理学療法学Supplement
Vol.36 Suppl. No.2 (第44回日本理学療法学術大会 抄録集)
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理学療法基礎系
  • 長瀬 雅史, 生田 旭洋, 植松 大喜, 大橋 和也, 大野 善隆, 後藤 勝正
    セッションID: P2-103
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/04/25
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】骨格筋量はタンパク質の合成および分解の動的バランスにより変化する.例えば、トレーニングなど筋肥大を引き起こすような刺激が負荷されると、タンパク質の合成が分解に比して増加する.逆に、骨格筋への荷重除去や不活動などは筋萎縮を招くが、この時はタンパク質の分解が合成より相対的に増加すると考えられる.骨格筋への荷重の増大は筋タンパク合成を刺激し、筋肥大を誘発する.荷重の受容には骨格筋細胞の構造が重要であると考えられるが、その分子機構は明らかでない.荷重の受容に骨格筋細胞の構造が重要ならば、損傷した骨格筋は荷重の増大を受容できないと考えられる.そこで本研究では、骨格筋損傷モデルを用いて、損傷骨格筋に対する荷重の増大の影響を検討した.
    【方法】すべての実験は豊橋創造大学が定める動物実験規定に基づき,豊橋創造大学生命倫理委員会の審査・承認を経て実施された.実験にはC57BL/6Jマウス(雄性、7週齢、90匹)を用い、コントロール群(n=30)、筋損傷群(I群、n=24)、荷重を増大させる群(L群、n=18)および筋損傷と荷重増大を組み合わせた群(IL群、n=18)に分類した.骨格筋損傷は、0.1 mLのcardiotoxin(CTX)をヒラメ筋に筋注することにより惹起した.CTX筋注直後に、共同筋である腓腹筋腱ならびに足底筋腱を切除することでヒラメ筋への荷重を増大させた(共同筋腱切除による機能的過負荷).処置後、2、4および8週間後にヒラメ筋を摘出し、筋湿重量、筋乾燥重量、筋水分量、筋タンパク量、筋衛星細胞数ならびに病理学的な評価を行った.
    【結果】機能的過負荷は、筋湿重量、筋タンパク量ならびに筋線維断面積を増大させた(p<0.05).CTX筋注により筋タンパク量は低下し(p<0.05)、その後徐々に回復した.CTX筋注による筋損傷からの回復過程に機能的過負荷の効果は認められなかった.
    【考察】本研究の結果から、筋損傷により筋肥大を引き起こす刺激である荷重を負荷しても、筋肥大は誘発されないことが確認された.したがって、荷重の増大による骨格筋肥大は、骨格筋細胞自身に内在する荷重受容機構が重要であることが示唆された.
    【まとめ】損傷した骨格筋に対する荷重の増大は、トレーニング効果をもたらさないことが示唆された.
    本研究の一部は、文部省科学研究費(若手B, 19700451; 基盤B, 20300218; 基盤A, 18200042)、花王健康科学研究会助成金ならびに(財)日本宇宙フォーラムが推進している「宇宙環境利用に関する地上公募研究」プロジェクトの助成を受けて実施された.
  • 大橋 和也, 植松 大喜, 藤谷 博人, 大野 善隆, 後藤 勝正
    セッションID: P2-104
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/04/25
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    【目的】近年、スポーツ現場において筋損傷や筋疲労の回復を促すために「マイクロカレント療法Microcurrent electrical neuromuscular stimulation(以下、MENS)」が行われている.しかし、MENSが損傷骨格筋の再生過程や疲労した骨格筋細胞にどのような影響をもたらすかについての基礎的研究は行われておらず、その分子機構は不明である.MENSが損傷骨格筋の再生を促進する分子機構が明らかになれば、様々な疾患や怪我などで低下した骨格筋機能の回復にMENSが有効である科学的裏付けとなる.そこで本研究では、MENSが損傷骨格筋の再生過程に及ぼす影響について筋損傷モデルを用いて組織学的に評価・検討することを目的とした.
    【方法】実験対象には生後7週齢の雄性マウス(C57BL/6J)を用いた.マウスを対照(C)群、筋損傷(CX)群と筋損傷+MENS刺激(MX)群の3群に分類した.筋損傷モデルはCXおよびMX群のマウスの前脛骨筋(TA)にカルディオトキシン(cardiotoxin:CTX)を筋注して作成した.MX群のマウスのTAには、CTX筋注後にMENS(伊藤超短波社製トリオ300)を3週間行った.CTX筋注後、1、2および3週間後にTAを摘出し、連続凍結切片を作成した.凍結切片に対してHE染色を施し、筋線維断面積および中心核線維数の計測、ならびに病理学的評価を行った.また、抗Pax7抗体ならびに抗ラミニン抗体による免疫組織化学染色を施し、筋衛星細胞数の評価を行った.
    【結果】CTX筋注により、単核の貪食細胞などの浸潤が観察された後、中心核を有する再生筋線維が出現した.回復が進行するとともに筋線維断面積が増大し、中心核線維の割合は徐々に減少した.CTX筋注後の回復過程における筋線維断面積は、MENSにより増加する傾向を示した.また、MENSは中心核線維の割合の減少を促進した(p<0.05).また、MENSは筋衛星細胞数を有意に増加させた(p<0.05).
    【考察】MENSにより、筋衛星細胞が増加し、中心核線維の減少が促進した.したがって、MENSは筋衛星細胞を活性化し、筋損傷からの回復を促すことが示唆された.
    【まとめ】MENSは、骨格筋再生能を活性化させることで損傷骨格筋の回復を促すことが示唆された.今後、スポーツ現場はもちろん、リハビリテーションにおいてもMENSが物理療法の有効な一手段となる可能性が考えられた.
    本研究の一部は、文部省科学研究費(若手B, 19700451; 基盤B, 20300218; 基盤A, 18200042)ならびに花王健康科学研究会助成金の助成を受けて実施された.
  • 馬部 啓子, 藤原 義久, 荒川 高光, 三木 明徳
    セッションID: P2-105
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/04/25
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    【目的】
    非荷重や不動という不活動では骨格筋が萎縮するとともに筋線維タイプの速筋化が起こる(山内ら, 2002).磁気刺激は、不快感をほとんど与えずに、深部まで刺激を与えることができる.我々の研究において、磁気刺激が不活動の骨格筋に対し筋萎縮や速筋化を抑制する可能性を示してきた(藤原ら, 2007).しかし、磁気刺激による筋萎縮や遅筋線維の速筋化の抑制が、筋そのものに対する磁気刺激の影響か否かは、未だ明らかではない.一方、骨格筋は末梢神経損傷でも萎縮するが、末梢神経損傷により萎縮した除神経筋に対して、磁気刺激がどのような影響を与えるのかも明らかではない.よって、除神経モデルラットに磁気刺激を施し、その影響を筋萎縮の程度とミオシン重鎖(以下HC)アイソフォームの変化を調べることにより検討した.
    【材料と方法】
    Wister系雄ラット3匹(8週齢)を用いた.動物を無処置対象群(C群)、除神経群(D群)、除神経後2週間、磁気刺激を加えた群(D-M群)に分けた.D群とD-M群では、右大腿部中央で坐骨神経を露出し、坐骨神経を5mm切除した.D-M群には磁気刺激装置(Magstim200,ミユキ技研)を用いて、最大出力の40%、刺激間隔2秒の磁気刺激を下腿の筋腹に1日40分間与え、2週間継続した.実験期間終了後、ヒラメ筋と足底筋を摘出し、筋湿重量を測定し、相対重量比を算出した.そしてSDS-PAGE法により、ヒラメ筋と足底筋のHCをHC I 、IIa、IIx、IIbに分離し、銀染色を行い、Image Jを用いて、HCアイソフォームの発現比率を調べた.全ての実験は、神戸大学における動物実験に関する指針に従って実施した.
    【結果】
    ヒラメ筋と足底筋ともに、D群とD-M群の筋湿重量および相対重量比は、C群に比べて減少し、D群とD-M群間には差が見られなかった.HCアイソフォームの発現を見ると、ヒラメ筋では速筋化によって発現するHC IIxの比率がD群よりD-M群で高値を示し、HC IはD群の方が高値を示した.足底筋では、D-M群のHC Iiaは他の2群より著しく高く、HC IIxは、C群で他の2群より高値を示し、HC IIbは、D群で他の2群より高値を示した.
    【考察】
    今回の実験では、D群とD-M群の筋湿重量および相対重量比がほぼ同じであったことから、除神経筋に対して磁気刺激は筋重量に影響を及ぼさないことが示された.HCアイソフォームの発現では、ヒラメ筋では磁気刺激を行うと速筋化が進み、足底筋では磁気刺激により速筋化が抑制された.先行研究で尾部懸垂のヒラメ筋では磁気刺激によりHC IIb発現が抑制されたと報告され、速筋化を抑制できていた(藤原ら,2007).従って、今回のヒラメ筋の結果は、非荷重だけでなく、神経支配の有無も筋の速筋化に対して、何らかの影響を及ぼしている可能性が示唆された.
  • 岩田 全広, 坂野 裕洋, 鳥橋 茂子, 井上 貴行, 矢田 絵理奈, 松尾 真吾, 鈴木 重行
    セッションID: P2-106
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/04/25
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    【目的】筋萎縮とは,筋線維径が細くなり筋重量が低下するなどの現象であり,その発生機序としては,初期の段階でタンパク質合成が低下し,その後,分解が亢進することによって起こると考えられている.筋萎縮は,安静・臥床やギプス・装具などによる関節固定などに伴って進行し,患者の ADL や QOL を低下させることから,これを抑制する方法を確立することは重要な医学的課題の一つである.筋萎縮の進行抑制に運動負荷が有効であることは広く知られているが,運動負荷以外の方法では温熱刺激が有効である可能性が示唆されている.先行研究によって,動物実験ではあるが,温熱刺激が不活動化に伴う遅筋線維の萎縮を抑制する(Naito H, et al., 2000.)ことや,培養細胞実験においては,温熱刺激が糖質コルチコイド誘導性のタンパク質分解亢進を抑制する(Luo G, et al., 2001.)ことが報告されている.しかし,温熱刺激がどのような細胞内メカニズムを介して筋萎縮の進行を抑制するのかは未だ明らかでない.そこで本研究では,細胞内メカニズムを探る手始めとして,培養骨格筋細胞に温熱刺激を負荷し,その筋萎縮の進行抑制効果について形態学的に検討した.

    【方法】実験材料には,マウス骨格筋由来の筋芽細胞株(C2C12)を用いた.温熱刺激は,I 型コラーゲンをコートした細胞培養皿に筋芽細胞を播種し,筋管細胞に分化誘導後,41 °C,60 分の条件で負荷した(H 群).筋萎縮は,合成副腎皮質ホルモン:デキサメタゾン(10μM)を培地に添加することで誘導した群(Dex 群)と,温熱刺激負荷から 6 時間後にデキサメタゾンを培地に添加した群(H+Dex 群)を設けた.対照群は,同じ期間に刺激を加えず通常培養した細胞とした.筋萎縮の評価は,デキサメタゾン添加から 24 時間後にギムザ染色を行い,PC 上で 1 本の筋管細胞につき 50μm等間隔で計 3 ヵ所の横径を測定し,その平均値(mean±SD)を採用した.

    【結果】Dex 群の筋管細胞の横径(12.3±4.0μm,n=73)は,対照群(16.3±4.1μm,n=69)に比べ有意に減少したが,H+Dex 群(16.0±4.0μm,n=71)ではその減少が有意に抑制された.また,H 群の筋管細胞の横径(17.7±4.1μm,n=72)は,対照群に比べ有意差は認められなかった.

    【考察】今回の結果から,培地へのデキサメタゾン添加により筋管細胞の横径が細くなる筋萎縮様の現象が観察され,その萎縮様変化は温熱刺激の負荷により抑制できることが確認できた.今後は,本実験モデルを用いて温熱刺激による筋萎縮の進行抑制に関わる細胞内メカニズムを解明していき,筋萎縮の予防や回復促進を目的とした科学的根拠に基づく治療方法の確立に繋げたい.
  • 高木 領, 藤田 直人, 宮本 満, 荒川 高光, 三木 明徳
    セッションID: P2-107
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/04/25
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    【目的】寒冷刺激が筋損傷後の修復や再生に与える影響には、修復過程が促進させるという報告(Triciaら, 2004)と筋再生が遅延するという報告(田島ら, 2003)が対立しているのが現状であり、統一した見解となっていない.また、マクロファージは貪食細胞として筋修復に関わるだけではなく、その後の筋再生そのものにも影響を与えるという(M.Cantiniら, 2002).よってわれわれは、筋損傷後の寒冷刺激が筋再生に及ぼす影響を、マクロファージを経時的に追跡することで、形態学的に検討することとした.
    【方法】8週齢のWistar系雄ラット(平均体重190±10g) 22匹を用いた.ペントバルビタール麻酔下で左長指伸筋を露出し、500g重錘を付けたコッヘルで30秒間の圧挫滅によって筋損傷を与え、後に皮膚を縫合した.その後動物を寒冷刺激を実施する寒冷群と実施しない非寒冷群に分け、寒冷群の動物には圧挫滅5分後から20分間、筋損傷部にクラッシュアイスパックを当てた.両群共に、圧挫滅から6, 12時間, 1, 2, 3, 4, 5, 6, 7, 14, 28日後にそれぞれ1匹ずつ屠殺し、左長指伸筋を採取し、約8μmの凍結切片を作製した.切片はH-E染色の他、一次抗体にED1を用いた免疫染色によりマクロファージを可視化し、光学顕微鏡で観察した.損傷筋線維周辺のマクロファージ数をカウントし、寒冷群と非寒冷群で比較した.筋線維横断面積の比較も行った.全ての実験は、神戸大学における動物実験に関する指針に従って実施した.
    【結果】両群共に、マクロファージの数は二峰性のピークを有し、それぞれ非寒冷群で2, 5日後、寒冷群で3, 6日後にピークがあり、寒冷群はマクロファージの集積や浸潤が1日程度遅延していた.非寒冷群では1回目のピークの方が大きいのに対し、寒冷群は2回目の方が大きかった.また、筋損傷後28日における筋線維の面積は、寒冷群(427. 22±249. 41μm²)は非寒冷群(849. 94±197. 62μm²)に比べて小さかった.
    【考察】今回の結果より、寒冷刺激はマクロファージの浸潤による変性組織の処理及び筋再生を抑制かつ遅延させると考えられた.本実験は、先行研究(田島ら, 2003)と比較し、寒冷刺激時間が短いが、同様の結果となった.アイスパックによる寒冷刺激は、筋内温度を20分で約14. 9- 20. 0°C低下させるという報告(田島ら,2003)がある.すなわち、筋内温度を下げてしまうほどの過度の寒冷は、筋再生に対しては有害である可能性が考えられる.
    【まとめ】筋再生に有効な寒冷療法を行うためには、過度の寒冷を避ける必要がある.
  • 森山 英樹, 金村 尚彦, 白崎 芳夫, 今北 英高, 坂 ゆかり, 武本 秀徳, 高栁 清美, 五味 敏昭, 林 弘之, 飛 ...
    セッションID: P2-108
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/04/25
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    【目的】加齢に伴い,関節には多くの形態的ならびに機能的な退行変性が生じる.そのうち関節包内の変化は,組織学的・生化学的に検討されてきた.一方,加齢に伴い,関節は硬くなるといわれているが,硬さの原因となる関節包内の組織の力学的特性は,これまで明らかになっていない.本研究では,関節包内の組織の加齢に伴う力学特性の変化を検討することを目的とし,動的粘弾性と静的な強度を分析した.さらに,関節包内の組織における力学特性の加齢変化に対する運動の影響についても検討した.
    【方法】本実験は,大学倫理委員会の承認を受けて行った.2年齢のWistar系雄性ラット13匹を使用した.うち9匹のラットに,週5回の運動を1ヶ月間行わせた.ラット用トレッドミルによる毎分11.8 mの走行運動,または自家作製した外乱刺激装置(傾斜角± 7º,振盪回旋数25 rpm)によるバランス運動のいずれかを1時間行わせた.また加齢変化を検討するために,10週齢のラット6匹を比較対照群として使用した.関節の動的粘弾性を,硬さの指標である動的スチフネスと,粘弾性効果の指標である動的荷重と変位の位相差により分析した.動的粘弾性測定装置を用いて,関節包では1および5 Hz,関節軟骨では10および30 Hzの周波数で測定した.静的な関節の強度を分析する破断試験では,関節を過伸展する軸方向の力を加えることで生じた荷重-変位曲線により,破断荷重と静的スチフネスを算出した.すべての測定値を中央値と四分位範囲で表し,クラスカル・ウォリス検定とボンフェローニ補正によるマン・ホイットニー検定で分析した.
    【結果】関節包の位相差,動的スチフネス,破断荷重,静的スチフネスのいずれも加齢により変化しておらず,運動の影響も認められなかった(P > 0.05).関節軟骨でも,運動の影響は認められなかったものの(P > 0.05),大腿骨内顆の動的スチフネスが加齢により増加し(P < 0.05),脛骨内顆の位相差が加齢により減少していた(P < 0.05).
    【考察】本研究結果により,加齢に伴う関節の硬さは関節包ではなく,その他の関節構造に起因している可能性が示された.また,関節軟骨は加齢により硬くなるとともに,粘弾性が低下することが明らかとなった.加齢変化に対する運動の影響について,多くの報告がある.これらのほとんどは筋の変化に焦点を当てており,筋に対する運動の有効性は立証されている.しかし,関節包内の組織の変化については明らかになっておらず,むしろ悪影響を及ぼすという報告もある.本研究での力学特性に対する影響は認められなかったが,運動の影響はその負荷量にも依存するため,今後詳細に検討していく必要がある.
  • 田中 正二, 立野 勝彦
    セッションID: P2-109
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/04/25
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    【目的】成熟期の骨格筋衛星細胞は、通常休止した状態で存在しているが、筋線維へ機械的伸長刺激や損傷が加わることで活動を開始する.筋衛星細胞は活動を開始するとMyoDを発現させ、自らの増殖・分化を誘導する.肝細胞増殖因子(HGF)は、筋衛星細胞の細胞膜に存在するHGF受容体(c-Met)に結合することで筋衛星細胞の活動を誘導する因子として報告されている.これまで筋損傷後の回復過程における筋分化遺伝子およびHGF発現量を調査した先行研究は散見されるが、筋収縮後のMyoD、c-Met、HGF mRNA発現量の変化を調査した研究は見当たらない.そこで、運動療法の効果を明らかにすることは、理学療法分野において重要な課題のひとつであることから、今回、電気刺激により筋収縮を惹起し、筋収縮後のMyoD、 c-Met、HGF mRNA発現量の変化を調査した.
    【方法】8週齢雄ラットは無作為に実験群と対照群に分類し、すべてのラット右大腿外側に切開を加え、坐骨神経に刺激電極を設置した.実験群にのみelectronic stimulatorを用いて100Hz、5V、5分間の刺激を一回のみ与えた.1、3、7日後に足底筋を採取し、即座にRNAlatarに浸漬してRNAの安定化を図った.Total RNAはスピンカラムタイプRNA抽出キットを利用して抽出した.その後、Rondom 6 mers primerを用いて逆転写反応を行い、cDNAを合成した.MyoD、HGF、c-Met mRNA発現量は、Real-time PCR法にて定量した.Real-time PCRは遺伝子特異的custom primer pairを用いてインターカレーター法にて行った.リファレンス遺伝子はGlyceraldehyde-3-phosphate dehydrogenase (GAPDH)とした.本研究は金沢大学動物実験委員会承認のもとに実施した.
    【結果】実験群のMyoD mRNA発現量は電気刺激3日後に対照群に対して有意に増加したが、7日後には対照群と同レベルであった.実験群のHGF mRNA発現量は1、3日後とも対照群に対しておよそ2倍に増加していたが、有意差は認められなかった.7日後には、およそ2.5倍に増加し、有意差が認められた.実験群のc-Met mRNA発現量は電気刺激3日後には対照群に対して有意に増加したが、7日後には対照群と同レベルであった.電気刺激後のHGF mRNAの発現ピークは、MyoDおよびc-Met mRNAの発現ピークよりも遅れていた.
    【考察】MyoD mRNAおよびc-Met mRNAを指標とした筋衛星細胞の活動のピークは電気刺激3日後であるが、HGF mRNA発現のピークはそれよりも遅れていた.この結果はHGF mRNA発現量の増加が筋衛星細胞の活動初期に作用していないこと、もしくは、HGFが筋衛星細胞の活動初期に関与していないことを示しているのではなく、HGF発現量の増加が微量でも筋衛星細胞の活動を刺激することや、細胞外マトリックスに存在するHGF proteinが活性型に変化することに関与する可能性が考えられた.HGFとの関連については、今後、詳細な研究が必要である.
  • ―単一筋線維筋電図による運動生理学的検討―
    谷本 正智, 水野 雅康, 塚越 卓, 田村 将良, 磯山 明宏
    セッションID: P2-110
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/04/25
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    【目的】理学療法では,運動の変化を指標にした評価が重要であるとされ,筋電図を用いた運動生理学的所見による評価が実施されている.特に反応時間に関する報告では,高齢者では中枢課程の遷延,外傷や固定による関節の不動化では末梢過程が遅延するとされている.そのうち,特に末梢過程での筋の制御による反応時間遅延が,パフォーマンスの低下を引き起こすことが確認されている.Muscle Fiber Conduction Velocity(以下MFCV)は神経筋接合部に生じた活動電位が筋線維両末端方向に伝播する速さで,筋線維膜の電気的興奮性を反映するものである.MFCVは反応時間に直接的に関与し,筋線維径に相関することから筋線維機能面評価に位置付けられている.しかし表面筋電図での報告が多く,筋線維レベルでの明確なMFCV値の報告は認めていない.そこで本研究では運動生理学的変化の一端を担う末梢過程での評価として,単一筋線維筋電図(Single Fiber Electromyography以下SFEMG)を用いて単一筋線維の反応時間である潜時(以下Latency)と,そこから算出したMFCVの測定,さらに筋線維径を観察することにより,不動に伴う廃用性筋萎縮後の変化,ならびに運動負荷における各々の影響について検討した.

