タイ東北部からショウガ科Kaempferia属の2新種を記載した.Kaempferia unifolia Saensouk & P.Saensouk はPhibun Mangsahan Districtから記載された種で,既知の種のうちでは,K. siamensis SirirugsaとK. picheansoonthonii Wongsuwan & Phokham に最も近いが,本種は偽茎に葉が1 枚つき, 花後に新たな偽茎に1 葉がつくためにあたかも2 枚の葉が付いているように見えること, そして葉身は厚くかつ硬く,多肉で球状になり,葉縁が下向きに湾曲するか地上に横たわることで区別される.K.isanensis Saensouk & P.Saensouk はNong Phok Districtから記載されたもので,近縁なK. unifolia,K. siamensis,K. picheansoonthonii から偽茎に葉が1 枚付き,葉身は薄くて軟らかく,葉縁が下向きに湾曲することなく,また地上に横たわることもない点で区別される.2 新種と近縁種の区別点はTable 1 に挙げた.
著者らは、Siebold とZuccarini が命名した学名の安定化などの目的で,ライデン,ミュンヘン,牧野植物標本館(東京都立大学),東京大学総合研究博物館に収蔵されるシーボルト・コレクションから標本上に記された手記ならびに記載文などと照合し,Siebold とZuccarini が記載に用いた標本(原資料)であるオリジナル・マテリアルを特定する研究を進めてきた.そのなかで,タイプが指定されていない分類群では,特定した原資料のなかからレクトタイプ選定を行っている.
本稿はその第十五部で,被子植物単子葉植物綱(ヤシ科からラン科)を収載した.本第十五部には新たに選定したレクトタイプはないが, シーボルトが伊藤圭介から入手し,現在,ライデンのナチュラリスに収蔵されるおし葉帖中にあるアリスガワセキショウ(Acorus pusillus Siebold ex Miq.)のホロタイプの画像を,日本の国会図書館に収蔵される伊藤圭介旧蔵「シーボルトへ所贈腊葉目録」に記されたシーボルト自身の手による「Acorus pusillus」の同定とともに紹介した.また,Musa basjooの著者名およびレクトタイプの訂正を行った.前論文同様に,正式な発表の有無にかからずSiebold とZuccariniが日本から記載した分類群をすべて掲載する方針に従っている.
マツ科ヒマラヤスギ属Cedrus Trew は世界的に重要な庭園樹であり,日本では明治初期に導入されて以降,長針葉をもつヒマラヤスギC. deodara (Roxb. ex D.Don)G.Donが幅広く植栽されてきた.国内では短針葉をもつアトラスシーダーC. atlantica (Endl.) G.Manetti ex CarrièreやレバノンシーダーC. libani A.Rich はあまり植栽されていないが,国内植栽地ではしばしば同定が混乱している.本研究では,国内に植栽される短針葉をもつ樹について,DNA 同定を試みた.本属では人工林における雑種形成が知られているため,父性遺伝する葉緑体DNAと母性遺伝するミトコンドリアDNA を利用した.その結果,ヒマラヤスギ,アトラスシーダーおよびレバノンシーダーとしてDNA 同定できた樹の他に,雑種の存在が明らかになった.雑種には,アトラスシーダーとレバノンシーダーの両方向の交雑に由来する樹の他に,ヒマラヤスギ(♀)とレバノンシーダー(♂)の雑種(アイノコシーダーC. ×intermedia Sénécl)が区別できた.
シソ科ラショウモンカズラMeehania urticifolia (Miq.) Makino は,通常は紫色の花をつけるが,時に桃色を呈す花をつける個体があり,モモイロラショウモンカズラと呼ばれる.その学名については,一般に品種名 f. rubra T.B.Lee が用いられてきたが,1966 年に発表された原記載にはタイプ標本の引用がなく,非正式名である.一方,1985 年に桃色の花をつけるラショウモンカズラに対して記載された f. rosea J.Ohara は正式に発表されていることから,モモイロラショウモンカズラに対する正名は f. rosea である.
モモイロラショウモンカズラは日本と朝鮮半島に分布し,日本では,中部地方および中国地方からの報告があるが,筆者らは2019 年4 月に福井県福井市でモモイロラショウモンカズラを採集し,北陸地方でははじめての採集と考えられた.一方,韓国では多くの地点で採集されており,モモイロラショウモンカズラは日本に比べ朝鮮半島での分布が多いようである.染色体を観察したところ,2n=18 が算定され,x=9 を基本数とする二倍体と考えられた.
1980 年代にセラム島で収集された大量の植物資料標本に基づく研究は幾つもの論文にまとめられているが,コケシノブ科の同定目録は2019 年に報告された.その際,1 新種Hymenophyllum seramense K.Iwats., M.Kato & Ebihara が認められたが,当該論文はデータペーパーであったので,新種の記載は含められなかった.マレーシア植物誌のコケシノブ科をまとめるにあたって正式に種名を発表する必要があり,近似種との比較を含めて報告した.
2020年10月に刊行された Flora of Japan IVa巻において,ヒロハノコジュズスゲはコジュズスゲ Carex macroglossa Franch & Sav.の変種 var. tsukudensis T.Koyamaとして扱われており (Hoshino et al. 2020),ここで新組合せがなされたように見える.しかし,新組合せ名C. macroglossa var. tsukudensis は基礎異名や文献を伴っていないため,正式発表とはならない(『国際藻類・菌類・植物命名規約』Art. 41.5).そこで,ここに基礎異名とその文献を挙げ,C. macroglossa var. tsukudensis (T.Koyama) T.Hoshino, Katsuy. & H.Ikeda の正式発表とする.
イネ科ヌカボ属Agrostis dshungarica (Tzvelev) Tzvelev はこれまで中国新疆ウイグル自治区に知られていたが,同種をインド西ヒマラヤKumaun 地域の高山から初めて報告した.同地における生育状態と本種の変異について付記した.
モンゴルの西部からスゲ属ジョウロウスゲ Carex capricornis Meinsh. ex Maxim(. カヤツリグサ科)を初めて記録した.これまで本種は日本,韓国,中国,ロシア(極東)に分布することが報告されていたが,モンゴルはこの種の分布西限と考えられる.北半球に広く分布するクグスゲ C. pseudocyperus L. に似るが,クグスゲは雌小穂が長さ2–5 cm,幅6–8 mm の円柱形で長い柄があり,果胞が長さ4–5 mm の楕円形で嘴が直立するのに対し,ジョウロウスゲは雌小穂が長さ2–3 cm,幅15–18mm の楕円形で柄がほとんどなく,果胞が長さ6–9 mmの披針形で嘴が外曲することで区別される.
ミズバショウ(サトイモ科)の変異型を,北海道石狩市マクンベツ湿原(タイプ産地)と松前市の池の岱産の標本にもとづいて,新品種ハゴロモミズバショウLysichiton camtschatcensis (L.) Schott f. pennatus Hir.Sato として記載した.ミズバショウの肉穂花序にある花または花の周辺の組織の一部が,仏炎苞と同質の白い付属片になっている.
新潟市立総合教育センター植物資料室所蔵の標本調査により,アラサワトウヒレン Saussurea yanagitae Kadota(キク科)が新潟県魚沼市と福島県只見町の境に位置する鬼ヶ面山に産することが判った.タイプ産地に次ぐ2 か所目の産地である.現況調査のため,2020 年8 月29 日に現地調査を行ったが,本種を見出すことはできなかった.