日本毒性学会学術年会
第43回日本毒性学会学術年会
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シンポジウム8 メチル水銀毒性研究の最前線
  • 黄 基旭
    セッションID: S8-4
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/08/08
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     メチル水銀は水俣病の原因物質として知られ、重篤な中枢神経障害を引き起こすが、その毒性発現機構およびそれに対する防御機構はほとんど解明されていない。近年、短い二本鎖RNA(siRNA)が相補的な塩基配列を持つmRNAを特異的に分解するRNA干渉法が見出され、注目を浴びている。そこで我々は、メチル水銀による毒性発現機構およびそれに対する防御機構の全容解明を目的として、約17,000種のヒト遺伝子転写産物を標的としたsiRNAライブラリーを導入したヒト培養細胞を用いてメチル水銀感受性に影響を与える遺伝子群の網羅的な検索を行った。その結果、発現抑制によって細胞にメチル水銀高感受性を与える遺伝子として113種を同定することに成功した。今回同定された遺伝子産物を機能別に分類したところ、シグナル伝達関連遺伝子(28種)、転写・翻訳調節関連遺伝子(13種)、細胞分裂・増殖・周期関連遺伝子(9種)、細胞内オルガネラ間の蛋白質輸送関連遺伝子(8種)、代謝関連遺伝子(7種)、細胞接着関連遺伝子(5種)などが含まれていた。一方、発現抑制によって細胞にメチル水銀耐性を与える遺伝子として180種が同定され、その中にはシグナル伝達関連遺伝子(25種)、転写・翻訳調節関連遺伝子(23種)、細胞内オルガネラ間の蛋白質輸送関連遺伝子(18種)、代謝関連遺伝子(17種)、トランスポーター関連遺伝子(14種)、細胞分裂・増殖・周期関連遺伝子(10種)、細胞接着関連遺伝子(6種)、ユビキチン・プロテアソーム関連遺伝子(4種)などが含まれていた。今回同定された遺伝子群がコードする蛋白質は、そのほとんどがメチル水銀毒性発現に関与することがはじめて示されたものであり、本知見はメチル水銀毒性発現機構およびそれに対する防御機構の解明に重要な手がかりを提供するものと期待される。今回は、メチル水銀感受性に影響を与える遺伝子群の同定ツールとしてのsiRNAライブラリーを用いた検索法の構築、および新たに同定された遺伝子産物のメチル水銀毒性発現における役割について報告する。
  • 熊谷 嘉人
    セッションID: S8-5
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/08/08
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     メチル水銀(MeHg)はタンパク質のシステイン残基をS-水銀化して、毒性を発現する環境中親電子物質のひとつである。我々はMeHgがGSH抱合化(フェーズ2反応)を受け、MRPを介して細胞外へ排泄される(フェーズ3反応)ことから、一連の反応に関与するタンパク質・トランスポーターが転写因子Nrf2で発現制御されていることに着目し、Nrf2がMeHgの解毒・排泄に重要な役割を演じていることを細胞および個体レベルで明らかにした(MeHgは酸化されないのでフェーズ1反応は関係しない)。次に、生体内でcystathionine α-lyase(CSE)やcystathionine β-synthase(CBS)等から産生される硫化水素(H2S)のpKa値6.76であることから、生理的条件下ではその大半がHSアニオンとして存在し、この求核分子がMeHgと反応して結果的にイオウ付加体を形成しているのではないかと考えた。その結果、MeHgを曝露した細胞中およびラット臓器中から新代謝物として(MeHg)2Sを同定した。しかし、最近の東北大・赤池教授らのグループとの共同研究により、CSE/CBSはシスチンを基質としてシステインパースルフィド(Cys-SSH)を生成する酵素であり、H2Sはその副産物である事実を発見した。興味深いことは、Cys-SSHの“可動性イオウ原子”はGSHに転移して、GSHパースルフィド(GSSH)やそのポリスルフィド(GSSSG)のような活性イオウ分子(Reactive Sulfur Species:RSS)を産生することである。そこで、(MeHg)2S生成機構を調べた結果、MeHgはGSSH、GSSSGだけでなく、タンパク質中に結合したRSSを捕獲して(MeHg)2Sを生成することが示唆された。
     本シンポジウムでは、野生型およびCSE欠損マウスを用いた最近の研究成果を紹介して、MeHgの毒性発現と生体内レドックスホメオスタシスの破綻との関係について考察する。併せて、MeHgの捕獲・不活性化におけるRSSの意義(フェーズゼロ反応)についても議論したい。
シンポジウム9 マイクロミニピッグを用いる医薬品の安全性評価 / Safety Evaluation of Pharmaceuticals Using the Microminipig
  • Peter HEINING
    セッションID: S9-1
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/08/08
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    The pig has been introduced more than 20 years ago in drug development following attempts of finding a species which shares better homology with human than the dog based on bio-physiological parameters. However, miniaturization, standardized breeding and health status control were required before the pig could find a broader than niche application in pharmaceutical industry. During the years of experience with minipigs in pharmaceutical research and the science evolving rapidly, the selection of a non-rodent animal species for preclinical safety testing became primarily driven by pharmacological (target expression homologous function), pharmacokinetic and bio-physiological considerations. This offered a broad field of application for the minipig, besides the well-established use in dermal projects in all areas of drug development but also in novel approaches including genetically modified animals. In this symposium we look at recent approaches and requirements in the optimal selection of a non-rodent model in pharmaceutical development and critically ask how good of a choice the minipig offers for the scientist, how did the testing environment evolve and what are the key requirements for a broader use of the minipig compared to the other well established non-rodent species like dog or monkey. In the end, recent advances like the Microminipig and genetically-engineered pigs using CRISPR/Cas appear to offer future potential in the field of translational research and drug development.
  • 大竹 正剛
    セッションID: S9-2
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/08/08
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    Microminipigは、2009年から富士マイクラ㈱より生産販売されている実験用ミニブタであり、特長は、6ヶ月齢時体重が10㎏程度、毛色が3タイプ(白色、黒色、銀色)、SLA(豚白血球抗原)遺伝子が明確であることにある。Microminipigは、富士農場サービスにより1993年からポットベリー種を基礎として、梅山豚等の血縁を導入し、極小の形質で育種選抜され、2006年に完成した。Microminipigは、確立されて新しいミニブタであるが、ミニブタの中でも小さいことからその利用可能性が注目され、基礎的情報が蓄積されつつある。本発表では、Microminipigの成長(発育ステージと体躯)、繁殖生理(雌・雄)、遺伝的背景(極小の形質、毛色、SLA遺伝子等)等の基本的な情報について、これまで報告されている科学的な知見を取りまとめて紹介する。
    Microminipigs are extremely small-sized, <10kg b.w. at 6 months of age. This novel miniature pigs were recently developed for biochemical research, and were supplied by Fuji Micra Inc from 2009. They were established through selective breeding based on Pot-bellied pig and another type of pig. In this presentation, we review the features and genetic backgrounds of Microminipig with previous reports. In addition, we propose the use of this breed.
  • 川口 博明, 堀内 正久, 谷本 昭英
    セッションID: S9-3
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/08/08
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    我々は解剖学・生理学的にヒトとの類似性点が多いミニブタ、中でも超小型のマイクロミニピッグに着目し、この動物の誕生とほぼ同時に、実験動物としての開発に取り組み、背景データの構築、毒性病理評価モデル・ヒト病態モデルの開発、発生工学をメインテーマに研究してきた。本発表では毒性病理の視点から、これまでの研究成果や知見を紹介する。また、ミニブタに関する国際毒性病理用語・診断基準統一化推進委員会の取り組みについても紹介する。
    Swine provide reliable experimental animal models because of their physiological and anatomical similarities to humans. The Microminipig is a novel breed of minipig. We have studied formulation of background data, development of toxicologic pathology test model and human disease model, developmental engineering in Microminipigs. In this presentation, we review our results as toxicologic pathology in Microminipigs. In addition, we present the International Harmonization of Nomenclature and Diagnostic Criteria (INHAND)-Non-rodent working group (NRWG) -Minipig.
  • 杉山 篤, 和田 剛, 中村 裕二, 曹 新, 中瀬古(泉) 寛子, 安東 賢太郎
    セッションID: S9-4
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/08/08
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    We characterized microminipig as an experimental model for evaluating cardiac safety of drugs in comparison with a dog. Microminipig was anesthetized with ketamine (16 mg/kg, i.m.) and xylazine (1.6 mg/kg, i.m.) followed by 1 % halothane inhalation. Pilsicainide (1 mg/kg), verapamil (0.1 mg/kg), E-4031 (0.01 and 0.1 mg/kg), moxifloxacin (0.03, 0.3 and 3 mg/kg), terfenadine (0.03, 0.3 and 3 mg/kg), dipyridamole (0.056 and 0.56 mg/kg), azithromycin (0.3, 3 and 30 mg/kg), oseltamivir (0.3, 3 and 30 mg/kg) and fluvoxamine (0.1, 1 and 10 mg/kg) were intravenously administered over 10 min (n=4 for each treatment). Pilsicainide, E-4031, moxifloxacin and terfenadine prolonged QTc, but its reverse was true for verapamil, azithromycin, oseltamivir and fluvoxamine, whereas no significant change was detected by dipyridamole. Changes in QTc were in good accordance with those in our previous canine studies except for those by verapamil, azithromycin, oseltamivir and fluvoxamine. Moreover, the high dose of fluvoxamine increased the heart rate and mean blood pressure together with skin flush and myoclonus, which was not observed in dogs. The discrepancy in the responses between the Microminipig and dog can be partly explained by the smaller volume of distribution of a drug in Microminipig; thus, the high dose of fluvoxamine may have induced serotonin syndrome. These observations may help apply this new animal for safety pharmacology study.
  • 國枝 正幹, 斉藤 裕之, 小松 弘幸, 秋江 靖樹, 中村 和市
    セッションID: S9-5
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/08/08
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    シクロフォスファミド(CPA)は,DNAと架橋結合しDNA合成を阻害する抗悪性腫瘍剤であり,多くのがん治療に使用されている.これまで報告されているヒトへの副作用には,骨髄抑制,出血性膀胱炎,免疫抑制作用に伴う感染症,肝障害及び腎障害などが挙げられ,非臨床試験においても類似の所見が認められている.
    今回我々は,医薬品の安全性評価におけるマイクロミニピッグの有用性を一般毒性試験において検証するため,CPAの4週間反復投与毒性試験を実施し,ヒトへの外挿性並びに他動物種の毒性試験データとの相違を検証したので報告する.
    【方法】雄性マイクロミニピッグ4群各3匹(0,1,3,10 mg/kg)にCPAを4週間反復強制経口投与し,一般状態の観察,体重測定,摂餌量測定,眼科学的検査,心電図検査,尿検査,血液学的検査,血液生化学的検査,免疫学的検査及びTK測定を行った.また,最終投与の翌日に剖検を実施し,器官重量測定及び病理組織学的検査を行った.
    【結果】4週間の反復経口投与及び各検査は予定通り完了し,他の動物種と同様に実施可能であった.CPAの4週間反復強制経口投与により,摂餌不良及び体重減少が10 mg/kg群で顕著にみられ,投与第2週には1例で死亡が認められた.また,血液学的検査及び血液生化学的検査では,1 mg/kg以上の群で白血球数の減少,3 mg/kg以上で赤血球数,ヘマトクリット値,ヘモグロビン量及び総タンパクの減少,10 mg/kgで網状赤血球数,血小板数,リン脂質及びアルブミンの減少が認められた.また,器官重量では免疫系器官に変化がみられ,CPAの骨髄抑制及び免疫抑制作用が顕著であった.これら変化はげっ歯類で報告された変化と一致していた.
    上記結果に加えて,病理組織学的検査,TK測定及び免疫学的検査等の検査結果についても報告する.
