日本毒性学会学術年会
第43回日本毒性学会学術年会
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日本毒性学会35周年記念特別企画 学会の生い立ちと未来展望
  • 遠藤 仁
    セッションID: SS-1
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/08/08
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    日本毒性学会は、組織体としては1975年に「毒作用研究会」、1981年に「日本毒科学会」、そして1997年には「日本トキシコロジー学会」、2012年「日本毒性学会」に名称を変更した。会の名前は、その時代背景にある国内外の社会情勢や科学技術の進歩により変化してきた。
    本学会の礎は“官”(国立衛生試験所に「毒性部」が1964に設置)と“学”により組織化された。“学“は、生命科学系の学際的学術組織として「毒作用研究会」が1973に結成され、1960年代から1970年代は国内外での大学改革の動きが激しく、日本では東大医学部での学生処分に端を発して学生運動が全国に波及した。医学部での最大矛盾を抱えた臨床医学における関係者の動きは不十分であった。臨床中毒の問題は、サリドマイド薬害、水俣病やイタイイタイ病、スモンやカネミ油症、等多岐に及んだが、結果的に肝心の臨床医学研究者の積極的な動きは図られなかった。
    日本と韓国の間では日韓毒科学会が定期的に開催され、これがアジアトキシコロジー学会へと発展的に解消したが、救急医学の関係者による「日本中毒学会」との将来の合体は結実されなかった。
    本学会の重要な転機は、組織的な“産”の参入であった。1980年代後半の日本毒科学会学術年会への参加者は極めて少なく、その継続が危ぶまれた。この危機を救ったのが日本製薬工業協会基礎研究部会で、その総会の開催場所と開催日を本学会学術年会に合わせ、以降の学会の充実が図られた。これが1986年に東京での第4回国際毒科学会の開催を可能にした。学会の運営は産官学一体となった。
    今日は、医薬品開発の国際調和、学会認定トキシコロジスト制度の確立、トキシコロジ事典、文科省の研究費配分枠の確保に加え、Toxicogenomicsの国家研究プロジェクトにも会のメンバーが加わるなど、会の力量は確実に増大した。
  • 佐藤 哲男
    セッションID: SS-2
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/08/08
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    1.日本毒性学会の国際貢献
    JSOTは今日まで多くの国際貢献を果たしている。今回は、International Union of Toxicology (IUTOX)とAsian Society of Toxicologyについて述べる。
    1.1 International Union of Toxicology
    毒性関係の最初の国際集会は、IUTOX設立前の1977年にカナダで開催された第1回国際毒性学会議(International Congress of Toxicology, ICT)である。1980年に第2回ICTがベルギーで開催された。その席上、IUTOX設立準備委員会が結成されて、日本毒性研究会がそのメンバーに加盟した。JSOT設立の前年である。IUTOX設立時の加盟国は、英国、米国、インド、日本、スエーデン、フィンランドと欧州毒性研究会(EUROTOX)の7団体であった。
    IUTOXが主催するICTは、3年毎に開催されており、第4回ICT(1986)は酒井文徳教授が会長として東京において開催された。
    IUTOX理事会メンバーは3年毎に改選されており、JSOTからは毎回役員を選出している。2016年のICT-XIIでは菅野 純博士がPresidentに就任予定である。
    1.2 Asian Society of Toxicology
    1992年にイタリアのローマで開催されたICT-VIの会期中に、日韓の代表者数名が会合し、Asian Society of Toxicology (ASIATOX)の設立を決定した。設立当時の加盟学会は、日本、韓国、中国、台湾、タイであり、その後、イラン(2012)とシンガポール(2013)が加盟した。ASIATOX国際会議は原則として3年毎に開催されている。我が国においては、第1回(1997)(横浜)(会長:柳田知司博士)と第6回(2012)(仙台)(会長:永沼 章教授)が開催された。
    2.毒性学の変遷・薬学的観点から
    新カリキュラムに基づく薬学教育において、毒性学が独立した学問であることの評価が極めて低い。その理由は、(1)比較的新しい学問体系であること、(2)その内容が医薬品毒性、環境毒性など極めて多岐にわたること、などに起因すると考えられる。超過密のカリキュラムの中で、「毒性学」としての講義は困難であることから、現実には衛生化学、薬剤学、薬理学などの中で断片的に講義されている大学が多い。少なくとも臨床薬学を標榜する6年制の薬学教育では、「医薬品毒性学」の講義は必須である。ここでは薬学教育における毒性学のあり方について私見を述べさせて頂く。
  • 津田 修治
    セッションID: SS-3
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/08/08
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    現在世界で25以上の毒性関係認定制度が存在するがJSOTの認定制度は米国のABT, ATSおよび欧州のERTと並んで4大認定制度の一つと認識されている。その中でも試験による認定制度はABTとJSOTだけである。また, この認定試験のために講習会を行い, 教科書を編集しているのはJSOTのみである。さらに, 厚生労働省の認知を得ているのは我が国だけであろうと思われる。この歴史を振り返り, 将来の方向性を考える場を提供できるならば幸いである。
    1993年夏の第4回日本毒科学会基礎教育講習会の懇親会の席上で認定トキシコロジスト制度の必要性が取り上げられた。内容は“医薬品などの申請者と評価者が同じ科学的立場で議論するためには認定制度が必要だが, 受ける側にメリットが無くてはならない"などであった。96年に総務委員会ワーキンググループにおいて「トキシコロジストのモチベイションを高め試験責任者等の質の向上を図り毒性学を発展させるためには, 門戸を広くしてABTと同等の範囲・レベル・基準を満たすことが必要である」ことが確認された。指定参考図書はCasarett & Doull's Toxicologyとした。98年に第1回講習会が行われた後に最初の認定試験が行われた。2002年に厚生労働省の鶴田大臣官房審議官が「申請時に添付する履歴には認定トキシコロジストであることを明記してほしい。可能ならば安全性評価の責任者は有資格者であることが望ましい」と発言した。2003年に日本トキシコロジー学会教育委員会編「トキシコロジー」を指定参考図書とした。その後産学官の参入を得てこの認定制度は毒性学会会員を結び付ける絆として発展している。また, 大学教育と企業でのOJTと共にトキシコロジストの教育に貢献している。
    現在GLPやガイドラインと同様に,トキシコロジストの質の世界的調和のために認定制度の調和が必要とされている。更なる発展と社会貢献が期待される。
  • 眞鍋 淳
    セッションID: SS-4
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/08/08
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    1975年に100人の発起人の提案により毒作用研究会が設立され第一回の研究会が開催された。この時の発起人は全て官・学の研究者であり産の研究者が含まれることはなかった。そして総演題数41題の内、産からの発表は4題にとどまり内容も実験手技に関わるものであった。それから、日本毒科学会、日本トキシコロジー学会、日本毒性学会と40年余りが過ぎる中で、一般演題中、産からの発表が1980年代には30%、1990年代には50%、2000年以降にも50%程度、多い年には60%を超えるようになった。産の会員の多くは製薬企業、安全性試験受託機関に所属しているため、学術年会における発表数の増加には医薬品開発に関わる種々の要因が関与している。厚生省による医薬品GLPの制定(1982年)の前後には実験動物管理条件、投与方法、試料採取法等の実験手技・条件についてのシンポジウム等が産官学の協力で開催された。ICHによる安全性評価の国際的ハーモナイゼーションに対応するため、各ガイドラインの通知時期にはシンポジウム等が設定されたほか、一般講演での関連発表も増加した。薬物相互作用、特異体質性薬物障害等のヒトへの外挿性に影響を与える因子については継続的にプログラムが企画されてきた。発表内容自体に注目すると、非臨床安全性試験結果のヒトへの外挿性をより高めるための、① 動物モデル(サル、ミニブタ、遺伝子改変動物)を使用した評価法、② in vitro培養組織・細胞を用いた評価法、③ 測定法・解析法の改良、④ in silico予測システムの構築等への貢献が多く含まれる。低分子医薬品、抗体医薬品の他、核酸医薬、再生医療用製品も新たなモダリティとして期待されており、これら新規医薬品モダリティのリスク評価に対応するためには、ヒトiPS細胞や新規のヒト化マウスを用いた試験法の導入を含め、外挿性向上や安全性バイオマーカー探索等を官・学と協力し進めていく必要がある。
  • 菅野 純
    セッションID: SS-5
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/08/08
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    毒性学は、医療現場で起きている事態から公衆衛生学・疫学の知見までを理解し、国民の安全と安心の確保に必要な情報或いは研究が何処にあるか、無ければどのように研究を進めるべきかを見出す立場にある。生活環境に投入される続ける新規化学物質の物性情報をそれらが普及する前に把握して、毒性を予見することも必要であり、製造者側との密な交流も毒性学運用の重要な要素である。米国ではナノマテリアル製品開発に際して、適切に検討された毒性情報が添付されない限り流通を認めないというWTO/TBT協定(貿易の技術的障害に関する協定)に照らしての防衛的な方針が打ち出されたという。不採算部門であった毒性学が販促の必須アイテムとなったという話である。また、製造側と毒性側の直接的な交流が製造者と消費者のWin-Win situationの醸成に必須となりつつある。国民の安全・安心確保、製薬・工業界の生産性向上、米国流に言えば広義の国防に資するための道具立てとして、現在、病理学、診断学、分子生物学からシステム工学まで幅広い学問が用意されており、それを如何に有機的に活用するかに毒性学の社会浸透度が依存する時代が始まっていると考える。
    この10月より、日本毒性学会の強力な後ろ盾をいただいて拝命するIUTOX会長の立場から眺めると、状況は、しかしながら、若干異なる。IUTOX加盟63か国の大半は開発途上国であり、公衆衛生としての「毒性評価の如何」が興味の中心である。そこでは、「毒性」「リスク」「ハザード」という語彙の浸透が課題であると言われる。盟友であるASIATOXメンバーとともに、先端的な面と、支援的な面を内外に示しつつ毒性学を展開してゆく状況に現在の日本毒性学会が置かれていると考えられる。さらなるご支援をお願いするものである。
  • 吉田 武美
    セッションID: SS-6
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/08/08
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    日本毒性学会が誕生して35年となっている。ここに至るまでの経過は、これまで本学会を牽引されてきた重鎮の先生方が話題提供されるので、若い方々もその流れを理解できるであろう。欧米においては、有機塩素系化合物による生態系汚染やサリドマイドによる催奇形性など大きな社会問題の発生とその解決及び防止を目指して、毒性学会設立につながっている。日本毒性学会が成立する以前の日本においてもまた、医薬品や生活環境中の種々の化学物質による深刻な健康被害や環境汚染が進行し、これらの問題の解決のための研究や方策に取り組んできた成果である。毒性学はいまや、社会の安全・安全のための情報提供のための最も重要な立ち位置にあり、新しい科学・技術を取り入れながら、化学物質による生命や生活環境の保全に貢献している。本学会では、機関誌としてJ.Toxocol. Sci. が中心的役割を果たしてきているが、ここに至るまでには、学会関係者、理事会、編集委員長を中心に編集委員とレビュー担当者の並々ならぬ努力の成果である。当初は、毒性試験研究結果の掲載、日本語と英語混在、海外からの投稿の問題など、種々のことがあった。現在のように、IFもつき、投稿論文も増えている状況までJ. Toxicol Sci.誌を高めて頂いたのは東北大・薬 永沼 章先生のご尽力の賜物である。この席で心から御礼を申し上げる。J. Toxicol Sci.誌は引き続き会員だけでなく、日本とアジアの毒性学研究の指導的研究誌としてさらに展開することは間違いない。本学会は35周年を迎えたが、これを通過点として、若い世代が本学会を益々の発展させていくことを期待する。
年会長招待講演
  • 堀井 郁夫
    セッションID: IL
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/08/08
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    医薬品安全性評価とは、当該医薬品についての創薬研究・開発研究から申請・承認・市販後に渡る広範囲な場における安全性の評価とそのリスク評価・管理を展開する事にある。その展開上の原点は、科学的思考に基づくべきであり、その根底には毒性学を中心とした多様性科学領域の知見の利用・応用が不可欠である。近年の分子生物学的思考に続発した新しい科学・技術の進展に伴う医薬・医療の場の著しい変遷は、毒性学の領域にもその視点・方向軸を提示するようになってきた。本報では、「多様性科学としての毒性学は創薬の場で何に貢献できるのか?」という観点から、医薬品における毒性学の基本、創薬の各段階の立ち位置の違いによる安全性評価の相異、レギュラトリーサイエンスと毒性学、リスク評価・管理上の毒性学の科学的思考のあり方について言及する。
    医薬品の毒作用発現に関する基本的思考:毒作用は「異物に対する生体反応」として提示されている。その分子標的からみた毒作用は、薬効の延長上および薬効の延長上に帰さない標的で誘起された毒作用発現の範疇で副作用・薬害として捉えられ、基本的には生体の防御反応として表現され、薬として創生した医薬品が原因となり誘起された副作用は、広義の防御反応である。
    安全性評価における多様性科学と新しい科学・技術導入:安全性評価を的確に行うためには様々な科学的学問領域からの検証が不可欠で、毒作用発現機序解明とその予測・対応への新たな展開が求められ、分子毒性学的アプローチやシステムズ・トキシコロジーへの方向性は益々重要な位置付けを占めてきている。
    創薬における毒性学の方向性:医薬品評価における毒性学は、科学・技術の進展に伴う医薬・医療の変遷に伴うべきであり、科学としての毒性学の基本思考を原点とし、常に挑戦し続ける学問領域である事が望まれる。
特別講演
  • 落谷 孝広
    セッションID: SL1
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/08/08
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    スウェーデンの研究者Jan Lötvallらによってもたらされた細胞小胞顆粒(Exosome: エクソソーム)中のマイクロRNAの発見(Nat Cell Biol, 2007)は、エクソソームを介した細胞間マイクロRNA移送による新たな情報伝達機構の存在を示す衝撃的な内容だった。これを契機に世界中が細胞外に放出され、細胞間相互作用の一端を担う分泌型マイクロRNAやナノサイズのエクソソームに注目することになった。このエクソソームを介したマイクロ RNAによる生命現象のマイクロマネージメントの実態が徐々に明らかになるにつれて、我々はこれまで思っても見なかった細胞の情報伝達の巧みさを知る事になった。エクソソームの起源は、細胞内の老廃物を処理して細胞外に捨て去るゴミ箱だったものが、進化とともにその中に遺伝子の微調整を司るマイクロRNAを内包する事で、細胞間、組織間でのコミュニケーション網を発達させてきた、そう推察することができる。本講演では、こうしたノンコーディングRNAによる生命現象の複雑な調節とその変調が、我々の疾患の起源や薬剤の耐性メカニズムとどう関係するかを概説するとともに、
