北海道中央部の崕山からカムチャツカナニワズの新変 種Daphne kamtschatica Maxim. var. kirigishiensis N.Nitta & Ken Sato キリギシナニワズ(新称)を見いだした.キ リギシナニワズは地下茎を伸ばさず,夏に休眠せず,夏季の葉の枚数が多い点で母変種と異なる.この新変種は 既知の母変種産地から220 km 離れた,石灰岩岩壁の直 下の日当たりの良い崖錐に生育していた.
Desmodiastrum はマメ科アコウマイハギ連の1 属で4 種あり,インド(4 種),ミャンマー(1 種),ジャワ島(1 種)に分布する.これらの種はササハギ属Alysicarpus あるいは(旧)ヌスビトハギ属Desmodium として記載されたが,Prain (1897) がAlysicarpus のDesmodiastrum 亜属にまとめ,更にPramanik and Thothathri (1986) がこの亜属を独立属Desmodiastrum とした.しかし,今日Desmodiastrum はAlysicarpus の異名あるいは独立属とされ,分類学上の位置が定まっていない.本研究では葉緑体DNA・核DNA を用いた分子系統解析による推測からDesmodiastrum はマイハギ属Codariocalyx, Eleiotis およびヒメノハギ属Leptodesmia に近縁であり,Alysicarpusや現在のDesmodium(ほぼ全部がアメリカ大 陸に原産するアコウマイハギ属)とは遠い類縁関係にあ ることが明らかとなった.これらの4 属を比較検討した結果,葉が2 型(単葉と3 小葉)あるいは3 型(単葉,3 小葉,1 と3 小葉の混在形)で,竜骨弁が鎌形で弁部の 基部に翼弁に接着する小型の突起があることが共通の形態的特徴であった.しかし,花粉型ではDesmodiastrum は表面模様が明瞭ないぼ状あるいは皺状の三合流溝孔粒 3-syncolporateであり,一方Codariocalyx, Eleiotisおよび Leptodesmiaは表面模様が不明瞭な三溝孔粒3-colporate であった.Desmodiastrumの花粉型はこの近縁属内はもとよりアコウマイハギ連の中でも特異であり,分子系統 解析の結果と併せてDesmodiastrumはササハギ属とは別個の独立属であると考えられる.
タケ(イネ科)は長寿命の一回繁殖性を示す植物であると知られるが,実生から有性生殖までを評価できた研究はほとんどない.2021 年7 月,京都大学上賀茂試験地(京都府)と富士竹類植物園(静岡県)で実生の段階より保育されてきたモウソウチクPhyllostachys edulis (Carrière) J.Houz. [= P. pubescens (Pradelle) J.Houz., P. heterocycla (Carrière) Matsum. var. pubescens (J.Houz.) Ohwi] の林が一斉開花の様相を示した.筆者らはこの珍 しい開花現象を観察し,過去の栽培記録や両施設のスタッフらへのインタビューに基づき,開花時の林齢がそれぞ れ66 年,67 年であると推定した.先行研究と合わせて考えると,日本国内には66–69 年の寿命で一回繁殖性を示すモウソウチクがあることがわかった.一方,現在日本各地に生育するモウソウチク林はおよそ単一クローンと考えられており,中国より導入後およそ300 年が経過する中で未だ一度も一斉開花していない.これらから,モウソウチクの繁殖特性などの生活史の様式には,種内変異があることが示唆された.
北海道大学陸上植物標本庫 (SAPS) には,秋山茂雄博士 (1906–1984) によって記載されたカヤツリグサ科スゲ属植物のタイプ標本や原資料が数多く収蔵されている.しかしながら,これらの中にはホロタイプ(正基準標本)が指定されていないものや,タイプ標本が複数存在するものなど,タイプ指定が厳密になされていない分類群が多く含まれている.そこで,「国際藻類・菌類・植物命 名規約(深圳規約)」 (Turland et al. 2018) に従い,以下の10分類群についてレクトタイプ(選定基準標本)の選定をおこなった:Carex flavocuspis Franch. & Sav. var. iwatensis Akiyama(チャイロタヌキラン),C. foliosissima F.Schmidt var. albo-mediana Akiyama(シマオクノカンスゲ), C. forficula Franch. & Sav. var. angustiflora Akiyama & Suto(ホソタニガワスゲ: ホソボタニガワスゲ[秋山 1955]),C. geantha Ohwi var. pubescens Akiyama(ケハガクレスゲ),C. karashidaniensis Akiyama(イセアオスゲ),C. kinpokusanensis Akiyama(サドカンスゲ),C. maximowiczii Miq. var. minor Akiyama(チャボゴウソ),C. maximowiczii Miq. var. pallida Akiyama(シロゴウソ),C. oxyandra (Franch. & Sav.) Kudô var. globosa Akiyama(マルミノヒメスゲ)および C. siderosticta Hance var. variegata Akiyama(フイリタガネソウ).
マイヅルテンナンショウArisaema heterophyllum Schott, アムールテンナンショウA. amurense Maxim.およびA. erubescens Schottの調製加工した乾燥塊茎の形態調査の結果,いずれも日本薬局方外生薬規格2018(厚生労働省2020)に収載されたテンナンショウの性状と一致した.
花外蜜腺の存在は3800 種以上の分類群から報告されているが,ツツジ科ではコケモモ属とCavendishia 属から,合計17 種が知られるのみである.ここではツツジ科のAgapetes burmanica, A. pentastigma およびA. moorei の萼片の先端から蜜が分泌されること,A. burmanica およびA. pentastigma では若葉の付け根付近からも蜜が分泌されることを明らかにした.Agapetes 属では新報告と思われる.また,Agapetes の他種からはまだ見つかっていないので,これらの種の特徴であると思われる.