根を越えたこのような活動が期待される。
    本講演では,エーザイにおける臨床導入に向けた安全性評価のフローを示すとともに,将来の改善・強化に向けたアイデアも合わせて紹介することで,より安全な新薬の創出に向けた各企業の取り組みを考える為の一助としたい。
  • 埴岡 健一, 岡田 晃宜
    セッションID: W5-3
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/08/08
    会議録・要旨集 フリー
    医薬品開発における安全性リスクは開発中止あるいは市場撤退の大きな要因の一つであり、製薬メーカーにとって開発候補品の安全性予測精度の向上とその評価戦略を構築することは不可欠である。開発後期での中止は膨大な時間と開発費が失われることになるため、特に創薬初期段階での的確な安全性評価が望まれる。しかし、創薬初期のステージでは規制ガイドライン等は存在せず、各社の開発戦略等の背景やポリシーに大きく依存して、独自の戦略が構築されていると思われる。欧米では各種学会や論文発表等で創薬安全性評価戦略について報告されている例もみられるものの、限られた評価系や標的臓器に重点を置いた内容となっており、創薬安全性評価の全体像や考え方について理解することは困難であった。一方で毒性評価系や解析ツール等の技術は日々進歩しているものの、それらを総合的に創薬毒性評価系に組み込むことは容易ではない。本発表では、弊社の創薬研究における探索安全性研究の考え方と戦略について紹介する。特にリード化合物の毒性プロファイル評価から、クリティカルな毒性の回避を目指した最適化研究、そして開発候補化合物の選択までの戦略について紹介する。
  • 出口 二郎, 宮脇 出
    セッションID: W5-4
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/08/08
    会議録・要旨集 フリー
    創薬研究の初期段階から開発候補化合物を決定するまでの探索毒性評価に関しては、可能な限り初期の段階でより効率的かつ網羅的に標的臓器毒性を見極め、更に開発化合物選定にあたってはこれら標的臓器毒性を可能な限り回避する化合物デザインが肝要となる。一方、探索毒性評価に関しては各社毎に独自の評価戦略を策定されている場合が多く、その有用性や課題点などを議論する機会は必ずしも多くない。そこで今回、当社における探索毒性の評価戦略をその事例と共に以下の通り紹介する。
    当社では創薬研究の初期段階における探索毒性評価において、大きく分けて①in vitro評価系にて安全性プロファイルを把握した上で最終的にin vivoにて開発候補化合物の安全性プロファイルを確認・検証する手法及び②in vivo評価を先行実施した上で標的臓器毒性にフォーカスして開発候補化合物を選定する手法の2つの評価戦略を用いている。これら2つの手法についてはそれぞれに利点・欠点が指摘され、①では予め頻出する毒性表現型に関して一定の基準をクリアした化合物のみにin vivo評価を適用することで頻出毒性の発生を未然に回避できること、②については先行実施したin vivo評価の結果から標的臓器毒性に限定した効率的な化合物選定が可能であること、との利点が考えられる。一方、①ではin vivo評価が化合物選定の後期段階となることからin vitroで検出が難しい標的臓器毒性の把握が遅くなる事、②では先行実施するin vivo評価の試験規模や標的臓器毒性回避のために行う試験のスループット性等の問題点も指摘されうる。
    本発表では上記の2つの戦略に基づいて実際に評価を行った事例を紹介し、両者の持つ利点や解決すべき課題につき言及するとともに、創薬研究の初期段階における探索毒性の役割について併せて議論する場としたい。
  • 橋本 清弘
    セッションID: W5-5
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/08/08
    会議録・要旨集 フリー
    近年の医薬品開発では成功確率の向上と開発期間の短縮という、容易には相容れない課題の達成が求められている。成功確率の向上にトキシコロジストが貢献できるのは、臨床試験で安全性懸念により開発を中止する確率を下げることに尽きるが、現実には開発ステージが進んでから毒性が問題となり開発を断念せざるを得ないケースは多々ある。このため、前臨床試験段階で有望な化合物を選択するための高精度かつ高速なスクリーニング法を構築することは製薬業界内で切望されてきた。
    ハイスループットスクリーニング技術を毒性試験に応用して、安全性懸念を迅速かつ簡便に検出できる評価系を従来よりも早期の創薬段階で行い、「新薬開発の可能性が低い化合物には早く見切りをつける」試みは各社で行なわれてきた。毒性試験の前倒しに加えて、科学技術の向上で可能となったIn silico/In vitroスクリーニング系の改善や新規開発も成功確率の向上に寄与してきた。また、in vivoでの毒性変化及び標的臓器を創薬初期段階で同定し、それを回避する化合物を探索することも成功確率の更なる向上に寄与してきたと考えられる。
    しかしながら、評価すべき毒性評価項目の拡大に伴い、一連の評価に耐えうる化合物を見出すことは益々困難となり、最適な候補化合物を見出すまでには必ずと言って良いほど何かしらの毒性問題に直面することになる。