    これらの情報を元にした個別化医療、がん予防を実現するための新たな診断・治療の開発戦略についても言及する。

    (参考文献)
    1. Kosaka N et al., J Clin Invest, in press (エクソソームの総説)
    2. Takahashi RU et al., Nat Commun, 6:7318, 2015
    3. Tominaga N et al., Nat Commun, 6:6716, 2015
    4. Ono Met al., Sci Signal, 7:ra63, 2014
    5. Yoshioka Yet al., Nat Commun, 5:3591, 2014
  • Lu CAI
    セッションID: SL2
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/08/08
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    Oxidative stress derived from various etiologies including environmental exposure, life-style changes, and systemic inflammation, can damage pancreatic β-cells, leading to the deficiency of insulin as type 1 diabetes, and also induce peripheral tissues as insulin resistance, leading to type 2 diabetes. Metabolic abnormalities in the body of individuals with diabetes cause mitochondrial superoxide overproduction that in turn activates multiple pathways: polyol pathway flux, increased formation of AGEs (advanced glycation end products), increased expression of the receptor for AGEs and its activating ligands, activation of protein kinase C isoforms, and overactivity of the hexosamine pathway, to generate excessive reactive oxygen or nitrogen species (ROSs or RNSs), which damages multiple organs, resulting in diabetic complications. Diabetic cardiomyopathy can occur independent of vascular disease, although the mechanisms are largely unknown. Current consensus is that the oxidative stress derived from metabolic syndrome causes cardiomyocyte abnormal gene expression, altered signal transduction, and the activation of pathways leading to programmed myocardial cell deaths. The resulting myocardial cell loss thus plays a critical role in the development of cardiac structural remodeling and dysfunction, “cardiomyopathy”. To support the above notion, our studies with in vitro and in vivo animal modes showed the prevention of diabetes and diabetic complications in the cardiomyocytes or transgenic mice with overexpression of antioxidant genes or supplementation of exogenous antioxidants. Among these clinical-translational antioxidants, metallothionein and its upstream nuclear transcriptional factor Nrf2 as well as their potent inducers have been received attention with greatly potential to be applied in clinics for patients with diabetes.
  • Laurie Hing Man CHAN
    セッションID: SL3
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/08/08
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    Methylmercury (MeHg) is a global pollutant that easily bioaccumulates in the marine food chain. This can be a detriment for human populations that rely on seafood as a principle source of nutrition since MeHg is a neurotoxin that disrupts brain development and function. The neurotoxicity of MeHg has been linked to its hydrophobicity and soft acid properties which instil it with the capacity to diffuse freely across the blood brain barrier and bind strongly to soft bases like sulfur on cysteine residues in proteins. Despite this, there seems to be a latency period between MeHg exposure and adverse neurological outcomes. This may be attributed to the gradual bioconversion of MeHg to inorganic mercury (IHg). Empirical data show that the reactive oxygen species (ROS) drive the bioconversion of MeHg to iHg. In particular, superoxide anion is the principle ROS responsible for catalyzing the demethylation of MeHg. This bioconversion mostly takes place inside the matrix of mitochondria which preferentially accumulates MeHg due to its high cysteine content. Studies using “omic” approaches have shown that MeHg disrupts mitochondrial function, in particular energy metabolism and antioxidant defense. With increasing awareness of environmental stewardship, incidence of acute MeHg poisoning from industrial pollution has become rare. However, the scale of chronic exposure to lower dose of MeHg as a result of global pollution or occupational hazard has grown. The talk will discuss the roles of toxicologists in the development of environmental management plan for MeHg in the local and global context.
  • Patrice BÈLANGER, Mark BUTT, Paul BUTLER, Siddhartha BHATT, Ste ...
    セッションID: SL4
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/08/08
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    Tanezumab is a monoclonal antibody (mAb) that binds to and inhibits the actions of nerve growth factor (NGF). Tanezumab is under clinical investigation for the treatment of pain associated with osteoarthritis, chronic low back pain, and cancer pain. On 14 December 2012, the U.S. Food and Drug (FDA) placed all anti-NGF mAb development programs on partial clinical hold due to adverse changes in the sympathetic nervous system of mature animals. The FDA indicated that to resume clinical studies, Pfizer must submit rigorous scientific data which characterize the sympathetic nervous system response to tanezumab and provide evidence that tanezumab may be used safely for the duration of the proposed clinical studies. Since the issuance of the partial clinical hold, Pfizer completed three studies in nonhuman primates to examine further the effects of tanezumab on the sympathetic nervous system. The results from these studies characterized the sympathetic nervous system response to tanezumab and clearly established that tanezumab does not cause neuronal cell death. In addition, these results show that exposure to tanezumab in non-human primates is associated with stereological changes in sympathetic ganglia, including smaller ganglion volume, smaller average neuron size/area, and lower estimated total neuron counts. These effects do not progress over time, are fully reversible, and are not associated with any adverse functional consequences. These data were submitted to the FDA in February 2015. In March 2015, FDA lifted the partial clinical hold on the tanezumab development program, allowing osteoarthritis and chronic low back pain studies with tanezumab to proceed.
教育講演
  • Serguei LIACHENKO
    セッションID: EL1
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/08/08
    会議録・要旨集 フリー
    Modern bio-imaging technologies like magnetic resonance imaging and spectroscopy (MRI/MRS) as well as some others have attained an important role in medical research due to low invasiveness and ability to provide functional information about biological systems in vivo. Such information could be obtained from the same subject repeatedly and with the least possible interference, which makes bio-imaging a unique and indispensable tool in toxicological and drug safety research. Most of bio-imaging modalities and techniques are intrinsically translatable – the same methodology can be applied pre-clinically in animals and in clinical settings. A great opportunity exists to leverage the advances in clinical imaging to improve the translatability of nonclinical safety assessments. Development of non-invasive imaging biomarkers of toxicity holds the promise to drastically improve contemporary safety assessment paradigms. This talk will provide the technical description of bio-imaging technologies and challenges of their use in the development of imaging biomarkers to support drug safety and other toxicological research settings.
