日本森林学会大会発表データベース
第127回日本森林学会大会
選択された号の論文の831件中1~50を表示しています
学術講演集原稿
  • 柴田 晋吾
    セッションID: A1
    発行日: 2016/07/08
    公開日: 2016/07/19
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    近年、アメリカでは野外レクリエーションがビジネスとしても大きな位置を占めてきており、「肉体と精神の刷新」のための「規則に縛られない遊び」としての「持続可能なレクリエーション利用」の推進が図られてきている。その内容を見ると、狩猟や魚釣りなどの伝統的な野外レクリエーションは依然根強い人気があるが、近年の顕著な傾向として野生生物ウォッチングなどの自然体験型レクリエーション利用の急増がある。また、1人当たりの国公有地面積の減少や国公有地の偏在によって、私有地におけるレクリエーションの関心が高まってきており、例えば、狩猟では東部において有料貸付契約なども含めて国公有地以上に私有地が利用されている実態にある。しかしながら、いわゆる「開放型土地所有者」と称される一般公衆のアクセスを認める私有地所有者は限られており、連邦や州政府は様々な助成措置によってアクセス可能な私有地の確保を図っている。民有地が多く荒廃した里山が多く存在する日本においても、都市住民等の身近な野外レクリエーションのためのフィールドの確保という観点から、同様な対策を検討するべきではないだろうか。
  • 平野 悠一郎
    セッションID: A2
    発行日: 2016/07/08
    公開日: 2016/07/19
    会議録・要旨集 フリー
    トレイルランニングは、2000年代以降に日本でも愛好者が急増し、特にアップダウンや景観が楽しめる林地の道(登山道、林道、里道等)を走ることに人気が集まっている。しかし、数百人単位による大会(レース)を軸に普及が進んだこと等から、従来のユーザーであるハイカー等との軋轢が増加し、土壌・植生への影響等も懸念され、最近では環境省「国立公園におけるトレイルランニング大会等の取扱い」(2015年)等を通じて林地利用の規模・要件を制約する動きも生じてきた。この状況へのトレイルランナー側の反応として、まず、全国の大会開催や普及活動を担ってきた有志ランナーによる「日本トレイルランナーズ協会」が設立され、上記の問題に向き合う「窓口」として、林地を走る際のルール作りや社会的地位の確立を組織的に行う動きが見られている。また、自治体・集落との関係構築を通じ、里山整備や古道再生の一環として大会開催や普及活動を位置づけ、山村地域の活性化を積極的に担おうとする有志ランナーの取り組みも確認された。一方、ブームに応じて幅広い愛好者が存在する現状で、どのような発展ヴィジョンを提示・共有していくかが大きな課題となっている。
  • 陳 碧霞
    セッションID: A3
    発行日: 2016/07/08
    公開日: 2016/07/19
    会議録・要旨集 フリー
    This study investigated residents’ attitudes toward tourism development in nature reserves. Local people have a very positive attitude towards ecotourism development, and considered that they could benefit from the economic activities related to tourism. Residents were supportive of the conservation of natural resources, preservation of culture, sustainable community development, and community participation in ecotourism planning and management. Socio-demographic characteristics also influenced residents’ attitudes, for example, younger and more highly educated community members were more likely to support learning more about natural and cultural resources and landscapes. The results suggest that the relevant government agencies should invest in training residents, particularly young, well-educated residents, so they are able to take up alternative employment in the tourism industry in protected areas, such as ecological tour guides and nature interpreters.
  • 立花 敏, 柳澤 詩織, 香川 隆英
    セッションID: A4
    発行日: 2016/07/08
    公開日: 2016/07/19
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    2005年に認定が開始された「森林セラピー®基地・ロード」は、年々増加して2015年1月現在全国に57箇所となった。本研究は、基地・ロードの運営において重要視する項目とその達成率、今後に重要視される項目等を把握すべく、基地・ロードの運営者に対する聞き取り調査と悉皆のアンケート調査を実施した。その結果、項目の「森林とセラピーロードの整備」や「参加者の満足度等の意識調査」は達成率が高い一方で、「宿泊施設」、「医療機関」、「企業・団体」等との連携はまだ十分進んでいない状況が明らかになった。また、「基地運営の仕組みづくり」、「人材の確保・育成」を今後重要視すると回答した主体が多かった。基地運営の仕組みづくりに関しては、開始時に行政が主導して認定を取得したところが多いが、その後に新しく組織を作ったり外部団体に運営を移行したりと、分業体制が進んでいることも把握された。人材の確保・育成に関しては、主にガイドについて検討し、基地・ロードの約半数に地元独自のガイドが存在すること、メンタルヘルスプログラムの実施等が課題となっていることも明らかになった。今後は企業等と更に連携し、利用者を獲得することも重要となる。
  • 八巻 一成
    セッションID: A5
    発行日: 2016/07/08
    公開日: 2016/07/19
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    北海道では戦中戦後にかけて、伐採された国有林材を搬出するために多くの森林鉄道が敷設された。しかし、1968年に全線廃止され、それから50年近くが経とうとしている。遺構の多くが森の中に埋もれようとしている中、林業遺産としての価値を有する森林鉄道関連遺構の現状について、十勝上川、音更森林鉄道を中心に実態を把握を行った。その結果、十勝上川森林鉄道では土場や木造施設、トンネル、橋脚等の遺構が確認できた。また、遺構の中には地元教育委員会が説明板を設置している例も見られた。音更森林鉄道では、産業考古学系組織の熱心な働きかけによって修理工場が保存されているものの、補修が行われているわけではなく、保存状態は劣悪であった。以上のことから、遺構の一部は保存されてはいるものの、地域や行政の関心は必ずしも高いとはいえず、全体として遺構群が積極的に保存されている状況ではなかった。これらの遺構は、人と森林との歴史を今に伝える貴重な林業遺産であるといえるが、適切に保存していくためには、その学術的価値を明らかにするとともに、地域や行政にもわかりやすく伝えていくことも重要である。本研究はJSPS科研費26570031の助成を受けた。
