マメ科ヌスビトハギ属Desmodium は1825 年に属の範囲の原型が作られ(Candolle 1825),その後属を細分する説 (Bentham 1852, Schindler 1928, Hutchinson 1964) あるいは1 属とする説 (Bentham 1865, Taubert 1894) が生まれたが,1970 年代までは多くの研究者に1 属の植物群として世界的に受け入れられていた。1971,1973 年に花粉形態が新分類形質として取り入れられて細分説の改訂版が提案された (Ohashi 1971. 1973,本文p.4,Table 1).1978 年に第1回国際マメ科会議が開かれ,植物学部会で世界のマメ科植物の分類の改良と分類体系統一のための討議が行われた結果,1981 年にAdvances in LegumeSystematics がまとめられた.ヌスビトハギ属はヌスビトハギ連ヌスビトハギ亜連に含められ,細分説 (Ohashi et al. 1981) が採用された.続いて1980 年代から分子系統解析法が発展して2005 年に世界のマメ科植物がまとめられ,ヌスビトハギ属はヌスビトハギ連ヌスビトハギ群Tribe Desmodieae Desmodium group にまとめられ,新しく16 属に分類された (Ohashi 2005).Desmodium の和名も属の範囲の変化と共に変遷してきた.ヌスビトハギ属に次いでシバハギ属,さらに学名のタイプ種の和名に基づいてアコウマイハギ属と変更された (Ohashi and Ohashi 2018a).2018 年にヌスビトハギ群の分子系統学的解析が発表され,その結果Jabbour et al. (2018) とOhashi et al. (2018a) によって新しい Desmodium もまだ多系統であることが明らかにされた.以来 Ohashi et al. (2018a, b, 2019a, b, 2020a, b) および Ohashi and Ohashi (2018a, b, c, 2019a, b) はヌスビトハギ群の属を単系統群にするために分子系統学的研究を続けてきた.これまでの研究でアコウマイハギ属はアメリカにほぼ固有であり,旧世界ではアフリカの1種,オーストラリア東部とニューカレドニアのDesmodium varians およびタイ北部のD. siamense の3 種が残っていた.本研究で分子系統解析の結果によりD. varians がGrona に属することが示され,またD. siamense は形態形質を再検討して Ototropis に分類した.この結果によって,アジアとオーストラリアからアコウマイハギ属の自生種は消滅することとなった.
イワタバコ科ナガミカズラ属の1 種,Aeschynanthus lineatus Craib をインド,アルナチャル・プラデシュ州 Lower Subansiri で記録した.本種はこれまで中国南部,ミャンマー,タイでのみ知られていたもので,インドからは初めての報告となる.
イチジク属はクワ科最大の属で,熱帯から亜熱帯域を中心に半世界的に850 種があり,高木,低木,藤本,匍匐植物など生活型は様々である.インドには115 の分類群が知られており,そのうち10 種が固有である.今回,インド中部のマディヤ・プラデーシュ州とマハーラーシュトラ州のイチジク属を調べたところ,新たにFicus johannis Boiss. subsp. afghanistanica (Warb.) Browiczがインド新産の外来種として見出された.本亜種は高さ3m ほどになる着生の低木で,ここではインド産の植物にもとづいた詳細な記載,野外で撮影した生態写真,近縁種との検索表を付した.
キョウチクトウ科サクララン属は着生の藤本で,熱帯アジア,太平洋諸島,オーストラリア北東部に約350–450種が知られて,インドには36 種が報告されている.Hoya oreogena Kerr はこれまでタイとミャンマーでのみ知られていたが,最近になって,インドのアルナチャル・プラデシュ州から発見された.分類学的検討の結果,中国雲南省から記載されたH. revolubilis Tsiang & P.T.Li とH. salweenica Tsiang & P.T.Li も本種に含まれることが明らかになった.その結果,H. oreogena はインドからミャンマー,タイ,ベトナムを経て中国まで分布することになる.
