社会言語科学
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19 巻, 1 号
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巻頭言
展望論文
  • 小山 亘
    2016 年 19 巻 1 号 p. 6-20
    発行日: 2016/09/30
    公開日: 2017/04/12
    ジャーナル フリー

    本稿では,メタコミュニケーションという概念の理論的位置づけを,特に社会言語科学全体との関係において概観したうえで,主にメタ語用的フレームに焦点を当てて,この概念が,ミクロからマクロに至る社会言語科学のさまざまな分析対象,たとえば翻訳,ナラティヴ,言語教育,法と言語,リテラシー,言語取替え,言語接触,文化接触,言語帝国主義などを接合する役割を担いうることを示す.

  • 中野 隆基
    2016 年 19 巻 1 号 p. 21-37
    発行日: 2016/09/30
    公開日: 2017/04/12
    ジャーナル フリー

    本稿は,ある「正しい言語」が話者に認識され使い分けられる状況を描写するのみでなく,その「正しい言語」が制度的・記号論的に生成する過程にも注視した多言語社会研究のアプローチを,言語人類学的観点から主張するものである.前半では,現在も人類学的研究が多言語状況・社会を位置づける理論的基盤とする,言語領域論やダイグロシア論,Gumperzの発話共同体論をレビューする.これらの研究はしばしば言語の複数性を自明視し,話者による「正しい言語」の概念化の過程を軽視しがちであった.そこで次に「言語政策の民族誌」のアプローチを参照し,「正しい言語」をめぐる政治・制度面への視点を補いつつ,言語政策の過程を複数の「層」に切り分ける一方で,「層」同士が相互作用するメカニズムが不明瞭な点など,その問題点を指摘する.後半では,以上の問題点を解決するため,微視的な発話出来事において巨視的な社会動態を創出する,話者の意識について論じた言語人類学の言語イデオロギー論を参照し,新たな多言語社会研究のアプローチを提示する.言語政策に影響を受けつつも,制度的局面における微視的な言語活動によって構成されていく多言語社会の分析を試みる本稿のアプローチは,「正しい言語」が生成する制度的場の記号論的メカニズムやそこに働く歴史的力を把握する,多言語社会研究の視座を提示するものである.

  • 岡本 雅史
    2016 年 19 巻 1 号 p. 38-53
    発行日: 2016/09/30
    公開日: 2017/04/12
    ジャーナル フリー

    メタ・コミュニケーションの概念は,これまで「コミュニケーションについてのコミュニケーション」という定義の下,児童発達研究から心理療法の分野に至るまで,様々な領域で使用されてきた.ただし,ここでメタ・コミュニケーションを単純にコミュニケーションの参与者間の関係調節や言語/非言語的振る舞いの意味づけを行うものだと考えてしまうと,参与者間の連続した相互行為によって動的に変化していくコミュニケーションの場やコンテクストを適切に捉えることができない.本稿では,認知語用論の立場から,メタ・コミュニケーション概念の生みの親であるGregory Batesonの思想を辿り,その思想の継承者の一人であるErving Goffmanのフレーム概念を再検討することを通じて,参与者の認知活動と相互行為においてメタ・コミュニケーションが果たす役割を理論的に考察していくことを目的とする.結論として,メタ・コミュニケーションは動的な「フレーミング」による「境界づけ」と「方向づけ」という2つの機能によってコミュニケーションの場を多層化し,参与者たちの認知と相互行為のインタフェースとなっていると考えることができる.

  • 花田 里欧子
    2016 年 19 巻 1 号 p. 54-69
    発行日: 2016/09/30
    公開日: 2017/04/12
    ジャーナル フリー

    本稿は,Gregory Batesonの思索を軸に,メタ・コミュニケーションを生の基準としてたどることで,本来的な原義を論じる.Ruesch & Bateson (1951)はメタ・コミュニケーション概念を「コミュニケーションについてのコミュニケーション(communication about communication)」と定義し,その後,異分野・多領域の研究者がこれを便利な概念として受容した.ところが,概念の定義は研究者によってまちまちとなり,無定義のまま多用されたため,概念の当初の意味や枠組み,その多義性については曖昧になり,概念の変容が生じた(Bavelas, 1995).本稿では,そもそもBatesonがメタ・コミュニケーションをどのように提唱し,展開してきたかについて,1946年3月第1回メイシー会議から1987年『天使のおそれ』までの間の歴史的ならびに理論的な足跡を通じて,明らかにする.

