1989年にLaboratoire de Phanérogamie, Muséum National d’Histoire Naturelle, Parisからの依頼でカンボジア・ラオス・ベトナムのマメ科ヌスビトハギ属(広義)のフロラをまとめていた際に(この結果はDy Phon et al. 1994に発表),大橋広好はラオスからの標本1点に基づいてDesmodium vidalii H. Ohashiを記載した (Fig. 1).記載当時は本種はヌスビトハギ亜属に属すとしたが,今回再検討の結果,萼,雄蕊および果実の形質からシバハギ属 Grona (Ohashi and Ohashi 2018a) に属すと考え,G. vidalii (H. Ohashi) H. Ohashi & K. Ohashiと組み換えた.また,この機会に1981年に範囲づけられた広義のDesmodium (in the sense of Ohashi et al.) で記録されているインドシナ(タイ・ラオス・カンボジア・ベトナム)の種類を,2018年以来の新分類体系の下での学名と対照させて一覧表を作成し (Table 1),国別の属と種・種内分類群の分布をまとめた (Table 2).Desmodiumと近縁属はインドから中国に及ぶ地域で分化しており,インドシナはその中心地の1つである.
SieboldとZuccariniは,主にSiebold自身,および日本人植物学者,Bürgerらの採集品を研究し,日本から多数の新種や新変種を発表し,日本植物相の分類学的研究に大きな貢献を行った.しかしながら,それらの新植物の発表に際しては大半で標本の引用がなく,またタイプの指定がなされなかった.
SieboldとZuccariniが命名した学名の安定化などの目的で,ライデン,ミュンヘン,牧野植物標本館(首都大学東京),東京大学総合研究博物館に収蔵されるシーボルト・コレクションから標本上に記された手記ならびに記載文などと照合し,SieboldとZuccariniが記載に用いた標本(原資料)であるオリジナル・マテリアルを特定する研究を進めている.さらに,タイプが指定されていない分類群では,特定した原資料のなかからレクトタイプを選定する研究を行っている.
本稿はその第十三部で,被子植物単子葉植物綱(オモダカ科からユリ科)を収載した.Funkia grandiflora Siebold ex Lemaire(タマノカンザシ),Lilium callosum Siebold & Zucc.(ノヒメユリ),L. jamajuri Siebold & de Vriese(クロジクテッポウ),L. partheneion Siebold & de Vriese (アカヒメユリ),L. speciosum var. kaempferi Siebold & Zucc.(カノコユリ),L. speciosum var. tametomo Siebold & Zucc.(シロカノコユリ)のレクトタイプを選定した.また,Thunbergが命名した学名Lilium speciosum(カノコユリ)のレクトタイプを選定した.今回対象とした範囲には観賞用園芸植物としてSieboldが注目したギボウシ属やユリ属などが含まれている.シーボルトは園芸用の販売カタログ等に多数の新学名を発表したが,その大部分は記載がなく,該当する標本も見出すことができなかった.本稿は当初より正式な発表の有無にかからずSieboldとZuccariniが日本から発表した分類群をすべて掲載する方針を採っている.とくにギボウシ属では,それらの未記載名が,園芸界では多くの専門書やカタログ等で取り上げられ利用されている.ユリ属では,新組合Lilium speciosum Thunb. f. tametomo (Siebold & Zucc.) H. Ohba & S. Akiyama(シロカノコユリ)を提唱した.
ショウガ科のバンウコン属Kaempferiaは約40種あり,タイには少なくとも29種が知られている.この属の種分化の中心はラオス南部,タイ北部,カンボジア北部のいわゆるエメラルド・トライアングルにある.今回記載したタイ北部Uttaraditからの1新種Kaempferia kamolwaniae Picheans., Meechonk. & Wongsuwan (Fig. 1)はK. rotunda L. に類似するが,その区別点をTable 1に示した.
北東インドに固有な希産種Justicia anfractuosa C. B. Clarke(キツネノマゴ科)のレクトタイプを選定した.レクトタイプはナガランド州Kohimaから得られたC. B. Clarke 41472 (K000884081; Fig. 1)である.
Panchase forestはネパール中部に位置し,同国ラン科植物の多様性中心となっている.2018年にこの森で調査を行った結果,Ania penangiana (Hook. f.) Summerh., Neottia longicaulis (King & Pantl.) Szlach.,Odontochilus elwesii C. B. Clarke ex Hook. f.の3種がネパールで初めて確認された.本稿では各種について,分類学的特徴や分布ノート,標本の証拠写真を付した.なお,このうちAnia penangianaは従来Tainia penangiana Hook. f.として知られていたものであるが,形態的特徴と分子系統学的解析の結果,現在では独立属Ania Lindl.の1種として扱われている.
イワタバコ科シシンラン属のLysionotus gamosepalus W. T. Wang var. gamosepalusをインド・アルナチャル プラデシュ州から初めて報告した.本植物はこれまでチベット東南部にのみ知られていた.なお,L. gamosepalus var. biflorus A. Joe, Hareesh & M. Sabuは同じくインド・アルナチャル プラデシュ州から記載された変種で,var. gamosepalusとは,葉に低平な鋸歯があり,2個の花が腋生し,花冠が有毛で,2本の捻れた仮雄蕊をもつ点で異なる.
ミャンマーのマメ科フロラにDalbergia curtisii PrainとIndigofera reticulata Franch.の2種を追加し,ミャンマー産の植物にもとづいて記載を与えるとともに図示した.
バンレイシ科のDisepalum plagioneurum (Diels) D. M. Johnsonは中国南部やベトナムに知られていたが,今回ラオスのYot Ou districtから初めて報告した.本種は高さ10 mになる常緑広葉樹で,5月ごろ,始め黄緑色で後にクリーム色に変わる,直径6–8 cmほどの花を単生して咲かせ,花弁の内面基部は暗赤色となる(Fig. 2).本種はD. petelotii (Merr.) D. M. Johnsonに最も近いが,葉の下面は本種では黄緑色,D. petelotiiは緑色である.また,D. petelotiiはマレー半島にのみ知られている.
2019年6月に,鳥取県八頭郡においてマイヅルテンナンショウArisaema heterophyllum Blume(サトイモ科)を発見した.これは,証拠標本を伴う記録としては鳥取県初記録である.