社会言語科学
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最新号
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巻頭言
研究論文
  • 今村 桜子
    2024 年 26 巻 2 号 p. 3-18
    発行日: 2024/03/31
    公開日: 2024/04/26
    ジャーナル フリー

    地域日本語教室での読解支援に役立てるため,学校お便り文書における行為要求文から行動主や行動内容を回答する調査を,日本語非母語話者(JSL)31人と日本人保護者(JJ)46人を対象に行った.JSLの正答率は行動主判断で7割弱,行動内容記述で5割程度でありJJに比べ有意に低かった.ふりがなや翻訳語が添えられた場合であっても,JSLにとり読解困難であった.漢字圏と非漢字圏の得点に有意差は見られなかった.JSL5群を比較すると,習熟度が高いクラス程得点が高いものの,上位群は大意取りの結果詳細を読み落とす傾向が見られた.読解困難な文は,述部に長いひらがな部がある文,書き手が主語の文,言い切り文である.読解困難点は長いひらがな部から語の区切りを見つけられないこと,数字への過剰注目から助詞や語彙の読み落としが生じること,動詞の活用の知識が不足していること,主語省略文や書き手が主語の文から行動主を類推できないこと,既知語からの意味の類推の失敗等であった.JSLは持てる知識を総動員し,既知語や既習文法の知識から読み進めるボトムアップの読みと,背景知識を使って予測しながら読み進めるトップダウンの読みを駆使するが,判断の根拠は個人により様々で読み誤りが生じる.よって,読解支援への要望に応えるためには,行為要求文に頻出する語や文法知識に加え,文章の形式や日本の学校に関する背景知識を補う活動が有用であろう.

  • 生天目 知美, 大島 弥生, 居關 友里子
    2024 年 26 巻 2 号 p. 19-34
    発行日: 2024/03/31
    公開日: 2024/04/26
    ジャーナル フリー

    本研究では理工系研究室において日本語でコミュニケーションを行っている中国語母語話者の大学院留学生4名を対象に,研究室においてどのような人間関係構築の経験をし,その結果としてどのようなスピーチスタイルを選択したのかというプロセスについてインタビューを実施し,M-GTAによって分析を行った.分析の結果,【研究室という場の認識】【希望する関係性】【会話機会への参加】【スピーチスタイルの選択】【経験の評価】の5カテゴリーで,彼らのプロセスが語られた.彼らは各々の希望する関係性に基づいた積極性でフォーマル/インフォーマルな会話機会に参画し,人間関係構築に対してうまくいった/うまくいかないという感覚を持ったが,結果として得た満足度は会話機会への積極性とは必ずしも一致しなかった.また,人間関係構築に伴うスピーチスタイル選択のプロセスは一様ではなかった.スピーチスタイル選択の規範意識や日本語能力の限界だけでなく,自らの望む人間関係と現実の親密度との調整や研究室における自己呈示の一手段として主体的に選択した結果であることが確認された.留学生は自らの希望と周囲との折り合いをつけながら自らの立ち位置を開拓(確立)し,経験を過去・現在・未来の経験の中で統合することによって納得に至っていた.

  • 乾 友紀
    2024 年 26 巻 2 号 p. 35-50
    発行日: 2024/03/31
    公開日: 2024/04/26
    ジャーナル フリー

    本稿は,子ども同士の相互行為における「てあげる/てやる」を使用した発話に着目し,その発話によって参与者間の関係がどのように位置づけられるのか,相互行為的視点から分析し,言語社会化論の観点から考察を行うものである.子ども同士の相互行為において,年齢差や知識・経験の有無から生じる能力の差により上下関係が構築されるが,その関係は静的なものではなく,相互行為によって動的に変化するものであることが示された.子どもは,会話参与者と自身の間にある立場や能力の差を察知し,その状況において「てあげる/てやる」による発話が可能であることに敏感に志向し,言語行動及び非言語行動によって巧みに自身を上位に位置付けている.そして,子どもは「てあげる/てやる」を使用するたびに,その恩恵がどこからどこに向かっているのかを学んでいく.子どもは,「てあげる/てやる」を使用した行為の申し出や指示により,兄/姉としての規範的ふるまいを実践し,また,参与者が困っている状況において,自身に手助けする能力があるということを示す.それによって非対称性が生じるが,一方で,下位に位置付けられた側の子どもは,ただそれを受け入れるのではなく,抵抗を見せることなどによって非対称性を崩し,対等な関係へとシフトしていくことが見出された.このような友達やきょうだいとの相互行為によって,子どもは人間関係における規範を構築し,交渉するのである.

  • 薛 桃子
    2024 年 26 巻 2 号 p. 51-66
    発行日: 2024/03/31
    公開日: 2024/04/26
    ジャーナル フリー

    本研究においては,ナラティブ(語り)を会話参与者らが相互行為の中で自己を位置づけながら,協働して語りの世界を構築するプロセスとして捉える.本稿では筆者の家族による「韓国」に関するナラティブにおいて,在日朝鮮人二世である筆者の父親がいかに自己を位置づけるかというアイデンティティの断片を分析していく.分析の結果,本稿で扱うナラティブには,実際に体験した韓国という国を「外国」として捉える自己が表出する一方で,「母国」として捉える自己も浮かび上がり,自己の矛盾が浮き彫りとなる.また,国民国家という枠組みで語らない自己が表出する一方で,韓国国籍を民族アイデンティティと同一視する自己も表出し,国民国家という枠組みで思考せざるを得ない葛藤が垣間見える.このように,ナラティブに表出する自己の矛盾にこそ,在日朝鮮人の生きる姿を捉えなおす鍵が隠れていた.

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