ミヤマアズマギク(キク科)の学名についてはErigeron thunbergii A.Gray var. glabratus A.Grayあるいは亜種としてE. thunbergii subsp. glabratus (A.Gray) Kitam. & H.Hara とされることが多かった.ところが,ハーバード大学GH 所蔵のタイプ標本を調べた結果,ミヤマアズマ ギクとは異なることに気付いた.タイプ標本の産地と考えられる青森県東通村尻屋で調査を行ったところ,このタイプ標本と同一の分類群と考えられる植物が見つかっ た.この植物は広義のアズマギクErigeron thunbergii と は異なる特徴を持った別種と考えられたので,産地に因 み,これをムツアズマギクE. mutsuensis Kadota として 命名・発表した. 一方,ミヤマアズマギクはアズマギクと花茎の有毛性や舌状花の長さ,冠毛の長さと色に違いがあり,別種とみなすのが妥当であると考える.ミヤマアズマギクの学名 は種レベルで最も古いE. alpicola Makinoが正名となり, 東京都立大学牧野標本館所蔵の岩手県早池峰山の標本をレクトタイプとして選定した.ミヤマアズマギクの学名 変更に伴い,アポイアズマギクvar. angustifolius (Tatew.) Kadota,ユウバリアズマギクvar. haruoi (Toyok.) Kadota,ジョウシュウアズマギクvar. heterotrichus (H.Hara) Kadota,キリギシアズマギクvar. kirigishiensis (Inagaki & Toyok.) Kadota,シコタンアズマギクvar. schikotanensis (Barkalov) Kadotaを変種として認め,E. alpicolaの下に 組み替えた.また,北海道占冠村の鵡川沿いの赤岩青巌 峡から新変種ケイリュウアズマギクvar. riparius Kadota を記載した.また,裸名であったシロバナミヤマアズマ ギクに記載を与え,f. albus Kadota とした.
山地帯から亜高山帯で採集した地衣類標本を観察した 結果,日本新産の地衣生菌6 種を確認した.Abrothallus parmeliarum は子嚢上層がK+ 緑色であることを特徴とし,カラクサゴケ属(ウメノキゴケ科)のParmelia cf. adaugescens の子器や裂片上に寄生していた.Arthonia digitatae は子嚢層を構成する菌糸が非常に細く,幅(1.0–)1.2–1.8(–2.0) µm 程度であることが特 徴であり,ハナゴケ属(ハナゴケ科)のウロコハナゴ ケCladonia squamosa の基本葉体上に寄生していた.Lichenopuccinia poeltiiは褐色~黒色の分生子果の基部に 2 ~3 隔壁の透明な分生子を形成することを特徴とし,トゲナシカラクサゴケParmelia fertilis の裂片に寄生していた.Reconditella physconiarum は黒色の子嚢果が宿主の子器托や宿主の腹面に発生し,単室,褐色,いぼ状の子嚢胞子を持ち,ヒメゲジゲジゴケ属(ムカデゴケ 科)のヒメゲジゲジゴケAnaptychia palmulata で見られた.Stigmidium subcladoniicola は黒色の子嚢果,2 室,透明で(6.1–)6.6–7.8(–8.0) × (2.3–)2.5–2.9(–3.3) μm の 小さい胞子を持つことが特徴であり,アカミゴケモドキ Cladonia stramineaの基本葉体上で見られた.Vouauxiella lichenicola は黒色の分生子果,鎖状に連結した緑色の 分生子を持つことが特徴であり,ゴイシゴケ様地衣類 Lecideoid lichen の地衣体上で見られた.
カラハナソウ(アサ科)の葉序は一般に対生と記述されてきたが,実際には互生のものも見られる.生植物について詳しく観察したところ,アサで知られているように,栄養成長期には対生するが,生殖成長期になると互生に転換する場合が多いことがわかった.腋芽は葉腋の左右(托葉の内側)に1 対つき,栄養枝では片方が発達するが,花序では2 個とも対等に発達する。また,雄花序においては2 個の腋芽の中央に最も大きな腋芽が形成され,1 節に3 個の花序を生じるものが観察された.