  • 芝 正己
    セッションID: A6
    発行日: 2016/07/08
    公開日: 2016/07/19
    会議録・要旨集 フリー
    沖縄県の観光客数は、海洋博公園や首里城公園を中心に年々増加傾向にあり、平成26年には705万人と対前年比10%の増加を示した。一方、「やんばる」と呼ばれる沖縄島北部地域の3村(国頭村、大宜味村、東村)は、いずれも人口減少と高齢化による過疎化が進行してきており積極的な地域活性化対策の実施が急務となっている。これらの地域には80%以上の森林率を有する豊かな自然環境が残されており、鹿児島県の「奄美大島」と「徳之島」、沖縄県の「西表島」と共に奄美琉球世界自然遺産候補地の一部に指定され、エコツーリズムを基軸とした観光産業振興による地域活性化の取り組みが期待されている。 本研究では、遺産化を視野に入れたやんばる地域における今後の観光客数の動向について、県全体の観光客数の推移と連動させながら俯瞰すると共に、域内道路網による移動性について、既存の保養施設や宿泊所、野外自然観察・学習施設、散策トレイルに、ダムサイトや景勝地点など潜在的なビューポイントを加えた主要観光スポットへの到達距離の計量分析により検討した。キーワード:遺産候補地、やんばる、入込観光客、動向、保全管理
  • 柴崎 茂光
    セッションID: A7
    発行日: 2016/07/08
    公開日: 2016/07/19
    会議録・要旨集 フリー
     デジタル化の技術発達が著しい中で、近年は、専門家でなくとも容易に動画を撮影・編集し、youtubeといった媒体で作品を公開することが可能となってきた。映像資料の学術的な利用については、昭和の初期から、アチック・ミューゼアムを設立した澁澤敬三や、宮本馨太郎らによって収集が行なわれ、戦後も、民族文化映像研究所(民映研)などによって蓄積されてきた。学問のディシプリンとして、映像民俗学や映像人類学といった分野も確立されてきている。しかしながら、動画の一般的な普及として比して、学術研究における動画利用は、必ずしも十分進んできていない。これは、森林・林業を総合的に扱いつつ、国民や人類の生活・文化の向上に貢献することを謳う当学会においても同様な状況である。人文科学や社会科学の視点に立っていえば、山村生活や林業技術を含む生業のあり方を映像で記録し、学術論文として公開することは、文字資料として論文を書くことと同等に重要なことと考えられる。本報告では、筆者が撮影した研究映像を紹介しながら、映像資料を用いた林学研究の可能性をも考察する。なお本研究はJSPS科研費26570031の助成を受けたものである。
  • 清水 環, 奥 敬一
    セッションID: A8
    発行日: 2016/07/08
    公開日: 2016/07/19
    会議録・要旨集 フリー
     三重県北部地域は、森林率が高く林業の盛んな南部地域とは対照的に、森林率が低い都市的地域である。そのため既存の森林関連セクターの規模が小さく、都市近郊の人工林や里山林に対して社会的に求められている森林管理に十分対応できない場合が多い。一方で同地域でも市民活動による森林への関わりが広がりつつあり、一部では既存セクターを補完する形のNPO法人なども見られるようになった。本研究では同地域の森林管理に携わるNPO法人を対象として、活動状況とその展開を時系列的に分析することで、NPOに求められる役割の変化と今後の可能性について明らかにすることを目的とした。「認定NPO法人森林の風」を主な対象とした活動展開分析の結果、当初は人工林施業が中心であったが、企業や自治体、他団体との連携が増加し、里山林管理、森林環境教育、啓発事業等、多様な役割が求められるようになっていた。また、一般向けの技術研修は初期から継続的に高いニーズがあった。既存の森林関連セクター間をつなぐ役割も持ち始めており、森林環境ガバナンスを担う新たな市民セクターとしての可能性を見いだすことができる。
  • 高橋 卓也, 酒井 美知
    セッションID: A9
    発行日: 2016/07/08
    公開日: 2016/07/19
    会議録・要旨集 フリー
    森林環境税は全国の半数以上の県に導入され広がりを見せている.森林環境税は環境税のなかでも,税により人々の意識を地域の環境に向けさせ,皆で環境保全に取り組む「アナウンスメント効果」の役割が大きいとされる.しかし,その認知度は3割から8割と県によって大きな違いが見られる.この違いが何に起因するかを探ることは,森林環境税およびその事業の理解浸透のために必要であろう.本研究では,認知度の異なる8県(長野,福島,高知,茨城,神奈川,奈良,滋賀,愛知)について事例研究を行い,認知度向上の要因について検討した.その結果,税導入前や導入直後の話題性,新聞等の大衆向けメディアでの報道・広告,多種多様な広報媒体の活用,印刷物の全戸配布などの情報伝達の工夫,森林の身近さといった地理的条件が影響している可能性が示唆された.一方で,予算規模,事業地での「税活用」表示,土砂災害発生数などは,あまり影響していない可能性がある.
  • 木村 憲一郎
    セッションID: A10
    発行日: 2016/07/08
    公開日: 2016/07/19
    会議録・要旨集 フリー
    本研究の目的は,東日本大震災が福島県相双地方の森林・林業に与えた影響と復興への課題を明らかし,震災被災地の復興に資することである。調査地である相双地方は,沿岸部に東京電力福島第一原子力発電所があり,原発事故により多くの住民が避難生活を余儀なくされるなど,甚大な被害を受けた地域の一つである。調査の結果,①原発事故の影響は,避難指示に伴う営林可能範囲の制限,森林整備面積や素材生産量の大幅な減少,特用林産物の出荷制限に特徴づけられること,②震災から4年以上が経過した今もその影響は続いていること,③震災以降,相双地方では搬出間伐による放射性物質の低減,製材品の表面線量調査,きのこのモニタリング検査などの対策が進められ一定の効果を挙げていること,④対策の進展とともに、域内労働者の不足や地場産材の需要創出などの諸課題が表出し,新たな対応が模索されていることなどが明らかとなった。原子力災害の対策に前例は無く,地域の課題は刻々と変化する。復興には長い時間を要するが,それ故に長期的な視点と実態に即したきめ細かな対策が必要である。
  • 高田 乃倫予, 永田 信
    セッションID: A11
    発行日: 2016/07/08
    公開日: 2016/07/19
    会議録・要旨集 フリー
     過疎高齢化が進む山村の住環境に鑑み、本研究は、永続的管理の必要な山村の生活排水処理について、特に浄化槽の利用と管理の実態を明らかにする。調査は埼玉県C市の振興山村であるU地域を対象とした。C市役所、U地域住民への聴き取り調査の結果をもとに、アンケート調査項目を組み立てた。質問票は無記名回答とし、U地域の自治会を経由し住民に配布及び回収を行った。 回答者は65歳以上が約49%、単身もしくは2人の世帯が過半数を占めた。合併処理浄化槽を使用する世帯は25世帯、単独処理浄化槽は12世帯、汲み取り式は6世帯、無回答は4世帯となった。生活環境に良い排水処理方法として合併処理浄化槽を選択する回答が、自然環境に良い排水処理方法としてそれを選択する回答よりも多かった。費用に対する意識は、保守点検費より清掃費を高く感じているという結果になった。清掃費に対する意識は年収と弱い逆相関がみられた。世帯人数と浄化槽の稼働日数により数年に一度の清掃が平均的であるが、一回に支払う額が大きいため、所得の少ない世帯にとっては費用を高く感じると推測できる。今後、C 市においても低所得世帯を対象とする管理補助制度が求められてくるだろう。
  • 風 聡一郎, 香坂 玲
    セッションID: A12
    発行日: 2016/07/08
    公開日: 2016/07/19
    会議録・要旨集 フリー
