テンナンショウ属Arisaema(サトイモ科) の葉緑体DNA系統解析において姉妹群となる2 つの単系統群,ヒロハテンナンショウ群A. ovale group とユモトマムシグサ群A. nikoense group について,それぞれの分布域から幅広く試料を収集し,染色体数を直接算定した二倍体の試料を基準とした相対ゲノムサイズ比較によって倍数性の推定を行うことで,倍数体の地理的広がりについて調べた.その結果,ヒロハテンナンショウ群ではヒロハテンナンショウA. ovale Nakai に幅広い倍数性が認められ,従来知られていた二倍体(2n=26) ~五倍体のほか,六倍体が青森県および北海道から発見された.これまで四倍体以上の倍数体の特徴と考えられていた地下茎上の副芽は六倍体でも認められた.また,二倍体は,従来静岡県だけから知られていたが,福島県および岩手県からも発見された.イナヒロハテンナンショウA. inaense (Seriz.) Seriz. ex K.Sasamura & J.Murata とナギヒロハテンナンショウA. nagiense T.Kobay., K.Sasamura & J.Murata は二倍体のみであった.一方,ユモトマムシグサ群では,二倍体(2n=28) であることを確認したユモトマムシグサA. nikoense Nakai を基準としてゲノムサイズを比較したところ,ユモトマムシグサ,ヤマナシテンナンショウA. nikoense var. kainumtanum Seriz.、オオミネテンナンショウA. nikoense subsp. australe (M.Hotta) Seriz.,カミコウチテンナンショウA. nikoense subsp. apicola (Seriz.) J.Murata,ハリノキテンナンショウA. nikoense subsp. brevicollum (H.Ohashi & J.Murata) J. Murataの全個体が二倍体レベルであり,ユモトマムシグサ群の多様化には倍数化が関与していないことが示された.
韓国からRamalina cinereovirens Kashiw., K.H.Moon & J.E.Han とR. subdecumbens Kashiw., K.H.Moon & J.E.Han(カラタチゴケ科)の2 新種を記載した.これら2 種について,核DNA のITS, IGS 領域およびミトコンドリアDNA のmtSSU 領域の塩基配列に基づく系統樹により近縁種との関係を検討した結果,両種とも近縁種とは明確に区分される独立したクレードを形成し,既知種とは異なることが示唆された.
1) Ramalina cinereovirens は海岸の岩上に生育する.地衣体は灰緑色~灰白色,樹枝状で狭い基部から不規則に分枝し,巾約2 cm,長さ約3 cm.枝は中空でやや偏圧されて表面は灰緑色,裏面は灰白色,枝の膨らみはわずかで先端はとがり,粉芽や裂芽はない.穿孔は類円形~楕円形,裏面に散在し融合しない,巾0.5–2 mm.髄層の菌糸は連続,皮層の内壁に密着する.子器は枝の表面に生じ,距はない.子器柄はくびれ,盤はほぼ平板.胞子は無色,2 室,細長い紡錘形,12.0–14.5 × 3.0–3.5μm.地衣成分はジバリカート酸かセッカ酸,サラチン酸( ± ),ウスニン酸である.本種はイソカラタチゴケR. litoralis Asahina に似ているが後者の枝は中実で 側生の細枝を密生し, 穿孔はない.本種は日本産のツヅレカラタチゴケモドキR. pertusa Kashiw. と混同される可能性もあるが、後者は樹皮生で枝の穿孔は格子状に連続し,地衣成分としてエベルン酸とオブツザート酸を含むので区別できる.本種は海岸の岩上に生育するが,済州島沖の飛揚島の一角と全羅南道の八禽島の一カ所だけで見つかっている希種である.生育場所はアキグミやテリハノイバラなどの小灌木が日陰を作る場所に限られている.