    To assess the usefulness of Microminipigs in general toxicity studies, we performed a four-week repeated toxicity study of cyclophosphamide. Bone marrow and lymphoid organs were affected as observed in other animal species.
  • 川村 啓, 多田 成克, 安東 賢太郎, 杉山 篤, 中村 和市
    セッションID: S9-6
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/08/08
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    毒性試験に用いる2種目の動物としては、通常イヌやヒト以外の霊長類が用いられてきたが、欧州ではミニブタを用いることが検討されている。マイクロミニピッグの場合、6ヵ月齢の体重は10 kg程度であり、被験物質量はイヌの場合と同程度になる。今回、生殖発生毒性試験および免疫毒性試験に関する基礎データを得るため、マイクロミニピッグ胎児の免疫系の発達および生後の特異抗体産生能に及ぼす免疫抑制剤の影響を検討した。
    安楽死させた妊娠マイクロミニピッグから、胎児(胎齢32、42、50、60、80、90日)を得て、組織学的観察および胎齢50、60、80日の胎児血清を用いIgM、IgGクラス抗体の検出を試みた。また、非妊娠マイクロミニピッグへのシクロホスファミド(CPA)投与による免疫系への影響をT細胞依存性抗体産生能によって調べた。組織学的にはタクロリムス投与による影響とも比較した。その結果、遅くとも胎齢80日の胎児血清中にはIgMクラス抗体が検出され、胎児由来のものと考えられた。IgGクラス抗体も同様に認められたが、母体に由来するものであることも否定できなかった。非妊娠マイクロミニピッグの特異抗体産生能はCPA投与によって低下した。脾臓において、CPAの場合にはリンパ小節および動脈周囲リンパ組織(PALS)、タクロリムスの場合にはPALSの委縮が顕著であった。
    Microminipigs are considered as the second species in toxicity studies of pharmaceuticals. The present study was conducted to develop reproductive and developmental studies and immunotoxicity studies in Microminipigs. Both IgM and IgG class antibodies were detected at gestation day 80 in Microminipig fetus. IgM class antibodies are thought to be produced by fetus. The origin of IgG class antibodies should be determined by further investigations. Suppressive immunotoxicological effects of cyclophosphamide and Tacrorimus were confirmed in Microminipigs.
  • 山本 大, 石井 宏幸, 山田 直明, 遠藤 和守, 高山 聡, 西田 紀子, 寒川 彰久, 大西 康之, 平塚 秀明
    セッションID: S9-7
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/08/08
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    近年、安全性試験へのブタの利用が進んでいる。その多くはGöttingen minipigを用いたものであるが、より小型で扱いやすいMicrominipigも注目されてきている。Göttingen minipigでは精細管上皮の変性が高頻度にみられる一方、第42回本学会学術年会にて寒川らはMicrominipigにおけるそれら変性像の発現頻度は非常に低いことを報告した。精細管等において自然発生性の変化が少ないことは、精巣毒性を評価する上で有用であるが、実際にMicrominipigを用いて精巣毒性を評価した報告はない。そこで、精巣毒性を惹起する薬物として知られるドキソルビシンをMicrominipigに静脈内投与し、雄性生殖器の形態や機能にどのような影響がみられるか検討した。Microminipigの精巣成熟の目安は6ヶ月齢とされることから、10~20ヶ月齢の動物を用いてドキソルビシンを週1回間歇(計2回)投与し、精巣、精巣上体、精嚢及び前立腺等の病理組織変化を経時的に解析した。その結果、対照群では精細管上皮の変性等、異常所見はみられなかったが、ドキソルビシン投与群では精粗細胞及び精母細胞の減少が認められた。この他、経時的に血清中テストステロン濃度及び血漿中薬物濃度測定を行った。また剖検時に精巣上体より精液を採取して精子検査を行った。本シンポジウムでは、これらのデータをGöttingen minipigを用いた同様の実験結果と比較し、精巣毒性評価におけるMicrominipigの有用性を考察する。
    Recently, the number of safety study using miniature pigs has increased; however, there is no information about testicular toxicity using Microminipigs. In this study, several abnormalities on the male reproductive organs were observed after dosing of Doxorubicin in Microminipigs. The value of Microminipigs in the evaluation of the testicular toxicity will be discussed by comparison with the results of the similar experiment using Göttingen minipigs.
  • 坂井 知津香, 岩野 俊介, 東 恵理子, 内田 将史, 小野寺 純, 宇野 泰広, 林 亮司, 杉山 篤, 中村 和市, 宮本 庸平, 山 ...
    セッションID: S9-8
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/08/08
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    非臨床試験において適切な実験動物を選択するために、薬物の体内動態に大きく影響する薬物代謝酵素やトランスポーターの発現や機能について、ヒトと実験動物の種差を明確にすることは重要である。本研究では、近年実験動物として注目されているマイクロミニピッグにおけるこれら因子の発現や機能について評価し、ヒトとの種差を明らかにするため、マイクロミニピッグにおける薬物代謝酵素およびトランスポーターの発現および機能解析を実施した。まず、ヒト薬物代謝において最も重要な酵素の一つであるシトクロームP450(P450)に注目し、その代謝活性をヒトとマイクロミニピッグで比較した。すなわち、各P450分子種プローブを用い、マイクロミニピッグにおける血中動態を評価した結果、ヒトP450 3A基質であるミダゾラムの血中曝露はヒトに近い傾向が示された。一方で、ヒトP450 2D基質であるデキストロメトルファンの血中曝露はヒトに比べ非常に低かった。肝ミクロソームにおけるミダゾラムに対する代謝活性はマイクロミニピッグとヒトで同等であったが、デキストロメトルファンではマイクロミニピッグが高かった。また、マイクロミニピッグ肝臓においてP450 3Aおよび2D遺伝子の発現がみとめられ、特にP450 3A遺伝子発現量はヒトと同様にP450遺伝子中で最も高く、代謝活性と相関を示した。本研究では、引き続き、マイクロミニピッグ肝臓におけるトランスポーター遺伝子の発現解析および機能解析を行っている。
    Plasma concentrations of human P450 probes in Microminipigs were evaluated in comparison with corresponding hepatic clearances and molecular gene expression levels. Similar cytochrome P450 3A-dependent midazolam clearances in Microminipigs as those in humans were supported by P450 3A catalytic function and expression levels in livers. Despite some rapid substrate clearances, the present results combined with our hepatic transporter findings suggest Microminipigs are suitable models for human pharmacokinetics.
シンポジウム10 ナノマテリアルの実用化に呼応した有害性評価の進捗
  • 鶴岡 秀志
    セッションID: S10-1
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/08/08
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    ナノテクは毒性学の貢献を待っている。現在、2次電池材料など限られた工業分野で使用されているカーボンナノチューブ(CNT)が大規模市場に登場してくる。巨大市場である電線及び機械強度用線材に活用できる技術開発が世界的に複数の企業及び研究所で行われている。2016年ナノテク展でCNT線材のモータ試作品が展示されたことは記憶に新しい。やや小さい市場になるもののCNT線材はモーションセンサーや「触感」センサーとしてウエラブル分野及びロボット制御分野での開発が進捗している。今後、自動車、ロボット、仮想空間インターフェイス、インフラの分野ではCNT線材が必需品となる日も遠くない。発熱体分野ではクラレによる繊維染色型面状発熱体製品がすでに販売されているが、耐久性と加工性の良い紙ベースの製品も開発された。目に見えにくいが、発熱体は大きな市場を持つ。航空機で本格的に実用化された炭素繊維をより安価に活用する上でもCNTは重要な役割も担っている。さらに欧米では、CNTをタイヤの添加剤として使う計画も進行している。近い将来、CNTは電池市場(数百トン)とはケタ違いの使用量(数万トン)が予想され、各種市場で主要な原材料になる。この状況を鑑みるに、将来の安全性確保のためにCNT毒性評価はより重要性が増すだけではなく、用途に応じた評価とデータの分析方法の開発も必要である。今までは、材料の毒性を労働安全の観点から研究推進していたが、これからはバリューチェーンと環境暴露、さらに世界標準の観点から評価を進めていくことが日本の産業競争力を復活させるために必要であり、我が国の毒性学の貢献が期待される。本講演では、上記応用市場とその開発状況を講じる。
  • 津田 洋幸, 徐 結荀, William ALEXANDER, David ALEXANDER, Mohamed ABDEL GIED, 沼 ...
