社会言語科学
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22 巻, 2 号
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巻頭言
研究論文
  • 亀井 恵里子, 細田 由利, アリン デビッド
    2020 年 22 巻 2 号 p. 3-14
    発行日: 2020/03/31
    公開日: 2020/04/13
    ジャーナル フリー

    本稿では自閉症スペクトラム障害を持つ青年が療育者からの極性の質問にどのように返答するかを会話分析の手法を用いて探究した.本研究の使用データは合計約230分,17歳の自閉症を持つ青年と療育者の会話である.また18歳の健常の青年と療育者の合計約20分の会話も参考データとして使用した.療育者との相互行為の中で,自閉症を持つ青年は療育者の極性の質問に対して,質問の最後の述部の部分を繰り返す形で返答することがわかった.しかしながら,単にそのままの繰り返しではなく,文法的にもプロソディ的にも返答として適切な形に変換されたものであることが判明した.さらに,質問の述部の部分の繰り返しが返答として適切でない場合には,繰り返しではなく決まり文句を答えとして発していた.一見すると療育者の質問の一部の単なる繰り返し(エコラリア)のように見える応答には当該青年の巧みな相互行為能力が見られた.本研究では自閉症スペクトラム障害を持つ人の質問への返答を詳細にわたって検証することにより,その人の持つ相互行為能力を明らかにすることができることを示した.一方,療育者は質問をする際,答えの候補を質問文の最後に含んだ極性疑問文の形にして,当該青年が質問の一部を繰り返すことで容易に返答できるように質問をデザインし,相互行為の進行を促しており,療育者による質問のデザインの重要性ということも示された.

  • 町 沙恵子
    2020 年 22 巻 2 号 p. 15-29
    発行日: 2020/03/31
    公開日: 2020/04/13
    ジャーナル フリー

    本研究ではテレビのトークショーから抽出した親密な三者による会話を扱い,そこに頻繁にみられる他者の発話の繰り返し,パラフレーズ,及び協同発話(co-construction)の3つの言語実践を分析する.この3つは話者たちの発話や思考,さらに話者同士を結び付け,協調的に会話を展開させる機能を共有する.それは話者たちが互いの発話に容易にアクセスし,それを自己の発話に気軽に組み込んだり(繰り返し,パラフレーズ),相手の未完成の発話の続きを察してそれを補うこと(協同発話)によって達成される.またこれらの言語実践は頻繁に共起・共働し,日本語の親しい者同士の会話の協調的かつ友好的(bonding)な性質を強化する.以上の分析結果から,日本語の親密な三者による会話では,特に会話の盛り上がり部分において話者たちが互いの発話を絡め合わせ,まるで三つ編み(ブレイド)を編むかのように会話を展開することを指摘する.この類似性から,話者たちの発話が密接に絡まり,つながり,話者同士も結束していく会話構造の在り方をブレイド・ストラクチャー(編み込み構造)とし,モデルを提示しながら親密な話者による日本語会話の協調的な会話展開の在り方を説明することを試みる.

  • 関 玲
    2020 年 22 巻 2 号 p. 30-45
    発行日: 2020/03/31
    公開日: 2020/04/13
    ジャーナル フリー

    「へー」は新たな情報を受け止めたことを示す際に使用される言語資源の1つであることが指摘されている.本稿は,「へー」が新たな情報が提示された直後ではなく,連鎖組織上関連付けられているひと連なりの連鎖(本稿では「一連の連鎖」と呼ぶ)全体が収束可能な位置に至った後に用いられることに注目し,この特定の位置に用いられる「へー」の相互行為上の働きを明らかにすることを目的とする.分析を通して,「へー」は,1)会話参加者の間に生じた認識の相違によって展開される一連の連鎖,2)「へー」の受け手によって報告されるニュースを契機に展開される一連の連鎖が収束可能な位置に至った後に用いられることが観察された.また,上記のいずれの環境においても,話者は「へー」を用いることによって,「へー」が産出されるまでの一連の連鎖を明示的に収束させ,会話を前進させることが確認された.一連の連鎖を明示的に収束させたうえで,次の新たな連鎖に移行するために,「へー」は利用可能な手続きである.すなわち,「へー」は複数の関連のある連鎖を組織するための手立てとして利用可能な相互行為の資源と言える.

  • 串田 秀也, 川島 理恵, 阿部 哲也
    2020 年 22 巻 2 号 p. 46-61
    発行日: 2020/03/31
    公開日: 2020/04/13
    ジャーナル フリー

    診療場面における患者の基本的課題の1つは,受診の正当性を示すことである.患者が主訴に関してすでに他の医療機関を受診したあとで現在の受診に至っている場合,その先行する診療を担当した医師に関する不満は,さらなる医療ケアの必要性を伝える点で受診の正当化の重要な手立てとなりうる.だが,そうした不満は受け手の同業者に向けられている点で共感を得にくく,話し手自身に関する負の評価を喚起する可能性もあるデリケートな行為である.本稿は,このジレンマが相互行為の中でどのように対処されているかを,医学的に説明のつかない症状を持つ患者の事例を中心として,会話分析の視点から考察する.その結果,患者は診療の中でいつどのように不満を述べるか,あるいは自分の不本意な経験の報告を不満としてデザインするかどうかを慎重に選択することによって,ジレンマに対処し,自分が理性的患者であるという自己呈示を維持することで,受診の正当性を高めていることを示す.

資料
  • 大場 美和子, 中井 陽子
    2020 年 22 巻 2 号 p. 62-77
    発行日: 2020/03/31
    公開日: 2020/04/13
    ジャーナル フリー

    本研究の目的は,会話データ分析の初学者による話題区分にどのような特徴があり,初学者が話題区分の認定基準をどのように捉えていたのかを明らかにし,初学者への教育方法を探ることである.まず,学部生40人を対象に,10分程度の初対面二者会話の話題区分の調査を行った.調査では,学部生に話題区分と話題タイトルのほか,話題区分の箇所に見られる言語的・非言語的要素を挙げる課題を課した.次に,調査で収集したデータをもとに,話題区分をした人数,話題区分の一致率の集計を行った.これらの集計結果をふまえ,ワークシートの記述内容(話題区分の認定基準,話題開始部・終了部の特徴,認定の困難点)も質的に検討し,一致率の違いの背景を検討した.分析の結果,学部生の話題区分の一致率は数値にばらつきがあるものの,話題の内容面の特徴,話題開始部・終了部の言語的・非言語的要素の特徴はつかんでいたことが明らかになった.これをふまえ,初学者に話題区分の認定基準について検討させる際の方法の提案を行った.

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