  • 高野 裕久
    セッションID: EL2
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/08/08
    会議録・要旨集 フリー
    近年、気管支喘息、花粉症、アトピー性皮膚炎、食物アレルギー等のアレルギーが急増し、その増加・悪化の主因として環境要因の変化が重要と考えられている。居住環境、衛生環境、食環境、水・土壌・大気環境等、多くの環境要因の変化の重要性が指摘されているが、これらの背景には化学物質の増加に代表される環境汚染の蔓延という問題が潜在している。
    本講演では、環境汚染物質とアレルギー疾患の増加・悪化の関連について、環境化学物質に焦点を当て、我々のこれまでの知見を中心に紹介する。
    臨床的には、いわゆるシックハウス症候群において、室内汚染化学物質によるアレルギー疾患の再燃や悪化がしばしば経験される。また、実験的にも、環境汚染物質は、種々のアレルギー疾患を悪化させうる。例えば、粒子と莫大な数の化学物質の集合体であるディーゼル排気微粒子、また、黄砂、ナノ粒子、ナノチューブ等の粒子状、繊維状物質は気管支喘息を悪化させる。一方、ディーゼル排気微粒子に含まれる悪化要因としては、キノン類やベンツピレンをはじめとする脂溶性化学物質が重要である。加えて、プラスチック製品の可塑剤として汎用されているフタル酸エステル類、や農薬等の環境化学物質も、アトピー性皮膚炎を悪化させる。
    アレルギー悪化メカニズムとしては、総じて、抗原提示細胞の局所における増加や活性化、Th2反応の亢進等が重要であることを示唆する知見が多い。これらの物質の中には、in vitroにおいて、抗原提示細胞におけるCD86、DEC205やケモカインレセプター、脾細胞におけるTCR発現、IL-4産生、抗原刺激による細胞増殖の増強をきたすものもあり、悪化機構の解明と共にスクリーニング指標としても重要である。今後、アレルギーを制圧するためには、環境化学物質をはじめとする環境汚染物質対策も必須となろう。
  • 遠山 千春
    セッションID: EL3
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/08/08
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    日本では1997年以降、野生生物の繁殖異常や人の生殖機能への悪影響は、環境中の人工合成化学物質が内分泌をかく乱することによって引き起こされるとの懸念が大きな社会問題となった。これには、1996年に発刊されたOur Stolen Future (T. Colbornら;邦訳「奪われし未来(1997)」の影響が大きい。1998年には環境省により内分泌かく乱作用が疑われる物質67物質がリストされ“SPEED98”の国家事業として開始された。この事業は“ExTEND2005”, “EXTEND2010”として継続され、今後に引き継がれることになっている。
    この講演では、以下の項目を中心に、内分泌かく乱化学物質(「環境ホルモン」)問題について毒性学の観点から概説する。

     1. 野生生物と人における内分泌かく乱の実態
     2. 内分泌かく乱作用の定義と検出系の開発
     3. 内分泌かく乱作用の特徴
      ・低用量問題(逆U字の量・反応関係)
      ・複合曝露
      ・閾値
      ・動物試験結果の再現性とGLP
      ・エピジェネティクス・多世代影響
     4. 毒性試験系と内分泌かく乱化学物質
  • M. George CHERIAN
    セッションID: EL4
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/08/08
    会議録・要旨集 フリー
    Metallothioneins (MT) are ubiquitous low molecular weight cysteine-rich (30%) proteins with different biological roles in nutrition and toxicology. MT binds with both essential metals (Zn & Cu) and toxic metals (Cd & Hg). MT levels are high in organs of young mammals and proliferating epithelial cells, including certain cancer cells with nuclear localization. It can store Zn & Cu, and protect against toxicity of Cd & Hg. The expression of MT can be induced by certain metals and other factors. The high MT levels in metastatic cancer cells may be linked to the increased demand for metal ions in these cells. In addition, MT in cancer cells can protect against persistent oxidative stress. The high expression of MT has been associated with protection against DNA damage, oxidative stress and apoptosis. In cancer cells, the tumor suppressor gene p53 status influences the intracellular redox conditions and also affect the express of MT. The various protective mechanisms of MT will be discussed. (Rad. Res 148:235-39, 1977. J. Tr. Ele. Med. Biol 35:18-29, 2016).
シンポジウム1 酸化ストレスとシグナル伝達
  • 沼澤 聡
    セッションID: S1-1
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/08/08
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    Nrf2は酸化ストレスに対する細胞の多彩な防御応答を担う転写因子である。Nrf2は親電子性物質の代謝や運搬を担う第2相タンパクを誘導するだけでなく、栄養素の細胞への供給を増加させるトランスポーター、糖代謝を介してNADPHを増加させる酵素群、ATPを増加させる脂肪酸β酸化の酵素群などの誘導を通じて、細胞内レドックス環境を整え、親電子性物質を排除し、細胞のダメージを修復する機能を持ち、酸化ストレスに対する細胞の防御応答を多段階で調節していることが近年明らかになっている。Nrf2の転写活性制御は、細胞内分布により一義的になされている。すなわち、核に局在するNrf2の相対的増加が本転写制御の本態であり、その調節を主に担うのがKeap1である。細胞質に存在するKeap1はNrf2とCul3型 E3ユビキチンリガーゼのアダプターとして、Nrf2のプロテオソームによる分解に寄与する。親電子性物質や重金属がKeap1に存在する反応性システイン残基を修飾すると、Cul3-Keap1-Nrf2複合体の構造変化によりNrf2ユビキチン化能が低下し、Keap1がNrf2で占拠される。Nrf2は極めて速い代謝回転比をもつため、新規に合成されたNrf2はKeap1との結合を回避し核内に蓄積すると考えられる。Keap1の酸化修飾以外にもKeap1-Nrf2の結合が他のタンパクで競合されるとNrf2の活性化が誘導される。オートファジーにおけるアダプタータンパクp62は、その代表的な競合タンパク質である。一方、Nrf2はSCFβ-TrCP複合体とも結合しユビキチン化を受けるが、その結合はGSK-3によるNrf2リン酸化によって制御される。本シンポジウムでは、上記Nrf2の転写活性調節を概説するとともに、本転写活性化における種々リン酸化シグナルカスケードの役割を整理する。
  • 久下 周佐, 岩井 健太, 色川 隼人, 武田 洸樹
    セッションID: S1-2
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/08/08
    会議録・要旨集 フリー
    活性酸素種(ROS) は、酸素・栄養等の供給量の増減などの環境変化に応答して細胞内で産生される。したがって、細胞はROSレベルを制御しROSによる細胞障害(酸化ストレス)を回避するシステムを備えることで環境の変化に適応している。ところで、様々なストレスに対応してタンパク質の合成を抑制する一方で抗ストレス因子を優先的に合成誘導するシステムがある。すなわち翻訳開始因子のeIF2αのSer51のリン酸化制御を中心とするタンパク質合成開始の選択である。このSer51を特異的にリン酸化するeIF2αキナーゼには、小胞体内腔に異常構造のタンパク質が蓄積を認識し活性化するPERK、アミノ酸飢餓により活性化されるGCN2、ウイルス感染で活性化されるPKRなどが存在する。一方、酸化ストレスの場合はeIF2αのリン酸化制御は起こるがeIF2αキナーゼの活性化が起こらないことからそのメカニズムは未解明であった。
    BAG-1は抗アポトーシス因子として見出されたHSP70のコシャペロンである。また、リン酸化eIF2αレベルを負に制御する脱リン酸化酵素のGADD34/PP1の活性を低下させるとの報告もある。我々はBAG-1の2つのシステイン残基が過酸化水素によりジスルフィド結合を起こすとGADD34に直接的に結合してその活性を阻害すること、その結果リン酸化eIF2αレベルの上昇を促すことを見出した。実際に、ジスルフィド結合を起こさないBAG-1変異体を発現させた細胞では、eIF2αのリン酸化、およびこの経路に依存して誘導されるターゲット因子の誘導発現がブロックされ、細胞内の過酸化水素レベルが上昇した。また免疫不全マウスに移植したヒトがん細胞の増殖はBAG-1変異により阻害された。これらの結果は、BAG-1による過酸化水素の感知→eIF2α「脱」リン酸化抑制→リン酸化eIF2αレベルの上昇→ストレス応答性因子の発現誘導の経路が、制限環境下で産生される過酸化水素の毒性低減システムとして機能している可能性を示している。また、このシステムが薬毒物による細胞毒性の軽減にも寄与している可能性が考えられた。
  • 野口 拓也, 松沢 厚
    セッションID: S1-3
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/08/08
    会議録・要旨集 フリー
     細胞内に発生した活性酸素種(ROS)は、抗酸化系酵素によって直ちに除去されることで、酸化還元(レドックス)のバランスが保たれている。しかしながら、ROSの過剰な蓄積や除去システムの破綻は、レドックスバランスを酸化側にシフトさせ、細胞機能の障害を引き起こす酸化ストレスを惹起する。酸化ストレスは多くの疾患の発症原因や増悪因子となることが知られていることから、酸化ストレス応答の分子機構やその病態生理学的役割の解明は極めて重要な研究課題の一つとされている。
     セファロスポリン系抗菌薬は、β-ラクタム環にヘテロ六員環が結合した構造を基本骨格とするβ-ラクタム系抗菌薬の一種であり、セファマイシン系やオキサセフェム系とともにセフェム系抗菌薬と総称されている。副作用が少なく安全性が高いとされるセファロスポリン系抗菌薬は、臨床現場においては欠かすことのできない汎用性の高い薬剤であり、その一つのCefotaximeはWHOが定める「Essential Medicines」にリストアップされている。しかしながら、これらの抗菌薬は稀に薬剤性の肝障害や急性尿細管壊死などの重篤な副作用を引き起こすことが報告されており、その発症機序がほとんど明らかにされていないという問題点がある。
     最近我々は、セファロスポリン系抗菌薬であるCefotaximeやCefpiromeがミトコンドリアを介したROS産生を亢進させ、酸化ストレス依存的な細胞障害を引き起こすことを見出した。また、多機能シグナル分子として知られるp62 /SQSTM1が、これら抗菌薬による細胞障害を防御する上で重要な役割を果たしていることが明らかとなった。本学術年会においては、セファロスポリン系抗菌薬による酸化ストレス依存的な細胞障害の分子機構を紹介するとともに、p62を介した新たな酸化ストレス防御機構についても議論したい。
  • 船戸 洋佑, 山崎 大輔, 三木 裕明
    セッションID: S1-4
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/08/08
    会議録・要旨集 フリー
    Phosphatase of regenerating liver(PRL)はヒト大腸がんの転移巣などで高発現しており、がんの悪性化を促進することが知られている。チロシンホスファターゼドメインを持つがその酵素活性は著しく弱く、分子機能の実態は長らく不明だった。PRLはその活性ドメイン内に、活性酸素によって酸化されて可逆的に分子内ジスルフィド結合を作るCys残基をペアで持っている。私たちはPRLの結合分子の網羅的探索から、進化的に保存された膜タンパク質Cyclin M(CNNM)を見つけた。CNNMの分子機能解析により、細胞内からMg2+を排出することが明らかとなり、PRLはCNNMに結合することでMg2+排出を阻害した。細胞を過酸化水素等で細胞を刺激すると、PRLが酸化されてCNNMから解離し、Mg2+排出阻害もキャンセルされた。つまり、PRLはレドックス状態応答性に細胞内Mg2+量を調節することが明らかとなった。がん悪性化における重要性を調べるため、腸上皮で強く発現するCNNM4の遺伝子欠損マウスを作成して、腸に多数のポリープを自然に作るAPC遺伝子ヘテロ欠損マウスと掛け合わせた、その結果、通常粘膜内に留まっている腫瘍細胞が筋層にまで浸潤して悪性化していることも分かった。本シンポジウムでは、このPRL/CNNMによるMg2+調節のがん悪性化における重要性や、また最近見つけたPRLのレドックス応答性Cysに起こっているユニークな化学修飾による分子機能調節についても述べる。
シンポジウム2/Symposium2 (English Session) SOT-JSOT Exchange Promotion Program -Cutting-Edge Science of Lung Toxicology- /日米毒性学会の交流促進プログラム -肺毒性の最前線-
  • John B. MORRIS, Joseph A. CICHOCKI, Gregory J. SMITH
    セッションID: S2-1
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/08/08
    会議録・要旨集 フリー
    That respiratory defense mechanisms are stimulated by oxidants/electrophiles has long been appreciated. Our work has focused on characterizing two such defense pathways from an inhalation toxicological perspective: 1) neuronal reflex responses, initiated by the transient receptor potential ankyrin 1 (TRPA1) receptor, and 2) cellular antioxidant defenses initiated via the nuclear factor erythroid 2-related factor (NRF2). TRPA1 and NRF2 are oxidant sensitive receptors expressed throughout the respiratory tract. They are activated by reactive inhaled agents (acrolein) or by local metabolic activation of inhaled or systemically delivered agents (naphthalene, acetaminophen). Exposure to inhaled and systemic oxidants in combination results in synergistic TRPA1 and NRF2 responses. Oxidant responses have also been characterized among respiratory tract regions and between electrophiles with differing reactivity. When normalized to delivered dose, inhaled oxidant/electrophile induction of pro-inflammatory genes is similar throughout the airways, however, differences exist in the NRF2-dependent antioxidant gene induction patterns between regions. Activation of both TRPA1 and NRF2 depends on toxicant interaction with sulfhydryl moieties. The oxidant exposure levels necessary for activation of TRPA1 and NRF2 responses are similar suggesting both oxidant sensors are of comparable sensitivity. While soft electrophiles, such as acrolein, react with sulfhydryls, hard electrophiles, such as diacetyl, do not. Unlike acrolein, inhaled diacetyl is only a weak activator of either neuronal reflexes or NRF2 pathways, suggesting the chemical electrophilic reactivity profiles of TRPA1 and NRF2 are comparable. Overall, the oxidant sensitive receptors TRPA1 and NRF2 demonstrate many toxicologically relevant similarities
  • 山本 雅之
    セッションID: S2-2
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/08/08
    会議録・要旨集 フリー
    Our body has ability to sense environmental insults and to activate cellular defense enzyme genes. Transcription factor Nrf2 is essential for the coordinated induction of cellular defense enzymes and protection of lung tissues through association with CNC-sMaf binding element (CsMBE or ARE/EpRE). This notion has been supported by experiments using animal models, showing that Nrf2-null mice are sensitive to a wide variety of toxic electrophiles and ROS. Keap1 acts as a subunit of ubiquitin-E3 ligase that degrades Nrf2 constitutively and as sensors for electrophilic and oxidative stresses, and covalent modifications of the cysteine residues abrogate the ubiquitin ligase activity. This system has been referred to as the Cysteine Code. The two-site recognition / hinge and latch model proposed for the Keap1-Nrf2 system describes the mechanism of nuclear accumulation of Nrf2 in a Cul3-Keap1 E3 ubiquitin ligase-dependent manner. We have verified this model through structure biology, mouse genetics, and human disease analyses. Many missense mutations have been identified in KEAP1 and NRF2 genes of human lung cancers. These mutations disrupt the KEAP1-NRF2 complex and result in constitutive activation of NRF2. Subsequently, elevated expression of NRF2 target genes confers advantages on the growth of cancer cells through the metabolic reprogramming. Thus, the Keap1-Nrf2 system opens a new avenue to the understanding of the signal transduction and regulatory processes underlying the stress response and cancer progression.