    未利用材の木質バイオマス利用において、発電ではエネルギーの利用効率が悪いため、木質バイオマスのエネルギー利用においては、熱利用もしくは電熱併用(コージェネレーション)での利用が望ましいとされている。その中でチップやペレットと比較し安価に製造するための環境を用意できる未利用材を薪に加工する取り組みが日本各地で行われており、温浴施設向けに薪ボイラーの導入を行い、燃料として未利用材を薪に加工し供給するという事例も見受けられる。しかしながら薪ボイラー導入に関する事例研究はほとんど見受けられない。そこで本研究では薪ボイラー導入の複数事例に関して、地域で導入する際のモデル化の検討を目的とし、岡山県A地域をはじめとする複数の地域で関係者へのヒアリング調査を行った。ボイラー起因による運用負荷のバイアスを避けるため、同一機器を導入している施設に限定して調査を行った。本研究によりに各事例から以下の事柄について明らかにした。1.導入の経緯における行政をはじめとする関係者の相関2.薪の製造主体の形態の差による経済効果3.薪の供給形態の差異による利用者の負担4.薪ボイラーへの換装による燃料コストの変化
  • 遠藤 元治, 伊藤 幸男, 泊 みゆき
    セッションID: A13
    発行日: 2016/07/08
    公開日: 2016/07/19
    会議録・要旨集 フリー
    本報告は岩手県での民生用チップボイラー(熱利用)の導入状況を解説し、燃料用チップの供給の実態と課題を事例を元に明らかにするものである。平成27年度末で累計47台のチップボイラーが導入されている(全国第一位)。内26台が震災後であり、公共的施設へが12台、民間施設へが14台と民間での利用が急増し、その利用目的も多様化の傾向にある。震災後に導入が伸びた理由は、①様々な復興関連補助金制度が利用できた、②地元ボイラーメーカーの技術力および総合提案力の向上があった、③既導入ボイラーの実績による経済性試算の精度向上があった、④県および自治体の地道な需要発掘および具現化サポートがあった(今も継続中)等にあると推察される。一方、燃料用チップは各ボイラーが導入された地域の製紙用チップ製造業者、製材業者、木材加工業者、森林組合などが試行的に供給しているのが現状である。ボイラーの急増に対し燃料用チップの供給・流通網の組織的な整備は追いついていない。現在、燃料用チップの品質向上、安定供給、生産量確保等に向けた模索がなされている。
  • 知念 良之, 芝 正己
    セッションID: A14
    発行日: 2016/07/08
    公開日: 2016/07/19
    会議録・要旨集 フリー
    宮古島と石垣島のほぼ中央に位置する多良間島は,面積19.75km2の隆起サンゴ礁の島で,ほぼ平坦な地形を呈している。現在の森林は,北部2集落の周辺部と島の海岸線に沿って林帯として成立している。戦災の影響が比較的少なかったこともあり,多良間島を対象とした研究は,主に古文書や伝統行事等の社会科学的視点から多くが試みられ,自然科学,特に森林科学の分野においては,陳・仲間(2009)による「多良間島における集落抱護林の植生・構造」に関する研究等を除いてはほとんど見られない。ところで,森林面積や資源量が限られた沖縄の島嶼地域において,多良間島では薪炭生産の自給的体制が古くから在ったことが知られている。そこで本研究では,主に戦後からガス燃料等が普及する1960年代後半までの期間を対象として多良間島の薪炭林の利用実態を,文献資料や統計データの分析,現地でのヒアリングにより検討した。その結果,島内の森林所有が旧態的な管理がされていた字所有の共有地と民有地で構成されていたこと,薪炭材はほとんど島内で自給していたこと,周辺の島へ換金や血縁者への支援を目的として移出していたこと等が明らかとなった。
  • 紙谷 智彦, 青木 美和子
    セッションID: A15
    発行日: 2016/07/08
    公開日: 2016/07/19
    会議録・要旨集 フリー
    半世紀前まで薪炭林として利用されていた里山に分布する民有のブナ林は、ほとんどが未利用のままである。地域によっては、すでに用材としての利用が可能な大きさに成長しているが、ブナ材は人工乾燥が不十分な場合に歪みが激しいことに加え、クワカミキリによる穿孔や変色(偽心材)材を多く含む。そのため、国内に流通しているブナ製品のほとんどに欧州産のホワイトビーチ(ヨーロッパブナ)が使われている。本研究は、里山のブナに含まれる穿孔や変色を自然がつくり出した造形ととらえ、毎木調査で歩留りを意識した選木を行い、製材後の板材の材質を適確に記録することで、乾燥後の板材製品を効果的に販売する方法を検討した。新潟県魚沼市で試験伐採した15本のブナ丸太から乾燥挽板となるまでの材積歩留りは、通直性が乏しい広葉樹においては十分な値であった。さらに、ブナ丸太からとれる総板面積と材質別の枚数予測式を求め、厚さと板幅を指定することで丸太材積からおおよその挽板枚数が算出できた。この式を用いることで、国内産ブナの製材品の量と質的な内訳の予測が可能となり、ブナの製材品を扱う川中の業者には、目安のひとつになるだろう。
  • 齋藤 暖生
    セッションID: A16
    発行日: 2016/07/08
    公開日: 2016/07/19
    会議録・要旨集 フリー
    富士山およびその周辺地域は、名勝・天然記念物、国立公園のほか、近年では世界遺産に指定されるなど、その土地利用を制約しうる様々な制度がしかれてきた。いっぽうで富士山北麓地域は、土壌が貧弱なことに加え寒冷な気候のため、長らく広大な富士山域に資源が求められてきた。本研究では、特に非木材林産物の採取・利用に着目し、史資料調査および関係者への聞き取り調査により、近世から現代にいたるまでの富士山における資源利用の把握を試みた。その結果、現在規制のもっとも厳しい高山地帯においても、時代を通じて地元住民による資源採取が行われていること、この慣行の存在によって各種保護制度の下にあっても資源採取にレジティマシーが付与されてきたことが明らかとなった。さらに、採取物販売の際には、産地が富士山であるという特殊性を積極的に活かそうとされてきたことが明らかとなった。いっぽうで、慣行が理解されなくなる恐れや、地元住民による資源利用文化が途絶える恐れなどが指摘でき、保護地域制度化における資源活用戦略について議論を開始する時期に来ているといえる。本研究はJSPS科研費26570031の助成を受けた。
  • 香坂 玲, 川上 潤吾, 内山 愉太, 風 総一郎
    セッションID: A17
    発行日: 2016/07/08
    公開日: 2016/07/19
    会議録・要旨集 フリー
    特許庁が中心となり、地名を含む商標の登録の制度となる地域団体商標が2006年に発足している。2015年11月30日現在で野菜55品、水産食品45品、果実42品、木材・石炭・炭14品、米7品目などの586件が登録されている。 本研究では、仏壇などの加工品の木材製品を除いた「小国杉」、「北山杉」、「東濃桧」、「南部の木」、「吉野材」、「吉野杉」、「吉野桧」、「龍神材」を対象とし、その登録の動機、経済的・社会的影響、品質・地理区分の基準の有無、今後の展望について、申請をした森林組合に聞き取りを実施した。結果、動機と影響については、模造品の防止、近隣の産品の混同の防止、温泉など地域内の他の取り組みに触発など多様であった。ただし、狭義の価格向上など、経済的な利益は動機においても影響でも限定的であった。また北山杉を除き、生産基準について明確な取り決めはなされていない事例が大多数であった。 品質工程管理まで登録をする地理的表示の保護制度が農水省を中心に2015年6月に発足している。本研究対象の地域団体商標の事例のなかで、地理的表示の登録への動きは調査した事例ではなく、品質の基準と合わせて、今後の展開が注目される。
  • 岡 裕泰
    セッションID: A18
    発行日: 2016/07/08
    公開日: 2016/07/19
    会議録・要旨集 フリー
