本研究は日本の製薬企業の国際展開に対して、海外企業とのアライアンス形態と自社の保有資源がどのように影響を与えるかについて、明らかにすることを目的とする。本研究の仮説とフレームでは第1に、海外企業とのアライアンス形態について、アライアンス先の種類(海外製薬企業/海外バイオベンチャー)、アライアンスが行われる価値活動(技術/販売・マーケティング)により国際展開への影響が異なると仮定している。また自社の保有資源については、従業員数、国内売上100億円以上製品、研究開発職比率、国内M&Aが、それぞれ国際展開に影響を与えると仮定している。それらを検証するために、本研究では43社の日本の製薬企業に対してアンケート調査を実施した。アンケート調査の結果は前述のアライアンス形態の違いにより、4つのモデルにより定量分析を行った。さらに、アンケートに回答した企業のうち、技術アライアンス、販売アライアンスともに積極的に実施している2社の回答者に対して、インタビュー調査を実施した。本研究の結論としては、第1に、日本の製薬企業の国際展開については、低分子化合物分野では自社資源による展開、バイオ技術分野ではメタナショナル経営というように技術分野により国際展開モデルが異なっている。第2に、メタナショナル経営による国際展開を目指すバイオ技術分野においても一定の自社資源を保有することが前提になる。第3に、日本の製薬企業は、海外バイオベンチャーとのアライアンスでは提携管理など研究開発の川下分野で強みを発揮している。その際のアライアンス形態としては、完成度の高い製品を導入する形を取っている。本研究は定量分析を中心に研究を進めてきたが、限界点も存在する。第1にサンプル数が43社であり、分析結果の普遍性には限界があることが挙げられる。第2に過去5年間の海外売上の増加により国際展開を測定しており、各社の国際展開の段階について、個別回答を求めていない点が挙げられる。第3に、各社の個別の技術/販売アライアンス内容については、十分に議論されていない点が挙げられる。これらの限界に対し、本研究ではインタビュー調査を加えた簡易的な三角測量を試みているが、今後はより詳細な調査項目を含めた定量分析を進めるほか、ケーススタディーを通じた濃密なデータの分析を行い、研究結果の堅牢性を高めることが求められる。
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