  • Matthew J. CAMPEN, Mario ARAGON, Lauren TOPPER, Andrew OTTENS, Aaron E ...
    セッションID: S2-3
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/08/08
    会議録・要旨集 フリー
    Epidemiological studies indicate a strong link between inhaled particulate matter (PM) and cardiovascular and neurological disorders. Additionally, there is evidence that certain gases, such as ozone, and mixed gas-PM exposures may have similar effect beyond the lung. Therefore, we have explored the role of serum components in driving cerebrovascular endothelial inflammatory responses and dysfunction that result from exposure to a wide array of PM and gas mixtures. Using multiwalled carbon nanotubes (MWCNT) via pulmonary delivery in mice, we observed acute deficits in blood brain barrier, activation of astrocytes, and induction of cortical CCL5 and interleukin-6 (IL6) mRNA that were abrogated by coadministration of a rho kinase inhibitor that improves endothelial barrier integrity. This outcome was replicated in a rat model of inhaled ozone, suggesting pathways common to both gases and PM. We further explored the bioactivity of serum from exposed rodents, in terms of the ability to induce inflammatory responses in cerebrovascular endothelial cells in vitro, and found that, again, both MWCNT and ozone exposures led to compositional changes that elicited transcriptional changes and surface receptor expression of inflammatory adhesion molecules, and also diminished regrowth of cerebrovascular endothelial cells. Serum proteomic analysis reveals <1,000 high confidence peaks induced by ozone and peptide sequencing suggests that many of these peaks reflect fragmented or oxidatively modified endogenous peptides, rather than synthesis or secretion of new proteins. Similar serum alterations were noted following exposure to MWCNT. Using myographic approaches, we subsequently confirmed that the fraction of serum components <10 kDa could reduce ex vivo vasorelaxation responses and that this serum bioactivity was absent in matrix metalloproteinase-9-deficient mice, suggesting a role for protease activity in generating pathological circulating constituents. These studies provide mechanistic evidence for a role for circulating components to drive the systemic vascular effects of inhaled pollutants, but further characterization of the serum compositional changes is needed to fully understand this phenomenon.
  • 北嶋 聡, 相﨑 健一, 菅野 純
    セッションID: S2-4
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/08/08
    会議録・要旨集 フリー
    Toxicity of volatile organic compounds (VOCs) in indoor air, such as formaldehyde (FA), Xylene (Xy) and Paradichlorobenzene (pDB), at the levels of Sick House/Building Syndrome (SHS) is difficult to assess by the ordinary inhalation animal studies; histopathological endpoints are negative for toxicity at such concentration level. Here we applied our Percellome Toxicogenomics Project that had been launched to develop a comprehensive gene network for the mechanism-based predictive toxicology using time- and dose-dependent transcriptomic responses induced by a chemical. This Project was initiated to reinforce and eventually replace the “safety factor (uncertainty factor)” widely used for the extrapolation of experimental animal data to humans. For this purpose, a normalization method designated as “Percellome” is developed (BMC Genomics 7:64, 2006) to generate mRNA expression values in “copy numbers per one cell” from microarrays and Q-PCR. Over 100 chemicals have already been tested in this Project. Here, we report that the Percellome analysis is capable of predicting functional insults that might lead to chronic toxicity.
    FA, Xy and pDB at concentrations 0.08, 0.20 and 0.04 ppm, respectively, close to the “Indicative indoor exposure value of SHS (MHLW, Japan)”, were applied to the C57BL/6J mice 22hr/day x 7 days inhalation-exposure protocol (4 concentrations x 4 time points, triplicate). Lung, liver and hippocampus were analyzed. Strong suppression of gene expression related to neuronal activity in hippocampus, i.e. the immediate early genes (IEGs) including Arc, Dusp1 and Fos was shown commonly among the three chemicals. Lung and liver Percellome analysis pointed out a candidate cytokine upstream of IEGs. Our finding may be considered as a first substantial data that would explain the indefinite or unidentified complaint in SHS patients. In addition, Percellome analysis of the orally exposed lung and liver to FA, Xy and pDB will be presented for further clarification of the inter-organ relationship.
シンポジウム3 SEND(非臨床試験電子データ標準化)-その規制動向と実装に向けた企業、CRO、ITベンダーの取り組み-
  • Laura KAUFMAN, Daniel POTENTA, Mike WASKO, Fred MURA, Reto AERNI, Taka ...
    セッションID: S3-1
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/08/08
    会議録・要旨集 フリー
    With the requirement for electronic data standards scheduled to begin December 18, 2016, the pharma community is on the edge of a major change in the way data need to be collected and reported, as well as the way regulatory authorities will be able to analyze data. To go along with these changes are benefits from data warehouses and sophisticated data analysis tools that can offer immediate access to data in ways not currently feasible. As we approach the start of FDA's mandate for SEND, the quality of SEND implementation for submissions becomes critical. In this presentation, best practices for SEND implementation based on extensive FDA SEND submission experience will be shared. SEND Readiness in terms of the ability to use electronic raw data to automatically create SEND datasets will be reviewed, along with suggestions for protocol designs that best conform to the SEND model. RecommendatioNoncompliance to the standard can result in Refusal to File by FDA ns will be presented for SEND dataset review, both for accuracy and fitness of data for analysis. Updates from CDISC and PhUSE, including SENDIG 3.1 timelines and challenges, Define standard, and Study Data Reviewer's Guide (SDRG) content and format will be highlighted.
  • 安齋 享征, 佐藤 玄
    セッションID: S3-2
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/08/08
    会議録・要旨集 フリー
    米国FDAが申請データの電子化を推進している背景には、新薬の審査速度の加速が自国の国民にベネフィットが大きいこと、更に自国の製薬産業の国際優位性を維持する目的がある. 米国はこの政策に成功しており、エール大学の研究グループの調査によるとFDA、European Medicines Agency (EMA)、カナダ保険庁の3つの行政機関における申請から初回審査終了までの期間(中央値)の比較(2001年~2010年)において、FDAが調査対象機関の中で最短であった. この申請データの電子化の中で前臨床のデータに関する標準がSEND(Standard for Exchange of Nonclinical Data)である.FDAはCDISC(Clinical Data Interchange Standards Consortium)及びPhUSE(Pharmaceutical Users Software Exchange)とともにその普及に励んでいる. さらにFDAは2012年にIT5カ年計画案を発表し、FDAにおける一連の電子申請および電子審査の推進計画の大綱を示している.また、SENDにおいて考慮すべき点、推奨事項、データセットの提出方法などの細則についてガイダンス案を作成し公開している.
    FDAはSENDに関し、CDISCとPhUSEとの共同作業を数多く行っているが、 CDISCが標準を作る機関であるのに対し、PhUSEはSENDなどの実装を想定した機関であり、特に製薬企業にとって現実的かつ有益な情報源となっている. PhUSEは製薬企業、IT企業などのデータ・マネージメント、生物統計、電子臨床データ、毒性、病理、薬理などの専門家によって構成される国際的非営利団体である. 本発表においてはFDA SENDの現状とPhUSEの活動について紹介しその有効利用を提案する.