    日本では1950年頃から1980年台初頭頃までに集中的に人工造林が行われ、その後、人工造林面積が大幅に減少してきた。そのため現在では7齢級から13齢級までの人工林が人工林の大部分を占めていて、14齢級以上の高齢林も6齢級以下の若齢林も少なく、齢級構成に著しい偏りがある。主伐面積、造林面積ともに人工林面積に比べて著しく小さい状況が続いている。しかし、素材生産量の平準化という観点からは、このような齢級構成の偏りは必ずしも問題にはならない。木材供給の持続性や、育林部門を含む林業就業の安定性は目的として考慮されるべき要素であるが、平準化された齢級構成の早期実現自体を目的にすべき根拠は明確ではない。次世代林分の伐期の中核部分の始まりを50年生程度と想定するならば、50年後の資源齢級構成の違いと、現存林分の伐採収益と次世代林分の造育林費用等に基づいて、今後のより適切な主伐面積、造林面積は算出できる。木材需要に対応して、経済性原則で主伐生産量を増加させることは望ましい。一方、収益性なしに若返りを促進することは、50年後の資源齢級構成から見て、それだけの便益があるといえるかどうかが問題である。
  • 藤掛 一郎
    セッションID: A19
    発行日: 2016/07/08
    公開日: 2016/07/19
    会議録・要旨集 フリー
    宮崎県におけるスギ製材用素材市場を対象とし、月次データを用いて素材需給関数を推定した。対象期間は市場構造が安定していたと考えられる2005年から2013年の108カ月とした。まず、需給曲線の位置変化を引き起こす独立変数では、需要は製材工場の素材消費量や素材在庫量に影響を受け、供給は降雨日数と季節の影響を受けている結果となった。また、これら独立変数による需要曲線と供給曲線の月次の絶対変化(一定価格での需要・供給量の変化)は同程度の大きさであった。次に、価格弾力性推定値は需要が-0.16と非弾力的、供給が0.78とより弾力的であった。その結果、需要曲線と供給曲線の月次変動が均衡価格・需給量に与える影響を見ると、価格に対しては平均的に同程度の影響を持ち、需給量に対しては需要曲線の変動の影響が大きい結果となった。以上のことから、素材市場では安定供給が課題と言われるが、供給側は天候や作業の季節性によって独自の月次変動を示す中で、いかにそれをコントロールし、川下の製品市況に影響され変動する需要に対応していくかが求められるものと考えられた。
  • 大津 裕貴, 小池 浩一郎
    セッションID: A21
    発行日: 2016/07/08
    公開日: 2016/07/19
    会議録・要旨集 フリー
  • 峰尾 恵人, 松下 幸司
    セッションID: A22
    発行日: 2016/07/08
    公開日: 2016/07/19
    会議録・要旨集 フリー
    イノベーションすなわち経済活動における革新は、国家やセクターの経済成長や事業体の競争力の源泉であり、その促進は日本の林業政策にとっても重要な課題である。近年、欧米を中心に森林セクターにおけるイノベーションの促進政策に関する研究が多数行われており、それらは日本にも示唆を与えるものと考えられる。その中では、イノベーションを制度や複数の主体の相互関係から生まれるシステム的な現象として捉える見方が大きな流れとなっている。本報告では、わが国の林業研究への示唆を導き出すことを目的に、システム的観点から林業におけるイノベーションを分析した論考について整理した結果を報告する。イノベーションシステムの分析枠組みには諸説あり、海外の林業研究では地域やセクターのイノベーションシステム論、産業クラスター論やネットワーク理論が多用されている。これらの研究では、主体間の関係強化を促す制度や政策の必要性が強調されている。イノベーションが地域経済に正の影響をもたらすことは与件とされることが多く、その効果の測定の研究は発展途上である。日本林業の特徴である補助金に着目した分析は少なく、森林資源構成に着目されることはない。
  • 林 宇一, 永田 信, 立花 敏
    セッションID: A23
    発行日: 2016/07/08
    公開日: 2016/07/19
    会議録・要旨集 フリー
    本研究では林業労働者数のコウホート効果・年齢効果・時代効果の分解を行った。林業労働者数の動向分析としては、国勢調査の林業就業者、林業作業者データを用いたコウホート分析に研究蓄積が見られ(田村ら1999等)、コウホート変化率やコウホート変化数の把握やこれらを用いた将来推計が行われてきた。他方で、各時点・年齢階級の就業者数はコウホート効果・年齢効果・時代効果の3効果から決まるとされるが、林業労働において3効果を検討した先行研究は限られる。そこで、Fu(2000)の提唱したIEモデルによる3効果への分解を行った。コウホート効果では1935年生まれをピークに減少し、1970年生まれから再び増加すること、年齢効果として55歳をピークに以後単調に減少すること、時代効果では1980年から2005年まで減少したのち、2010年に向かって増加することが判明した。林業労働には体力が必要なことから50代後半には減少を示し、就職氷河期に当たった1970年生まれ以降で林業への就業が進んでいる。また、緑の雇用制度が定着する2005年から2010年にかけて時代効果が上昇したことがうかがえる。
  • 興梠 克久, 伊藤 孝史郎, 杉山 沙織
    セッションID: A24
    発行日: 2016/07/08
    公開日: 2016/07/19
    会議録・要旨集 フリー
    2003年度から始まった国の「緑の雇用」事業ではOJT(On the Job Training)指導員の養成は十分にはカバーされていない。熊本県では2006年度から県単独事業として講師養成研修というOJT指導員向けの講習(山林現場での新人指導方法やコミュニケーション術等)を行っている。本研修は県が熊本県林業従事者育成基金に委託し、県内の林業事業体から指導者クラスの山林現場従業員が年10人程度参加している。受講者の年齢は30~40代を中心としつつ60代まで幅広く、キャリアも数年から30年と幅広い。指導方法研修を担当するのはウッズマン・ワークショップ代表の水野雅夫氏で、林業において現場指導者の育成をテーマとする日本では数少ないプロの講師である。本研究では本研修が参加者の安全面、技術面、組織運営面にもたらした影響を明らかにする。そのため、過去の参加者91名を対象に2015年9~10月にアンケート調査を実施した(回収率50%)。2015年8月に2015年度受講者11名を対象としたアンケート調査(回収率100%)と過去受講者4名を対象とした聞き取り調査を行った。 <参考文献>興梠克久編著『「緑の雇用」のすべて』日本林業調査会。
  • 杉山 沙織
    セッションID: A25
    発行日: 2016/07/08
    公開日: 2016/07/19
    会議録・要旨集 フリー
    林業事業体における現場作業員は、近年労働力の需要の変化や若返りが見られ、2010年時点での従事者のうち65歳以上の割合である高齢化率は減少傾向で21%に、35歳未満の割合である若年化率は増加傾向で18%となっている(林野庁 2015)。本研究の目的は、林業事業体の労働組織や雇用形態のあり方と、事業体における中堅的な現場作業員の職務意識の関係の分析を行い、現在行われている人材育成に関する制度の評価を行うことである。調査対象は緑の雇用研修におけるフォレストリーダー研修、フォレストワーカー研修の受講者であり、2012年から2014年の3カ年で行ったアンケートをもとに分析を行った。結果として、経験年数や事業体の規模に応じて中心業務が異なることや、その中心業務に関連して現場管理者としての技術や技能を取得する意識の高低を明らかにした。
  • 滝沢 裕子, 伊藤 幸男, 興梠 克久
    セッションID: A26
    発行日: 2016/07/08
    公開日: 2016/07/19
    会議録・要旨集 フリー
     本報告の課題は、林業事業体の地域別動向の分析である。特に、事業体の経営と雇用について、いかなる地域差があるかを明らかにしようとしている。分析には、2013年に実施した全国の林業事業体に対するアンケートを用いた。林業事業体の素材生産量と賃金との関係から、都道府県別にタイプ分けを行った結果4つのタイプに分かれた。 ①中大規模高賃金型は、栃木県や和歌山県など地域のブロックでくくれない傾向がみられた。②小規模高賃金型は、東山・東海・近畿地域のほとんどの県が属しており、地域性が出ていた。③小規模低賃金型は、千葉県や香川県など森林面積自体が少なく、林業経営規模が小さな県が占めた。④中大規模低賃金型は、北海道・東北・九州地域に属する多くの県が該当した。