    このような背景から、リード化合物から最適な候補化合物の選定までに直面する様々な毒性問題に対しては、最適かつ最短のスクリーニング系(単回あるいは3日間投与等の短期試験法)を適切なタイミングで実施して、毒性を回避できた化合物を見出すことが成功確率の向上と開発期間の短縮に繋がると考えられる。本講演では最適な開発化合物を見出すまでの一連の試行錯誤過程について事例を交えて紹介したい。
ワークショップ6 経済産業省プロジェクト 新規反復投与毒性試験代替法の開発:ARCH-Tox
  • 小島 肇
    セッションID: W6-1
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/08/08
    会議録・要旨集 フリー
    化学物質の有害性を含む評価項目(発がん性、一般毒性、神経毒性等)毎の基準の統一化に向けた国連勧告(Globally Harmonized System of Classification and Labeling of Chemicals :GHS)により、各国における規制への導入が近年急速に進みつつある。このような多様な評価項目に対応した有害性評価を実施するニーズが急速に高まっている。しかし、これらの有害性評価項目に関しては信頼性が高く、かつ、効率的な評価技術は十分に確立されていない部分も多く、また一般的にヒト健康影響に関する有害性評価項目の多くは動物への反復投与試験等で数ヶ月から数年の期間を要するため、新たな規制導入による評価実施ニーズに答えられていない状況である。このため、多様な有害性評価項目に関する迅速で効率的な評価技術の開発を進めることは、国内の化学物質管理の円滑な実施に資するとともに、国際的なニーズにも対応するものであり、緊急性かつ必要性が高いものである。
    本経済産業省のプロジェクトARCH-Toxでは、石油精製物質等の化学物質において、国際的なニーズがあり十分整備されていない多様な有害性評価項目のうち、肝毒性、腎毒性および神経毒性について、遺伝子発現変動解析の手法および培養細胞手法等による評価技術の確立を目的に平成23年から5年に渡って実施された。
    具体的には、28日間反復投与試験の動物サンプルから取得した遺伝子発現変動データを活用して有害性を予測する手法の開発や、複数の in vitro試験法の開発及び迅速かつ効率的に実施できる有害性評価システム等を構築することを目標とし、研究開発計画に基づき実施された。本シンポジウムでは本プロジェクトの5年間の成果を報告し、その活用について提案するものである。
    ①反復投与毒性試験における遺伝子発現変動による発がん性等発現可能性情報の取得手法の開発
    ②肝臓毒性、腎臓毒性及び神経毒性 in vitro試験法の開発
  • 齋藤 文代
    セッションID: W6-2
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/08/08
    会議録・要旨集 フリー
    身の回りに存在する化学物質のうち、有害性が明らかになっている物質数は非常に少なく、化学物質の効率的な有害性評価システムの開発が求められている。そこで、我々は分子レベルで毒性評価できるトキシコゲノミクス技術に着目し、遺伝子発現量解析による新規の毒性評価法の開発に長年取り組んできた。2011年からは、経済産業省ARCH-Toxプロジェクトに参画し、Tox-Omicsチームとして毒性メカニズムに基づいたマーカー遺伝子の探索を行い、一つの反復投与試験から、一般毒性だけでなく発がん性等の別の毒性エンドポイントを評価できる試験系の開発を行ってきた。本発表では、一般毒性の中で肝毒性と腎毒性に着目し、31物質の28日間反復投与試験を実施し、マイクロアレイ解析による網羅的な遺伝子発現解析から毒性メカニズムに基づいた毒性判定システムを開発したので、その内容について報告する。さらに、肝毒性については四塩化炭素、腎毒性についてはシスプラチンをケーススタディとして、遺伝子発現量データと動物実験データを照合することにより、MoA (Mode of Action) / AOP (Adverse outcome pathway) を構築し、遺伝子発現量の変化と生体内での作用機序について整理した。この中で、シスプラチンの腎毒性については皮質、髄質外帯、髄質内帯、及び乳頭に分けてサンプリングしたことで、腎臓の複雑な構造を考慮したより精緻なMoA / AOP構築につながった。本研究により、肝毒性と腎毒性について、毒性所見及びそのメカニズムに基づいた毒性判定システムを構築することができ、遺伝子発現量データがMoA / AOP構築に有用であることが示された。今後は、今回同定されたマーカー遺伝子を活用した有効なin vitro試験の開発が期待される。
  • 松本 博士
    セッションID: W6-3
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/08/08
