2005 年12 月のミャンマー・カチン州での植物調査により採取したウマノスズクサ属オオバウマノスズクサ亜属Aristolochia subgenus Siphisia植物を新種A. kachinensis Ohi-Toma, Nob.Tanaka & J.Murataとして発表する.この種は,濃紫色の細かいいぼ状の突起を密布する花被筒の舷部が,2018年にカチン州から記載されたA. sinoburmanica Y.H.Tan & B.Yang に似ているが,舷部が浅く3裂した環形になる点,花被筒の喉部が白色になる点,花がより縦に長い点などにより区別される.
インド北東部のミゾラム州から,ショウガ科Zingiber neotruncatum T.L.Wu, K.Larsen & Turlandの1新変種,Z. neotruncatum var. ramsawmii Lalramngh., M.Sawmliana, T.Jayakr. & M.Sabu を記載した.Zingiber neotruncatum var. ramsawmii はvar. neotruncatum から,花穂が長卵形で鮮紅色,苞が鮮紅色で,小苞は狭卵形で先端が赤味を帯び,萼は先端が3 裂し赤味を帯びる点で異なる.本変種は今のところミゾラム州からしか見つかっていない.
九州大学総合博物館などの標本館所蔵のタイプ標本(オンライン画像を含む)の形態比較と現地調査による形態変異の検討により,Hedyotis kanehirae (Hatus.) Fosberg (syn. Leptopetalum kanehirae Hatus.), H. leptopetaloides Hatus., H. mariannensis Merr. (syn. H. foetida (G.Forst.) Sm. var. mariannensis (Merr.) Fosberg) および Oldenlandia imberbis Guillaumin の4つの学名をL. foetidum (G.Forst.) Neupane & N.Wikstr.の異名とした.また,H. kanehirae, H. leptopetaloides およびO. imberbis のレクトタイプを指定した.
杉本順一氏が1927-1930年に採集した計176点のさく葉標本がふじのくに地球環境史ミュージアムに寄贈された.本コレクションには杉本氏が1984年に著した『静岡県植物誌』の証拠標本が33 点含まれていた.さらに,イズカニコウモリCacalia amagiensis Kitam.[= Taimingasa amagiensis (Kitam.) C.Ren & Q.E.Yang] のタイプ標本の重複標本が含まれていた.京都大学総合博物館(KYO)には,本種のタイプ標本として2 枚の重複標本が収蔵されていたため,これら2 枚のシンタイプのうちの1 つをレクトタイプ(KYO00028734, KYO)として選定した. KYO に所蔵されているもう1枚の標本(KYO00028735, KYO) および今回新たに発見された標本(SPMN-SP 2858, SPMN)はそれぞれアイソレクトタイプとなる.
ムクロジ科のHarpullia arborea (Blanco) Radlk. はインド,東南アジアからオーストラリアに広く分布するが,本種をネパールから初めて報告した.産地はネパール東部で,そこから得られた標本に基づいて詳細な記載を行うとともにカラー図版を付した.
マメ科マメ亜科のビロードナンバンクサフジTephrosianoctiflora Bojer ex Baker のインドにおける分布をケララ州とタミール ナードゥ州産の標本に基づいて,近縁種との検索表を付して,初めて報告した.本種はアフリカ原産で,セイロン,インド,ジャワへは導入された,あるいは逸出したという意見があるが,インドの自生植物と考えられる.なお,インド・アルナチャル プラデシュ州からの本種の報告はT. villosa (L.) Pers. の誤同定である.
ツノゴケ科のFolioceros D.C.Bharadwaj 属はインドに12 種あり,そのうち7 種が固有である.固有種の中には東部ヒマラヤ産のFolioceros kashyapii S.C.Srivast. & A.K.Asthana とF. paliformis D.K.Singh の2 種が認められていた. ところが, 検討の結果, 両種は同一種と考えるのが妥当とわかった.F. paliformis の発表年は1987 年とされたが実際には1989 年12 月10 日であり,F. kashyapii の発表は1989 年6 月23 日であるため,それに対して先取権がある.したがって,F. paliformis はF. kashyapii の異名となる.
石川県小松市においてイナヒロハテンナンショウを発見した.既知の分布域から大きく離れている上に自生している環境も異なる産地であった.また,仏炎苞舷部や花序付属体の形状および子球をつけないといった形態的にも異なる特徴が見られた.
小石川植物園で鉢栽培しているArisaema umbrinum Ridl. について,2021 年3 月22 日に,古くなって離脱した普通葉の葉柄基部葉鞘内に数個の芽を発見し,芽のある部分を土壌に埋めたところ,2021 年10 月10 日になって,その芽のうちの1 個が成長しているのを確認した.3個埋めた葉柄のうち1 個は枯死したが,残りの1 個はまだ生存しており,そこからも発芽が見られる可能性がある.古くなった葉柄の上部は自然に枯れ,基部だけが死なずに残って脱落することから,ラメットとして栄養繁殖に関与している可能性がある.構造的にはMurata(1988, 日本のテンナンショウ図鑑(邑田ほか 2018)に再掲載)がフデボテンナンショウ節の特徴としてA. omkoiense Gusman や A. filiforme Blume について報告した,普通葉基部の腋芽群に対応するものと考えられる.広くラメットとして機能しているかどうかは興味深い課題である.