底生羽状珪藻アラテハリケイソウ属(オビケイソウ科)の Neosynedra provincialis (Grunow) D.M.Williams & Roundの生細胞と被殻微細構造を光学および電子顕微鏡を用いて観察し,新たに以下の形態学的特徴を明らかにした.葉緑体は 1 細胞あたり 2 個,細胞分裂直後では,板状・四角形だが,細胞内容物の生長・増大に従い,H 字形をなす.半殻帯は最大 6 枚の帯片から構成され,いずれの帯片も片端開放型で,半殻帯の両端において開放端と閉鎖端が交互に重なる.第 1 帯片の接殻帯片は表出部に 2 列の胞紋列をもち,内接部縁辺は真っ直ぐ.第 2 帯片から第 6 帯片も表出部に2 列の胞紋列をもち, 各帯片の開放端の反対側にある小舌は,上に重なる帯片の開放端を裏打ちする.本属とシンツキケイソウ属 Cyclophora の形態学的比較検討により,群体の形状,殻端小孔域および胞紋の構造において強い類似性を見いだした.これは両属の近縁性を示した先行研究の分子系統解析結果を支持している.
筆者は東京都薬用植物園で栽培中の Ligusticum sinense Oliv. の個体を入手し,岩手医科大学薬用植物園で栽培し調査したところ,この植物はAngelica tianmuensis Z.H.Pan & T.D.Zhuang であると同定できた.A. tianmuensis(中国名:天目当帰)は中国浙江省天目山に生育する危急種 (VU) とされる.東京都薬用植物園の栽培品は,同種の発見以前の1982 年に浙江省に隣接する江西省の廬山植物園との種子交換によって得られた種子を育成したものである.廬山近郊の L. sinense 採集品を標本画像で調べると A. tianmuensis が混ざっていることがわかった.東京都薬用植物園の栽培品の同定を示すとともに,廬山近郊は A. tianmuensis の新たな分布地であることをも併せて報告した.
セリ科ミツバグサ属のPimpinella tongloensis は,インド北東部のシッキム・ヒマラヤで S. Kurz によって 1868年に採集された標本をもとに記載された.この最初の発見から 100 年以上経った 2016 年と 2019 年に, タイプ産地の近くで本種が再発見された.IUCN (2022) の基準に従うと,本種は絶滅危惧 (Endangered) と評価された.
2023 年にネパールのカトマンズおよびラリトプル地区の数か所で,メキシコから熱帯南アメリカ原産の外来種マツバゼリCyclospermum leptophyllum(セリ科マツバゼリ属)が初めて採集された.これは属としてもネパール初記録である.
インド産ウリ科植物 Bryonia epigaea Rottle,B. hookeriana Wight & Arn.,Trichosanthes anaimalaiensis Bedd.,T. palmata Roxb. var. tomentosa B.Heyne ex C.B.Clarke のレクトタイプ指定の誤りを,原資料と記載に基づいて正した.また,B. glabra Roxb. は,原記載に標本が引用されてなかったため,レクトタイプを指定した.Jeffrey (1980) が引用した Involucraria lepiniana Naudin と Rhynchocarpa epigaea (Rottler) Naudin var gracilipes Naudin のタイプ標本に重複が見つかったため,第2段階のレクトタイプ指定を行った.なお現在,B. glabra Roxb. と R. epigaea (Rottler) Naudin var. gracilipes Naudin は,Corallocarpus epigaeus (Rottler) Hook.f.の異タイプ異名,T. palmata Roxb. var. tomentosa B.Heyne ex C.B.Clarke は T. anaimalaiensis Bedd. の異タイプ異名とされている.
Schlechter が 1923 年に記載した Cyrtandra glabrata Schltr. は既に1883 年に発表された C. glabrata Sol. ex C.B.Clarke の後続同名で非合法であるため,置換名としてC. schlechterianum R.Kr.Singh & Arigela を提案した. Schlechter は C. glabrata Schltr. に対してホロタイプを指定してなかったため,本人が新種とメモした 5 枚の標本のうち,記載によく合致し最も状態の良い 1 枚をレクトタイプに指定した.
シソ科ヤマハッカ属の Isodon rivularis は,インドの西ガーツ山脈南部の6つの地区の固有種である.本種について詳細な分類学的記載,生育環境や花・果期についての記録,初めての生態写真掲載を行い,レクトタイプを選定した.
ゴンズイの学名が Staphylea japonica (Thunb.) Mabb. に変更されたことに伴って大橋(2019) は日本産の種内分類群の学名を2 品種シロゴンズイf. eburnea (Yamanaka) H.Ohashi とタネガシマゴンズイ var. japonica f. lanata (Masam.) H.Ohashi とに整理した.今回は中国から記載された Euscaphis japonica の 4 変種を調べ, 変種 var. wupingensis B.P.Cai & Z.R.Chen はシロゴンズイ,2 変種 var. jianningensis Q.J.Wang,var. pubescens P.L.Chiu & G.R.Zhong はタネガシマゴンズイの異名とし, 変種var. ternata Rehder は新たに Staphylea に組み替えてS. ternata (Rehder) H.Ohashi, K.Ohashi et X.Y.Zhu とした.
オオバウマノスズクサやアリマウマノスズクサの開花個体が稀である近畿地方西部から瀬戸内地方東部において,新たに3府県5箇所で自生する開花個体を確認したほか,4府県8箇所から実生を移植栽培して花を確認することで,両種の分布域を特定した.オオバウマノスズクサは大阪府東・南部から淡路島,小豆島を経て,兵庫県西部(西播磨地域)から岡山県南東部に分布し,アリマウマノスズクサは兵庫県六甲山地とその周辺地域に分布していた.これら開花個体に実生個体も含めた22個体の葉緑体DNAを解析したところ,2つの系統群が確認され,その分布境界はオオバウマノスズクサとアリマウマノスズクサの分布境界よりも西側に位置することが明らかになった.