言語研究
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特集 文字と音韻論
  • ――書き分けない音韻を中心に――
    肥爪 周二
    2023 年 164 巻 p. 1-16
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/08/19
    ジャーナル フリー

    平安時代,平仮名・片仮名による日本語表記が定着した後,そのシステムでは表現できない要素(撥音・促音のような新音韻や,外来語音)を,どのように組み込もうとしたか,特に「書き分けない」という選択をした事例に着目して考察した。

     清濁を書き分けないことについては,「にごり」が持っているプロソディ的な性質と結びつける解釈が行われてきた。本稿では,促音・量的撥音便の撥音が零表記であったのも,音長というプロソディの範疇の性質を持つためと考え,さらに,守護国界主陀羅尼経長保頃点の,開拗音・合拗音全般を直音表記する方式も,「拗」の要素をプロソディ的に把握したものであった可能性を指摘した。つまり「書き分けない」要素は,いずれもプロソディに類する性質を帯びたものであって,たとえ外来音・新音韻など,既存の仮名の外側にある要素であっても,プロソディ的な把握に馴染まないものは,表記を工夫して書き分けることを志向すると推定した。

  • 今野 真二
    2023 年 164 巻 p. 17-38
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/08/19
    ジャーナル フリー

    中国語をあらわすための文字である漢字は,中国語に対しては「表語文字」として機能している。しかし日本語の文字化に際しては,漢字は「表意文字」として機能することが多い。本稿では,そのことを確認した上で,12世紀半ば頃に成立したと目されている3巻本『色葉字類抄』,室町期に成ったと目されている『節用集』,江戸時代に出版された『書言字考節用集』を具体的に観察し,同一の漢字列が和語も漢語も文字化しているという状況を整理しながら示した。こうしたことをふまえて,明治期に整版本の草双紙として出版されている『賞集花之庭木戸』と,同一のタイトルで,「ボール表紙本」として活字で印刷されて出版されているテキストとを対照し,漢字列を軸として,連合関係が形成されていることを指摘した。そうであれば,漢字列は非音声的に,連合関係を形成していることになり,そのことは日本語における特徴といってよいと考える。

  • 荒川 慎太郎
    2023 年 164 巻 p. 39-66
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/08/19
    ジャーナル フリー

    本稿では,西夏文字の「点」はどの位置に,何のために付加されるのかを考察した。本稿の議論に関係する,西夏文字の構造,筆画について術語とともに述べたのち,考察対象となる筆画「点」を定義づけた。筆者は,西夏文字全字形を網羅的に掲載する発音字典『同音』により,点を持つ西夏文字の原文を調査した。結果,西夏文字の「点」について,字形全体ではなく,要素部品の右に付され,文字要素を構成するものと分かった。また点の出現環境を精査すると,点が付される要素部品は,「A類:くノ型を持つ」と「B類:匕型を持つ」に二分されることが分かった。A, B類ともに類似する要素部品(ノメ,ヒ)がある。点の機能は,西夏文字創製時には,類似する部分(ノメとくノ,ヒと匕)の差異を際立たせる「強調符号」だったが,後に点の有無のみが弁別要素と誤認されることになったと筆者は推測する。

  • ――破擦音の長短の対立――
    吉田 和彦
    2023 年 164 巻 p. 67-91
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/08/19
    ジャーナル フリー

    古代アナトリアにおいて楔形文字粘土板に記録されたヒッタイト語の音韻特徴として,子音の長さの対立は閉鎖音,摩擦音,共鳴音,喉音においてみられるが,破擦音については対立がないと従来考えられてきた。しかしながら,文献学の立場から古期,中期,後期ヒッタイト語という厳密な時代区分を行ったうえで分析すると,古期ヒッタイト語において母音間のシングルの-z-がアナトリア祖語の*dに遡る例があることが分かった。他方,シングルの-z-が*tを反映している例はない。この知見は,アナトリア祖語の*tiは*tsiになる一方,*diは*dziになるという音変化を示している。そして無声の破擦音はダブルの-zz-で書かれ,有声の破擦音は-z-で書かれる。子音の有声無声という特徴が閉鎖時間の長さと相関することはよく知られている。したがって,古期ヒッタイト語では破擦音にみられる子音の長さの対立がなお存続していたことが分かる。

論文
  • 本多 尚子, 田中 智之
    2023 年 164 巻 p. 93-109
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/08/19
    ジャーナル フリー

    本論文では,英語における受動分詞を伴うthere構文,すなわち受動虚辞構文の歴史的発達の全体像を明らかにするとともに,特に関連要素の分布の変化について,VP内基底語順の変化と機能範疇Pred(ication)の出現に関連付けて説明することを目的とする。その説明に際して,Tanaka and Yokogoshi(2010)による小節の統語分析を拡張することにより,受動虚辞構文におけるbeの小節補部が機能範疇を持たない構造からPredを主要部とする構造へと変化したことを提案する。Predを主要部とする構造は14世紀に出現し18世紀に確立されたが,PredPの出現および確立により,後期中英語期に関連要素が受動分詞に先行する語順が優勢になり,関連要素が受動分詞の直後に来る語順が18世紀中に消失したという事実が正しく説明されると主張する。

フォーラム
  • ――阿久澤・窪田論文に答う――
    藤井 友比呂, 小川 大空, 小野 創
    2023 年 164 巻 p. 111-123
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/08/19
    ジャーナル フリー

    先行研究において,時制交替の一般化(Tense Alternation Generalization,以下TAG)は日本語における時制節を含んだ繰り上げあるいはコントロールとされる構文を説明するために用いられてきた(Uchibori 2000, Fujii 2006)。Akuzawa and Kubota(2020, 2021),Kubota and Akuzawa(2020)はこの一般化を批判的に検討し,問題があると論じた。本研究は両氏のTAG批判のうち,(i)TAGに定位した日本語ヨウニナル構文の繰り上げ分析を支持するとされているデータは説得力に欠けているとの批判,および(ii)TAGの接近法が,両氏の提案する意味論的接近法と異なり当該一般化が説明を欠く措定的規定であるという弱点を孕んでいるとの批判に答えることを試みる。まず(i)を解決するために容認度判断実験を行い,被験者の判断がFujii(2006)の報告に沿っていることを示す。またTAGが措定的であるという(ii)の批判については,批判は正しいが,両氏の提案するコントロールの意味論的分析はTAGによる接近法が措定的規定に頼って説明した事実を説明しないことを示す。

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