  • 田村 和也, 岡 裕泰
    セッションID: A27
    発行日: 2016/07/08
    公開日: 2016/07/19
    会議録・要旨集 フリー
    林業経営統計調査(農林水産省統計部)の結果のうち1ha当たり林齢別樹種別林業経営費(育林費)は、人工林経営の採算性を示す基礎資料であるが、その最近の変化と内容を検討した。直近の平成25年度調査では、すぎの育林費1~50年生計は121万円・ひのきは272万円で、20年度からそれぞれ48%減・14%減であった。費目別には労働費の減少が大きく、減価償却費は増加傾向、物件税・公課諸負担は減少した。構成比で見ると大きな変動はなく、労働費+請負わせ料金が6割から5割へ減少した程度であった。林齢別には6年生以上で多くの費目が減少し、1~5年生の割合が5割台から9割を占めるに至った。いっぽう、経営体の集計結果から試算した育林施業面積当たりの労賃と投下労働時間には若干の低下が見られた。これらの分析を踏まえ、育林費低下をどう捉えられるか検討を報告する。なお、同調査は標本調査であり、特に若齢林では集計数が少ないことに留意が必要である。
  • 大塚 生美
    セッションID: A28
    発行日: 2016/07/08
    公開日: 2016/07/19
    会議録・要旨集 フリー
    今日,わが国では,木材価格の低迷により森林所有者は経営意欲を喪失し,土地込立木販売や,林地は手離さないまでも伐採跡地の造林や施業を放棄するといった動きがある。他方,素材生産業,原木市場,木材加工業などの原木を必要とする経営体の中には,事業規模を拡大するとともに,林地を積極的に購入し育林経営までをも行う事例も生起している。また,林地の購入まではしないまでも,規模のメリットを生かし,いわば信託的な管理受託を行う例もみられるようになってきている。このように,今日,わが国の林業を巡っては,育林経営の再編が進行しているようにもみえる。世界の林業経営に目を向けると,年金ファンドなどの巨大資金を持つ機関投資家がポートフォリオの対象となり第三者に経営信託されている例もあり,こうした世界の動きは,1992年に採択された森林原則声明以降,顕著になってきているようにみえる。そこで,本論では,いわゆる人工林育成林業時代の育林経営再編の動きについて,①経営の規模拡大,②所有の再編,③人工林育成林業の新たな管理組織の3つの項目に視点をあて,国内で展開している事例を中心に報告する。
  • 片山 傑士, 佐藤 宣子
    セッションID: A29
    発行日: 2016/07/08
    公開日: 2016/07/19
    会議録・要旨集 フリー
     近年、自伐林業が小規模・環境保全型、地域振興、新たなライフスタイルとして見直す動きがある。その中でも山林を所有しないが、所有者から林地を借り、自ら施業をする自営林業へ参入する事例がある。現在、この自営林業者の施業現場確保や収入などの労働実態が明らかになっていない。そこで、本研究では、高知県本山町に地域おこし協力隊として、Iターンで自営林業へ参入した3名と本山町役場、本山町森林組合に対面調査を実施した。調査の結果、作業現場確保について、所有者に施業による売り上げの一部を還元する実績を上げたことで所有者から施業を依頼されるようになり、現在は現場確保には困らない状況であることや、収入については現場ごとに土地条件が異なるため、収入が不安定であることが課題であり、林業以外に地域おこし事業やアルバイトなど副業が必要なこと、今後、1名は木を活かした自営複合の意向があることがあることが明らかとなった。また、森林組合としては自営林業を歓迎しており、作業の再委託を要請するなど関係は良好であった。森林組合や林業事業体と競合することなく、施業現場が確保できることが新規参入の成立条件であると考えられる。
  • 佐藤 宣子
    セッションID: A30
    発行日: 2016/07/08
    公開日: 2016/07/19
    会議録・要旨集 フリー
     森林経営計画制度は、森林・林業再生プランの制度的枠組みであり、2012年度から策定作業が開始され、現在4年度目を迎えている。森林経営計画は、造林補助金制度とリンクさせ、支援対象を計画作成者のみに限定したこと、間伐の下限面積を設定し、ha当たり間伐搬出量が増すと助成額が増加する仕組みである。当初、隣接した林班面積の半分以上を対象に樹立する林班計画、100ha以上の所有者がすべての所有林を対象に樹立する属人計画の2タイプであった。しかし、策定率が低迷する中、2014年度から、市町村が区域を指定し、区域内で30ha以上をまとめて樹立する区域計画を導入し、策定を促そうとしている。 本研究の目的は、都道府県別策定データ、九州における計画タイプ別割合、市町村別策定に関する行政資料の分析、行政担当者への対面調査に基づいて、森林経営計画の制度的な課題を考察する。都道府県によって、さらには市町村によっても策定率と計画範域の面積が異なっていること、素材生産が活発な市町村では、千haを越える林班計画を樹立していた。小規模自営林家は林班の共同作成、区域計画、策定していないタイプがみられた。
  • 藤原 敬, 鈴木 春彦, 速水 亨
    セッションID: A32
    発行日: 2016/07/08
    公開日: 2016/07/19
    会議録・要旨集 フリー
    森林管理の義務と支援を直接対象とした国際約束をめざした国際森林条約の不調を背景に、市場を通じたアプローチが、国際的な持続可能な森林管理達成の一つの方向性を示すものとなった。第三者認証による「森林認証システム」、行政の森林法の手続きをベースとする「合法性証明システム」など、である。これらのシステムは日本市場で一定の役割を果たしているが、コスト効率性と信頼性を巡り議論がある。効率的で信頼性のあるシステムを構築する視点で、両者のシステムを、分析・評価する。森林経営の評価手続きを、①FSCの森林認証要求事項と、②森林法の森林経営計画の認定要求事項を比較検討すると、後者は運用実態として、生物多様性保全・労働安全分野・事業者への注意義務などの面で不足している面が多い。ただし、森林経営計画の記載様式は柔軟にできており、実質的な認定の基準となっている市町村森林整備計画との連携で、持続可能な森林管理のツールとしてさらに発展する可能性をもっている。森林経営計画とセットになった合法証明システムのサプライチェーン管理の効率性・信頼性の評価と合わせて、さらなる検討が必要。
  • 小坂 香織, 立花 敏
    セッションID: A33
    発行日: 2016/07/08
    公開日: 2016/07/19
    会議録・要旨集 フリー
    本研究は、小規模所有者である農家等の土地所有者や個人投資家による林業投資への動機付けに、税制改正による優遇策や排出権取引制度の開始がどのような影響を及ぼしたのかを解明することを目的とする。林業投資への動機付けに「儲かること」は必須であるが、数十年先の市場を見通すことは困難であり、国内外の社会・経済・環境等の変化がその収益性を左右する。ニュージーランド(NZ)では、1984年の労働党への政権交代を契機とした行財政改革で農業・林業の補助金は廃止され、自立した林業経営が求められることとなった。現在、NZの人工林で1ha以上の大規模所有者は約6割を占めるが、残りの約4割に含まれる小規模所有者も重要な位置づけにある。ラジアータパイン林業経営では収穫までに約30年を要するが、税制改正等を契機に林業投資が1990年代以降に拡大し、その経営に重要な役割を果した。また、2008年に排出権取引制度の法案が成立し、森林部門から運用が開始されて投資へも寄与した。個人所有者を含むパートナーシップ等により投資家集団を形成する林業投資会社でも、排出権取引から得られる収益を木材収穫以外の収入源としてビジネスチャンスと捉える動きが生じた。