研究論文
  • 坂井田 瑠衣, 諏訪 正樹
    2016 年 19 巻 1 号 p. 70-86
    発行日: 2016/09/30
    公開日: 2017/04/12
    ジャーナル フリー

    本稿では,歯科診療場面において,患者が「会話の受け手になるか,診療の対象物になるか」という参与地位の拮抗状態に対処するやり方を,事例分析によって例証する.まず,患者が歯科医師の産出する言語的/身体的資源を利用し,「口を開くと話せない」という制約においても実現可能なマルチモーダルな振る舞いを組み立てていることを示す.さらに歯科医師も,患者の反応に応じて振る舞いを調整し,患者が適切な参与地位を調整することに加担することを示す.歯科診療で「受け手になるか,対象物になるか」という二者択一の振る舞いが要求される場面において,患者は複数のモダリティを適切に配分することで,その二者択一性に対処することができる.このように,「会話」に留まらない身体相互行為においては,参与構造を方向づけるためのメタ・コミュニケーション的営為が臨機応変な相互調整によって達成されていることを示唆する.

  • 竹田 らら
    2016 年 19 巻 1 号 p. 87-102
    発行日: 2016/09/30
    公開日: 2017/04/12
    ジャーナル フリー

    本論文は,同一参与者を含むジャンルや親疎が異なる日本語話者同士の相互行為に見る重複発話に着目した.そして,ジャンルや親疎の相違が重複発話と協調性の関係にどう影響するか,頻度と機能の面から解明を試みた.データは,親しい女子大学生ペア(以下,大学生ペア)と,初対面の女性大学教員と女子大学生ペア(以下,初対面ペア)各11組の「自由対話」と「課題達成談話」の2つのジャンルの録音資料と書き起こし資料を用いた.分析の結果,参与者間の親疎を問わず,自由対話の方がターンあたりの重複発話総数が多かった.また,あいづち(笑い)を伴う重複発話は自由対話の方が,あいづち(笑い)を伴わない重複発話や同一(類似)表現による重複発話は課題達成談話の方が多かった.さらに,自由対話での重複発話は話題の進行に寄与するが,課題達成談話での重複発話は発言内容の共通性も含めて,見解の明示に寄与していた.その上で,自由対話では雰囲気重視の協調性が,課題達成談話では内容重視の協調性が,重複発話から創出されることを示した.ただし,いずれのジャンルでも,大学生ペアでは参与者間の親近感や共感性を,初対面ペアでは距離感や沈黙への気遣いを反映する重複発話が見られた.そこから,重複発話を通して,各参与者がジャンルに応じた協調性を強く意識していたと共に,その枠内で親疎という対人関係に応じた協調性を強く意識していたことを浮き彫りにした.

  • 高梨 博子
    2016 年 19 巻 1 号 p. 103-117
    発行日: 2016/09/30
    公開日: 2017/04/12
    ジャーナル フリー

    本稿では,会話参与者の個性に関する事柄が遊びの対象となる「遊びのフレーミング」の現象をとりあげ,メタメッセージを通して「間主観的個性」が動的に形成される過程を分析する.「遊びのフレーム」では,ジェンダーや社会的役割,キャラクタなどを包含する個性に関し,一般的な価値観のみではとらえられない側面が開示されたり,からかわれたりする.親しい友人間の会話では,1) 会話参与者一方に関するもの,2) 会話参与者双方に共通するもの,3) 遊びにおける相補的な響鳴に表れるもの,といった各タイプでみられ,間主観的に「その人たちらしさ」として形成される.本稿では,対話的かつ間主観的な行為である「スタンステーキング」の概念を用いた質的データ分析により,「間主観的個性」がコンテクストに根差したスタンステーキングの行為によって再生産・蓄積され,会話参与者間の社会的な人間関係構築の礎になっていることを示す.本稿は,社会言語学や言語人類学では,主として社会的カテゴリーの属性としてとらえられてきた「アイデンティティ」を「個性や個人間の関係による特性」との観点からとらえ,メタ・コミュニケーションの相互行為において動的に形成される相対的かつ間主観的な社会的現象であることを提示する.