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    発がん性試験は多数の実験動物と2年以上の長期にわたる試験期間を必要とし、実施者にとって非常に負担の大きい試験であることから、簡易な発がん性スクリーニング法の開発が望まれている。National Toxicology Programの齧歯類を用いた化学物質の発がん性試験結果を調査したところ肝臓及び腎臓が主な標的臓器であったことから、これら臓器を標的とする化合物のスクリーニング法の開発は急務である。我々は既に28日間反復投与後のF344ラットの肝臓の遺伝子発現データを用いた短期肝発がん性予測法CARCINOscreen®を開発しており、予測遺伝子(15遺伝子)の発現量データを本予測法に適用することで被験物質の肝発がん性を定量的に評価することができる。そこで、ToxOmicsプロジェクトでは発がん性のもう一つの主な標的臓器である腎臓に着目し、腎発がん性が既知の化合物30物質以上についてSD雄ラットを用いた28日間反復投与試験を行い、投与後の腎臓の遺伝子発現データを用いて短期腎発がん性予測法を開発した。また、肝発がん性予測法のテストガイドライン化をすすめるため、最少予測遺伝子セット (4遺伝子)を用いた定量PCR法による肝発がん性予測法の開発を試みた。
    腎発がん性予測法の開発では、腎発がん性との関連性が示唆された遺伝子群を用いて予測式を作成し、その予測式の有効性を外部データで検証したところ腎発がん性物質については全て予測可能であった。さらに、本プロジェクトで取得したSD雄ラットの肝臓サンプルを用いて新たに構築した定量PCR法による肝発がん性予測法を検証したところ、簡便な方法であるにも関わらず80%以上の正当率を示し、良好な予測性能が得られた。
    以上の結果から、28日間反復投与試験に遺伝子発現解析を組み合わせることで、従来では得られなかった肝臓および腎臓の発がん性を高精度に予測できる可能性が示された。
  • 中島 芳浩
    セッションID: W6-4
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/08/08
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    化学物質の28日連投による一般毒性試験において、肝毒性は最も代表的な毒性徴候を示すことが知られており、肝臓は体内に吸収された物質の解毒や代謝に関わる臓器であることから、化学物質の安全性試験において重要な毒性評価臓器となっている。我々は、マウス人工染色体(MI-MAC)ベクターに複数種の発光レポーター遺伝子を挿入したトランスクロモソミックマウスを作製、それより単離した初代肝細胞を用い、非破砕的発光測定により簡便に化学物質の反復暴露が可能なin vitro肝毒性試験系の開発を試みた。
    本プロジェクトでは、アルブミンプロモーター制御下で小胞体移行型ガウシアルシフェラーゼ(GLuc-KDEL)、および恒常的プロモーター(CAGプロモーター)制御下でヒ緑色発光ルシフェラーゼ(Emerald Luc, ELuc)が発現するトランスクロモソミックマウスを作製した。続いてコラゲナーゼ灌流により肝細胞を採取し、96ウェルプレートを用いた3次元培養に供したところ、約1ヶ月間に渡り内因性のアルブミンタンパク質の分泌、および両ルシフェラーゼの活性が維持されることが確認された。
    培養開始4日目から培地交換により化学物質処理を開始し、2~3日間毎の培地交換時に培養液中のGLuc活性と肝細胞内のELuc活性を非破砕的に測定し、反復暴露期間中の発光量を経時的に測定した。その結果、アセトアミノフェンやアフラトキンB1の反復処理により、細胞毒性と連動するELuc活性の濃度依存的低下、一方、細胞膜障害に伴うGLuc活性の加が観察され、2種類の発光レポーターはともに化学物質処理による細胞障害作用を示唆する変動を示した。
    本講演では、さらに複数の化学物質の結果を紹介し、この試験系の有用性について議論したい。
  • 大林 徹也
    セッションID: W6-5
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/08/08
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     腎臓は 200万以上のネフロンと20種以上の細胞から構成されている複雑な組織であり、薬剤の影響を受けやすい臓器である。腎障害試験は、主にラットを用いた尿検査や血液検査、腎臓の病理検査で行われている。しかしながら時間的にもコスト的にも動物愛護の観点からも、培養細胞を用いたin vitro腎毒性評価法の開発が必要になってきている。
     腎臓の構造の複雑性により、培養細胞を用いて腎臓の機能を in vitroで評価することは困難であると予測された。しかしながら岡山大学の喜多村らは、ラット腎臓近位尿細管 S3領域から腎前駆/幹細胞を単離し、3次元培養によりネフロン構造をもつ腎構造体を再構築することに成功した。
     我々は、この再構成3次元腎構造体を用いた新規in vitro腎毒性評価法の開発を目指した。まず均一な性質の再構成3次元腎構造体を複数同時に作成するプロトコルを確立した。次に、経時的に3次元腎構造体が再構成される様子を観察し、化学物質を曝露する時期および方法を検討した。再構成3次元腎構造体は培養14日後の3次元腎構造体にシスプラチンを投与したところ細胞死が誘導されて近位尿細管様構造の伸長の阻害が観察された。
     KS細胞に蛍光タンパク質を発現することができれば、3次元腎構造体の形態をより詳細に解析することができる。鳥取大学で開発してきたマウス人工染色体ベクターを用いることで EGFPを発現するKS細胞を樹立することができた。
     我々は、このKS細胞由来の3次元腎構造体を用いたin vitro腎障害評価法の可能性に関して議論する。
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