    【方法】8週齢のWistar系雄ラット40匹を無処置の対照群5匹と膝関節を4週間固定した実験群35匹に分けた.さらに実験群は,4週不動直後のD群,通常飼育を4週と8週実施したNS群,持続伸張運動を4週と8週実施したS群,持続伸張運動と持久力運動を4週と8週実施したT群の7群に分けた.各期間終了後,SFEMGによりLatencyの測定とMFCVを算出した.筋線維径は,顕微鏡用デジタルカメラを用いて撮影した.またC群と実験群の比較は,各群の変化率をパーセンテージで表した.なお,今回の実験はオホーツク海病院再生外科研究所動物実験倫理委員会の認証を得て行った.

    【結果】MFCVと筋線維径とは共に,4週間の不動で有意に低下し,また8週後の回復過程では,NS群とS群に比べてT群が有意な向上を認めた.8週後のC群との変化率においては,T群でMFCV101.38%,筋線維径は106.26%であった.

    【考察】先行研究ならびに我々が行った先の研究で,ラット廃用性筋萎縮に対して持久力運動や持続伸張運動を実施した.その結果,8週間の回復過程でMFCVと筋線維径はControl群に比べて80%程度の変化率であった.しかし今回の研究で,不動に伴う廃用性筋萎縮後に,持続伸張運動と持久力運動を併用することにより,LatencyやMFCVさらに筋線維径は共に有意な改善を認め,8週後におけるその変化率はControl群と比較してほぼ同等であった.廃用性筋萎縮後における反応時間や筋出力の改善に,様々な運動刺激の併用によってパフォーマンスの改善が得られることが示唆された.
  • ―速度条件の変化に伴う動作の相違―
    宗形 光, 及川 慎也, 権田 知之, 佐藤 知永, 清水 啓太, 佐藤 洋一郎
    セッションID: P2-111
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/04/25
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    【目的】
    着座動作は食事や机上での作業をする際に行われる動作である.しかし,疲労時や気が緩む時に行う場合は,性急で粗雑になりやすく,転倒のリスクが高くなると考えられる.我々は,動作速度が着座動作の安全性と効率に影響を及ぼすと仮定して,速度条件を設定し,着座動作の特徴を明らかにするため,運動学的検討を行うことを目的とした.
    【方法】
    対象者:健常成人男性20名.運動課題:静止立位から椅子座位になるまでの着座動作,運動速度をfast,normal,slowの3条件とした.動作分析には三次元動作解析装置(Vicon,60Hz)を使用した.赤外線反射マーカーを右側の肩峰,腸骨稜上縁,大転子と上前腸骨棘を結んだ線の大転子より近位1/3,大転子,膝関節外側裂隙,腓骨外果,第5中足骨頭に貼付し,関節角度(体幹,骨盤,股関節,膝関節,足関節),体重心座標(COG),運動時間を算出した.統計処理:二元配置分散分析を行い,事後検定としてTukey検定を用いて多重比較を行った.統計学的有意水準を5%未満とした.
    【結果】
    fastは体重心の軌跡が最短距離(直線)に近づき,体幹・膝関節・足関節の最大屈曲角度は条件内で最も小さくなった.各関節の運動相転移のタイミングは全ての関節に有意差がみられた(p<0.05).slowは体重心の軌跡が下方への移動から後方への移動(動作の二分化)となり,体幹・膝関節・足関節の最大屈曲角度は条件内で最も大きくなった.各関節の運動相転移のタイミングは,股関節以外に有意差がみられず,股関節が他関節より遅くなった.運動速度を変化させると,着座動作は変化した.
    【考察】
    fastは運動時間と体重心の移動距離(最短距離)から,条件内で最も効率が良いと考えられた.slowは体重心の軌跡が二分化することで運動相転移のタイミングが同時になり,各関節の制御を同時に行うことができる.そして,制御を少ない回数で円滑に行うことができるため,fastに比べ安全性が高いと考えられた.しかしながら,fastは体重心が支持基底面から外れるのが運動時間に対して相対的に早く,各関節の運動相転移のタイミングが異なるため,動作制御が難しく安全性に欠ける.slowは体重心の移動距離が長く,関節角度が増大するため,効率が悪くなると考えられた.normalは初期の体重心の軌跡がfastに,運動相転移のタイミングはslowに類似しており,効率と安全性が保たれていると考える.
    【まとめ】
    本研究の結果より,普段行われている着座動作は効率・安全性のバランスが良いということが示唆された.また,今回得られた各関節の角度,体重心の軌跡は,リスク面や効率性を考慮した着座動作を考える上で参考に成り得ると考えた.
  • 渡辺 孝広, 篠澤 毅泰, 辻 哲也
    セッションID: P2-112
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/04/25
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    【目的】
    足底への感覚刺激により立位バランスが改善するという研究や足浴をすることで下肢筋出力が増加したという研究はあるが、歩行速度への影響を検討した研究は少ない.本研究の目的は、足浴と足底刺激が歩行速度に対し、どのような影響を及ぼすかを検討することである.

    【方法】
    対象者は、健常成人10名(男性5名・女性5名、平均年齢27.2±5.6歳)とした.全ての被験者には実験の主旨を紙面及び口頭にて説明し、同意を得た.
    1)足浴のみ、2)足底刺激のみ、3)足浴と足底刺激の組合せ、3条件の刺激について、測定時期を刺激前、刺激直後、10分後、30分後に設定し、10m歩行テストと小型加速度計(株式会社ジースポート社製 簡易姿勢計測センサ)を用いて測定した.1)2)3)のどの刺激を先に実施するかは無作為とし、3条件の測定間隔は24時間以上あけて実施した.被験者は、端座位姿勢にて一側下肢を露出した状態で刺激を加え、3条件の刺激時間を5分間として実施した.足底刺激は、踵から足先まで20回/分のペースで、タオルで足底を擦った.足浴は、温度設定を38°Cに設定し、内外果が隠れる水量で実施した.小型加速度計は、第2仙椎に着衣の上からベルトで固定し、データレコーダに転送されるように設定した上で測定した.測定値は、骨盤の前後方向への加速度の最大値を用いた.統計分析は、10m歩行速度と骨盤の前後方向への加速度について、刺激と測定時期を要因として二元配置分散分析を行い3条件の刺激、及び測定時期の有意差を検討した.有意水準(p)は5%未満とした.

    【結果】
    歩行速度は3条件ともに刺激前に比べて刺激直後に有意に増加し、10分、30分後には徐々に刺激前の速度に戻る傾向を認めた.3条件による有意な差は認めなかったが、1)足浴のみよりも、2)足底刺激のみ、3)足浴と足底刺激の組合せの方が歩行速度の増加が大きい傾向にあった.一方、加速度に関しては、有意な変化を認めなかった.