    セッションID: S10-2
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/08/08
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    金属と多層カーボンナノチューブ(MWCNT)の発がん性の効率的評価法について、ラットを用いて、以下の方法を試みた。1)マクロファージ(Mp)負荷試験:初代培養ラット肺Mp培地に検体MWCNTを加えてMpに貪食させて得られた上清は、ヒト由来のA549(肺がん細胞)、Met5A(中皮細胞)、MESO-1/2(悪性中皮腫細胞—上皮型/肉腫型)に対して増殖活性を示した。一方、肺線維芽細胞、肝癌、腎癌、卵巣癌、乳癌細胞に対する増殖活性は無かった。またMWCNTを貪食した培養Mpには炎症と細胞増殖に関与するサイトカインIL2、IL18、CCL2-5等が検出された。
    2)肺内噴霧投与(TIPS法)によるMWCNT投与後の肺と胸膜の炎症・細胞増殖機序解析:MWCNT-7(IARC 分類G2B)およびcrocidolite (UICC grade)(IARC 分類G1)は遷延性の肺胞炎症と臓側胸膜中皮の増殖を惹起させた。肺と胸腔洗浄液中にはMWCNTと炎症細胞(Mφ、好中球、リンパ球等の合計)の浸出も持続して観察された。肺組織と胸腔洗浄液には炎症性IL種とCCL種が対照より高値であった。
    3)短期投与後2年までの長期観察:この方法でMWCNT3種に肺がん及び悪性中皮腫の発生が見られた。
     以上から、Mpのin vitro負荷試験とin vivo 短期試験で見られたサイトカイン類IL2、IL18、CCL等は、肺炎症の遷延と中皮細胞の増殖活性、さらに肺と中皮における発がんに関与していると考えられた。特にCCL3はヒトのアスベスト暴露者血清でも増加していること(Xu, Cancer Science 2015)から、この方法は機序の面から人に外挿できる金属と炭素ナノマテリアルへの暴露と発がん評価モデルとして注目される。
  • 石丸 直澄, 山田 耕一, 斎藤 雅子, 新垣 理恵子, 高橋 祐次, 菅野 純
    セッションID: S10-3
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/08/08
    会議録・要旨集 フリー
     ナノマテリアルの暴露による免疫システムへの影響に関しては、カーボンナノチューブの吸引による肺胞マクロファージの活性化などを検討した研究が知られている。しかしながら、これまでに報告されてきた研究は暴露後数週間での解析がほとんどで、ナノマテリアルの暴露後長期間における免疫システムへの詳細な影響に関しては不明のままである。本研究では、正常あるいは免疫異常マウスを用いて、カーボンナノチューブの暴露による免疫系への影響を長期間観察することにより、ナノマテリアルの免疫制御システム全体に対する効果を評価することを目的としている。
     Taquann処理された多層化カーボンナノチューブ(MWCNT)を正常C57BL/6マウスの腹腔内に投与後18ヶ月まで解析すると、腹膜炎が持続するとともに、M2型の腹腔マクロファージから種々のサイトカインの産生亢進、TLRを介したシグナルに影響することが明らかとなった。また、全身性自己免疫疾患モデルとして知られているMRL/lprマウスへのMWCNTの腹腔内投与では、B細胞分画の増加及びリウマチ因子(RF)の上昇が確認された。
     一方で、吸入曝露装置を用いたB6マウスへのMWCNTの吸入曝露では、暴露後6ヶ月で肺胞マクロファージの生細胞数が減少しており、生存マクロファージはM1型が主であり、その割合は暴露濃度に依存して増加していた。また、曝露12ヶ月後では肺胞内のM1とM2マクロファージの比が大きく変化することが明らかになった。
     以上の結果から、カーボンナノチューブの長期曝露によってマクロファージの分化やシグナル伝達に大きく影響するとともに、B細胞あるいは抗体産生機構を含め全身の免疫システムに異常をもたらす可能性が示唆された。
  • 市原 学, 小林 隆弘, 市原 佐保子
    セッションID: S10-4
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/08/08
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    工業ナノマテリアルのハザード評価のための動物実験の蓄積に比べ、ヒトへの曝露とその影響に関する知見は限られている。本研究では比較的高濃度の酸化チタンに曝露された労働者の呼吸器、循環器、自律神経機能への影響を評価した。酸化チタン取り扱い工場に浮遊する酸化チタン粒子を捕集し、走査電子顕微鏡を用いて調べた結果、粒子経は46から562ナノメートルであった。Cascade Impactorを用いた計測では、作業中の気中粒子の総重量濃度は9.58から30.8mg/ m3であった。胸部X線およびスパイロメーターを用いた検査では10か月から13年間の同工場で作業経験を有する16人の労働者において曝露と相関する異常は認められなかった。4人の労働者にホルター心電図を装着してHeart Rate Variabilityを調べるとともに、Optical Particle CounterおよびCondensation Particle Counterを用いて、粒子数をモニターした。直径300ナノメートル未満の粒子数と、副交感神経機能の指標であるRR50+/-との間に負の相関関係があることが明らかとなった。ホルター心電図は非侵襲的な検査であり、ナノマテリアル吸入曝露によるヒト自律神経系影響を調べる上で有用と考えられる。本研究は少数の労働者を対象としたパイロットスタディであり、より多くの労働者を対象とした更なる研究が必要である。本講演ではヒト研究に加え、心血管系への影響を調べるIn Vitro研究についても紹介する。
  • 笠井 辰也, 梅田 ゆみ, 大西 誠, 福島 昭治
    セッションID: S10-5
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/08/08
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    ストレートタイプの多層カーボンナノチューブ(MWCNT)は、化学的に安定でアスベストと類似した形状をもつことからアスベストと同様に肺線維症、肺がん、中皮腫、胸膜肥厚等を引き起こす可能性が危惧されている。人はMWCNTを取り扱う様々な状況で経気道的にばく露する可能性がある。そこで、実際の人のばく露経路を考慮して、雌雄ラットを用いてMWCNTの全身ばく露による発がん性試験を行った。
    被験物質はストレートタイプのMWCNT(保土谷化学工業社製のMWNT-7)を使用した。投与は、0、0.02、0.2及び2 mg/m3の濃度のMWCNTエアロゾルを1日6時間、週5日間、104週間(2年間)、F344/DuCrlCrljラットの雌雄に全身ばく露することで行った。ばく露の結果、雄は0.2 mg/m3以上の群、雌では2 mg/m3群で肺の腫瘍、特にがんの発生増加が認められた。また、がんに関連する過形成もがんの発生した群でみられた。胸膜では、過形成と線維化の発生増加が観察されたものの、中皮腫は観察されなかった。病理観察(光顕)では、肺胞内のMWCNTの沈着は低濃度からばく露濃度に相関して認められ、そのほとんどが肺胞マクロファージに貪食されていた。さらに、MWCNTの化学分析とSEM観察により、肺内のMWCNTは、光顕観察結果と同様、低濃度からばく露濃度に相関して増加し、繊維長は約6 µm であった。肺内のMWCNTは、マクロファージに貪食され、まゆ状の凝集塊を形成した。一方、胸腔内でも、ばく露濃度に相関してMWCNTは増加した。形状は、単離した直線状のものがほとんどで、長さは、肺に認められたものと同等であったが、量は肺に比べて顕著に少なかった。MWCNTの発がんには、ROS種やサイトカイン等の関与も示唆されるが、本研究からは、MWCNTの肺発がんには、十分な長さと量が必要であることが示された。(本研究は厚生労働省委託研究、ナノマテリアルの吸入ばく露事業の一環として実施した)
シンポジウム11 バイオ医薬の品質および不純物管理に係わる安全性評価:現状と未来
  • 石井 明子
    セッションID: S11-1
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/08/08
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    バイオ医薬品(組換えタンパク質医薬品)は,目的物質を発現する組換え細胞の培養,及び,細胞あるいは細胞培養上清からの目的物質の精製工程を経て,製造される.バイオ医薬品原薬の構成要素には,目的物質,目的物質関連物質の他,目的物質由来不純物,製造工程由来不純物が含まれる.目的物質由来不純物は,目的物質の分子変化体(前駆体,製造中や保存中に生成する分解物,凝集体,アミノ酸配列変異体等)で,生物活性,有効性及び安全性の点で目的物質に匹敵する特性を持たないものである.製造工程由来不純物には,細胞基材に由来するもの(宿主細胞由来タンパク質,DNA等),細胞培養液に由来するもの,あるいは細胞培養以降の工程である目的物質の抽出,分離,加工,精製工程に由来するもの(試薬・試液類,クロマトグラフ用担体からの漏出物等)がある.これらの不純物の評価・管理については,ICH Q6Bガイドラインに基本的な考え方が示されているが,具体的な許容値や管理値は示されていない.バイオ医薬品開発に際して,中間体,原薬,あるいは製剤を対象とした特性解析により,各種不純物の存在と残存量が明らかにされ,製剤中の不純物含量が安全性に影響のない値以下に管理できるよう,原材料の管理,工程パラメータ管理,工程内試験,規格及び試験方法等からなる品質管理戦略が構築される.不純物の管理値については,最終的には,臨床試験に用いたロットにおける不純物含量等をもとに決定されている.不純物の安全性への影響は,製剤の投与経路等によっても異なる場合があるので,各製品の意図した用途に応じた品質管理戦略が必要である.本講演では,バイオ医薬品に含まれる各不純物の特徴,不純物が問題となった事例,及び,不純物管理戦略の概要を述べ,不純物に焦点をあてたバイオ医薬品品質管理の現状と課題を考察したい.
  • 三島 雅之
    セッションID: S11-2
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/08/08
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    バイオ医薬品の高分子不純物には、製造に用いた宿主細胞由来の蛋白質(host cell protein, HCP)、医薬品本体の分解、修飾、会合により発生する蛋白質成分、大量培養中に発生する遺伝子突然変異による医薬品の変異体(sequence valiant, SV)などがある。これらの不純物については通常の分析法では検出しにくいこともあり、その種類や量について十分に把握できないまま、非臨床試験において許容できない毒性が認められないことを根拠に臨床試験に進んでいる。近年の分析技術の進歩により、抗体医薬に混入する高分子不純物の詳細が解明されつつあり、それに伴い、それらの不純物がヒトに与える影響についても徐々に理解されはじめている。CHO細胞に由来するHCPの一種であるPLBL2タンパクは、抗体医薬品に結合して原薬に混入するが、ポリクロ―ナル抗体を用いるHCP分析法では見えにくく、ヒトに対して極めて免疫原性が高い。少量のSVは偶発的に発生するが、アミノ酸変異によりそれまで抗原提示されなかった部位が提示され、医薬品本体が本来誘発しないT細胞の活性化を誘発することがある。抗体医薬のアグリゲートは、ヒト抗原提示細胞において医薬品本体に由来する潜在的T細胞エピトープ配列の抗原提示を増強すると同時に、本体が持たない新たなエピトープを有し、抗医薬品抗体を誘導する可能性がある。また、アグリゲートはFc受容体を通じて、強力にADCC活性やサイトカインを誘導する可能性がある。これら免疫系が介在する反応は、「適切な動物種」を用いた非臨床試験を実施しても、免疫の種差によりヒト毒性が予測できないことが多い。ここでは、最近明らかにされつつある高分子不純物に起因する免疫反応を毒性の観点から整理し、動物で検出できない潜在的リスクに対する非臨床毒性評価の可能性と、医薬品不純物としての許容値設定にむけた課題を論じたい。
  • 奥村 剛宏
    セッションID: S11-3
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/08/08
    会議録・要旨集 フリー
    医薬品の製造業界においては、バイオ医薬品や再生医療等医薬品の製造にシングルユースシステム(SUS)が使用されるようになっている。製造の生産性向上や交叉汚染の減少などの利点がある一方、SUS由来の抽出物・溶出物、微粒子に加え、完全性、無菌性などバイオ医薬品の品質に直接的、間接的に与える影響が懸念される。
    SUS製品(バック、フイルター、チューブなど)の特徴は、その品質がサプライヤーの品質保証システムに依存していることである。従って、サプライヤーへの技術訪問や監査によりリスク評価を行い、その結果にもとづいて適切にサプライヤーを管理することが求められる。医薬品の品質や製造に影響を与える製品のサプライヤー/製造サイトとは品質契約を締結し、定期的に監査をすることが望ましい。
    また、単回使用であるため、ユーザーは、通常、受入れ試験で使用前に品質を確認することができない。SUS製品の設計段階からユーザーとサプライヤーで緊密に協議してユーザー仕様要件を確立することが、SUSに対する品質管理の重要な要素である。サプライヤーから、当該SUS製品の適格性評価データ、抽出物・溶出物に関する評価結果、リーク試験条件や無菌性保証のバリデーションデータなどの技術情報の提供を受け、サプライヤーと協議を行ないながら、その品質管理戦略を構築する。抽出物・溶出物についても各サプライヤーが取得したデータをもとにリスク評価を行ない、追加実験の要否や毒性評価の結果を判断する必要がある。