インド,タミール・ナードゥ州マドラス(現チェンナイ) から記載されたアカヒゲガヤ属Heteropogon の植物,H. contortus (L.) P.Beauv. ex Roem. & Schult. var. distichus C.E.C. Fisch(. イネ科ヒメアブラススキ連)はH. fischerianus Borの異タイプ異名heterotypic synonymである.すなわち,H. contortus var. distichus のタイプはBourne 2025 (K000245941) であり,H. fischerianusのタイプはBourne 2026 (K000245942) である.
イネ科キビ連のメガルカヤ属Themeda Forssk. は世界の熱帯や亜熱帯地域に27 種ほどがあり,インド北部と中国雲南省が分布と多様化の中心となっている.そのうちインドには18 種が知られている.本稿では,T. cymbaria Hack.,T. huttonensis Bor,T. laxa (Andersson) A.Camus,T. tremula (Nees ex Steud.) Hack. の4 種のレクトタイプ指定を行った.
これまで日本では本州以南(青森県以南)でしか知られていなかったトリゲモNajas minor が北海道十勝地方で初めて記録され,国内の分布北限を更新した.発見されたのは,十勝川下流の後背湿地にある豊頃町大沼と,十勝海岸にある生花苗沼の2 湖沼である.豊頃町大沼で採取できたわずかな個体は,塩基配列と形態によって同定を行なった.生花苗沼では2018 年から2019 年にかけて行なわれた調査で継続的に確認でき,形態のみで同定することができた.いずれの湖沼においても過去の水生植物相に関する調査記録がなく,本種が定着した時期は不明である.
北アメリカ固有のムシトリスミレ属植物Pinguicula primuliflora C.E.Wood & R.K.Godfrey(タヌキモ科)は,二,三十年前から日本に帰化している.著者による標本と現地調査により,少なくとも6 ヶ所の帰化地が判明し,そのうち,愛知県と岡山県の4 ヶ所に現存することが確認された.本種はアメリカ合衆国南東部の自生地において稀にしか見られないが,しばしばクローン増殖により酸性湿地に大きなコロニーを形成する.その習性は日本の酸性小湿地でも同様であり,岡山県備前市の湿地では2004 年から2019 年の15 年間に個体数が200 倍になっていた.国内での本種の更なる拡大を防ぐためには,現状とその生態を明らかにする必要がある.ここに,日本国内に於けるP. primuliflora の最新情報を提示する.
これまで青森県のみから記録されていたオソレヤマオトコイSchoenoplectiella ×osoreyamensis (M.Kikuchi) Hayasaka が新たに福島県北塩原村と山形県酒田市山谷新田の水湿地から記録された.北塩原村は本雑種の日本における最も南に位置する生育地である.本種は,横断面が三角形の太い稈および果実の倍長の刺針状花被片を有するカンガレイと横断面が円形で細い稈および果実よりやや長い刺針状花被片を有するミチノクホタルイとの推定雑種であり,カンガレイとホタルイとの推定雑種シカクホタルイ(サンカクホタルイ)に似るが,より太く柔らかい稈および多くの小穂と長い刺針状花被片を有する点で異なる.
長野県辰野町の標高1000 m 付近の林道わき法面において, 北アメリカ北東部に分布するツツジ科の植物3 種, ナガバハナガサシャクナゲKalmia angustifolia L. var. angustifolia,アカゲノイソツツジ(新称)Rhododendron groenlandicum (Oeder) K.Kron & Judd,アメリカスノキVaccinium angustifolium Aiton と,北アメリカ北東部を含め北半球に広く分布し,北日本にも野生するが本州中部には野生のないヤチツツジChamaedaphne calyculata (L.) Moenchが野生状態で生育しているのを発見した.同所的に北アメリカ産の外来シダ植物イワヒメワラビモドキDennstaedtia punctilobula(Michx.) T.Moore をはじめとする外来シダ植物も数種見られた.これらの北アメリカ産のツツジがまとまって野生状態で見られる理由は不明だが,おそらくこれらは外来シダと同一の起源に由来し,吹き付け等によって持ち込まれた種子から野生化したものと考えられる.