    【考察】
    本研究では足浴・足底刺激ともに、刺激後に歩行速度の増加を認めた.足底刺激では、足底を擦ることで踵や母指に多く分布している足底の固有受容器が活性化され、足圧情報がより鋭敏に入力されるようになったこと、足浴では温熱作用により筋の粘弾性が向上し、筋が出力し易くなったことが原因と推測された.一方、加速度計は刺激前後の変化を捉えることが出来なかった.今後、パラメータの選定や分析方法などについて詳細に検討していきたい.
  • 一之瀬 巳幸, 田口 直彦, 山口 光國, 黒塚 美文子
    セッションID: P2-113
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/04/25
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    【はじめに】ストレス社会と言われる現代において、香りがもたらす心身への効果が注目され、利用されている.しかし、香りが人体にどのような影響を及ぼすのか、古くから研究が行われてきたものの、客観的・科学的な検証は充分とは言えない.今回我々は、香りが心身にプラス効果を与え、臨床に活用できることを期待し、作業能力・ストレスについて香りの有無で比較検討したので報告する.
    【対象】健常者20名(男性8名、女性12名、平均年齢32.7歳)、本研究の趣旨に賛同していただけた方を対象とした.
    【方法】内田=クレペリン精神作業検査を用いて15分間の作業を5分間の休憩を挟み2回ずつ行い、その作業量と正解率を香り無の群10名と香り有の群10名で比較した.香りは日本人に好まれリラックス効果があると言われているスウィートオレンジ(フィトサンアローム製品)を使用した.芳香方法はディフューザーとコットンに精油を2滴含ませたもので行った.ディフューザーは空気の圧力で精油を小さな微粒子にし、香りを部屋中に広げるアロマ芳香器であり、アロマキャンドルやアロマランプと異なり、熱を加えないため精油成分が変化する心配がない.
    【結果】内田=クレペリン精神作業検査では、香り無群の回答数1回目727.7±249.3、正解率99.4±0.80%、2回目823.9±272.1、正解率99.3±0.68%、香り有群の回答数1回目797.5±153.3、正解率99.6±0.48%、2回目879.5±167.8、正解率99.8±0.19%であり、香り無群と香り有群の1回目・2回目の回答数と正解率に有意な差を認めた(P>0.05).
    【考察】内田=クレペリン精神作業検査の加算作業の作業量からわかる能力とは、何が出来るか出来ないかなど具体的な能力ではなく、物事を学習したり処理したりする基本的能力のことをいい、日常の学習や動作・行動のテンポやスピードの高低と深い関連があると言われている.この検査の被験者は、単調な思考回転を長時間持続することが求められるため、著しい負担とストレスを受けることになるが、今回、香り無群と香り有群で比較し有意な差を認めた.今回の結果から、香りが身体作業に効果をもたらせているものと推察できる.医療現場に身をおくクライアントは、大なり小なり心身のストレスを抱え、その対応も、臨床上非常に重要となることが多い.今回の結果は、好ましい香りが心身にプラス効果を与え、有意義な作用が存在すると期待され、我々の臨床でも機能障害によるストレスを軽減させたり、運動時の集中力を高めたりなど活用できると考える.近年、医療現場で香りを治療補助として取り入れられるようになりつつある.今後、更なる検討を加え、理学療法における臨床応用への有用性を検証してゆく.
  • 中川 寛紀, 田中 優介, 蜷川 菜々, 鈴木 麻友, 水野 陽太, 鳥橋 茂子
    セッションID: P2-114
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/04/25
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    【目的】ES細胞は様々な細胞に分化する多能性をもっているが、通常のES細胞培養法ではすべてのES細胞を骨格筋細胞へ分化誘導することは難しく、これまでに報告がない. 従って、ES細胞をそのまま分化させると、骨格筋以外の細胞も混在して形成されてしまう. 一方、カルシウム依存性の細胞間接着因子であるカドヘリンは細胞膜に発現し、選択的に隣接する同種間の細胞接着に関わっている. 骨格筋細胞はその発生の過程でカドヘリンスーパーファミリーの一つ、M-cadherinを発現し、筋芽細胞の細胞融合に先立つ細胞接着に関わっている.そこで移植を目的とした骨格筋芽細胞を単離収集するために、骨格筋細胞への分化が決定したM-cadherin陽性の筋芽細胞を単離収集し、集めた細胞がin vitroで骨格筋細胞へと分化するかどうかについて検証した.
    【方法】マウスES細胞(G4-2)を未分化状態で増殖させた後、約500個の細胞を含む10μLの培養液を6日間培養皿のふたから吊り下げるHanging Drop法により胚様体を形成し、これをゼラチンコートした培養皿に移して培養を継続した. 約10-12日後にM-cadherin陽性細胞が分化していることを確認し、カルシウムキレート剤であるEDTA処理により細胞を分離し、磁気ビーズ法(MACS)を用いてM-cadherin陽性細胞を収集した. その後、10%FBSまたは5%KSRを含む培養液で陽性細胞を約1ヶ月間培養し、顕微鏡観察により細胞融合した筋管細胞の形成を確認すると共に筋特異的たんぱく質であるミオシン重鎖(MHC)による免疫蛍光染色を行った.
    【結果.考察】MACS法により、約5×107個の細胞から約5×105個の陽性細胞が単離された. 顕微鏡観察により単離したM-cadherin陽性細胞は培養皿上でマウス筋芽細胞株(C2C12)と同様な形態を示し、筋芽細胞から筋管細胞そして筋節を有する筋線維への分化が確認できた. また、免疫蛍光染色によりMHCが陽性であったことから単離したM-cadherin陽性細胞がin vitroで筋細胞へと分化することが確認できた.しかし、MACS法による単離の際、少数ではあるが陰性細胞が混入する. 今後は陰性細胞を取り除き、陽性細胞の収率を上げると共に、生体内への移植を行いM-cadherin陽性細胞がin vivoでも分化能を維持しているかを検討する.
    【まとめ】ES細胞からMACS法で単離したM-cadeherin陽性細胞はin vitroで骨格筋細胞へと分化した.今後、さらにin vivoでの分化能を検討する.
  • 蜷川 菜々, 田中 優介, 中川 寛紀, 鳥橋 茂子
    セッションID: P2-115
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/04/25
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    【目的】骨髄の中には間葉系幹細胞が存在し、様々な間葉系組織へ分化することが知られているがその数は非常に少ない. しかしこれと類似した間葉系幹細胞が脂肪組織中に多量にみつかり、脂肪由来の間葉系幹細胞(ADSCs)として注目を集めている. ADSCsが移植免疫寛容性を示すという報告もあり再生医療への応用が期待される. しかし脂肪組織には多くの細胞種が含まれ、これらからADSCsを分離するには困難が多い. 一方、胚性幹細胞(ES細胞)は多能性をもち、ES細胞を脂肪細胞へと分化誘導する系も知られている. そこで本研究では、ES細胞から脂肪細胞を分化させる系の途中でADSCsが出現することを想定し、これを効率的に分離収集し、集めた細胞が間葉系幹細胞であるかどうかを検証する.
    【方法】マウスES細胞にRetinoic acidとInsulin/T3を用いて脂肪細胞への分化誘導をかけた. 脂肪細胞の形成はOil Red O染色とRT-PCR法を用いて確認した. また ADSCsは細胞表面マーカーとしてCD105を発現することが知られている. そこで本研究ではまずES細胞から脂肪細胞への分化過程のどの段階で、CD105を発現する細胞が出現するかを検討した.さらに、CD105陽性細胞をMagnetic Cell Sorting(MACS)法により分離し、収集した陽性細胞を間葉系細胞へ分化誘導した. 脂肪、骨、骨格筋、軟骨細胞への分化はそれぞれOil Red O染色、Alizarine Red染色、M-cadherine免疫蛍光染色、Myosin Heavy Chain免疫蛍光染色、Alcian Blue染色とRT-PCR法により確認した. さらにMACS法による細胞収集効率をFluorescence Activated Cell Sorter(FACS)を用いて解析した.
    【結果】免疫蛍光染色により、脂肪細胞へ分化誘導をかけたES細胞の中にCD105を発現している細胞が多数認められた. また、CD105陽性の細胞には出現時期の異なる二種類の細胞種が存在し、そのうち早期に出現する小型球形細胞が脂肪細胞へと分化していくこともわかった. これら小型球形細胞は脂肪細胞へと分化する過程で一過性にCD105を発現した. さらに、MACS法によって分離収集した小型球形のCD105陽性細胞が脂肪細胞以外に骨、骨格筋、軟骨細胞に分化することを確認した.
    【まとめ】マウスES細胞を脂肪細胞へと分化誘導する過程でCD105陽性の小型球形細胞が出現し、これらを磁気ビーズ法で効率よく収集することが出来た. さらにその細胞は脂肪細胞以外にも骨、骨格筋、軟骨細胞といった間葉系細胞への分化能力を持つことが示された. 従って、これらの細胞は脂肪由来の間葉系幹細胞(ADSCs)に相当する細胞であることが強く示唆された.
  • 田中 優介, 蜷川 菜々, 中川 寛紀, 鳥橋 茂子
    セッションID: P2-116
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/04/25
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    【目的】ES細胞(胚性幹細胞)を血管へ分化させる研究はすでに報告され、閉塞性動脈硬化症や心筋梗塞に対する血管再生医療や臓器移植に対する支持的療法としての血管再生治療が注目されている.我々の研究室ではES細胞を間葉系幹細胞へ分化誘導する過程で血管様の細胞を認めた.その形態や細胞表面マーカーCD105(Endoglin)を発現することからこの細胞が血管へと分化しつつある細胞ではないかと考えた.しかし、通常の二次元培養では血管様細胞の数はごく少数に限られていた.そして、マトリゲルを用いた三次元培養による血管形成の研究が多く報告されている.ところが、マトリゲルには成長因子がすでに含まれているため、血管系細胞が必要とする培養条件の検討が難しい.さらに三次元培養を行う際に、生着させる細胞の状態や細胞密度を考慮し、最も血管形成が促進される条件を検討した研究は少ない.そこで本研究では、無添加のコラーゲンコートによる血管系細胞の三次元培養を様々な条件下で行い最も血管形成を促進させる方法を検討した.
    【方法】培養液にレチノイン酸(RA)を加えることによりES細胞を中胚葉系の細胞へと分化誘導した.その後、単離細胞もしくはHanging drop法により形成させた胚葉体の細胞数や細胞密度を変えて、厚さ4mmにアテロコラーゲンをコートした培養皿に生着させた.さらに成長因子(VEGF)を加えることによりES細胞を血管系細胞に誘導した.形成された血管様細胞を血管内皮細胞が発現する表面マーカーFlk1、CD31(PECAM)、CD105、また、血管平滑筋細胞が発現するα-SMA(α-smooth muscle actin)による免疫蛍光染色や顕微鏡観察により血管形成効率を検討した.
    【結果、考察】単離した細胞をコラーゲンコートに生着させた場合も、細胞は一旦増殖して細胞塊を形成し、胚様体と同様、そこから放射状に血管様の構造を構築する傾向があった.従って、血管の形成には細胞が塊を作る必要があると思われた.さらに、アテロコラーゲンによって完全に覆われている細胞塊から血管が形成される確率が高かった.免疫染色の結果、細胞塊から放射状に伸びだした血管様構造、そしてその先に形成されたネットワークもFlk1、CD31(PECAM)、CD105に陽性であった.また一部はα-SMAも発現していた.従って、アテロコラーゲンを用いた三次元培養法で血管様の構造が効率よく形成された.しかし、二次元培養に比べて、早期に血管の退縮が見られ、長期間の血管培養には限界があった.今後は培養液に加えるVEGFなどの成長因子の効果を検討していく.
    【まとめ】アテロコラーゲンを用いた細胞塊の三次元培養法で血管様の構造が効率よく形成されたが、今後さらに培養液に添加する成長因子についても検討をしていく.
  • 南 伸吾, 上村 和裕, 家中 照平, 大古 拓史, 小池 有美, 上西 啓裕, 伊藤 倫之, 田島 文博
    セッションID: P2-117
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/04/25
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    【目的】
    生活習慣病やメタボリックシンドローム防止の観点からも運動療法は効果的であり、推奨されている.しかし、脳卒中後の片麻痺、脊髄損傷対麻痺、股関節や膝関節などの整形外科疾患の人は立位での持続的な運動が困難である.そのため座位姿勢での運動が望ましいと考えられるが、その形態と運動量を比較し、定量化した報告はない.まず、端座位姿勢で可能な限り全身を使った運動を行い、端座位における最大酸素摂取量を測定し、下肢エルゴメーターでの最大酸素摂取量と比較検討した.また坐位における体の部位別の運動での運動量を調査するため、1)腕振り運動、2)腕振りと体幹回旋運動、3)腕振り、体幹回旋と踵上げ運動、4)以上の運動に腿上げを追加した全身運動、をそれぞれ負荷し、酸素摂取量の違いを比較検討することを目的とした.
    【方法】
    対象は健常成人男性7名(年齢23.4±3.8歳、体重66.1±11.4kg)とし、研究趣旨を説明、了承を得た.酸素摂取量は呼気ガス分析装置(MINATO製AE-300S)で測定した.座面の高さは腓骨頭とマット部(厚さ6cm)の下端を一致するよう被験者ごとに調節した.座位運動での最大酸素摂取量測定は、座位を保ちつつ、体幹をひねりながら上下肢を左右交互にできるだけ高く挙上するように指示し、腕振り回数を40回/分より開始した.60回/分までは1分毎に5回/分ずつ上げ、それ以降は2.5回/分ずつ上げていき、運動継続困難となった時点で終了とした.体の部位別の運動は、テンポは一定で60回/分とし、腕振り運動より開始し、体幹の回旋、踵上げ、腿上げをそれぞれ3分毎に追加し、定常状態の酸素摂取量を求めた.
    【結果】
    エルゴメーターで測定した最大酸素摂取量は2,379.3±200.4ml/分であった.座位運動での最大酸素摂取量はエルゴメーターによる最大酸素摂取量の90.9±7.4%にあたる2,155.6±149.9ml/分であった.腕振り運動時酸素摂取量はエルゴメーターの34.8±10.9%(804.1±223.1ml/分)に相当し、体幹の回旋を加えると45.6±10.0%(1,079.6±217.3ml/分)、踵上げを加えると52.2±13.1%(1,234.0±267.1ml/分)、腿上げを加えると64.2±14.7%(1524.0±333.0ml/分)であった.
    【考察】
    座位運動での最大酸素摂取量は下肢エルゴの90.9%とかなり近い値を示し、特別な機器を用いない運動負荷方法として有用である可能性が示唆された.双方の約10%の差は、エルゴでは負荷強度を回転数とペダルの抵抗で増加できるのに対し、座位での運動ではテンポを上げることでしか負荷を増加させることができなかった事が原因と考えられる.また、腕振りのみから、体幹回旋運動、踵上げ、腿上げと動員される筋肉量を増加させて行くことによって酸素摂取量が増加することが明らかになった.
    今回の結果から部位別運動をうまく組み合わせることで、目標とする運動負荷の大まかな指標として用いることができると考えられる.
  • 芝 寿実子, 大川 裕行, 梶原 史恵, 上西 啓裕, 小池 有美, 神埜 奈美, 後藤 正樹, 田島 文博
    セッションID: P2-118
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/04/25
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    【目的】加齢に伴う体力の低下は運動によりある程度防止できると考えられている.これまでの加齢における身体機能の低下に関する報告は、ほとんどが健常者を対象とした研究であり、脊髄損傷者(脊損者)を対象とした調査は少ない.しかも、縦断研究に至ってはこれまで実施されていない.したがって、脊損者の加齢に伴う身体機能の変化や運動の影響については未だ明確な知見はない.今回、約20年にわたり脊損者を追跡し、加齢に伴う身体機能の変化と運動の影響を検討したので報告する.本研究は和歌山県立医科大学倫理委員会の承認を得て、被験者の同意の下に行なった.

    【方法】被験者は脊損者男性10名、20年間継続して運動習慣のある運動群6例と運動習慣のない非運動群4例に分類した.検査項目は、体重、体脂肪率、肺活量、握力、肩腕力(引く力と押す力)、安静時心拍数と安静時血圧、最大酸素摂取量、最大心拍数とした.なお、最大酸素摂取量は20年前には車いす用トレッドミル、今回は車いすローラー上で車いす駆動運動を行ない、breath by breathで呼気ガス分析装置を用いて測定した.運動習慣については、運動の種類、時間、頻度等について聞き取り調査を実施した.

    【結果】20年前の右握力は運動群(51.0±3.2kg)と非運動群(51.6±9.2kg)に差はなかった.現在の右握力は運動群(43.7±6.5kg)も非運動群(43.9±12.8kg)も低下した(p<0.05)が、同等の低下であったため、両群間の差はなかった.引く力(運動群:44.7±4.8kg vs 35.2±10.1 、非運動群:42.7±6.6 kg vs 37.0±7.5)の20年間の変化も右握力と同じ結果であった.20年前の最大酸素摂取量は、運動群(34.4±5.5 ml/min/kg)と非運動群間(33.2±10.4 ml/min/kg)に差は認めなかったが、現在では運動群(37.7±11.1ml/min/kg)の方が非運動群(23.3±7.9 ml/min/kg)より高く(p<0.05)なっていた.

    【考察】筋力は両群で有意な低下を認めたことから加齢の影響を受けやすいといえる.また、運動が低下を防止できないことが示唆された.最大酸素摂取量は、20年後に両群間に有意差が出ているので、運動が低下の防止に効果的であることが示された.
    以上の結果から、脊損者においても、加齢による有酸素運動能力の低下を運動により防止できること、脊損者は日常生活上の活動だけで身体機能を維持することが困難であることが示唆された.

    【まとめ】脊損者の筋力は加齢の影響を受けやすいことが示唆された.運動を継続する脊損者の最大酸素摂取量は約20年の加齢にも関わらず増加していた.脊損者はスポーツなどの運動に積極的に参加する必要がある.
  • ―ばらつきを指標として―
    杉 輝夫, 藤井 伸行, 佐藤 広輔, 中屋敷 勝真, 畑山 聡
    セッションID: P2-119
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/04/25
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    【目的】
    自由歩行は、個人内のばらつきが大きく個人差も大きい.そのため、10m歩行の測定では再現性の高い最大歩行が用いられる.しかし、ばらつきや個人差を含めた自由歩行の特徴を把握できれば、自由歩行を用いて歩行能力を評価できると考えた.昨年、我々は一般成人の自由な速度での10m歩行(自由10m歩行)の測定を行い、標準偏差(SD)を指標としてそのばらつきの特徴について検討した.全被験者のSDをプロットしたグラフの傾向から測定回数を重ねると個人間のばらつきが狭くなる傾向が示された.そこで今回、測定人数を増やし自由歩行のばらつきについて検討し、その特徴を把握する.
    【方法】
    被験者:一般成人109名(男性33・女性76).平均年齢29.3±7.6歳.測定方法:予備路を設けた歩行路で、ストップウォッチにて自由10m歩行を測定.“いつも歩いている速さで歩いて下さい” と口頭指示.先行している下肢の足尖が、遊脚期・立脚期を問わず初めてラインに達した時に開始・終了のボタンを押した.その間の歩数を数え、歩行率を算出.一人につき12回の測定を行い、練習は行わなかった.測定は、同一検者が行った.説明と同意:全被験者に対して研究の目的と方法を説明し同意を得た.結果の処理:所要時間と歩行率において、全被験者のSDをプロットしグラフを作成.測定回数と測定順番(3試行ずつの4群)によるSDの範囲の変化を調べ、その後、一元配置分散分析を行った.下位検定はScheffe(accent aigu)の多重比較検定を使用.
    【結果】
    測定回数による変化は、所要時間と歩行率においてグラフではSD の範囲が小さくなったが、分散分析では有意差がなかった.測定順番による変化は、所要時間と歩行率においてグラフではSD の範囲が小さくなり、分散分析でも有意差を認めた(所要時間:F(3,432)=16.600, p=0.000、歩行率F(3,432)
    =7.178, p=0.000).どちらにおいても、1~3回と比較し4~6回以降ではSDの平均値が有意に小さかったが、4~6回以降の群間では有意差を認めなかった.
    【考察】
    測定回数を増やしても、一般成人の自由歩行の特徴を把握することは困難と考えられた.しかし1~3回と4~6回のSDの平均値は有意に異なり範囲が小さくなることから、これらが自由歩行のばらつきを示すと考えられた.また測定順番によるSDの変化の仕方が一般成人の自由歩行のばらつきの変化であり特徴の一つと考えられた.
    【まとめ】
    SDを利用して一般成人の自由10m歩行のばらつきについて検討し、その特徴について考察した.
    1~3回と4~6回のSDの範囲と平均値が一般成人の自由歩行の特徴と考えられた.
    測定順番によるSDの変化の仕方も一般成人の自由歩行のばらつきの変化であり特徴の一つと考えられた.
  • 渕上 健, 河口 紗織, 井戸端 宏樹, 藤野 隆, 北裏 真己, 池岡 舞, 松尾 篤
    セッションID: P2-121
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/04/25
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    【はじめに】他者の運動を観察した時,実際にその運動を行った時と同様の脳領域が活動するというミラーニューロンシステムが発見された(Rizzolatti, 1996).そのシステムの臨床応用として期待されているのが運動観察治療(Action Observation Therapy: AOT)である.AOTとは運動観察による運動の心的シミュレーションとその直後に実施する身体練習を組み合わせた治療介入である.最近では,慢性期脳卒中片麻痺患者に対する有効性が報告されているが,本邦ではAOTの臨床報告は少なく,慢性期脳卒中患者の上肢機能に対する効果を扱った研究がほとんどである.よって,本研究では亜急性期脳卒中片麻痺患者に対する立位・下肢機能に焦点化し,AOTの効果を検討したので報告する.
    【方法】研究参加に同意した脳卒中片麻痺患者5名(男性4名,女性1名,平均年齢69.2±8.0歳,発症経過日数78.8±70.2日)を対象とした.参加者は,通常の理学療法に加えてAOTを受けた.AOTは,健常者の課題実施場面を撮影したDVDを作成し,その映像を観察し,その直後に同課題の身体練習を行った.DVDはデジタルビデオカメラで2方向から同時撮影を行い,課題ごとに編集してDVDプレーヤーにて再生した.観察課題は,杖またぎ(前・横),段差ステップ(前・横),180度方向変換,段差昇降の合計6課題から3課題を参加者の身体機能に合わせて選択した.観察時間および身体練習時間は各課題で3分間の計18分間に設定し,介入期間は週5回,2週間とした.評価はBrunnstrom Recovery Stage(以下BRS),Functional Independence Measure(以下FIM) ,10m歩行速度,Timed Up and Go test (以下TUG)を介入1週間前,介入直前,介入後の3回測定し,それらの結果を比較した.
    【結果】5症例ともに,10m歩行速度,TUG,FIMにおいて介入前後で改善が認められたが,BRSには変化がなかった.介入後に大きな変化を認めた症例は10m歩行速度では1人,TUGでは3人,FIMでは4人であった.さらにFIM運動項目の移乗・移動項目に限ると介入後平均2.2点の改善が認められた.また,すべての参加者からDVDを観察することで身体練習が行いやすくなるという内省報告が得られた.
    【考察】介入後大きな変化を認めたのはTUGとFIMであり,設定した課題項目に下肢ステップ運動が多く,動的バランス能力が必要なTUGや移動・移乗動作に,反映しやすかったためと考えられる.また,運動イメージ生成が運動プランとその実行に関与する脳領域を活性化させることがわかっており,本研究でも内省報告から,DVDの観察により運動イメージ生成が可能であったと考えられる.Celnik(2008)も運動観察と身体運動との組み合わせが運動学習を促進させると報告し,AOTの有効性を示している.一方で,そのエビデンスは不十分であり,そのことからも本研究は意義深いものと考えられる.今後,研究デザインを改善しAOTの有効性をさらに検討していく.
  • 齊藤 展士, 福島 順子, 山中 正紀, 武田 直樹, 岡田 陽子, 今泉 有美子
    セッションID: P2-122
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/04/25
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】一般に,同じ運動を反復することでそのパフォーマンスが向上することはよく知られている.我々,理学療法士も患者に動作を何度も反復して行わせることで,その動作能力の向上を目指す.立位から全身を用いるリーチ動作においても,反復によりパフォーマンスが向上することは知られており,正確で素早いリーチ動作には,より適切な推進力や制動力が必要になる.その推進力や制動力は姿勢筋の活動により得られるが,反復により姿勢制御にどのような変化が生じるのかはよくわかっていない.よって,今回,リーチ動作の反復による姿勢筋活動の変化を調べた.また,その変化が一時的な適応性変化なのか,学習による効果なのかを調べた.

    【方法】対象者は右利きの健常成人15名とした.ヘルシンキ宣言に沿い,対象者には必ず事前に研究趣旨を文書および口頭で十分説明し,書面にて同意を得た.10名の被験者は床反力計の上で静止立位を保ち,音刺激後,右手指をできるだけ素早く肩の高さに位置する直径2cmの目標物にリーチを行った.目標物までの距離は,全身を用いたリーチ動作を行うことが可能な最大距離とした.リーチ動作は休憩を取りつつ50回反復して行った.また,身体各部位に反射マーカーを取りつけ3次元動作解析機により各セグメントの位置や関節角度,体重心の変位を求めた.左右の前脛骨筋,腓腹筋,大腿直筋,大腿二頭筋から筋活動を記録した.予測的な姿勢筋活動の開始時間からリーチ動作開始時間である右手部の動き出し時間までを準備相,リーチ動作開始時間から右手の加速度が最大になる時間までを推進相,右手の速度が最大になった時間からリーチ終了時間までを制動相とし,各相での筋活動量を求めた.5名の被験者にはリーチ動作を100回行わせ,同様の手法で3日続けて記録した後,休息を1日取り,その翌日,再度,記録した.リーチ動作の10回毎の平均値を算出し,反復による姿勢筋活動の変化を比較した.また,初日と2-4日目のデータを比較し,学習効果を調べた.