    また、バイオ医薬品の安定供給のためには、SUS製品の入手性などビジネス面での評価も必要になるため、試験部門だけでなく製造部門や購買部門を含めた総合的な戦略が必要である。
    2015年、厚労省研究班では、産官学の共同で、「シングルユースシステムを用いて製造されるバイオ医薬品の品質確保に関する提言書」がまとめられ、現在、国内外の関係者から広く意見を求めている。
  • 若澤 龍佳
    セッションID: S11-4
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/08/08
    会議録・要旨集 フリー
    近年、医薬品市場全体の中におけるバイオ医薬品のシェアも年々高まっており、この傾向は今後も継続するものと想定される。中でも、もともと血液中に存在し、免疫力の中核を担う、生体内物質である抗体医薬品の市場の拡大が見込まれている。低分子化合物である化学合成医薬品がタンク内の化学反応によって製造されるのに対し、バイオ医薬品は生き物である細胞の生体機能を利用することにより製造される。このように細胞を利用して製造する場合は、培養条件等の違いにより、製造されるバイオ医薬品の構造上の不均一性を生み出すこととなる。
    化学合成医薬品では製造工程中、あるいは保存中に構造の変化を伴う分解を生じた場合には分解物として規制していく必要が生じる。一方、バイオ医薬品では分子変化体であっても、目的物質と同様の生物活性があり、製品の安全性及び有効性に悪影響を及ぼさない場合は、目的物質関連物質として不純物とは考えず、規制の対象とはしない。そこで構造上の変化を確認することと同様に、特に有効性への影響を確認するため、いわゆる生物活性の評価を行うことが必要不可欠である。
    抗体の構造変化としては、凝集、切断、酸化、脱アミド化などが考えられる。これらの変化は、抗体の不均一性を引き起こし、不均一化によって生じる分解物・変化物が医薬品の有効性・安全性に影響を与える可能性があることから、これらの分解物・変化物の評価はバイオ医薬品の開発及び品質管理において極めて重要である。分析手法としては主に各種分離モードを用いたクロマトグラフィーによる測定、あるいは測定前に還元あるいは酵素処理などの手法により断片化した試料を測定することにより、変化部位に関する情報を得る。今回の発表ではこれらの分析手法について詳細に紹介する。
  • 広瀬 明彦
    セッションID: S11-5
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/08/08
    会議録・要旨集 フリー
    バイオ医薬の不純物の評価・管理についての基本的な考え方は、ICH Q6Bガイドラインに示されているが,具体的な許容値等は示されていない。一方で、化学合成による医薬品の不純物については、Q3AおよびQ3Bガイドラインにおいて原薬および製剤由来の不純物の管理基準が設定され、さらにQ3Cにおいて残留溶媒の許容値が設定されている。これまで、バイオ医薬では原材料や製造工程の特性から低分子による不純物のリスクはそれほど大きくないと考えられてきたが、分析技術の発達により既知の毒性学的な知見だけでは安全性を評価しきれない物質が検出されるようになってきている。また、シングルユースシステムの利用拡大に伴い、製造工程に使用される樹脂から溶出する低分子化合物のリスクが懸念されるようになってきており、バイオ医薬においても低分子不純物に対する包括的な管理基準の必要性が高まってきている。関連する基準としてICH M7ガイドラインでは、医薬品中の変異原性不純物に対して、構造の特定はできても単離して安全性データを実質的に取得することができない場合の包括的な医薬品の管理手法と管理閾値が設定された。このときの管理閾値は毒性学的懸念の閾値(TTC)の概念に基づいており、M7では基準値としてTTC:1.5μg/dayを採用しているが、バイオ医薬品はM7の対象外である。また、近年では米国の産官学で組織されているPQRI(Product Quality Research Institute)において、吸入剤や注射剤等における容器からの溶出低分子化学物質に対する閾値設定を含む管理手法の提案が行われてきており、一般毒性のエンドポイントに拡張されたTTCの概念が評価手法開発の基本となっている。本講演では、バイオ医薬の不純物の評価におけるTTCの概念に基づいた低分子不純物の毒性学的評価の考え方について概説する。
シンポジウム12 エピジェネティック毒性評価に向けたバイオマーカー探索とその関連研究の動向
  • 五十嵐 勝秀, 大塚 まき
    セッションID: S12-1
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/08/08
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     エピジェネティクスは塩基配列の変化を伴わずにゲノムDNAやヒストンの後天的修飾により転写を制御する仕組みとして注目され、様々な生命現象への関わりが明らかにされてきている。私達は2011年から「エピジェネティック毒性」(化学物質がエピジェネティック制御に影響し、生体に好ましくない作用を及ぼす現象)のシンポジウムを実施し、その重要性を指摘するとともに、重点的な研究の必要性を訴えてきた。エピジェネティクスこそが化学物質の長期に渡る影響や、化学物質を含む環境要因により疾患素因がどのように形成されるかを説明しうる可能性があり、解析技術の大幅な進展に伴うブレイクスルーにより現象の理解が進むことが期待される。
     今回のシンポジウムではエピジェネティック毒性評価に向けたバイオマーカー探索について、関連研究の動向を紹介し、今後のエピジェネティック毒性研究について議論したい。まず私の方で本分野全体を概説しエピジェネティック毒性とバイオマーカーのイントロとする。次に、エピジェネティクスが細胞制御と病態にどう関わるかを中尾先生から、メチル化DNAとの関連で捉えられてきたエピジェネティック制御因子MeCP2による全く新しいmiRNA制御機構を介した細胞表現型調節について中島先生から、iPS細胞作製技術をエピゲノム改変ツールとし、遺伝子変異を持つがん細胞から樹立したiPS細胞解析により明らかになったエピゲノムと遺伝子変異の接点について山田先生から、独自のエピミュータジェンの迅速検出法を用いたエピジェネティック毒性検出システムの開発について曽根先生から、最後に侵襲性の低いバイオマーカーとして期待されるmiRNAの可能性について、薬の副作用の発症機序との関連を中心に横井先生から紹介して頂く。
     本シンポジウムによりエピジェネティック毒性の議論が進み、本分野の研究が進展することを期待している。
  • 中尾 光善
    セッションID: S12-2
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/08/08
    会議録・要旨集 フリー
    細胞の老化は、その特性に応じた内在性プログラムで調節されている。しかも、外的環境の変化に適応する必要がある。その際には、刺激に対する短期応答だけでなく、刺激が消失してもそれを記憶したり、慢性的な刺激に対する長期応答があり得る。DNAメチル化とクロマチン、核内構造体の形成というエピゲノム全体が働き合うと考えられるが、その機序には不明な点が多い。
    私たちは、線維芽細胞の老化モデル(複製後老化および癌遺伝子誘導性老化(OIS))を用いて解析してきた。CTCF依存性のクロマチンインスレーターに着目して、細胞周期を調節するINK4/ARF遺伝子座では、老化細胞でCTCFの発現低下によるクロマチン・ループの解除がおこり、INK4(p15/p16)遺伝子が発現誘導されることを示した。また、細胞老化に必要な網膜芽細胞腫タンパク質RBによる遺伝子制御を通して、老化細胞でのエネルギー代謝(解糖と酸化的リン酸化の双方)が活性化されることを報告した。そこで、細胞老化に関わるエピゲノム因子を明らかにするため、siRNAライブラリーを用いた探索を行った。メチル化DNA結合因子MBD1と協働するH3K9トリメチル化酵素複合体(SETDB1-MCAF1)を構成するMCAF1(別名ATF7IP)の阻害によって、細胞老化が誘導された。興味深いことに、OISにおいて、MCAF1はPMLボディと呼ばれる核内構造体に集積・隔離されていた。さらに、特定のエピゲノム因子の阻害によって細胞老化が誘導されて、核内構造体が変換することが判明した。細胞老化に関わるエピゲノム機構を明らかにすることは、新しいバイオマーカー開発につながる可能性をもつ。老化のエピジェネティクスには未解明の点が多く、その契機として議論したい。
  • 中島 欽一
    セッションID: S12-3
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/08/08
    会議録・要旨集 フリー
    Rett症候群(RTT)はX染色体上のMeCP2遺伝子の変異により引き起こされる重篤な神経発達障害である。これまでにMeCP2はメチル化DNA依存的な転写抑制、転写活性化、mRNAスプライシング制御などさまざまな機能を発揮することが明らかになりつつあるが、RTT発症機序の詳細は依然として不明である。我々は中枢神経系におけるMeCP2相互作用因子の網羅的プロテオミックスクリーニングを行い、MeCP2はmicroRNA(miRNA)マイクロプロセッサーDrosha複合体と会合し、特定miRNAのプロセシングを制御することを明らかにした。MeCP2プロセシング標的の1つであるmiR-199aを発現させると、興奮性シナプス伝達の異常やsoma sizeの減少などのMeCP2欠損ニューロンの各種表現型が改善された。さら、データベースサーチの結果から、miR-199aの標的として、mTORシグナルを負に制御することが知られる因子を同定し、実際にそれらがMeCP2/miR199aの下流で、mTORシグナルの活性化制御に重要な役割を果たすことを明らかにした。我々はmiR-199a欠損マウスも作製し、そのマウスがMeCP2欠損マウスで見られるものと類似した表現型を示すことを確認した。加えて、miR-199a 欠損マウス脳において、mTORシグナルの減弱が見られることも分かった。これらの結果は、MeCP2/miR-199a/mTORシグナルという一連の経路が、RTT発症に強く関連していることを示している。また、RTT患者脳では健常脳と比べて、miR-199aの発現低下がみられていること、及びうつ、双極性障害、統合失調症など複数の精神神経疾患においてmTORシグナルの減弱が観察されていることなどから、このmiR-199aはこれら精神神経疾患のバイオマーカーとなる可能性も示唆された。
  • 山田 泰広
    セッションID: S12-4
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/08/08
    会議録・要旨集 フリー
    人工多能性幹細胞(iPS細胞)樹立には、遺伝子配列の変化は必要としない一方で、DNAメチル化などのエピジェネティック修飾状態がダイナミックに変化することが知られる。我々は、iPS細胞作製技術を細胞のエピゲノム制御状態を積極的に改変するツールとして捉え、がん細胞に応用することで、遺伝子変異を有するがん細胞のエピゲノム制御状態を変化させ、がん細胞の運命制御の可能性を検討している。特にがん細胞からのiPS細胞樹立を試みるとともに、樹立されたがん細胞由来iPS細胞に分化を誘導することで、細胞分化に関わるエピゲノム制御が遺伝子変異を有するがん細胞のフェノタイプにどの程度影響を及ぼすかを明らかにしようとしている。
    EWS/ATF1融合遺伝子誘導による明細胞肉腫モデルマウスから樹立された肉腫細胞株からiPS細胞作製を試みた。EWS/ATF1融合遺伝子非存在下で肉腫細胞株に細胞初期化因子を誘導することで、iPS細胞様の細胞株が樹立できた。興味深いことに、樹立されたiPS細胞様細胞株は、親株である肉腫細胞株と共通の染色体異常および遺伝子変異を有するにも関わらず、EWS/ATF1融合遺伝子非存在下で多能性を有し、奇形腫形成、キメラマウスへの寄与が可能であった。肉腫由来iPS細胞から作製したキメラマウスは、EWS/ATF1融合遺伝子の誘導により、速やかに二次性の肉腫を形成することが分かった。本発表では、肉腫由来iPS細胞を用いた腫瘍発生モデルを紹介し、細胞分化に関わるエピゲノム制御と発がんの接点について議論したい。
  • 曽根 秀子, 阿部 訓也, 中尾 洋一, 大鐘 潤, 桂 真理, 藤渕 航, 五十嵐 勝秀
    セッションID: S12-5
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/08/08
    会議録・要旨集 フリー
    生体におけるゲノムDNAのエピジェネティックな制御が生殖・発生やさまざまな慢性疾患に深く関与している知見が蓄積し、化学物質の活性把握と整理が必要となってきた。昨年、我々は、「エピジェネティック活性をもつ化学物質の影響把握と新たな環境リスクの予防策」に関するプロジェクトを開始し、幹細胞とその分化細胞を主な研究材料に、エピジェネティックな変動を引き起こす物質「エピミュータジェン」の迅速検出試験法を開発している。まず、ヒト型多能性幹細胞モデルであるマウスEpiSC細胞株を均質な状態で効率良く樹立する培養技術に成功し、MBD-GFPとHP1-mCherryのコンストラクトを導入したグローバルなエピジェネティック状態(DNAメチル化、ヒストンH3K9メチル化修飾)を可視化するモデル細胞を樹立した。ヒストン修飾部位特異的抗体を組み合わせた免疫染色法による化学物質の特異性を検出する系も開発している。さらに、低メチル化アリル検出とウルトラディープ解析の組み合わせによるヘテロな細胞集団で特定の遺伝子を発現する細胞の検出法を確立し、細胞集団のごく一部であっても、DNAメチル化状態の変化する遺伝子の同定が可能となった。従来のバイサルファイト法を改良した手法で1細胞メチル化解析を行なう実験系を確立した。他の環境要因との比較研究では、DNAの二本鎖切断のマーカー分子であるγ-H2AXが増加する低線量被ばく条件下で、それに見合う転写変動が確認され、抗ヒストンH4K3トリメチル化抗体を用いたChIP-seq法で多数の発現変動を反映するゲノム修飾箇所が観察された。予防策研究では、QSARに基く分子記述子と幹細胞の遺伝子ネットワークにおいて、それぞれをSVM機械学習による毒性予測を行った結果、予測率に大きな差が生じることが検証された。このように、多面的なアプローチで進めているプロジェクトの進捗を紹介する。
