国際ビジネス研究
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巻頭言
統一論題
研究論文
  • ─金融サービスの国際化─
    星田 剛
    2023 年 15 巻 2 号 p. 11-26
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/06/18
    ジャーナル フリー

    様々な国や地域に生産や流通の拠点を持つ多国籍企業は、技術の発展や向上、雇用の拡大、合併、買収、連携などの事業の再編成により世界経済に大きな影響を与えてきた。多国籍企業は、多様な国・地域に進出することで、それぞれの地域社会で生活する市民や団体、地場企業などの価値観や行動様式が大きく影響を受けている。特に新興国に進出した多国籍企業は、現地社会の生活水準の向上、新しい社会の仕組み作りに貢献している。しかし、既存研究では、多国籍企業の諸活動による現地制度の構築プロセスへの影響に関する分析は限られている。本稿の目的は、多国籍企業が進出した新興国の現地社会のステイクホルダーとの相互作用を通し現地制度の構築プロセスにどのように関与しているか、その主たる要因とそ れらの因果関係につき検討することにある。

    そこで本稿では、まず制度理論をレビューし、既存の制度を所与の存在と捉えず、状況に応じて変革を試みる制度的企業家に着目する。次に多国籍企業論をレビューし、多国籍企業が制度的企業家として、進出した現地社会の様々なステイクホルダーと相互作用し、新たな制度構築に関与するプロセスについて検討し、リサーチギャップを導出する。

    研究方法としてケース・スタディを採用し、事例としてアジアの様々な新興国市場に参入している流通大手のイオンがタイで展開する金融事業(タナシンサップ)を取り上げる。金融は一般に規制産業であり、社会インフラの整備が途上である新興市場において、制度が構築されていくプロセスを観察する上で適したケースである。タナシンサップは、低所得者に対する無担保与信が一般的でなかったタイにおいて、制度構築に努力した。無担保与信の対象となる生活者、金融制度を管轄する官庁と相互作用をし、生活者、運営する企業(タナシンサップ)にとって使い易い制度を段階的に作り上げている。

    本稿は、認知の限界を認識し、システムの簡便化を進め、低コスト構造のビジネスモデルを作ることでステイクホルダー(顧客と取り扱い店)を漸進的に増加させること、そして主要なステイクホルダーと地道に相互作用を繰り返す活動が、多国籍企業の制度的企業家としての重要な要素であることを発見した。

研究ノート
  • ─中国国有企業のM&Aを事例に─
    馬 瑞潔
    2023 年 15 巻 2 号 p. 27-42
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/06/18
    ジャーナル フリー

    国有企業の戦略的意思決定は政府からの影響を受ける。国有企業は財務的目標を追求する一方、社会経済や政治などに関する非財務的な目標を政府から指示される。その2種類の目標に不一致が存在する場合、国有企業がどのような意思決定や戦略的行動をとり、バンラスよく目標を達成するかについてはまだ注目されていない。

    本研究は国内環境における社会的な非財務的目標と財務的目標をどのように両立するかを、政府の指導下で行われた中国国有企業のM&Aを事例に分析する。政府から財政難に陥っている異業種の国有企業を買収するよう要請された場合、これらの企業は技術関連性が低いため、イノベーションに負の影響が与えられる。しかしこの問題を、知識の識別、移転、統合プロセスにおけるマネジメント行動を通じて克服することで、新しいイノベーションを創出し、2種類の目標を達成することができる。

    国有企業のM&Aにおいて、国有企業は利益を追求するより、政府の影響を受けて他の社会・経済・政治に関する目標を優先させられる可能性がある。これらの非財務的な目標の実現は、財務的利益獲得にとって不利な制約条件を課す可能性があるにもかかわらず、事前にターゲット企業の調査と分析を行わずにM&Aを進めてしまう。そのため、通常はM&Aを行う前にPMI戦略を構築するが、国有企業はM&Aの後にPMI戦略を策定・実施する。このような特徴を持つため、国有企業のM&Aは、通常のM&Aと比較して、外部環境により強い適応力を持ち、創発的戦略が生み出される場合もあると考えられる。事例分析を通じて、国有企業が政府の影響下での戦略的行動に関する見解を深めることが出来た。

    今後は、本研究の結論を踏まえ、国有企業が海外環境での行動に注目する。国有企業が海外に進出する際には、母国政府の目標だけでなく、現地のステークホルダーのニーズも考慮する必要がある。このような課題により、経営に関する意思決定とマネジメント行動は一層複雑化する。将来的には、進出国のステークホルダーと母国政府からの要望と目標をバランスよく実現する行動を分析し、本研究の結果と比較する。

フェロー講演
  • ─海外日本企業の軌跡から見えてくるもの─
    板垣 博
    2023 年 15 巻 2 号 p. 43-48
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/06/18
    ジャーナル フリー
  • ─ 過去、現在、そして未来へ─
    桑名 義晴
    2023 年 15 巻 2 号 p. 49-61
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/06/18
    ジャーナル フリー

    日本における国際ビジネス研究は、1960年代後半から始まり、現在まで約60年の歴史を有している。それはその研究で先行していた欧米の優れた理論の紹介と摂取からスタートしたが、その後日本企業の国際化や多国籍化に伴って日系多国籍企業を研究対象にし、さらにグローバル時代に入り、広範な分野にわたる多種多様な課題を研究し、多くの貴重な研究成果を蓄積してきている。

    しかしながら、近年では地球規模の出来事や変化が生起しており、それに対応して世界の企業も大きく変貌を遂げつつある。また近年世界の学界、とくに欧米の学界も変化してきている。こうしたなか、いま日本の国際ビジネス研究は将来に向けて新たな段階を迎えているようにも思われる。本稿は日本における国際ビジネス研究の生成から発展・進展を辿ったうえ、その特徴を明らかにし、そしてこれからの諸課題について議論するものである。

      

    「もし私がより遠くをみることができたとしたら、それは過去の巨人の肩のうえにたったからだ」

    ― アイザック・ニュートン ―

特別寄稿
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