    【結果】リーチ動作を反復することでパフォーマンス(正確性,運動時間,最大速度)は向上し,準備相での予測的な前脛骨筋の筋活動量は有意に増大した.推進相でも前脛骨筋の筋活動量は有意に増大し,制御相では腓腹筋の活動量が有意に増大した.パフォーマンスや姿勢筋の筋活動量の変化は,2日目以降も持続し,休息を1日取った後にもその効果は持続した.

    【考察】これらの結果から,準備相と推進相での前脛骨筋の筋活動量増大がリーチ動作の最大速度の増大に影響し,制御相での腓腹筋の筋活動量増大により適切なブレーキングが可能になったと考えられる.

    【まとめ】リーチ動作の反復により姿勢制御は変化した.その変化は一時的な適応性変化ではなく,長期増強などによる学習による効果である可能性が示唆された.
  • ―近赤外線脳酸素モニタを用いた検討―
    中林 美代子, 大西 秀明, 古沢 アドレアネ明美, 中山 裕子
    セッションID: P2-123
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/04/25
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    【目的】我々は,近赤外線分光法(NIRS)を用いて軽負荷自転車駆動時における大脳皮質活動を解析し,負荷量が同じであれば運動速度の相違は皮質活動量に大きな影響を与えないことや,駆動中に回転数を変化させると一時的に一次運動野の活動が増加することを報告してきた.本研究の目的は,同一負荷量・回転数での自転車駆動時において,駆動調整条件を変えることにより大脳皮質運動関連領野の活動に変化が認められるのかを明らかにすることである.
    【対象および方法】対象は健常成人6名(平均年齢31.5±10.6歳,男性3女性3名)であり,計測前に実験内容を書面にて十分説明し同意を得た.使用機器は36チャネル近赤外分光イメージング装置(OMM3000,島津製作所),自転車エルゴメーター(BIODEX,酒井医療),メトロノームである.被験者間で皮質活動計測部位が統一されるように国際10-20法のCZを基準として送受光プローブ固定用のキャップを前頭頭頂部に固定し,受光プローブ12本と送光プローブ12本を配置した.自転車エルゴメーターの負荷量は10watt60rpmとした.駆動時の条件は,(1)モニターを見ながら回転数を調整する,(2)モニターを見ずにピッチ音に合わせて回転数を調整する,(3)モニターを見ながら回転数を調整し,さらに足先を標的に当てて回転を意識させる,(4)ピッチ音にあわせて回転数を調整し,さらに足先を標的に当てて回転数を意識させる,の4条件とした.足先を標的に当てる課題では,ペダルが最下位の地点で足先にスポンジが当たるよう設置した.30秒間の安静の後30秒間駆動し,再度30秒間安静にする課題を3セット連続で行った.駆動中における一次運動野,補足運動野および運動前野の酸素化ヘモグロビン(OxyHb)変化量を各条件間で比較検討した.統計処理には一元配置分散分析を用い,事後検定Tukey HSD法にて行った.有意水準は5%とした.
    【結果】全ての条件での自転車駆動時において,一次運動野の下肢領域,補足運動野,運動前野のOxyHbの増加が認められた.しかし,一次運動野,補足運動野,運動前野のいずれの領域においても駆動条件間でOxyHbの変化量に有意な差は認められなかった.
    【考察】NIRSを用いて,自転車駆動時における運動遂行条件の違いによる大脳皮質活動の変化を検討した.その結果,全条件においてOxyHb変化量に有意な差が認められなかった.このことは,歩行時におけるPTの介入法の相違が運動関連の領域の活性化に大きな影響が示されなかったというMiyai(2002年)らの報告と同様に,粗大運動遂行時に負荷量が同一であれば,調整方法が異なっていても運動関連領野の活動に大きな差は見られないことを示していると考えられる.今後より頭頂連合野などの活動も含めて検討していきたい.
  • ―fNIRS研究―
    古沢 アドリアネ明美, 中林 美代子, 大西 秀明
    セッションID: P2-124
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/04/25
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    【目的】リハビリテーションの分野では運動と情報処理能力の関連についていくつかの研究があり,単一課題として行われた立位保持課題の足圧中心偏位は若年者と高齢者で有意な差はないが,認知課題を遂行している際の立位保持時において,高齢者の足圧中心の変化が大きくなると報告されている.認知課題を遂行することにより,動作を行う上で必要な情報処理能力が制限され,バランスやパフォーマンスに支障をきたすということが推測されるが,認知課題とステップ課題を行った際に脳活動がどのような反応を示すのかを明らかにした報告はみうけられない.本研究は,健常成人を対象として,近赤外線脳酸素モニタを用いて,片足ステップ課題と認知課題を同時に実施した際の大脳皮質の活動を明らかにすることである.
    【方法】対象,健常成人6名(平均年齢22.8±3.3歳,男性 名,女性 名)であり,被検肢は右足とし,全被検者は右利きであった.計測前に実験内容を十分に説明し同意を得た.使用機器は24チャンネル近赤外光イメージング装置(NIRS:near-infrared spectroscopy,OMM-3000/16,島津製作所)である.左足を支持脚とした立位(以下左片足立位とする)で右足ステップにおける酸素化ヘモグロビン(oxyHb)量の変化を運動関連領野や前頭前野にて記録した.運動課題は左片足立位において,(1)できるだけ速く右足のステップ(前=1・横=2・後=3)をランダムで行う,(2)視覚刺激はコンピューター・スクリーンに1・2・3の順に現れ,課題1と同様のステップを行う,(3)視覚刺激はランダムの順(例:2・1・3, 1・3・2)でステップを行う,の3種類とした.統計処理には
    2元配置分散分析を用い,事後検定Turkey法にて行った.有意水準は5%とした.
    【結果】全被検者において運動課題動作の開始に伴い,左運動領野の下肢領域においてoxyHb,総ヘモグロビン(totalHb)の増加が見られた. 前頭前野では課題2において有意にoxyHbの増加を認めた(p<0.01).課題1,3の間には有意な差は認められなかった.

    【考察】本研究の結果からステップ課題時には脳血流量が増加していることが明らかになった.また,課題1,3の間には有意な差は認められなかったことから課題2において,運動学習が起こり,課題3を実行した際に復習ができたと考えられる.今後は課題条件を変更した検討をしていきたい.
  • ―fNIRSによる検証―
    中野 英樹, 三鬼 健太, 生野 達也, 奥埜 博之, 森岡 周
    セッションID: P2-125
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/04/25
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    【目的】転倒要因の一つとして,立位姿勢制御能力の低下が数多く報告されている.立位姿勢制御の維持,向上には視覚系,体性感覚系,前庭迷路覚系による求心性情報の影響が大きい.なかでも,加齢に伴い足底感覚の低下が起こり,それにより片脚立位保持時間が短縮することが明らかにされている.我々は,座位姿勢にてスポンジの硬度弁別を用いた学習課題による足底の知覚向上によって,片脚立位時の重心動揺が有意に減少することを報告した(第48回近畿理学療法学術大会).本研究では,神経科学的根拠を明確にするために,座位姿勢における足底の知覚学習課題時の脳活動について,機能的近赤外分光装置(fNIRS)を用いて明らかにすることを目的とする.
    【方法】対象は本研究に参加の同意を得た健常成人7名とした.対象者には,床に設置した表面素材や形状は同じだが,硬度が異なる5種類のスポンジを足底で弁別する課題を座位姿勢にて10日間実施した.測定者が対象者の足部を他動的に動かして以下の順にスポンジを踏ませた.1)上昇系列に1から5まで,2)下降系列に5から1まで行い,1)2)では対象者にスポンジの硬度の記憶を求めた.3)硬度が異なるスポンジの弁別をランダムに5回行い,対象者にはどの硬度のスポンジであるかを判断させた.この際,結果の知識は判断直後に与えた.4)硬度が異なるスポンジの弁別をランダム表に基づき10回行い,対象者にはどの硬度のスポンジであるかを判断させた.この際,結果の知識は与えなかった.なお,この時の誤判断数を課題効果の結果とした.1日目と10日目の課題4)遂行中の脳活動を測定した.脳酸素動態測定にはfNIRS(島津製作所製)を用いた.全頭型の光ファイバフォルダを前頭葉,頭頂葉,側頭葉,後頭葉を覆うように装着し,それらの領域の動態を測定した.脳活動の解析には,酸素化ヘモグロビン(oxyHb)をパラメータとし,課題遂行中の最大値を算出した.統計処理として,10日間の課題における誤判断数には反復測定分散分析を行い,post hoc testとしてScheffe法を用いた.脳活動には一元配置分散分析を行い,post hoc testとしてScheffe法を用いた.有意水準は5%未満とした.また,MRI三次元重ね合わせソフト(島津製作所製)を用いてマッピングを行った.なお,本研究は畿央大学研究倫理委員会にて承認を得ている.
    【結果】課題4)の誤判断数の平均値は,施行回数を重ねるごとに有意な減少が認められた.脳活動は,課題群の1日目に前頭前野,運動前野,運動性言語野に相当する領域のoxy Hbの有意な増加が認められ,10日目に前頭前野,補足運動野,運動性言語野,頭頂連合野に相当する領域のoxy Hbの有意な増加が認められた.
    【考察】本研究により,足底の知覚学習課題前後において前頭前野,運動前野,補足運動野,運動性言語野に相当する領域の賦活が認められた.これらの領域は,運動学習の際に活動する領域(Jenkins,1994)とほぼ一致した.
  • 守屋 耕平, 大高 洋平, 山口 智史, 大須 理英子, 田辺 茂雄, 横山 明正, 近藤 国嗣
    セッションID: P2-126
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/04/25
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    【目的】
    脳卒中患者のリハビリテーションにおいては,患者個々の身体機能や歩行能力に応じた歩行様式を選択し歩行訓練が行われている.しかし現在までに,歩行様式,特に揃え型歩行やその速度の違いによる脳活動の変化についての報告はない.そこで基礎的実験として健常者を対象に,歩行様式の違いによる脳皮質血流量変化について,近赤外分光法を用いて検討した.

    【方法】
    対象は本研究の目的を説明し,同意を得た健常成人6名(男性3名,女性3名,平均年齢26.3±4.0歳)であった.課題は通常歩行と揃え型歩行とした.歩行課題はトレッドミル(酒井医療社製)を用いた.通常歩行課題は至適速度での歩行とした.至適速度は,5分間のトレッドミル歩行を行い決定した.揃え型歩行課題は,至適歩行と同速度(1倍速),その1/2(0.5倍速)と1/4(0.25倍速)の速度で行った.それぞれの課題は,安静15秒間-課題30秒間-安静15秒間を1セットとし,5セット実施した.課題の施行順序はランダムに行った.また計測中は,自覚的疲労感,血圧,脈拍,SpO2の計測を行った.
    脳皮質血流量の測定は近赤外分光装置FOIRE-3000(島津製作所製)を用い,酸素化ヘモグロビン(oxyHb)の変化を記録した.計測および解析部位は下肢一次運動野(M1)とし、経頭蓋磁気刺激にて同定した.プローブはM1を中心に28カ所設置し,サンプリング周期220msecにて記録した.
    データ解析は,課題前の安静時oxyHbの平均値と標準偏差を基準として課題中の測定値を標準化した値を算出し,課題中の脳皮質血流量の変化の指標とした.次に,全施行の課題中のoxyHb平均の標準偏差から外れる施行を除外し,課題毎に波形を加算平均した後に課題中の平均値を算出した.統計処理は一元配置分散分析,多重比較検定(TukeyのHSD)を行い,各課題による脳皮質血流量の変化を検討した.有意水準は5%未満とした.

    【結果】
    全課題で,計測中の自覚的疲労感,血圧,脈拍,SpO2に違いを認めなかった.M1の脳皮質血流量は揃え型1倍速において,通常歩行と比較し,有意に高値であった(p<0.05).また,揃え型0.5倍速,揃え型0.25倍速においても通常歩行に対して,高値となる傾向を示した.

    【考察】
    本研究の結果から,歩行時の脳皮質血流量は歩行速度や歩行様式の違いによって変化することが示唆された.通常歩行のような周期的な交互運動においては,脳幹や脊髄レベルでの活動の重要性が報告されている.今回の課題においては,非常に遅い揃え型歩行と比較し,通常歩行では運動量が多いと考えられるが,非常に遅い揃え型歩行で脳皮質血流量が高値を示す傾向を認めた.これは,揃え型歩行においては,脳幹部や脊髄レベルを利用した交互運動とは異なり,一側下肢の運動を繰り返すステップ動作の連続とも言える動作であるために,M1の活動を多く必要としたと推察される.
  • ―NIRSによる検討―
    青景 遵之, 中川 慧, 河原 裕美, 波之平 晃一郎, 土田 和可子, 藤村 昌彦, 田中 英一郎, 弓削 類
    セッションID: P2-127
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/04/25
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    【目的】重度歩行障害患者の早期歩行Ex.は,設営の煩雑さや多くのマンパワーを必要とすることから,臨床現場における歩行支援ロボットの必要性が高まっている.現在,研究されている歩行支援ロボットは,LokomatやGait trainerといったトレッドミル上での歩行支援ロボットが多く,モビルスーツ型自立歩行支援ロボットとしての研究はほとんど行われていない.モビルスーツ型自立歩行支援ロボットは,トレッドミル上の制限がなく,様々な環境での歩行Ex.が行えることから,歩行障害患者のADLや活動範囲の向上も期待することができる.そのため,現在開発中のモビルスーツ型自立歩行支援ロボット使用時の歩行と通常歩行の健常者における脳活動を比較し,脳機能の視点から歩行Ex.の場面に利用できる可能性を検討することを目的とした.
    【方法】対象は,同意の得られた筋骨格系・神経系に障害のない健常男性8名とした.近赤外分光法(near infrared spectroscopy;以下,NIRS)を用い,通常歩行とロボット装着歩行の脳酸素動態を比較した.課題は,安静30秒,歩行40秒,安静30秒のブロックデザインとし,各条件下で5回測定した.歩行速度は,対象者ごとに各条件下で最も快適な速度とした.また,ロボット装着歩行は,非免荷状態での歩行(full-weight robot gait;以下,FW)の他に,転倒と身体への荷重負荷を考慮し,全体重の25%の免荷状態での歩行(partial-weight robot gait;以下,PW)も測定した.NIRSのデータは, 0-10秒と90-100秒の平均を結んだ直線をベースラインとし,前頭前野や運動前野,補足運動野,感覚運動野の領域に分けて加算平均した.また,領域間の比較には,Suzukiらの方法を参考にeffect sizeを使用した. なお本研究は,広島大学大学院保健学研究科心身機能生活制御科学講座倫理委員会の承認を得て行った.
    【結果】歩行によって運動に関連する各領域のoxy-Hbが増加し,その増加量は通常歩行,PW,FWの順に大きかった.領域別では,運動前野での増加が最も大きかった.ロボット装着歩行は,PWでは通常歩行に類似したoxy-Hb変化パターンを示していたが,FWでは,前頭前野や補足運動野などの領域でも大きな変化を示した.
    【考察】ロボット装着歩行は,歩行に関与する脳領域,中でも運動前野に大きな活動を起こした.運動前野は,運動学習時に重要な役割を担っているといわれており,ロボット装着歩行が歩行動作の学習に役立つツールとなる可能性が示された.特に,免荷状態のロボット歩行では,通常歩行に近い脳活動パターンを示し,運動学習に有効なツールであると考えられた.非免荷状態のロボット歩行でも,同様な効果が期待できるが,現時点では,通常歩行ではあまり必要のない前頭前野の大きな活動なども増加する結果となった.今後,様々な観点からモビルスーツ型自立歩行支援ロボットとしての実用化に向けて更なる開発と研究を行っていきたい.
  • ―車椅子キャスター上げの習熟における影響―
    杉園 伸一郎, 佐野 徳雄, 田中 一秀
    セッションID: P2-128
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/04/25
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    【目的】現在,理学療法士は様々な場面で運動療法を行う.そのなかで運動学習を促通させるために,口頭指示や直接的誘導,視覚的矯正などを行っている.今回は同じ動作を行なう熟練者をモデルとし,その視覚情報が運動学習に与える影響について検討したので報告する.

    【対象】対象者は本学の学生12名(男性4名,女性8名)年齢20.7±4.1歳とした.対象者12名を,熟練者のビデオを視聴する視覚刺激有群(以下α群とする)6名(男性2名,女性4名,年齢21.8±5.4歳),視覚刺激無群(以下β群とする)6名(男性2名,女性4名,年齢18.5±0.6歳)に分類した.

    【方法】本研究において運動課題は車椅子によるキャスター上げとした.被験者には課題試行前に3種類の練習を行わせた.練習は各3分間ずつ行う事で1セットとし,計2セット行った.練習終了後,運動課題を1試行とした(α群についてはビデオを視聴し,その後課題を行った).以上のことを週1回,計4度行った.練習1は,平行棒内に設置したパイプ椅子に座り,平行棒を上肢で押しパイプ椅子ごとバランスがとれる位置(以下 平行点)まで後方に傾け,足底を離地させた状態を開始姿勢とする.そこから手を離し平行点を保つ練習とした.練習2は,同環境の椅子に座り,平行棒を上肢で押し足底を離地させ,平行点まで後方へ傾ける.平行点までの能動的な移動目的とした,練習3はキャスターを10cmの段差に乗せた車椅子に乗り,ハンドリムを操作しキャスターを浮かせ,継続させずにすぐ降ろさせる.キャスター上げの車椅子操作を目的とした.運動課題に関しては足底を床につけないことを説明した上で,車椅子前輪が10秒間以上床から離れたら「可」,10秒未満で「不可」とした.すべての動作をビデオで撮影し,結果を判定した.なお,被験者には実験内容を説明し,同意を得て行なった.

    【結果】α群β群共に,6名中1名が「可」となった.初期と最終でキャスターが接地面から一度離れ,再び床に接地するまでの時間(以下 キャスター離地時間)は6名平均でα群2.26±3.57秒,β群2.47±3.47秒間の延長となった.最終のキャスター離地時間はα群2.58±3.70秒,β群3.03±3.63秒であった.

    【考察】α,β群共にキャスター離地時間は増加していく傾向が見られた.第1回目の練習後の施行に関してはα,β群ともに有意差は見られなかった.このことより同一母集団であると推測できる.次に各群における第1回と第4回の試行結果を比較すると,α群のみマン・ホイットニーのU検定から有意差がみられた.(P<0.05)このことにより,モデル視聴を行うことでキャスター上げに関する学習が促進されたことがうかがえる.