  • 横井 毅
    セッションID: S12-6
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/08/08
    会議録・要旨集 フリー
      microRNA(miRNA)は標的となるmRNAに結合し、翻訳抑制またはmRNA分解に働き、標的の発現を負に制御することにより、多くの生命現象に関っている。ヒト遺伝子産物の60%以上がmiRNAによって何らかの調節を受け、二次的な影響を含めるとほぼ全ての遺伝子が影響を受けていると考えられている。また、近年全ての体液中にmiRNAが豊富に存在し、組織や病型特異的なmiRNAが次々と報告されており、非侵襲的または低侵襲的なバイオマーカーとしての関心が高まっている。我々は、組織や血漿中のmiRNAの発現変動が様々な障害や病型を区別でき、高感度な診断バイオマーカーとなることを明らかにし、さらに、障害の機序を明らかにすること目的とした研究を、非臨床動物試験を中心に行っている。ラットにおける様々な標準的な肝障害病型について、miRNAアレイを用いて網羅的に分析することにより、ある程度の予測が可能であるバイオマーカーを提案した。また、我々は様々な薬に起因する特異体質性肝障害モデル動物を作成し、その機序の多くに免疫・炎症因子の関与を報告してきた。ハロタン誘導性肝障害モデル動物では、miR-106bがハロタン投与後1時間程の極めて早い時間に変動し、このmiRNAがStat3の発現に影響し、Th17型免疫応答の活性化を惹起することにより肝障害を増悪させる機序を示した。また、Th2細胞の関与を見いだしたメチマゾール誘導性肝障害は、miR-29b-1-5p及びmiR-449a-5pによるSox4及びLEF1(lymphoid enhancer factor1)の制御によってその機序が説明されることが示した。このように、発現変動するmiRNAによって、副作用の発症機序を早期に予測できる可能性が示された。
      miRNAの発現は、様々な疾患において変動し、薬毒物の暴露、ストレスや環境変化に速やかに高感度な応答を示す。今後は、詳細なメカニズムを定量的に説明できるデータを収集し、創薬や疾病の診断や治療に多機能バイオマーカーとして役立てられていくことが期待されている。講演では薬物性副作用の予測や解明を目指した最近の研究動向も紹介する。
シンポジウム13 オルガネラトキシコロジー
  • 西田 基宏
    セッションID: S13-1
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/08/08
    会議録・要旨集 フリー
    増殖能をもたない心筋細胞は、ミトコンドリアの分裂と融合を繰り返すことで自身の品質(恒常性)を管理し、高いエネルギー産生能を維持している。我々は、ミトコンドリア分裂を促進するGTP結合タンパク質dynamin-related protein 1 (Drp1)が様々な親電子物質による心臓のストレス適応から不適応へのシグナル変換の鍵分子となることを新たに見出した。外因性の親電子物質であるメチル水銀(MeHg)をマウスに低濃度曝露した後、大動脈狭窄(TAC)を施したところ、圧負荷誘発性の突然死および左室機能低下、心臓リモデリングが顕著に増悪した。MeHg曝露マウス心臓において、心機能に変化はなかったもののミトコンドリアの著しい分裂が観察された。MeHgは心筋Drp1のGTP結合活性を有意に上昇させること、Drp1阻害剤Mdivi-1や活性イオウ(Na2S4)の処置によってMeHg曝露心筋細胞におけるメカニカルストレス誘発性細胞死が抑制されることを明らかにした。一方、心筋梗塞後のマウス心臓においても梗塞周辺領域で顕著なミトコンドリア分裂が観察され、確かにDrp1のGTP結合活性の一過的な増加が観察された。しかし、心筋梗塞4週間後の心臓では、Drp1のGTP結合活性が完全に低下しているにもかかわらず、ミトコンドリア分裂が有意に増加しており、この過程には内因性活性イオウの枯渇に伴うDrp1の酸化的二量体形成が関与することを明らかにした。以上の結果は、Drp1の酸化的翻訳後修飾によるミトコンドリア品質管理異常が心臓のストレス適応から不適応への移行を促進する原因となること、システインパースルフィド/ポリスルフィドをはじめとする活性イオウがその抑制因子として働くことを強く示唆している。
  • 上原 孝, 奥田 将, 杉野 英介
    セッションID: S13-2
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/08/08
    会議録・要旨集 フリー
     膜/分泌タンパク質はリボソームで合成され,その後,小胞体内腔において分子シャペロンやジスルフィド異性化酵素によって,正しく折り畳まれることで成熟化することが知られている.様々な重金属,薬物(毒物),エネルギー枯渇などのストレスが負荷されると,タンパク質成熟機構が破綻して小胞体内に未成熟な変性タンパク質が蓄積する.このような状態が小胞体ストレスであり,unfolded protein response(小胞体ストレス応答)やユビキチンプロテアソーム系(小胞体関連分解:ERAD)が駆動することでストレスを軽減する.
     過剰量の一酸化窒素(NO)産生を介したニトロソ化ストレスは,脳梗塞やパーキンソン病などの発症に関わることが示唆されてきた.とくに近年,NOによるシステインチオール基への酸化修飾(S-ニトロシル化)がタンパク質の機能変化を惹起することから,注目が集まっている.この修飾は可逆的ではあるが,高濃度のNO 暴露によって持続的な酸化が起き,デスシグナルなどの応答が生じると推定されている.私たちは NOの基質の一つとして,小胞体タンパク質であるジスルフィド異性化酵素(PDI)の同定に成功した.PDIはNOによって酸化されて,酵素活性が著しく抑制される.その結果,小胞体におけるタンパク質成熟化機構が破綻し,細胞死/神経変性疾患が惹起されることを明らかにした.
     PDIは基質タンパク質のジスルフィド結合形成に関わる酵素であるが,活性中心システイン残基は定常状態でも,またサルフェン硫黄ドナーによっても一部スルフヒドリル化/ポリサルファー化されている可能性を見いだした.本修飾は硫黄分子の反応性(酵素活性)を高めることが大いに予想されることから,小胞体におけるPDI本来の機能に深く関与している可能性を示唆している.現在,その詳細なメカニズムについて解析しており,本シンポジウムにおいて議論する予定である.
  • 本蔵 陽平, 松尾 洋孝, 村上 昌平, 崎山 真幸, 水足 邦雄, 塩谷 彰浩, 山本 雅之, 森田 一郎, 四ノ宮 成祥, 川瀬 哲明, ...
    セッションID: S13-3
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/08/08
    会議録・要旨集 フリー
    転写因子NRF2は酸化ストレスによる組織障害からの防御機構を担う重要な制御因子である。最近の報告から、強大音曝露によってもたらされる内耳性聴覚障害は、虚血再還流による酸化ストレスの増加がもたらす組織障害であることが明らかにされた。すなわち、強大音に曝露されている間は内耳の血流量が減少し、曝露後にその回復が起こることにより、活性酸素種が発生し組織障害・細胞機能の低下が生じる。我々は、NRF2の活性化が、心臓や脳、腎臓などの臓器における虚血再灌流障害の軽減に有効であると報告されていることから、強大音曝露による内耳障害の軽減にも有効であると予想し、その検証を行った。その結果、Nrf2–/–マウスは野生型マウスと比較して強大音曝露により内耳障害が生じ易いことが明らかになった。そこで、NRF2誘導剤であるCDDO-Imを強大音曝露前に投与したところ、内耳障害が軽減された。この改善効果はNrf2–/–マウスでは認められなかったことから、CDDO-Imによる内耳保護作用はNRF2の活性化によるものであることが確認された。ヒトにおいては、NRF2遺伝子プロモーター領域に一塩基多型があり、NRF2の発現量とその活性の程度に影響することが知られている。そこで、健康診断を受検した602人の陸上自衛隊員の聴力検査の結果とNRF2遺伝子の一塩基多型の相関を検討したところ、騒音性難聴の初期症状を示す集団で、NRF2が少なめになる一塩基多型を有する頻度が有意に高いことがわかった。以上のことより、NRF2の活性化が騒音性難聴の予防に重要であると結論される。また、NRF2遺伝子の発現が低い一塩基多型を有する場合は、騒音性難聴に対するリスクが高くなるので強大音の曝露に対して注意が必要といえる。
  • 有本 博一
    セッションID: S13-4
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/08/08
    会議録・要旨集 フリー
     オートファジーは、細胞外由来物質の分解「ヘテロファジー」に対して命名された。細胞質に内在する物質の主要分解経路である。当初、オートファジーには分解対象選択性がないと考えられていたが、分解対象を選ぶ選択的オートファジーが発見されて、大きく注目されている。
     細胞内に侵入した細菌の排除は、本来ヘテロファジーの範疇に入るが、エンドソームから細胞質へ抜け出すと、オートファジー分解を受ける。私たちはA群連鎖球菌(GAS, JRS-4株)の排除過程を研究するなかで、タンパク質S-グアニル化と選択的オートファジーの関係に興味をもった1)
     S-グアニル化は、内因性小分子8-ニトロcGMPとシステイン残基の間で進行する修飾反応である2)。GASは、ストレプトリジンO(SLO)を分泌し、エンドソームから細胞質に脱出するが、その後オートファジーに捕捉されて分解される。オートファゴソームに隔離された細菌のS-グアニル化修飾率は、細胞質の細菌に比べて目立って高く、「排除の目印」としてS-グアニル化が使われているという着想を得た。詳しく検討するとS-グアニル化は、引き続くユビキチン化と連動しており、S-グアニル化レベルを抑制する処理は、GASのオートファジー排除を遅延させた。目印としてのS-グアニル化には多彩な応用が期待できる。
     傷害を受けたオルガネラの排除にも選択的オートファジーが関与するが、ここでのS-グアニル化の機能は十分にわかっていない。例えば、傷害を受けたミトコンドリアの排除にS-グアニル化が関与しうるかについて現在検討しており、進捗についてお話しする予定である。
     
    1) Ito and Saito et al., Mol. Cell 52, 794 (2013); 2) Sawa et al., Nat. Chem. Biol. 3, 727 (2007).
  • 澤 智裕
    セッションID: S13-5
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/08/08
    会議録・要旨集 フリー
    活性酸素はこれまで、生体分子の酸化修飾を介した酸化ストレスの病態因子と捉えられてきた。一方、近年になり、活性酸素が細胞内でシグナル分子として機能し、細胞の分化、増殖、代謝機能など多彩な生命機能の制御に関わることが明らかになり、その生理機能や疾患との関連が注目されている。活性酸素のシグナル伝達に関連してレドックスセンサー蛋白質と呼ばれる、活性分子種に反応性が高い蛋白質が同定された。これらレドックスセンサー蛋白質は、分子内のシステイン残基が活性酸素と反応することで、蛋白質の構造や機能(例えば触媒活性など)が変化し、それがシグナルとなって伝達されることが明らかになってきた。我々は、NOの2次メッセンジャーであるcGMPが、活性酸素とNOの作用によりニトロ化を受け、新規2次メッセンジャーである8-nitroguanosine 3',5'-cyclic monophosphate(8-nitro-cGMP)が生成することが明らかにした。さらに、8-Nitro-cGMPはその親電子性によってレドックスセンサー蛋白質のシステイン残基と反応して、ユニークな蛋白質翻訳後修飾であるcGMP付加体形成(蛋白質S-グアニル化)を介してセンサー蛋白質を活性化することが分かった。本講演では、血管弛緩応答をはじめ多彩な生理機能に関わるcGMP依存性プロテインキナーゼの蛋白質S-グアニル化を介した機能制御に関する知見を中心として、親電子性ヌクレオチドによる細胞内レドックス調節機構を紹介する。
シンポジウム14 適応拡大する毒性オミクス
  • 上田 泰己
    セッションID: S14-1
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/08/08
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    2000年前後の大規模なゲノム配列決定を契機に分子から細胞への階層における生命科学・基礎医学研究が変革した。ゲノムに基づくシステム科学的アプローチは分子から細胞への階層の生命現象の理解に有効であるものの細胞から個体への階層の生命現象への応用は難しい。細胞から個体の階層におけるシステム科学的アプローチを実現するためには、細胞階層での基幹技術の確立が必要不可欠である。そこで我々は、成体組織を丸ごと透明化し1細胞解像度で観察できる技術の開発に取り組んだ。我々が開発したCUBIC法は、透明化が困難な血液を豊富に含む組織をアミノアルコールによる色素除去作用により透明化することで、マウス成体全身の透明化を世界で初めて実現することに成功した(Susaki et al, Cell, 2014, Tainaka et al, Cell, 2014)。我々は、CUBIC法の持つパフォーマンス・安全性・簡便性・再現性の高さをさらに生かすために、複数のサンプルを定量的に比較可能な計算科学的な手法の開発に取り組み、取得したイメージングデータを標準臓器画像に対してレジストレーションすることで、同一領域の細胞活動変化を直接比較する計算科学的な手法の開発にも成功している。全身や各種臓器を用いた全細胞解析は、細胞と個体の階層においてシステム科学的なアプローチを提供し、解剖学・生理学・薬理学・病理学などの医学の各分野に対して、今後の貢献が期待される。