  • 山岸 健一, 永田 信, 古井戸 宏通, 竹本 太郎
    セッションID: A34
    発行日: 2016/07/08
    公開日: 2016/07/19
    会議録・要旨集 フリー
    西欧において、中世盛期に封建法のなかで形成された領域的支配の権利は、近世には内部の身分制的諸権利による制約を根強く残しつつも主権や高権の観念を発達させ、有力な王や諸侯のもとで絶対主義国家を形成する。しかし近代初期には市民社会の発達を反映して、公法関係を通じて国家と市民社会が互いに制約し合うものに転換される。この歴史のなかで近代行政は、議会を通じて市民社会の意思に制約されつつ、秩序維持と「公共の福祉」を目的として必要に応じて法律の許す範囲で市民権を制限するものとして成立する。一方で、近代市民社会の経済社会的な性格や、「公共の福祉」の国家主義的な性格も指摘されてきた。日本は明治期にこのような行政のあり方を継受する。森林行政も同様の歴史のなかで理解できるものと考えられるが、日本の林政史研究でそれを描くものは多くなかった。本発表では、19世紀後半のドイツ国家学を代表する学者であり行政学の祖と言われるローレンツ・フォン・シュタインの『行政学綱要』(第2版1876年)「森林制度(Die Forstwesen)」の項に依拠して、西欧とくにドイツで近代の森林行政が生まれるに至る歴史とその内容を概説し、研究の可能性を検討する。
  • 福嶋 崇
    セッションID: A35
    発行日: 2016/07/08
    公開日: 2016/07/19
    会議録・要旨集 フリー
    本発表では、タンザニアのREDD政策の交渉プロセスにおけるスタンスを、主に現地調査を通じ明らかにすることを目的とする。森林減少・劣化を対象とするREDDは、COP21における交渉の結果、パリ協定の下に法的合意として位置付けられ、各国のGHG削減目標の達成に活用可能となった。タンザニアはUN-REDDプログラム及びノルウェーからの二国間援助を受けて国内の体制整備を進めてきた。また、自国で約20年にわたり実施してきた参加型森林管理事業をREDDとして適用することを検討している。タンザニアは多くのアフリカ諸国にみられるように、京都議定書の第一約束期間におけるCDM登録件数は3件のみとほとんど利益を得られなかった。このことから、地域バランスへの配慮を強く求めると共に市場アプローチよりも基金アプローチを主張していた。しかし、その後は多国間・二国間の支援を十分に得られておらず体制整備は停滞気味であり、また地域バランス是正に向けた主張は現時点においては必ずしも十分に決定事項には反映されていない。こうした懸念について詳細ルールを検討する今後の交渉で改善を図っていくことが求められる。
  • 徐 月明, 佐藤 宣子, 笹田 敬太郎
    セッションID: A37
    発行日: 2016/07/08
    公開日: 2016/07/19
    会議録・要旨集 フリー
    近年、中国では林農業専業合作社が急激に増加している。林農業専業合作社とは、同じ種類の作物を生産経営する者、あるいは林農業生産経営サービスを提供する者、利用者が自主的に連携し、民主的に管理している協同経済組織である。林農業専業合作社は組織としてだけでなく、教育面、技術面、マーケットなどにおいて重要な存在とされている。既往研究では、林農業専業合作社の存在意義、発展史、問題点などが分析されているが、基礎となる経営実態についての研究は少ない。 本報告では、2004年に中国で初めて合作社条例を定め、近年専業合作社の組織設立経済組織などの産業化経営組織が現在非常に盛んであいる浙江省をとりあげる。浙江省は中国の東南部におり、山地面積は総面積の70.4%を占め、林業総生産額は近年連続全国一になっている。そのうちの一つ事例として、浙江省蘭渓市のヤマモモの専業合作社を事例に、出資状況、メンバー構成、組織運営、利益分配などに関して、資料収集と聞き取り調査を行い、合作社の経営実態を考察する。
  • 霍 雪峰, 佐藤 宣子, 笹田 敬太郎
    セッションID: A38
    発行日: 2016/07/08
    公開日: 2016/07/19
    会議録・要旨集 フリー
    2006年から、中国では集団林権制度改革を全面的に展開してきた。この集団林権制度改革によって、林地と林木の権利関係が明確化され、林木所有権と収益権などの権利が保障されることとなった。それによって、林農といわれる農民世帯が林業(木材や果樹生産)の経営意欲を高め、投資し、林業収入を高めることが期待されている。更に、林農以外に集団組織等の様々な経営主体が林権取得も可能となった。改革後、集団林権制度改革による経済的な変化に関して、多くの研究がなされているが、農村の労働力不足と林権改革との関連に着目した研究はまだ少ない。そこで、本研究は集団林権制度改革前と改革以降、林業に従事する労働力の状況の変化を考察する。本研究では、四川省で最初に集団林権制度改革を実施した沐川県を調査対象地にする。沐川県は2004年から試験地として、林権改革を行ってきた。この10数年間、林業に従事する労働力が大きく変化している。もちろん、林業経営主体は林農だけではなく、集団組織、事業体、企業なども含まれているが、今回の研究は主に林農(農民)経営における林業労働力の構成と変化を明らかにする。
  • 深町 加津枝
    セッションID: B1
    発行日: 2016/07/08
    公開日: 2016/07/19
    会議録・要旨集 フリー
    宮城県気仙沼市では、三陸海岸とその背後に広がる北上高地の自然の恵みを受け、豊かで多様な文化が形成されてきた。しかし、2011年東北地方太平洋沖地震により三陸沿岸部は大きな被害を受け、暮らしや営みのそのものが消失、変容し、地域固有の自然や文化の継承と創造が大きな課題となっている。「気仙沼地域における木質バイオマスエネルギー事業」は、間伐材などのチップをガス化するもので、発電能力は800kWとなっている。そして、地域内の森林資源を活用した木質バイオマス発電を軸にしたさまざまな取り組みによって、森-里-海のつながりを創り出すことを目的としている。自伐林家による森林利用・管理への積極的な参加に重点を置き、発電時の廃熱の観光ホテルへの供給、「リネリア」という地域通貨の導入など、事業で生まれた利益を山と海の間で循環させる仕組みを模索している。本報告では、対象地域における聞き取り調査やアンケート調査などの結果に基づき、木質バイオマスエネルギー事業と関わる林業従事者、行政等の主体間の連携の現状を明らかにするとともに、事業を進めることの意義、課題について考察する。
  • 奥 敬一, 平野 悠一郎
    セッションID: B2
    発行日: 2016/07/08
    公開日: 2016/07/19
    会議録・要旨集 フリー
     福井県大野市山間部で受け継がれてきた「越前オウレンの栽培技術」は、2014年度に日本森林学会により林業遺産に選定された。栽培技術が自然資源の伝統的利用形態として高い価値を有していること、そして落葉広葉樹林下に展開する栽培地が林業景観としても貴重であることが、その選定理由である。当該地域では、小作者が山林所有者との間でひとまとまりの山野を対象に小作契約を交わし、その中で焼畑やオウレン畑、ワサビ畑などを適地に割り当て、出作り小屋で生活することで作物栽培を行っていた。また、オウレン畑はトチノキ、キハダといった上層木の下に拓かれる場合もあり、これら樹木が副産物を生み出す重層的な利用もなされてきた。オウレン栽培が継続されることで、以上のような伝統的土地利用の組合せと、出作り文化の一端を現在も動態として見ることが可能となっている。オウレン栽培地を含めた包括的な範域に対し、林業遺産としての価値のみならず、白山麓の山村文化と生業によって成立した文化的景観としての高い価値を認めることができる。本研究はJSPS科研費26570031の助成を受けた。
  • 伊藤 太一
    セッションID: B3
    発行日: 2016/07/08
    公開日: 2016/07/19
    会議録・要旨集 フリー
