我々は前報までに, キク科トウヒレン属 (Saussurea) Eriocoryne 亜属および Amphilaena 亜属に由来する中薬の 『雪蓮花』 およびそれらに関連する生薬の基源について, 比較組織学的に確証してきた. しかし, 市場に出回っている幾つかのサンプルは虫害や輸送途中のダメージで葉を欠いていたため, 組織学的な精査が不可能であった. 一方, これらサンプルの断片には多量の綿毛が認められたことから Eriocoryne 亜属であることが知られた. このような商品の基源を明らかにするため, 第 2 報で報告した Eriocoryne 亜属12種のトウヒレン属植物を比較材料として花, 痩果, 花粉粒について, 実体顕微鏡及び走査型電子顕微鏡を用い解剖学的及び形態学的観察を行った. 検討の結果12種の Eriocoryne 亜属植物は花床における剛毛の有無, 痩果の小冠の有無, 冠毛の色, 総苞片, 花冠, 痩果における腺毛の有無, 花粉粒外壁のオーナメンテーションの相違等により区別可能であった. 以上をもとに生薬の同定を試み, 香港市場の 『雪蓮花』 は Saussurea namikawae および S. medusa の混合品, 青海省ゴルムド市場品の 『雪蓮』 (チベット薬物 『sPang-rtzi』 としても使用) は S. quercifolia の, それぞれ開花期の全草であることを明らかにした.
ネパールのカトマンズ市場で, クスノキ科のニッケイ属 Cinnamomum 植物の葉に由来すると思われる生薬 “Tejpat” を入手した. 葉は三行脈で, 詳細に観察すると中央脈上面がほぼ平坦なもの (A タイプ) と, 脈の両肩がわずかに凹むもの (B タイプ) に分けられた. ネパールの同属植物の中で三行脈を有するものは C. bejolghota (Buch.-Ham.) Sweet, C. tamala (Buch.-Ham.) Nees & Eberm., C. impressinervium Meisn. の 3 種であり, そのうち C. bejolghota の葉は長さが20 cm をこえる大型で, 商品とは大きく異なった. そこで, “Tejpat” の原植物を解明する目的で C. tamala と C. impressinervium の葉を比較組織学的に検討した. その結果, 横折面において, 前者に比して後者の中央脈が下面側に大きく突出すること, 葉肉部の下面表皮細胞が著しく乳頭状突起化すること, また篩部放射組織が少ないことなどで明らかに区別され, 前者が A タイプ, 後者が B タイプであることが明らかになった. 以上の結果に基づいて市場品を検討した結果, 商品はこれら 2 種のほぼ等量混合物であることが明らかになった. 本論文はネパールで C. impressinervium が薬用に供されていることを示す最初の報告である.
Miquel (1867) は, 主に Siebold らにより採集された標本にもとづいて, ハギ属ヤマハギ節の 4 種 (Lespedeza buergeri, L. cyrtobotrya, L. sieboldii, L. oldhamii) 2 種内分類群 (L. bicolor f. microphylla, L. bicolor var. pauciflora) の記載を行った. しかしこれらの分類群についてタイプの指定がなされていない. 一部の種については既にレクトタイプの指定が行われたが (Akiyama 1988), 当時はライデンに収蔵されるすべての標本を検討することができなかったため, レクトタイプの指定を行うことができなかった分類群が残されていた. 筆者の一人 (大場) は2001年にライデン標本館において, 関係する標本を検討する機会を得た. 重要な標本は借用して再検討した. ここでは, Miquel が原記載に引用した標本の正体を明らかにし, レクトタイプの指定を行った.
ヒメイヨカズラ Vincetoxicum matsumurae (T.Yamaz.) H.Ohashi (= Cynanchum matsumurae T.Yamaz.) を花部形態に基づいてオオカモメヅル属に組み替えた. ヒメイヨカズラはツルモウリンカ Tylophora tanakae Maxim.に非常によく似ていて, しばしば誤同定されているが, 茎が短く直立すること, 葉が楕円形であること, 花冠列片の幅が広いこと, 花序軸が短いこと, 果実が細いこと, 種子が小さいこと等から区別できる.