  • 星野 裕紀子
    セッションID: S3-3
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/08/08
    会議録・要旨集 フリー
    平成25年6月に閣議決定された日本再興戦略において国民の健康長寿の延伸がテーマの一つとして示された。これを受けて、健康・医療戦略(平成25年6月14日内閣官房長官・厚生労働大臣・関係大臣申合せ、平成27年7月閣議決定)ではその具体策としてPMDA自らが臨床データ等を活用して解析や研究を推進すべき旨が述べられている。このような状況の下、PMDAでは平成25年9月に次世代審査・相談体制準備室を設置し、電子データを利用した審査のパイロット(臨床試験成績に限る)を開始すると共に関連通知等の整備を経て、本年10月より、医薬品の承認申請時には原則として臨床試験成績については電子データの提出が求められることとなった。この電子データはCDISC(Clinical Data Interchange Standards Consortium)の規格(以下、「CDISC標準」)への準拠が求められており、標準化された電子データの利用による審査の効率化や高度化、Modeling & Simulationを活用した品目横断的な検討等により、患者数が少なくデータの集積が困難な希少疾病医薬品等の開発促進が期待されている。
    一方、将来的には、非臨床試験成績に関しても承認申請時にPMDAへの電子データ提出を求める方向であり、具体的な検討を開始したところである。検討に際しては、国内での臨床試験電子データの受入れ状況や、既にNDA申請等に際してCDISC標準に準拠した電子データの提出を非臨床試験に関しても義務化することを決定している米国の状況等に留意しつつ、その活用方針について議論する必要がある。
    本講演では前述の点を踏まえ、日本における非臨床申請電子データの利用とその展望について述べたい。
  • 義澤 克彦, 原田 孝則
    セッションID: S3-4
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/08/08
    会議録・要旨集 フリー
    毒性病理用語・診断基準の国際統一化計画(INHAND)は、主に北米(STP)、欧州(ESTP)、英国(BSTP)及び日本(JSTP)の毒性病理学会が推進している合同事業で、げっ歯類を対象に15器官にわたる腫瘍性・非腫瘍性病変について用語・診断基準の国際統一化を図ることを目的に2008年に発足し2017年まで継続する予定です。既に、呼吸器、肝・胆管、泌尿器、中枢・末梢神経、乳腺・特殊脂腺、雄生殖器、雌生殖器、軟部組織、皮膚・付属器、消化器系、細胞死が米国・日本の毒性病理学雑誌に公表されました。現在、心臓・血管系、骨格系、造血・リンパ系、内分泌並びに感覚器系に関する原稿を作成中です。また、非げっ歯類の動物種(イヌ・サル・ウサギ・ミニブタ)についてもプロジェクトが進行中です。既に公表されたINHAND用語は充分に討議され公表されたものですが、現状に合わない場合や新たな用語が必要になる場合があります。その場合には、request formをgoRENIあるいはINHAND GESC委員(日米欧13名)に送付後、追加・修正の審議を実施しています。このような状況の中で、米国FDA が主導している医薬品の電子申請化コンソーシアム(CDISC:Clinical Data Interchange Standards Consortium)の一環として、非臨床試験成績の電子申請化コンソーシアム(SEND:Standard Exchange for Non-clinical Data)から、非臨床試験に使用する標準用語としてINHAND用語の使用要請を受け、2011年から全面的に協力しています。現在、FDA及びCDISC、National Cancer InstituteのEnterprise Vocabulary Services (EVS)と共に、既に公表されている臓器のINHAND 用語についてSEND 用語としての適切なマッピングと腫瘍性病変のチェックを実施中です。本シンポジウムではINHANDの現在の活動状況とSENDとの協力について報告させていただきます。今回の発表にあたり、情報提供・支援を頂きましたGESC委員長のCharlotte Keenan先生に陳謝いたします。
  • 佐藤 玄
    セッションID: S3-5
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/08/08
    会議録・要旨集 フリー
     米国NDA及びIND申請時の電子データ標準であるSEND(Standard for Exchange of Nonclinical Data)フォーマットによる電子データ提出義務化(NDA・BLA: 2016年12月以降,IND: 2017年12月以降にそれぞれ開始する試験)を間近に控え,申請者である製薬企業にとって残された準備期間は多くない。また,製薬企業という立場は同じであっても,各社ごとに安全性試験の実施施設(自社内または外注対応)が異なり,さらに企業規模,海外展開,開発戦略,IT投資の考え方,IND/NDA・BLA品目数といった要素が異なれば,会社ごとに目指すSEND-ready体制も異なる可能性がある。
     今回,製薬企業における非臨床試験の実施担当及び申請業務担当の立場からSEND実装に向けた取り組みの実際と課題について,社内体制の確立,受託機関とのコミュニケーション,SENDデータセットにどこまで盛り込むか 等の切り口から,考えるべきポイントを共有したい。
  • 堀川 真一
    セッションID: S3-6
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/08/08
    会議録・要旨集 フリー
    米国食品医薬品局(FDA)の要求事項となる前臨床試験データの電子標準化(SEND)は申請者である製薬企業のみならず,日本国内の受託試験施設(CRO)にとっても緊急性の高い課題である.当然ながら製薬企業はCROの「SEND対応レベル」を委託条件のひとつとし始めている.しかし,SENDはあくまでFDA申請者である製薬企業が主体となるべきものであり,CROはスポンサーごとに異なるSEND対応レベル,要求事項を満たす必要がある.我々はスポンサーからの様々な要求に柔軟に対応すべく,2014年にSENDのCDISC Registered Solutions ProviderであるPDS社と提携し,PDS社とのパートナーシップによるSEND共同サービス体制を構築した.Registered Solutions Providerとは,CDISCに公式登録されている(登録できる実力のある)専門機関であり,現時点で SENDのRegistered Solution Providerは世界で10社程度しか登録されていない.
    我々はSolution Provider型CROとして,受託試験のSENDサービス(SENDデータセット,Define.xml,Study Data Reviewer's Guideの作成)を開始し,2015年11月に日本のCROとして初となるFDAの電子予備申請通過に成功した.また,これに引き続き連続してFDA電子予備申請に成功し,十分な成功実績とノウハウの蓄積ができた.FDAは不備のあるSENDデータセットは直ちに差し戻すと明言しており,事前にSENDデータがFDAの電子審査を通過できることを確認することは極めて重要である.従って,FDAの電子予備申請通過成功は,我々におけるSEND対応がFDAで通用することを事実として証明したことになり,今後の日本のCROビジネスモデルとして重要な意味を持っている.
    本講演では,イナリサーチにおけるFDA電子予備申請通過成功の経験から,CRO委受託試験のSEND対応における課題とその対策について紹介する.
  • 藤村 義則
    セッションID: S3-7
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/08/08
    会議録・要旨集 フリー
    ITベンダーとしては、SENDの電子申請に向けてSEND標準形式でデータが出力可能なシステムの実装を行っている。しかしながら、SEND IG 3.0のFinalで対応しているのは非臨床試験の一部であり、今後も追加および改訂が想定されているため、随時システムのレベルアップの検討が必須である。また統制用語やdefine.xmlのバージョンも継続して変更されるため、システムのレベルアップをリアルタイムに行っていくことが必要であり、容易ではない。
    製薬メーカのSEND対応としては、どこまで自社内において実施すべきか苦慮しているのが現状である。SEND対応しているシステムを導入すればそれで終わりではなく、システム化されていないレガシーデータのSEND対応や、システムでは対応しきれないSDRGの作成など、システム外で検討しなければならないことが存在する。ITベンダーと協力してシステムで対応できる範囲と製薬メーカで実施しなければならない範囲を明確にしていく必要がある。
    SENDはフォーマットの標準化であり、その運用までは標準化されていない。そのため、電子申請の義務化に向けて運用フローやルールを標準化していくことが、SEND標準を利用していくうえで重要である。
    また、SEND標準は申請のための標準化ではなく、データを標準化することで、薬効の予測や用法の検討などの新薬研究開発に関わるあらゆるデータの利活用を目的としている。そのため、ITベンダーは申請のための仕組み作りと共に、利活用のためのデータの統合化を視野に検討していかなければならないと考えている。
シンポジウム4 微量遺伝毒性物質の食品健康影響評価について
  • 山添 康
    セッションID: S4-1
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/08/08
    会議録・要旨集 フリー
    食品の摂取や医薬品の服用によって微量ではあるが。遺伝毒性を示す物質を日々体内に取り込んでいる。これらの健康影響を明確にするには懸念の対象となる物質の毒性プロファイルの解析と曝露の評価が重要である。
      近年、実験動物を用いた微量曝露の成績、ヒトについての大規模の疫学研究結果の利用と動態解析を含めた曝露レベルの精密化が進み、低濃度曝露であっても、ヒトにおける健康影響を定量的に評価できるようになってきた。本シンポジウムでは食品安全員会が行ったアクリルアミド評価を中心に、今後導入が予定されるin silico予測を含めた新たな展開について議論したい。
  • 広瀬 明彦
    セッションID: S4-2
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/08/08
    会議録・要旨集 フリー
    近年の分析技術の発展により、環境由来の化学物質による汚染以外にも認可された食品添加物等の中の不純物質や調理中に生成する化学物質として、極めて微量の遺伝毒性発がん性物質が食品中に含まれていることが明らかになってきた。そのため、これらの遺伝毒性発がん物質の食品経由による曝露を可能な限り低減・管理するためには、推計学的手法を用いた定量的評価を行うことが必要となってきている。国際的な食品関連分野における評価における本格的な遺伝毒性発がん物質の定量的な評価は2005年のJECFA会議から始まり、アクリルアミドを含む遺伝毒性発がん物質に対して、ベンチマークドース(BMD)手法よって求められたBMDL(BMDの95%信頼下限値)と曝露量の比を表す曝露マージン(MOE)が、JECFAとして初めて定量的な評価指標として導入された。一方で水質や大気中などの汚染物質の基準値設定では、以前よりBMDLから求める直線外挿法による10-5等のリスクに相当する曝露量が基準値として採用されている。このことからMOEはリスクの大きさを直接示す指標であると捉えられがちであるが、基準値への適用も含めてリスク管理のための定量的指標の一つに過ぎない。現実的に動物試験や疫学研究で発がん性の有意差が検出可能な曝露レベルにおける誘発データのみでは、10-5レベルのリスクに相当する低用量域の曝露モデルを確立することができないために、生物学的に最も保守的なモデルに近い直線外挿モデルを管理の基準として採用せざるを得ない事情によるものである。今後リスク推定をより精緻なものにするためには、低用量域の曝露における発がん性機序や体内動態などを定量的に説明できるモデルの構築が望まれる。本講演では、食品安全委員会が本年にその健康影響評価を取り纏めたアクリルアミドの事例を中心にBMD手法の基本原理とその適用事例、今後の課題について解説する。
  • 青木 康展
    セッションID: S4-3
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/08/08
    会議録・要旨集 フリー
    化学物質のリスクとは「有害性x曝露量」と言われるが、有害性と曝露量の評価の姿は大きく異なる。化学物質の有害性評価の殆どは、動物実験から導出された無毒性量やベンチマークドースを基にしている。動物実験やデータ解析方法はOECDテストガイドラインなどで標準化され、世界中ほぼ同じ考え方で行われる。従って、評価機関が違っても有害性評価の値は同じということも起こりうる。しかし、曝露量は国や地域によって異なる。特に、食品から摂取の場合、食材や調理法に国ごとの特色があり、摂取量の詳細な評価が必要である。
    食品安全委員会はアクリルアミド(以下AA)の食品健康影響評価を実施したが、この際、AAは加熱調理により生成されるため、わが国固有のAA摂取量の推定が特に必要と考えた。そこで、国立環境研究所、鈴木規之センター長と河原純子博士を代表とする2つの研究班が、食品安全委員会の援助を受けて摂取量を推定した。
    AAの食品からの摂取量(x)は、x = ∑(食品中のAA濃度ix食品摂取量ix食品摂取頻度i)の式から算定した。食品摂取量と食品摂取頻度は平成24年国民健康・栄養調査から推計し、また、食品中のAA濃度は農林水産省や厚生労働省の調査データを用いたが、特に必要な食品のデータは食品安全委員会が独自調査した。摂取量の推定は、①モンテカルロシミュレーションによるAA摂取量の分布、および②AA摂取量の平均値、について行った。
    その結果、研究班は、①摂取量の分布を、中央値0.154、95パーセンタイル値0.261、平均値0.166 µg/kg体重/日、また、②平均摂取量を、0.158 µg/kg体重/日と推定した。さらに、食品安全委員会は、新たに得た炒め野菜中のAA濃度データを用いて、平均推定摂取量を0.240 µg/kg体重/日と提示した。後者の平均推定摂取量は海外と同様か低い値であり、内訳は高温調理した野菜(炒め野菜)が56%、飲料(コーヒー、茶類)が17%を占めた。わが国における摂取量調査の意義と課題を議論したい。
シンポジウム5 医薬品に係わる添加物と剤型革新における安全性評価
  • 笛木 修
    セッションID: S5-1