  • 坪井 睦子
    2016 年 19 巻 1 号 p. 118-134
    発行日: 2016/09/30
    公開日: 2017/04/12
    ジャーナル フリー

    本稿は,国際ニュース報道における「引用」に着目し,引用とメディア翻訳の不可視性との関係を明らかにした上で,社会記号論系言語人類学の「出来事モデル」に依拠し,メタ・コミュニケーションとしてのメディア翻訳の多層的実践について事例分析を通し考究するものである.事例として取り上げたのは,1990年代に壮絶な民族紛争を繰り広げたボスニア・ヘルツェゴヴィナにおいて20年ぶりに行われた国勢調査に関するニュースである.従来,ニュースにおける引用の翻訳は,もとの発話の忠実な再現であり,異なる言語間の単なる意味の等価的伝達と考えられてきた.この前提がニュースの真正性を支えてもきた.分析の結果,引用箇所の翻訳においては,言語使用における「言われていること」のレヴェルには大きなシフトは見られなかった.それに対し「為されていること」,即ち言語使用者たちのアイデンティティやイデオロギーに関わる社会指標的意味のレヴェルにおいては相対的に大きなシフトが生じていた.このことは,メディア翻訳が単なる意味の等価的伝達ではなく,翻訳という出来事が生起する社会・文化・歴史的コンテクストに根差した複層的な実践であり,メタ・コミュニケーションであることを示唆する.さらに,メディア翻訳においては,引用に見られるようにそれ自体が言及指示的に非明示的,したがって社会指標的,メタ語用的要素の転移にこそ困難があることを示すものである.

  • 宮崎 あゆみ
    2016 年 19 巻 1 号 p. 135-150
    発行日: 2016/09/30
    公開日: 2017/04/12
    ジャーナル フリー

    本稿では,日本の中学校における長期のエスノグラフィを基に,どのように生徒たちが,ジェンダーの境界を越えた一人称を使用し,どのように非伝統的一人称実践についてのメタ語用的解釈を繰り広げていたのかについて分析する.生徒たちのメタ語用的解釈の分析からは,支配的なジェンダー言語イデオロギーから距離を置く創造的なジェンダーの指標性が浮かび上がった.その三つの例は以下の通りである.1)女性性に対する低い評価に伴い,「アタシ」よりも,中性的でカジュアルとされる「ウチ」が好まれる,2)女子が男性一人称「オレ」「ボク」を使用することが正当化される,3)一方,男性語であるはずの「ボク」を男子が使用する場合,望ましくない男性性を指標する.このようなジェンダー言語実践へのメタ語用的解釈は,社会的ジェンダー・イデオロギーの変化と結びついて,ジェンダー言語イデオロギーの変容に繋がった.ジェンダーを巡る「メタ・コミュニケーション」は,このように,言語と社会,ミクロとマクロ,言語とアイデンティティの関係を読み解く貴重な研究材料である.

資料
  • 原田 幸一
    2016 年 19 巻 1 号 p. 151-165
    発行日: 2016/09/30
    公開日: 2017/04/12
    ジャーナル フリー

    本稿は,首都圏在住の若年層による日常会話をデータとして,同一発言順番内で行われる置き換え(STR)の中断部に見られる言語的な要素(「中断部要素」と呼ぶ)を網羅的に収集し,その使用を記述した.387例のSTRにおいて中断部要素が使用され,得られた中断部要素の総数は465例であった.分析の結果,Levelt (1989)による分析と同様に,日本語のSTRも訂正と言い換えに分けられ,訂正と言い換えの異なりに応じて中断部要素が使い分けられることが明らかとなった.中断部要素は機能的な観点から,訂正シグナルと言い換えシグナルに分けられ,それぞれに属する典型的な中断部要素は,訂正シグナルが否定表現「ジャナイ」「チガウ」と遭遇系感動詞「ア」「ン?」で,言い換えシグナルが言い換え表現「トイウカ」とナニ系疑い表現「ナニ?」であった.また,中断部要素が複数使用される場合の典型は「ア チガウ」「ア ジャナイ」「トイウカ ナニ?」であり,中断部要素の使用順序に「遭遇系感動詞→否定表現/言い換え表現→ナニ系疑い表現」という傾向があることを指摘した.