    参考文献
    1. Ueda, H.R. et al, Nature 418, 534-539 (2002).
    2. Ueda, H.R. et al, Nat. Genet. 37, 187-92 (2005).
    4. Ukai H. et al, Nat Cell Biol. 9, 1327-34 (2007).
    5. Ukai-Tadenuma M. et al, Nat Cell Biol. 10, 1154-63 (2008).
    6. Isojima Y. et al, PNAS 106, 15744-49 (2009).
    7. Ukai-Tadenuma M et al. Cell 144(2):268-81 (2011).
    8. Susaki et al. Cell, 157(3): 726–39, (2014).
    9. Tainaka et al. Cell, 159(6):911-24(2014).
    10. Susaki et al. Nature Protocols, 10, 1709–27 (2015)
    11. Sunagawa et al, Cell Reports, 14(3):662-77 (2016)
    12. Susaki and Ueda, Cell Chemical Biology, 23, 137-57 (2016)
  • 吉田 稔
    セッションID: S14-2
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/08/08
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     発生過程でゲノムに刷り込まれたエピジェネティックランドスケープは、加齢やストレスなどの要因によって変化しうる脆弱なものであり、その異常が多くの疾患と関わっている。エピジェネティクス制御において中心的な役割を果たすヒストンとDNAの修飾は、それらの「書き込み」と「消去」を担う各修飾酵素の発見と「読み取り」機能を担う修飾特異的結合因子の同定によって分子レベルでの理解が深まってきた。同時にそれらの活性を化合物よって制御し、難解で複雑なエピジェネティクスを制御しようという試みが始まっている。さらにがん治療の観点からは、DNAメチル化酵素阻害剤、ヒストン脱アセチル化酵素阻害剤が成功した結果、エピジェネティクスが創薬の新たな分子標的を包含する未開拓分野であるという大きな期待が生まれている一方で、その薬効のメカニズムはいまだに十分には説明できない。近年のがんゲノムの進展から、いくつかのエピジェネティクス調節因子にドライバー変異が起こっていることが明らかになり、それを標的とした治療薬開発が大きな注目を集めている。我々はエピジェネティクス創薬を目指し、新たな評価系の開発を試みてきた。その結果、細胞内ヒストンアセチル化・メチル化動態の生細胞イメージング法、分裂酵母を用いたヒトエピジェネティクス関連酵素の迅速な阻害剤スクリーニング法などを開発した。これらの技術によって得られた新しい内在性代謝物や阻害活性物質の作用について議論する。
  • 萩原 正敏
    セッションID: S14-3
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/08/08
    会議録・要旨集 フリー
    染色体や遺伝子に異常があっても、そこから発現するmRNAに影響を与える化合物を見つけ、症状の発現を抑えることは論理的に可能である。我々は、エクソンの選択的使用に応じてGFP/RFP等異なる蛍光タンパク質が発現するスプライシングレポーター技術を開発し、スプライシング制御因子の同定を進めてきた。その独自技術を発展させて、家族性自律神経失調症(Familial Dysautonomia)の原因遺伝子であるIKBKAPのスプライシング異常を可視化するスプライシングレポーターを作製し、家族性自律神経失調症の病態解明を行うとともに、異常スプライシングを是正できる低分子化合物を探索した。我々が見出した化合物は家族性自律神経失調症患者細胞に対して治療効果を認め、遺伝病のトランスクリプトーム創薬が可能であることを証明した。
    我々が既に報告しているように、特定のRNA結合蛋白とそのリン酸化酵素の組み合わせが、スプライス部位選択を制御している。それゆえ、TG003のような特異的な蛋白リン酸化酵素阻害剤は特定のmRNAのスプライシングパターンだけを変化させる。最近、我々は、TG003を使ってジストロフィンの変異部位を含むエクソンのスキッピングを促進することで、患者筋芽細胞内でジストロフィン蛋白の発現を亢進させ、デュシェンネ型筋ジストロフィーの薬剤治療が可能であることを示した。
    また転写レベルに影響を与えるトランスクリプトーム創薬も試み、我々が開発したCDK9阻害剤FIT039がヘルペスウイルスやパピローマウイルスなどDNAウイルスRNAの転写を特異的に阻害することを見出した。FIT039はウイルス性疣贅治療薬として、京都大学病院で医師主導治験が開始された。こうした経験と実績を基に、トランスクリプトームを標的とした化合物を、臨床薬に向けて開発する上での課題などについて議論する。
  • ポリュリャーフ ナターリア, 北野 宏明
    セッションID: S14-4
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/08/08
    会議録・要旨集 フリー
    ‘Percellome’ database is a unique source of toxicity response data for more than 100 chemicals obtained on various organs of mice (Kanno group, NIHS). Originally developed “per cell” readout in mRNA copy method with a high precision in measuring gene expression permits to include each molecule to the network analysis, treating cell as an Open System.

    We have developed two software tools: AGCT (A Geometric Clustering Tool) and SHOE (Sequence HOmology in higher Eukaryotes) promoter analyzer suitable for ‘Percellome’ data. AGCT analyses large-scale (40,000n probes) time-series data with spectral clustering manifold that represents and visualize complex data in low dimension.

    Subsequently low dimension manifold is clustered with novel techniques such as Bregman K-means, Affinity Propagation (AP), Non-Negative Matrix Factorization (NNMF), Expecation Maximization and others to reach the finite number of clusters with similar expression profile. Those clusters are hereafter analyzed on SHOE, which aims to predict transcription factors network basing on phylogenetic footprinting of three genomes: human, mouse and rat.

    Since AGCT and SHOE are connected to Garuda platform (Systems Biology Institute), their outputs can be automatically passed to other tools on Garuda platform for further analysis or visualization.
  • 菅野 純, 相﨑 健一, 北嶋 聡
    セッションID: S14-5
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/08/08
    会議録・要旨集 フリー
    Percellome Projectは定量的網羅的に化学物質投与時の遺伝子発現変動を測定し、独自の3次元表示を活用したインフォマティクスを用いてのネットワーク(NW)の抽出・解析とカタログ化による毒性評価・予測体系の構築を進めている。現在、マウス肝、肺、海馬等の約370実験のデータベースを更新中である。
    複数の物質の変動遺伝子リスト(GL)のANDやOR計算からNWの効果的な描出が可能とっている。更に、近年展開している「新型反復暴露実験」において過渡反応(暴露の都度誘導される速い変化)、及び、基線反応(暴露を重ねるに連れ発現値の基線が変動する反応)の組み合わせにより、四塩化炭素型の物質、バルプロ酸型の物質、等、反復投与のNW形成の実態の複雑さが明らかとなってきた。共通分子基盤に、eif2及びRICTORが関わる小胞体ストレス、第Ⅰ相代謝、第Ⅱ相代謝、等、による精細な分類と力価比較が可能となったことを報告する。また、シックハウス症候群指針値レベルの極低濃度吸入に関して、異なる物質が海馬に共通したNWを誘発し、情動認知行動異と関連すること、その上流に肝と肺からの二次伝達物質としてのサイトカインの関与がより明瞭になったことを報告する。
    Percellomeデータベースのデータハンドリングが向上し、個別の物質の毒性NWの網羅的な同定はより容易に行えるようになった。新型反復暴露と多臓器連関のデータ解析と合わせることにより、単回曝露データからの反復曝露時の毒性の予測の可能性と限界がよりはっきりしてきたことを、事例をもって報告する。(本研究は厚生労働科学研究費補助金等による)
シンポジウム15 日本毒性病理学会合同シンポジウム:腎臓の毒性病理とバイオマーカー
  • 鈴木 雅実
    セッションID: S15-1
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/08/08
    会議録・要旨集 フリー
     腎臓は薬物や化合物の主要排泄経路となるため、毒性の発現しやすい臓器であり、毒性評価において重要な標的臓器となる。その要因として、単位重量あたりの血流量が多いこと、尿の生成過程において尿細管内で水分濃縮が起こり、管腔内薬物濃度が上昇すること、上皮細胞の刷子縁膜・側底膜に存在する輸送系によって薬物が細胞内に移行することなど、腎臓の生理的・機能的な特徴が関連している。
     近年、腎毒性を検出・解析する7種のバイオマーカー(尿中総タンパク、アルブミン、シスタチン−C、β2−ミクログロブリン、クラスタリン、kidney injury molecule−1 (Kim−1)、trefoil factor 3)が提唱された。これらのバイオマーカーは、腎病変の有無や病変の程度との関連性が非臨床研究から示され、腎障害が懸念される場合には従来のバイオマーカー(BUN、クレアチニンなど)に加え、測定することが推奨されている。新たなバイオマーカーの開発が進み、腎毒性の評価においては、Toxicologistが主務とする機能の変化、病態経過の解析と、Pathologistが主務とする病理形態的解析との協働に基づく総合的な毒性評価が進められている。
     そこで本シンポジウム「腎臓の毒性病理とバイオマーカー」では、腎臓の各種バイオマーカーの変動と病理学的変化との関連性ならびに毒性学的意義をより深く理解する機会として、3名の先生方よりご講演をいただく。それに先立ち、本セッションでは、毒性病理評価の利点ならびに欠点・評価の限界と、腎臓の代表的な毒性病理変化を概説する。
  • 太田 恵津子
    セッションID: S15-2
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/08/08
    会議録・要旨集 フリー