    【まとめ】今回視覚刺激が運動学習に与える効果について研究した.その結果,モデル視聴が運動学習に影響を与えることが示唆された.
  • 菅原 憲一, 田辺 茂雄, 東 登志夫, 鶴見 隆正, 笠井 達哉
    セッションID: P2-129
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/04/25
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    【目的】運動学習過程で大脳皮質運動野は極めて柔軟な可塑性を示すことはよく知られている.しかし、運動学習効率と各筋の特異性に関わる運動野の詳細な知見は得られていない.今回、トラッキング課題による運動学習過程が皮質運動野の興奮性に及ぼす影響を学習経過と筋機能特異性を中心に経頭蓋磁気刺激(TMS)による運動誘発電位(MEP)を指標に検討した.
    【方法】対象は健常成人13名(年齢21-30歳)とした.被験者に実験の目的を十分に説明し,書面による同意を得て行った.なお、所属大学の倫理委員会の承認を得て行った.
    被検者は安楽な椅子座位で正面のコンピュータモニター上に提示指標が示される.提示波形は3秒間のrest、4秒間に渡る1つの正弦波形、3秒間の一つの三角波形から構成される(全10秒).運動課題はこの提示指標に対して机上のフォーストランスデューサーを母指と示指でピンチし、モニター上に同期して表れるフォースと連動したドット(ドット)を提示指標にできるだけ正確にあわせることとした.提示指標の最大出力は最大ピンチ力の30%程度とし、ドットはモニターの左から右へ10秒間でsweepするものとした.練習課題は全部で7セッションを行った.1セッションは10回の試行から成る.練習課題の前にcontrol課題としてテスト試行(test)を5回行い、各練習セッション後5回のテスト試行を行うものとした.練習課題は提示指標とドットをリアルタイムに見ることができる.しかし、testではsweep開始から3秒後に提示指標とドットが消失し遂行状況は視覚では捕えられなくなる.TMSはこの指標が消失する時点に同期して行われた.MEPは、第1背側骨間筋(FDI)、母指球筋(thenar)、橈側手根屈筋(FCR),そして橈側手根伸筋(ECR)の4筋からTMS(Magstim社製;Magstim-200)によるMEPを同時に導出した.MEP記録は刺激強度をMEP閾値の1.1~1.3倍,各testでMEPを5回記録した.また、各4筋の5%最大ピンチ時の筋活動量(RMS)、提示指標と実施軌道の誤差面積を測定した.データ処理はいずれもcontrolに対する比を算出し分析検討(ANOVA, post hoc test: 5%水準)を行った.
    【結果と考察】誤差面積と各筋RMSは、controlと比較すると、各訓練セッションで有意に減少した(P<0.05).FCRとECRは練習後、MEPの変化は認められないものの、7セッション後ではFDIの有意な増加が示された(P<0.05).しかし、thenarでは7セッション後に有意な減少を示した(P<0.05).以上の結果、パフォーマンスの向上に併せて大脳皮質運動野の運動学習による変化は全般の一様な変化ではなく、その学習課題に用いられる各筋の特異性に依存していることが示唆された.
  • 山下 順子, 磯野 賢, 有賀 美穂, 大西 正紀, 渡邉 春美, 平賀 満, 高村 哲仁
    セッションID: P2-130
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/04/25
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    【はじめに】
    一般に、試行から結果の知識(以下KR)付与までの時間(以下KR遅延)の延長はパフォーマンスおよび学習効果を低下させると言われている.またKR遅延における自己評価は学習に良い影響を与えるとの報告もある.そこで本研究では、KR遅延を延長しその間に自己評価をさせ、パフォーマンスおよび運動学習にどのような影響を与えるか検討した.

    【対象と方法】
    本研究の趣旨を説明し同意が得られた健常成人42名(平均年齢27.3±5.0歳)を対象とした.これを、試行毎に開始から1秒後にKRを与える群(以下I群)と、5秒後にKRを与え、KR付与までの間に遂行した試行を自己評価するよう指示した群(以下R群)と、別課題を遂行するよう指示した群(以下D群)の3群に、ランダムに配置した.運動課題は最大握力の半分の力で握ることとし、KRを与える15試行の練習相と、10分後・1日後にKRなしで行われる3試行ずつの想起相で行った.握力計はGRIP STRENGTH DYNAMOMETERを使用し、KRは表示された握力値を口頭にて付与した.パフォーマンスの良否は3試行を1ブロックとして求めた絶対誤差(以下AE)を最大握力で除し、二元配置の分散分析を用いて、(1)I群とR群におけるブロック間、群間の比較でKR遅延の延長と自己評価の影響について、(2)R群とD群におけるブロック間、群間の比較で自己評価の有効性について検討した.有意水準は5%未満とした.

    【結果】
    (1)練習相ではI群・R群ともAEが減少し、群間の主効果は認められなかったが、ブロック間では主効果がみられた(F4,120=17.956、p<0.05).想起相では1日後想起相において群間に主効果が認められた(F1,30=4.811、p<0.05).(2)練習相ではR群・D群ともAEが減少し、ブロック間で主効果がみられ(F4,96=9.450、p<0.05)、群間においても有意な主効果が認められた(F1,24=1070.277、p<0.05).想起相においてはR群のAEが高値を示し、群間に有意な主効果が認められた(F1,24=168.319、p<0.05).

    【考察】
    I群とR群では、練習相において、ともにパフォーマンスの向上が認められた.これはKR付与により次試行に向けて運動プログラムが修正されたためであると考えられる.想起相においてはR群の方がAEは小さく、より良好なパフォーマンスを示している.これは、KR付与までの間に行った自己評価がKR遅延の延長によるパフォーマンス低下を防ぎ、改善させる働きを持っているためではないかと考えられる.R群とD群の比較においても練習相・想起相ともに、R群の方がAEは低い値を示したことから、自己評価の有効性が認められたと考えられる.
  • ―心拍出量と活動体肢血液流量応答―
    井出 宏, 越中 宏明, 田平 一行
    セッションID: P2-131
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/04/25
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】
    等尺性収縮などの静的な運動は、筋の収縮張力に比例して活動筋の筋血液流量は高まるが、ある閾値を越えると逆に筋内圧が高まり、血圧がさらに増加する.そのため、高血圧症症例や心疾患症例に対して、筋力テストや筋力トレーニングなどを行う場合、適切なリスク管理が必要とされている.そこで、今回、大腿四頭筋に対して等尺性収縮を行い、活動筋量の増加に伴って血圧、心拍出量、活動筋血液流量がどのような関連を持って変化するかを検討することを目的とした.

