社会言語科学
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19 巻, 2 号
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巻頭言
寄稿
研究論文
  • 近藤 行人
    2017 年19 巻2 号 p. 10-26
    発行日: 2017/03/31
    公開日: 2017/04/28
    ジャーナル フリー

    本研究は,日本とウズベキスタンにおいて,作文教育に携わる教師の有する文章観を明らかにし,その類似点,相違点を探る.日本人大学生及びウズベク人大学生が書いた作文を評価的態度を持って読んでもらったうえで,「いい文章とは何か」という点から,それぞれの教師の文章観を語ってもらった.これらの文章観についてのインタビューを質的に分析し,日本人教師とウズベク人教師を比較した.その結果,両者とも,言語的規範を順守すること,書き手が深い考えを備えた独自の主張を展開することをいいと捉えていた.一方で,文章構成に対する期待は異なっており,ウズベク人教師は,詳しい情報が記述された序論を持ち,冒頭で意見を表明しない文章構成を好み,日本人教師は冒頭で意見表明がされる文章構成を好んでいた.また,どのような論拠を説得力がないと捉えるかについてもそれぞれが感情的であると捉える論拠や,宗教的な記述,豊富な情報量に対する評価は分かれていた.日本人教師とウズベク人教師は,それぞれが身近でなじみのある文章を好んでいることが示唆された.

  • 伊原 紀子
    2017 年19 巻2 号 p. 27-42
    発行日: 2017/03/31
    公開日: 2017/04/28
    ジャーナル フリー

    なぜ人は,実際に発話されてもいない他者(客体化した自己も含む)の発話や思考を,引用しているかのように提示するのだろう.本稿では,このような想定引用の談話機能とその提示の仕方における日英の差異を調べる.

    日英それぞれの小説とその翻訳における会話を比較検討し,次のことを明らかにする.この想定引用は,他者の言葉や思考を報告するためではなく,皮肉や共感など,現話者の表現態度を伝えるストラテジーとして用いられており,様々な「声」を操作して重層的なコミュニケーションを産出している.日本語の小説等では,便利で豊富な引用標識が(時には伝達動詞とともに)付加されて,想定引用であることが明示的になるケースが多く見受けられ,発話/思考の帰属先や,現話者の意図がわかりやすくなる傾向がある.英語では,自由直接話法・自由間接話法を利用したり,談話標識などの談話装置を使うことによって,日本語の想定引用と同様の機能を果たすことができる.もっともこの場合は引用標識が使われないので,発話/思考が誰のものとして提示されているのか,また現話者のメタメッセージは何なのかを判断するのは読者である.

    ただし口頭の会話の場合は,参与者間でコンテクストが共有される度合いが高いため,日本語でも引用標識を用いないことも多く,日英の差は少ない.

  • 臼田 泰如
    2017 年19 巻2 号 p. 43-58
    発行日: 2017/03/31
    公開日: 2017/04/28
    ジャーナル フリー

    本研究では,会話中の演技がどのような行為なのかを明らかにする.特に,「雑談」がどのような活動なのかということを踏まえ,演技者と他の参与者はともに演技をめぐってなにをしているのかという点に注目する.演技は日常会話において頻繁に生じるものであり,これまでにいくつかの研究の蓄積がある.しかし,これまでの研究は演技者が演技によってなにを達成しているのかということを論じてきており,演技者と演技の他の参与者がともになにかを達成するという側面には十分な検討が向けられてきていない.一方,演技と似た形式をとる直接引用発話は態度や関心を共有する手続きとして論じられてきているが,対面会話におけるこうした手続きとしての側面が詳細に検討される必要がある.これらのことに取り組むため,ビデオカメラを用いて収録した会話場面の映像データを使用し,会話分析の手法に主に依拠して,演技とそれに後続する行為との連鎖を分析する.分析の結果,以下のことが明らかになった.演技はそれに先行する発話に対して強い関心や同調的態度を示すものであると同時に,他の参与者に対して態度や関心の共有を促すものである.また演技は他の方法による先行発話や行為への反応に比べ,より容易にその次の位置での他の参与者の同調的反応を可能にする手続きである.

  • 坊農 真弓
    2017 年19 巻2 号 p. 59-74
    発行日: 2017/03/31
    公開日: 2017/04/28
    ジャーナル フリー

    言いたいことがあるがそれを言い当てる表現や単語が思い浮かばないといった経験は誰にでもあるだろう.本論文では,手話話者がこういった問題をいかに解決しているのかを一つの断片を詳細に分析することを通して考える.手話に限らずすべての相互行為において,表現や単語が思い浮かばないなどの問題(トラブル)が生じた場合,それまで展開されていた語りややりとりは一旦停止され,別のトラックに移り,その問題が解消されたのち,元のトラックに返ることがある.社会学を祖とする会話分析の分野ではこの区間を「修復の区域(repair segment)」と呼ぶ.本論文では,手話相互行為においてもそういった修復の区域が存在することを前提とし,そこで手話話者らは手話特有の「即興手話表現」という方法で修復の操作を行い,問題を解決していることを指摘する.分析では,音声相互行為を対象とした会話分析における修復の連鎖の枠組みを利用し,SMUアノテーションを付与したデータを細かく見ていった.分析の結果,筆者が即興手話表現と呼ぶ,表したい対象を言い当てるために,手話言語の語彙として広く知られている語彙(ネイティブ語彙)と音声言語由来の指文字から派生した語彙(非ネイティブ語彙)の組み合わせや意味の近い語彙で代替するなどのいくつかの手法が観察された.

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