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/08/08
    会議録・要旨集 フリー
    医薬品添加剤は有効成分と共に医薬品を形作る重要な構成成分であり、医薬品の飲みやすさや安定性の向上、有効成分の安定した放出等に役立っている。医薬品の製剤化にあたっては、これらの添加剤を複数組み合わせて用いる場合も多く、製剤によっては構成成分の大部分が添加剤で占められていることも少なくない。そのような観点から考えると、医薬品添加剤の安全性確保は医薬品全体としての安全性を大きく左右する可能性を有しているものと考えられる。医薬品に用いられる添加剤の安全性評価は、それを含有する医薬品の承認審査と同時に実施されるが、医薬品医療機器総合機構で行われている医薬品添加剤審査における評価項目や安全性評価に対する考え方、審査のプロセスについて概説する。また、日局の製剤総則に記載されている通り、医薬品添加剤は薬理作用を示さず、無害であることが求められており、基本的に無毒・無害なものと考えられているが、様々な原因でヒトに対し、副作用を生じる場合がある。このような事例についてもいくつか紹介したい。その他、医薬品添加剤に関連する最新動向についても、時間の許す限り取り上げたいと考えている。
    なお、本発表は、発表者の個人的見解に基づくものであり、独立行政法人医薬品医療機器総合機構の公式見解を示すものではない。
  • 梅村 隆志
    セッションID: S5-2
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/08/08
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    食品添加物の安全性評価は、「添加物に関する食品健康影響評価指針(2010年5月食品安全委員会)」に基づき実施している。しかし、添加物としての香料は多くが食品の常在成分であり、単純な化学構造で非常に微量なものを多種類配合して使用されている。また、ビタミン・ミネラル等の栄養成分では、食事摂取基準とヒトでのNOAELとの適切なマージンに関する問題や耐容上限量が設定されている栄養素の場合の無毒性量との関係などの問題がある。殺菌剤、酵素、抽出溶媒等の加工助剤は本来、それ自体では食品の原材料として消費されることのない物質又は材料であるが、非意図的にその残渣又は派生物が最終製品中に存在することは回避できない場合がある。さらに、微生物から得られる酵素の場合、起源微生物の安全性やアレルゲン性への懸念がある一方、消化管内で分解して食品常在成分になる場合の安全性評価の考え方など考慮しなければならない問題が多い。これまで、上記のような問題点や特殊性に関しては上述の「添加物に関する食品健康影響評価指針」の中で一定の考慮の必要性が述べられているが具体的な指針は示されていなかった。そこで現在、これら特別な考慮が必要な添加物については別途、個別に指針を提示する取り組みが食品安全委員会で行われている。本シンポジウムは医薬品に係わる添加物がテーマであるが、今回取り上げる食品添加物の特性が一部重複していることから、これらの安全性評価指針の概略を紹介する。
  • 小島 肇
    セッションID: S5-3
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/08/08
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    日本薬局方によれば、医薬品製剤に使用される添加剤の安全性については、“その製剤の投与量において薬理作用を示さず、無害でなければならない”と記載されている。昨今では、医薬品に使用される添加物については、自主的に全てのものが表示されており、使用されている添加剤は製剤中の使用範囲で安全であることで使用されている。それがどのように安全であるかなどの詳細な情報が日本医薬品添加剤協会のホームページにおいて公開されており、医薬品に係わる規制当局、医薬品業界、添加剤業界、医療機関、薬局関係者等が医薬品添加物の安全性に関する情報を広く共有することができている。
     一方で、新添加剤の許認可においては、新原薬と同レベルで安全性が評価されることが求められており、単回投与毒性、反復投与毒性、遺伝毒性、がん原性、生殖発生毒性、局所刺激性等の毒性に関する資料が必要となる。これらの中で、遺伝毒性や局所刺激性に関するin vitro試験法については経済協力開発機構(OECD)試験法ガイドライン(TG)が汎用されつつある。これらのTGは有害性の同定にしか利用できないが、結果が陰性であればリスクを評価する必要はなくなる。医薬品の主剤はともかく、添加剤の安全性評価においては、動物実験の3Rs*を念頭にin vitro試験法を用いた許認可が進むべきと考える。

    *動物実験の3Rs:RusselとBarchが提唱した使用動物数を削減すること(reduction),実験動物の苦痛軽減と動物福祉を進めること(refinement),および動物を用いる試験を動物を用いない,あるいは系統発生的下位動物を用いる試験法に置換すること(replacement),という原則を指す。
  • 森部 久仁一
    セッションID: S5-4
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/08/08
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    新規候補化合物の多くは難水溶性である。難水溶性薬物を経口固形製剤として開発する場合、各種機能性添加剤と製剤技術を用いることで薬物溶解性の改善が可能である。薬物溶解性改善を目的とした固形製剤(特殊製剤)として、薬物を高分子添加剤マトリックス中に分子レベルで分散した非晶質固体分散体、薬物結晶をナノレベルまで微細化することで薬物の溶解性を改善したナノ結晶製剤がある。固体分散体の調製において、添加剤に求められる機能として、固体状態における非晶質薬物の安定化、水に分散後の薬物の結晶化抑制や可溶化・分散安定化がある。ナノ結晶製剤では、水に分散後の可溶化・分散安定化が求められている。
    難水溶性薬物の溶解性改善を目的とした添加剤として、セルロース系誘導体:ヒプロメロース(HPMC)、ヒプロメロースアセテートサクシネート(HPMCAS)やアミノアルキルメタクリレートコポリマー:Eudragit EPO、メタクリレートコポリマー: Eudragit L100、Eudragit S100がある。最初は錠剤や顆粒のフィルムコーティング剤、腸溶性コーティング剤として開発されてきたが、最近では非晶質薬物の安定化作用、水に分散後の薬物の結晶化抑制作用を利用した特殊製剤の開発に用いられている。さらに複数の添加剤を併用することで薬物の溶解性を改善することも可能である。
    機能性添加剤を用いた難水溶性薬物の製剤化には製剤技術も貢献している。固体分散体調製の際の噴霧乾燥法や溶融混練法、ナノ結晶製剤調製の際の湿式粉砕法は、小スケールからGMP対応の生産機まで幅広い装置が開発されている。現在、機能性添加剤を使用した特殊製剤が数多く上市されている。
    本講演では、特殊製剤の創製に貢献する添加剤について、最近の研究結果も含めて紹介する。
  • 飯島 護丈
    セッションID: S5-5
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/08/08
    会議録・要旨集 フリー
    医薬品添加物は有効成分の安定性、バイオアベイラビリティ、薬効、安全性を高め、治療効果を最大限発揮する重要な用途をもつ。用途は広範囲で有効成分と比較して配合量が一般に多く、複数の製剤との併用も珍しくない。また、患者が製剤に含まれる添加物を自ら選択できないことから安全性へのリスク評価は大切となる。
    投与経路は、内服、静脈内投与に留まらず、舌下錠、吸入剤、坐剤等と革新的なDDSの発展に伴い様々な経路で、適切な添加物が選択されるため安全性の視点も多様となる。
    医薬品添加物の開発にあたって使用前例(投与経路、使用最大量)に該当しない場合は、安全性等に関する資料を提出して承認を得なければならない。ただ、添加物のみでの事前評価(承認)は行われておらず、配合する有効成分との安全性評価となる。添加物の安全性資料のほか、製剤での安全性資料による評価事例もある。
    安全性に係わる反復投与の視点として、有効成分では治療効果を指標とした薬理作用の延長上の変化から標的器官の特異的変化や非特異的な有害作用により非臨床におけるリスクが一般に推定される。一方、医薬品添加物では、日局による「製剤の投与量において添加物は薬理作用を示さない」から、安全性薬理、体内動態や用途に特異的並びに非特異的な変化におけるリスクが注目される。がん原性・刺激性・免疫原性等への添加物の視点として有効成分とのリスク評価は同様である。
    添加物の安全性に係わる情報源として、化学物質のTOXLINE等のデータベースが助けとなる。その他、添加物に注力した成人と小児に係わるユニークな情報がSTEP (Safety and Toxicity of Excipients for Paediatrics) databaseで、本年2月、40品目に達し、臨床、非臨床、in vitro、規制等の情報、Reviewの5項目に収載されている。
シンポジウム6 次世代研究セミナー:新規アプローチによる毒性発現機序解明とバイオマーカー探索
  • 武田 知起, 小宮 由季子, 服部 友紀子, 山田 英之
    セッションID: S6-1
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/08/08
    会議録・要旨集 フリー
     ダイオキシンは、現在も環境中に分布する汚染物質であり、生体に対する強毒性作用からヒトを含む生態系への悪影響が懸念されている。この毒性発現には、受容体型転写因子である芳香族炭化水素受容体を介した遺伝子発現変動が重要であると考えられている。しかし、変動遺伝子は数百種類にものぼるため、多種多様な毒性の全てを明確に説明できる分子機構は未だ殆ど理解されていない。我々は、上記の問題解決のための新たな試みとして、近年様々な研究分野において注目されているメタボロミクスに基づく研究を実施している。すなわち、遺伝子変動に伴い恒常性を維持する代謝反応が撹乱され、結果として生じる栄養成分の異常状態が障害の最終要因となるとの仮説を立て、ダイオキシンによる生体成分 (メタボローム) の変動と毒性の関連を見出すことを目指している。本講演では、これらの取り組みによって明らかにしてきた成果の一端を紹介する。
     最強毒性ダイオキシンである 2,3,7,8-tetrachlorodibenzo-p-dioxin (TCDD) をラットに経口投与したのち、組織/体液中のメタボローム変動を解析した。肝メタボローム解析の結果、TCDD 依存的に leukotriene B4 (LTB4) が増加する事実を見出した。LTB4 は、強力な好中球活性化作用を通して炎症反応に関与し、その集積は組織障害の原因となりうる。更なる解析により、TCDD は LTB4 合成亢進によってこれを蓄積し、好中球浸潤ならびに炎症反応促進を通して肝障害を発現/悪化させるとの新規機構が明らかになった。さらに、排泄物のメタボロミクスにより、複数の一次胆汁酸の排泄量の増加が判明し、これが TCDD 依存的な脂質代謝異常に寄与する可能性も見出した。現在、ダイオキシン妊娠期曝露による次世代障害に対しても研究を展開しており、副腎ステロイドであるコルチコステロンの減少が一定の寄与を有することも見出しつつある。このように、メタボロミクスを基軸とする展開は、様々な場面における生体変化を組織や細胞単位で推定可能であり、障害マーカーの探索や機構解明のためのツールの一つとして有用であると考えられる。
  • 熊本 隆之, 押尾 茂
    セッションID: S6-2
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/08/08
    会議録・要旨集 フリー
    X染色体不活性化は胎児期の雌(XX)の X染色体の片方を不活性化し、雄(XY)のX染色体に由来する遺伝子発現量と等しくする、ヒトを含む哺乳類共通の現象である。この不活性化はX染色体不活性化因子と呼ばれるXist遺伝子が単独でX染色体上の遺伝子(X連鎖遺伝子)をDNAメチル化、ヒストン修飾のエピジェネティカルな様式で制御し、それを発達後まで維持している。X連鎖遺伝子は数的に多く存在し、特に遺伝性精神遅滞例では変動が高頻度にみられること、また、軸索伸長やスパイン形成など神経発達に関する遺伝子が集中的に存在していることが知られている。X連鎖遺伝子は他にも精原細胞に特異的な遺伝子を数多く含み雄性生殖発達に関わっていること、免疫機能や代謝機能に根源的な遺伝子を数多く含んでいることが示されている。
    これまでに我々は妊娠マウスへのディーゼル排ガスやビスフェノールAの曝露によってXist遺伝子やそのアンチセンスであるTsix遺伝子発現が影響を受けることを報告している。特にビスフェノールA胎仔期曝露では神経発達に重要であり、かつ精神遅滞や自閉症の原因となるX連鎖遺伝子群(Fmr1、Gdi1、Nlgn3、Ophn1、Pak3)の発現を総じて減少させ、X染色体不活性化が毒性機序の一因となりうることを報告している(Kumamoto et al., J Tox Sci 38(2), 2013/ Kumamoto and Oshio, J Tox Sci 38(3), 2013)。さらに、妊娠期ベンゾ[a]ピレン曝露によっても脳および精巣でXist、Tsix、X連鎖性遺伝子の発現が変動することを示し(第42回日本毒性学会)、妊娠期の低葉酸飼育においても脳、精巣での変動に加え、部分的ではあるが免疫機能の発達に重要な遺伝子群が変動することを見出している。
    以上より、X染色体不活性化は胎生期化学物質曝露の新たな毒性機序となりうること、また、数種類の化学物質曝露によるXistおよびTsixとX連鎖遺伝子群の発現変動の方向性が概ね一致していたことから、XistとTsixが胎生期環境の出生後影響のバイオマーカーとして有用となりうる可能性が示唆される。
  • 長谷川 洵, 齊藤 隆太, 木野 一郎, 鳥本 奈緒, 清水 俊敦
    セッションID: S6-3
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/08/08
    会議録・要旨集 フリー
    医薬品開発において,ヒトでの副作用リスク把握のために非臨床段階で動物や培養細胞を用いた種々の試験が実施されているが,ヒトでの薬物性肝障害(Drug-Induced Liver Injury, DILI),特に特異体質性薬物性肝障害(idiosyncratic DILI)を検出することは困難である.その理由としては,患者の疾患や遺伝的背景などの個人差が肝毒性発現に深く関わっている一方で,医薬品研究開発の早期に実施される試験ではヒトの個人差を十分に考慮できていないことが挙げられる.