    【方法】
    対象は、ヘルシンキ宣言に基づいて本研究に同意した運動習慣のない年齢21~22歳の男性9名とした.方法は、安静端座位、膝関節屈曲45度位において大腿四頭筋の最大伸展筋力(MVC)を決定した.負荷強度設定は、10、30、50%MVCをランダムにそれぞれの被験者に施行し、大腿四頭筋に対して等尺性収縮を行った.実験手順は、検査中の呼吸数を一定数に保持し、3分安静後、1分間等尺性収縮(1回目)、10分間休憩、1分間等尺性収縮(2回目)、10分間休憩、1分間等尺性収縮(3回目)の順序で行った.測定項目は、収縮期血圧、拡張期血圧、心拍出量、1回拍出量、心拍数をPORTAPRES(FMS社)で測定し、近赤外分光法で外側広筋の筋血流量(Total Hb)をそれぞれ同時に連続測定した.解析方法は、安静時の数値を基準として、収縮期血圧が最大変化した時点の拡張期血圧、心拍出量、1回拍出量、心拍数、筋血液流量の変化量を検討した.負荷強度間の比較は一元配置分散分析を用いてp<.05を統計的有意差ありとした.
    【結果】
    心拍数と筋血液流量は10%MVCと比較して 50%MVCで有意に増加した.それ以外の項目は統計的有意差を認めなかった.しかし、最高収縮期血圧への到達時間や収縮期血圧が最大変化した時点での各測定項目の変化幅は、個人間で大きかった.
    【考察】
    血圧の決定要因は、心拍出量(1回拍出量×心拍数)や末梢血管抵抗によって決定される.心拍出量は心臓の収縮性、前、後負荷が関与しており、これらの因子も交感神経、筋ポンプ機能など様々の因子によって決定される.さらに、活動筋の血液量は、収縮強度や個人の血流阻止閾値、筋交感神経活動などによって決定される.通常運動強度の増加に伴い血圧は上昇するが、今回はその傾向を認めなかった.これはTotalHbの増加は筋の鬱血を示唆しており、それによって静脈還流量が低下していることが関与しているのではないかと思われる.このように最終的な血圧を決定は、様々な機能的要因によって決定されるため、血圧を筋力テスト、有酸素運動、筋力トレーニングのリスク管理の基準とする場合、各個人間の各因子をモニタリングする必要性が示唆される.
  • 山本 武, 吉川 卓司, 西田 裕介
    セッションID: P2-132
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/04/25
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    【目的】腰背部の不良姿勢や動作時の生体反応を理解することは腰痛患者への日常生活指導,治療選択に重要である.そこで本研究では運動肢位を固定した同等な仕事量における,腰背部筋の異なる筋収縮様式と運動強度での筋活動と血液動態を比較検討したので報告する.
    【方法】対象は専門学校学生の男性19名(平均年齢21.0±0.9歳)であった.対象者には研究の内容・安全性・任意参加性等を十分説明した上で同意を得た.また,本研究は聖隷クリストファー大学倫理委員会の承認を受けて実施した.測定肢位は体幹30度前屈位とした.被験者の最大随意収縮力(MVC)を測定したうえで,Tension time indexを同等に設定した4条件;1)30%MVCで120秒持続的収縮,2)60%MVCで60秒持続的収縮,3)30%MVCで200秒間欠的収縮,4)60%MVCで100秒間欠的収縮,を一人の被験者にランダムな順序で施行した.疲労の影響を排除するために各施行間は3日以上あけた.近赤外線分光法にて,組織酸素飽和度(StO2)と総ヘモグロビン量(total-Hb)を測定し,表面筋電図を記録した.測定部位は右側腰部脊柱起立筋筋腹とした.収縮様式,運動強度の違いによる比較には対応のあるt検定,経時的変化による比較には一元配置分散分析,筋電図波形からは中間パワー周波数(MdPF)を算出して検討した.危険率5%未満を有意水準とした.
    【結果】収縮様式の違いで比較した60%MVC時StO2は運動終了時に有意な差が認められた(p<0.05).持続的収縮でのStO2は60%MVCの方が時間経過とともに低下し,運動時間の後半に30%MVCと有意な差が認められた(p<0.05).total-Hb量は全ての運動強度,収縮様式で群間にも経時的にも有意差がなかった.MdPFは全ての運動強度,収縮様式で経時的な低下が認められなかった.
    【考察】今回の研究で60%MVCの両収縮様式間でtotal-Hb量に有意差が認められないにも関わらず,StO2において運動終了時に有意な差が認められたのは,持続収縮の方が間欠収縮より筋での酸素消費が多かったことが示唆される.一方,全ての運動強度,収縮様式でMdPFには経時的な低下が認められなかったことから,60%MVCの両収縮様式とも測定部での局所疲労はなかったと考えられる.また,持続収縮の両運動強度間でStO2において経時的に有意な差が認められたのは運動開始後中盤以降であるが,全ての運動強度,収縮様式でMdPFに経時的な低下が認められないことから,持続収縮の両運動強度とも測定部での局所疲労はなかったと考えられる.すなわち,今回設定した4条件の中では,局所疲労を起こさず効率よく筋酸素消費できるのは60%MVCでの持続収縮であったと考えられ,腰部に局所疲労を起こさず効率よくトレーニング出来る可能性の指針が得られた.
  • 坂井 仁美, 北川 真実, 柘植 孝浩, 原 康紀, 久野 麻由子, 坊 慎太郎, 中 徹
    セッションID: P2-133
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/04/25
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    【目的】
    呼吸運動は胸郭の運動と横隔膜の運動からなるが,胸郭の運動は複雑で多様な動きをするため,詳細な動きの実態は明らかではない.重症心身障害児は胸郭の変形が問題となるが、彼らへの呼吸器の理学療法を行う前提として、呼吸運動時の胸郭の動きの詳細を理解したいという問題意識を持つに至った.そこで、今回我々は肋骨間の距離(以下,肋間距離とする)が呼吸運動に連動して変化しているのではないかと考え,肋間距離の測定を通じて呼吸運動時の胸郭運動の実態を明らかにする試みを行った.
    【方法】
    被験者は男性10人(平均21.3±0.48歳)とした.肋間距離の測定には超音波診断装置(SONOACE PICO (MEDISON社))を使用し,肋骨間に位置する胸膜の長さをもって肋間距離とした.測定姿勢は座位,側臥位,仰臥位,腹臥位であり,呼吸様式は安静呼吸と努力性呼吸にて呼気時と吸気時にそれぞれ一回ずつ計測を行った.測定部位は,第2・3肋間と第7・8肋間における左右の前面,側面,後面とした.統計処理には三群以上の比較には一元配置分散分析法とTukeyの多重比較を,二群比較にはwilcoxonの符号付順位和検定を用い,有意水準を5%にて検定した.
    【結果】
    安静吸気時と努力性吸気時の比較では,第2・3肋間において努力性吸気時より安静吸気時に肋間距離が長くなる姿勢・部位が多く見られた.しかし,腹臥位の胸郭後面では安静吸気時より努力性吸気時に肋間距離が長かった.第7・8肋間においては,腹臥位の左胸郭側面を除くすべての姿勢の胸郭前面,側面で安静吸気時より努力性吸気時に肋間距離が長かった.
    吸気時と呼気時の比較では、第2・3肋間において努力性吸気時より努力性呼気時に肋間距離が長くなる姿勢・部位が多く見られたが,腹臥位の胸郭後面では努力性呼気時より努力性吸気時に肋間距離が長かった.
    第2・3肋間と第7・8肋間の比較では、努力性吸気時において,座位の右胸郭側面,側臥位の右胸郭前面,仰臥位の左右胸郭前面において第7・8肋間より第2・3肋間の方が長かったが,側臥位の左右胸郭後面では肋間距離は第2・3肋間より第7・8肋間の方が長かった.
    胸郭前面,側面,後面の比較では,安静・努力性呼吸時において胸郭前面が最も長い姿勢・部位が多く見られた.しかし,腹臥位の安静吸気時において,右第2・3肋間距離のみ胸郭後面より胸郭側面の方が長かった.
    【考察とまとめ】
    今回の結果では側臥位や腹臥位における胸郭後面の肋間距離の変化が特徴的に見て取れた.よって、側臥位や腹臥位を治療姿勢として選択し,胸郭後面の肋骨の運動を引き出すことによって,肋骨にかかわる関節の可動性を維持し,ひいては変形を予防し,結果として肺の換気能を改善することが期待できる.
  • 乾 亮介, 森 清子, 竹嶋 宏剛, 西埜植 祐介, 中島 敏貴
    セッションID: P2-134
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/04/25
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    【目的】
    口唇閉鎖力の強化は、安静時や睡眠時においても舌を挙上位に保ち、舌骨や喉頭を引き上げ、気道を確保し鼻呼吸をしやすくする.このことより、口唇閉鎖は口腔内乾燥や、誤嚥性肺炎等の感染予防に有効であると秋廣は報告している.特に誤嚥性肺炎については食事時の誤嚥よりも、睡眠時において感染した唾液等を気管内に吸引してしまう不顕性誤嚥によっておこると言われている.先行研究において嚥下反射に有効な体位についての報告は数多くなされているが、口唇閉鎖をしやすい体位についての報告はなされていない.そこで今回我々は、摂食嚥下訓練時だけでなく、誤嚥性肺炎の患者、あるいはその危険性がある方に対してより安全で口唇閉鎖しやすい体位を検討した.
    【方法】
    対象は研究の趣旨に書面にて同意を得た健常成人22名(平均年齢30.8±7.5歳、男性11名、女性11名).「端座位」、「背臥位」、「ベッドアップ(以下BU)30°、60°」の各体位について、コスモ計器社製のLIP DE CUM LDC-110Rを用い、口唇閉鎖力を測定した.測定中の頭頚部は体幹に対して正中位とし、各体位において、最大努力で口唇閉鎖を10秒間行い、1分間の休憩を挟み計3回繰り返し、3回の平均値を各被験者の口唇閉鎖力とした.尚、測定は筋疲労を考慮し1日に1体位までとした.統計処理には各体位間の比較についてWilcoxon符号順位検定を用いた.
    【結果】
    各体位の口唇閉鎖力の平均値は端座位9.8±2.3N(ニュートン)、背臥位10.5±3.0N、BU30°10.7±2.5N、BU60°10.7±2.7Nであり、端座位は背臥位よりも有意に低い値を示した(p<0.05).また、端座位とBU30°、BU60°との比較でもより有意に低い値を示した(p<0.01).しかし、背臥位とBU30°、60°との各比較において統計学的有意差は認められなかった.
    【考察】
    口唇閉鎖は、口輪筋だけでなく、舌骨上筋群であるオトガイ舌骨筋や顎舌骨筋、茎突舌骨筋により、舌挙上運動や下顎運動を伴う.これらの筋は舌骨や下顎、後頭骨に起始、停止を持つため、円滑に活動するためには頭位の安定化が必要である.今回端座位において最も低い値を示した理由は、他の体位が頭部を枕に定位できたのに対し、端座位では頭位を自ら固定する必要があり、これら舌骨上筋群が頭位固定に代償的に活動し、口唇閉鎖の妨げになった為と考える.また、背臥位とBU30°、60°の各体位間について有意差がなかった要因として、被験者間で最高値を示す体位にばらつきがあり、口唇閉鎖には、重力や頭頚部の固定だけでなく、呼吸筋等も含めた体幹機能など、その他の影響も受ける可能性が示唆された.今後はさらに、頚部筋力や体幹筋力及び頚部・体幹アライメントなど条件を変えて比較検討を行い、これらの関係性を明らかにしていく必要があると考える.
  • ―脳血管疾患患者における検討―
    山元 佐和子, 倉田 俊洋, 森田 英隆, 古川 順光
    セッションID: P2-135
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/04/25
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    【背景】回復期リハビリテーション病棟(回復期病棟)において、入院者の在宅復帰の可否は最も重要なアウトカムのひとつである.一方、血清アルブミン値など採血によって得られるデータは、リハビリテーションに影響を与える因子として注目されてきている.そこで今回、脳血管疾患により回復期病棟に入院・加療した者の入院時採血データと在宅復帰の可否との関連について後方視的に分析を行った.
    【方法】対象は、2006年10月から2007年9月までの間に脳血管疾患により回復期病棟に入院しリハビリテーションを実施した者のうち分析データに欠損のない110例(男性62名、女性48名)であった.対象の平均年齢は72.2(35~94)歳であった.分析データは入院時の年齢・血清アルブミン値・総蛋白とし、診療記録から抜粋し入手した.分析は、在宅復帰の可否を従属変数、分析データを独立変数とし、尤度比による変数増加法による多重ロジスティック回帰分析を、SPSS(ver.16.0)を用いて統計学的有意確率5%未満で実施した.なお、分析の対象とした検査データは、研究目的で実施された検査ではなく全て加療目的に得られたものであったが、個人が特定されないようにすることを以って倫理的配慮とした.
    【結果】対象の60.0%が在宅へ退院していた.入院時採血データは、血清アルブミン値が平均(SD)で3.65(0.41)g・dl-1、総蛋白が平均(SD)で6.91(0.64)g・dl-1であった.分析の結果、血清アルブミン値(偏回帰係数:-2.36、オッズ比:0.09、95%信頼区間:0.03-0.30)と在宅復帰の可否との間に有意な関連を認めた(p<0.01).モデルχ2検定の結果はp<0.01、HosmerとLemeshowの検定結果はp=0.96と良好であったが、判別的中率は69.1%であった.
    【考察】血清アルブミン値は、栄養状態との関連よりもむしろ基礎疾患の重症度や炎症がある際に低下するが、脱水がある場合には値が上昇するなど、単独で栄養状態や基礎疾患の状態を示すものではない.しかし、先行研究では、血清アルブミン値は在院日数・脳血管疾患患者の死亡リスク・合併症の発生率との関連も示唆されている.さらに褥創などのリハビリテーション阻害因子との関連も示唆されていることから、血清アルブミン値はリハビリテーションを円滑に進めるうえで重要な指標のひとつになると考えられる.このことから、リハビリテーション対象者に対し、採血データを評価・把握することは、脳血管疾患患者の在宅復帰の可否を予測するうえで有益であるといえる.
    【まとめ】回復期病棟入院者の入院時栄養状態と在宅復帰の可否との関連について後方視的に分析を行った結果、血清アルブミン値が在宅復帰の可否と関連があることが示された.
  • 平川 倫恵, 加藤 久美子, 鈴木 重行
    セッションID: P2-136
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/04/25
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    【目的】尿失禁は直接生命を脅かす疾患ではないが,生活の質(QOL; Quality of life)に大きな影響を及ぼす疾患である.女性の尿失禁保有率は40代女性において約30%との報告があり,その中でも,出産や加齢に伴う骨盤底筋群の脆弱化によって生じる腹圧性尿失禁は女性が最も罹患しやすい尿失禁のタイプである.腹圧性尿失禁に対する治療法には,手術療法の他,骨盤底筋体操,その補助的なものとしてバイオフィードバック療法などの理学療法がある.欧米において,腹圧性尿失禁に対する理学療法は,治療,研究ともに積極的に行われているが,本邦においては,医師が膣内診により簡単に説明し経過を観察するに留まっており,研究も殆ど行われていないのが現状である.我々理学療法士が介入を行うためには膣内診に頼らない介入方法の確立が必要である.そこで,本研究では腹圧性尿失禁に対するホームトレーナーを併用した高頻度のバイオフィードバック療法の治療効果の検討を行うことを目的とした.
    【方法】本研究は,名古屋大学医学部倫理委員会保健部会の承認を受けた上で実施した(承認番号8-515).取り込み基準は,泌尿器科医師により腹圧性尿失禁と診断されたものである.また,除外基準は,膣入口部をこえる骨盤臓器脱のあるもの,妊娠中のもの等である.名古屋第一赤十字病院女性泌尿器科の外来患者のうち,上記の取り込み基準を満たし,除外基準に該当しないものに対して研究内容を十分に説明し,参加の同意が得られたもののみに参加を依頼した.ホームトレーナーは,膣に挿入するプローブとそれに接続しているヘッドフォンからなる家庭用EMGバイオフィードバック機器であり,音声ガイドによって骨盤底筋体操を補助する.ホームトレーナーの内蔵メモリにはホームエクササイズの実施状況が記録される.本研究の対象となったものに対し,ホームトレーナーを用いて治療介入を行い,治療効果の検討を行った.
    【結果・考察】頻回の来室が困難であるという理由で参加を辞退したものも少数みられたが,殆どの患者がバイオフィードバック療法に興味を示し本研究への参加に同意した.本邦の文化的な背景から,膣に機器を挿入する手法は受け入れ難いかと思われたが,本研究において,ホームトレーナーの受け入れは良好であった.ホームトレーナーを用いることで,患者自身は骨盤底筋群の収縮を確認しながら体操を行うことができ,介入者はより詳細なフォローアップを実施することが可能となった.ホームトレーナーを併用したバイオフィードバック療法は,膣内診に頼らない有効な介入方法であると考えられた.
  • ―快適歩行速度における基礎研究―
    高橋 一揮, 伊藤 智喜, 木村 安見, 田村 岳久, 永井 雅人, 西村 佳小里, 平田 千明, 山口 慎一, 吉田 恵梨, 遠藤 雅人
    セッションID: P2-137
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/04/25
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    【目的】
    近年、健康増進や疾病予防からウォーキングを中心として歩行が関心を高めている.歩行は速度や歩幅を変数とした場合、そのエネルギー消費量は速度や歩幅に比例して増加することが報告されている.しかし、歩行率に着目してエネルギー消費や心負荷などの生理反応を検討した報告はない.よって本研究の目的は、快適歩行速度での歩行率を変数とした際の生理反応について検討することとした.
    【方法】
    対象者は下肢の障害や呼吸・循環器系障害を有さず、研究に同意の得られた健常若年男性50名(年齢21.0±2.5歳)とした.対象者は10m歩行試験を行い快適歩行速度と歩行率を算出すると同時に、無作為に快適歩行での歩行率群(以下、コントロール群)・歩行率15%減群・30%減群・15%増群・30%増群の5群、各10名に分けた.負荷設定はトレッドミルを用い、安静3分後快適歩行速度・設定歩行率にて10分間の歩行を行った.測定項目は酸素摂取量、分時換気量、心拍数、主観的運動強度とした.データ処理は生理反応では運動終了直前の1分間を平均化したものを用い、主観的運動強度はBorg Scaleを用いて運動終了時に聴取した.統計処理は一元配置分散分析を用い、post-hoc testとしてTukeyの方法を用いた.有意水準は5%未満とした.また、5群間での筋活動を検討するため対象者の中から3名を抽出し、大殿筋・中殿筋・大腿二頭筋・内側広筋・腓腹筋・前脛骨筋の筋電図を用いた.
    【結果】
    各群間の対象者の身体特性や安静時生理反応、快適歩行速度、歩行率に有意な差はみられなかった.歩行時の比較では、30%減群が酸素摂取量と分時換気量では他のすべての群に対して、心拍数では15%減群以外の群に対して有意に増加した.15%減群は有意な差は見られなかったが、酸素摂取量・分時換気量・心拍数がコントロール群に対し増加傾向を示した.15%増群と30%増群の生理反応はコントロール群とほぼ同値を示した.主観的運動強度は各群間にて有意な差は認められなかった.また、筋活動の検討では一定のパターンは示さなかったが、筋積分値の合計にてコントロール群と比較し、歩行率が減少すると筋積分値が増加する傾向が得られた.
    【考察】
    快適歩行の速度下にて歩行率を減少させる歩行では、酸素摂取量が増大し主観的運動強度が変化しなかったため、自覚的負担を強いることなくエネルギー消費を上げることのできる手段である可能性が示唆された.しかし、心拍数の増加が伴うため、循環器系疾患を合併している際には注意が必要であることが示された.また、エネルギー消費増大は歩行率減少にて重心偏移が大きくなり、筋活動量が増大したことによると考えられた.
  • 鏑木 康宏, 鳥居 直美, 白井 正樹
    セッションID: P2-138
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/04/25
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    【目的】メタボリックシンドロームの指標として広く認知されてきた“腹囲”や“BMI”の増大は,食習慣や運動習慣の不良により生じるとされている.昨年度当院にて生活習慣改善への動機づけ支援セミナーを行った際,腹囲や身体組成と筋力等の運動機能との間に相関がみられた.今回,当院地域住民を対象として,体格,身体組成,運動機能および運動習慣を調査測定し,それらの関連性を検討した.
    【方法】対象は,当院の地域活動である「健康祭り」への来場者のうちで筋力測定イベントへの参加者とした.調査項目は体格・身体組成として腹囲,体重,体脂肪率,BMIおよび血圧を測定した.運動機能は徒手筋力測定器による膝伸展等尺性筋力(屈曲角度90°),30秒立ち上がりテスト(CS-30),重心動揺計を用いた閉脚立位バランス能力を測定した.アンケートでは,運動習慣の有無および内容と頻度,生活習慣改善への行動変容ステージを調査した.調査が全て可能で,未成年等を除外した58名(59±17.4歳,女性40名,男性18名)を分析対象とした.調査項目間の関連性は,ピアソンの積率法を用いて有意水準を5%未満とし分析した.また,運動習慣の有無や頻度で分類し身体組成と運動機能を対応のないt検定を用いて群間比較した.なお,本研究はヘルシンキ宣言を遵守し,対象者のプライバシーに配慮し説明と同意を得て実施した.
    【結果】調査項目間の関連性は,男女において腹囲と膝伸展筋力%体重比(男性r=-0.597,女性r=-0.601)および収縮期血圧と膝伸展筋力%体重比(男性r=-0.511,女性r=-0.465),CS-30(男性r=-0.723, 女性r=-0.521)に有意な負の相関を認めた.女性において,収縮期血圧と閉眼時総軌跡長(r=0.434,),矩形面積(r=0.415),外周面積(r=0.425)に有意な正の相関が認められた.運動習慣の有無と身体組成や運動機能との間に有意な関連は認めなかった.女性において,1回30分以上の運動を週3日以上の実施有無での比較では,膝伸展筋力%体重比,CS-30,体重,BMI,体脂肪率に有意な差(p<0.05)を認めた.
    【考察】生活習慣病指標の腹囲や血圧と,下肢筋力やバランス能力との負の相関が認められた.メタボリックシンドロームでは,血管性や内部疾患だけでなく運動機能低下をきたす可能性が示唆された.また,1回30分以上の運動を週3回以上実施することが,身体組成や運動機能の改善を期待できると考えられた.
    【まとめ】運動機能の低下は整形外科疾患やQOLとの関係も証明されており,内臓脂肪型肥満が2次的障害である変形性関節症,ロコモティブシンドロームにも繋がることに視点を拡げる一知見となりうる.
  • 木戸 聡史, 丸岡 弘, 高柳 清美, 荒木 智子, 鈴木 陽介, 小牧 宏一
    セッションID: P2-139
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/04/25
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    【背景および目的】身体運動を行うと安静時と比較してより多くの酸素が体内に取り込まれミトコンドリアでの活性酸素種(ROS)産生が増加する.抗酸化能に対してROS生成系が優位になり体内で酸化-抗酸化のバランスが破綻すると,酸化ストレスにより様々な障害が現れることは明らかになっている.しかし一方では,継続的な身体運動を行うとROSに対抗する抗酸化能を高め健康増進によいと言われるため,生体への酸化ストレスを最小限にとどめうる運動強度を明らかにすることは重要である.酸化ストレスについて先行研究ではV(dot)O2max(最大酸素摂取量)80%の運動後の上昇が認められているが,嫌気性代謝閾値(AT)前後の運動では有意な変化がないという報告がされている.そのため本研究ではATを基準にした2種類の強度の運動が,血中酸化ストレス動態に与える影響を明らかにする.
    【方法】対象者は健常男性(19.9±1.7歳)18例だった.方法は心肺運動負荷試験を実施した後,AT 強度とAT150%強度で30分間のトレッドミル歩行を無作為の順に行った.運動強度は心拍数で規定し運動中の負荷量を調整した.運動時には運動前(RE)と運動直後(PO)で指尖より血液を採取した.採取した末梢血をFRAS4(Free Radical Analytical System 4)により,d-ROM test 値(酸化ストレス)BAP test 値(抗酸化力)を測定し,BAP/d-ROM比(潜在的抗酸化能)を算出した.データ解析はSPSS 16.0J for windowsを使用し,各指標の運動前後の変化をATとAT150%で比較するためpaired-t testを用いた.有意水準は危険率5%未満とした.なお,本研究は埼玉県立大学倫理委員会の承認を受けて実施し,対象者に対しては目的と手順について文書と口頭で説明し参加の同意を得た.
    【結果】RE と比較しPOにおいて,d-ROM test値はAT強度で3.6%上昇し(p<0.05)AT150%強度では8.2%上昇した(p<0.01).BAP test値はAT強度で有意に変化せず,AT150%強度で6.8%上昇した(p<0.01).BAP/d-ROM比はいずれも有意に変化しなかった.
    【考察】先行研究ではAT強度の運動後に酸化ストレスが上昇しない報告があるが,本実験結果ではAT強度とAT150%強度の運動後に酸化ストレスの上昇が示された.しかしBAP/d-ROM比はいずれの運動後も有意に変化しなかった.これは抗酸化能を上昇させてBAP/d-ROM比の上昇を抑制したためと考えられた.加えて,抗酸化能はAT150%強度でのみ有意に上昇したため,運動強度が上がると抗酸化能が賦活される事が示された.
    【まとめ】健常成人では運動強度を上げた時血中へ抗酸化物質の動員を高めるため,AT150%強度で30分間の運動まででは酸化-抗酸化の関係が破綻するという結果は認められなかった.
  • 山口 寿, 高橋 精一郎, 甲斐 悟
    セッションID: P2-140
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/04/25
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    【目的】運動としての歩行は安全性や利便性から運動処方に多く利用されている.歩行は屋内や屋外など様々な環境で行われることが多い.歩行に関する呼吸循環反応の研究は多く行われているが,屋内外での歩行環境の違いによる変化やその相違を検討した研究は少ない.今回,屋内および屋外平地歩行においての呼吸循環反応の変化や相違を比較分析することで,今後の運動処方,指導に資することを目的とした.
    【方法】対象者は研究内容を説明し,本研究参加に同意を得た健常男性14名(平均年齢21.9±3.8歳)とした.測定は平地歩行の可能な屋内と,屋外では市街地および運動公園の3つの条件とし,屋内は1周60mのトラックを作成し周回させた.屋外は平地歩行の可能な市街地とウォーキングコースのある運動公園とした.歩行様式は自由歩行,歩行速度は時速6kmとし中等度の運動強度に設定した.測定項目は心拍数,酸素摂取量,代謝当量(以下METs)ならびに自覚的運動強度(以下RPE)とし,測定機器は呼吸代謝測定装置VO2000(Medical Graphics社製)を用いた.心拍数と酸素摂取量は安静時と運動開始から20分間を測定し,運動終了時にRPEを聴取した.統計学的処理にはDr.SPSS IIfor Windowsを用いた.各条件の心拍数,酸素摂取量,METsの実測値と変化率の比較には一元配置分散分析を行った.RPEの比較にはボンフェローニの不等式による多重比較を行った.有意水準は5%未満とした.
    【結果】3つの条件における生理的反応である心拍数,酸素摂取量, METsは,実測値の経時的変化と安静時を基準値とした変化率のいずれにも統計学的な有意差は認められなかった.主観的反応ついては各条件でのRPEは屋内,市街地,運動公園の順に有意に高かった.
    【考察】同一速度,歩行様式の運動負荷で,気温もほぼ同じであれば,運動処方において屋内と屋外で運動処方を変更せずに用いても,生理的反応に影響は少ないことが示唆された.主観的反応であるRPEに相違がみられたのは,屋内と屋外の環境の違いが関与したと推測される.運動公園では他の2条件の環境に比較し,生理的反応と主観的反応との一致が高く屋内では差がみられた.運動公園には樹木や植物も多く,他の環境に比較し心理的にリラックスできる環境であり,それに比べ屋内は周回コースで,景観の変化もなく繰り返しであったことが,主観的に負荷を強く感じたと推測される.RPEを用いての運動処方では屋内外の環境が,対象者に与える影響を考慮する必要性が示唆される.今回の研究はRPEに関連してくる心理的因子についての詳細な解明には至っていない.また対象者は健常成人であり,呼吸循環反応は年代や性別などに影響を受けやすいものであるため,これらについての詳細研究が今後の課題と考える.
  • 藤山 祐司, 増田 卓, 山本 壱弥, 倉形 裕史, 鈴木 秀俊, 小倉 彩, 石井 玲, 忽那 俊樹, 松本 卓也, 小澤 哲也, 山本 ...
    セッションID: P2-141
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/04/25
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    【目的】継続した運動療法は,加齢に伴う動脈伸展性の低下を抑制することが知られているが,一回の運動時の血管応答に対する加齢の影響を検討した報告は極めて少ない.また,動脈伸展性を抑制する機序として自律神経活動の不均衡や血管内皮障害の関与が指摘されているが,その詳細は十分に検討されていない.そこで,本研究は中高年の健常者を対象として,一回の運動負荷時の血管応答に対する自律神経活動の影響について検討した.
    【方法】本研究の趣旨に対して同意が得られた中年健常者10例(中年群;56±6歳)と,高齢健常者11例(高齢群;70±4歳)を対象とした.運動負荷に対する血管応答は,初めに15分間の安静臥位をとった後に動脈波伝播速度(PWV)を測定し,続いて自転車エルゴメータを用いて運動負荷を行い,再び10分間の安静臥位の後にPWVを再度測定し評価した.自転車エルゴメータを用いた運動負荷は,トレッドミル運動負荷試験より得られた最高心拍数の75%を目標心拍数(THR)とし,THRにて10分間の運動を維持した.運動負荷前に対する運動負荷後のPWVの変化量(?儕WV)を算出し,機能的動脈硬化度とした.自律神経活動の評価は,ホルター24時間心電図から得られたR-R間隔をMem-Calc法を用いて周波数解析し,得られた高周波成分(HF)を副交感神経活動の指標とした.自転車エルゴメータ運動負荷前後に血漿ノルエピネフリン濃度(NE)を測定し,その変化量(?儂E)を交感神経活動の指標とした.器質的動脈硬化の指標として,頸動脈内膜中膜複合体肥厚(IMT)を測定した.血管内皮機能の指標として,Thrombomodulin(TM),von Willebrand因子(vWF),高感度CRP(hs-CRP)を測定した.解析方法は対応のないt検定,二元配置分散分析を用い,統計学的有意水準は5%未満とした.
    【結果】中年群は運動負荷後にPWVが有意に低値を示したが,高齢群では有意な変化を認めなかった.安静時血圧,心拍数,Body Mass Index,?儕WV,?儂E,TM,vWF,hs-CRPには両群間で有意な差を認めなかった.高齢群は中年群と比べて,運動負荷前PWV,運動負荷後PWV,IMTが有意に高値を示し,HFは有意に低値を示した.
    【考察】中年健常者は,運動負荷後に機能的動脈硬化度の改善を認めたが,高齢群では変化を認めなかった.高齢健常者では,器質的動脈硬化の進行と副交感神経活動の低下が認められた.これらにより,運動負荷に対する動脈伸展性の低下には,加齢による血管壁の動脈硬化性変化に加えて,副交感神経活動の減弱が関与することが示された.
    【まとめ】今後,健常者に対する動脈硬化の進行予防を目的とした運動療法には,自律神経活動の不均衡を是正する介入が必要であると考えられる.
  • 杉浦 弘通, 酒向 俊治
    セッションID: P2-142
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/04/25
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    【目的】呼吸筋は,持久力トレーニングを行った後,筋力低下を引き起こすことが報告されている.しかし,呼吸筋力と運動耐容能との関連性については明らかにされていない.そこで,呼気,吸気の呼吸筋力と運動耐容能との関連性について検討した.