2) Ramarina subdecumbens は雪岳山系の亜高山~高山帯の岩上に生育する.地衣体は青みのある緑黄色,基部や枝の裏面は黒褐色,裏面のあちこちで基物に固着して高さ径2.0 cm ほどのクッション状となる.枝は不規則に枝分かれし中実, 通常は背復性があるが先端部では円柱状に細くなることもあり,巾0.2–1.0 mm.偽盃点は白色,点状~楕円状,枝の側部や表面に生じ往々粉芽化する.粉芽は球状で表面は菌糸の薄い膜で被われる.髄層の菌糸は連続,皮層の内壁に密着する.子器は未見.地衣成分はサラチン酸( ± ) とウスニン酸である.本種は日本産のホソカラタチゴケR. exilis Asahina と似ているが,ホソカラタチゴケの枝は常に直立し,その先端部のみに粉芽塊を生じるので区別できる.本種はカナリー諸島から報告されたR. nodosa Krog & Østh. やオマーンから報告されたR. fragilissima Krog に地衣体の形状が酷似している.しかしこれら二種は共に粉芽を欠くほか,R. nodosa はセッカ酸を,R. fragilissima はプロトセトラール酸を含むので容易に区別できる.本種は日本産のR. kurokawae Kashiw. とも似ているが,後者の枝は中空で裂芽を持ち,エベルン酸とオブツザート酸を含む点で区別できる.本種は雪岳山系の亜高山帯~高山帯に生育するが,それ以外の場所からは見つかっていない.
Siebold とZuccarini は,主にSiebold 自身,および日本人植物学者,Bürger らの採集品を研究し,日本から多数の新種や新変種を発表し,日本植物相の分類学的研究に大きく貢献した.しかしながら,それらの新植物の発表に際しては大半で標本の引用がなく,またタイプの指定がなされなかった.著者らは、Siebold とZuccarini が命名した学名の安定化などの目的で,ライデン,ミュンヘン,牧野標本館(東京都立大学),東京大学総合研究博物館に収蔵されるシーボルト・コレクションから,標本上に記された手記ならびに記載文などと照合し,Siebold とZuccarini が記載に用いた標本(原資料)であるオリジナル・マテリアルを特定する研究を進めてきた.そのなかで,タイプが指定されていない分類群では,特定した原資料のなかからレクトタイプ指定を行っている.本稿はその第十四部で,被子植物単子葉植物綱(ビャクブ科からイネ科)を収載し,4 種(Iris kaempferi Siebold ex Lemaire, Eriocaulon sieboldtianum Siebold & Zucc. ex Steud., Arundinaria japonica Siebold & Zucc. ex Steud.およびPhyllostachys bambusoides Siebold & Zucc.)のレクトタイプ指定を行った.また,Saccharum tinctorium Steud. のレクトタイプ指定を行った.単子葉植物の部分では,当初より正式な発表の有無にかかわらずSieboldとZuccarini が日本から記載した分類群をすべて掲載する方針を採っており,本稿でもこの方針に従った.
インド産のArgyreia Lour(. ヒルガオ科ギンヨウアサガオ属)の2種A. fulgens Choisy (Fig. 1) および A. lanceolate Choisy (Fig. 2) のレクトタイプを指定した.
インドに産するトウダイグサ科のBlachia 属植物のうち,B. calycina Benth. とB. denudata Benth. の2 種のレクトタイプを指定した.B. andamanica (Kurz) Hook. f.とB. umbellata (Willd.) Baill. の2 種についてはこれまでに行われたレクトタイプ指定の是非を検討した.
中国新産のマメ科植物Astragalus verus Olivier を西藏自治区から報告した.ここでは中国産の標本にもとづいて記載を行い,図示した.ゲンゲ属Astragalus は顕花植物でも最大の属の一つで,2900–3000 種からなり,中国では59 節400 種以上が知られている.本種はRhacophorus節に所属し,節としても中国新産となる.
インド北東部,シッキム東部の二ヶ所で,オトギリソウ科ビヨウヤナギ類のHypericum benghalense S.N.Biswasが見出された.これはタイプ標本が採集されてから60 年後の再発見となる.ここでは本種を図示するとともに近縁種との検索表を付した.