    このような課題に対して,近年ではシミュレーションモデルを活用し,コンピューター上に作成したバーチャルなヒト集団に対する薬剤の影響を予測することでヒトでの副作用リスクを評価する手法が注目されている.特に,肝毒性評価はDILI-sim Initiativeコンソーシアムにおいてヒトやモデル動物での肝障害を定量的に予測するシミュレーションモデル(DILIsym®)がFDAと連携して開発されている.我々も2012年から本コンソーシアムに参画し,DILIsym®のモデル開発に携わっている.
    DILIsym®はモデル内に構築された患者集団に対する薬剤の肝毒性ポテンシャルを予測可能である.さらに肝毒性に至った患者に特徴的なパラメータを抽出することで,肝毒性の原因となり得る個人差を推定可能である.従って,従来の評価法では困難であった患者の個人差解析に有用なアプローチであると考えられる.また,DILIsym®は肝毒性に関わるin vitro試験の結果に基づいたメカニズムベースのモデリングが可能であり,それぞれの毒性発現機序が肝毒性に及ぼす影響を定量的に解析できるため,肝毒性発現機序解析にも有用である.本発表では,DILIsym®を用いた肝毒性評価事例について,既知化合物を用いた社内での評価実例も含めて報告する.
  • 鈴木 慶幸, 小松 弘幸, 門田 利人, 菅谷 健, 秋江 靖樹, 三嶽 秋久
    セッションID: S6-4
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/08/08
    会議録・要旨集 フリー
    腎障害は医薬品開発において最も懸念される副作用の1つである.腎機能検査として血中尿素窒素(BUN)及び血清クレアチニンが汎用されているが感度と特異性の問題が挙げられる.より早期に腎障害を検出できるバイオマーカー(BM)が求められている中,非臨床及び臨床において腎障害を早期に検出する複数の新規尿中BMが報告されている.非臨床ではPSTC(安全性予測試験コンソーシアム)から7つ(総タンパク,β2-マイクログロブリン,シスタチンC,Kim-1,アルブミン,クラスタリン,TFF3),臨床では世界的な腎臓病学団体であるKDIGO(国際腎臓病予後改善機構)から5つ(L-FABP, Cystatin C, NGAL, Interleukins, Kim-1)の尿中BMが提唱されているが,臨床・非臨床を橋渡しするBMの報告はほとんど無い.これらのBMの中で我々は,本邦発のBMであり欧州でも体外診断薬として認可されているL-FABP(L-type Fatty Acid Binding Protein)に着目して,非臨床安全性試験への応用を検討してきた.L-FABPは,ヒトでは近位尿細管に発現し,組織障害が進行する前段階の腎微小循環障害を反映する虚血・酸化ストレスマーカーである.尿中L-FABPを特異的に検出できる高感度型ELISA法を用いて,我々はこれまでにラット薬剤性腎障害モデルにおいて,尿中L-FABPが明らかな腎組織障害の前から他の血中及び尿中BMよりも早期にかつ感度よく上昇し,休薬期間後の腎組織再生にともない正常範囲に回復することを明らかにした.本発表では,これまでに得られたげっ歯類(ラット)の結果と新たに検討した非げっ歯類を用いた腎障害モデルにおける尿中L-FABPと他の新規尿中BMの変動を比較検討した結果を報告し,L-FABPの非臨床安全性試験における有用性について考察する.
シンポジウム7 安全性評価におけるイヌ慢性毒性試験とマウス発がん性試験の有効性
  • 吉田 緑
    セッションID: S7-1
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/08/08
    会議録・要旨集 フリー
    消費者は食物を通じて意図せずに残留農薬にばく露されることから、農薬の使用について厳しい使用基準が設けられている。食品安全委員会はその設置以来、各農薬の一日許容摂取量(ADI)や近年は急性参照用量(ARfD)を設定するためヒト健康影響評価を行い、その審議結果をリスク管理機関に答申するとともに、毒性評価の経緯や判断をまとめた農薬評価書および専門調査会での議事録を公開している。
    地域によって異なる食文化、土壌や天候の影響を受けるばく露評価と異なり、ADIやARfDの設定に用いる毒性試験成績は、地域による影響を受けることは少ない。同じ申請者である場合、毒性評価に使用するために要求する試験の種類は、国により異なっているが、基本となる試験は共通しているため、イヌの毒性試験も含めほぼ同じ毒性試験が提出されることが多い。また、残留農薬の国際リスク評価機関であるJoint FAO/WHO Meeting of Pesticide Residues (JMPR)の毒性評価においても申請者が同じ場合は、各国とほぼ同じ毒性試験セットが提出されている。
    毒性評価基準は各国でガイダンスなどが定められ、それに基づいて評価されているが、科学的には同様な基準であることが多く、国際的に大きな違いがあることは少ないのが現実である。しかし一方近年では、イヌ長期(1年間)試験の必要性について議論となっている。
    本シンポジウムでは、各国のイヌ長期試験の必要性という観点ではなく、国際機関等で評価されてきたイヌ毒性試験からどのような毒性学的な特徴が捉えられ、また基準値にどのぐらい反映されているのか等を紹介し、演者の責としたい。
  • 小野 敦
    セッションID: S7-2
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/08/08
    会議録・要旨集 フリー
    農薬の登録申請においては、毒性に関する試験成績として複数の動物種を用いた様々な毒性試験が要求されている。それらの試験成績は、農薬がその目的に応じて有効かつ安全に使用されるための基準を設定するために使用される。今日、要求されている試験や動物種は、ヒト健康影響を未然に防止するために必要と考えられる評価項目を可能な限り網羅することを念頭に経験的に決められてきたものであるが、実際の評価においては、NOAEL等の評価値算出に用いられる試験はそれらの一部であり、全ての農薬について要求される全ての試験が常に必要であるわけではない。近年、特にイヌ長期(1年間)試験やマウス発がん性試験の必要性について議論となっており、特にイヌ長期試験については欧米の評価機関では提出が必須とはされていない。農薬の安全性評価においては医薬品等と異なりヒト臨床データを用いることが困難である。そのため、動物試験のみの結果から安全性を担保する必要があり、最も感受性の高い動物種や発現する毒性が予め予測出来ない状況において、むやみに試験を削減することにより、ヒト健康被害が起きては本末転倒である。しかし、過去数十年の安全性評価により蓄積されてきた知見をもとに、評価の目的のため必要となる試験選択について科学的な見地から再検討を行う時期に来ているのではないだろうか。本発表では、食品安全委員会より公開されている農薬評価書をもとに、イヌ長期毒性試験もしくはマウス発がん性試験を根拠として1日摂取許容量(ADI)設定が行われた農薬について、それらの試験結果が得られなかった場合のADI設定への影響についての解析結果やそれらの農薬についてのJMPR等海外評価機関における評価状況をもとに、それらの試験の必要性や省略の可能性について議論を行う。
  • 松本 清司, 山浦 洵, 齋藤 さとみ, 吉沢 隆浩
    セッションID: S7-3
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/08/08
    会議録・要旨集 フリー
    日本における農薬の毒性評価は、農薬テストガイドラインに従って行われた試験成績を用いて行われており、リスク管理上重要な一日許容摂取量(ADI)や急性参照用量(ARfD)が設定されている。特にADI設定では長期毒性試験の無毒性量(NOAEL)が根拠となる場合が多い。この長期試験にはガイドラインにより、イヌ(非げっ歯類)とラット(げっ歯類)が主に用いられている。一方、最近欧米ではイヌ長期試験は必ずしも要求されていない状況にある。今回、演者らは農薬の毒性評価においてイヌを用いる試験が果たす役割、特にイヌ長期試験の必要性を明らかにする目的で、食品安全委員会が公表している農薬評価書を詳細に調査検討したので、その結果について報告する。なお、本報で調査対象にしたのは286剤の農薬(平成27年現在)である。
    イヌ試験がADIの設定根拠となった農薬は93剤あり、全体のほぼ1/3を占めていた。これらの農薬について、イヌの長期および亜急性(90日)試験における各NOAELとLOAELの値を調べたところ、1)イヌ以外の動物種でも同じNOAELが得られている、2)イヌ長期と亜急性のNOAELが同程度、3)イヌ長期と亜急性のLOAELが同程度と判断される農薬が合計35剤あった。更に、イヌ試験のNOAEL又はLOAELの比が2倍以内で、その差が小さいと判断される農薬が認められた。また、ラットの慢性試験についても同様にNOAELとLOAELを調べてイヌと比較したところ、イヌとラットのNOAEL又はLOAELの比がそれぞれ2倍以内のものが散見され、これらの合計は29剤であった。現在、イヌ試験におけるNOAEL等がラットの1/2未満であった残る29剤の農薬について、毒性所見などを検討中である。イヌ試験における用量設定、匹数などの試験系およびイヌの生物学的特徴等を考慮しながら、農薬の安全性評価におけるイヌ長期毒性試験の必要性について総合的に考えてみたい。
  • 森田 健
    セッションID: S7-4
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/08/08
    会議録・要旨集 フリー