    【方法】対象者は,健常成人男性9名(平均年齢20.7±0.5歳)とした.対象者には,実験の趣旨を十分説明し,同意を得て行った.運動方法は,エルゴメーター(COMBI,AEROBIKE75XL2ME)を使用し,20W/minのRamp 負荷で行った.呼吸筋力の測定は,運動前後にスパイロメータ呼吸筋力測定ユニット(ミナト医科学,AS-507)を用いて,最大呼気の口腔内圧(PEMAX)と最大吸気の口腔内圧(PIMAX)を各10回測定し,その平均値を求めた.運動時の測定は、呼吸パラメータとして,呼気ガス分析装置(ミナト医科学,AE-300S)によるbreath by breath法を用いて,最大酸素摂取量を測定した.循環パラメータは,心電計(日本光電,ECG-9522)によりR-R間隔から心拍数を算出した.統計学的処理は,運動前後の呼吸筋力を比較するため,Wilcoxon符号付順位和検定を行い,運動前の呼吸筋力と最大負荷量,最大酸素摂取量との相関にはPearsonの相関係数を用いた.

    【結果】呼吸筋力の平均値は,運動前,PEMAX182.1±11.2H2Ocm,PIMAX98.0±7.5H2Ocm,運動後,PEMAX160.5±11.3 H2Ocm,PIMAX93.0±9.0H2Ocmであった.最大負荷量の平均値は,191.9±20.8watt,最大酸素摂取量2483.9±271.0ml/minであった.そして,運動前の呼吸筋力と運動負荷量との相関では,PEMAX(r=0.78,P<0.01),PIMAX(r=0.67,P<0.05)共に高い相関が認められた.また,運動前の呼吸筋力と最大酸素摂取量についても,PEMAX(r=0.66,P<0.05),PIMAX(r=0.73,P<0.05)共に高い相関が認められた.運動前後の呼吸筋力の比較では,運動後のPEMAXに有意な低下(P<0.05)がみられ,PIMAXに差は認められなかった.

    【考察】PEMAXとPIMAXは,最大負荷量と最大酸素摂取量に高い相関が認められた.また,運動後のPEMAXは,運動前に比べ有意な低下がみられ,運動前後のPIMAXには差はみられなかった.運動時の呼気筋の働きは,呼気量を増大させることで残気量が減少し,胸郭の弾性力を増加させた結果,受動的に行う吸気の割合を増加させる.また,横隔膜の拡張性が増すことで吸気が促されることなどが報告されている.以上のことから,呼吸筋力は,運動耐容能と関連していることが考えられ,特に呼気筋力は,吸気筋力よりも運動耐容能に影響することが示唆された.
  • 山口 耕平, 山田 拓実
    セッションID: P2-143
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/04/25
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    【目的】姿勢制御時の呼吸運動に関する報告は少ない.本研究では片脚立位課題を用い、姿勢制御時の呼吸運動の特徴について報告する.
    【方法】対象は本研究の内容を説明し同意の得られた健常成人18名(男性7名、女性11名、平均年歳22.1±1.7歳)である.姿勢制御課題として片脚立位を用い、片脚立位時の接地面を平地、昇り傾斜台(斜度19%)および前後動揺を加えるためのバランスマットと変化させた.この3種の接地面上での片脚立位を1分間実施し、この時の呼吸に伴う胸郭及び腹部運動の波形変化と一回換気量を計測した.この胸郭・腹部波形における一呼吸ごとの最大値、最小値および振幅を求め、この振幅を胸郭・腹部運動量とした.また、胸郭および腹部合成波形の最小値を呼気終末肺容量位(以下EELV位)とし算出した.これらのパラメーターは課題試行中の複数回の呼吸を用い平均した.統計処理に用いる胸郭・腹部波形に関するデータは安静立位時からの変化率とし、一回換気量については安静時からの変化量とした.胸郭・腹部波形測定には米国AMI社製レスピトレースを用い、呼気ガス分析にはミナト社製呼気ガス分析装置を用いた.統計処理として、各パラメーターに対し一元配置分散分析および多重比較を行った.処理にはSPSSを用いた.本研究は首都大学東京倫理審査委員会より承認を受け実施した.
    【結果】EELV位に関する一元配置分散分析では、試行について有意な差(p<0.05)がみられ、その後の検定より安静立位と比べ前後動揺試行で27%の有意な低下(p<0.01)、平地試行と前後動揺試行の間でも前後動揺試行に24%の有意な低下(p<0.05)がみられた.胸郭・腹部波形における最大値、最小値および運動量には有意な差がみられなかったが、最小値は前後動揺試行において胸郭で28%、腹部で19%の減少率増加がみられた.一回換気量については平地、傾斜台、前後動揺試行の順で増加傾向(p=0.07)を示し、この前後動揺試行における一回換気量増加に対し胸郭・腹部運動量増加率は各々18%・13%であった.
    【考察】本研究において、EELV位は不安定性が増大するにつれて減少する傾向がみられた.また、運動に伴う一回換気量の増大に対し、呼吸運動量の増加率は胸郭で大きかったことから、不安定性増大により腹部に比べ胸郭の呼吸運動が促されることがわかった.これは、姿勢制御において腹筋群は身体動揺を抑制するための等尺性運動を行わなければならず、呼吸運動における腹部拡張を引き起こすことが困難な状態であったことによると考えられる.以上の結果から、姿勢制御課題、特に不安定性の高い場合、EELV位は低下し、呼気位にシフトすることが確認された.また、呼吸運動は、腹筋群の姿勢制御課題への参加により腹部の可動性が低下するため、主に胸郭運動量の増大により賄われているといえ、本結果より姿勢制御課題中の呼吸運動において胸郭可動性の必要性が示唆された.
  • 下瀬 良太, 只野 ちがや, 田島 多恵子, 重田 枝里子, 与那 正栄, 内藤 祐子, 関 博之, 松永 篤彦, 室 増男
    セッションID: P2-144
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/04/25
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    【背景・目的】高齢者にとって心肺機能と筋力の維持・向上は重要である.それらの機能を維持するために生体ストレスの少なく,さらに大きな効果を期待できる低強度の運動トレーニングが求められる.しかし一般的には,トレーニング効果を出すために速筋の運動単位(fast-MUs)の動員やMU動員数の増加が重要とされており,これには比較的高い運動強度が要求される.低強度においてfast-MUsを動員する方法に皮膚冷刺激法が報告されている.しかしこれまでの皮膚冷刺激法の報告は静的運動時での検討が多く,自転車運動のような動的な有酸素運動時の皮膚冷刺激の検討は少ないのが現状である.そこで本研究は動的運動時の皮膚冷刺激が筋活動および呼吸循環系に与える影響について検討し,皮膚冷刺激自転車運動トレーニングの有効性を提案する目的である.
    【方法】ヘルシンキ宣言に基づき,実験の目的・内容を十分に説明して同意の得られた健常成人5名(平均年齢43±10歳)を被験者とした.また本研究は倫理委員会の承認を得て実施された.被験者は最初にRamp負荷での自転車エルゴメーター運動(60rpm)を行い,呼気ガス応答からAnaerobic Threshold(AT)を決定し,プロトコールで行なう運動強度(Target Work Rate; TWR,90%AT)を設定した.実験プロトコールは,まず0Wでの自転車エルゴメーター運動(60rpm)を3分間行い,その後TWRのStep負荷運動を6分間行なった.皮膚冷刺激は一定温度に保てるゲルパッド(15cm×17cm, 267g)を両側の大腿四頭筋を覆うように密着させることで行なった.そして皮膚温が適正温度(25度)になったことを確認して,ゲルパッドを密着させた状態でプロトコールを実施した(CS: Cold Stimulation).また非冷刺激運動時(C: Control)も同じ重さの常温のゲルパッドを両大腿部に密着させてプロトコールを実施した.プロトコール順はランダムとした.運動時は呼気ガス(breath-by-breath法),心電図,筋電図(外側広筋:電極直径10mm,電極間距離100mm)を測定し,TWR運動時のデータを解析した.
    【結果】CSにおいてすべての被験者の筋活動は増加した.一方,心拍数と酸素摂取量はCSとCの間に大きな差は示さなかった.また,自律神経活動もCSとCの間に大きな差を示さなかった.
    【まとめ】以上の結果から,皮膚冷刺激有酸素運動は,非皮膚冷刺激運動と同程度の生体ストレスにもかかわらず,筋活動の質的変化を引き出し,大きなトレーニング効果の期待が示唆された.
  • 三宅 隆広, 上西 啓裕, 小池 有美, 山本 義男, 伊藤 倫之, 幸田 剣, 後藤 正樹, 佐々木 裕介, 梅本 安則, 坂野 元彦, ...
    セッションID: P2-145
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/04/25
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    【目的】急性期リハビリテーションプログラムの基本は、ADLと歩行能力維持改善を目的として、坐位・起立などの抗重力位を取ることである.しかし、ヒトにおいて、立位での循環・内分泌応答に加え、総頸動脈血流量を調べた研究はない.そこで本研究は、若年健常者において、それらの応答を測定し、ヒトにおける起立時正常応答を総合的に理解することとした.

    【方法】対象者は循環器疾患・内分泌障害を有しない若年健常男性10名 (年齢21.6±1.6歳, 身長173±5.3 cm, 体重62.7±6.9kg)とした.3分間の安静臥位、5分間の起立、その後3分間の回復期間を観察した.心拍数、1回心拍出量、心拍出量、総頸動脈血流量は連続して、血圧は1分毎に測定した.また、抗利尿ホルモン、アドレナリン、ノルアドレナリン、アルドステロン、血漿レニン活性は実験開始から安静3分、起立5分、回復3分を測定した.なお、本研究は和歌山県立医科大学倫理審査委員会で承認され、被験者に同意を得た上で行った.

    【結果】起立負荷により1回心拍出量は減少(p<0.05)し、心拍数は増加(p<0.05)、そして心拍出量は減少(p<0.05)した.アドレナリンとノルアドレナリンも増加した(p<0.05).安静臥位からの起立で抗利尿ホルモン、アルドステロン、血漿レニン活性は変化がなかった.また平均動脈圧は維持され、同様に総頸動脈血流量も維持された.

    【考察】起立による1回心拍出量の減少は、血液の下肢への移動が起こり、それによって静脈還流量の減少が惹起されたためである.心拍数の有意な増加は、心拍出量を維持するために発現したが、それのみでは補償されなかったため、心拍出量が有意に減少したと考えられる.しかし、平均動脈圧の維持は、末梢血管支配の交感神経活動の亢進により、総末梢血管抵抗が上昇したためであると推察される.その傍証として、アドレナリンとノルアドレナリンの増加が観察された.一般的に起立時、抗利尿ホルモンは減少、アルドステロンは増加、血漿レニン活性も増加する.しかし、本研究では立位時間が短かったため、抗利尿ホルモン、アルドステロン、血漿レニン活性は変化がなかったと考えられる.血流量は内分泌ホルモンと交感神経系で全身的に調節され、また各組織の生理学的需要に反応して制御される.心拍出量の減少に関わらず、総頸動脈血流量を一定に保つことが出来た理由は、循環系は並列回路であるため、総末梢血管抵抗を増加させ、何らかの優先順位を持ちながら局所の血流量が減少されたためと考えられる.
  • ―近赤外線分光法を用いて―
    花田 智, 新地 友和, 福永 誠司, 湯地 忠彦, 東 祐二, 藤元 登四郎, 岩本 浩二, 田村 俊世
    セッションID: P2-146
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/04/25
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】米国心肺リハビリテーション協会では、運動療法の高リスク群において、連続的に運動継続が困難な場合は間歇的運動(以下運動)を採用して運動時間の延長を図ることが望ましいとしている.この運動の安全性や効果について、運動負荷中の血圧応答など中枢性効果は確認されているが、末梢循環等の報告は見当たらない.そこで、今回近赤外分光法(以下NIRS)を用い、この運動の末梢効果を検討する事を目的として行った.
    【方法】対象は、健常女性6名(年齢:24±4.2歳・身長:156.0±4.3cm・体重:50.9±9.3kg)であった.運動は自転車エルゴメータにて最大予測心拍数の50%の負荷(以下:設定値)と休息とを10分間30秒サイクルで実施した.尚、運動の前後は5分間安静とした.血行動態評価は、大腿外側広筋に対し非侵襲性ハンディ酸素モニタ(HEO-200:omron社製)を使用し、総ヘモグロビン量(以下tHb)を指標とした.その他、血圧・脈拍を2分間隔で測定した.統計処理は、運動開始直前1分間、各運動後の休息期、最終安静終了直前1分間におけるtHbの平均値をそれぞれ安静値、周期値、終了値と定義した.経時的変化は、安静値を100としたtHbの変化率(%)を求めた上で、安静値からの一元配置分散分析を行い、有意差を認めた際は、最小有意差法を用いて比較検討を行った(P<0.05).本研究は、当法人倫理委員会の承認を得た後、対象者に説明を行い、同意を得てから署名を頂いた.
    【結果】設定値は、平均40±8.05wattにて行った.tHb変化率の最小値は、運動開始直後の第1周期:69.62±86.25%、最大値は終了値:336.87±117.45%であった.第6周期以降では、安静値と比較して有意差(P<0.05)を認めた.経時的変化は、周期を重ねるごとに前周期のtHbより増加傾向にあったが、増加率は減少傾向であった.血圧等では、運動療法の中止基準に該当する被験者は認めなかった.
    【考察】今回の結果について、tHbの増加は筋血流量の影響が考えられた.筋血流量は、最大随意収縮(以下MVC)の20%前後から血流阻止が生じ、圧迫においても負荷の上昇に伴い上昇する.本研究では、20%MVC以上にて実施した為、運動が筋内圧上昇を招き、血流阻止が少なからず生じた可能性がある.それにより、休憩時に反応性充血を生じ、tHbが増加したものと考える.tHbの経時的変化について、運動の初期周期では、急激な運動単位(以下MU)の動員増加と筋収縮により血液量が低下し、休息時には筋血管網の拡張から反応性充血が生じるものの、相対的に低下したと思われる.しかし、周期の中盤以降では、同一負荷での実施が新たなMUの動員増加を抑制し、かつ運動の継続により、筋血管網の拡張が最大近くまで達したことで、比例的な増加率を示さなかったと考えた.
    【まとめ】本研究から、間歇的運動においても末梢効果を認めることが示唆された.
  • 上西 啓裕, 山本 義男, 三宅 隆広, 小池 有美, 梅本 安則, 田島 文博
    セッションID: P2-147
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/04/25
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】起立負荷に対する動脈圧の迅速な調節は、圧受容器で感知され自律神経を介して行われている.圧受容器には静脈還流量を感知する心肺圧受容器と、平均動脈圧を感知する頚動脈洞の圧受容器および大動脈弓の圧受容器がある.動物実験では犬などを用いて頸動脈洞、大動脈弓圧受容器を個々に刺激してその反応を見る実験が行われている.しかし、ヒトの生体内での個々の受容器の反応は明らかになっていない.今回我々はヒトの生体内での大動脈圧受容器単独の反応を調べるため、弓部大動脈人工血管置換術後患者に注目し、起立負荷に対する循環調節応答について検討した.
    【方法】対象は弓部大動脈人工血管置換術後男性患者(以下、術後患者)5名(平均年齢66.8±6.3歳、身長167.6±8.6cm、体重57.7±10.1kg)と若年健常男性6名(平均年齢21±0歳、身長173±2.8cm、体重65.8±5.1kg)で、術後患者5名の内訳は急性大動脈解離が2名、胸部大動脈瘤が3名であった.測定プロトコールはTilt Table上で仰臥位を取り、安静臥床3分、60度起立負荷5分、回復期として水平臥位3分とした.測定項目は心拍数、血圧、一回心拍出量とし、血圧は自動血圧計で、一回心拍出量はインピーダンス法(メディセンス社MCO101)を用いて1分毎にすべての計測を行った.対象者には本学の倫理委員会で承認された本研究の趣旨と目的を詳細に説明し研究の参加への同意を得た.
    【結果】術後患者では60度起立負荷5分後の一回心拍出量は安静時より33.5%増加したが、若年健常男性では32%低下した.また、起立負荷後5分後の心拍数は安静時に比べ、術後患者、若年健常男性で82/分から95/分、64/分から76/分へそれぞれ増加した.また、心拍出量は起立負荷5分後に安静時と比較して、術後患者では55%増加し、若年健常男性では20%低下した.平均血圧は起立負荷において若年健常男性で有意差は認めず、また術後患者では起立時に低下傾向を示したが統計学的な有意差は認められなかった.
    【考察】研究開始前の仮説では、術後患者では大動脈弓の圧受容体が欠如する事により、循環調節機能が低下し、起立時の一回心拍出量の低下が大きくなると推測していた.しかし、逆に一回心拍出量は起立負荷時には増加し、さらに心拍数も上昇した.ただし、心拍出量が上昇しているにも関わらず、動脈圧が低下傾向を示している事から血管抵抗は起立時に低下していると考えられる.術後患者の一回拍出量が低下しなかった原因として、静脈還流量の維持あるいは心収縮力の上昇が考えられる.OlsenとLanneは高齢者の下肢コンプライアンスは若年者よりも約40%低下していたと報告しており、静脈環流量の維持は動脈硬化による容量血管の弾性低下により、立位時の下肢への血流シフトが起こりにくいからではないかと推測している.
  • 金子 秀雄, 吉住 浩平, 永井 良治, 大塚 もも子, 川島 由希, 江里口 恵介, 沖 侑大郎, 徳永 浩一, 加藤 紗織
    セッションID: P2-148
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/04/25
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】呼吸調整を目的に横隔膜呼吸を試みるが、呼吸障害患者では上手くできないことも少なくない.このようなとき上部胸郭に持続的な徒手的圧迫を加えることで横隔膜呼吸へと誘導できることを経験する.しかし、その効果についてはほとんど知られていない.そこで、本研究では健常者を対象に上部胸郭への圧迫が横隔膜機能にどのように作用するか検証することを目的とした.