     医薬品の開発においては,非臨床安全性試験で認められた毒性に回復性があるか,臨床においてモニター可能であるかは重要であり,これらを把握するためのバイオマーカーの研究がなされている。腎毒性に関しては血中尿素窒素(BUN)及び血清クレアチニン(SCr)が有用なマーカーとして用いられてきた。しかし,1)ネフロンの傷害部位の特定には有用ではない,2)タンパク異化の亢進など腎機能障害以外の因子も関与することから,特異性は必ずしも高くない,3)SCrは腎血流量の影響を受けるとともに,多くのネフロンの機能が障害されることで上昇してくることが知られており,感度においても十分とは言いがたい,などの課題がある。近年,尿中N-acetyl-beta-D-glucosaminidase,NGAL(member of lipocalin family),γ-glutamyltransferaseなどが病変や回復性の予測,傷害部位の特定に有用なマーカーとして報告されているほか,2010年には欧米の製薬企業の連携によりラットモデルを用いて,7つの尿中バイオマーカー:Kidney injury molecule-1,albumin,total protein,β2-microglobulin,cystatin C,clusterin及びtrefoil factor-3が腎傷害マーカーとして提唱されている。
     今回は急性及び慢性腎不全のモデルとしても多用されるラットに,糸球体を傷害するピューロマイシン,尿細管上皮に急性の変性・壊死を誘発するゲンタマイシン又はシスプラチンを投与した際の腎病変の詳細を示すとともに各種バイオマーカーの変動との関係について概説する。加えて,げっ歯類における毒性試験で認められた糸球体又は尿細管の病変例とそれに関連する血液生化学的・尿検査的変化,及び想定される発生機序について紹介したい。
  • 甲斐 清徳
    セッションID: S15-3
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/08/08
    会議録・要旨集 フリー
    腎臓は糸球体及び各種尿細管上皮からなるネフロンを最小機能単位としている。特に近位尿細管上皮は生体必須物質の再吸収と異物の尿細管分泌を担う細胞であり、様々な薬剤の急性腎障害における組織傷害の多くが近位尿細管に観察される。腎毒性の非侵襲性バイオマーカーとして血中の尿素窒素(UN)やクレアチニン(CRE)が従来から測定されているが、非臨床安全性試験で腎臓に組織傷害がみられるにも関わらず、これら血中バイオマーカーが異常値を示さない事は少なくない。血中UNあるいはCREに加え、尿中の新たなバイオマーカーとして、ラットを用いた検討結果を基に安全性予測試験コンソーシアム(Predictive Safety Testing Consortium: PSTC)から、総タンパク、β2-マイクログロブリン、シスタチンC、Kim-1、アルブミン、クラスタリン、Trefoil Factor 3が急性腎障害の感度及び特異性が高い新規バイオマーカーとして提案され、FDA、EMEA及びPMDAにおいても同様の認識がされている。一方、イヌあるいはカニクイサルなどの非げっ歯類においては、これら新規バイオマーカー測定が抗原抗体反応を用いることから、適用できる測定系が限られており、その有用性の検討が十分に行われていない。また、個体差、日間差などが大きい事もそれらバイオマーカーの有用性の判断を難しいものにしている。今回、イヌでは主にゲンタマイシンによる尿細管傷害及び関連病変と尿中バイオマーカーの変動を比較検討すると伴に、カニクイサルではゲンタマイシン、シクロスポリン、シスプラチン、ドキソルビシンあるいはアンホテリシンBで誘発した種々の急性腎障害モデルにおける病変(近位尿細管上皮の変性・壊死、遠位尿細管の拡張、尿細管上皮再生、尿円柱、石灰化、細胞浸潤など)と尿中バイオマーカーの変動との関連性について解説、総括する。
  • 神吉 将之
    セッションID: S15-4
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/08/08
    会議録・要旨集 フリー
    マイクロRNA(miRNA)は細胞質内で標的とするmRNAに結合し,mRNAの分解やタンパク質への翻訳抑制を介し,細胞分化や細胞死など様々な生物機能に関与している。一方,血液や尿,唾液,脳脊髄液といった体液中にもmiRNAは存在し,薬剤誘発性の臓器障害の検出などに活用し得るバイオマーカーとして注目されている。近年,薬剤や化学物質による糸球体や近位尿細管障害時において,尿中miRNA量が変化することが報告されており,尿中miRNAが腎障害を検出する新たなバイオマーカーとして注目されている。我々もシスプラチンによる近位尿細管障害モデルラットを用いた検討において,近位尿細管障害時に尿中で増加するmiRNAを同定した1)。これらのmiRNAはピューロマイシンやanti-GBM抗体による糸球体障害時で変化するmiRNA2), 3)とは異なり,腎臓の障害部位によって変化するmiRNAは異なる可能性が示唆された。一方,薬剤誘発性腎障害に対するバイオマーカーは,血中クレアチニン及び尿素窒素,尿中NAGなど従来活用されている指標の他に,FDA/EMEA/PMDAより承認された7つの尿中タンパク(KIM-1, Clusterin, Albumin, TFF-3, Cystatin-C, beta2-microglobrin, total protein)がある。今後はこれらのバイオマーカーとの比較を行うことによって,尿中miRNAが腎障害バイオマーカーとしてどのように活用できるのかを明らかにすることが必要である。本発表では,自社の検討や論文報告事例も含め,腎障害バイオマーカーとしての尿中miRNAの可能性について紹介する。1): Toxicology, 324(2014)158–168, 2): Toxicological Sciences, 145(2), 2015, 348–359, 3): Toxicological Sciences, 148(1), 2015, 35–47
シンポジウム16 UGT研究の最前線~食品から医薬品、動物からヒトまで~
  • 井柳 堯
    セッションID: S16-1
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/08/08
    会議録・要旨集 フリー
    生体内に取り込まれた低分子異物の大部分は吸収、代謝、排泄の運命をたどる。これらの過程には、P450を代表とする酸化反応を触媒するPhase I酵素, 抱合反応を主とするPhase II酵素、吸収と排泄に関わるトランスポーターが関与している。 代謝酵素には遺伝子ファミリーが存在し、それぞれの分子種は植物が産生する毒性の高い二次代謝物に対する生体防御の機構として進化してきたと考えられている。真核生物の進化についての仮説として、共生説と膜進化説が提唱されているが、真核生物がいかにして代謝酵素の多様性を獲得してきたかは、異物代謝に関連して大変興味深い課題である。生物が代謝酵素の多様性を作り出す戦略は、祖先遺伝子のコピーの増加による重複とその後の変異の積み重ねによって異なる機能をもった関連遺伝子をつくりだすことにある。本シンポジウムでは、真核生物のもつ異物代謝酵素群を原核生物由来酵素系と比較することにより、その進化過程をそれらの機能と構造を基盤に、P450とUGTについて考察したい。とくに、真核生物UGTにはP450に見いだされない分子多様性を生み出すUGT1遺伝子複合体が存在する。この遺伝子から産生される分子種においては、UDP-グルクロン酸が結合する共通領域の異常により複数個の分子種が同時に異常をきたす。また、小胞体型P450への電子伝達は、植物のフェレドキシン還元酵素(FAD)とバクテリアのフラボドキシン(FMN)が融合したP450還元酵素(FAD-FMN)が担い、50種類のP450すべてに電子を供給している。本酵素は単一遺伝子により供給されることから、この異常により小胞体型P450のすべてに機能異常をきたす。加えて、P450とUGTは小胞体膜に非対称に結合しており、化合物によっては酸化と抱合反応が連続して起こることから、これらの遺伝子疾患についても毒性学と関連して考察したい。
  • 西山 貴仁
    セッションID: S16-2
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/08/08
    会議録・要旨集 フリー
    一般に生体内に取り込まれた異物は、第I相反応及び第II相反応と呼ばれる酵素反応により極性化を受け、体外へ排泄される。第I相反応では、シトクロムP450 (CYP) をはじめとする第I相酵素により酸化、還元あるいは加水分解を受け、被抱合官能基が導入され生体外異物は極性化される。次いで、第II相反応では、UDP-グルクロン酸転移酵素 (UGT)や硫酸転移酵素などの第Ⅱ相酵素による抱合反応を受け、水溶性の増した代謝物へと変換され、生体外へと排泄される。これら一連の代謝反応により極性化された異物の代謝物は、特殊な場合を除き生体高分子と相互作用せず、その生理活性や毒性等を失うと考えられる。
    一方、代謝反応による異物の毒性化も古くから知られている。例えば芳香族アミン類の場合、CYPによるN-水酸化の後、アセチル抱合、硫酸抱合あるいはグルクロン酸抱合を受ける。これら抱合体の抱合残基は脱離基として働き、生成する親電子剤が生体高分子と共有結合を形成する。カルボン酸を有する異物の場合、UGTにより生成するアシルグルクロン酸抱合体が不安定で生体高分子と共有結合する。いずれの場合も、生成する抱合体が反応性に富む活性代謝物となり毒性発現に寄与する。対照的に、第Ⅰ相反応により生成し、代謝物自身が毒性発現に関与するような反応性代謝物の抱合体生成も知られている。例えばビタミンK3として知られるメナジオン(MD)は活性酸素種の過剰産生に由来する毒性を示す。MDからNQO1による還元を受け生成するMDのジオール体も依然として不安定で活性酸素種産生に寄与するが、この代謝物はグルクロン酸抱合を受けることにより解毒される。ニコチン由来のタバコ特異的ニトロソアミンの一つであるNNKは、CYPによる酸化反応により生成する不安定な活性中間体を経由して発癌活性代謝物を生成する。一方、不安定な活性中間体のグルクロン酸抱合体も認められ、その生成と発癌との関係に興味が持たれる。本シンポジウムでは、被抱合体自身が不安定な代謝物のグルクロン酸抱合について、当研究室でこれまでに得られた研究成果を紹介する。
  • 中島 美紀
    セッションID: S16-3
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/08/08
    会議録・要旨集 フリー
     臨床で使用されている医薬品の約30%がグルクロン酸抱合を受けることで体内から消失する。グルクロン酸抱合は一般には解毒反応と捉えられるが、カルボン酸含有化合物から生じるアシルグルクロニドは反応性が高いことから毒性の原因と考えられている。すなわち、UGTによる代謝反応は医薬品感受性および毒性を左右する要因となり得る。アシルグルクロニドの毒性について、さまざまなin vitro評価法が検討されているが、アシルグルクロニドが毒性本体であることをin vivoで証明した研究はない。演者らは、新規加水分解酵素ABHD10がアシルグルクロニドを加水分解することを見出している1)。ヒト肝ミクロソームにおいて、アシルグルクロニドの生成反応よりも、その加水分解反応の方が早い医薬品もあることから、アシルグルクロニドの毒性評価においてはUGTのみならず、加水分解酵素も考慮する必要性が示唆された。アシルグルクロニドの毒性について加水分解反応を考慮しつつin vivoで評価した取り組みについて紹介する。
     ヒト組織中の各UGT分子種の発現量について、qRT-PCRによるmRNAレベルでの検討に加えてLC-MS/MSによるタンパク質レベルでの定量的評価が可能となり、情報が蓄積されてきている2)。分子種によっては、mRNA発現量とタンパク質発現量との間に正の相関関係が認められず、転写後調節の関与が示唆されている。近年、ヒトUGT1AおよびUGT2Bの発現調節にmicroRNAが関わっていることが明らかになり、発現量における個人差の要因となることが示された。本シンポジウムでは、演者らの研究成果を含め、医薬品感受性・毒性の観点からUGTの個人差について概説する。

    1) Iwamura et al., J. Biol. Chem., 287: 9240-9, 2012.
    2) Oda e al., Drug Metab. Pharmacokinet., 30: 30-51, 2015.