ショートノート
  • 石野 未架
    2016 年 19 巻 1 号 p. 166-173
    発行日: 2016/09/30
    公開日: 2017/04/12
    ジャーナル フリー

    本研究の目的は,学習者と母語(日本語) を共有している英語教師が英語で英語の授業を行う際に用いる言語使用上の方略を明らかにすることである.特に学習者の母語と学習目標言語のコードスイッチング(CS) が異なるコミュニケーションフレーム(母語=weコード,目標言語=theyコード) に用いられる事例に着目し,CSによるフレームシフトがどのように行われ,英語によるtheyコードフレームがどのように維持されるのかに焦点をあてて分析を行った.ある公立中学校で収集した英語の授業6回分の録画データから教室談話分析を行ったところ,教師の言語使用について次のような特徴が明らかになった.それは,1) 母語から英語へのCS発話のうち,平均60%以上のCS発話で談話標識「okay」が挿入されること,2) CS発話文に挿入されたokayのうち,88%が授業におけるフレーミングマーカーとして機能していること,である.以上の結果から,本研究で教師が用いた談話標識okayは日本語から英語への授業フレームシフトを行う際の手続き的機能を担っていることが示唆された.結語では,このような談話標識のメタ的利用が,他の教師にも用いられ得る英語で英語の授業を行うための言語使用上の方略となる可能性を主張し,今後の研究でどのように実証されるべきかについて述べる.

研究論文
  • 猿橋 順子
    2016 年 19 巻 1 号 p. 174-189
    発行日: 2016/09/30
    公開日: 2017/04/12
    ジャーナル フリー

    本論は明治神宮を事例にエスノグラフィックな言語景観分析を通して,言語景観テクストの談話実践に迫ることを試みる.明治神宮は紛れもなく神社であるが,神社にまつわる前提を一旦脇に置き,収集されたテクストにどのような談話機能が見られるかを探求する立場を取った.フィールドワークでの気づきから掲示物の中の英語使用に焦点化し,日本語との比較考察を行った.アイテム数,コーパス量,機能別分類,KJ法による概念図の生成,事例の談話分析を含む多面的な分析の結果,明治神宮内の掲示物テクストには神社特有のものに限らず,観光,商業,博物館,環境・自然などジャンル間の談話の連鎖も含め動的な側面が見られた.英語掲示は増えつつあるとはいえ概ね地位的にも機能的にも日本語に従属する位置にある.意味的な広がりの分析では,上位概念は両言語に等しく網羅されているものの,下位概念に英語に欠落している領域も見出された.たとえば,「時間」は両言語に等しく言及される主要概念のひとつであるが,「人生の節目」といった時の概念は日本語にのみ見られるといった違いである.談話分析からは両語に質的に異なる神社・参拝者・神々・神官の関係性の提示が認められた.これらの結果から,二つの言語の機能および談話構造上の差異が,それぞれの言語を介して交差する人々との係わりあい方の違いにも連動していることが考察された.

  • 久屋 愛実
    2016 年 19 巻 1 号 p. 190-206
    発行日: 2016/09/30
    公開日: 2017/04/12
    ジャーナル フリー

    本稿では,意識調査のデータを利用し,同じ意味を表す既存語に対して外来語「サポート」が生起するメカニズムを,主にスタイルの観点から明らかにした.第一に,多変量解析の結果,外来語の生起は生年,学歴,スタイルという3つの説明変数から予測できることを示した.これにより,既存語から外来語への語彙交替はスタイル差を伴って進行していることが示唆された.ただし,スタイルは学歴と交互作用をなして複雑な形で外来語の生起に影響を与えていることがわかった.第二に,話者内における語彙の使い分けの実態とその理由を詳しく分析した結果,外来語の生起にスタイル差が生じるメカニズムは,「発話意識モデル」,「聴衆デザインモデル」,「話者デザインモデル」等の複数のモデルから多面的かつ複合的に解釈できることを示した.以上から,語彙交替の細かなプロセスを解明する上で,バリエーション分析にスタイルを組み入れることが有益であるとの結論を得た.

ショートノート
  • 花井 理香
    2016 年 19 巻 1 号 p. 207-214
    発行日: 2016/09/30
    公開日: 2017/04/12
    ジャーナル フリー

    現在日本では在留外国人や国際結婚が増加している.しかしながら,少数派言語を母語に持つ親の母語の継承などについては,まだ関心が向けられていない.本研究では,社会的少数派言語の言語継承という視点から,日本人との婚姻により日本に居住する35名の韓国人母を対象に,子どもへの韓国語の使用実態・継承要因を質問紙・面接調査から探った.その結果,子どもの韓国語(母親の母語)産出率は,韓国に居住する日本人母家庭の日本語使用と比較すると,両グループ間で顕著な差がみられ,韓国人母への韓国語使用率は低かった.これには,「家族の理解・支援・姿勢」「コミュニティの存在」「言語の威信性」「政府の支援」などが影響を及ぼしていることが明らかとなった.

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