    【方法】健常男性24名(21±1歳)を対象とした.対象者には研究内容を書面および口頭にて説明し同意を得た.また、本研究は国際医療福祉大学の倫理委員会の承認を得て実施した.上部胸郭圧迫およびその前後の横隔膜機能を評価するために6.0MHzの超音波画像計測装置とBモード、リニア式プローブを用いた.プローブは右中腋窩線から前腋窩線上の間の第8または第9肋間にプローブを置き、吸気終末時と呼気終末時の静止画像を3呼吸分抽出した.超音波画像はパソコン画面上にて横隔膜の筋厚(Tdi)を測定し、呼気終末時と吸気終末時のTdiの差を呼気終末時のTdiに対する百分率で表した(delta Tdi).また、このときの一回換気量と呼吸数を測定するためにスパイロメータを使用した.上部胸郭への圧迫には血圧計のマンシェットを使用し、腋窩から乳頭レベルに置いて、胸郭に巻きつけた.圧迫は40mmHg とした.対象者はフェイスマスクを装着して背臥位となり、上部胸郭への圧迫を3~5分間を加えた.すべての測定は呼吸が安定した後に実施した.上部胸郭圧迫とその前後の3条件を比較するために、分散分析を用いて多重比較を行った.

    【結果】上部胸郭圧迫とその前後の比較では、delta Tdiは有意に増大したが、一回換気量と呼吸数に有意差はなかった.しかし、このうち8名はdelta Tdiが減少していたことから、その増減により2群(増大群、減少群)に分類し比較した.その結果、2群の一回換気量と呼吸数には有意差はなかったが、上部胸郭圧迫前のdelta Tdiは増大群より減少群の方が高値であった.上部胸郭圧迫後、増大群のdelta Tdiは有意に減少し圧迫前に戻ったが、減少群のほとんどは圧迫時と同じ状態を維持していた.

    【考察】上位肋間筋への伸張刺激を行った先行研究では、伸張刺激により横隔膜の活動が高まったことを報告している.そのため、本研究では上部胸郭圧迫が横隔膜機能を高めるという仮説のもとに実施した.その結果、一回換気量は同等であるにもかかわらず横隔膜機能の指標であるdelta Tdiは有意に増大し、上部胸郭圧迫は横隔膜機能を高めることが示された.この効果は、特に横隔膜動員が相対的に少ない対象者に認めたことから、呼吸障害により横隔膜機能が減少した患者に対しても同様な効果が期待できる可能性が示唆された.
  • 泉 唯史, 田中 みどり, 樽井 一郎, 菅原 基晃, 住ノ江 功夫
    セッションID: P2-149
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/04/25
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】有症状の心不全患者のうち約3割が左室正常収縮能を有するいわゆる拡張不全型心不全であると言われている.左室駆出率が低下した心不全患者においても生命予後や運動耐容能を規定するのはむしろ拡張機能であり、QOLにも大きな影響を与えると言われている.高血圧による左室肥大心では左室駆出率が正常でも心不全症状を生じるため、その予測と日常生活指導および適切な運動指導には拡張機能評価が不可欠となる.一方、運動療法を実施した心不全患者の拡張能に関する報告や運動負荷前後における左室拡張能評価の方法は心臓超音波検査が一般的である.すなわちパルスドプラー法を用いたE/AおよびDcTなどの指標を用いたこれまでの研究により一定の知見を得ている.しかし多段階漸増運動負荷時での「運動強度増加という身体運動課題」に対する左室拡張能応答の変化については、その評価方法の困難性から十分に検討されているとは言えない.そこで、パルスドプラー法(PDI)と組織ドプラー法(TDI)を同時に併用することにより漸増運動負荷の際の左室拡張能の応答動態から評価方法の妥当性を検討することを目的として、コホート研究を開始する.

    【方法】対象者は全員若年男性健常者である.説明文書により本研究の主旨と予測される研究成果および意義を十分に説明した上で同意書により同意を得る.運動負荷装置ストレングスエルゴ240(三菱電機エンジニアリング社製)の座面とバックレストをフラットに設定して、対象者はその上で仰臥位となり5分間の安静を取る.次いでウォーミングアップとして20Wの運動強度で3分間、その後ランプ負荷を毎分20W漸増(2W/6sec)のレートで運動負荷を行う.ペダリングは50rpmを維持することとする.左室拡張能評価には検査技師の操作による超音波診断装置プロサウンドα10(アロカ社製)を用いてPDIによるLV-inflow計測およびTDIによる僧帽弁運動速度計測をランプ運動負荷開始より終了に至るまで10秒ごとに行う.代謝測定には呼気ガス分析装置AE-300S(ミナト医科学社製)を用いてVE、VO2、VCO2などを計測する.中止基準として心拍数達成(予測最大心拍数の80%)、心電図異常、自覚的運動強度(ボルグスケール)における限界自覚などを設定する.

    【まとめ】本研究の成果として、いわゆる健常な中高齢者の健康づくりにおける運動強度の設定に関する知見を得るための、あるいは軽症心不全や軽症虚血心の運動負荷初期における拡張能動態を得るため評価法に対して一定の知見が提示されるものと思われる.
    なお、本研究は独立行政法人日本学術振興会による科学研究費の支給により行われる研究成果の一部である.従って研究計画審査において生命倫理に基づく厳重な人権の保護と法令遵守に則ったコホート研究計画であると審査されている.
  • 児嶋 大介, 上西 啓裕, 川西 誠, 森木 貴司, 梅本 安則, 古澤 一成, 田島 文博
    セッションID: P2-150
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/04/25
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】2004年、Pederson BKらは、骨格筋収縮がサイトカインの一種であるインターロイキン6(IL-6)を多量に放出することを報告した.これまで、IL-6は液性免疫の中心的役割を担う炎症性物質として認識されてきたが、同時に糖代謝、脂質代謝の活性化、造血幹細胞の活性化、神経修復の活性化等を有する多機能サイトカインとしての役割に注目されてきた.Pedersonは、骨格筋の収縮により産生されるIL-6が運動による糖代謝と脂質代謝を改善する内分泌物質であると主張し、Myokineと命名した.運動負荷が糖尿病・高脂血症の治療に有用である理由が、骨格筋からのMyokine 分泌であるならば、トレーニングによる分泌量の変化を明らかにすることが生活習慣病に対する運動プログラム構築のために必要である.これまで、3時間で10週間の運動負荷トレーニングによる骨格筋のIL-6体内動態変化を検討した研究はあるが、臨床に則した短時間及び短期間での実用的な負荷ではない.そこで若年健常者を対象に1日30分5日間のエルゴメーター運動トレーニングによるIL-6の分泌能の変化を明らかにする目的で実験を計画した.

    【方法】対象者は、20代の健常者男性6名とした.まず、運動負荷量の設定のため、呼気量・呼気ガス分析計(ミナト医科学株式会社AE300S)で、下肢エルゴメーター(ミナト医科学株式会社232C)による最大酸素摂取量の測定を行った.トレーニングとして、測定した最大酸素摂取量の65%の運動強度で、1日30分、5日間エルゴメーター運動を施行した.トレーニング前後にエルゴメーターで150W・30分の定量運動負荷テストを行い、その前後の血液中のIL-6濃度を測定した.全対象者において事前に研究の趣旨を十分に説明し、同意を得た.

    【結果】トレーニング前、IL-6は安静時(0.9±0.4 pg/m)に比べ、定量運動負荷テストにより2.2±0.5倍(1.9±1.0 pg/ml)に増加した.5日間のトレーニングを行った後、定量運動負荷テストを行った結果、IL-6は安静時(1.6±1.0 pg/ml)より1.7±0.5倍(2.4±1.3 pg/ml)に増加した.増加率を比較すると、5日間のトレーニングにより、定量運動によるIL-6増加率は有意に低下した.

    【考察】今回の研究により、短期トレーニングは骨格筋由来IL-6分泌量を低下させる事が判明した.今回、短期間でも長期トレーニングと同じ傾向が示された.この結果は、骨格筋の内分泌機能効果を期待した運動処方において、わずか5日間で本質的なメカニズムの変化をもたらす可能性を示している.
  • ―Wolf Motor Function Testを課題として用いて―
    倉山 太一, 山口 智史, 大高 洋平, 田辺 茂雄, 大須 理英子, 坂田 祥子, 小宮 全, 須賀 晴彦, 影原 彰人, 清水 栄司
    セッションID: P2-151
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/04/25
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    【はじめに】脳卒中片麻痺をはじめとする上肢機能回復のリハアプローチでは異なる難易度の課題を患者の状態にあわせて適切に行わせることで効果があることが知られている.一方で、実際のリハ場面と同様の設定を用いて異なる難易度の課題を施行する際の脳皮質活動の検討を行った報告は少ない.そこで今回我々はCI療法の治療効果判定に使用される標準的な上肢機能評価であるWolf motor function test(WMFT)の17項目のうち、難易度の異なる3課題を選択し、健常者を対象としてWMFT課題実施中および運動イメージ中の大脳皮質活動を近赤外分光法による血流量変化により測定し、課題ごとの皮質活動の違いについて検討した.【方法】本研究は東京湾岸リハビリテーション病院倫理委員会の承認を得て行われた.対象者は事前説明を行い同意を得た健常成人10名(全員右利き)とした.計測は近赤外分光装置FOIRE-3000(島津製作所製)を用い、計測部位は上肢一次運動野(M1)と感覚野(S1),および補足運動野(SMA)とした.測定用プローブはCzを中心に各3cm間隔で28カ所配置し、酸素化ヘモグロビンの変化をサンプリング周期220msecで記録した.M1は、経頭蓋磁気刺激により同定した.運動課題はとしてWMFTのうち3課題(1)手を膝から前方のテーブルへ置く、(2)テーブルの上の缶を持ち上げる、(3)テーブルの上の鉛筆を母指と示指で持ち上げる、を採用し、それぞれ実際の運動と運動イメージを行った.安静15秒間-課題30秒間-安静15秒間を1セットとし、5セット施行した.課題の運動速度は、統一性を保つためメトロノームの音に合わせて1動作を1秒で行った.また課題難易度を上げるため、課題は全員左手において実施した.解析は、1)課題間の比較、2)運動と運動イメージでの比較、および3)M1およびS1の左右差について課題毎に検討した.1)は反復分散分析を用い、2)と3)についてはpaired t検定を用いて統計的解析を行った.有意水準は5%とした.
    【結果】運動課題における違いはM1、S1とも違いはなくSMAでは課題難易度が高くなると血流量が上昇する傾向がみられたがいずれも統計的有意差は認めなかった.運動と運動イメージによるM1、S1、SMAでの血流量の有意差は認められなかった.左右差については全ての課題を通じて課題遂行時には右M1の血流量が左に比べ有意に増加した.
    【考察】M1においては運動時の左右差は明らかであったが、課題間での血流量の違いを検出できなかった.これは、今回選択した課題間の筋活動量の差異が大きくなかったことが考えられる.一方、SMAの活動は課題難易度の高くなるにつれて上昇する傾向にあったことから、難易度の違いは主にSMAに現れている可能性が示唆された.今回の測定データを基礎として、今後脳卒中患者においてCI療法前後でのWMFT施行中の皮質活動を測定するなど行い、治療効果と皮質活動の関連性について検討していきたい.
  • 山本 昌樹, 中川 法一
    セッションID: P2-152
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/04/25
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    【目的】プリズム順応とはvisuomotor transformationによる感覚運動学習であり、順応には視覚座標系と関節座標系の再較正が求められる.小脳皮質損傷者はプリズム順応しないが、頭頂間溝領域の損傷者には順応が認められること、また半側空間無視症例では視野を水平偏位させることで動作の改善がみられることが近年報告されている.おそらく順応の成立には小脳の学習システムが関与し、関節のダイナミクスと視覚座標系キネマティクスの較差の一致には何らかの誤差信号を規範にしたfeedback制御によりなされることが想定される.今回誤差信号を操作することで順応動態に変化が見られたことよりプリズム順応のfeedback モデルを推察した.
    【方法】参加者は実験の同意が得られた20歳代の11名の健常学生であった.参加者は机上のLED(発光ダイオード)パネルに対座し、水平位置の三か所にランダムに提示されるLED視標に対しsaccadeと右示指による急速なポインティング運動を行う.プリズム順応の実験プロトコルは三ブロックより構成され第一ブロックは裸眼にて、第二ブロックでプリズム眼鏡(屈折偏位量は12diopter)装着下にてそして第三ブロックは再び裸眼にて各ブロック30回試行した.眼鏡の着脱は閉眼にて行い参加者にはプリズムによる視野への影響は説明しなかった.feedback条件は運動中の手先の位置を周辺視野より遮蔽した条件(5名)と遮蔽しない条件(6名)とした.遮蔽条件では手先の軌道ならびに到達点と視標位置の誤差情報は与えられないことになる.プリズム順応の指標はLEDと指先との水平誤差距離をビデオにて記録した.また参加者がプリズム偏位に気づいていたかどうかを実験後聴取した.
    【結果】遮蔽なし条件でプリズム偏位の自覚の有無に関わらず(自覚例3名)全例でプリズム順応を認めた.第三ブロックでのafter effectのサイズは屈折偏位量と同等であった.遮蔽条件ではプリズム偏位を自覚しなかった4名は、順応は生じず第二ブロックの誤差は一定であった.自覚した2名は順応したが第二ブロックの誤差RMS(root mean square)は遮蔽なしよりも大きく、after effectのサイズは屈折偏位量の約40%以下と小さかった.各条件で順応が生じた者は第二ブロックのトライアル誤差の総和(n-1の??)と次回(n)のトライアル誤差との間に強い一次回帰の相関を認めた(遮蔽なしR2=0.796 ありR2=0.519).
    【考察】プリズム順応は運動中の運動感覚信号の誤差を用いることでも可能である.誤差検出のための学習モジュールの切り換えには偏位の自覚が関与する.誤差総和量より次回トライアルの誤差予測が可能なことから、feedbackの動特性を検知するモデルとして出力誤差を評価規範とする状態推定の同定モデルを考えた.
  • ―CI療法の機序に関する予備的研究―
    内藤 幾愛, 塩見 耕平, 斉藤 秀之, 田中 直樹, 高尾 敏文, 山口 普己, 矢野 博明, 小関 迪
    セッションID: P2-153
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/04/25
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    【目的】ニューロリハビリテーションとしてCI療法が注目され,2004年に公表された脳卒中ガイドラインには,中等度以下の麻痺患者に勧められる治療として採用されている.CI療法に関しては多くの研究成果が報告されているが,脳活動に与える影響を検討した報告や,麻痺側の強制使用と非麻痺側の拘束が脳活動に及ぼす影響についての報告は少ない.そこで本研究では,健常成人を対象に非利き手での巧緻動作時の脳活動と,動作イメージが脳活動に与える影響を検討することを目的とした.

    【対象と方法】対象は事前に十分な説明を行い,文書にて同意を得た健常成人10名(25.0±4.9歳)とした.全被験者は右利きであり,被験肢は左側とした.動作課題は,先行研究に準じ座位で両上肢を机に乗せ,左手でゴルフボール2個を時計回りに回転させる動作とし,Task1は閉眼動作イメージ,Task2は開眼動作イメージ,Task3は開眼での最大努力動作とした.プロトコルは,安静20秒-動作20秒-安静20秒の3施行とし,脳活動の測定には近赤外光イメージング装置(OMM-3000,島津製作所製)を用いた.ホルダは感覚運動領野を覆うよう国際10-20法に基づき装着し,45チャネル(以下,Ch)で測定した.3施行を加算平均し,左右の運動前野(Ch8,12),一次運動野(Ch21,25),体性感覚野(Ch34,38)に相当する計6Chを抽出し,検討した.酸素化ヘモグロビン値をパラメータとして動作前安静時と動作時の積分値を算出した.統計処理にはStatView5.0を使用し,2群の比較にはWilcoxonの符号付順位和検定を用いた.また,動作時から動作前安静時の積分値を差し引いた値を賦活量と定義し,3群間比較にはKruskal-Wallis検定とScheffe検定を用い,有意水準は5%未満とした.

    【結果】各Chの動作前安静時と動作時の比較では,Task1はCh8,12,21,Task2はCh8,21,25,Task3は全Chで動作時に有意な増加を認めた(p<0.01).両側で賦活を認めた各領野の左右比較では,Task3の体性感覚野のみCh34に比べCh38で有意な増加を示した(p<0.05).また,各ChでのTask間の賦活量比較では,Ch25はTask3がTask1に比べ,Ch34,38はTask3がTask1,2に比べ有意な増加を認めた(p<0.05).

    【考察】健常成人における非利き手の動作課題では,両側の感覚運動領野が賦活し,先行研究と一致した.動作イメージと動作では,異なる賦活パターンを認めた.また,被験肢側と同側の運動前野,一次運動野は,動作時にもイメージング機能として,体性感覚野は,動作指令に関与していることが示唆された.今後,脳卒中片麻痺患者を対象にCI療法におけるNIRSイメージング研究に取り組むつもりである.
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