    国際的保護地域区分の動きは1933年に遡るが、IUCNが管理目的に応じたカテゴリを検討したのは1975年からである。3年後に最初の管理カテゴリが提示され、それを修正した1994年のカテゴリが今日まで使われている。だが、20年を経ても各国の保護地域への適用が困難となっている。その一因として保護地域内のゾーンとの曖昧な関係が挙げられる。BR(Biosphere Reserve)のコアとバッファからなるゾーニングは、IUCNによる保護地域管理カテゴリ検討開始に先立つ1974年に提案されている。MABプログラムとIUCN保護地域管理カテゴリに関わったR.F. Dasmannは保護地域内のゾーンに保護地域管理カテゴリが割り振られる可能性を示唆し、そのような保護地域も存在する。一方で、IUCNはある保護地域の75%以上を占めるゾーンの管理カテゴリをその保護地域全体の管理カテゴリと見なすという考え方を2004年に示している。だが、そのようなゾーンがない場合には保護地域管理カテゴリを割り振ることができないことにもなる。保護地域の面積基準もない状況では、各ゾーンに保護地域管理カテゴリを割り当ていることが現実的である。
  • 井上 昭夫
    セッションID: C1
    発行日: 2016/07/08
    公開日: 2016/07/19
    会議録・要旨集 フリー
     発表者は既報(Inoue & Nishizono, Eur. J. For. Res., 2015)において,過密林分における単位面積あたり樹幹表面積合計は,林分密度によらず一定となることを発見し,これを「樹幹表面積の保存則」と名付けた。この保存則は,樹幹のみの場合と樹幹と枝を合わせた場合のいずれにおいても成立する。いま,体積(あるいは個体重)と表面積とのアロメトリ指数は,樹幹のみの場合において3/2,樹幹と枝を合わせた場合には4/3と仮定する。この仮定は,樹幹に枝を合わせた場合,体積よりも表面積の方が相対的に大きく増えることからの予想である。これらのアロメトリ式と上述の保存則から表面積を消去すると,自己間引き指数は樹幹のみの場合で-3/2(3/2乗則),樹幹と枝を合わせた場合で-4/3(WBE; Enquist et al., Science, 1998)となる。すなわち,体積と表面積とのアロメトリに関する仮定が正しければ,-3/2と-4/3との違いは変数選択の問題に帰着され,どちらの値も自己間引き指数として正しいことが予想できる。この予想は,先行研究の結果からも支持される。
  • 新田 一也, 村上 良平, 吉田 城治, 矢田 豊
    セッションID: C2
    発行日: 2016/07/08
    公開日: 2016/07/19
    会議録・要旨集 フリー
     森林調査の効率化のため、地上レーザスキャナやUAVを活用する手法などが研究されているが、林内写真の解析による計測も森林計測の有力な手法になり得ると考えている。林内写真による計測は、(1)計測作業がカメラによる撮影だけと容易である(2)計測用の画像がそのまま記録として活用できる などの長所がある。 「円空」は林内を魚眼レンズで撮影した写真に対し、デジタル定角測定法(画像処理によるビッターリッヒ法)を実行するソフトである。これまでの検証で、平坦地ではビッターリッヒ法と同程度の精度が得られているが、傾斜地では平坦地より精度が落ちることが分かっている。 本研究では、傾斜地でも精度よく胸高断面積合計を推定できるよう「円空」を改良し、また、複数の断面積定数を利用した精度向上アルゴリズム(矢田 2010)を組み込んだ。解析にはRICOHの全天球カメラ「THETA S」で撮影した全天球写真を使用した。撮影時にTHETA本体に記録される傾斜角を使用し、傾斜に応じた全天球写真の展開と補正を行うアプローチをとった。検証は石川県の県有林の傾斜地、平坦地で撮影した画像を使用し、実測値等と比較・検討した。
  • 中島 綾一朗, 山本 博一
    セッションID: C3
    発行日: 2016/07/08
    公開日: 2016/07/19
    会議録・要旨集 フリー
    森林国で急峻な地形の多い日本において、上流に積もる雪は下流の貴重な水資源となるが、春先に融けて一気に流れ出てしまう。そのような雪融け水はダムや水路の造成により制御されるが、自然の力を用いて雪を融けにくくする工夫も期待される。そこで、雪融けが遅れる森づくりを検討する。間伐施業による樹冠開空度の違いで積雪深が変化することは雪融けに影響すると考えられるが、知見が不足している。本研究では、融雪洪水の可能性が潜在する神通川上流の岐阜県宮川流域を対象に、樹冠開空度の違いが積雪深に及ぼす影響を明らかにすることを目的とする。観測地点は気象環境の同一な半径2km圏内で、標高(647~800m)・傾斜方位(南向き斜面)・傾斜角度(14~29°)・樹冠開空度(10%、20%、30%)を取得した6地点である。この6地点は開空度の違いにより2地点ずつ定めた。開空度の観測には、魚眼レンズを通して樹冠を撮影する全天写真を、積雪深の観測には、設置した測量用赤白ポールを毎日12時から14時の間に1枚撮影する定点カメラを用いた。観測期間は1月から3月までである。本発表では、観測結果を用いて樹冠開空度が積雪に及ぼす影響の評価を報告する。
  • 奈良 和正, 白石 則彦
    セッションID: C4
    発行日: 2016/07/08
    公開日: 2016/07/19
    会議録・要旨集 フリー
    2002年に、日本の森林の所有と経営の分離を実行する一つの手法として「団地法人化」という概念が藤澤氏により提唱された。これは、ある面積規模以上の森林の団地に含まれる森林所有者が立木を法人に現物出資し、法人は出資された立木と委譲された経営権をもって規模の優位性を生かし、効率的な森林経営に努めて利益を得、配当により出資者に還元する、というものである。出資割合により配当額が決定されるため、出資額の評価方法の在り方によっては、出資される森林の齢級構成に偏りが生じ、持続的な経営に支障をきたす恐れがある。これまで提示されてきた評価方法では、相続税・贈与税に係る立木評価式を用いて算出される立木評価額を出資時の齢級毎の評価額としており、それは出資時の山元立木価格を基準とした値となる。しかし、出資された森林の多くは長期間の成長を経た後に伐採されるため、出資時と伐採時の評価額に大きな差が生じ、出資される森林の齢級構成に偏りが生じうる。本研究では、幅広い齢級の森林が出資されることを目的とし、藤澤が提示した評価方法に出資後の成長の要素を組み込んだ複数の方法を模索し、それらの評価方法の比較をした。
  • 山浦 悠一, 庄子 康, 光田 靖, 宇都木 玄, 柘植 隆宏, 栗山 浩一, 中村 太士
    セッションID: C5
    発行日: 2016/07/08
    公開日: 2016/07/19
    会議録・要旨集 フリー
     生物多様性の保全を有意義な社会的投資とするためには、市場価値のない生物多様性の保全の価値と機会費用を金銭評価する必要がある。本研究では、選択型実験を用いて鳥類の個体数への支払い意思額を見積もった。費用便益分析を行ない、鳥類の保全と木材生産から得られる社会的な便益を最大化させるような、針葉樹人工林内の広葉樹の最適な割合を求めた。 鳥類個体数への支払い意思額は鳥類保全の限界効用の低減を示した。鳥類の個体数が増加するにつれて、支払い意思額は当初増加するがその程度は次第に減少し、頭打ちになった後に微減した。 費用便益解析の結果、鳥類の個体数と広葉樹の割合が凸型の場合には、広葉樹率が0以上(0.02-0.22)の半自然人工林が常に最適な選択となった。両者の関係が線形の場合には、主として木材の価格によって、最適な広葉樹率は0から0.78まで変化した。関係が凹型の場合には、最適な広葉樹率は、非常に高い割合(約0.9)と0の二択だった。 生態学的な視点のみでは、生物多様性保全の数値目標を設定することは時に困難である。生物多様性の保全と資源生産をいかに両立するか?本研究はこの点に一つの枠組みを提供する。
  • 松本 美香
    セッションID: C6
    発行日: 2016/07/08
    公開日: 2016/07/19
    会議録・要旨集 フリー
