言語研究
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148 巻
選択された号の論文の7件中1~7を表示しています
会長就任講演
  • 窪薗 晴夫
    2015 年 148 巻 p. 1-31
    発行日: 2015年
    公開日: 2016/05/17
    ジャーナル フリー
    この論文では,日本語の音声データ,とりわけ語アクセントに関連するデータをもとに,一般言語学が日本語(方言)の研究にどのような新しい知見をもたらすか,逆に日本語方言の実証的,理論的研究が一般言語学や他の言語の研究にどのような洞察を与えるか考察する。具体的な例として「音節量」の現象を取り上げ,この概念を日本語の分析に導入することにより,さまざまな日本語の諸言語が一般化できること,また,そのようにして得られた日本語の分析が一般言語学,音韻理論の研究に大きく寄与できる可能性を秘めていることを指摘する。論文の後半では日本語諸方言のアクセント体系・現象を取り上げ,この言語が「アクセントの宝庫」と言えるほど多様なアクセント体系を有していること,そしてその分析が言語の多様性について重要な示唆を与えることを指摘する。
特集 文献言語学
  • 早田 輝洋
    2015 年 148 巻 p. 33-60
    発行日: 2015年
    公開日: 2016/05/17
    ジャーナル フリー
    従来の満洲語の文典も辞書も満洲語の形式-ngge, -ingge, ninggeの区別を明確にしていない。これらの形式については名詞と形容詞の別も十分に記述されていない。 本稿では満洲語資料の時代をa)ヌルハチ,ホンタイジの時代(16世紀末~1643),b)順治年間(1644–1661),c)康煕年間(1662–1722)に分けた。a)は殆どすべて無圏点文字による手書き資料,b)c)は主に有圏点文字による木版本資料である。a)にだけ動詞語幹に-nggeの直接続く例が14例もあった。a)時代の資料をもとに仮定した派生規則の例外は,当然b)c)と時代が進むにつれ多くなる。派生形態素ni-nggeの単純形態素ninggeへの変化は顕著な通時変化の例である。 a)b)の満洲語話者は満洲地区で生育し,c)の話者は北京という完全な漢語環境で生育している。康煕帝の時代の満洲語はそれ以前の満洲語と文法的にも顕著に違うことが分った*。
  • 福井 玲
    2015 年 148 巻 p. 61-80
    発行日: 2015年
    公開日: 2016/05/17
    ジャーナル フリー
    本稿は,中世韓国語で声の高さを示すために用いられた傍点について,それがなぜ付けられていたのか,なぜ,傍点という形式が用いられたのか,15世紀末頃から傍点を付けない文献が現れ始め,17世紀以降は完全に廃止されてしまうのはなぜなのか,また傍点を付けた人々はどのような言語的背景を持っていたのか,という基本的でありながらこれまで論じられてこなかった課題について論じた。また,傍点によって表されるピッチアクセントの変化とその地域差という問題との関わりについてもそのための基礎となる考察を行った*。
  • 大竹 昌巳
    2015 年 148 巻 p. 81-102
    発行日: 2015年
    公開日: 2016/05/17
    ジャーナル フリー
    契丹語はモンゴル諸語と親縁関係を有する死滅した言語で,11–12世紀の契丹小字文献によってその姿を知ることができる。本稿は,契丹小字文献における母音の長さの書き分けについて,同源語の比較やテキストにおける分布特徴の分析,接尾辞の異形態や綴字交替の分析等を通じて以下の点を示す。(1)V, CVのように開音節型の字素の母音は長母音を表記している。(2)VCのように閉音節型の字素の母音は基本的に短母音を表すが,長母音ē+子音を表す一連の字素も存在する(Vは母音,Cは半母音を含む子音を表す)。また,比較言語学的観点からは,(3)契丹語の長母音には現代モンゴル語の(母音間の子音の脱落による母音縮合の結果生じた)二次的長母音に対応するものに加えて,(4)モンゴル祖語やテュルク祖語にかつて存在した一次的長母音と対応すると考えられるものが存在する可能性についても論じる*。
  • 荒川 慎太郎
    2015 年 148 巻 p. 103-121
    発行日: 2015年
    公開日: 2016/05/17
    ジャーナル フリー
    西夏語の遠称の指示代名詞(以下,遠称代名詞)は,先行研究において3種が指摘されているものの,その使い分けについては判然としなかった。文献中,出現頻度の高い順に,A1tha:, B2tha:, C2tha:とすると,AとBは同一音節で声調が異なり,BとCは同一音節で声調も同じである。 本考察では,遠称代名詞の使用例が多い西夏語仏典を資料とし,A~Cがどのような環境で現れるかを検証した。遠称代名詞に後続する要素に着目し,Aに後続するのは名詞,「~と」,「~に随い」,「~により」などを意味する後置詞,Bに後続するのは「~の,~を」,「~の上」,「~の間」,「~の所」などを意味する後置詞,のような傾向があることを示した。すなわち,A, Bは基本的に相補分布をなし,その使い分けが,それらに後続する要素の語彙的な違いによることを述べた。CについてはA, Bと異なる観点から検討し,先行研究に指摘されない前方照応的な機能を提示した*。
論文
  • ――「句的体言」の構造と「小節」の構造との対立を中心として――
    清水 泰行
    2015 年 148 巻 p. 123-141
    発行日: 2015年
    公開日: 2016/05/17
    ジャーナル フリー
    この論文は,「熱っ!」のように,形容詞語幹が声門閉鎖を伴って発話され,感動の意味が表現上実現する文(形容詞語幹型感動文と呼ぶ)を扱い,「感動の対象」を表す「主語」をとるかとらないかに着目して考察する。その結果として,形容詞語幹型感動文について,①即応性と対他性による分析から,構造上の「主語」をとらないと考えられること,②「これうまっ!」における「これ」のような形式は,話し手が聞き手に注意喚起を呼び掛けるための「感動の対象」の提示部であること,③形容詞語幹型感動文を構成する形容詞の性質の違い(属性形容詞か感情形容詞か)の観点から,属性形容詞によるものと感情形容詞によるものの二種に大別できること,④属性形容詞によるものも感情形容詞によるものも体言化形式を持ち,名詞句として感動の表出に用いられることで同じ感動文として機能すること,という四点を述べる*。
  • ――「つかいだて」と「みちびき」――
    早津 恵美子
    2015 年 148 巻 p. 143-174
    発行日: 2015年
    公開日: 2016/05/17
    ジャーナル フリー
    使役文の文法的な意味については様々な分析がなされているが,広く知られているものとして「強制」と「許可」に分けるものがある。本稿ではこれとは異なる観点から「つかいだて(他者利用)」と「みちびき(他者誘導)」という意味を提案する。この捉え方は「強制:許可」という捉え方を否定するものではないが,原動詞の語彙的な意味(とくにカテゴリカルな意味)との関係がみとめられること,それぞれの使役文を特徴づけるいくつかの文法的な性質があること,この捉え方によって説明が可能となる文法現象がいくつかあること,という特徴がある。そのことを実例によって示し,この捉え方の意義と可能性を明らかにした。そして,「強制:許可」と「つかいだて:みちびき」との関係について,両者はそれぞれ使役事態の《先行局面/原因局面》と《後続局面/結果局面》に注目したものと位置づけ得ることを提案した*。
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