言語研究
Online ISSN : 2185-6710
Print ISSN : 0024-3914
156 巻
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特集 言語対照の現在
  • アンドレイ L. マルチュコフ
    2019 年 156 巻 p. 1-24
    発行日: 2019年
    公開日: 2020/04/14
    ジャーナル フリー

    この研究は,V.S. Xrakovskijの先駆的研究,ならびに筆者自身がおこなってきた,現在と完了のような動詞範疇どうしのあまりしっくりこない組み合わせに関する研究に続く形で,動詞範疇どうしのシンタグマティックな統語的組み合わせというテーマに取り組んだものである。この論文では,動詞の語彙的特徴と文法的特徴の間のしっくりこない組み合わせについて,特に,ヴォイス・結合価と他動性の組み合わせ,ならびに動作性と文法的アスペクトの組み合わせの2つに焦点をあてて論じる。具体的には,しっくりこない組み合わせを解決するシナリオが,文法標識どうしが機能的にしっくりこない場合のシナリオとして論証されているもの――ある場合は組み合わせが排除され,またある場合はそれぞれの範疇が再解釈される――と同じものであることを示すとともに,局所的な有標性の階層のような,文法範疇の制約に用いられるのと同じ手段が,結合価と動作性の領域において,語彙的特徴と文法的特徴の組み合わせの制約にも用いられることを示す。

  • 大滝 宏一, 杉崎 鉱司, 遊佐 典昭, 小泉 政利
    2019 年 156 巻 p. 25-45
    発行日: 2019年
    公開日: 2020/04/14
    ジャーナル フリー

    マヤ諸語におけるVOS語順の派生に関して,これまで主に二つの分析が提案されている。一つは,主語が占める指定部の位置が主要部よりも右側に現れるとする「右方指定部分析」であり,もう一つは,vP全体が主語を越えて前置されるとする「述語前置分析」である。本稿では,チョル語とカクチケル語という二つのマヤ系言語を比較・分析することによって,少なくともカクチケル語のVOS語順に関しては「右方指定部分析」の方が妥当であることを示す。また,「右方指定部分析」をチョル語のVOS語順にも拡張する可能性に関しても議論する。

  • 長屋 尚典
    2019 年 156 巻 p. 47-66
    発行日: 2019年
    公開日: 2020/04/14
    ジャーナル フリー

    日本語の「は」で標示された主題名詞句とタガログ語などのフィリピン諸語のangで標示された主題名詞句(あるいは主格名詞句)の間に興味深い共通点があることはこれまでに何度も指摘されてきた(Shibatani 1988, 1991; Katagiri 2004, 2006)。その背景には,感嘆文,気候・天候文,存在文など,日本語で主題の「は」が用いられにくい環境で,angもまた使われないという観察がある。さらに近年,Santiago(2013)によって,タガログ語の主題名詞句の分布がthetic/categoricalという判断の区別(Kuroda 1972)で説明できるという説が提案された。本論文では,タガログ語の主題名詞句と日本語の主題名詞句の対照研究を行い,thetic/categoricalの区別でタガログ語と日本語の平行性を捉える仮説に異議を唱える。具体的には,先行研究で既に議論されているデータを再分析し,新しいデータを提示することによって,タガログ語において(i)theticな文における非主題標示はタガログ語に特殊な要因によって説明できること,(ii)theticな文に主題名詞句が出現することも可能であること,さらに(iii)categoricalな文のなかには主題標示が必須ではない文もあることを示す。このように,タガログ語と日本語の共通点は表面的なものであり偶然の産物である。日本語で指摘されるthetic/categoricalという判断の違いによって,タガログ語の主題名詞句の出現・非出現を予測することはできない。

論文
  • ――『現代日本語書き言葉均衡コーパス』に対する読み時間付与とその分析――
    浅原 正幸, 小野 創, 宮本 エジソン 正
    2019 年 156 巻 p. 67-96
    発行日: 2019年
    公開日: 2020/04/14
    ジャーナル フリー

    Kennedy et al.(2003)は,英語・フランス語の新聞社説を呈示サンプルとした母語話者の読み時間データをDundee Eye-Tracking Corpusとして構築し,公開している。一方,日本語で同様なデータは整備されていない。日本語においてはわかち書きの問題があり,心理言語実験においてどのように文を呈示するかがあまり共有されておらず,呈示方法間の実証的な比較が求められている。我々は『現代日本語書き言葉均衡コーパス』(Maekawa et al. 2014)の一部に対して視線走査法と自己ペース読文法を用いた読み時間付与を行った。24人の日本語母語話者を実験協力者とし,2手法に対して,文節単位の半角空白ありと半角空白なしの2種類のデータを収集した。その結果,半角空白ありの方が読み時間が短くなる現象を確認した。また,係り受けアノテーションとの重ね合わせの結果,係り受けの数が多い文節ほど読み時間が短くなる現象を確認した。

  • 熊切 拓
    2019 年 156 巻 p. 97-123
    発行日: 2019年
    公開日: 2020/04/14
    ジャーナル フリー

    アラビア語チュニス方言の一般的な否定文は,接頭辞maː-と接尾辞-ʃが述語の前後に共起することによって形成される。maː-は否定辞とみなされているが,-ʃの機能については定説がない。本研究では,否定以外の用法を含めた-ʃの機能の包括的な記述,およびモダリティの概念の導入という2つの観点から,-ʃの機能を論じる。-ʃは否定以外では疑問と想像を表し,否定においては「肯定的事態が事実でない」ことを表す。そこから,-ʃを非現実(irrealis)モダリティ辞と結論づける。「肯定/否定」の対立と-ʃの有無による「現実性/非現実性」の対立をかけ合わせると,次の4種のモダリティに整理できる。①肯定的現実性を表す文はmaː-も-ʃもなし,②否定的現実性を表す文はmaː-のみ,③肯定的非現実性を表す文は-ʃのみ,④否定的非現実性を表す文はmaː-と-ʃが共起。

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