国立科学博物館植物標本庫(TNS)においてタイ類アミバゴケ科の標本を再検討した.その際に北海道大雪山国立公園の東ヌプカウシヌプリで採集された標本から日本新産種となるTetralophozia setiformis (Ehrh.) Schljakov (ハバヒロフサアイバゴケ,新称)を確認したので報告する.本種は,日本に分布しているT. filiformis (Steph.) Urmi(フサアイバゴケ)に似ているが,葉裂片は幅広い三角形で,裂片の縦の長さが幅の長さの2倍より短い点, 葉身細胞のトリゴンが不明瞭な点,発達した植物体では茎の幅が0.6 mm 以上となる点などにより区別される.
底生羽状珪藻タマスジケイソウ属(オビフネケイソウ科)のLuticola belawanensis Levkov & Metzeltinの生細胞と被殻微細構造を光学および電子顕微鏡を用いて観察し,詳細な殻微細構造とそれに基づく近縁種との形態学的相違点,そして新たに帯片に関する以下の形態学的特徴を明らかにした.半殻帯は最大4枚の帯片から構成され,いずれの帯片も片端開放型で,半殻帯の両端において開放端と閉鎖端が交互に重なる.第1帯片の接殻帯片は表出部に2列の胞紋列をもち,内接部縁辺には小円鋸歯をもつ.第2帯片から第4帯片も表出部に2列の胞紋列をもち,各帯片の開放端の反対側にある小舌は,上に重なる帯片の開放端を裏打ちする.本種は日本では沖縄から関東の広い範囲に分布し,特に河口の感潮域に生育すると考えられる.
国内では沖縄県与那国島にのみ分布するヤエヤマハシカグサExallage auriculariaが約40年ぶりに再発見されたので報告する.近縁種を含めた分子系統解析を行ったところ,先行研究と同じく本種は単系統ではないことが示唆され,与那国のものはタイやフィジーに分布するものと近縁であることが示された.本種は形態が多型的で種内分類群が提唱されたことがあり,種内および近縁種との関係性を明らかにするためにはさらなる解析が必要である.
インド産カヤツリグサ科Kobresia angusta C.B.Clarke,K. hookeri Boeckeler,K. seticulmis Boeckeler の3種はK. esenbeckii (Kunth) Noltie のシノニムとされ(Nolttie 1993),後にCarex esenbeckii Kunth として広義スゲ属Carex s.l.に含められた (Global Carex Group 2015).Jana et al. (2015) はシノニムとされた3種を独立種と認めたが,Kobresia のままであったので,これらを広義スゲ属に移し,ぞれぞれに対して新組合せC. angusta (C.B.Clarke) Sameer Patil,およびC. rongkupiorum Sameer Patil,C. indrakilica Sameer Patil の2新名を提唱した.
インド・ヒマラヤのCremanthodium(キク科)の分類学的研究の一環として,C. arnicoides R.D.Good と,異名の一つLigularia arnicoides DC. ex Royle のレクトタ イプを指定した.
キツネノマゴ科ハアザミ亜科ルリハナガサ属 Eranthemum L. は23種からなり,インドから中国南部, ミャンマーの熱帯・亜熱帯に分布している.インドには16種が知られていたが,これまでミャンマーとタイのみで知られていたE. burmanicum N.P.Balakr. を,インド新産としてアッサム州カチャル県バレイル山地から記録した.形態,生育環境,花期に関する記載と,植物体から花の構造に至る詳細な写真を添付した.
宮城県白石市の蔵王森づくり自然園内でヒロハヌマガヤNeomolinia fauriei が発見されたので新産地として報告する.これは東北地方からの初めての発見でもある.本種はイネ科の中でも稀品中の稀品とされ,これまで長野県と群馬県の一部にのみ生育が知られていた.今回発見された産地でその後再調査を行ったが,現在まで生育が再確認できていない.東北地方においてはもちろん全国的にも希産種であるため,同地での再確認と周辺の環境保護が必要である.
チゴザサIsachne globosa (Thunb.) Kuntze の含まれるチゴザサ属Isachne R.Br. は,世界の熱帯に約100種が知られており,第一小花の護頴の形態,質および性表現の違いにより,チゴザサ節 sect.Isachneとパライサクネ節sect.Paraisachne Honda の二つの節に分けられる.チゴザサが含まれるチゴザサ節の第一小花は両性であることが特徴とされているが,一方でチゴザサの第一小花は雄性であるとの報告もあり,見解が一致しているとは言い難い状況であった.そこで,徳島県立博物館(TKPM) 所蔵のさく葉標本を用いてチゴザサの第一小花の性表現について調査を行った.あわせて,チゴザサの採集時期による差異,花序の採取部位による差異,あるいは採集した地域による差異の有無についても検討した.その結果,日本産チゴザサの第一小花はほぼすべてのものが雄性であった.
京都大学総合博物館 (KYO) に収蔵される未整理標本より,菊池秋雄博士らにより作製されたと考えられるナシ属やリンゴ属などの多数の腊葉標本を発見した.これらの標本の中には,菊池博士が中井猛之進博士と共同で研究していたイワテヤマナシ(ミチノクナシ)やアオナシなどの日本の自生ナシ属植物や,旧満州,朝鮮半島,中国の野生及び栽培の果樹,キュー植物園,アーノルド樹木園および米国南オレゴン農業試験場で栽培されたナシ属とリンゴ属の植物などがあり,菊池博士による果樹分類学や園芸学研究の資料となったと考えられる.また,一部の標本は,現在農業・食品産業技術総合研究機構の農業生物資源ジーンバンクで保存される遺伝資源の導入時の証拠標本と考えられる.