  • 柏倉 美沙, 東原 貴志, 井上 真理子
    セッションID: C7
    発行日: 2016/07/08
    公開日: 2016/07/19
    会議録・要旨集 フリー
    本研究では、林業教育の実践が少ない中学校を対象に、技術・家庭科で林業に触れる体験的な実習の授業案を作成した。技術分野「C生物育成に関する技術」では、生徒が自分の考えを整理し、目的や条件に応じた育成計画を立てる能力の育成をねらいとしている。中学生を対象に、人工林での測樹、間伐実習、研究用ソフトウェアを用いた測樹データの描画と間伐の将来予測を行った。授業案作成にあたり、学内の比較的平坦な43年生スギ人工林内において20m×20mの調査区を設置し、立木の位置、樹高および胸高直径を計測した。中学生は収穫表作成システムを用いて得られたデータから森林の間伐の時期、方法、強度を変え、様々な場合の総収穫量を予測した。その結果、10年ごとに上層間伐を20%ずつ行うと、1度も間伐をしなかった場合より総収穫量が高くなり、材価が高くなる事や、管理を放棄するとスギの巨木が残ることが予想できた。中学生はそれらの予測を踏まえて、今後の人工林のあり方について木材生産以外の活用方法も含めて自由に考え、発表することができた。測樹やシミュレーションソフトの操作方法は比較的容易であり、「C生物育成に関する技術」のねらいも達成する事ができた。
  • 広嶋 卓也, 鹿又 秀聡, 中島 徹
    セッションID: C8
    発行日: 2016/07/08
    公開日: 2016/07/19
    会議録・要旨集 フリー
    2011年の森林・林業基本計画では, 2020年に素材生産量3,900万m3を目指すこととなった。そのうち間伐材生産量(伐り捨て間伐材を除く)は1,530~2,068万m3を占めると想定され,これは2012年時の間伐材生産量と比して1.9~2.7倍に増産する必要があることを意味する。本報告では民有林を対象として,都道府県別積み上げによる国レベル間伐材生産量予測モデルを紹介し,そのモデルによるシミュレーションを通じて,2020年に間伐材生産量を2012年比で2~3倍とする条件を検討する。シミュレーションでは47都道府県を,地形因子・社会経済因子・地理的配置によるクラスタリングを通じて10グループに分類し,グループごとに2012年から2020年にかけての間伐面積の増加率,間伐材の搬出率を一定刻みで変化させ,搬出間伐量(間伐材生産量)の全国合計値がどのように変化するか調べた。結果として,搬出間伐量を2012年比で2倍にするには,各グループの面積増加率を1.02~1.88倍,搬出率を28%~70%(全国的に見て間伐の重要度が低い県では低倍率,低搬出率とした),3倍にするには各グループの面積増加率を1.19~2.00倍,搬出率を49%~70%とする必要があることが明らかとなった。
  • 澤田 直美, 白石 則彦
    セッションID: C9
    発行日: 2016/07/08
    公開日: 2016/07/19
    会議録・要旨集 フリー
    再生可能エネルギーの固定価格買取制度の導入以降、全国で木質バイオマス発電事業計画が林立している。中でも買取価格の高い「未利用材」が燃料として期待されているが、長期的かつ安定的に一定量を要求するバイオマス発電所の需要特性は、従来にも増して資源生産側=林業に対し計画的かつ安定的な生産を要求すると考えられる。そもそも日本の林業地域は、地域ごとに異なる生産構造を有し(藤澤,1996)、林業クラスターが充実している生産能力の高い地域もあれば、充分な森林蓄積を抱えながらもhaあたりの素材生産量が低い地域もある。このように森林蓄積と素材生産力には地域特性があり、双方とも高い地域が現在の日本の林業生産を牽引していることが確認されている(興梠,2012)。本研究ではこの蓄積と生産力の関係についてさらに詳細に把握し、バイオマス需要との関係について検討を行う。まず林野庁「森林資源の現況(平成24年)」、農林水産省「平成25年度木材需給報告書」を基礎資料として林種・樹種別蓄積と素材生産の地域特性を都道府県を単位として比較検討し、地域特性の違いを考慮したバイオマス利活用上の課題について考察する。
  • 小林 昂太, 山本 博一, 寺田 徹
    セッションID: C10
    発行日: 2016/07/08
    公開日: 2016/07/19
    会議録・要旨集 フリー
    近年、生物多様性の保全や低炭素社会の実現に向けて、生物資源の循環活用による自然環境の持続的な管理が期待されている。木質資源の有効活用は山間部を中心に活発化してきたが、都市近郊では未だ事例が少ない。一方で、都市近郊里山では市民団体による管理活動が多く見られるが、管理の際に発生した間伐材の多くは林内に放置されている。まずは放置間伐材の有効利用を推進し、都市近郊における木質資源利用の基礎を構築することが必要だと考えられる。本研究では、都市近郊里山の管理活動が活発である千葉県柏市において、市民管理による木質バイオマス発生量の推定を目的とした。その際、1つの市民団体だけでは、木質資源の年発生量がばらつき、安定供給が困難な可能性が高い。そのため本研究では、市内の複数団体から木質資源を収集することを想定し、複数団体を対象とした推定を行い、資源供給が平準化されるか否かを検討した。具体的には、市内の各団体の管理地において、切株の直径を手掛かりに、管理の際に発生した木質資源量を推定した。さらに市民団体へのヒアリングを実施し、管理記録等から切株の伐採時期を推定することで、木質資源発生量の経年変化を算出した。
  • 阿部 周平, 山本 博一
    セッションID: C11
    発行日: 2016/07/08
    公開日: 2016/07/19
    会議録・要旨集 フリー
    日本において天然のヒノキ大径木は,寺院や神社の修復に欠かせないものであるが,近年ではそのヒノキ大径木の減少が報告されている。ヒノキの天然更新に関する先行研究は,種子の発芽条件や稚樹を対象として行われてきた。しかし,将来的なヒノキ大径木を推定するためには,稚樹段階のみの知見では不十分である。天然更新を考える際に,様々な環境において一定の大きさ以上に生長した更新木の生存条件に関する知見が必要である。 本研究では,長野県木曽郡の赤沢自然休養林を対象地とし,更新木が樹種間競争を勝ちぬき,積雪深よりも大きくなり,生存率が高まると考えられる樹高1.5m以上のヒノキ更新木を対象とした。距離法によって立木密度を推定し,それに加えて6つの環境因子(土壌水分量、土壌酸性度、開空度、斜面方位、斜面傾斜、日射時間)を調査した。土壌水分量は,土壌水分センサーを用いて土壌中を流れる電磁波の速度から誘電率を求め,水分量を求めた。開空度は魚眼レンズを用いて全天写真から樹冠開空度を解析した。日射時間は全天写真と太陽の軌道を求めて算出した。6つの環境因子がヒノキ更新木密度にどのような影響を与えるか分析したので結果を報告する。
  • 吉田 茂二郎, 溝上 展也
    セッションID: C12
    発行日: 2016/07/08
    公開日: 2016/07/19
    会議録・要旨集 フリー
    筆者らは、1996年から霧島山系の老齢なアカマツ・モミ・ツガ天然林において、上層を占める直径が20cm以上の樹木を対象に、樹冠(枝張りと葉密度)をもとに健全度モニタリング調査を行っている。これまで数回にわたってその経過報告をしているが、モニタリング開始から20年を迎えたので、これまでの推移をまとめて解析した。その結果、特にモミの健全度が非常に低下したことがわかった。本来の調査目的は、霧島地域のモミ・ツガ・アカマツ天然林を今後も健全に維持するためには健全な母樹が必要であるが、その健全度が20年前に低下しているように感じられたことを評価するためであった。しかし、近年の中国等からの越境大気汚染物質による森林被害が深刻化しその評価が必要となり、霧島以外にも屋久島と宮崎県椎葉村等でモミの健全度モニタリング調査を開始し、地域間の比較も行っている。
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