    近年、化学物質の発がん性評価におけるマウス試験の必要性が活発に議論されている。すでに、マウス試験は医薬品においては必須とはなっていない。そこで、農薬の発がん性を検出するために、ラット試験に加えてマウス試験を実施する必要性を検証した。食品安全委員会の既公開農薬評価書(281評価書286剤、2015年4月時点)を用い、発がん性データの有無、その陰性/陽性ならびに腫瘍の種類等をラットとマウスで比較した。さらに、発がん機序等に基づくヒトへの関連性ならびにADI設定根拠試験の該当性を調べた。275剤についてラット・マウス共に発がん性試験結果が得られており、うち161剤および32剤は両動物種ともそれぞれ陰性および陽性を示し、33剤はマウスでのみ、49剤はラットでのみ陽性であった。すなわち、65剤がマウスで陽性となり、それらの検出の意義を評価した。マウスでのみ発がん性を示した33剤中9剤(3.3%、9/275)は、ヒトへの関連性を否定できなかった。この33剤(内、当該9剤)の発がん臓器の内訳は、肝が27剤(7剤)、肺が3剤(1剤)および血管、小腸/肝/肺、膀胱が各1剤(0、1、0剤)であった。また、マウス試験がADI設定根拠となったものは、この33剤中の4剤ならびにラット・マウス両種で発がん性を認めた32剤中4剤の計8剤(2.9%、8/275)であった。しかし、いずれも発がん性LOAELよりも毒性LOAELが低く、腫瘍発現に基づくADI設定は認められなかった。以上の結果は、マウス発がん性試験のヒトへの意味のある発がん性の検出およびADI設定における寄与はわずかであり、その有用性は高いものではないことを示唆している。これらの知見をもとに、農薬評価におけるマウス発がん性試験の必要性を議論したい。
  • 井上 薫
    セッションID: S7-5
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/08/08
    会議録・要旨集 フリー
    げっ歯類の発がん性試験は、マウス、ラットともに農薬の発がん性評価に必要な試験とされてきた。げっ歯類に誘発された腫瘍とその発がん機序のヒトへの外挿性を検証することは、発がん性試験の実施意義を検討するために非常に有用である。そこで、本発表では、食品安全委員会の既公開農薬評価書(281評価書286剤、2015年4月時点)からマウスを用いた発がん性試験で腫瘍の発生が認められた農薬について、発生した腫瘍の種類、発生頻度、発がん用量、発がん臓器・組織で認められた毒性所見、機序試験における所見等をもとに、ヒトへの外挿性の有無を検討した。
    ヒトへの外挿性の有無は、以下の基準で判断した。
    1.「ヒトへの外挿性なし」とする判断基準:①機序試験でPB様の薬物代謝酵素誘導が認められた場合、②機序試験でPPARαの活性化が示唆された場合、③認められた腫瘍がマウスの自然発生腫瘍であり、対照群にも認められ、投与群でも統計学的に有意に増加したが、その増加程度が小さく、生物学妥当性が示されなかった場合、④マウスの自然発生腫瘍の発生が投与により増加し、機序試験で明らかにマウス特異的であると判断された場合、⑤1000 mg/kg/dayを超える非常に高い用量のみで腫瘍の発生が認められた場合
    2.「ヒトに外挿される可能性あり」とする判断基準:①機序試験が実施されていない場合/機序不明の場合、②マウス自然発生腫瘍以外の腫瘍が発生した場合、③細胞障害性など発がん機序のkey eventと考えられる所見が、短期及び発がん性試験で腫瘍発生臓器に認められた場合、④マウス自然発生腫瘍の統計学的有意な増加が認められたが、増加の機序が不明でマウス発がんLOAELとADI根拠となったNOAELとの比が50倍以内であった場合。本発表では、上記条件による解析結果を示し、ヒトに外挿される発がん性検出のためのマウス発がん性試験の有用性について議論したい。
シンポジウム8 メチル水銀毒性研究の最前線
  • 坂本 峰至
    セッションID: S8-1
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/08/08
    会議録・要旨集 フリー
     メチル水銀は中枢神経毒性を有し、特にヒトでは胎児の発達期脳の感受性が高いことが知られている。一方、セレンは必須微量元素であり水銀との結合性が高く、海洋哺乳類の組織には共に高濃度で存在することから、その役割が注目されてきた。加えて、1970年代にセレンが水銀化合物の毒性発現抑制効果を持つことも知られるようになり多くの研究が行われてきた。しかし、無機水銀と異なり、メチル水銀の毒性に対するセレンの防御効果とそのメカニズムについては諸説あり十分には解明さていない。今回は、セレンは本当にメチル水銀の脳での神経細胞傷害作用を防御することが出来るのか? 鯨肉を食べる風習を持つ住民の血液中水銀とセレンの関連は? 歯クジラはどうしてメチル水銀中毒にならないのか? また、歯クジラ肉を食べることのヒトへのリスクは? というメチル水銀とセレンに関するいくつかの疑問について、最近の研究成果を紹介し検討を加える。
    【ラット発達期大脳における神経細胞変性メカニズム並びにセレノメチオニンによる防御】 ヒトの脳発達のピークは出産前の3ヶ月間で、脳のメチル水銀に対する感受性もその時期が最も高いとされている。一方、ラットの脳の発達ピークは出生後であり、胎児期ではなく新生仔期のラットにメチル水銀を投与することによって、ヒト胎児性水俣病で見られたような影響が観察できると期待される。そこで、我々はラット新生仔を用い、メチル水銀による特異的神経症状と大脳皮質における神経細胞死のメカニズムの検討を行なった。更に、メチル水銀によって引き起こされる発達期の大脳皮質での神経変性を、自然界に存在するセレノメチオニンが防御した成果について紹介する。
    【ヒトにおけるメチル水銀とセレンの共存について】 ヒトはメチル水銀とセレンを主に魚介類摂取によって取り込み、ヒト血液における水銀とセレンの共存が注目されている。一般住民及び歯クジラ類を摂食する集団における血液中の水銀とセレンの関係を紹介する。
    【歯クジラにおける水銀の化学形態別分析とセレンの共存について】 海洋ほ乳類や一部鳥類はメチル水銀を無機化し、臓器、特に肝臓に高い濃度で不活性なセレン化水銀を蓄積し、メチル水銀の解毒能を有しているのではないかと考えられている。一方、筋肉や脳ではメチル水銀化はそれほど起こらないと考えられている。今回は、多数例の歯クジラ筋肉を用い、筋肉中の水銀の化学形態別分析とセレンとのモル比に関する検討を行った。更に、X線吸収微細構造分析、電子プローブ・マイクロ分析による水銀・セレン化合物の構造分析を行った結果を紹介する。
  • 鍜冶 利幸
    セッションID: S8-2
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/08/08
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    水俣病の病理において未解決となっている病理学上の主要問題は以下の2つであると思われる。第一は,大脳組織の病変部位の局在性である。成人における大脳組織の傷害は,大脳皮質の中心溝,外側溝および視覚野が存在する後頭葉の鳥距溝など深い脳溝周辺の組織に限局しており,傷害部位に依存して感覚障害,聴力障害,視野狭窄など特徴的な神経症状が観察される。このメチル水銀による部位特異的な大脳傷害の発生のメカニズムとしては衛藤らにより提唱された「浮腫仮説」が有力である。この仮説においては,大脳におけるメチル水銀の毒性発現の特異性は,初期病変として脳溝深部に形成された浮腫により招来された組織の循環障害により,メチル水銀による神経細胞の傷害が増長された結果であると説明される。第二は,小脳において,小脳性運動失調の原因となる顆粒細胞層の特異的傷害が発生するメカニズムである。小脳においてもメチル水銀中毒初期に大脳と同じく浮腫形成が認められるが,顆粒細胞層特異的な病変形成を「浮腫仮説」で十分に説明することは難しい。我々は炎症性細胞が顆粒細胞層に浸潤し,メチル水銀に刺激されて顆粒細胞に対して毒性を発現するという「炎症仮説」を提唱している。我々は血管毒性の立場から「浮腫仮説」および「炎症仮説」の分子的基盤を研究してきた。その結果,この2つの仮説には確かに分子的基盤が存在することが分かってきた。すなわち,メチル水銀は,脳微小血管内皮細胞,周皮細胞,マクロファージ,細胞傷害性T-リンパ球などに作用して「浮腫仮説」および「炎症仮説」を構成する機能異常を惹起するが,それを介在する細胞内シグナリングにおいてPTP1BおよびKeap1がメチル水銀のセンサータンパク質として重要な役割を果たしていることを示唆する結果を得た。本シンポジウムでは,その詳細を提示し,議論する。
  • 小泉 修一, 篠崎 陽一
    セッションID: S8-3
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/08/08
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    グリア細胞は、多彩な脳機能を制御している。従って、その破綻は脳機能に大きな影響を与える。種々の脳疾患、外傷、精神疾患、さらに各種神経変性疾患等では、先ずグリア細胞の性質が変化し、これがこれら疾患の直接の病因になり得ること、さらに疾患の慢性化、難治化に関与していることが報告され、注目を集めている。このように、脳の生理・病態生理機能と密接に関係するグリア細胞であるが、中枢に移行する種々の医薬品、化学物質、環境汚染物質等がグリア細胞に与える影響についてはほとんど知られていない。本研究では、ミクログリアが、メチル水銀(MeHg)誘発神経毒性を二方向性に制御していることを報告する。ミクログリアは、脳内環境の高感度センサーとして機能しており、低濃度MeHg(~0.1 µM)に曝露された際に、先ずミクログリアが感知・応答して様々なシグナルカスケードを活性化した。大脳皮質スライス培養標本にMeHgを添加すると、曝露初期にはミクログリアは神経保護作用を呈するが、慢性期にはむしろ神経障害作用を呈した。曝露初期の応答は(1)VNUT依存的なATP開講放出、(2)ATP/P2Y1受容体を介したMeHg情報のアストロサイトへの伝達、(3)アストロサイト性神経保護分子(IL-6、adenosine等)産生、による神経保護作用であった。慢性期は、(4)ミクログリアの炎症型フェノタイプへの変化、(5)ミクログリアのROCK活性化、(6) 炎症性サイトカイン産生・放出、による神経障害作用であった。慢性期の神経障害はこのミクログリアの応答依存的であった。最近、水俣病の慢性期の神経症状緩和に、ROCK阻害薬が有効である可能性が示唆され注目を集めている。ROCKを含むミクログリアの持続的活性化が、MeHg誘発性神経障害の分子病態と強くリンクしていること、またその制御が治療に有効である可能性についても考察する。
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