  • 石塚 真由美, 中山 翔太, 水川 葉月, 池中 良徳
    セッションID: S16-4
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/08/08
    会議録・要旨集 フリー
    外来性化学物質代謝の第II相反応では、第I相反応の代謝物の極性をさらに増加させるグルクロン酸抱合(UGT)や硫酸抱合(SULT)、グルタチオン抱合酵素などの抱合反応が主要な代謝となっている。化学物質の代謝能力は、生物の化学物質に対する感受性を決定する重要なファクターである。我々はこれまでの研究から、魚類から哺乳類まで、P450および第II相反応の抱合に大きな動物種差があることを報告してきた。
    哺乳類ではUGT1ファミリーは、主に内因性物質を代謝するビリルビングループ(1A1-1A5)と外因性物質を代謝するフェノールグループ(UGT1A6-1A10)に大別される。我々は、食肉目を中心とした哺乳類におけるUGT1ファミリーの遺伝子解析を行ったところ、鰭脚類は外因性物質であるアセトアミノフェン及び1-ヒドロキシピレンに対するUGT活性がネコと同程度に低く、中でもトドおよびキタオットセイではUGT1A6の偽遺伝子化が明らかになった。またUGT1ファミリーの系統解析及びシンテニー解析の結果、哺乳類のUGT1ファミリーは内因性物質代謝を担うUGT1A1相同遺伝子及び外因性物質代謝を担うUGT1A6相同遺伝子がそれぞれ遺伝子重複した後、動物種ごとに独自に遺伝子重複/欠損が起き、UGT1A2-1A5及びUGT1A7-1A10遺伝子が形成されたことが示唆された。一方、UGTと基質特異性が一部重複するSULTに関しては、これまで教科書的にブタで活性が欠損しているとされてきたが、ブタの肝臓ミクロソームのKm/Vmaxによる酵素効率の比較では他の動物種と大きな差はないことや、新たに硫酸抱合酵素が低活性である哺乳類を同定した
    そこで、今回、動物が有する化学物質代謝の種差と毒性発現の違いを、UGTを中心に紹介したい。
  • 生城 真一, 西川 美宇, 榊 利之
    セッションID: S16-5
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/08/08
    会議録・要旨集 フリー
    低分子化合物に対する生体防御機構である異物代謝酵素系は、医薬品や環境汚染物質のみならず食物から取り込まれた非栄養性成分の代謝にも関与している。特に野菜や果物などに含まれる2次代謝産物としてのポリフェノール化合物は分子内に複数の水酸基を含むことから、異物抱合の中でも中心的役割を担うUDP-グルクロン酸転移酵素(UGT)によってグルクロン酸抱合を受けて胆汁あるいは尿中に解毒排泄される。UGTは遺伝子ファミリーを形成しており、肝臓や小腸に複数の分子種が存在することで5千種類を超える多様な化学構造をもつポリフェノールの代謝を可能にしている。近年、この抱合代謝がポリフェノール化合物の体内動態や生理機能に大きく影響を及ぼす可能性が示されてきており、UGTによる食品成分中ポリフェノールに対するグルクロン酸抱合の分子機構が注目されている。我々は酵母などの異種細胞発現系を用いてヒトを含めた哺乳動物由来UGT分子種解析系を確立しており、多種類にわたるポリフェノールのグルクロン酸抱合代謝解析をおこなってきた。ヒトにおいては主にUGT1A分子種がポリフェノール抱合に関わっており、肝臓ではUGT1A1及びUGT1A9、小腸などの消化管ではUGT1A7,1A8,1A10が部位特異的な抱合能を示すことが明らかとなった。特にUGTタンパク質のアミノ酸配列前半における可変領域の複数のアミノ酸残基がケルセチンやレスベラトロールの部位特異的な抱合能に寄与していることを示した。また、動物種を通して広く保存されているUGT1A1は生体内基質であるビリルビン抱合に関わるとともに、ケルセチンを含む多くのポリフェノール化合物に対して広範囲な抱合能を示した。本シンポジウムでは食品中ポリフェノール化合物に対するグルクロン酸抱合の分子基盤について我々の結果を含めて最新の知見を紹介する。
  • 岩野 英知, 大谷 尚子, 井上 博紀, 横田 博
    セッションID: S16-6
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/08/08
    会議録・要旨集 フリー
     我々の身の回りには多くの化学物質があふれており、日常的に多くの化学物質に接触している。生体は、それら多くの化学物質を無毒化し、排除する効率的なシステムを備えている。たとえば、内分泌攪乱化学物質であるビスフェノールA(BPA)は、そのエストロジェン作用で大きく騒がれたが、現在では成熟した健康な大人であれば、大きな影響はないということが明らかとなった。それは、BPAが薬物代謝の第II相酵素UDP-glucuronosyltransferase (UGT)により効率的に代謝され、排泄されるからである。一方で、妊娠期にBPAを暴露すると、たとえ低容量であっても次世代に悪影響を及ぼすとの報告がある。この低容量BPAによる胎仔影響には、以下の3つのファクターが関与している、と我々は考えている。①妊娠期の母-仔間の体内動態 ②胎仔における代謝システム(グルクロン酸抱合と脱抱合) ③胎仔でのエストロジェニックな作用以外の攪乱
    以上の仮説をもとに、これまでに我々は以下の点を明らかにしてきた。①BPAの代謝物が胎盤を通過する可能性があること ②胎児側に移行したBPA代謝物がBPAに再変換されうること ③薬物抱合のタイプによっては、胎盤通過が異なる可能性があること ④ビスフェノール類(BPA、BPF)の妊娠期の暴露は、生まれた仔の成熟後に対して不安行動を増強すること。本発表では、これらの研究を踏まえながら、薬物抱合の役割、特に胎盤通過についての結果を中心に報告する。これまで薬物抱合反応は、薬物を排泄されるためのシステムであり、抱合体そのものの生体内での役割、影響については見いだせていなかった。生体内物質の抱合体には、排泄だけでなく運搬体としての意義があり、生体外からの化学物質も同様の過程をとる場合もあると考えている。今後、抱合体そのもの役割を詳細に検討するべきと考えている。
シンポジウム17 再生医療・細胞治療の品質・安全性評価のあり方 -患者様のリスク最小化に向けたアプローチ-
  • 梅景 雅史
    セッションID: S17-1
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/08/08
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    iPS細胞は体の様々な細胞や組織に分化できる能力を持った細胞である。iPS細胞を利用した再生医療はこれまで有効な治療法がなかった疾患に大きな期待が寄せられており、我々はiPS細胞研究中核拠点として、再生医療に利用可能である安全かつ有効なiPS細胞ストックの作製を目指している。ストックの作製には健常人HLAホモドナーの血液または臍帯血を使用し、iPS細胞研究所内にある細胞調製施設(FiT:Facility for iPS Cell Therapy)で樹立を行う。現在、頻度の高いHLA型のドナーからストックを作製し、第一段階として2017年度中に日本人の30~50%程度をカバーする計画を進めている。これらのストックは必要に応じて国内外の医療機関などに提供することを目的としている。
    2013年度からFiTにおいて再生医療用iPS細胞の作製を開始し、複数の候補株をストックした。それらの品質を評価するため、ウィルス・細菌等の汚染検査をはじめ、遺伝子発現、ゲノム解析、エピゲノム解析、核型などの解析を行った。また、CiRA内外の共同研究先へ評価用の細胞を提供し、分化能の評価や前臨床試験などを行ってもらっている。
    これらの試験結果を総合的に判断し、2015年8月に最初の再生医療用iPS細胞ストックの提供を開始した。
    今回は、提供を開始するまでに行ったiPS細胞ストックの品質評価の実際を紹介する。
  • 孫谷 弘明
    セッションID: S17-2
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/08/08
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    近年、iPS/ES細胞を用いた細胞加工製品の研究開発は多くの大学や企業で盛んに行われ、臨床応用に向けた実用化が大きく期待されている。しかし、再生医療等製品の非臨床安全性試験は医薬品・医療機器に比べ蓄積データも少なく、関連ガイドライン・ガイダンスを整備するには至っていないのが現状である。
    iPS/ES細胞由来細胞製剤を含む細胞加工製品の非臨床安全性試験は、全身・局所に対する影響評価及び生命維持に係る重要な器官・組織への影響評価を含む一般毒性試験と細胞製剤の目的外の変化の有無(形質転換、腫瘍化)を評価する造腫瘍性試験が実施すべき必要最低限の試験としてPMDAより提案されている。
    動物種の選択、投与量、試験期間の設定は開発する製品の治療目的や細胞特性によってケースバイケースで対応することになるが、その選択の幅は非常に大きいように思える。例えば動物種は通常、異種細胞に対する免疫反応が小さい免疫不全動物を用いるが、マウスだけでも種類が豊富(ヌード、SCID、NOD、NOG等)である。また、マウスでは投与・移植が技術的に困難な場合はヌードラットを用いることになるが、免疫不全の程度でいうと軽度に分類される。この場合、免疫不全度の差が試験結果に影響を与える可能性が考えられるため、十分な予備検討が必要となる。
    また、細胞製剤の品質も試験結果を左右する重要な要因となる。不純物として混入した多能性幹細胞による腫瘍化は原因が明確であるが、細胞製剤の主要細胞自身が腫瘍化した場合は、元々その細胞が持つ性質によるものなのか、それとも製造過程で発生してしまった造腫瘍能を獲得させる可能性を否定できないようなリスク(例えば核型異常、遺伝子変異等)によるものなのかを可能な限り区別する必要がある。
    本シンポジウムでは、細胞加工製品の非臨床試験を実施する上で見出された問題点や課題について実例を提示しながら紹介し議論したい。
  • 佐藤 陽治
    セッションID: S17-3
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/08/08
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    再生医療等に用いる細胞(細胞加工物)は従来の医薬品や医療機器とは異なる特性を持つ新しいタイプの製品である。そのため、その品質・安全性・有効性の評価においては、その特性をふまえた、評価方法の妥当性を含めた科学的検証が必要となる。細胞加工物の品質・安全性・有効性に関する現時点での主な科学的課題としては、①ウイルス安全性(自己、同種、異種の由来別の考え方)、②原料等として供される細胞の特性解析と適格性、③細胞基材以外のヒト又は動物起源由来製造関連物質の適格性、④細胞基材としてのセル・バンクの樹立と管理のありかた、⑤最終製品の品質の再現性を達成するための包括的な製造戦略・製造工程評価、⑥最終製品を構成する細胞の有効成分としての特性解析、⑦最終製品の必須品質特性の同定と規格設定(最終製品の品質管理)、⑧製法/セル・バンクの変更による新旧製品の同等性の検証、⑨非臨床安全性試験・非臨床POC試験のデザインと解釈、⑩造腫瘍性試験のデザインと解釈(特にES/iPS細胞由来製品)、⑪最終製品の免疫原性評価、⑫臨床試験のデザインと解釈、⑬有効性・安全性のフォローアップのあり方、が挙げられる。
    本講演では、これらの課題のうち、特に生きた細胞を患者に投与するという細胞加工物固有の特性に由来する新しい課題「⑩造腫瘍性試験のデザインと解釈」を例にとり、細胞加工物における造腫瘍性試験の目的、バイオ医薬品製造における造腫瘍性試験との違い、従来医薬品等に適用されてきた関連試験系を適用することの問題点、細胞加工物の品質・安全性評価という目的を達成するために必要とされる造腫瘍性試験の条件、目的を達成するための試験系の開発と結果の科学的解釈、関連ガイドライン作成の状況などについて解説する。
  • 角田 聡
    セッションID: S17-4
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/08/08
    会議録・要旨集 フリー
    ヒト細胞加工製品は、低分子や抗体等の従来の医薬品とは異なる効力を有し、難治性疾患等への新たたな治療法として期待されている一方、ヒトへの投与経験や非臨床評価に関する知見の蓄積が乏しく、十分な開発経験が得られていないことの安全性上の懸念が存在する可能性が考えられる。医薬品医療機器等法下におけるヒト細胞加工製品の非臨床安全性評価の考え方は、製品の由来(ES細胞、iPS細胞、体性幹細胞、体細胞等)により、「ヒト(自己)由来細胞・組織加工医薬品等の品質及び安全性の確保に関する指針」を含めた7通知1 )~7 )に基本的な考え方が示されている。指針では、技術的に可能かつ科学的合理性のある範囲において、動物を用いた安全性評価を求めているが、①医薬品及び医療機器のように、参考となる試験法ガイドラインが整備されていないこと、②ヒト由来細胞の場合、動物を用いた評価は限定的であると考えられること、③製品が由来する細胞や製造方法が多種多様であること、などから個々の製品の特性に応じて、柔軟かつ合理的に”ケース・バイ・ケース”での対応が求められている。現在、本邦でヒト細胞加工製品の治験を実施する場合には、製品の由来や製造工程にかかわらず、治験開始前に「一般毒性」、「造腫瘍性」、「主要な生理学的機能に対する影響」及び「製造工程由来不純物」に対する安全性評価を行い、当該試験(評価)結果から、ヒトへの有害性を予測した上で、治験参加者への安全性を説明する必要があると考える。
    本発表では、これまでに実施した薬事戦略相談及び治験相談での経験を踏まえて、現時点におけるヒト細胞加工製品の由来に応じて、治験開始時に必要な評価項目、及び毒性試験デザインの要点をまとめ、試験で得られた成績評価の考え方ついて概説する。なお、本内容は現時点での考え方であり、事例が蓄積された場合や新たな試験法の開発により将来変わりうる可能性があることに留意して頂きたい。
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