社会言語科学
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25 巻, 2 号
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追悼
巻頭言
展望論文
  • 嶋田 珠巳, 三上 剛史
    2023 年 25 巻 2 号 p. 9-24
    発行日: 2023/03/31
    公開日: 2023/04/08
    ジャーナル フリー

    社会言語学研究における言語とアイデンティティに関する研究は,言語による集団的アイデンティティの表示と言語による個人的アイデンティティの構成の両面からなされてきた.とくに初期には「アイデンティティ表示」への着目がことばのバリエーション研究をたすけ,社会言語学研究の発展にともなってしだいに「アイデンティティ構成」に研究の重心が置かれるようになる.これは,個人のあり方の多様性の許容,個人化の進行といった諸現象にみる,近代社会からポスト近代社会への時代的な変容とも重なる.本稿においてはポスト近代社会論の視点を導入し,言語使用とアイデンティティ構成というテーマのもとに言語研究における〈社会〉の取り入れ方を考察する.とくに,言語特徴の指標性定着とその使用における,社会と言語の結びつきについて論じる.

研究論文
  • 合﨑 京子
    2023 年 25 巻 2 号 p. 25-39
    発行日: 2023/03/31
    公開日: 2023/04/08
    ジャーナル フリー

    本研究は,自閉スペクトラム症を持つ人(以下,ASD者)の語用の特徴について,会話中の言語の反復行為に着目し,考察を行うものである.ASDは「社会的コミュニケーションの困難」及び,「行動の反復・常同」に集約される症状であるが,近年の診断基準の変更に伴って診断を受ける人も広範なものとなり,その行動特性も多岐にわたるようになった.そこで本研究では,従来のASD者のコミュニケーション研究ではあまり注目されてこなかった,音韻や言語形式の反復といった語用やメタ語用を特徴づける反復的行為にも注目し,詩的機能の観点からASD当事者と複数の対話者との会話を用いて分析を行った.当該ASD者の言語使用に関わる反復が彼らの会話の中でどのように機能しているかを可視化した結果,本研究の事例においてASD当事者は,言葉・音韻などの点において反復を頻繁に用いることで詩的機能の働くメタ語用的作用を際立たせ,対話者との理解の一致を達成していることが明らかとなった.ASD者に関しては社会的コミュニケーションに困難さが見られることから,当事者個々人の語用特性を把握することの重要性が喚起されているが,本研究の結果からは,ASDの言語的な反復行為を多角的・多機能的に捉えることで,ASD当事者それぞれの語用特性の一部を把握できる可能性が示唆された.

  • 今村 圭介, 岩村 きらら, 若森 大悟, 宮﨑 捷世, 濵野 良安, 範 静, 沈 璐
    2023 年 25 巻 2 号 p. 40-55
    発行日: 2023/03/31
    公開日: 2023/04/08
    ジャーナル フリー

    本稿は,ミクロネシア地域の南洋諸島の主要8言語における日本語起源借用語(JOL)の比較考察を行うものである.これまでの当該地域のJOLの研究は個別で行われることが多く,比較研究がほとんど行われてこなかった.そのため,JOL数など各言語における日本語の影響の違いが,どのような要因によって形成されたのか,明らかでないことが多い.本稿において各地域の詳細な社会的・歴史的・言語的背景とともに,JOL全体の数及び意味分野ごとの数の違いを考察することによって,各地域における言語的影響及び日本統治の影響の検証を試みた.その結果,次のことが明らかになった.1)各言語におけるJOL全体の数の違いは「日本人との交流の密度」,「接触前の文化的距離」,「文化的同化への志向」,「日本語使用の威信」の違いによって形成されると考えられる.2)取り入れられたJOL数は意味分野によって明確な差が存在し,それらは現在まで残る日本統治の現地人への影響の違いを表している.

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